美鶴木琴葉(みつるぎ ことは)には友達が少なかった。
腰まである長い金髪と碧眼。日本人離れしていない整った童顔と、それに相反するように突き出た女性らしい体型。男子の目を惹きつけるその少女は、転校生だった。中学三年の秋、転校して来た彼女は大いに目立って、学校はすぐに彼女の話題で持ち切りになった。
しかし、彼女には大きな欠点があった。
「美鶴木さん、ちょっといい?」
「ふ!?ふぁいっ!?」
「え?…えっと…そのこれから皆でカラオケ行くんだけど…」
「えっ…とっ…あ…あぅ!?そのっ!!」
「大丈夫?だ、ダメなら無理しなくていいよ?また今度誘うから」
「あっ…」
「ホントにごめんね…?」
話しかけていた女子生徒がフェードアウトして行く。
彼女は、周りが引くほどコミュニケーション能力が低かった。
琴葉がこの中高一貫校に転校してきてから一月、時には下心から、時には親切心から彼女に話しかけた人間は数知れない。しかし、彼女は今のような有様で話しかけた側に申し訳ない気持ちを呼び起こさせ、結果的にクラスメートと打ち解けられずにいた。
(あぁぁ…!またやっちゃった…!折角の機会だったのに!またいい報告できないなぁ…)
琴葉はいつも通りの失敗による落胆を呑み込むと、鞄を肩に掛け席を立つ。セーラー服の襟が歪んだのを直しつつ小走りで向かう先は部室棟の奥。雑用部の部室である。実際にはもう少しちゃんとした名前が付いているのだが、その正式名称を琴葉は知らない。通称の通り、学校の雑用を請け負う部活だが、正直余り仕事はない。急な雑務に対応する為に放課後は部室にいることが多いが、週に一回お鉢が回ってくれば上等と言った感じだった。
そもそも、この部活には二人しか生徒がいなかった。一人は転校して来たばかりの琴葉。そしてもう一人は、琴葉の唯一にして無二の友人。
「おはようっ!シキっ!」
「おぉ」
織崎信長(しきざき のぶなが)。通称シキである。
シキは着崩した学ランのポケットに手を突っ込んだまま、琴葉にぶっきらぼうに挨拶する。琴葉はそれを気にしないで鞄を置くと、狭い部室のシキの隣に腰を下ろした。
全校の男子達が羨む空間を当たり前の様に占拠するこの男子生徒は、雑用部の部長である。三白眼にツンツンの黒髪、特筆した特徴もないが何となく倦怠感を感じさせる雰囲気。彼は、琴葉のたった一人の友達だった。
「で?イエスマン作戦はどうだったんだよ」
出逢ってから一月と少し。短い期間ではあったが、お互いに気兼ねがないことは言葉の軽さで伝わる。
「結果はどうだったんだよ?」
「…」
押し黙った琴葉に、シキは特段何を思った風でもなく「ま、だよな」と呟いた。イエスマン作戦とは、シキが考案した何でもはいと頷いておく作戦のことである。内容は簡単だが、それでも琴葉は失敗した。
琴葉はシキの期待0の態度に落胆を大きくする。折角相談に乗ってもらってる友人に申し訳なく、肩が重い。唸りながら、琴葉は目の前の机に傾いた。
「ふぇ〜」
「うっ…!」
琴葉の気の抜けた声とは反対に、シキからは切羽詰まったような声が漏れた。
琴葉のFカップはあるであろう中学生離れした胸が、机の上に乗って豪快に形を変え、主張していた。シキは琴葉と同じ様に前に屈む。今、股間に発生している膨らみに気付かれる訳にはいかない。シキは琴葉を友達として大切に思っていたが、同時に健全で一般的な男子中学生でもあった。
(相変わらず凄ぇおっぱいだな…)
この無防備な肢体を見せ付けられて、人並み程度だったシキの性的欲求が増えてしまったことは否めない。最初は友達を自慰の妄想や何やらの対象にすることに罪悪感を感じていたが、毎日このような状況が続き、シキはすっかり慣れてしまった。それとこれとは話が別、と言う様な潔さが今の彼の胸の内にはある。
「ところでシキ…」
「えっ?…あっ、なんだよ?」
琴葉が突然呟いたので、シキは動揺を隠しきれないまま返事をしてしまった。それに琴葉は気付かない。そういう鈍感な性分をしていた。
「今日はお仕事は?」
「おお、それなんだけど、一人必要だって生徒会が」
「1人?」
琴葉の頭が上がる。胸の方も本来の形を取り戻して、シキも安堵を吐く。勿論、あの絶景を拝めなくなる残念さのようなものも同時に存在していたが。
そんかことよりも、シキが提案しようとしたのはこういう話である。
「1人で行ってみろよ」
「!!」
琴葉は言葉の意味を直ぐに理解した。これは友達作りを手伝ってくれているシキからの試練である。
「む…!」
無理、と答えようとして一歩踏み止まる。さっきあれだけ落ち込んだではないか。これはシキの期待を取り戻すいいチャンスだ、と琴葉は及び腰を直す。
「わかった…行ってくる…」
「おお、珍しくやる気だな」
「とっ…滞りなく終わらせてきます」
「あぁ、頑張れよ」
シキも別に、期待はしてはいないが失望しているわけでもない。友達を作りたい、とは言っても現状シキと琴葉は確かに友達であるし、シキにとってはあまり重要な話でもなかった。ただ、友達が求めていることに協力しているだけであった。
という感じで特段の気持ちもなく、緩く琴葉を見送る。ひらひらと振っていた手を下ろして股間に目を向けると、まだ膨らみが残っていた。
「まじかよ…」
琴葉の残していったシャンプーの残り香に少しだけ鼓動が早くなったことは否定できないが、我ながら冷静になっているとシキは思っていた。
体勢を変えて股間の緊張感を和らげようとしながら、シキは昨日珍しい力仕事で疲れて直ぐに寝たことを思い出した。有り体に言えば、溜まっていた。そう考えつけば、思い当たる節も多い。
(生徒会の書類作業だから、暫くかかるよな…)
シキの頭によくない考えが浮かぶ。しかし、自分でよくないと思いつつ、既に彼の中の潔さはそれを是としていた。溜息を吐いて目を瞑る。それから、ちょっと考えて自分の欲求と戦うのを諦めた。
シキは徐に、ズボンのチャックを下ろした。
☆
オカズ、と言うのはごはんと一緒に食べる物の総称のことではない。自慰行為をするにあたって興奮する為の材料のことである。
シキが琴葉と出会ってから一週間。シキは初めて琴葉をオカズに自慰行為に及んだが、それからの一ヶ月、シキはそれ以外の物では自慰をしていない。最初は極大の罪悪感に襲われ、友達に借りて返していないアダルト雑誌を熟読したが、紙ペラが現実の美少女に勝てる道理はなかった。雑用という活動内容の故、二人の身体が接触する機会は多く、しかも琴葉は余りそれを気にしない性格だったことも一因である。
(普通に会話すんのは出来ねぇのに…何で身体は触れても平気なんだよ…!)
自分が今、己の物を曝け出しているのも半分くらいは琴葉のせいである、と憤る。確かに男子中学生にこの環境は酷であった。しかしながら、こうとも言えた。エロいことが嫌いな男子など存在しない。
「はぁ…はぁ…」
はち切れそうに屹立する肉棒を、掌で握り込む。衝動のままにそれを上下に擦ると、感覚の一つ一つが熱を帯びて何かが競り上がって来る。普段二人で過ごしている部室でする自慰は、自室でするものとは違う興奮を与えた。彼女の無防備な行動がより鮮明に思い出されるからだ。
とは言え、この部室に彼女の残り香のようなものは少ない。シキはあの潰れて変形した胸を思い出しつつ、教室を見回す。
「残り香…か…」
呟いて見やった先は、さっきまで琴葉が使っていたソファの端。古臭いそのソファからは、恐らく埃の臭いしかしないだろう。そうは思いつつも倒れ込むように鼻をソファにつけてみる。
「!!!!」
琴葉の、まごう事なき女の子の匂いがした。埃臭さに混じって確かに感じられる匂いが脳を溶かしていく。シキの肉棒がひくひくと躍動する。解き放つのはまだ早い。股間の根元に力を入れて、射精感を我慢する。
それからふと顔を上げると、無造作に立て掛けられた姿見に映る自分の姿が目に飛び込んできた。変態がいた。
「うぉぉああぁ!!完全な変態じゃねぇか!」
シキは勢い余るほど素早く起き上がると、冷静になろうと深呼吸してもとの体勢に戻った。
「普通にやろう、普通に。いつ帰ってくるか分からねぇし。さっさと済ませよう…」
気を取り直して先程と同じ作業に戻る。あの胸を自分の指で自由に蹂躙できたら、どれだけ興奮してしまうだろうかと、シキは思いを馳せる。
(一度くらいは揉んでみてぇな…)
一度とは言わず、本音を言えば何度でも揉んでみたいのだが、二人はあくまで友達だ。少なくとも、今の二人にはそう言う考えはない。
「うっ…!出るっ…!」
シキの我慢が限界を迎える。急いでティッシュを引き抜き亀頭にあてがう。これから何もなかったかのような顔で琴葉を迎えることを考えると、シキは少し興奮した。そして、やっぱり変態かも知れない、と笑った。
☆
その三分程前、琴葉は生徒会での雑務を終え、雑用部の部室へと帰還しようとしていた。
身体の疲れよりも心労の方を濃く感じながら、部室の扉に手をかける。当たり前だが、部室の扉は教室の一般的な扉と同じ横開きである。その扉が少し隙間を作っていた。きしきしとソファのスプリングの音がする。琴葉は思わず、静かに部室内を覗き込んだ。
「はっ…はっ……うっ…!」
琴葉はまず、シキがソファに座っているのを確認した。何やら小さく声を漏らしている。身体が、主に右肩が激しく動いていて、一瞬調子が悪いのかとも思ったがそれもなさそうである。
(何してるんだろ…んっ?……!!)
シキが立ち上がってティッシュ箱に手を伸ばした。立ち上がったとき激しく動いていた右肩の、右腕の先にあった物が見えた。
シキが右手で扱いているものが何なのか、こういう話に疎い琴葉でも一目で分かった。ぱんぱんに腫れあがり、今にも射精しようとしているそれにシキがティッシュをあてがう。
「うっ…!…出るっ…!」
彼が腰を揺らしてラストスパートをかけ、ティッシュの中に己の情熱を吐き出した。果て切ったシキがティッシュをゴミ箱に投げ捨てて、ソファに勢いよく腰掛ける。息を整えて一物をしまい込むと、大きく溜息を吐いた。
その間、琴葉は息を不規則に吐きながらその姿をじっと凝視していた。
(は…初めて見た……)
父親の物もあまり覚えていない琴葉には、確かにその物体自体見覚えのない代物だったが、それだけではない。勿論男性の自慰行為を見るのも、琴葉にとって初めての経験だった。想定外の景色に、頭は回らなくなり、それと反するように目はぐるぐると回っていた。
(ちんちんって…あんなに大きくなるんだ…)
しかも無二の友達が自慰に及んでいるのを見てしまったのである。この際琴葉にとって、何故この場でそう言った行為をしていたのかはどうでもよかった。兎に角、心臓の動きを落ち着けようと深呼吸をした。
十五分後。横開きの扉を開く音が部室内に響いた。
「お疲れ。もう終わったのか?」
「うっ!うんっ!そうっ!」
結果から言って、琴葉の十五分間の闘いは意味を成していなかった。
「どうした、なんか変だぞ?なんかやったのか?」
「なにもっ!?…べ、別に変なことだなんて思わないよっ!?」
「何言ってんだ…お前?」
こういう時、この会話スキルの低さを呪う。普段はなぜか普通に会話が出来るシキとも、今はこの有様だ。
「あんまり喋らなかったからっ…普通に終わったよっ…本当だよ!」
「分かった!分かった!どうしたホントにっ!」
「なんでもなぶぃでずぶっ!!」
「しっかりしろ!」
こうしていつも以上に失敗を繰り返した琴葉は、決して冷静とは言えない状況のまま、帰路に着くこととなった。
☆
午後八時。姉と共に食事と皿洗いを終えた琴葉は、父親の夕飯にラップをして風呂に入ることにした。あれからの琴葉はあの姿を思い出しては赤面し、その度にその記憶を頭の中から必死に排除しようとしていた。一度姉の美鶴木浅葱(みつるぎ あさぎ)に本気で心配される程、彼女は狼狽していた。
「ホントに大丈夫琴葉ちゃん?いつにもまして様子が変よ?」
ふわふわと柔和な声色で失礼な事を言われ、そんなに普段の自分は変なのかと軽く落ち込む。これで悪気がない。それが美鶴木浅葱の性格であった。
因みに浅葱は現在高等科一年生で、元雑用部の部長でもあった。元々部活に入るきっかけは姉の紹介だったので、シキという友達を作るきっかけをくれた事には感謝してもし切れない。そのシキについて浅葱に相談することも可能だったが、流石に見たままを言うことも出来ず、琴葉は押し黙ったまま風呂場に入っていった。
(男の子だしっ…ああいう事も普通だってどっかで聞いた気がするしっ…)
上を脱ぎながらそう考えている時、自分がずっとセーラー服で過ごしていたことに気付く。琴葉は未だ混乱している頭を振って、シキについて考えている思考を別の事に反らそうとした。
ブラジャーのホックを弄りながら呟く。
「胸…またちょっと増えたかな…」
姉程ではないが、自分の胸が他人よりも大きいことは自覚していた。時にはそれがコンプレックスになることもあった。
ブラジャーは、サイズを変えた時少し収まりの悪さを感じたが、今となってはその感覚も失われている。シキは男性で、自分は女性であると、強く実感した。
スカートのチャックを下げると、軽い音を立ててその場に落ちる。外れかけたブラジャーを外して開放感を感じる傍ら、それを洗濯機に放り込み、ショーツに手をかけてずり下ろす。そこで、奇妙なものを見た。シミである。ショーツの真ん中に大きなシミができていた。生理ではないし、そもそも琴葉は生理が軽い方である。まさか、お漏らしと言うことはあるまい。思い当たることを探しなから、琴葉はショーツを脱ぎ捨て浴室に入った。
「ふぅ…」
身体全体を洗い終え、長い髪を纏めて湯船に浸かる。そうすると、少し気持ちが落ち着いた。
(シキも…ああいうことするんだ…)
改めて考えて、何だか無性に意識してしまう。あの光景を気持ち悪いとは思わずに、ドキドキしている自分が何だか変にこそばゆい。
琴葉はふわっとする頭を湯船に沈めた。
「オナニーって…気持ちいいのかな…」
言葉以外は大して知らない行為だが、それを行っているシキは苦しそうにも見えたが気持ちよさそうだった。
湯船から出た琴葉は、自分の股間を凝視する。何がどうなって子供が産まれるとか、そう言うことは中学三年生ともなれば当たり前のように知っている。琴葉はこの股間の割れ目をなぞる事が気持ちいいことも知っていた。
「シキの気持ち…分かるかな…?」
女性の自慰と男性の自慰では、質が異なるものであるが、琴葉はシキの気持ちを理解することで精神の安定を取ろうと考えた。考えて、どうするかを決めた。
湯船の端に座って股を開く。この年になると陰部には毛が目立っているものだが、琴葉の股間にはその存在が見えなかった。少しも生えていない訳ではなく、薄い毛が綺麗な金色をしている為に目立たないのだ。
少し隙間のできた股間の割れ目は、光を照り返していた。実は先程から、シキの自慰の姿を思い出す度に股間が疼くのを感じていた。琴葉は割れ目に自分の細く柔らかい指を重ねると、上向きに優しく撫で上げた。
「ふわぁっ!」
身体がぴくんと跳ねる。割れ目から奥までじんじんと熱く、もどかしい気分になる。十分に温まっている筈の身体が別種の熱を発生させて、次の刺激を強請った。
「なっ、なに?…今の…」
答える相手はいない。それが快感だと理解することが出来ないまま、一際熱を発する小さな肉壁の奥に再度指を這わせる。こんなに敏感な部分が自分にあったことに、琴葉は戸惑いを隠せなかった。
少し怯えながら、中指で隙間をなぞる。制御できない力が這い上がってきて、身体が仰け反る。
「ひっ…ふぅ…なんか…すごい変な感じ…」
快楽の片鱗を見つけ、それを手繰り寄せようと何度か連続で刺激を与え続ける。身体が縮こまろうと勝手に動いて、思わず脚で右手を挟んだ。それから、太腿を擦り寄せて自らが与える刺激に耐える。動かし難くなった右手の指は、鍬のようにして股間をぐにぐにと押し始める。自分の指が自分のものでなくなったかのように刺激を止めてくれない。
「ふぅ…んっ…あぁ、あうっ、やっ、んんっっ!」
漏れ出る声が反響して耳に響く。下半身がどんどん後ろに下がって、自然に前屈みになる。重量感のある胸部が、身体がヒクつく度に揺れて、それにすら快楽を感じた。胸の中央に位置する突起が目を疑うほど主張を強くしていて、全身が敏感になっていくような感覚を覚える。
「ひゃうっ、あっ、うっ、しきっ…」
大切な友人の痴態を思い出しながら、人生初の自慰行為を続ける。暫く同じ体勢のまま、すっかり快楽に変わった感覚を貪っていたが、やがて疲れて自然と手は止まった。
琴葉の火照った顔が、茫然としたような色合いで固まっている。荒い息を整えつつ、手にべったり付いた粘液を確かめる。彼女はようやく、ショーツに付いていたシミの正体を知った。
「琴葉ちゃん?…何か聞こえたけど、逆上せた?大丈夫?」
唐突な浅葱の声。琴葉は驚いて取り繕い、再びかいてしまった汗を流し始める。
「だっ、大丈夫っ!」
バレたらもう一生顔を合わせられない自信があった。琴葉は勘付かれないように手早くお湯を被った。
☆
あれから一週間が経った。
琴葉とシキは部室でのんびりと仕事を待っている。一見するといつも通りの光景だ。
「シキっ…えっと…あ、いい天気だねっ」
「…そうだな」
しかし、実態は全然いつも通りではなかった。あれからの一週間、部活を休むこともなく活動していた琴葉だが、依然態度に違和感は残っている。
シキは琴葉の異常の原因が分からずにいたが、若干諦めて普通に接している。そうして、平然としたまま、あの痴態を見られたことも知らずにまた悶々としていた。
態度がおかしくとも、琴葉の無防備さには何の影響も与えてはいない。今もスカートの端が持ち上がって、太腿が奥の方まで見えかかっている。
「そろそろどうしたのか教えてくれよ。俺がなんかしたか?」
「なんかっ!?」
シキは相も変わらずその姿に発情してしまい、本人の前では抑えつつも毎日しっかり琴葉をオカズにしていた。
「なんかって!…それはっ、あうっ、そのっ!」
「まじであうっ、なんて言う奴初めて見たぞ。ちょっと落ち着けよ…」
「ごっ!…ごっ、ごめんなさい…」
かく言う琴葉も一週間の間、ほぼ毎日自慰を続けていた。シキの自慰を忘れようとつい風呂場などで催すのたが、当然逆効果であり、依然として琴葉の頭からあの映像が離れることはない。一般的な若者の例に洩れず、性衝動に目覚めてしまったという部分もあり、すっかり気持ちいいという感覚が身体に馴染んでしまっていた。
その手の知識に乏しかった琴葉は、インターネットで自慰について調べた。まず、方法に関しては概ね間違っていないようだった。そこに記されているものの中には、彼女にはとても実行できないようなものばかりだったので、今は特に変わった事はしていない。
琴葉がその文中で気になったのは、オーガズム。所謂、イクという行為だ。どんな状態になるのか、色々と彼女なりに読み込んだのだが、恐らく自分がその状態に達したことがないという事は分かった。そして、その快楽の絶頂を味わってみたいと控えめに思ってしまっていた。
(でも、あんまりするのもよくないよね…多分…)
琴葉の中の漫然とした常識が性欲に抗って、また彼女を悩ませた。何しろその場で一度したいと思うと、自分では中々止められないのだ。琴葉は小さく溜息を吐いた。
一旦落ち着いて、またシキに声をかける。
「今日のお仕事は?」
「今日もない、って言いたいとこだけど…今日は力仕事だ。留守番してろ」
シキは時計を確認して、席を立った。言葉の意味を推し測れない琴葉が狼狽して問い返す。
「へっ?わわ、私は?リストラ?」
「先週からお前その調子だろ?迷惑になるだけだから休んでろ」
「だ、大丈夫だよっ」
「いいから、休んどけ」
シキは有無を言わさず部室を後にした。この辺りに部長たる所以があるのか、と琴葉は一人納得した。
(これが続くとホントにリストラされるかも…早くなんとかしないとな…)
思って、ついまたその原因について考えてしまう。この場で、この部室のこのソファの上で、シキは自慰をしていた。その姿を、思い出さずにはいられない。
(そう言えば…どうしてシキはここでしてたんだろう…)
好奇心に近い感覚が湧き上がる。シキは仕事で、恐らく暫く帰らない。そう予想を立てた琴葉は、暫し躊躇した後股間に右手を滑り込ませた。
「あぁ…んぅっ…なんか、すごい…いつもより変な感じ…」
友人といつも過ごす空間で、彼がいつ帰るか分からない緊張感の中で、琴葉は今までになく興奮していた。
雑用部の狭い部室のソファの端。そこに座り込んだ琴葉は、ピンク色のショーツを太腿の中程まで下ろして陰部に指を這わせる。状況が、シキが自慰をしていたときのことを思い出させる。琴葉はいつもより敏感になっている秘部を指で弄り始めた。
「私…変態なのかも…」
指の動きを止めることが出来ないまま、そう呟いた。
☆
シキは部室から出て十分、ポケットに手を突っ込んだまま歩を進めていた。目的地は、雑用部室である。
(折角来てやったのに今日はいいとか…俺らにだって予定があんだよ!)
依頼をキャンセルされた事に不満を持ちつつ、廊下を歩く。格好を付けて出てきたので、シキとしては少し部室に帰りにくいが、それでもいつかは到着する。また彼女の無防備な姿に振り回されるのかと思うと、案外悪い気もしないところに問題を感じた。
(そういや、なんか最近オナってばっかだな…)
そんな現状に溜息を吐きつつ、横開きの扉に手をかける。 ぴちゃぴちゃという控えめな水音に気付きもせず、勿論覗き見ることもなく、部室の扉は開かれる。
そこには、前に屈んで股間を弄る琴葉の姿があった。
「なっ…!」
「ふへっ!?」
潤んだ瞳に火照った頬。美しいブロンドの髪が汗で顔に張り付き、唇は妖艶な吐息を漏らしている。右腕は真っ直ぐに彼女の股間に伸びており、太腿にかかるピンクのショーツとスカートで奥までは見えないが、疑いようなく誤魔化しようなくそれは自慰行為だった。
お互いが硬直して、時間が止まったようになる。
「…」
(どうしよう…どうしよう…どうしよう…)
「な…なに、やって…」
(これオナニーだよな…琴葉が?部室で!?めっちゃ女の匂いするんだけど!?)
この状況において、琴葉な必死に言い訳を絞り出そうと必死だった。しかし、今の自分の姿がやはり誤魔化しようのないものであることに気付き、ほとんど絶望した。変態女と言われ、蔑まれるだろうか。血の気が引いていく。
一方シキは、股間部に向けて凄い勢いで血液が集中するのを感じていた。琴葉のあられもない淫靡な姿を目の当たりにし、彼女自身は気付いていない部屋中に充満する野生的で甘い香りを吸い込んで、彼は正気を保つので必死だった。琴葉がこの部屋で発情し、いつかの自分のように自慰に励んでいたことは事実。そんな状況をこのままに、理性的に解決することはシキには到底できなかった。
「続けないのかよ…」
シキは呟く。泣きそうになっていた琴葉は、耳を疑う。
「へっ?…いま、なんて…?」
「つ、続けないのかよっ…んな格好見せたんだから、最後まで見せろ!責任とれ!」
「ふぇぇえぇ!!?」
てっきり軽蔑されるものだと思っていた琴葉は、訳が分からない。シキとしては、彼女の自慰を見たいと欲することで欲求のレベルを下げ、何とか暴れ出しそうになる衝動を抑えているのだった。
そうでもして処理をしないと、自分自身何を始めるか分かったものじゃなかった。
「ほら、どうしたんだよ、早く見せろよ…!」
「まっ、待って!」
「俺がいないからって部室でオナニーしてたんだろ?続けてみろよ…!」
シキの言葉には切羽詰まった響きがある。普段なら軽口を叩き会える二人だからこそ、こういう場面でも普通に会話ができてしまった。内容の方は普通ではなかったが。
「ごめんなさい…だから、許して下さい…って言うか責任ってなに!?」
琴葉は半分泣いている。冷静に考えて、今の格好を見られ続けるのは死ぬ程恥ずかしい。
「責任って、これだよ!」
ズボンの膨らみを指差しながら主張するシキも必死だった。パンパンに張ったものを見て、琴葉は目を剥く。シキの一物が今、あの中で屹立仕掛けている。自分の自慰の姿を見て自分と同じように興奮しているシキの姿を、ドキドキしながら見つめてしまう。
「えっ、と…こうすれば…いいの…?」
消え入りそうな声で言って、琴葉は自身の奥底から再び湧き上がろうとしてる衝動を処理する為に指を動かし始めた。
「おぉ…すげぇ…超エロい…。毎日こんなことやってんのかよ…」
身を捩りながら再度水音を立て始める琴葉を前に、シキが言う。動物のような荒い息を吐きながら、琴葉は反応する。
「一週間前が最初だよぉ…あぅっ、んぅぅ…」
「様子がおかしかったのって、これが原因かよ」
琴葉の台詞に混ざって聞こえる喘ぎに激しく興奮しつつ、突っ込む。毎日、の部分を否定しなかったことに、シキは気付かなかった。
一方、それよりももっと原因らしいことがある事を、琴葉はシキに言えなかった。身体が敏感に反応し過ぎて、それどころではなかった。
「ひゃぅう…やっ、ふっ、んんぅっ…あんまり、じろじろみないでよぉ…!」
見られながらの自慰行為は琴葉を最高に興奮させていた。余裕なく動かす中指は、高速で敏感な所を突いて辺りを濡らしていく。
シキもすっかり興奮仕切って、琴葉の前でその光景を見ていた。相変わらず耳まで真っ赤な姿を見る。シキはその格好に、常々自分のフェチズムを感じている。こちらも我慢が限界に近いと、シキは琴葉のすぐ前に一歩前進する。
「な…なぁ、琴葉…俺もいいか?…そろそろ我慢が限界っつうか…」
今まで以上の快楽の渦の中で、琴葉は既に冷静さを失っている。男性の、シキの自慰行為を再び観れる。その小さな欲求を満たすために、彼女は体面を無視して首を縦に振った。
「いい、よ…みせて?」
虚ろな目でシキの姿を見る。
チャックが下りて行く。ごそごそと手を突っ込んで引き出したそれは、溢れるように琴葉の眼前に溢れた。シキ自身も初めて見るほど極大に腫れ上がった肉棒である。
思考が混濁していた琴葉も、その雄姿に驚き、手を止める。その見た目は多少グロテスクに感じられたが、すぐ様それを握り締めて必死に自慰を始めるシキを、琴葉は可愛いと思った。
「はっ、はっ、くぅ…お前、まじっ、エロすぎんだよ…!」
シキの一物が他の人に比べて大きいということはなかったが、今だけは話が違った。充血仕切った肉棒を強く圧迫し、がしがしと激しく手を動かす。腰が連動して動き、琴葉の目にそれは淫猥に映る。
琴葉はシキの一物を凝視し、依然固まっている。シキが先の濡れたそれを見せびらかすように言った。
「何じろじろ見てんだよっ…琴葉がこんなエロ女だったなんてなぁ…?」
琴葉の顔にさっと赤みが増す。
(やだっ…シキのおちんちん見て興奮してる…ホントに変態だよぉ…)
琴葉は目を逸らそうとして、やはりまた見てしまう。
シキの手が、琴葉の背後にあるソファの背もたれに架かった。そこに体重を掛けて若干屈むと、シキの顔面の直下に琴葉の顔以下が全て収まる。シキは立っていて、琴葉は座っている状況とは言え、琴葉が顔を上げると直ぐそこにはシキの顔があった。
「どうしたんだよ…指止まってんぞ?…くっ…さっさとイけよ、ほらっ…!」
「で、でもわたしっ…」
シキに言われた通りに指の運動を再開しつつ、琴葉は言う。
「あっ、イッたことなんて…んぅう!…ない、よ?…」
シキにはそれが普通だかどうだかまでは分からなかったが、自分だけが琴葉を置いてイッてしまうという事は、男としてプライドが許さなかった。既にシキの限界は近い。何とか琴葉を先にイかせたかった。
「お前っ…じゃあ、どうしたらっ…」
「わかんないっ、ひっ、イけないんだよぉ…!」
お互い性器を弄りながら会話をする。琴葉はシキと顔を合わせられない。
シキは、琴葉がどうしたらイケるのか考える。
「胸とか触んねぇのか?…うくっ…そう、左手で…」
「こっ、こう?…ひぅぅ、おっぱいっ、だめぇ…なんか、だめだよぉ…!」
「うぉぉ…ヤベェ…気持ちいいかよ?」
琴葉の双丘の内の右。左手に優しく揉み解されている姿はシキの射精を早めたが、琴葉にはまだ一押し足りない。
衣擦れの音を立てながら変形する胸は、落ち着きのない動きを繰り返す。シキはその胸を今すぐに鷲掴みたい衝動に駆られるが、何とか踏み止まる。そこから先は、自分でも止められる気がしなかったからだ。
琴葉が上を向くと、シキの顔が目前にあった。
「き…言えないっ、よぉ…」
「気持ちいいんだろ?…なに今更恥ずかしがってんだよ」
「んっ…しきはっ?…へぅっ、ひゅ、きもちいい…?」
「あぁ、気持ちいいぞ…もう、イきそうだ…!」
身体は全く触れていないが、視線は淫猥に絡まる。琴葉の背中を、何かが競り上がるような感覚がした。
シキも同時に感じていた。お互いがお互いの姿に発情し、快楽を追い求める様は、一つの性交のようだった。
「わっ、わたし、もっ…!」
琴葉が口を開く。荒い息を吐き出す唇には、てらてらと涎が付いて光を反射していた。シキと目が合ったまま、彼が聞いたことのないような大きな声で告げた。
「私もっ、きもちいい!…しきにおまんこっ、いじってるの見られてっ…んっ、ぃぅっ、すごいきもちいいよぉ…!!」
琴葉の上半身が背もたれに向けて仰け反る。びくっと一回跳ねて、腰や背中に力が入るのを抑えられなくなる。
琴葉は股間周りの筋肉が収縮するのを感じた。それが解けた途端にまた収縮し、また同じことを繰り返す。その振幅の幅は次第に小さくなり、琴葉の思考は抗う間も無く掻き乱された。
「ふっ…へぅ?…はぁ、あうっ、んふっ、ふぅ、ひぃゅう!?…だめっ、これっ、なにっ、ふゃぁぁああ!!」
びくびくと身体全体が痙攣する。琴葉には理解出来ていなかったが、シキにはそれこそがイくという行為、即ちオーガズムであると理解できた。
琴葉の腰がややゆっくりとしたテンポで前後に動いている。太腿を擦り寄せ、敏感になった身体に悶える。余韻が頭を掠める中、琴葉の目の前のシキはラストスパートをかけていた。
琴葉が絶頂に達したことで、気兼ねなく射精が出来る。シキは手と一緒に腰を振り、最後の力で一気にその全てを解き放った。
「うっ…くっ…出るっ…………ふぅ、ふぅ」
静かに解放され、しかし激しく飛び出した精液は、琴葉の制服や腕に遠慮なく降り注いだ。ティッシュを使うことを、完全に失念していた。
「やべっ…!」
シキは急ぎ、ティッシュを数枚引き抜くと、琴葉の制服に手をかけ精液を拭い取り始めた。琴葉の方は、まだ焦点が定まらずに何が起きたのか理解出来ていなかった。
☆
お互いが落ち着きを取り戻せる程の時間が過ぎた。ティッシュはゴミ箱に投げ捨てられ、セーラー服のシミは気にならない程度になっていた。
(何か仕方ないとか思ってたけど色々やっちまったぞ俺!?どうすんだ、どんな顔してりゃいいんだ!触らないとか思ってた割にはガッツリぶっかけちまったし!!)
(シキの前であんなに興奮して…初めてイっちゃったよぉ…。どーしよう、どんな顔してればいいの!?うぅ…ベトベトの感覚を今更思い出しちゃう…!)
お互いの間に流れる気まずい沈黙。すっかり仕舞い込まれたお互いの性器も、決して洗ったわけではない。生々しい感覚が残っていて、すっかり忘れようとは流石にできなかった。
行為として友達の枠を逸脱したことは、どちらも分かっていた。
(でも、このまま気まずいの…やだなぁ…)
シキと気まずくなり一言も話せない学生生活を想像すると、琴葉は泣きそうになった。ちらりとシキの顔を見ると、目が合った。逸らされて、いよいよ涙が溢れた。
シキはその姿を見る。
そして即座に跪き、捲し立てた。
「!…悪かったっ!!変なことしちまって本当に悪かったから!!殴っていいから泣くな!」
自然、シキはさっきまでの行為が原因で泣き出したと思ったが、琴葉はその普段通りの姿を見て安心した。霧が晴れるように、その姿を信じられるようになった。気持ちを早く伝えてあげたい。その一心でしゃくり上げながらポツポツと呟く。
「違くてっ…エッチなとこ一杯見られてっ、気まずくなったら嫌だなってっ…」
琴葉の目からはポロポロと涙が溢れている。シキは破顔した。そのまま、そのままの気持ちを伝える。
「お前がいいなら…俺たちはずっと友達だよ…!」
少し顔を赤くしながらシキが言った。お互いのあんな行為を許せてしまう。自分達はやっぱり変態かも知れない。琴葉はそう思いながら、心底の安心感を覚えつつ微笑んだ。
自分達がこれからどうなっていきたいのか。どうなって行くのか。それを二人はまだ知らず、親友という今最大限の関係を紡いでいくことを決めた。
世界で一番好きな人と、琴葉は最高の気分で笑い合った。
このクソつまらないであろう小説に、最後まで目を通してくださってありがとうございました。
一つだけ。
次からオナニーは控えます。