※この作品はR-18です。

精子垂らす   作:超絶ゆるふわ乙女

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第59話|イングラシア観光!!初心者にアナコンダ丸呑み風俗を薦めるな!!

 

「じゃあ俺達、先に宿を探してるわ」

 

自由組合の応接室を出る前に、俺はパトリシアへそう声をかけた。

 

ユウキは、昔の傭兵団について少し確認したいことがあるらしい。パトリシアも「すぐに参ります」と頷いていたし、別に急ぐ話でもない。

 

モリ夫は既に窓の外を眺めながら、どこの宿が安そうかを見定めている。

 

ディア風呂は、もっと別の基準で街を眺めていた。

 

「では、浴場のある宿から確認いたしましょう」

 

「一番先にそこを確認するの?」

 

「旅の疲れを癒やすことは、明日の活力に繋がりますので」

 

「まともなこと言ってるけど、絶対温泉目当てだよな」

 

パトリシアは少しだけ迷うように、俺達とユウキを見比べた。

 

「……はい。後ほど、合流いたします」

 

「分かった。腹減ったら連絡して」

 

俺達が部屋を出ると、扉は静かに閉まった。

 

その音が消えてから。

 

ユウキは、さっきまでと変わらない気軽な口調で言った。

 

「で、どうだった? チンポリス」

 

パトリシアは立ったまま、返事をしなかった。

 

窓の外には、自由組合の利用者達が行き交っている。依頼書を抱えた冒険者。仕事を終えたらしい職人。受付で返金を求めて怒鳴っている男。

 

いつも通りの組合の風景だった。

 

それなのに、この部屋だけ少し静かだった。

 

「……とても危険な国には、見えませんでした」

 

やがてパトリシアは、ゆっくり答えた。

 

「魔物の国であることは間違いありません。ですが、住民の皆様は友好的でした。人間へ無差別に危害を加えるような方々でもありません」

 

「へえ」

 

ユウキは机の上の書類を一枚めくった。

 

「警備体制は、少し過剰でしたが」

 

「少し?」

 

「犯罪者への初動は、非常に速いです」

 

「それは良いことじゃない?」

 

パトリシアは、少しだけ視線を伏せる。

 

「……地面へ沈める頻度を除けば」

 

「何それ」

 

「いえ。警備責任者候補として、私も努力いたします」

 

真面目な顔で言われて、ユウキは小さく笑った。

 

「じゃあ、好きになった?」

 

「……はい?」

 

「チンポリス」

 

突然の質問に、パトリシアは言葉を失った。

 

戦争の後で、皆が街を直していたこと。

 

新人歓迎会だと言って、朝五時から待たされ、乳首の刺繍入り制服を渡されかけたこと。

 

自分が暴れる度に困った顔で止めながら、それでも皆が仕事を任せようとしてくれたこと。

 

思い出すものが多すぎて、すぐには否定できなかった。

 

「私は、報告のために――」

 

「うん」

 

「……ですが」

 

ユウキは返事を急かさない。

 

追い詰められた人が、答えを探す時間を見るのが好きだと言っていた。その言葉が、今になって少しだけ引っかかった。

 

「嫌いでは、ありません」

 

パトリシアは正直に答えた。

 

「皆様は騒がしくて、危なっかしくて……ですが、優しい方々でした」

 

「そっか」

 

ユウキは、どこか楽しそうに頷いた。

 

「それが聞きたかった」

 

「何がですか?」

 

「別に」

 

答えずに、ユウキは部屋の奥へ目を向けた。

 

「じゃあ、エルシアさんはどう思う?」

 

パトリシアは首を傾げた。

 

部屋にはユウキと自分しかいない。

 

そう思っていた。

 

「私は、少し違う意見ですね」

 

背後から聞こえた穏やかな声に、パトリシアの肩が跳ねた。

 

振り返る。

 

いつからそこにいたのか分からない。

 

白と金を基調にした聖衣。長い銀髪。柔らかな笑顔。

 

聖女エルシアが、壁際に立っていた。

 

「……エルシア様」

 

パトリシアは反射的に杖を握る。

 

エルシアは、その仕草を見ても笑顔を崩さなかった。

 

「お久しぶりです、パイズリッドさん」

 

「なぜ、ここに……」

 

「お仕事の相談です」

 

「誰と?」

 

「彼と」

 

ユウキが軽く手を挙げる。

 

その返事で、パトリシアの表情がさらに固くなった。

 

ユウキとエルシア。

 

この二人が、こんな場所で会っている。

 

それだけで、知らなかったことが多すぎると分かった。

 

エルシアは窓の外を見ながら、ゆっくりと言った。

 

「チンポリスは、今は危険な国ではないのでしょうね」

 

「今は?」

 

「ええ。人は少しのきっかけで変わります」

 

彼女の声は優しい。

 

けれど、言葉の温度だけが妙に低かった。

 

「優しい方々であっても、力を持ち、恐怖を抱き、誰かを守ろうとすれば……いつかは変わるかもしれません」

 

「それは、どこの国でも同じでは」

 

「そうですね」

 

エルシアは微笑んだ。

 

「だから、見守る価値があります」

 

パトリシアは何も言えなかった。

 

「あっ、そういえば、ルミナスさんがあなたに失望されると仰ってましたよ」

 

「あいつが? 僕に? 白々しい〜」

 

ユウキは、紅茶の冷めたカップを指先で回しながら、ため息混じりに続ける。

 

「戦争してくれだなんて、僕は言ってないのにさぁ」

 

エルシアは、くすりと笑った。

 

「ふふっ。楽しい催しでしたよ」

 

「……まあね」

 

パトリシアは、二人の顔を交互に見た。

 

「……あの戦争を、催しと呼ぶのですか?」

 

「結果としては、興味深かったよ」

 

ユウキは悪びれずに言う。

 

「人間と魔物が同じ場所に集められて、嘘を信じ込まされて、それでも最後には戦いを止めた。普通なら、もっと悪い方向へ転ぶと思わない?」

 

「思います」

 

「なのに止まった」

 

ユウキの目には、純粋な興味が浮かんでいた。

 

「どうして止まれたのか。誰が最後に何を選んだのか。そういうのは、見ていて面白い」

 

「……死者も、出ていました」

 

「うん。死ぬのは良くないと思うよ」

 

「ですが」

 

「でも、死にたくない人がどう動くかは気になる」

 

迷いのない言い方だった。

 

パトリシアは、チンポリスで見たリムル達を思い出す。

 

戦争の後、壊れた街を直していた魔物達。

 

人間の負傷者へ水を配っていた者達。

 

自分を歓迎会へ招いてくれた、騒がしくて変な人達。

 

あれを、ただ観察すべきものとして語られることに、少しだけ腹が立った。

 

ユウキの表情は変わらず穏やかだった。

 

「それにしても、あいつはどうして『ルミナス』なんて名乗ってるんだろうね」

 

「……? どういう意味です?」

 

「いや、普通にルミナス・バレンタイン卿に知られたら絶対殺されるでしょ」

 

「ああ」

 

エルシアは納得したように頷いた。

 

ユウキは椅子へ深く座り直す。

 

「まあ、あいつのことだから絶対『面白そうだった』以外ないと思うけどね」

 

「ルミナスさんらしいです」

 

「そこは否定しないんだ」

 

エルシアは、少し楽しそうに微笑んだ。

 

「私も、あの方のそういうところは嫌いではありません」

 

その後、ユウキは机の端に置かれた通信具へ手を伸ばした。

 

淡い光を宿した魔法石が、掌の中で揺れる。

 

「そういえば、もう一人連絡しておこうかな」

 

「どなたへですか?」

 

パトリシアが尋ねる。

 

「昔の知り合い」

 

ユウキは通信具へ魔力を流した。

 

数回の発信音の後、向こうで誰かが応じる。

 

「もしもし。ヒナタ・サカグチさん?」

 

その名前を聞いた瞬間、エルシアの笑顔がほんの少しだけ深くなった。

 

「今、面白い人がイングラシアに来てるんだけどさ」

 

⸻

 

同じ頃。

 

俺達は、王都の大通りで宿を探していた。

 

昼を過ぎた街は、朝よりさらに人が多い。露店では香辛料の匂いが混じり、魔法具店の前では新作らしい杖を巡って冒険者が揉めている。

 

通りの奥では、なぜか着ぐるみを着た男達が笛を吹きながら宣伝していた。

 

『前世の家族へ手紙を出せるかもしれない屋』

 

「かもしれないって何だよ」

 

「届かなくても、気持ちは前世へ向かいます」

 

着ぐるみの男が胸を張る。

 

「詐欺にしか聞こえない」

 

モリ夫は店の前を通り過ぎながら、通りの両側を観察していた。

 

逃げ道ではない。と本人は語る。

 

宿の看板、窓の大きさ、客層、玄関に置かれた靴の数まで見ている。

 

「この辺の安宿は、やめといた方がいいっすね」

 

「今度は何で?」

 

「入口に花飾ってる宿は、だいたい宿主が客の荷物を勝手に売るんすよ」

 

「どういう経験で知るんだよ」

 

「壁に『盗難は自己責任』って貼ってあるところは、逆にまだマシです」

 

「その基準で宿を選びたくないな」

 

少し先に、三階建ての宿が見えた。

 

看板には大きく、『旅籠・眠れる勇者亭』と書かれている。

 

一階には酒場。二階と三階が客室らしい。

 

入口の脇には、小さな文字で注意書きがあった。

 

『就寝中の勇者覚醒事故について、当宿は責任を負いません』

 

「不安になる注意書きだな」

 

「でもここ、部屋の壁は厚そうですぜ」

 

モリ夫は建物の外壁を叩いた。

 

「廊下が広い。階段も二つある。あと女将が身長三m体重二百八十kg越えで強そう」

 

「女将の強さは必要?」

 

「夜中に酔っ払いが暴れても、追い出されるのは酔っ払い側っす」

 

「そこはちょっと良いな」

 

ディア風呂は、入口の前で足を止めた。

 

「浴場はございますか」

 

宿の中から現れた女将が、俺達を見回した。

 

腕が太い。

 

手には大きな鍋の蓋を持っている。

 

「あるよ。共同浴場なら地下に」

 

「源泉ですか」

 

「井戸水を薪で沸かしてる」

 

「ではチンポリスに帰りましょう」

 

「宿選びの基準が温泉旅館なんだよ!」

 

女将の眉が動く。

 

「……文句があるなら他を当たりな」

 

「いえ、失礼いたしました。井戸水にも、育て方次第で良い湯の可能性はございます」

 

「急にフォロー雑だな」

 

結局、部屋は二つ借りた。

 

女将は俺の姿を見るなり「スライムは寝具を濡らさないかい」と確認してきたが、俺が「濡らさない」と答えると、なぜか少し残念そうに頷いた。

 

「最近、寝具を濡らしたサキュバスがいてね」

 

「スライムをその仲間だと思うなよ」

 

荷物を置いた頃には、パトリシアも宿へ戻ってきた。

 

夕方の光が、宿の廊下へ細長く差し込んでいる。

 

彼女は杖を抱えたまま、部屋の前で少しだけ立ち止まった。

 

「遅かったな」

 

「少し、お話が長引きまして」

 

「そっか。じゃあ飯行こうぜ」

 

俺はそれだけ言って、廊下の向こうを指差した。

 

一階の酒場からは、肉を焼く匂いが漂っている。

 

パトリシアは、一瞬だけ目を伏せた。

 

「……はい」

 

モリ夫が荷物を置きながら振り返る。

 

「夕飯の前に、ちょっとだけ街の夜も見ていきやす?」

 

「なんで?」

 

「イングラシアの夜は、昼より経済が回ってるんで」

 

「怪しい言い方すんな」

 

「観光案内っすよ」

 

「お前が言うと犯罪現場の下見に聞こえるんだよ」

 

⸻

 

夜のイングラシアは、昼とは別の街みたいだった。

 

灯りの浮かぶ通りには、酒場帰りの冒険者や商人が集まっている。音楽を鳴らす店。占い師のテント。甘い菓子の屋台。荷電粒子砲を放つ店。ジェノザウラー。

 

そして、その先にある細い路地には、赤や紫の魔法灯が並んでいた。

 

看板が多い。

 

多すぎる。

 

『二時間チェスだけ風俗』

『肩たたき専門・母性の館』

『入店すると実家へ現在地を通知します』

『客をひたすら褒めて帰す店』

『アナコンダ丸呑み風俗・初回胃袋半額』

 

「最後の店、客が帰れない前提じゃん」

 

「人気店っすよ」

 

モリ夫が言った。

 

「どこが人気出る要素あった?」

 

「丸呑みの後、ちゃんと吐き出してくれるらしいっす」

 

「最低限のサービスを売りにするな」

 

パトリシアは看板を一枚ずつ見ながら、真面目に首を傾げていた。

 

「風俗とは、こういう場所なのですか?」

 

「違うと思いたい」

 

「そういえば私、こういうお店へ行ったことがありません」

 

「行かなくていいと思う」

 

モリ夫が、なぜか誇らしげに胸を張った。

 

「初心者ならまず、アナコンダ丸呑み風俗からがオススメですぜっ!!」

 

パトリシアは看板を見上げる。

 

「……初心者向けなのですか?」

 

「どこが!?」

 

「でも、初回半額とあります」

 

「値段で納得しかけるな!」

 

ディア風呂は、アナコンダ丸呑み風俗の入口をじっと観察していた。

 

建物の横には、小さな浴場らしき看板がある。

 

『消化前後のシャワー完備』

 

「なるほど」

 

「何が?」

 

「受付、待機室、浴場の導線が分かれております。これでは回転率に問題がありますね」

 

「風俗をコンサルすんな!」

 

「浴場と受付を繋げれば、待ち時間に湯気の香りを体験していただけます」

 

「丸呑みされる前に風呂でリラックスさせるな!」

 

「さらに、消化前後のシャワーを大浴場へ統合すれば」

 

「消化前後って単語を普通に使うな!」

 

その時、通りの向こうから、店員らしい女が大きく手を振った。

 

「そこのお兄さん達!褒められてから帰らない?」

 

客をひたすら褒めて帰す店の呼び込みらしい。

 

モリ夫が足を止める。

 

「ここ、昔使ったことありますぜ」

 

「客として?」

 

「追手を撒くために」

 

「結局それかよ!」

 

「店に入ると、知らないお姉さん達が全力で長所を褒めてくれるんすよ。追手も悪い気しなくなって、そのまま帰りました」

 

「犯罪者の更生施設としては優秀かもしれない」

 

「モリ夫さんの長所は、何と褒められたのですか?」

 

パトリシアが聞く。

 

モリ夫は少しだけ遠い目をした。

 

「『あなたは、生き残ることに全力で素晴らしいです』って」

 

「めちゃくちゃ的確だな」

 

「あと臭すぎって」

 

「褒められてないけど気のせい?」

 

ディア風呂は、通りの先にある別の店を見つけた。

 

看板には『紳士淑女の裸足浴場併設・癒やしの家』とある。

 

「こちらは、浴場の名前を前面に出しておりますね」

 

「普通に飯屋へ行こうぜ」

 

俺は三人の肩を押して、風俗街から引き返した。

 

パトリシアは少しだけ残念そうに、アナコンダ丸呑み風俗の看板を振り返る。

 

「……初心者向けでは、なかったのでしょうか」

 

「人生で一度も初心者向けになることないから忘れて」

 

「承知しました」

 

「でも、どのような方が利用されるのでしょう」

 

「忘れてって言ったよね?」

 

王都の夜は、まだ賑やかだった。

 

そして多分。

 

明日も、何かしら面倒なものに巻き込まれる。

 

つづく……

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