【完結後オマケ】お隣の天使様を変態紳士がいつの間にか堕天使にしてしまった件 作:麒麟人間
ちょっぴり胸糞描写があるので、苦手ならさっと飛ばしてください
「ふう……行くか」
投稿前の身支度を終わらせて、家を出る準備をする。今日から、真昼と一緒に登校することにしたのだ。
今までは学校では他人を装っていたから登下校は被らないように時間をずらしていたが、もうある程度知れ渡ってしまった以上、隠しても無駄だろう。
それよりは適度に距離を縮めて、周りが納得する方向に仕向けた方が賢明だと判断した。
家のドアを開けると、既に準備を整えた真昼が待っていた。
「おはようございます、周く……ん?」
周を一目見た真昼が、ギョッとした表情をした。
「どうした?」
「ど、どうしたって……なんでその髪型なんですか?」
今の周は、周りが言うところの『例の男』モードの姿である。
服装は制服なので変えられないが、せめて髪型くらいは見栄えよくしようと思った結果だ。
「自分でも出来なくはないと思ったんだが……そんなに変か?」
「へ、変ではないですけど、突然だとびっくりします。いつもの周くんも格好いいですけど、その髪型だと、その……少し落ち着きません」
自分ではよく出来たと思っていたから、真昼の反応は少しショックだ。
「そんなに似合わないのか……戻してくる」
「いえっ、落ち着かないだけで似合ってます。その……似合いすぎてるくらいに」
「よくわからん」
一応、悪いわけではなさそうなので、このまま登校することにした。
「……本当なら、手を繋いだりしたいんですけどね」
「それはまだやめとこう。樹たちにバカップルと思われるのは癪だ」
「ふふ、いいじゃないですか、バカップルでも」
本当の理由は、真昼を好きな男が真昼に逆恨みで逆上したりするのを防ぐためだ。
だが幸せそうな真昼を不安がらせる必要はないと、心の底に秘めておく。
今は、少しずつ周りに周知させるのが目的だ。
家の近くならともかく、学校が近づいてくると同じ学校の生徒も増え、やたらと視線が刺さり始めた。
「……やっぱり、見られてるな」
「まあ仕方ありませんね。放っておけばいずれ落ち着くでしょう」
それにしても、『天使様』が男連れで登校することに驚くのはわかるが、隣にいる周を見て驚きの表情を浮かべる人が数人いるのが不可解だ。
しかも、どちらかといえば女子に多い気がする。
「……なぁ、やっぱり髪型変じゃないか? さっきから変な見られ方してる気がするんだが」
「そ、それは……周くんがカッコいいからだと思います」
「そんなことはないと思うが……やっぱり学校で戻してくる」
「だ、ダメです、そのままにしててください」
そんなやり取りをしながら校門をくぐる二人を、周りがバカップルだと思っていることには気づかない周だった。
「――真昼、ちょっとトイレ行ってくるから、悪いけど先行っててくれるか?」
「え? でも教室の近くにもトイレありますよね?」
下駄箱で靴を履き替えている真昼が、不思議そうに聞き返してくる。
「いや、ちょっと我慢出来ないから外の多目的トイレ行ってくる。時間かかるから、真昼は自分のクラスに行っててくれ」
「……もうっ」
暗に「大きい方」だと言っているような周に、真昼は顔を赤くして自分のクラスに向かっていった。
真昼の姿が見えなくなるのを見届けてから、改めて自分の靴箱を開ける。
「……こんな物、真昼には見せられないよなぁ」
そこには、「調子に乗るな」と書かれた紙と、泥まみれになった周の上履きがあった。
仕方なくスリッパを借りて教室に向かう。
と、一人で歩いていても、やたら見られている。やはり噂が更に広まっているのだろうか。
ガラリと教室のドアを開けると、周りの視線が集まる。
急に静まり返ったクラスを不審に思いながら、自分の席に向かうと、途端にざわついた。
「えっ!? 藤宮!?」
「あいつ、あんなんだったか!?」
妙な騒がれ方をしている間に、こちらに声をかけてくるやつがいた。
「よっ、周。なかなか派手な登場じゃんか」
「樹か……。なんかクラスの連中の様子がおかしいんだが、何かあったのか?」
「何かじゃないだろ、原因は周だよ周。とうとう見られたけど、それが『例の男』スタイルってわけか」
どうやら、周の見た目が変わっていることに驚かれていたらしい。
「って言っても、ちょっと髪型整えたり、後は姿勢やら意識して歩いてるくらいでいつもの変わらないつもりなんだが……」
「そりゃ中身までは変わらないかもしれないけど、周のこと外見しか知らない連中からしたら、隠キャだと思ってたやつが実はイケメンだったって衝撃だろうさ」
「イケメンって……そんなことはないだろ」
樹や門脇のように爽やかなオーラを纏っているわけでもないし、目付きも悪く無愛想なのは変わらない。イケメンというイメージとはほぼ遠いだろう。
「ま、お前はそういうやつだよな……」
「おはよーっ! って、あー、周っ!? どしたのその髪型!」
始業ギリギリになって、千歳も教室に入ってきた。また騒がしいのが来てしまった。
「何々? それが『例の男』スタイル? へー、いいじゃん。普段からそうしてればよかったのに」
「……そんなに違うか?」
「全然違うよ。一瞬誰だかわからなかったもん」
少し身だしなみを整えただけで誰だかわからなくなるなんて、なんて友達がいのないやつなんだ。
「っていうか、そのスリッパどしたの? 上履きは?」
「……あー、昨日持って帰って洗ったら乾かなくてな。それより、そろそろチャイムが鳴るぞ。自分の席に戻れ」
はーい、と軽い足取りで席に戻っていく千歳。だが樹はまだ黙って周を見ていた。
「周、なんか困ったことがあったら遠慮せずに頼ってくれよ」
「……ああ」
樹はそれだけ言うと、自分の席に戻っていった。
変なところで勘がいい樹には気づかれてしまったかもしれない。
「なぁ、本当に大丈夫か?」
「何が?」
「何がってお前なぁ……」
バレンタインからしばらく経ったある日、体育の授業中に樹がそう切り出してきた。
なんのことかは言わなくてもわかっている。
あの日以来、周の物が無くなっていたり、汚れていたりという出来事が続いていた。
流石に誤魔化すのは不可能だろう。
「……真昼には言うなよ」
「とは言ってもなぁ、いい加減心配にもなるって」
「最初だけだ。しばらくほっとけば向こうも飽きるだろ」
幸い大した被害ではないし、ちょっとした嫌がらせの域は超えていない。危険がないならこれくらいは許容範囲だ。
「それに……」
体育館の向こうを見る。体育は二クラス合同で、男子はバスケ、女子はバレーボールだ。
ネットの向こうの真昼がバレーボールで活躍していた。
スパイクを打ち込み、点を取って他の女子たちと喜び合っている。
最近は、学校でも少しずつ素の笑顔が出てきだしているように見える。
「こんなことで、あの笑顔を曇らせたくないんだよ」
「……漢だねぇ」
教師のホイッスルが鳴り、前のチームの試合が終わる。
次は周たちのチームの試合の番だった。
「さて、ぼちぼち頑張りますか」
「俺としては、体育よりテスト勉強したいんだが……」
とはいえ、サボるわけにはいかないからコートに立つと、ネット越しの女子たちから黄色い声が上がった。
「なんだ?」
「さあ……?」
見ると、他の女子に背中を押されるようにして、真昼が前に出てきた。
「あ、周くーん! が、頑張ってくださーい!」
途端に再び黄色い声が上がる。真昼と仲のいい女子たちが恋路を応援しようと真昼を焚き付けたらしい。
真昼の取り巻きによく思われていないと思っていたが、どうやら取り巻きも一枚岩ではないようだ。
「こりゃ頑張らないとな、周」
「……真昼に恥をかかせない程度には、な」
試合開始のホイッスルが鳴り、ジャンプボールで相手チームにボールが渡ってしまう。
が、何故か相手チームの選手が周に向かってボールを振りかぶった。
「死ねえぇ、藤宮ぁ!」
「うわっ!」
咄嗟にボールを避けたが、周りはチーム関係なく周をターゲットにしていた。
「何しやがる」
「うるせぇ! 俺たちの……俺たちの天使様を独り占めしやがって……しかも同じ非モテだと思ってたら実はイケメンだったとか、ラノベの主人公みたいなことしやがって」
「意味がわからん」
「とにかく、これは俺たちからの怒りだ、食らえぇーー!」
巧妙にパスを回しながらボールを投げつけてくる。しかし、それをなんとか躱しながら隙を窺う。
「よっと」
「あっ」
相手がわざわざボールをくれるのだから、逃げながらなんとかキャッチして、その場でシュートをうつ。
スポーツは得意ではないが、ボールはたまたまリングの中に収まってくれた。
観戦していた女子たちから歓声が上がる。
ここからでは会話までは聞き取れないが、真昼が女子にからかわれて顔を真っ赤にしているのは見えた。
「くそっ、してやられた!」
「いや、そりゃこうなるだろ」
ドッヂボールならともかく、今はバスケットボールの時間だ。
相手にボールを投げたら点を取られて当然だ。
「負けたぜ……お前になら天使様を任せられるよ。幸せにな」
「どの立場から言ってるんだよ……。お前らに言われなくても、真昼は俺が幸せにするよ」
あっ、と思った時には遅かった。周の言葉を聞いた女子たちは囃し立て、男子たちからは怨恨の視線を向けられる。
「チクチョー、惚気やがって! やっぱり許さん!」
「おいだからやめろって!」
結局、バスケの試合は無茶苦茶でまともな授業にならなかった。
「散々な目に遭った……」
「お疲れさん、色男」
体育を終えた頃にはヘトヘトになっていた。
終了のチャイムが鳴るまで、周り中から追い回され続ける羽目になった。
今は制服に着替えて、教室に戻るところだ。
「でも、本気でぶつけられてはなかっただろ? なんだかんだ言って、みんな天使様が幸せなのが一番だと思ってるんだよ」
「そう、だといいけどな……」
全員が全員というわけではないだろうが、少しは真昼との仲を認めてくれている人たちもいるみたいだ。
この分なら、思ったよりすぐに受け入れられるようになるかもしれない。
そう思いながら教室のドアを開ける。
「……そう簡単でもないか」
そこには、大量に「死ね」と刻まれた周の机と、水浸しにされた荷物があった。
ちょっと重めな内容なので、重くなりすぎないように全体的な空気は軽めに…
分割なのでいつもの省略