森を抜けた先で、俺達は揃って足を止めた。
山の頂上に、巨大な黒い城が建っている。空を刺すような尖塔、黒い石壁、窓の奥で揺れる赤い灯り。禍々しい魔城としては文句なしの佇まいだった。
ただし、城全体の形が若干乳首っぽい。
「……デカくね?」
「なんで先端尖ってんだよ」
モリ夫が俺の肩へ降り、城を見上げながら羽を縮めた。
「旦那ァ……あの敏感乳首城、嫌な予感しかしねぇですぜ……」
「風雲たけし城みたいに言うな」
フェラチオは露骨に嫌そうな顔をしていた。
「帰りたい。あと男根舐めてえよぉ」
「こんな情けない竜いるんだ」
ベニマルは城を睨みながら刀を抜いた。つられて俺も気合いを入れて抜いた。
「ここが奴の本拠地か……」
ドピュッ。
「何を抜いたんですか?」
シュナが不安そうに城を見つめていた。
「なんだか、空気が淀んでいます……」
ーーー告、性癖が終わっている者特有の瘴気ですーーー
「そんな判定ある?」
⸻
城の入口には、黒い石板が掲げられていた。
『乳首魔城ビーチクヘイム』
「ここへ手紙送る時、毎回この宛名を書かなきゃいけないの何の罰ゲーム?」
中へ入ると、外から見た以上に空気が重かった。
赤黒い絨毯が長い廊下の奥まで伸び、壁には首の長い乳牛や、異様に発達した乳首を持つ石像が並んでいる。豪華にしようとしている意思だけは伝わるが、何を目指しているのかは最後まで分からない。
「コンセプト迷子か?」
その時、二階へ続く階段の上から靴音が聞こえた。
カツ、カツ、と妙に優雅な足取りで現れたのは、細身の男だった。
高そうな服、整えられた髪。そして、両手首だけ異常に巨大だった。
「ようこそ、侵入者諸君」
「うわ、手首キモ」
男は優雅に一礼する。
「私は五首貴族が一人、“手首男爵”」
「本名ないの?」
「ギガン・テクビーノだ」
「嘘だろ」
テクビーノは、にやりと笑った。
「この城へ入ったことを後悔しながら死ね」
巨大な手首が唸り、両腕の先でぐるぐると回り始める。
「手首魔法! “リスト・スパイラル”! リスカしてるみたいで、ん気持ちェェェ!!」
「発想が終わってる」
ギュイイイイイイ!!
回転する手首が床を削りながら突っ込んできた。
モリ夫は即座に俺の背後へ隠れる。
「旦那ァ! 俺、行ったら死ぬから頼みますぜ!」
「使えなさすぎカス!」
俺は飛び上がり、身体の中で魔素を一気に圧縮した。
「拡散水刃!」
ドバッ!!
飛び散った水刃が、回転する手首の横からテクビーノの胴体をまとめて吹き飛ばす。
「ぐわぁぁぁ!?」
手首男爵は壁へ突っ込み、豪華な乳牛の絵画ごと崩れ落ちた。
「バカなァ……!」
「旦那に瞬殺されるとか、いくら最初の一体目とはいえ弱すぎだろ」
「今なんかディスった?」
ベニマルが前へ出る。
「紅蓮斬!」
ズバァッ!!
赤い斬撃が壁際のテクビーノへ走り、手首男爵は一度大きく跳ねてから爆散した。
ーーー告、よわーーーカクカクカクカクーーー
「クンニ君、勝ち確屈伸煽りしないで」
⸻
さらに奥へ進むと、天井の高い大広間へ出た。
古いシャンデリアが赤い光を落とし、中央には不自然なほど広い空間が空いている。誰かがここで戦う前提で作ったのかと思った瞬間、その天井から女が逆さまに降りてきた。
足首だけが、異常に長い。
シュナが少しだけ後ろへ下がる。
「ヒッ」
女は優雅に髪を払った。
「私は足首子爵、アンク・ルージュ」
「なんか名前だけ強そう」
「強いのは名前だけでは……なくてよ!」
次の瞬間、長い足首が鞭のようにしなった。
ビシィィィィッ!!
「痛ァ!? またオレェ!?」
モリ夫が壁際まで吹き飛ぶ。
「旦那ァ! あの女、強ぇ!」
「お前が弱すぎるだけだろ」
「ワフーン」
アンク・ルージュは、自分の足首を見せつけるように笑う。
「ふふ……私の美脚に酔いなさい」
「足首しか見えてねぇよ」
その横を、フェラチオがゆっくり通り過ぎた。
「女など、陰茎がない敵は面白くない」
「基準が終わってる」
フェラチオの口が開く。
ビュオオオオオ!!
「えっ」
アンク・ルージュの身体が、長い足首ごと宙へ浮いた。
「待っ――」
ゴクン。
大広間が静かになった。
俺達はフェラチオを見る。
フェラチオは何事もなかったように口元を拭った。
「次は男を食わせてね」
「感想それ?」
その後も、城内には五首貴族の残りが待ち構えていた。
襟首伯爵エリック=カラカラーンは、服の襟を高速回転させて突っ込んできた。しかしモリ夫に「クリーニング屋か?」と言われた瞬間、憤死した。
さらし首侯爵デュラハン=ギロチンチンロードは、飛び回る生首で俺達へ精神攻撃を仕掛けてきた。しかしモリ夫の「いや、口臭ェな!?」で憤死した。
こうして四首貴族を越えた俺達は、城の最奥にある巨大な扉へ辿り着いた。
扉の向こうからは、今までの連中とは比べものにならない魔力が漏れている。ベニマルは刀の柄を握り直し、シュナも杖を胸元へ引き寄せた。
モリ夫は、俺の背後で小刻みに震えている。
「旦那ァ……ラスボス感ヤベェです……」
フェラチオは、魔力ディルドを咥えたまま扉を見ていた。
「……あやつか」ジュポジュポズズズ。
「今さら何を咥えてんだよ」
次の瞬間、巨大な扉が内側から吹き飛んだ。
ドォォォォォン!!
飛び散った石片と煙の中から、全身鎧の巨漢が歩いてくる。
鎧は漆黒で、肩当てには棘があり、背中には大きなマントが翻っていた。
ただし、股間部分だけ異様にギラギラしている。
「待って」
「嫌な予感しかしない」
巨漢は低く笑った。
「ククク……よくここまで来たな」
その場にいる全員を見回してから、両腕を広げる。
「我が名は――」
「亀頭カリ首公爵、グランディオ・ディルドバルザーク」
「名前に情報量詰め込みすぎだろ!!!!」
つづく……