リムル達が会議をする同時刻。
森の中。
茂みからスライムの街を眺める三つの影。
イルゼ。
グラビオ。
そしてもう一人。
黒いローブを羽織った青年。
イルゼがため息をつく。
「紹介する」
「今日から監視任務に加わる新入りだ」
青年が一歩前へ出る。
眼鏡を指で上げる。
「初めまして黒指所属の宇京です」
深々と頭を下げる。
「よろしくお願いします」
イルゼが頷く。
「まぁ見ての通り堅い奴だが腕は確かだ」
「いい質問ですねぇ」
「何も質問してねえよ」
「今の”堅い”って表現」
「私それ地雷なんですよね」
「は?」
「堅物キャラ扱いされるの苦手なんです」
「なので今すぐ自衛してください」
「お気持ちモンスターかよお前は!!」
「ちなみに本名はヴィクトル・アレクサンドル=フランソワ・ド・オーレパルトです」
「長ぇ」
「フランスパン一本分くらいあるぞ」
「縮めて宇京、と呼んでください」
「このくだりなんだったんだ」
初手からこの宇京という新人、面倒臭かった。
グラビオが眼鏡を押し上げる。
「眼鏡キャラが早くも被ってますね」
「お前とのキャラ被りとか知らねえよ」
「ところで宇京さんは好みの作品はあるのですか?」
「ええ、色々ありますよ。ですが」
「精神的BL以外は基本地雷ですね」
「なにそれ」
「肉体関係になるとBLの解釈違いです」
「なんなんだこいつ」
「なので今すぐ自衛してください」
「だから何からだよ!」
イルゼが小声でグラビオに言う。
「こいつ配属初日に同じ黒指のメンバー十五人ブロックした」
「SNSのプロすぎません?」
「赤いきつねと緑のたぬきのカップリングとかいう地雷踏まれたので」
「地獄耳すぎる」
「私の前では全て自衛してください」
「お前が一番自衛してねぇ!!」
⸻
三人は街を見る。
憎きあのスライムがいる国。
魔物の住民達が笑っている。
会議のブレスケアを配り終わって暇していたフェラリルが入口でブレスケアを配る。
「今週は口臭ゼロ週間だぞ!」
イルゼが呆れる。
「何なんだあの国」
グラビオも腕を組む。
「やはり低俗ですね」
「芸術性がない。もっと華のある国の方がいい」
イルゼが横を見る。
グラビオが読んでいた本。
『全て分かる異世界エロエルフ大全521ページ』
「お前その本しまえ説得力無くなるから」
「これは人生のバイブルですよ」
「人生あっさ」
宇京はじっと街を見ていた。
「……」
「いい質問ですねぇ」
「誰もしてねぇ」
「フェラリル×ブレスケア」
「解釈違いですね」
「無機物まで精神的BL対象なの?」
「正しくはブレスケア×フェラリルです」
「知らねぇぇぇぇ!!」
イルゼが頭を抱える。
「また始まったよ」
宇京は至って真剣だった。
「左右固定なんですよ。私」
「だからそれ地雷です。そして自衛してください」
「その概念から自衛したいわ!!」
その頃街ではフェラリルが門の外から街の中に戻っていた。
「ブレスケア補充だ!これで余の口内環境がまた1歩王になる」
宇京は震えていた。
「今ので確定しました」
「何が?」
「先程のカップリング、公式ですね」
「違う違う違う」
グラビオが街を見ながら言う。
「宇京さん。貴方にも好きな本はありますか?」
「ええ、当然」
横からイルゼが突っ込む。
「いい質問ですねぇって言えよそこは」
「なるほど、タイトルは?」
やれやれ、と言った感じで宇京は自慢げに自分の本のタイトルを見せてきた。
「とても都合のいいオナホ先輩と種付けおじさんの配信に入り込んだら霧隠れの狂人扱いされたオネショタ雷十太」
「ふざけてんのか?」
「私の愛読書、高貴ですよね」
グラビオは珍しく怒りで顔が震えていた。
「どうしようイルゼ私こいつ殴りたい」
「我慢しよう僕も殴りたいけど我慢してる」
ポケットから宇京はメモ帳をイルゼとグラビオに見せた。
「私、実は小説も書いているんですよ」
『転生したら亡国の王様になった洗脳されたケン』
「面白そうでしょう。あ、面白そう以外の言葉は全て地雷なので悪しからず」
「うっざこいつ」
フェラリルも気づけば会議へ戻っていた。
その頃、街の中心が急にざわめき始める。
グラビオが目を細めた。
「私の千里眼で見えました」
「何が」
「国名が先程決まったらしいですよ」
「へぇ、なんて名だい?」
「チンポリス」
「……」
イルゼが空を見た。
「帰るか」
「いや」
宇京が首を横に振る。
「それ私地雷なんですよね」
「お前地雷しかねーじゃねーか」
「国名に下ネタを入れる作品、低俗です」
「じゃあ帰るか」
「でも一周まわって逆に好きですチンポリス」
「どっちなんだよ!!」
「複雑なんですよ地雷への道は」
「お前が1番自衛しろよ!!」
イルゼは深いため息をつく。
「配属初日でこれか……」
グラビオも頷く。
「同僚の本を低俗、とまでは言いませんがお気持ちモンスターなのは厄介ですね」
宇京は首を傾げた。
「いい質問ですねぇ」
「無敵かよお前」
「私もそう思います」
「会話成立しねぇ」
⸻
その瞬間。
街の方から聞こえてくる声。
「ギャラクシースプラァァァァッシュ!!」
ドゴォォォォン!!
森まで衝撃が届く。
三人は街を見る。
スライムが門の外にいつの間にか立っていた。
あと1mズレていたら直撃していた。
沈黙。
「お前らさっきから魔力感知でバレバレなんだよ変態レビュアーズ共」
イルゼは冷や汗が止まらない。
「……今日はここまでにしとこう」
グラビオもトラウマが想起される。
「やはり低俗ですね早く逃げましょう」
宇京。
「今のってギャラクシースプラッシュ×スライムの肉体的BLですよね低評価押しときました」
イルゼとグラビオは同時に叫んで走った。
「「もう黙れ!!」」
つづく……