万年底辺冒険者ポンコツ淫魔になる 作:ミスリル加工されたワカメ
「えーと…つまり…あなたはルードさんなんですね…?」
「だからぁ!さっきからそう言ってるだろ!??」
「………うーん…」
「頼むよぉ…ギルマス出してくれよぉ…」
早朝、女の声がラーデリアの冒険者ギルドに響き渡る。
声の主はそう、淫魔にされたルードだ。
口座の本人証明、死亡もしくは行方不明になった際の冒険者照合の更新など諸々の手続きへ訪れるが淫魔になったなど信じられるはずもなく、ギルドの職員も困り顔で対応するしかない。
「おん?なんだぁ美人な姉ちゃんの声がすると思ったら…どうしたんだ?」
「あ、カークさん、すみません、こちらの女性が自分はルードだ、口座の本人証明をしたいと…」
「カークゥ…助けてくれぇ…」
「お、おう。とりあえずこっちで話そうぜ、な?」
半泣きになっていた俺はカークに促されるまま机へ向かう。
別れてそう時間は経ってないが今となってはものすごく頼もしい。
「うーむ、たまたま同じ名前の客がトラブルを起こして今の姿になったってわけか…にわかにゃしんじられねぇな」
「信じてくれ…」
「…じゃあ俺は昨日会ったルードにある事をした、分かるか?」
「金玉わしずかみにされた」
「そん時何て言った?」
「ガッポイ!!」
「うん、ルードだな、さて…ギルマスは時間あるかねぇ…」
カークに俺だと証明はできたが…ギルマスにどう会うべきだろうか。各冒険者ギルド支社には嘘と本当が分かる魔法を習得したギルドマスターがいる為俺がルードだと言えばそれだけで色々片付くだろう。だがそのギルマスが激務な上会うのもかなり難しいのだ!どうしよう!
「…昨日はよ、夢かなぁ、夢かもしれないなぁって持ったんだよ」
「おう」
「そしてよ、朝起きたらよ、ドリームインスウィートの宿舎だったんだよ」
「おう」
「結局よ、5年過ごすことになっちまった…」
「5年?」
「おう、5年。肩の数字わかるか?」
俺は肩を出し、カークに見せる。
「1824…って書いてあるな…」
「その日数の間そこで過ごさにゃならんのだ」
「マジか、契約途中で切れねぇの?」
「無理だってさ、契約ってより呪いに近いらしいからめちゃくちゃ高位の神官にでも頼まねぇと無理だとさ」
「へぇ、つまり俺が行ったらお前が相手してくれるかもしれねぇってわけか」
「げぇ!嫌な想像させるなよ。だが残念!俺は従業員じゃありませーん。オーナーが詫びとして5年間の世話はさせてもらうだとさ」
「そりゃいいな、だがよルードあんまり人前で肩やら見せるなよ?俺はお前だって分かるから興味ねぇが見た目は極上だぜ?勘違いさせちまったら襲われるぞ」
「……善処する…」
そりゃそうだ。今の俺は美女と言っても過言では無い。
カークが中身まで女じゃないと興奮しない紳士(♂)で良かった。
比較的露出の少ない服を借りはしたが俺も迂闊だった。
男となんざごめんだ、今後俺は自慰以外で性処理なんてしないだろうな。
「はぁ…契約終わったら…うーむ、故郷にでも帰るか…?」
「故郷に帰っても親御さん分かるかね?」
「俺親居ない」
「そうか」
早朝から少し過ぎた頃、あたりは活気に溢れだす。
そろそろ冒険者たちが依頼を受けにギルドへ集まりだす頃だろう。
「?騒がしくなってきたな」
「…だな、ん?ギルマスもが降りてきやがったぞ」
「マジだ、何かあったのか?」
誰かが騒ぎでも起こしたのだろうか。
通りの方で人集りができており、ギルマスがそっちの方へ走っていき、姿が見えなくなる。
「いまなら行けるんじゃね?」
「おう!行ってくる!」
小走りで人集りの中へ入っていく。
「ぬぉっ!?」
「いでっ、すまん!」
辺りが騒がしい、何故か魔法の音も聞こえる。
だがそんなのどうでもいい、俺の明日の暮らしのために。
「うぉぉおあぁあ!!ギルマスゥゥゥ!!ぐえぇぇ!?」
「え、ちょあぁぁ!!?」
「なぁ!?」
人混みから勢いよくはじき出されたと思った瞬間強い衝撃が俺を襲い、そのままの勢いで俺は弾き飛ばされ干し草に突っ込んだ。
「き、君!大丈夫か!?」
金髪の女、ギルドマスターのヘルタが駆け寄ってくる。
「うぇ、口に草が入った…ぺっぺっ…っと!ギルマス!よ、用があるんだ!話をー」
「貴様!神聖な決闘中に乱入するとは何事だ!」
「うるせぇー!!」
「ぐえっ!?」
時は一刻を争う。決闘とか知らぬ、存ぜぬ省みぬ。
もう1人の冒険者風の男をぶん殴ると再びヘルタに話しかける。
「お、俺がルード・フィゼルだって証明書を出してくれ…!!」
「は、はぁ……ぇ、…と、とりあえず私の執務室に行くとしよう。来たまえ」
「わかった」
俺はそう言うとギルマスの後に続きギルドへと入っていった。
「お、おい。あの嬢ちゃんギルマスが苦戦する相手を一撃でやりやがった…」
「すっげぇ可愛かったな…」
「いい匂いしたな…」
野次馬の冒険者たちが頷く。
「ルードがどうとか言ってたけど…もしや草むしりの妹か?」
「確かにどことなく似てたしあいつも白髪だったな…今度紹介して貰うか」
「そうしよう」
「でも角生えたぞ?」
「異父兄妹なんだろ、しらんけど」
◆◆◆
「……えぇぇぇぇえええ!!??」
「な?本物だろ?」
「まさかルード君が淫魔に…こんなことが…」
俺は事の顛末をヘルタに全て話し尽くした。
最初は懐疑的だった眼も魔法を使った瞬間驚愕のものへと変わっていった。
「……はぁ…すぐ手配させるよ」
「いよっしゃぁ…!」
「私の初恋…」
「?」
「な、なんでもないさ。さて、これからどうするんだい?」
「ん?今までと同じように依頼でも受けるさ、俺はお世辞にも強いって言えねぇし。草むしりしたり雑用したりして契約中は過ごすさ」
「…まぁ、君がそれでいいならそれでいいよ…はぁ…」
ため息を着くギルマスを後に俺は部屋を出る。
向かうはそう。カークの元だ。
「お、帰ってきたな。それで?どうだったよ」
「おう、なんとかな。直ぐに手配してくれるとよ。さぁて、俺は更新まで待つかな」
「そうか、じゃあ俺は今日の依頼受けてくるわ。」
「おう、助けてくれてありがとな」
「いいってことよ。じゃ」
◆◆◆
あれから1時間ほどで手続きも終わり、いつも通りの日常が……まぁ戻ってくるわけがないのだが。
さっきからものすごい冒険者たちに話しかけられる。
やれうちのパーティに入らないか、やれ一緒に食事しないか、やれ一夜を共にしないか。
最後のやつはビンタしておいた。何故か嬉しそうにしていたのは不気味だったな…
やはりこの見た目は俺から見ても他の男から見てもカークの言う通り極上品らしい。
美少女ならともかく野郎にモテても嬉しくは無い。
「はぁ…悩んでても仕方ねぇか。よし草抜くぞ」
俺はいつも通り草が生えて景観が悪くなっている街の花壇から草を抜く。
薬草取りや家事代行と同じくらい誰も取りたがらない依頼故に俺は仕事に困ったことがない。
それなりに賃金が低いのに目をつぶれば安定した職と言えるだろう。
「…ふぅ、暑っついなぁ。んく…はぁ」
夏真っ盛り。腰に下げた水筒から水分補給をし、服の裾で汗を拭う。
借りたあんな上等な服を汚すのは忍びないし、こういう外作業には汗を吸ってくれる服が1番だ。
持ってて良かった3着1500Gの服。サイズが少し大きいのに目をつぶれば十分だ。
草を無心で抜きまくる中俺はあることに気がつく。
(そういや俺風呂入ってねぇな…)
バタバタしてて入る暇がなかったといえばそれだけだ。
少し嗅いでみても特にキツイ匂いはしなかった。
「…っと、少し休憩」
草の入ったカゴを置き、気の木陰に座る。
草むしりは重労働だ。こまめな休憩は必須だろう。
青い空、青々とした木々、ギルドから出発する冒険者達の声。
平和だ。
俺自身強いとは全く言えない。冒険者的にいえば底辺の実力だろう。だからこそ最初の頃からずっと草むしりをしてきたわけだが。
「それでこれって…神様も酷いことするなぁ」
親の顔は知らない。俺を育てた爺さんは俺が赤子だった頃に森で拾ったらしい。
それで爺さんが死んでからも必死に生きて童貞卒業を目指して冒険者になり、数年かけて金を貯めついに童貞卒業といったところでこんなことになってしまった。
神様なんてものがいるなら一発ぶん殴ってやりたい。
「…さっさと終わらせるか…」
そして俺は草むしりを再開した。
「えっ、今後草むしりは控えてくれ…?」
「済まない…街の者や男性冒険者がそっちばかり見て目に毒だと女性冒険者や他のもの達から苦情が来てな…」
「……」
やっぱり神様なんて居ない。いつかぶん殴ってやる…
俺はそう決心し大衆浴場へ向かった。
次はお風呂ですね