万年底辺冒険者ポンコツ淫魔になる 作:ミスリル加工されたワカメ
「え、壁の外に出てみないか…だって?」
「はい、今の時期は魔物の数自体は少ないですし」
宿舎から出て早々、ギルドで仕事を探しに来た俺に眼鏡でおさげの受付嬢のエリーに呼び出されそのようなことを提案されていた。
エリーは俺がルードだと証明しに行った日に俺が泣きついていた受付嬢で、今は時折良い条件の仕事を提供してくれる受付嬢なのだが。
「うーん、でも家事代行が…」
「その…申し上げずらいのですが…家事代行で派遣を依頼依頼された市民の方々から苦情が来てしまいまして…」
「えっ…」
少し前にも同じようなことがあった気がするが…気のせいだろう。うん、きっとちょっとしたミスだろう…。ミスだよな…?
「そ、その理由を…聞かせて貰っても…?」
「はい…その…奥方からの苦情が全てでして…」
苦情の内容はこうだ。『うちの旦那が淫魔の方ばかり見てて仕事がままならない』『家事は全て完璧にこなしてくれたけど旦那がそちらばかり見ている』『作ってくれた料理はとても美味しかったがその日から旦那が私の料理になにか言いたげだ』『美人すぎる、このままでは私はおかしくなる』…との事だ。
「家事に関しては非常に評価が高いのですが…」
「てことは…」
「はい…冒険者ギルドから提供出来る壁内の仕事はありません…すみません…冒険者を通さない仕事ですと…酒場での配膳や看板持ちくらいでして…」
「ぐっ…なんて事だ…」
遅かれ早かれこうなる事はわかっていたがこうも早いとは。
俺にとって草むしりも家事代行も俺にとっては安定したいい仕事だった…なのだが。どうもこの身体は男の目を過剰なまでに引いてしまうらしい。男なら誰だってそうする。俺もそうする。
「壁外での仕事となりますと薬草の採取なども有りますし…どうでしょうか?」
「最近は外壁に出てなかったからなぁ。うーん…魔物が少ないってんなら…と言っても周辺は採り尽くされてるだろうし…うーむ…」
正直なところ金には困っていない…むしろ有り余ってるほどなのだが…今後なにかあった時ように残しておきたいし、酒でパーッと使うのは昨日が初めてだったが…昨日俺どうやって帰ってきたんだ?カークと酒を飲み始めてからの記憶が無い…まぁいいか。
「…よし、受けてみよう…」
「それは良かったです。では比較的近くで見られる薬草に絞りますね」
「助かる…」
自堕落な生活を続けていれば金が無くなった後が大変だろうし、楽で安全な仕事ばかりやってた俺に新たな仕事の開拓にも繋がるだろう。
「いつもの布服よし!水筒よし!手ぬぐいよし!携帯食よし!納品用の袋よし!緊急用のナイフよし!行くぞぉー!!」
正午の鐘の音が鳴る。
壁の周囲は野原が広がり、鳥が囀り、冒険者がスライムをメイスで殴っていた。うん、いつもの壁外だ。
「さぁて…今日の薬草は…いつものだな」
見本の書いてある紙を開く。
二股に別れた葉の薬草レクぺ草は傷を治す応急処置ポーションなどの素材になる基本的な草だ。
基本的に木の下などの植物の近くに生えていることが多い。
「お、みっけた」
ひとつで大体10Gくらい。それなりに量が群生していることもありまぁ安いが俺みたいな底辺が壁外で稼ぐならこれが関の山だろう。
薬草を抜き…薬草を抜き…薬草を抜き…延々と続ける。
あれ?壁内での草抜きとあんまり変わらないような…。
いや、外だ…うん、外は危険だからな。うん。
別のことを考えよう…そういや今朝のオーナーはなんかよそよそしかったな。どうしたんだろうか。
「ここは粗方採り終えたかな。さて…この数なら400Gくらいかなぁ、まだまだだな…ん?」
見知らぬ金髪の冒険者が近づいてくる。
何処かで見た事があるような無いような…。
やっぱり無いな。
「こんにちわ〜なんか足りないものでも?」
冒険者は助け合い…というよりなにか足りてない様なら少し分け与えるのは俺の自分ルールだ。なりたてのまだ実力も分からなかったガキの俺に色々分けてくれた冒険者のおっさんやお姉さま方には散々世話になった故、まぁ自己満足に過ぎないが。
「貴様だな?あの時神聖な決闘に水を指し…あまつさえ私の顔を殴ったのは…」
「…???」
突然何だろうか、身に覚えも無ければ顔も…よく覚えていない…。
「はて…なんのことやら…」
「シラを切る気か!!」
「いやいや、ほんとに知らないって…」
ココ最近なにか因縁を付けられるようなことはしてない…というよりする暇が無かった筈だが…。
「ん?おーい。ルードどうしたんだよ」
「あ、カーク!!知らない奴に今絡まれててよ」
「なぁ!?貴様…私を知らないだと!?」
重そうな槍を背負った皮の軽量鎧に身を包んだカークが走ってくる。どうやらカークも仕事で壁外に出てきたらしい。
「うーむ。確かに…誰だ…?お前さん」
「ほう…いい度胸だ…」
「うおっ!?てめぇ…!武器抜きやがったな!」
「ひっ…ちょ、落ち着けって!」
金髪の男は細身の剣を抜き、それをすぐさま察知したカークは槍を向ける。俺は…勿論すぐにカークの後ろに隠れた。
よく見れば高そうな鎧と剣には宝飾が施されている。
「私の名はアルバート・エルシア!!」
「げぇ!!決闘厨の貴族じゃねぇか!」
「知ってるのかカーク!」
「色んな相手に決闘を仕掛けるバカ貴族だよ!」
「貴様ァ!!私を愚弄するかぁ!!」
細身の剣をアルバートは振るい。それをカークは槍を回転させ受け流す。
「ほう…そこの男…少しはやるようだな…」
「バッカ!!どこまでバカ貴族なんだよ!?おいルード!衛兵連れてこい!」
「わ、わかった」
「貴様、逃がさん!!!フレアショット!!」
「うおおお!?森の中で炎魔術使うバカがいるか!!!不味い!相殺し損ねた!!避けろ!ルード!!」
「ひぃ…ひぃ…へ?」
重い槍を器用に振るい、飛び出した火球を叩き落とす様に相殺するカークだったが、ひとつ落とし損ねてしまう。
それは森を抜け出そうとするルードへ向かっていく。
そしてそれはルードの背中に直撃した。
「る、ルード!!!」
「ハハハ!あの時の雪辱晴らさせてもらゴッッ」
アルバートのそれなりに整った顔面に槍の柄が直撃する。
カークがアルバートを槍の柄で殴りつけるとすぐにルードの元へ向かう。
「だ、大丈夫か!!」
「あのやろう…」
すぐさま駆けつけ起き上がらせようとするがルードは立ち上がる…半裸で…。
「ぐっ…貴様…!私の頬をぶったのか…!!父上にしかぶたれた事は無いのに…!!」
フレアショットの直撃はルードの服を焼け焦げさせ、一瞬にして焼き尽くしたようだ幸い火力が低かったのか肌には傷1つ着いていないが…ルードは手に石を握り込み、それを投げた。
「俺の…俺の1着500Gの服を…!!!」
「おごッッッッ…!!??」
「おう…」
渾身の叫びは足を捻り、石は高速で射出され、それは吸い込まれるようにアルバートの股間へ直撃し、アルバートは内股になり倒れ込んだ。
「…はぁ…服が消えた…」
「あー…なんだ。俺の雨合羽使え」
「はぁ…助かる…」
カークは俺に雨合羽を着せると、アルバートを縛り上げる。
縛り上げたアルバートを衛兵に引き渡すと俺は一度宿舎に戻った。
「あれ?ルードさん、おかえりなさい…ってその服どうしたんですか!」
「どっかのバカ貴族に燃やされた…あれ?俺の服…」
「先日相当酷い汚れが出来たとかで捨ててませんでしたっけ?」
「あ…」
完全に頭から抜けていた。さっさと服を買いに行けばこんなことには…。
内心、俺はそう思いながら途方に暮れていた。
少し長いと感じたので少し終わりが中途半端です。許してヒヤシンス