ブルムンド王国。
夕方。
カバル達三人はギルドの扉を押し開けた。
ギィ……
受付嬢が顔を上げる。
「あっ」
「カバルさん達」
「依頼お疲れ様です」
カバルは疲れ切った顔で笑う。
「あぁ……色々あった」
ギドは荷物を降ろす。
「にょほぉ……50回は漏れた旅にょ……」
エレンも苦笑する。
「乳頭宮殿なんて人生初めてでした」
受付嬢は書類を広げる。
「それで」
「シズ様は?」
三人の空気が止まる。
静寂。
カバルはゆっくり首を振った。
「……亡くなった」
ギルド内が静まり返る。
冒険者達が各々呟く。
「あのシズさんが?」
「死んだ?」
「俺好きだったのに」
「地上げの英雄が…」
カバルが続ける。
「最後は」
「リムルっていうスライムに看取られた」
空気が凍る。
「え……」
「嘘だろ……」
「スライムローションプレイかよ」
「俺好きだったのに……」
エレンが静かに続ける。
「最後は笑っていました」
ギドが鼻をすすった。
「にょ……」
ギルド中へ衝撃が走る。
しかし。
噂というものは。
必ず形を変える。
翌日。
酒場。
「聞いたか?」
「シズさん魔物に食われたらしい」
「え?」
「しかも喋る上に精液飛ばすスライム」
「怖っ」
商人。
「シズさんという英雄を喰ったスライムがいる」
「名前はリムル」
「本名はリムル・左近司・スカトローナ」
さらに翌日。
旅人。
「シズを殺した魔王級スライム」
「しかも乳首が敏感で陰茎を喰らう」
噂は。
尾ひれ。
胸びれ。
尻びれ。
全部ついた。
噂は瞬く間に世界へ広がっていった。
⸻
イングラシア王国。
自由組合本部。
職員が慌ただしく走る。
「英雄シズ様死亡!」
「イフリートの消滅確認されました!」
「至急各国へ共有します!」
紙は。
各国へ飛ぶ。
西へ。
東へ。
そして。
神聖法皇国ルベリオス。
純白の城。
廊下を一人の女騎士が歩いていた。
黒髪。
鋭い瞳。
聖騎士団長。
ヒナタ・サカグチ。
紙を読む。
ヒナタは黙って読む。
静かに。最後まで。
『シズ死亡』
『原因は魔物』
『スライム』
『リムル・左近司・スカトローナ(57歳無職)』
その手が止まる。
紙が。
ぐしゃりと握り潰された。
周囲の空気が凍る。
部下達は誰も声を出せない。
ヒナタは静かだった。
だからこそ怖い。
「……先生」
小さく呟く。
「約束しましたよね」
「また会うと」
静寂。
ヒナタは剣へ手を添える。
「……リムル」
「シズ先生の」
「仇はとらせてもらう」
誰一人。
声を出せなかった。
「誰だよリムル・左近司・スカトローナ……」
最後にヒナタが小声で吐き捨てるように呟いたのを除いて。
⸻
その頃。
とある城。
黄金の玉座。
魔王レオンは静かに頬杖をついていた。
部下が跪く。
「申し上げますッ!」
「申せ」
「ブルムンド王国付近にて」
「精霊イフリートが消失しましたァ!」
「ダニィ!?」
空気が変わる。
「宿主シズ死亡」
「イフリートごと取り込んだのは」
「リムルというスライム」
レオンは目を閉じた。
数秒。
静寂。
その後。
玉座の肘掛けへ指を置く。
ピキッ
黄金が割れた。
「……スライム風情が」
「私の…私だけのイフリートをよくも……」
部下達は震える。
「あ、あのレオン様…?」
「興奮しちゃうじゃないか♥」
「は?」
レオンは立ち上がる。
「NTRとは面白い」
「ならば見てやろうリムルとかいうスライム」
「貴様のその価値を」
魔王は静かに笑った。
「後でNTRビデオレターとか届かないかな」
「ええ…」
だが。
その笑みだけは。
誰よりも恐ろしかった。
⸻
一方その頃。
チンポリス。
地響きが近付く。
ベニマルは刀を抜いた。
「全員」
「配置につけ」
鬼人族が走る。
狼族も散開する。
ゴブリン達も武器を握る。
街の外全体が戦場へ変わる。
俺は城壁へ飛び乗った。
眼下。
森一面。
豚、豚、豚。
「うわぁ……」
「一面先までオークじゃんか」
モリ夫が肩を震わせる。
「旦那ァ!」
「あっし絶対役に立たないんで帰っていいですか」
「ダメ」
「死にやがれぇぇぇぇぇ」
ビーチクは腕を組みながら笑う。
「オークなど所詮数だけだ」
「我に魔眼など無くても雑兵ならば何万いようが結果は同じ」
フェラチオは鼻を五回ほど鳴らした。
「余、今日は百本同時くらい咥えられるなぁ?」
「何をだよ」
「陰茎」
「聞かなきゃよかった」
クラウディは大欠伸をした。
「妾眠い、オークの相手など怠いだけじゃ」
「いやお前ここで働かなかったらいつ働くんだ」
「なんか妾疲れちゃった」
「キモこの四大竜」
リグルドが走ってくる。
「リムル殿!!」
「避難確保致しました!!」
「よし」
「場所は?」
「全員地下です!」
「女子供と私もこれから避難致します!」
「なんで?」
「未来のこの国の王なので死にたくありません」
「戦えよお前も!!」
カイジンが叫ぶ。
「戦争は契約に入ってねえぞォォ!!」
「まぁいいじゃんドワルゴンが戦争の時は俺たちが手伝うよ」
その時。
森の先頭。
オーク将軍が巨大な斧を地面へ突き立てた。
ドゴォン!!
土煙。
オーク軍が止まる。
「覚悟しろハエ共」
その横。
V豚オークがスッと前へ出る。
「開戦前にさぁ!!」
「ちょっとだけ将軍にアンケートいい??」
オーク将軍が心底嫌な顔をする。
「嫌です」
「好きな配信時間帯とかある??」
「ないです」
「雑談枠好き??ゲーム実況派??」
「ほんと勘弁してください」
「あと切り抜き文化について一時間ほど」
ベニマルが終始真顔だった。
「主殿」
「あいつ俺が殺していいですか」
「頼む」
その瞬間。
ガマンダが棍棒でV豚を殴り飛ばした。
ドゴォォォ!!
「またァ!!?まぁ俺、物理プロテクターあるんですけどねぇぇぇぇ!!」
星になる。
ガマンダは棍棒を肩へ担いだ。
「戦争前くらい静かにできないのぉ♡」
「相変わらず味方ってかV豚に厳しいな」
「美学よ♡」
その時だった。
軍勢が。
左右へ割れる。
ザッ……
ザッ……
一本道ができる。
誰も喋らない。
ガマンダ達ですら。
頭を下げた。
ゆっくり。
巨大な影が歩いてくる。
オークロードはゆっくりと一歩踏み出した。
巨体がもう一歩前へ進むたび、大地が低く唸る。
空気が震える。
息が詰まる。
豚頭帝。
オークロード。
その巨体だけで。
森が狭く見えた。
オークロードは街を見上げる。
完成したばかりのチンポリス。
温泉。
城壁。
住民。
乳頭宮殿。
全てを見渡した後。
低く。
重い声で。
ただ一言。
「……お腹空いた」
「は?」
その声だけで。
空気が震えた。
リムルは拳を握る。
「あんなのが敵の親玉かよ」
ベニマルが刀を構える。
ビーチクが黒炎を出しながら笑う。
フェラチオは珍しくニヤけていた。
クラウディもようやく立ち上がった。
そして。
オークロードが。
静かに右手を上げる。
「フードロスには注意して進め」
その一言で。
数万のオーク軍勢が。
大音量の雄叫びと共に。
チンポリスへ雪崩れ込んだ。
こうして。
後に。
『豚戦争』と呼ばれる戦いが。
幕を開けたのである。
つづく……