ミリムの拳が迫る。
速い。
いや。
速いとか、そういう問題じゃない。
目の前から姿が消えたと思った次の瞬間には、もう俺の鼻先まで拳が来ていた。
「友達になるのだ、リムル!」
「その前に街の外へ出ろぉぉぉぉ!!」
俺は咄嗟に身体を液状化した。
拳が顔面を通り抜ける。
助かった。
そう思った瞬間。
拳が通過しただけなのに、背後の門が吹き飛んだ。
ドゴォォォォォォン!!
「門ェェェェェェ!!」
乳首街灯が宙を舞う。
門柱の横に置かれていた『建国の肛門・分家』が、綺麗に真っ二つへ割れた。
「分家が二回死んだ!!」
ビーチクの顔色が変わる。
「下劣スライム!今すぐ街の外へ連れ出せ!」
「今やってるよ!」
「乳首街灯一本につき金貨二百枚だ!」
「いくらなんでも高すぎるだろ!」
「我の手作りだぞ」
「知らねぇよ!」
ミリムが楽しそうに拳を振り回す。
「避けるなリムル!」
「避けなきゃ死ぬだろ!」
「大丈夫なのだ!痛いのは最初だけだ!」
その瞬間、余波だけで街道が裂けた。
「だからそのセリフやめろや!」
俺は身体を丸め、坂道を転がるように門の外へ逃げた。
ミリムも笑いながら追ってくる。
その途中。
巨大な白銀の狼が、道の中央へ立ちはだかった。
「我が主!」
「フェラリル!?」
フェラリルは懐へ前脚を差し入れた。
何を出す気だ。
武器か。
道具か。
あるいはミリムを止める切り札か。
取り出したのはマウスウォッシュだった。
「戦闘前には口内洗浄を!」
「いや今!?」
「王たる者、常に口臭管理を怠ってはならない」
「俺スライムだから別に口臭ないよ!」
「油断は禁物だ」
フェラリルはさらにブレスケアを差し出してくる。
「息の臭い王に威厳などない」
ミリムが俺の後ろから顔を出した。
「一理あるのだ!」
「納得すんな!」
「ワタシにも寄越すのだ!」
「喜んで!」
フェラリルはミリムにもブレスケアを渡した。
二人はその場で噛み始める。
カリッ。
カリッ。
「今戦闘前だよね?」
フェラリルが鋭く俺を見る。
「我が主。戦いとは、互いの誇りを懸けるもの」
「おお」
「故に口臭は重要です」
「感動返せ」
ミリムが満足そうに息を吐いた。
「爽快なのだ!」
「戦う前から爽快になるな!」
俺はその隙にさらに街から距離を取った。
背後を見る。
ベニマル達もついて来ている。
フェラチオは腕を組みながら空を飛び、クラウディは何故かビーチクの背中へ乗っていた。
「妾を運べ」
「何故我が」
「歩くのが面倒じゃ」
「降りろ」
「嫌じゃ」
いつも通りだった。
こいつら本当に危機感ないな。
やがて街から十分に離れた平原へ到着する。
周囲には何もない。
山。
岩。
草原。
壊れて困る建物はない。
「よし!」
俺は振り返った。
「ここなら――」
ミリムが既に目の前にいた。
「遅いのだ!」
拳が振り下ろされる。
俺は反射的に考えた。
まあ、一回死んで動きを覚えれば――
「……」
死んで。
復活して。
次は避ける。
今まで何度もそうしてきた。
なら今回も。
「いや死ねないんだったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
拳が地面へ突き刺さった。
大地がひっくり返る。
俺は爆風に巻き込まれ、遥か上空へ打ち上げられた。
「忘れていたのですか!?」
地上からベニマルが叫ぶ。
「癖なんだよ!三十何話ずっと死んできたんだぞ!」
身体を整えながら着地する。
危なかった。
直撃していないのに全身が震えている。
ミリムは地面に開いた大穴の中央で、楽しそうに笑っていた。
「早く構えるのだ!」
「待て、今考えてる!」
「今の間でショート動画三本は見れたぞ!」
「異世界にショート動画ないだろ!」
「あるのだ!」
「あるの!?」
「倍速再生もできるぞ!」
「ドパガキすぎる!」
ミリムが地面を蹴る。
再び姿が消えた。
見えない。
右か。
左か。
上か。
分からない。
――告、対象は背後です――
「クンニ君!?」
振り向く。
ミリムの拳が腹部へめり込む直前だった。
「遅い!」
ドゴォォォォン!!
俺の身体が大きく歪む。
そのまま何百メートルも吹き飛ばされ、岩山へ叩きつけられた。
岩が崩れる。
全身が痛い。
だが。
生きている。
「クンニ君!」
――告、はい――
「前回に続き久しぶりだな!」
――告、真なる魔王への進化に伴う能力再構築が、先程完了しました――
「今!?」
――肯定――
「もうちょっと早く終わらなかった!?」
――告、魂の構造が大幅に変更されていました――
「俺の中で大規模工事してたの!?」
ミリムが崩れた岩山へ歩いてくる。
「リムル!もう終わりか?」
「終わっとらんわ」
俺は岩を弾き飛ばして立ち上がった。
――告、新規能力の使用が可能です――
「新規能力?」
――固有能力『死界観測』――
――別名『ミエルモノ』――
その瞬間。
世界が止まった。
いや。
止まったように見えた。
俺の視界へ、いくつもの光景が重なっていく。
ミリムの拳を正面から受けて潰れる俺。
右へ避け、蹴りに貫かれる俺。
上空へ逃げ、叩き落とされる俺。
地面へ潜り、地殻ごと吹き飛ばされる俺。
全部。
俺だった。
全部。
死んでいた。
「うわぁぁぁぁぁ!!?」
――告、落ち着いてください――
「無理だろ! 俺が何十人も死んでる!」
――告、観測された未来です――
「未来予知!?」
――否。一瞬先に存在し得る死の可能性を観測しています――
数多の過去を差し出したからこそ。
死を知り尽くしたからこそ。
俺は一瞬だけ、これから訪れる死を見ることができる。
その中に。
一つだけ。
生き残る俺がいた。
「左斜め前!」
俺はミリムへ向かって踏み込んだ。
拳を避けるのではない。
逆に距離を詰める。
ミリムの拳が俺の頬を掠めた。
衝撃で顔の半分が吹き飛ぶ。
それでも、直撃は避けた。
「おおっ!?」
ミリムが初めて驚く。
俺はその懐へ潜り込み、水刃を放った。
「ギャラクシー・スプラッシュ!」
至近距離。
巨大な水刃がミリムを包み込む。
ドゴォォォォォン!!
水柱が天まで上がる。
俺は息を吐いた。
「やったか?」
――告、その発言は敗北フラグです――
「知ってるよ!」
水柱が弾けた。
ミリムが立っている。
服すらほとんど濡れていない。
「効いてない!?」
「少しくすぐったかったのだ!」
「俺の必殺技が羽根で撫でる程度!?」
ミリムは楽しそうに笑った。
「今の目、面白いのだ!」
「俺は全然面白くない!」
「次はもっと速くするぞ!」
「やめろ!」
ミリムの身体から魔力が溢れ出す。
さっきまでとは桁が違う。
空が震える。
地面が沈む。
遠くでフェラリルがブレスケアを噛みながら叫ぶ。
「我が主!次は口を閉じて受け流してください!」
「さっきから口臭対策しかしてないだろお前!」
ミリムが拳を引いた。
死界観測が勝手に起動する。
見えた。
避けても死ぬ。
防いでも死ぬ。
距離を取っても死ぬ。
全部死ぬ。
「詰んでるじゃん!」
――告、回避不能です――
「さらっと言うな!」
――告、再構築された捕食能力の使用を推奨します――
「捕食?」
――既存能力『暴食捕食者』は進化しました――
俺の身体から黒い粘液が溢れ出す。
以前とは違う。
ただ食うための力じゃない。
守るため。
生かすため。
王として。
全てを喰らう力。
――新規能力――
――『王なる者の捕食者』――
――『キングダム・レイパー』――
「名前やっぱ最低だな!?」
ミリムの拳が放たれた。
世界が白く染まる。
俺は両手を広げた。
「喰えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
黒い捕食領域が広がる。
拳そのものは食えない。
ミリムも食えない。
だが。
拳を覆う魔力。
衝撃。
熱。
破壊を成立させる力。
それらが黒い渦へ吸い込まれていく。
ドゴォォォォォォォォン!!
俺の身体が吹き飛ぶ。
地面を何度も跳ね、最後には大の字で倒れた。
空が見える。
雲が流れている。
「生きてる……?」
――告、生存を確認――
「やったぁ……」
身体中が痛い。
半分くらい溶けている。
でも。
死んでいない。
ミリムがゆっくり近づいてくる。
さっきまでの笑顔とは違う。
目を輝かせていた。
「今の、何なのだ?」
「俺も今知った」
「ワタシの力を食ったのか?」
「全部じゃないけどな」
ミリムは一瞬黙った。
そして。
「セクフレみたいで面白いのだ!!」
「どういう感想だよ」
ミリムは大声で笑った。
嫌な予感しかしない。
「もっとやるぞ、リムル!」
「もう対等ってことでよくない?」
「まだショート動画一本分しか戦ってないのだ!」
「時間感覚が終わってる!」
俺は立ち上がる。
死界観測。
王なる者の捕食者。
二つともまだ完全には扱えない。
でも。
今までとは違う。
もう、ただ死んで覚えるだけじゃない。
死なずに。
見て。
考えて。
食って。
生き残る。
真なる魔王となった俺の、最初の戦いだ。
「クンニ君」
――告、なんでしょう――
「二つ同時に使える?」
一瞬だけ沈黙。
――告、成功率十三パーセント――
「低っ!」
――告、実行を推奨します――
「失敗したら?」
――告、死にます――
「もう復活できないんだぞ!?」
――肯定――
ミリムが拳を構える。
楽しそうに。
無邪気に。
世界を壊せる力を込めながら。
「行くのだ、リムル!」
俺も構えた。
「来い!」
死界観測が未来を映す。
王なる者の捕食者が黒く蠢く。
その二つが。
一瞬だけ。
俺の中で繋がった。
――告、複合運用を開始します――
「ぶっつけ本番かよぉぉぉぉぉぉ!!」
ミリムが消えた。
同時に。
俺の視界へ、無数の死が流れ込んでくる。
正面から殴られて死ぬ俺。
アムウェイに殴られて死ぬ俺。
上空へ逃げて撃ち落とされる俺。
プテラノドンに食われて死ぬ俺。
地面へ潜って大地ごと砕かれる俺。
捕食領域を広げすぎて、自分の身体まで崩壊する俺。
「全部駄目じゃねぇか!」
――否、生存可能性を一件確認――
「どれ!?」
視界の隅。
ほんの一瞬。
ミリムの拳が俺へ届く直前、その魔力だけを細い線のように喰い取る未来が見えた。
避けない。
防がない。
正面から受ける。
ただし、破壊が完成する一瞬前に。
死ぬ原因だけを喰う。
「そんな器用なことできる!?」
――告、今から試します――
「頼もしさゼロ!」
目の前にミリムが現れた。
拳が迫る。
俺は死界観測で見えた未来へ身体を重ねる。
半歩。
右。
捕食領域を一点だけへ集める。
「王なる者の捕食者ァァァァァ!!」
黒い渦が、ミリムの拳へ絡みついた。
拳を喰うんじゃない。
ミリムを喰うんでもない。
その一撃が俺を殺す未来。
そこへ至るまでの魔力だけを。
「いただきまんこォォォォォォォ!!」
「うおおおおおおおなのだ!!」
拳と黒い渦が衝突した。
ドゴォォォォォォォォォォン!!!!
平原が沈んだ。
衝撃が輪になって広がり、遠くの山肌がまとめて吹き飛ぶ。
フェラリルの毛が逆立った。
「我が主ィィィィ!!今すぐ口を閉じろおおおおおお!!」
「まだ口臭の心配してんの!?」
ビーチクが地面へ爪を立てる。
「街道まで敏感乳首亀裂が伸びたぞ!」
「意味わからん報告すんな!」
クラウディはビーチクの背中へしがみついたまま、半目でこちらを見ていた。
「妾専用温泉は?」
「無事です!」
ベニマルが叫ぶ。
「ならよい」
「俺の心配もしろよ」
黒い渦が弾けた。
俺は後方へ吹き飛ばされる。
だが今度は、身体が砕けていない。
地面へ足を突き立てる。
数十メートル滑った末、何とか止まった。
「止まった……!」
――告、複合運用に成功しました――
「十三パーセント引いたぁぁぁぁ!!」
向こうではミリムも立っていた。
当然のように無傷。
ただし。
拳を構えたまま、数歩だけ後ろへ下がっている。
ミリムが自分の足元を見る。
「ワタシが……下がった?」
「マジか」
効いてはいない。
傷もない。
けれど。
最強クラスの魔王を、初めて後退させた。
フェラチオが腕を組んだまま、僅かに口元を上げる。
「ほう」
それだけだった。
だが、こいつが戦闘中に陰茎以外に反応するのは珍しい。
ビーチクも砕けた地面を見ながら呟く。
「ようやく王らしい貪り方を覚えたか」
「褒めるならこっち見ろよ!」
ミリムはしばらく黙っていた。
そして。
顔を上げた。
満面の笑みだった。
「面白いのだ!!」
嫌な予感がした。
ミリムの魔力が再び膨れ上がる。
さっきより大きい。
空が黒く染まる。
大地が震える。
「ちょっと待て!」
「今のは良かったぞ、リムル!」
「じゃあもう終わりでいいだろ!」
「次はもっと強くするのだ!」
「何で!?」
「気持ちよかったからなのだ!」
「変態じゃねえか!」
ミリムは両拳を構えた。
今までとは明らかに違う。
遊びの範囲を越えようとしている。
クンニ君の声が響く。
――超警告――
――対象魔力、さらに上昇――
――次撃の完全捕食は不可能です――
「急に詰んだ?」
――告、回避も不可能です――
「未来予知の意味なくねえか」
ミリムが笑う。
純粋だった。
悪意も。
殺意も。
何もない。
ただ、もっと遊びたい。
それだけで世界を壊せる。
「行くぞ、リムル!」
「待てぇぇぇぇ!!」
その時。
ミリムの背後から、白銀の尻尾が伸びた。
ベシッ。
ミリムの後頭部を軽く叩く。
「痛いのだ!」
フェラチオだった。
「そこまでだ」
ミリムが振り返る。
「何故止める!」
「リムルの勝ちだ」
「は?」
俺もミリムも同時に固まった。
「いや俺勝ってないけど」
フェラチオは俺を無視する。
「貴様は対等か確かめると言った」
「ああ!」
「リムルは貴様の拳を受け、生き残り、さらに後退させた」
ミリムが口を尖らせる。
「だがワタシはまだ本気では――」
「本気を出さねば対等と認められぬなら、最初から遊びではない」
空気が静かになった。
珍しくまともなことを言っている。
俺はフェラチオを見る。
「お前……」
「何だ」
「普通に喋れるんだ」
「殺すぞ」
ミリムは拳を下ろした。
少しだけ不満そうだったが、すぐに俺を見る。
「リムル」
「何?」
「ワタシの拳を食ったな!」
「一部だけな」
「未来も見ていた!」
「まあ、一瞬だけ」
「しかも壊れなかった!」
「半分くらい溶けたけど」
ミリムは勢いよく笑った。
「合格なのだ!」
「何の試験!?」
「今日からリムルは、ワタシの親友だ!」
「外交相手から親友まで早すぎる!」
ミリムがこちらへ飛び込んでくる。
俺は反射的に身構えた。
「まだ殴るの!?」
「違うのだ!」
そのまま抱きつかれた。
勢いが強すぎて、俺の身体がまた地面を転がる。
「結局痛ぇぇぇぇ!!」
「親友なのだ!」
「友情表現が全部物理!」
ミリムは俺を抱えたまま笑っている。
悪意はない。
ただ、力加減を知らないだけだ。
最強だから。
今まで壊れない相手がほとんどいなかったから。
俺を見て、こんなに楽しそうに笑っている。
……まあ。
悪い奴ではないんだろう。
多分。
「じゃあ、本当に同盟でいいんだな?」
「同盟?」
ミリムが首を傾げる。
「国同士で仲良くするって話だよ!」
「もちろんだ!」
「ちゃんと条約とか決めるからな?」
「分かったのだ!」
「本当に分かった?」
「巨大乳首展望台の出資額を決めるのだ!」
「そっちは忘れろ!!」
ビーチクがすぐに設計図を広げた。
「資材費、工賃、観光収益を考慮すれば――」
「話を進めるな!」
ミリムは設計図へ駆け寄る。
「乳頭ロケットは何人乗りなのだ?」
「現在は六人を想定している」
「百人にするのだ!」
「大型化が必要だな」
「国家予算を巻き込むんじゃねぇぇぇぇ!!」
こうして。
チンポリスと『忘れられたオナホの国』の友好関係が成立した。
正式な条約も。
外交文書も。
国境の確認もしていない。
先に殴り合い。
次に親友認定。
最後に巨大乳首展望台への共同出資。
外交として正しいかは分からない。
多分、絶対に間違っている。
だが。
初めて戦った魔王は、俺の新しい力を認めてくれた。
死界観測。
王なる者の捕食者。
まだ使いこなせてはいない。
それでも。
もう俺は、死ぬことを前提に戦わなくていい。
死なずに未来を見て。
守るべきものを守るために喰う。
真なる魔王となった俺の戦い方は、ここから始まる。
「我が主!」
フェラリルが駆け寄ってくる。
「見事な勝利でした!」
「勝ってないけどな」
フェラリルは懐から何かを取り出した。
ゴブリンのエロ本だった。
「戦闘後の自分へのご褒美もお忘れなく」
「俺をなんだと思ってんの?」
ミリムが横から覗く。
「親友の勝利祝いなのだ!」
「お前も見るんかい!」
破壊された山。
沈んだ大地。
街道まで続く亀裂。
その中央で。
チンポリスの初外交は、無事成功した。
ミリムが胸を張る。
「これでリムルはワタシの親友なのだ!」
「勝手に親友認定された……」
「だから次はワルプルギスへ行くぞ!」
「……何それ」
ベニマルの表情が変わる。
「まさか……」
「知ってるのか?」
「先代の鬼人族の王から聞いたことがあります。魔王達による最高会議です」
「最高会議?」
ミリムが勢いよく頷く。
「うむ!」
「お前はもう真なる魔王なのだ!」
「なら世界中の魔王へ顔を見せる義務がある!」
「いや急に義務とか言われても」
「安心するのだ!」
「ワタシが認める!」
「それだけで通るの?」
「通る!」
「雑だなぁ!」
ミリムは指を一本立てた。
「魔王三人の承認があれば、お前も正式な魔王なのだ!」
「三人?」
「ワタシと」
「うん」
「あと二人!」
「そこが一番難しいんだよ!」
ビーチクが設計図から顔を上げた。
「承認は我では駄目か」
「お前魔王じゃないだろ」
「 乳 首 大 公 だ 」
「やめろよその空白」
「魔王より上だ」
「何を基準に!?」
ベニマルが腕を組む。
「ですが……」
「主殿が真なる魔王となった以上、避けては通れぬ道でしょう」
「そんな大事なイベントなの?」
「世界中の魔王が集まります」
「胃が痛くなってきた」
ミリムは俺の肩を叩いた。
「大丈夫なのだ!」
「ギィもいる!」
「その人優しい?」
「エロい!」
「カスみたいな情報」
俺は頭を抱えた。
魔王。
会議。
世界中の化け物。
絶対ろくでもない。
「従者も一人連れて来るのだ!」
「従者?」
俺は街の方を見る。
ベニマル。
……いや。
観光客も増えてきた。
街を任せるなら。
「ディア風呂」
少し離れた場所で営業スマイルを浮かべていたディア風呂が一礼する。
「はい」
「一緒に来てくれるか?」
「風呂場があるなら喜んで」
「ねえよ」
ベニマルが僅かに眉を動かした。
「……私では、ないのですね」
「お前には街を任せたいんだよ。最近は外から来る奴も増えてるし、俺がいない間に何かあったら困る」
「……なるほど」
ベニマルは少しだけ悔しそうに目を伏せた。
それでも、すぐにいつもの表情へ戻る。
「必ず、お守りします」
俺はもう一度空を見上げる。
魔王達の会議。
ワルプルギス。
また面倒事が増えそうだ。
そんなことを考えていると。
隣でディア風呂が静かに口を開いた。
「『魔王の会議』とは……」
俺は振り向く。
ディア風呂はいつもの完璧な営業スマイルのまま、ゆっくり頷いた。
「それは精子、垂らしてますね」
「何一つ分からねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
つづく……