姉ちゃんはいつもそうだった。
姉だから、年上だからという理由でいつも僕に何かを命令していた。
冬休みに入ってから、両親は海外旅行に行ってしまった。だから、家の中では姉ちゃんと僕だけ。
何をされるかと思っていたけど何故か最近は優しかった。しかも、お小遣いをあげるからバイトをしないかと持ちかけてきた。
それも一万円。あんたももう中学生だしこのくらいあげてもいいかなって姉ちゃんは言っていた。
その優しさも、一万円も、僕は全く疑うことをしていなかった。
「えっ!?こ、こんなの着るの!?」
横浜のとあるイベント会場の更衣室前、僕は姉ちゃんの持ってきた服を見て驚いて聞いた。
「ええ、そういう約束でしょ?」
ニヤニヤしながら姉ちゃんが答えた。よそ行き用の高い服と厚化粧で着飾った姉ちゃん。正直不気味だった。
ただ、それより不気味なのは姉ちゃんに渡された鞄の中身。
コスプレ用の制服、って聞いていたから学ランかなにかだとばかり思っていたけれど違った。
ものすごく短いスカート、肩の出たセーラー服みたいな上着、長い白手袋、紅白の縞模様のソックス、ウサ耳バンド、そして…下着?のようなY字の紐。
「これ女子用のじゃないの?…っていうか、女子が着ててもダメじゃないの?これ。」
「あんたは男なんだから問題ないでしょ?早く更衣室で着替えてきなさい。」
「や、やだよこんなの!女装じゃん!」
「へぇ~。じゃ、あんたにやった一万円、返してもらえる?」
「う…」
一万円。自由に使えるお金。絶対に欲しい。月のお小遣いだって千円しか貰えないし、お年玉だっていつも没収されてる。
それに最近は中学に入って制服やら何やら色々買ったからとかで、何か欲しいと父さんや母さんに言っても全然買ってもらえなかった。
だから絶対に欲しかった。でも…
「これさ、他のコスプレとか無いの?女装するにしたって、こんな服…」
「別にいいじゃない。艦娘のコスプレならこれが一番メジャーよ?ほら、あれ見て。」
姉ちゃんが指を差した先にはコスプレをした人達がいた。色々な服を着ているけど…中には同じコスプレの人達がいる。しかも大人の男の人まで。
その中の一人がこちらに気がついて歩いてやってきた。180cmくらいはありそうな男の人だけど、鞄の中にあったのと同じ変な衣装を着ている、長い金髪の人だった。
「あー志摩さん!お久しぶりです!その子が前言ってた売り子くん?」
物腰の柔らかい、いかにも社会人な男の人が姉ちゃんに話しかけてきた。知り合いみたいだ。
「お久しぶり~!そうそう、弟なんですよ!今日は島風くんのコスプレで売り子してもらう予定で!」
「おっ?本当ですか?いやぁ~この歳なら普通に通用しそうですよね~!」
コスプレをした男の人がこちらをじろじろと見つめてくる。
「ひっ…」
後ろに下がろうとして、壁に頭がぶつかる。ゴツンと大きな音がして二人が笑い始めた。
「あっはっは!ごめんごめん!流石に恥ずかしいよね~!」
「やだもう!弟相手にオフパコなんてやらないでくださいよ!」
「いやいや俺ノンケだから!大丈夫大丈夫!」
何が大丈夫なのかはよくわからないけど、姉ちゃんと同類らしい。
「まあいいや、隣の島でしたよね?後でまた伺います!」
「はい!また後で!」
男の人は手を振ってまたコスプレ集団の輪に戻っていった。
「ね?言ったでしょ?あんた以外にも同じ格好してる人いるんだから、平気だって!」
それでも、嫌なものは嫌だった。
「いや…でも…」
「はぁ~~~~~わかった!1.5倍ッ!五千円プラス!これでいい?」
姉ちゃんの最後の一押しで、首を縦に振ってしまった。
「ああ~!いいよ、いいよ!ピッタリじゃん!」
更衣室から出てきた僕を姉ちゃんがスマホで撮りまくっている。
結局あの変な服を着てしまった。めちゃくちゃ恥ずかしいけど小遣いには勝てない。
「あ、そうそう!あとはコレね!」
姉ちゃんは別の鞄から金色のカツラを取り出した。
「なにこれ?」
「ウィッグよ。さっきの人もしてたでしょ?あんたがコスプレしてる島風は金髪だから、このウィッグも付けなさい。」
「これ、どうやって付けるの?」
「後ろ向きなさい。私がやったげる!」
言う通りにすると、姉ちゃんが僕の頭を弄り始めた。
ゴムで出来た網のようなもので頭を包むと、カツラを上に載せてクリップのようなものをパチパチと留めていく。
留め終わると頭を撫でたり、髪を引っ張ったりで調整していた。それでも2,3分で終わったみたいだ。
「よし、OK!鏡見る?」
姉ちゃんはそのまま近くに立てかけられた姿見の前まで、僕を押し出していった。
そこに移っていたのは僕だったけど、僕じゃなかった。
自分の顔はいつも見ていたものと同じだったけれど、それ以外は全然違った。うまく言えないけど、別人になった気がした。
金髪のカツラを触ってみる。引っ張ってもちょっとやそっとじゃ落ちない。元々生えてた黒い短髪もすっかりカツラの中に収納されていて、自分の毛のようだった。
「ほら~完璧でしょ!やっぱあんた顔も似てるわ~!連れてきて正解!」
「どうって…」
コスプレと言っても元のキャラを知らないので、完璧と言われてもよくわからない。でもなんだか褒められてるみたいで嬉しかった。
「じゃ、そろそろ行くわよ。」
「行くってどこに?」
「ブースの中。あんたにはその格好で私の作ったグッズを売ってもらうの。まあ店番みたいなものよ。」
「えっ…えぇ!?」
「一万五千円。」
「……………はい。」
それから僕と姉ちゃんは、人とテーブルが沢山並んでいる所でグッズを売りに売った。
中身は絶対に見るな、と命令された内容のよくわからない薄い本。アクリルで出来たキーホルダー。艦娘が描かれたシール。その他細かい雑貨色々。
このイベントの事はよく知らずについてきたので、合間合間に姉ちゃんに聞いてみた。
同人イベントと呼ばれるようなイベントで、今回のテーマは艦娘らしい。艦娘の事は授業で習っていた。深海棲艦から人類を守るすごい存在…ただ、その授業は興味が無かったのでろくに聞いてはいなかった。
今回のイベントは艦娘のいる鎮守府という組織の公認するイベントで、規模としてはかなり大きいものらしい。本物の艦娘も何人か来ているらしくて、アナウンスが流れると姉ちゃんはすぐ飛んでいっては写真を撮って戻ってきた。
他のお客さんもいろんな人が来ていた。僕と同じぐらいに見える子供も沢山来ていた。ただ、そういう子には絶対に本を売るなとまた命令された。何を売ってるんだろう?
更衣室の前で会った男の人もまた僕達の机にやってきた。やっぱり姉ちゃんとよくわからない話をして戻っていった。
それから数時間後、やっとイベントが終わった。お客さんが少なくなって、僕たちみたいに机でモノを売る側の人達もポツポツと会場から出ていった。
「あ~楽しかったぁ!あんたもそろそろ帰りなさい。はい、電車代込みで二万ね。」
その言葉通り、一万円札が二枚差し出される。
「いいの!?」
「いいわよ。あんたのお陰でかなり食いつきもよかったしね。ただ、あんたは一人で帰ってなさい。」
「えっ?姉ちゃんは?」
その質問をした瞬間、すごい勢いで肩を掴まれた。やけに真剣な眼差しでこっちを見つめてくる。
「人にはね…退けない戦いがあるの。」
「なに?急にどうしたの?」
「…がね…」
「姉ちゃん?」
「推しがね…呉に行っちゃうのよぉ…」
真剣な眼差しのまま、なぜか泣き出す姉ちゃん。
「くれ?」
「うん…広島よ…そこに…転属になっちゃうらしくて…」
「ふーん。」
「何がふーん、よ!あんたにはわかるの!?この悲しみ!?」
そんなこと聞かれなくてもわかるわけがない。
それから、姉ちゃんは涙を拭ってまたわけのわからないことを言い始めた。
「うん…まあそれでね…呉に転属した後も向こうのイベントに出るらしいの。私の推しが。」
おし、って何だろうか。男の人との会話ではやたら出ていたけど。
「だからね…私も呉に行く!これからよ!」
「これからって…今から!?」
「そう!だからあんたの面倒見る暇は無いの!あんたも中学生だし、電車もいつも乗ってるし帰れるでしょ?だから後は家で待ってなさい!来週までには帰るから!」
そうやって何が何だかわからない状況で、一人イベント会場に置き去りにされてしまった。
とはいえ、小遣いはちゃんと貰えたし、ここまでの道順も電車の駅も覚えている。家に帰って姉ちゃんに悩まされないならむしろラッキーだ。
早く着替えて帰ってしまおう。そして更衣室に行こうとして…迷った。
どうもイベント会場の通路は時間毎でどこが通れるか変わるらしい。ここまで来た時の通路は使えなくなっていた。
方向的にこっちに行けばいいはず…たしかこの通路だったはず…そんな不確かな記憶を頼りにしていると、明かりのついていない真っ暗な通路までたどり着いてしまった。
今の格好だとかなり体が冷える。会場や大きい通路には暖房がついていて問題なかったけれど、ここの通路は使われていないらしくて、どこかから外の寒い空気が流れ込んでいた。
…とにかく、まずはあの会場に戻ろう。そう考えていると、真っ暗な空間から手が伸びて、僕の腕を掴んだ。
「あんた、こんな所に居たの?さっさと戻るわよ!」
僕の腕を掴んだのは知らない子供だった。多分、歳は同じか少し上くらい。紺色のセーラー服?に、僕のと似たような色のソックス。髪は銀色で長くて、頭によくわからない飾りを付けていた。
コスプレ集団の中にも同じ格好をしている人が何人か居た。どうもこの人もコスプレイヤーらしい。
他のコスプレしていた人もそうだったけれど、格好はかなり可愛い気がする。肌は白くて、ほっぺはほんのり赤い。クラスの女子と比べてもかなり美人。
「っていうか、イベント終わってるのにまだそんな格好してるの?寒いんだからこれ着なさい!」
そう言って、その銀髪の子は白いコートを差し出した。もう片方の腕には赤いコートがかけられている。
強引に白いコートを渡してくると、銀髪の子は赤いコートを自分で纏い、前を閉める。
よくわからずぼーっとその姿を見ていると、また声をかけられた。
「あんた、早く着なさいよ!もう集合時間過ぎてるのよ!?まったくもう…」
「えっ、あっ、うん、ごめん…」
銀髪の子は白いコートをひったくり、僕の背中に回して丁寧にコートを着せてくれる。かなり分厚いみたいで、着ただけでも結構温かい。
「さっ、行くわよ!」
強引に腕を引っ張られる。力はかなり強い。
「あっ、行くから!わかったから!」
そのまま暗い通路を突っ切って、知らないドアを銀髪の子が開けた。外に直接繋がっているドアだったようで、外の寒い空気が一気に入り込む。
よかった。これでまた玄関から更衣室に行ける。
そう思っていると、またぐいぐいと腕を引っ張られた。
「えっ?あっ、ちょっと!」
「ちょっとも何もない!ルールを破ったら私達全員怒られるのよ!?」
イベント会場に面している道路。その路肩に大きい灰色のバンが停まっていた。職員専用、とか書いてある。
僕は引っ張られるがまま、バンの開いたドアから車内にねじ込まれる。3列シートの中央に座らされると、そのまま銀髪の子が隣に座った。
「連れてきたわ。出して。」
銀髪の子が運転席の男に人に言った。
「了解しました。」
運転席の男の人は、ごくごく普通の格好をしていた。警察官のような、タクシーの運転手のような、濃い藍色の制服。会場のスタッフなんだろうか。
「あ!やっと見つかったんだ~!どこに居たの~?」
知らない声が真横から聞こえて、驚いて左を向く。中央列のシートの間から、別の子の首がにゅっと覗き出ていた。
黒髪の、ふんわりとした髪型の子。眉が太めで、やっぱり銀髪の子と同じく頭に変な飾りをつけている。
「この子、まだ会場に居たのよ。もうすぐ門限だっていうのに。」
「ふ~ん。……んん?」
黒髪の子が、くんくんと鼻を鳴らして僕の方を嗅いでくる。首だけをグルグルと動かしていろんな角度から鼻を突き出してくる。まるで犬みたいだ。
「んんん~~~~。」
シートの間に挟まったまま、腕を顎に当てて何か考え始めた黒髪の子。銀髪の子はその頭を掴むと、無理矢理後部列にその子を押し出した。
「あんた、走行中なんだからちゃんと座りなさい!ほら、あんたもシートベルトして!」
「ご、ごめんなさい。」
ルール、門限、そしてコスプレイヤーの子達。自分は何かルール違反をしてしまったのだろうか?
確かに、姉ちゃんからコスプレに関してルールを説明された気がする。コスプレのまま会場の外に出るなとか、コスプレしていい時間帯が決まってるとかどうとか。
なんだか自分が恐ろしい事をしてしまったような気がする。もしかして、このまま警察に突き出されるんだろうか。この姿のまま?
いや、バンにはちゃんと職員専用とあったし、この会場のスタッフ達のはずだ。でも、この不安はなんだろう。
わからなければスタッフの指示に従え。姉ちゃんはそう言ってた。だから、このまま、この人達についていっておけば大丈夫…だよね?
この判断が間違っていた事は、すぐにわかった。
「着きました。正面門まで送りますか?」
「ええ、お願い。」
運転手の人と銀髪の子がやり取りをする。正面門とはどこの事だろう。
あれからバンは南に行ったらしい。横浜から南は行ったことがないので、どんな所かすらもよく知らなかった。
窓の外にあるのは大量の倉庫と、大きいクレーン、レーダーのようなものがついた高い塔。港町らしかった。
バンで走っていたのは20分ぐらい。あのイベント会場とは別の会場なんだろうか。
大きい倉庫やコンテナで作られた迷路を右へ左へと曲がる。その中に、コンクリートの塀で出来た壁が見えてきた。
壁の切れ目と、詰め所のような小屋が見えてくる。あそこが門みたいだ。
「到着です。本日はお疲れさまでした。」
「ええ、ありがとう。ほら、あんた達も降りるわよ!」
「ふあぁ…はぁ~い…」
後部列にいた黒髪の子は寝ていたようで、大きい欠伸とともにゆらゆらとバンから降りていった。
バンに連れられてきた時と同じように、銀髪の子が僕の手を引く。そのまま小屋に近づいてく。
そこは小屋、というか、駅の窓口というか、交番というか…とにかく出入りを管理する場所らしかった。ガラスの向こうにある壁にはいろんな書類やら鍵やらが掛けられている。
銀髪の子が中にいた女の人…多分高校生か、そのくらいの若い女の人に話しかけた。
「川内さん?天津風、時津風、島風、戻りました。」
「ん、ああ?おかえりー。」
川内と呼ばれた女の人もまた、大きく欠伸をしている。こちらに興味がなさそうに腕をひらひらと振って、僕たち三人が門を通るのを眠そうな薄目で眺めている。
門の先にあったのはレンガ造りの大きい建物。多分、通っている中学校より大きい。
全体的に古めかしい作りだけど、正面の入り口は普通のビルにあるようなガラス張りの自動ドアだった。自動ドアの先には改札のような機械もある。
その自動ドアの横で、少し色の薄い、ストレートの青髪の子が腕を組んで立っている。短いけれどごく普通のグレーのスカートにグレーの上着、白いシャツに黄色のスカーフ。他の二人と違って髪飾りもない。
そんな髪色以外はごくごく普通な制服の女の子が、僕たち3人を見つめている。ずっとここで待っていたらしい。
「遅いわよ天!あと数分遅れてたら遅刻よ遅刻!」
「ごめんなさい初風。また島風が道に迷ってて…」
銀髪の子と青髪の子が僕を見つめる。そしてなぜか同じタイミングで溜息を吐かれてしまった。
僕は今、『島風』と認識されているらしい。なんだか嫌な予感がしてきた。
正面入口の横を見る。そこには石彫で施設の名前が書いてあった。横須賀鎮守府、と。
「さ、早く入った入った!」
青髪の子に背中を押されて中に入る。先に入った銀髪の子と黒髪の子はどこかからカードキーのようなものを取り出し、改札の機械に通して建物の奥へと進んでいく。どうやら、あれが無いと入れないらしい。
「島、あんたも早くしなさい!」
「えっと、いや、その、あの…」
僕は今、多分きっと、自分でコスプレをしていた島風という艦娘と間違われている。どういうことかは分からないけど、他の3人は僕が島風だと思っているみたいだ。
どこから誤解を解けばいいんだろう。最初から話せばいいのか?何から話せば?
そんな事を考えているうちに、青髪の子はまた溜息を吐いた。
「はぁー…あんたまた入場証失くしたのね?まったくもう…後で申請するから今はさっさと入りなさい!」
そう言うと、青髪の子は自分のカードキーを改札にかざして、僕の背中をドンと押した。そのまま青髪の子自身も改札を通ってこちら側に来る。
「いや、これは、違くて、その…」
「わかったから!さっさと来る!」
青髪の子が僕の腕を掴む。銀髪の子と同じようにどんどん手を引かれ、なすがまま連れて行かれる。
ダメだ。僕は今、入っちゃいけない所に入っちゃっている。しかも、女装した姿で。コスプレをして、本人と偽って。
ダメだ。もしこのまま捕まったら?女装して軍の施設に入り込んだ変質者としてニュースになるかもしれない。家族にも迷惑がかかるし、学校の皆にもバレる。
ここはなんとかやり過ごして、後で抜け出すしかない。改札のある正面入口は問題ない。人が居なかったから、改札や柵を無理矢理乗り越えて出ればいい。
カメラか何かで監視されているかもしれないけれど、すぐに門まで行ってあの女の人に声を掛けて出ていくだけ。あとは走って逃げる。もうそれしかない。
黙って青髪の子についていく。どこ向かっているかはわからないけど、沢山の子とすれ違った。僕と同じ中学生くらいの子が一番多かったけれど、小学生や幼稚園児ぐらいに小さい子もいたし、大人の女性に見える人も居た。かなり際どい格好をした人ともすれ違って、目のやり場に困る。
いくつかの階段や渡り廊下を通って、青髪の子はようやく止まった。部屋の表札?には十六駆と書かれていて、表札の真下には板で出来た名前の札がある。
青髪の子が札をいくつか裏返して、壁に掛け直した。雪風、と書かれている札だけが赤い。他の札は黒い字で書かれており、内容はさっきも聞いた天津風、時津風、初風、そして…島風。
ドアを開けて中に入ると、そこは個室だった。僕の家のリビングぐらいの広さだけど、入り口から見て左右の壁には木製の二段ベッドがぴったりと貼り付いて、空いたスペースには細長い衣装棚。
正面の壁には広めの窓が一つだけで、雑貨が色々入っているカラーボックスと、木製の年季が入ったちゃぶ台が一つずつ。
小学校の頃に泊まった林間学校のような部屋だった。
そして、部屋に居たのは二人、銀髪の子と黒髪の子。あれ…どっちが誰だっけ?
「じゃあ、私は神通姉さんに全員戻ったって報告してくるから。」
青髪の子は僕を部屋に入れると、ドアを開けてどこかへと行ってしまった。
黒髪の女の子はちゃぶ台に肘を付いてうたた寝をしてる最中。銀髪の子はベッドに腰掛けて本を読んでいる。
僕は、いや、本物の島風なら、どういう行動を取ればいいんだろう?何をすればいいのかわからない。何も出来ずにその場でただ突っ立っている。
どうにかしないと。そう思った瞬間、うたた寝をしていた黒髪の子がこちらを向いた。
目だけがこちらを向いたまま、立ち上がって僕に近づいてくる。そしてまた鼻を突き出して僕の方を嗅ぎ始めた。
「う~ん。ねえ島風、島風って本当に島風?」
何をどうしよう、という考えが全部どこかへ行ってしまった。頭が真っ白で何も考えられない。
「時津風…?あんた何言ってるの?」
銀髪の子が本から目を離して僕たちの方を見ている。
「だってさー、なんか匂いが違うんだよね。朝の島風はそんな事なかったのにさ~。」
怪訝な顔をしながら、銀髪の子も立ち上がってこちらに近づいてくる。そして黒髪の子を真似るように、くんくんと僕の体を嗅いでいく。
「別に、違いとかわからないわよ?そもそも朝だってそんな匂いなんてしてなかったじゃない。ねえ島かー」
僕の顔を見てぎょっとする二人。思わず手で顔に触れると、びっちょりと冷や汗で濡れていた。
髪からも汗が止まらずにダラダラと流れてきた。カツラと地毛の間が濡れて気持ち悪い。
「ちょっと島風、顔色悪いわよ?大丈夫?」
「え?え?もしかして本当に島風って島風じゃないの?」
「いや、その、僕はー」
あっ、と気がついた時にはもう遅かった。僕、という言葉を聞いた二人の動きが止まる。
「い、いや!、わ、私ー」
言い直しても無駄だった。銀髪の子が僕に着せた白いコートを脱がしていく。
逃げようとしたけど、黒髪の子が後ろから僕の体を抑えていた。女子とは思えないくらいに力が強くて動けない。
コートを無理矢理脱がした銀髪の子が、僕の体の前に手をかざして止まった。顔が少し赤くなっていた。
「えっと…これ…どう確かめればいいのかしら…?」
銀髪の子の目線は、僕の履いたスカートに向いている。
「え~?そんなの簡単じゃん!」
黒髪の子がそう答えるのと同時に、後ろ手に僕を抑えていた手が股間に伸びる。スカートの上から握られ、悶絶する。
「っっっっ痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!ごめんなさい!やめて!」
「うわっ!ほ、ホントについてたぁ…」
黒髪の子はすぐに手を離したけれど、そのまま宙に浮かせた手で何か握る動きをしていた。
「じゃ、じゃあ、あんた本当に島風じゃないの…!?」
自然と体が曲がる。握られた時の痛みもまだ続いてるけれど、それ以上に顔を見られなくなかった。
男のくせに、こんな格好をして、女の子の部屋に忍び込んでる。そんな状況がとても惨めに思えて、勝手に涙が流れ出した。
「うっ…ううう…」
後ろでバン、と勢いよく扉が開く。
「島風!戻りましたー!」
振り返って声の主を見ると、そこには姿見で見た僕の姿があった。
「ちょっと天津風、置いてくなんて酷いよ!わたしここまで走って来て…あれ?その子誰?」
「え?島風…あんたが居るってことはやっぱり…」
黒髪の子がまた匂いをスンスンと嗅ぐ。
「うん!やっぱこっちが本物の島風だよ!」
「ねえあんた…これどういうこと?」
三人の視線が、痛いほど僕に突き刺さる。
それから僕は、おとなしく全てを話した。
姉に連れてこられ、島風のコスプレをしてイベントに参加していたこと。イベントが終わった後迷子になった事。銀髪の子…天津風さんと、黒髪の子…時津風さんに会って、本物と間違えて連れてこられたこと。
僕も二人が本物だとは思っていなくて、スタッフだと思って黙ってついてきたこと。鎮守府の前に来た時にようやく気がついたけれど、言い出せずにそのまま中まで連れてこられたこと。
女装がバレて警察に捕まるのが怖くて、そのまま黙って逃げ出そうとしていたこと。全て話した。
「ん~これってつまりさ~、天津風の責任なんじゃない?」
「ちょっと!何でそうなるのよ!」
「だって連れてきたの天津風でしょ~?」
「それは…そうだけど!でもあんただって見抜けなかったじゃない!」
「えぇ~?あたしはなんか匂いが変だと思ったんだけどなぁ。」
「そ、それに島風も悪いじゃない!集合時間に遅れたのよ!」
「わたしだって遅れたくて遅れたわけじゃないよ!それに、いくらなんでも男の人とわたしを間違えるって酷くない!?」
「うっ…それは…ごめんなさい。」
天津風さんが申し訳無さそうに頭を下げた。
「それでさー。これ、結局どーするの?憲兵さんに連絡する?あ、でもこの人は軍人じゃないから警察かな?」
警察、と聞いてびくんと体が震える。ああ、やっぱりそうなるんだ。もう捕まるしかないんだ。
「待って!その…一応、この子に悪気は無かったわけじゃない?少なくとも私か、私達の責任ではあるんだし、警察に突き出すのは…。ねえ!島風もそう思うでしょ?」
「わたしは別にどっちでもいいけど…」
島風さんはずうっと不機嫌そうな目で僕を見つめているけれど、実際にどうなるかには興味がないらしい。
「あ、そういえば名前まだ聞いてないよねー?名前、なんて言うの?」
「えっと、志摩です。こころざしに、摩擦のまです。」
「島風に似てるのに、名字も似てるの?あははははっ!おもしろ~い!」
ケタケタと大笑いしながら、ちゃぶ台を手で叩く時津風さん。僕にとっては笑い事じゃない。
「えっと…じゃあ、志摩くん、でいいかしら?」
「ええ、はい…」
「シマくん!あははっ!」
また、後ろでドアの開く音がした。青髪の子だ。
「あんた達さっきから何を騒いで…ん?」
青髪の子、初風さんが僕と島風さんを見比べる。ぽかんとした顔で、さらに二度三度見比べた。
「…なんで島が二人いるの?」
今度は天津風さんに説明してもらうことになった。
部屋にいる5人全員でちゃぶ台を囲み、天津風さんから改めて説明を受ける初風さん。
その顔は、髪の色に負けないほどに青く、僕に負けないほどに冷や汗をかいている。
「それでね、志摩くんの事だけど…やっぱり事情を話して不問にしてもらった方がー」
「ちょっと…待った待った!」
初風さんが両手を突き出した。
「いやまあ…その子に悪気が無い、っていうのは解ったわ!それと…天!主にあんたの責任って事もね!でも………この子は暫くここで匿うわ!」
「えー?シマくんここに泊めるの?なんで?」
「もう神通姉さんにも提督さんにも報告しちゃったのよ!イベントの参加任務も完了して時間通り帰投済みって!それに、島風の新しい入館証も申請しちゃってるの!」
「あら?そういえば島風、あんた川内さんに何も言われなかったの?うち、島風は一人しかいないから川内さんにはバレちゃってるんじゃない?」
「わたしが帰ってきた時には川内さん寝てたよ?起こすのも可愛そうだし、何も言わずに抜けてきちゃった。」
「じゃーさー、シマくんを今帰しちゃえばそれで解決じゃないの?」
「ダメよ時!川内姉さんのシフトはもう終わってて今は神通姉さんが警備してるわ!それに、島は今入館証無くしたって報告を上げちゃってるのよ?本物の島が持ってる入館証はついさっき無効化されて使えないから、島の姿をした志摩が今出ていくのはマズイの!」
「ねー初風、シマシマ言ってるけどそれじゃどっちのシマかわからなくない?」
「うるさいわね!とにかく今こいつを外に出すと色々マズイの!そもそもコスプレした男を引き入れるなんて前代未聞なのよ!?私達にどんな処分が下るか…ああもうっ…」
「まー処分食らうとしたら天津風と初風だろうねー。あたしと島風、それに出張中の雪風は問題ないだろーけど。」
「ちょっと待ちなさいよ。仮に今日志摩くんを外に出せないとして、いつになったら出せるの?」
「申請からキーカードの交付までは3日あるわ。その間は外出禁止、まあ実質的なペナルティね。」
「じゃーシマくんは今日から三日間ここで過ごすってこと?」
えっ。
「まあそうなるわね。皆には悪いけど。」
えっ?本当にそうなるの?
「だけどさー、この部屋ベッド4つしか無いよ?シマくんどこで寝るの?」
「わたしのベッドは嫌だからね!天津風か初風のベッドにして!」
ちょっと待って、寝泊まりもここなの?
「…天、手を出しなさい。」
「初風…?何をするの?」
「ジャンケンよ。負けた方が志摩をー」
「待ちなさいよ!巻き込まれた時津風と島風はいいとしても、あたし達がまるで厄介者みたいに志摩くんを扱うのは可愛そうでしょ!志摩くんも被害者なのよ!」
初風さんが僕の顔を見る。なぜか僕は初風さんの目線に耐えられなくて、目を伏せてしまった。
「…わかったわ。とりあえず、寝床は天と私のベッドで交互に寝させる。それでいいわね?」
「ええ。それでいいわ。」
項垂れていた僕の手を、天津風さんが握ってくれた。女子の手を触った事はあるけど、どの子よりも温かい手だった。
「色々巻き込んでしまってごめんなさい。あたし達の勝手で迷惑かけちゃうけど…成功すれば志摩くんにも疑いの目がかかることはないから。安心して。」
「そういえばさー、シマくんのお家って大丈夫なの?家族いるんでしょ?」
「えっと、ここ一週間は僕以外誰も居なくて…いや、居ないんです。だから家を空けていても多分大丈夫…です。」
「着替えはどーするの?」
時津風さんの言葉で、部屋の全員がはっと顔を上げてお互いを見る。今の僕の姿は島風のコスプレをしたままで、元から着ていたのは肌着ぐらいだ。家から背負ってきたリュックも今は手元にない。
「イベント会場の更衣室にあると…思います。取ってきて貰えればそれに着替えますけど…」
「あ~~~…」
初風さんが手を額に当てながら難しい顔をする。
「私たち、外出に関してはかなり厳しく制限されてるのよね…鎮守府の敷地内ぐらいならいいけど、イベント会場までの遠出は無理よ。だから…諦めてその格好でいてもらうしかないわ。」
この女装した姿で、三日間、女の子と共同生活。流されるままここまで来てしまったけれど、その最悪の想定が実現してしまった。
蒸気が出そうなくらいに顔が熱くなる。金髪のカツラの間から冷や汗が溢れ出し、背中へとするする流れていく。
首から上は焼けるように熱いのに、胸の中は怖さで冷え切っている。姉ちゃんにバレたらどうしよう。家族や学校の皆には?
「志摩くん?大丈夫?」
天津風さんが僕の頬に優しく触れて、顔を上げさせた。綺麗な琥珀色の瞳に僕が映っている。
僕の瞳をじっと見つめていた彼女は、いきなり僕を抱き寄せた。
「本当にごめんなさい。怖い…よね。そうよね。でも大丈夫、わたしがなんとかしてあげる。」
その言葉はあまり頭に入ってこなかった。女の子に抱きかかえられて、よくわからないいい匂いに包まれ、耳元で柔らかい声に囁かれる。
心臓がドキドキしているけど、それが自分のものなのか彼女のものなのかわからなかった。とにかく、始めての体験だった。
そのままぼうっと壁を眺めていると、天津風さんは両手を僕の肩にかけたまま離れ、もう一度僕を見た。
「普段着は…仕方ないからそれを着てもらうけど、夜寝るときはわたしのパジャマを貸してあげる。多分、サイズは同じくらいだから。それでいいかしら?」
「う、うん。」
よくわからないまま、頭を縦に振る。
「よし、OKね。あとはご飯だけど…酒保で大丈夫よね?」
「そうね。私達は四人部屋なわけだし、多少おにぎりや惣菜を買い足してても不審に思われないと思うわ。」
「あ!あたし唐揚げ食べたーい!」
「時、別にあんたのために買うんじゃないわよ?ほしけりゃ自分で買いなさいな。」
「初風のケチ。」
「とにかく!こうなったら志摩の存在は最後まで隠し通すわよ。時、天、島、わかったわね!」
結局、僕は四人と一緒に暫く過ごすことになってしまった。天津風さんはあの後、歯ブラシやコップみたいな日用品を買いに出かけた。初風さんは鎮守府の人?の仕事を手伝いに行っているらしい。
島風さんは何も言わず、無言で出ていってしまった。さっきも全然話に加わっていなかったし、なんだか僕の方を見ようともしてくれなかった。嫌われているのかと思ったけれど、時津風さんによれば興味の無い相手にはいつもあんな感じらしい。
そしてその時津風さんは、何故か僕のまわりでくんくんと鼻を鳴らしていた。
今、部屋の中には僕と時津風さんだけ。座布団の上で正座している僕の回りを、犬のように四つん這いになって色々嗅いでいる。
「えっと、時津風…さん?」
「ん?なに?」
「何してるんですか?」
「んー、匂い嗅いでる。」
「僕、そんなに臭いますか?」
「いやー…それがちょっと…わかんなくて。鎮守府って男の人あんまり居ないから嗅いだ事のない匂いが気になるんだよねー。」
そう言えば、車に乗ってきた時も僕を嗅ごうとしていたのだった。
「頭の方は単純に汗臭いだけだけど…うーん。下も匂うなぁ…」
「その、恥ずかしいからやめてもらえますか?」
思わず両手でスカートを抑えた。いつもこうする女子の気持ちがわかったような気がする。女子のスカートはこれよりもっと長いけれど。
「これさ、パンツってどうなってるの?」
「えっ!?」
時津風さんはスカートから出ている、一応は…パンツということになっている黒い紐を指でつまんだ。紐はそのままグイグイと引っ張られ、僕のあそこが引っ張り上げられる。
「痛っ!やめて!やめてください!」
「へー、これ偽物じゃないんだ?じゃあやっぱ島風と同じパンツ履いてるの?」
「い、いや、そういうわけじゃ…」
座ったまま後ずさる。でも、どこを見ても今この場に僕の逃げ場所なんてない。意を決して、スルッと伸びてきた時津風さんの腕を掴んで、どうにか止め…られなかった。
「ふふふ~♪見るだけ、見るだけだから!」
僕の腕力なんて関係なかったかのように、腕がこちらに伸びてきた。女の子にしては信じられないほど力強いその両腕が、僕のスカートをめくる。
「ぶふっ…ふっ…あはははははは!なにこれ!ヘンなのー!」
時津風さんは僕の姿を見て大笑いし始めた。スカートを捲っていた両腕をお腹に当てて、笑いながら床を転げ回っている。
「パンツの上にパンツっておっかしー!あははははっ!」
イベント会場で渡された黒い紐のパンツ。あんなもの履く気にもならなかったけど、姉ちゃんはそれも含めて履くことを要求してきた。気になるならブリーフの上から履いちゃえば?という姉ちゃんの提案もいいアイデアだと思っていた。その時は。
「うっ…ぐすっ…」
涙と鼻水が溢れてくる。下着を見られるのはただでさえ恥ずかしいのに。女の子の部屋で、女の子の格好をして、それで笑いものにされている。なのに何もできない自分がひどく恥ずかしくなる。
「うーん、でもやっぱり変な匂いするなー。」
「え…いやちょっと!何嗅いでるんですか!?」
再びスカートをめくって、僕の…そこを嗅いでいる時津風さんがそこにいた。匂うと言いながら嫌な顔をするわけでもなく、何かを嗅ぎ分けようとする神妙な表情でそこにいた。すん、すんと鼻を鳴らしてしきりにブリーフを嗅ごうとしている。
布一枚…と紐一本を挟んだそこにあるものを、時津風さんが知らないはずはない。でもお構い無しに嗅ぎ続けている。
まだ一時間も一緒にいない仲ではあるけれど、時津風さんもけっこう可愛い女の子だ。天津風さんの第一印象が強すぎたけど、彼女と違って時津風さんはどこか子犬みたいな愛らしさがある。
そんな女の子が、僕の、僕の…
僕のその先端が、ゆっくりと伸びて、時津風さんの鼻先を突いた。
「~~~~~~~~っ!ごめんさないっ!」
先端に柔らかなものが触れた瞬間、体が勝手に後ろに下がった。女の子の顔にあんなものをくっつけてしまった。
心臓がドキドキする。足は震えている。ドクドクと血が速く流れるのを感じる。
「ごめんなさい、あの、僕、えっと、そういうつもりじゃ…」
時津風さんは僕の方をきょとんと見つめている。鼻先に何かが触れたことより、僕がいきなり飛び上がったことに驚いているみたいだ。
僕をじっと見つめるその視線は、少しずつ下の方に下がっていく。そして何かで盛り上がっているスカートに向いた。
「へえー、やっぱり変な匂いってそれなんだ。ちょっと…興味あるかなー?」
そう言って時津風さんは妖しく笑った。さっきまでの笑い方と同じ…だったように思う。でも、どこか妖しく、危険な笑み。
四つん這いでゆっくりと僕の方に這い寄るその姿は子犬なんてものではなかった。
黒い猟犬。それが今、僕の目に映る彼女の姿だった。
「へー、これ、結構硬いんだー?」
時津風さんはそう言いながら紐のパンツをぐいぐいと持ち上げる。黒い紐がブリーフを割るように締め付けて、僕のあれを揺らしている。
さっきは力一杯引っ張られて痛かったけれど、時津風さんは力の加減を覚えたのか、あまり痛くない。それどころか、少し、気持ちいい。
「えへへー。あたし知ってるんだよ?これ、気持ちいいと大きくなるんだってね。気持ちいい?ねえ気持ちいい~?」
「ごめんなさい…謝るから…それ…」
「んー。やっぱり実際に見てみたいな。」
「そ、それはダメです!」
「なんで?」
「えっ…」
なんで、と聞かれて固まってしまった。なんでダメなんだっけ?
「しれーもさー、多分あたしの事はそういう目で見てないと思うんだけどさー。でもあたしだってやっぱりそういうの興味あるんだよねー。シマくんは違うの?」
「いや、それは…」
「だってそうじゃないとそんな格好しないでしょ?」
ものすごく、ものすごく痛い所を突かれている。僕がこれを着ている理由はお小遣いのためだけど、そう言って信じてもらえるかはだいぶ怪しい。
「イヤだったなら言ってね?わたしもすぐやめるからさー。」
そんなこと言えない、言えるはずがない。だって、僕もそういう事を夢見ていたから。そういう光景を想像しながら、自分でしていたから。
僕の股の間に体を入り込ませて、僕の体をすんすんと嗅ぐ可愛らしい女の子。その現実が目の前にある。
「じゃーシマくんのチンチン、出すね?」
時津風さんは僕がスカートに手をかけるより早く、僕の紐とブリーフに手をかけた。両手で紐とブリーフを押し開くように横に広げると、僕の…チンチンがその間から顔を出した。
勢いよく飛び出たそれは、時津風さんの鼻先数センチでぶるんぶるんと揺れている。
「あー…これ…ちょっとクセになる匂いかも…」
僕のチンチンをぼうっとした目で見つめる時津風さん。今まで恥ずかしさの欠片も見せなかった彼女の頬が、少し桃色に染まっていた。ふうふうという吐息がチンチンにかかる。
全身が熱い。興奮で茹だりそうなくらいに熱い。だからこそ、今までブリーフに包まれて蒸れていたチンチンが外気に触れて、ひんやりとした風を受けているのがとても気持ちよかった。
そこにきて時津風さんの温かい吐息が僕を襲っている。もうどうにかなりそうだった。
はじめてオナニーをしたあの日みたいに、お腹の奥、下腹部がギュルギュルと鳴っている。きっと精子を作っている…んだと思う。
そんな暴発寸前のチンチンを、時津風さんがぺろりと舐め上げた。
「あっ!ああああっ…!!!」
時津風さんのぬるい唾液が、皮を被った僕のチンチンの先端に到着した瞬間、僕のチンチンは勝手に射精していた。
「んー?わっ!」
ぴゅる、ぴゅると情けない勢いの半透明の液体が時津風さんの黒い髪にかかる。
「あっ、ご、ごめんなさい…!」
「んもー…かかっちゃった…」
そう言って不機嫌そうな顔で髪にこびりついた精液を指でこそぎ取る時津風さん。ぷるぷると指の間で震えるものを見て、彼女は興味深そうに口に含む。
「えっ?時津風…さん…?」
そのまま口をもぞもぞと咀嚼して、笑みとも困惑とも取れる不思議な表情をしている。でも少しするとさっきまでのにやけ顔に戻った。
「味はかなり変…っていうか全然美味しくないけど、やっぱりこの臭い…ちょっと…いい臭いかも?」
じりじりと距離を詰めてくる彼女から逃げようとしたけれど、すぐ後ろの壁に背がついてしまった。
「えへへへへ…シマくんばっかりじゃ不公平だし、舐めあいっこする?秋雲の漫画で見たんだけど、気持ちいいらしいよ?ええと…しっくすないん?だったかな?」
チンチンを出したままの僕の前で時津風さんは後ろを向き、お尻を僕の方に突き出してきた。
彼女の格好は少し、いやかなり…エッチなものだった。制服の下にはスカートやスパッツみたいなものはなく、黒いタイツの下で白い水着のようなパンツが見えている。
その黒いタイツが下げられ、丸っこいお尻が姿を現した。とっても柔らかそうで、ほんのり赤い。
彼女がパンツの横にある紐?をすっと抜き取ると、白いパンツがはらりと真下、僕のチンチンに落ちてきた。
まだ体温が残っているパンツに包まれると同時に、彼女の…股が目に入った。
まん丸いお尻の間に、窄んでシワシワになっているお尻の穴と、そのすぐ下に伸びる割れ目。白くて綺麗な肌の割れ目はほんの少しピンク色で、柔らかそうだった。
保健体育で習ったのと同じ、絵に描いたような真っ直ぐなやつで、特に毛なんかは生えてなさそうだ。以前、風呂上がりの姉ちゃんにばったり会ってしまった時に見たものとは全然違う。
「シマくん、息荒いよ?女の子のここ見るの初めて?」
時津風さんは僕の眼の前でお尻を突き出したまま、足を開いて前屈するように僕を上下逆のまま見つめていた。
「いや、あの、僕、僕は…」
姉ちゃんのなら見たことがある、と言おうとしたが恥ずかしくて言えない。顔が真っ赤になる。
いや、もう顔は真っ赤だ。本当に焼けそうで、口から蒸気が出そうだ。でも熱いのは顔だけじゃなくて、僕のチンチンもそうだった。時津風さんの温かい吐息がかかる度、びくびくと血管が脈打っている。
「じゃーシマくん、舐め合いっこ、しようか!」
「んぶっ!?」
時津風さんの下半身が僕にのしかかってきた。股を顔面にこすりつけられながら床に倒されて頭を打ったけど、それがどうでもよくなるぐらいに彼女の股は柔らかかった。
女の子からする甘い香りに、汗の匂い、それにほんの少しおしっこ臭さが混ざっている。でもいい匂いだと思った。ボディソープとか香水とか、ああいういい匂いとは全然別の、いい匂い。
「んっ…れろ…」
チンチンに再び暖かくて湿ったものが触れた。時津風さんのお尻で何も見えないけれど、くすぐるようなその動きでまたチンチンが固くなる。寒くもないのに背筋がブルっと震えた。
止めようとしたけどやっぱり力が強い。そしてお尻を僕に突き出したまま逃がしてもくれない。説得しようにもお尻で今にも窒息しそうだ。
頭がぼうっとする。もう何も考えられなくて、眼の前の時津風さんの割れ目を舐めた。少ししょっぱい。
「きゃんっ!!!」
可愛らしい声が聞こえたので、また舐めてみる。ぺろりと舐めた舌の上に液体が乗っていた。僕の唾液でも、彼女の汗でもない何か。それをごくりと飲み干すと体がもっと熱くなる。
「んふふふっ!くすぐった…ん!」
舌を突き出すと、割れ目の間に入り込んだ。さっきよりも塩気が強い。汗が貯まるんだろうか。女の子の匂いもむわっと吹き出している。
「んんん…!負けないからねっ!」
彼女がそう言った瞬間、チンチンが何かに包まれた。全方位が暖かくて、ぬめって、気持ちいい。
チンチンを包んだそれはすぐに動きだし、上下左右に僕のものを弄ぶ。
「ひまふん、ほーお?」
時津風さんがもごもご喋る度に、そのままの振動がチンチンに伝わってくる。僕のチンチンは食べられてしまったみたいだ。
チンチンだけがお風呂に入ったみたいで、とても暖かくて、とても気持ちいい。何も考えられずに眼の前の割れ目に口をつけたままぼうっとしていると、彼女の舌が僕のチンチンの先っちょを舐めた。
その舌先は探るように動き…僕の余った皮の先端にすっぽりと嵌まる。彼女がさらに頭を押し付けて僕のチンチンを深く咥えようとした結果、舌が皮の中に入った。
「~~~~~~~~~~~~ッ!」
彼女の割れ目の中へ向かって叫んだ。
「んふ?」
何が起きたのかわからない時津風さんは、その舌を乱暴に動かす。
熱い。熱い。熱い。チンチンが焼けるように熱い。最初は痛いと思ったけど違う。熱すぎる。
皮は剥けてないと子供のまんま、そんな会話をクラスメイトがしていたのを聞いて、一度自分で皮を剥こうとしたことがある。でも痛すぎて途中で涙目になってやめた。
だから最初は痛いと思っていた。でも違う。熱すぎて、それでいて気持ち良すぎる。今までにない感覚すぎて痛さと勘違いした。
やられっぱなしが悔しくて、僕も舌を突き出した。そっちがその気ならこっちもやってやる。口を大きく開けて割れ目を吸い込み、舌で割れ目をなぞる。
「んんっ!ふっ!んじゅっ…!」
時津風さんは、僕にお尻を押し付けた格好のまま、上下に動き始めた。濡れた割れ目が鼻や顎にまで引っかかり、彼女の出した液体が顔が汚されていく。
でも不思議と嫌な感じはしなかった。時津風さんの匂いが顔中に広まって、なんだか興奮する。
そして上下する彼女の前歯が、余った皮に引っかかった。皮が強制的に向かれて、敏感になった中身が彼女の口にすっぽりと覆われる。
「んちゅ…んぶっ!?」
その瞬間、射精してしまった。女の子に無理やり押し倒されて、皮を剥かれて、股を押し付けられながら。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
時津風さんの口の中で射精するのはとても気持ちよかった。あんなに可愛い女の子が、僕のチンチンを頬張って喜んで、それで舌で遊ばれて、どうしてかはわからないけどとても気持ちいい。
女装をしている罪悪感なんかどこかに吹っ飛んで、眼の前の時津風さんの割れ目を夢中で舐めた。舐めている間はずっと射精しているような感覚があって、どんなに息苦しくても平気だった。
僕が舐めている間、時津風さんはごくごくと出されたものを飲んでいる。尿道から出たものが全部吸い取られた後も僕のチンチンをしつこく舐めて残りがないか探っている。
「ひまくん、もっひょ、もっひょ…」
モゴモゴと喋るその振動も気持ちいい。何もかもが気持ちいい。そんな時、時津風さんの太ももが僕の頭を挟んだ。
「………!………!」
時津風さんが何か喋っているようだけど、太ももに耳を塞がれて何も聞こえない。チンチンに声をかけられているけど内容がわからない。
彼女の太ももでドクンドクンと血液の巡る音が聞こえる。それがより一層激しくなった瞬間、太ももの筋肉もビクビクと痙攣したみたいだった。
女の子の下半身に首から上を包まれたまま、僕の口へと何かが放たれた。暖かくて、少ししょっぱい何か。喉が乾いていたので全部飲み干す。味はヘンだけど、おいしい。
液体が出るのが止んで、僕の射精感も消えた。気が付かなかったけれどもう全身汗だらけで、暑苦しい。というか息苦しい。
僕の上に寝転がる時津風さんのお尻をペチペチと叩くと、ようやく目の前の割れ目がどかされた。
「ぷはっ!はぁっ!はぁっ!はぁ…し、死ぬかと思った…」
大きく息を吐く僕の横で、甲高い鳴き声が聞こえる。
「~~~~ッ!気持ちよかったぁ~♪」
時津風さんはそのまま上下反転すると、僕の横に仰向けで寝転んだ。
「あぁ~でもまだちょっと物足りないなー。シマくんに舐めてもらうのクセになるかも…」
彼女はそう言うと自分の割れ目に手を伸ばし、なぞり始める。
「あ~~~ここ、こんなに気持ちいいんだ…みんな夢中になるわけだねぇ…」
最初はなぞるだけだったその指の動きが段々と激しくなる。指が割れ目の中へ入り、水音を立て始める。
僕の眼の前で、オナニーを始める時津風さん。その光景がエッチすぎて、チンチンがまた固くなってくる。
「はぁ…はぁ………」
荒い息をする僕に横目で気がついた彼女。手で割れ目を弄るのをやめ、床に座り直す。…が、すぐにこちらに体を向けて四つん這いで前進し始めた。
「シマくん、それ大きくなるってことはさ、さっきの…まだ出るんだよね?」
「えっと、その…」
涎と一緒に、先程の精液が口から垂れている。時津風さんはそれをぺろりと舐めて、僕から視線を離さずにじりじりと距離を詰めてきた。
逃げようとしてドアの方をみた一瞬の隙を突いて時津風さんが飛び込んできた。飛び蹴りのような体勢だったが空中で足が開かれ、そのまま首を股に抱え込んだまま、また押し倒された。
「今日は満足するまでしよっか。えへ、えへへへへ…♪」
「んぐっ!」
僕の口は、再び彼女の割れ目に塞がれた。
「はぁ~疲れた。んじゃあたし寝るね~。」
あの後、結局3回くらいやらされた。1回は僕が舐められて射精して、2回は僕が舐めて彼女が絶頂…したんだと思う。
そしてすぐに自分の体だけ拭いてさっさとベッドで寝てしまった。顔を散々汚された僕を放置して。
「うぅ…なんでこんな…しかもまだ臭いし…」
興奮が覚めると、今まで感じていた魅力的な匂いもただただ臭いだけのものになってしまった。ウェットティッシュを何枚も引っ張り出して自分の顔を拭き、念の為チンチンも掃除しておく。綺麗に舐め取られて精液は残っていなかったけれど代わりに唾液塗れになっていた。
衣服を整えた後、自分の体をくんくんと嗅いでみる。汗の臭いがしたのでまたウェットティッシュを取って体を拭く。これがあと3日ある。もし明日も時津風さんがこんな事を始めたらと思うと気が気じゃない。
…そんな想像をしていると、またチンチンが膨らんできた。妄想を頭から取り払うために頭を左右にブンブンと降るが、部屋のいろんなものが目に入る。
小さめのサイズの可愛らしい化粧台、何かのキャラクターらしい可愛いぬいぐるみ、粗雑に折りたたまれた洗濯済みの衣服に乗る女の子のパンツ。自分がそういう場所にいるのだと実感する。
3日間、本当に、ここで無事で過ごせるんだろうか。
心の中で不安だとは思っているはずなのに、僕はどこか興奮していた。