【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
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リュミエールというメイドに案内され、三人は屋敷内の施設について教えて貰った。
食堂前には小袋に入った菓子があり、メイドや客人は一つ貰っていいと聞き……レメディオスは三つ懐に入れた。
後で三人で分けるために取ったのだと、カルカは思った。
ケラルトは姉が独り占めするのではないかと、少し訝しんでいたが。
客人やメイド向けの書斎にも案内された。
まるで小さな図書館のようで、様々な本が置かれている。
ケラルトは興味深そうに本の背表紙を眺めていた。
曰く、聖王国では絶版となっている本やら、高度な学術本などがあると。
確かに、とカルカも本棚を眺める。
医学、理学、哲学、魔法、武術、工学、レンジャー、政治、様々な種類の学術、技術に関する本がある。
その上で、一般的な娯楽小説も置いてある。
中々に気になる題材の恋愛小説を見つけて、思わず手に取りぱらぱらとページを捲る。
魔女に眠らされた姫を、他国の王子が救いに来るという小説だ。
思わず、共感してしまい続きが気になってしまう。
「よろしければ、貸し出し致しましょうか?」
「……よろしいのですか?」
遠慮すべき所ではあるが、どうにも気になってしまう。
カルカの遠慮がちな問いに、リュミエールは笑みを浮かべた。
「はい。メイドや客人、この屋敷に滞在してる者なら誰でも借り受けることができます。一冊までなら、本を返せばまた借りられる仕組みなのです」
「そうなのですね。では、その、こちらをお借りしても?」
「はい、構いません」
カルカは礼をしながら、高度に装丁された本を抱きしめた。
そんなカルカを見て、ケラルトも視線を本に向けた。
「あのぉ、私も借りても?」
「はい、構いません」
「ではこれを……」
ケラルトは何か学術的な本を借りるのか、とカルカは考え視線を向けたが……彼女も何やら恋愛小説を借りているようだった。
そのことを咎めるつもりはなく、カルカは少し微笑ましくて笑みを浮かべた。
そんな二人から視線を逸らし、リュミエールはレメディオスを見た。
「レメディオス様は何かお借りになりますか?」
「いや、いい」
断るレメディオスを見て、ケラルトは片眉を上げた。
姉の借りる権利を使って、もう一冊借りてしまおうかと考えていた……が、流石にそれはルールとしてどうなのかと思い、諦めたのだ。
そうして本を一旦、他のメイドに預け……部屋に送ってもらうようリュミエールは言い聞かせた。
そうして再び手ぶらになった三人を連れて、リュミエールは別の場所を案内する事とした。
「ここが風呂です。客人、メイド、ベリアル様側室を含めて全ての方々が使用されます。時間で使用できるか変わりますのでご注意下さい」
大きな浴槽まで見せられ、三人は顔を強張らせた。
これだけの水量を出すには、どれだけの生活魔法が必要か……そして維持するにはどれだけの手が必要なのか。
巨大な風呂というのは、それだけで財力の象徴となるのだ。
それ故の畏怖だ。
だが、カルカがもっとも気になったのは風呂場に置かれた石鹸や美容品だった。
髪の毛の質を保つもの、肌の保湿をする乳液、化粧水、美容液……この屋敷のメイド達が皆、容姿に優れている理由がカルカには理解できた。
「あの、これ本当に誰が使っても良いのですか?」
思わず、リュミエールに問い直した。
聖王国で買えば、同じ量の酒の何倍もの値段がする美容品を幾ら使っても良いと言われたのだ。
量を使えば良いという話ではないが、無料で使っても良いとなると中々驚くものである。
「はい、構いません。ベリアル様は女性の方々が美しくあることをお喜びしますから」
あんまりな物言いだが、カルカはベリアルに感謝した。
聖王国では、女は生まれたまま、あるがままが美しいとされている。
だがそれは詭弁だとカルカは考えていた。
美しく磨く努力というのは、それだけで素晴らしい事だとカルカは考える。
その思想故に、美容魔法などを創作しているのだから。
そうして、案内を進められて……窓の外が茜色に染まっていく。
そんな中、カルカがとある一室の前を通った時──
「ふぅ」
何やら湿っぽい息を吐きながら、ベリアルが部屋を出てきた。
少し濡れた髪を掻き上げて、艶かしい瞳が憂いを帯びている。
何処となくいつもより色気のある姿に、カルカは思わず背筋が伸びてしまった。
鼻腔を擽る甘い匂い、その発生源はベリアルにあると感じ取っていた。
そんなベリアルはゆっくりと目線を上げて……カルカと目があった。
「おっ……と、すまなかった。急に離席して……案内も任せっきりだったな」
「いえ、リュミエール様に随分と案内して頂きましたから。お気になさらず、大丈夫です」
努めて、笑顔を向けた。
体の内側からなぞられるような強烈な感覚に痺れながらも、平静を装う。
しかし、そんなカルカを前にベリアルは申し訳なさそうな顔をした。
「いや、それでも悪かった。三人を置いて、別の予定など……埋め合わせはしよう。何か望むものがあれば、何でも用意しよう」
「何でもっ、ですか?」
思わず、声が上擦った。
震えながらも、興奮と緊迫で体が引き締まる。
「あぁ、何でもいいぞ。まぁ、俺に用意できるものならだが……何が欲しい?」
「あ、えっと……少し考えさせて頂いても?」
「あぁ、構わない。なら、レメディオスはどうだ? 何か欲しそうな顔しているが」
カルカの言葉にベリアルは頷き、レメディオスへと視線を逸らした。
「むっ。私はだな……いや、その、だな?メイドが話していた、プリン?というものが食べたいのだが」
レメディオスの食い意地のはった要求に、ベリアルは目を瞬いた。
「ん? あぁ、それなら夕食のデザート……は間に合うか怪しいし、明日の夕食に出そう。俺から言っておこう……ケラルトは?」
「私は書斎に入り浸る時間が欲しいのですが……」
「あぁ、構わない。何なら貸し出せる本の冊数も特例で出そうか?」
「よろしいのですか!?」
「ま、家主である俺がルールだからな」
横暴なベリアルの回答にケラルトは嬉しそうに頷いた。
借りたい本は幾らでもあり、自由な時間があれば読み進めたいと考えていたからだ。
そして、ベリアルはカルカに視線を戻した。
「それで、カルカは? 何か思いついたか?」
「それはその……」
何が欲しいか、なんて分かりきっている。
カルカはベリアルを欲していた。
側室にして欲しい、愛して欲しい、抱きしめて欲しい。
そういった願いだが、それを口にするのは憚れる。
口ごもるカルカに対して、ベリアルは笑みを浮かべた。
「あぁ、いや、別に今すぐ決めろという話ではないさ。後で、何か思いついたらでもいい」
「……ありがとうございます」
こういった優しさが、カルカは堪らなく好きだった。
そして、ふと思った。
「そういえばその、レイナース様とアルシェ様はいずこに? リュミエール様から御二方も側室だとお聞きしましたから……ご挨拶をと」
カルカの言葉に、ベリアルは目を細めて視線を逸らした。
「あー、いや、そのー、今は会えないというか。寝ているというか」
「寝ている、ですか?」
思わず訝しむ。
二人とも寝ているなど、変な状況だ。
「いや、ちょっとした言い回しだ。寝てるというよりは……ま、とにかく会えない状態だ、悪いが。レイナースは帝国に帰るだろうが、アルシェに関しては明日、明後日にでも紹介しよう。構わないな?」
「え、っと、はい。構いません」
何だか納得いかないが、カルカは頷いた。
そして、今度はベリアルが出てきた部屋に視線を向けた。
「そういえば、この部屋は? 何の部屋なのですか?」
カルカのちょっとした興味の問いに、ベリアルは固まった。
そして、視線を逸らしてリュミエールを見た。
リュミエールは視線に気付いて頷き、カルカに視線を戻した。
「あの部屋は客室です。といっても、身内向けのそう畏まっていない部屋ですが」
「そうなのですか。なるほど、客室なのですね」
リュミエールの言葉に、喉に小骨が引っ掛かったような気がするが、取り敢えずはと頷いた。
そんなカルカを見てベリアルは少し気まずさを感じつつ、目線を戻した。
「取り敢えず、時間も時間だ。夕食にしよう。構わないか?」
どこか言い訳染みた、話を逸らすような提案だったが……カルカを含めて、三人は頷いた。
食卓に並ぶ彩りも豊かな豪勢な料理達にカルカとケラルトは気圧されていた。
特にケラルトは、出てきた料理の価値に気付いていた。
海から離れた魔導国であるのに、干物や酢漬け、塩漬けではない魚の料理が出ている。
野菜をふんだんに使ったポタージュがある。
崩れるほどに柔らかく煮た肉がある。
生の野菜を使ったサラダ、半熟の鶏の卵……それらは鮮度が保たれている故に実現する料理だ。
農地から離れた都会であるにも関わらず、これだけの料理が出せる。
ベリアルが運送などしていないのであれば、馬車や何やらで運び込んでいる事になる。
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流通が凄まじく行き届いているということだ。
そして、カルカも何となく、その価値は理解していた。
(これだけのものを用意できるのであれば、そうね。聖王国であれだけの料理を懐から出しても、ベリアル様は変だと思わない、と……)
聖王国で定期的にベリアルが虚空から引き出していた料理。
それらがベリアルにとってどれだけ“普通”だったのか、理解してしまう。
そして、聖王国でベリアルに提供していた食事の質に、少し申し訳なさを感じたが──
「なぁ、ベリアルは普段から、こんな美味いものを食っているのか?」
「ん? まぁ、そうだが」
「む、羨ましい限りだな」
レメディオスが何やら失礼なことを言いながら口に料理を運んでいた。
普段ならば、カルカやケラルトは咎めていた。
ただ、相手がベリアルならば──
「ふふ、そうか。なら魔導国に居る間に楽しんでくれ」
「そうさせて貰う」
こうして、レメディオスの本音を受け止めてくれる。
どちらかと言うとそういう気兼ねのなさを楽しんでいる節すらある。
故に、カルカもケラルトも、とやかく口には出さない。
出さないが、少し冷や汗を掻くのは確かだ。
ベリアルがどう思おうと、周りのメイド達が不快に思う可能性はあるからだ。
(……美味しい)
現実から目を逸らして、カルカは口に蒸されたような肉を運んだ。
僅かに赤身が残っているが、火は通っているようだ。
甘い野菜を形が残る程度に煮られたソースとよく合う。
あまりにも美味い食事と出会うと人は無言になるという。
カルカは常に口に料理を含んでいる状態であり、確かに喋れないのだと自覚した。
一通りの食事を終えて、食卓には甘味が運ばれてきた。
柔らかく、まるで固形化された水のような感触の果実水に目を丸くしながらも、スプーンでつつく。
味は勿論、彩りが豊かなデザートに思わず楽しくなってしまう。
そんなカルカに対して、ベリアルは目線を向けた。
「そういえば、リュミエールから屋敷内の施設について説明はあっただろう? 気に入った場所はあったか?」
「え? あっ、はい」
ゼリーをつつく手を止めて、カルカは慌てて視線をあげた。
「そ、そうですね……私は浴場が気に入りました。色々と置いてありましたから……その、女性としては気になるというか」
「……あー、そうか。なるほど、気に入ってくれたのなら嬉しい。まぁ、あれは俺がした事じゃないんだが」
「ベリアル様が用意した訳ではないのですか?」
「側室が増えるとな。こう、勝手に増えていった」
「あぁ、なるほど」
カルカは確かにと頷いた。
幾らベリアルが常識はずれの存在だろうと、男性であり、そういった美容の知識や興味はなくとも当然である。
であれば、彼の側室に感謝するのが筋というべきか。
「この後は風呂の時間もある。三人で入って貰う事になるが……メイドは必要か?」
「いえ、その……寧ろ、居ない方がありがたいと言いますか……」
「あぁ、いや、いいんだ。俺も使用人とか居ない方が風呂に入りやすいしな」
ベリアルの言葉にカルカは想像する。
裸のメイドに囲まれて、風呂に入るベリアルの姿を。
何故か、そう、何故か鮮明に思い浮かんでしまうが……そんな想像を振り払い、ベリアルに視線を戻した。
「ベリアル様は聖王国で、身支度など自分でされていたと思いますが……やはり、こちらでも身支度はメイドに任せて居ないのですか?」
「まぁな。まぁ時折、メイドがやりたがるからやって貰ってはいるが」
さもありなん。
ベリアルは絶世の美丈夫である。
その肉体美は一級の彫刻品よりも素晴らしく、惚れ惚れとするものだ。
メイドがその裸体を見たい、触れたいと思うのは仕方のない事だとカルカは思った。
会話を楽しみながら、自分の知らない相手のことを知っていく。
それが堪らなく幸せだった。
「はぁ……」
暖かな湯が張られた大きな湯船に浸かり、カルカは息を深く吐いた。
見知らぬ場所で無意識のうちに緊張していた身体に、熱が染み渡る。
「ため息ですか、カルカ様。幸せが逃げると言いますよ?」
人が10は入れる程に広い湯船だというのに、ケラルトが側に入ってくる。
しかし、カルカにもその気持ちは分かる。
あまりに広過ぎると、その空間を活かそうとすればどこか遠巻きに、心細くなってしまうからだ。
「ため息ぐらいいいじゃない……ここでは誰も見てないし」
「それもそうですね。では私も、少しは気を抜きましょうか」
湯船に腰を落として、肩まで浸かるケラルトへカルカは視線を向けた。
何も身につけて居ない、そのままの肉体。
滑らかな肌、女性らしい丸み……ふと、ベリアルはこういう女性が好きなのかと邪推して──
「カルカ様? どうかしましたか?」
「あ、いえ? 何もないわ」
手を小さく振って、自分の身体を見下ろす。
悪くはない……と思う。
魅力的だ……と思う。
まだ誰の手垢も付いていない自分の色白な身体を見て、それでも本当に好きな相手に触れて貰えないのであれば、そこにどんな意味があるのか自問自答してしまう。
「カルカ様っ。横、失礼致します」
「え? えぇ、いいわよ」
そんなカルカの側に、レメディオスも腰を落とした。
筋肉質で腹筋も割れている。
腕の筋肉も発達して、女性らしい丸みは少なく……それでも、しなやかで美しい身体をしている。
呆けて見ていると、ケラルトが目を細めた。
「カルカ様、魔導国とは凄いところですね」
「えぇ、そうね。でも、このお屋敷が特別凄いのかも知れないわね」
「それは同感です。魔導国の一般的な民すらも、この生活だとしたら自信を無くします。ですから、この屋敷に住む……側室の方々は幸せでしょうね」
「……そうね」
ケラルトの言葉に瞼の上が攣りそうになる。
自分が側室だからと、側室ではないカルカを煽っている……とは思わない。
そこに侮蔑の色はなく、発破をかけているのだとカルカも理解できた。
しかして、柳に腕を押すような反応を示すカルカに、ケラルトは顔を少し険しくさせた。
「カルカ様。この滞在期間中に必ず、ベリアル様に想いを告げて下さい」
「えっ、でも……別に今じゃなくても」
「ベリアル様は……この七日が過ぎたら、聖王国に戻って来ないのですよ?」
「……え?」
その言葉にカルカは目を見開いた。
意識はしていなかった。
だが、当然の話だ。
ベリアルには住む国も、治めるべき土地もある。
であれば、いつまでも他国に滞在する事が出来ないという事も理解できた筈だ。
それでも思考の外へ押し出して居たのは、いつまでも一緒に居たいと考えていたからか……現実が見えていなかったからか。
「ベリアル様は優しいですから、聖王国にも定期的に来てくれると思いますが……会える時間は今より遥かに短くなります。ですから、特別な関係になるなら今の間が良いとは思いませんか?」
「……そうね」
目が覚めてから毎日、ベリアルとは顔を合わせている。
彼の居ない日常など考えられない。
であればどうすべきか、考えずとも分かるのに──
そうカルカが悩む中、レメディオスが視線をケラルトに向けた。
「なぁ、ケラルト。ベリアルを聖王国に連れ帰る事は出来ないのか?」
「姉様、出来るわけないでしょう。逆に考えて下さい。ベリアル様がカルカ様を魔導国に連れていって、聖王国に返さないとなれば……間違いなく問題が起こるでしょう?」
「それは、まぁ、そうだな……しかし、そうか。あいつと長く居られるのも、あと数日なのか」
「……そう染み染みと言わないでください。私も悲しくなるじゃないですか」
三者三様、全員が眉尻を下げた。
言い出しっぺのケラルトですら、目に見えて落ち込んでいたが……目線をカルカに戻した。
「とにかく、想いは告げましょう。あの人、あんな見た目と性格ですが、奥手ですから」
確かに、ベリアルは女慣れした態度と、軽薄な容姿に勘違いしそうになるが……恋愛に関しては奥手だとカルカは感じた。
自分の遠回しのアプローチにすら気付いていないのだから。
「……そう、ね。私から行動すべきよね?」
「はい、でなければ後悔します」
ケラルトの言葉に、レメディオスも頷いた。
「そうです、カルカ様! 当たって砕け散れと言いますから!」
「姉様、砕け散ったらダメですよ」
レメディオスの言葉にケラルトが苦笑する。
そんな二人を見て、カルカは自身の指と指を合わせた。
ほんのりとした熱が、湯船の中で重なった。
考えるのは、これからのこと。
このままの関係は続けられない。
あと数日で離れ離れになってしまう。
そんなのは嫌だ。
離れいく彼を繋ぎ止めるには、ケラルトの言う通り特別な関係という楔が居るのだろう。
聖王女としての責務。
女としての喜び。
何より、自分自身の願い。
カルカはゆっくりと目線を手のひらへと向けた。
そして、優しく握りしめた。
カルカは風呂を上がった後、待機していたリュミエールに話しかけた。
本来であれば、風呂の後は睡眠という形になり、ベリアルと会う予定も無かったが……ただ、直接会って話さなければならない事があると告げた。
結果、リュミエールは快く承諾して……ベリアルのもとへと連れ出した。
背後から、戦場に旅立つ兵士を見るような目をした二人が居たが。
そんな二人を他所にカルカは、ベリアルの書斎まで案内されて──
「ん? カルカか? 何か用事か、こんな時間に?」
「……ええと、はい。ご迷惑、でしたか?」
「いいや、迷惑なんかじゃないさ。茶でも用意しようか」
ベリアルは
そして、カルカの前に置いた。
「……ありがとうございます」
ミルクの入った紅茶を置かれて、カルカは頷いた。
良い香りだ。
そして、温かい。
「何か悩み事か?」
そう口にしつつ、ベリアルはカルカの向かい側にあるソファへ座った。
寄り添うような言葉だが、距離はまだ遠い。
どうせならば隣に座って欲しい。
そうカルカは考えつつ、ベリアルに視線を向けた。
「はい……これからのことを、少し」
「これから……あぁ、魔導王陛下との面談か? それなら心配しなくて良い。俺も口を挟むし、不利益な事は起こらないと誓おう」
「そ、そうではなく……その、ベリアル様とのことで」
「俺と?」
ベリアルが目を瞬いた。
「はい……この会談が終われば、ベリアル様はもう聖王国には戻って来ない、のですね?」
「ん? いや、週に一度ぐらいは行こうと思っているが」
「……それは、ケラルトとレメディオスが貴方の側室だから、ですか?」
「……まぁ、それもあるが」
カルカは唾を呑んだ。
例え離れていたとしても、ベリアルならば側室のために来てくれる。
聖王国を忘れずにいてくれる。
だけどそれは、ケラルトやレメディオスのためであって、自分の為ではない。
「……あの、ベリアル様?」
「どうかしたか?」
カルカは考える。
想いを告げなければならない。
ではなんと告げるか。
好きです、好きだ、愛しています……なんて口にして、断られたらどうすればいいのか。
相手の好意を確かめるような遠回しな告白が良いのではないか。
貴方は私のことが好きですか──なんて、確かめ方ならば断られても傷付きはしない。
「わ、私は──
そう。
馬鹿正直に好意を伝える、なんて──
「私は、ベリアル様のことを……愛して、います……私も貴方の側室に、迎え入れて貰う事は出来るでしょうか?」
それでも、カルカは好意を口にした。
愛していると、言葉にした。
「……カルカ」
名前を呼ばれて、思わず視線を下げた。
自分の身体を守るように、己の腕で抱きしめた。
「必要であれば……昼に言っていた、埋め合わせを、使っても……お願い、しますから……」
怖かった。
もしも、この想いを受け取って貰えないければ……今の心地よい関係すら失ってしまうのからば。
身体が僅かに震えて──
「大丈夫だ。そんなものは必要ないさ」
抱き締められた。
「ベリアル様……?」
「俺もカルカのことを愛している」
その言葉にカルカは目を見開いた。
もっとも欲しかった答えだ。
予想できぬ答えではなかった。
ケラルトからも、お墨付きを貰っていたからだ。
それでも、もし、万が一にも──
そう考えていたカルカにとって、その答えは……驚くほどに、嬉しい答えだった。
「本来なら、俺から口にすべきだったな。悪かった」
「い、いえっ……そんな、そんなことはありませんっ……こうして、抱き締めて頂けているだけで、私は、幸せで……」
硬い男の腕、胸板の感触、匂い。
全てがカルカを幸せにしていた。
夢ではなく現実に、心が満たされていく。
「カルカ」
名前を呼ばれて、男が頬に手を触れた。
何をするのか分かり、カルカは期待から目を閉じた。
そして──
優しく、唇が唇に触れた。
接吻だと、カルカは理解した。
愛する男に口付けされたのだと、理解した。
びりびりと痺れるような感覚が脳内に走った。
幸福に満たされて、身体が溶けてしまいそうだった。
ゆっくりと離れていく唇に喪失感を抱きつつ、カルカは目を開いた。
そんなカルカにベリアルは笑みを浮かべていた。
「……愛し合っているなら二人は対等だ。そう怯えなくていい。もっと我儘になって良いんだ」
「……は、はい」
「欲しいものがあれば欲しいと言っていい。して欲しい事があるなら、して欲しいと言っていいんだ。俺とカルカの仲だろう?」
そう口にしつつ、ベリアルの手にはいつの間に指輪が握られていた。
「あっ……」
そして、それをカルカの指に触れさせた。
「俺の側室になってくれるか?」
「……はい。その、お願いします……」
同意の言葉を口にすれば、ベリアルが手を取り指輪を嵌めた。
夢に見たような告白だった。
愛されているのだと指から全身へ流れていき、実感する。
触れる指の感触、吐息。
甘い空気、痺れるような幸せ。
微睡むようにふわふわと、カルカの思考は溶けていく。
「あの……ベリアル様?」
「ん?」
「先程の、埋め合わせの件、まだ消費していないと考えても、良いですか?」
「あぁ、もちろん」
そうして普段の思考とは異なり、所謂、浮かれていたカルカは──
「であれば……その、私を今から抱いていただけませんか?」
普段ならば口にしないような言葉を、口にした。
そして一拍置いて、カルカは自分が口にした言葉を理解して……失態を悟った。
「あ、いえ……その、別にベリアル様が今ではない方が良いのであれば、よろしいのですが……そのっ」
「……ぷっ、くくっ」
慌てるカルカは見て、ベリアルは笑った。
「な、何故笑うのですか……!?」
「いやなに、カルカに対して、埋め合わせの件は消化しない方がいいと思ってな」
「そ、それはその、どういう意味ですか……?」
カルカの言葉にベリアルは頷いた。
「カルカは遠慮がちだからな。して欲しいこと、やりたい事があっても口に出来ないだろう? なら、口にできる理由を常に置いておいた方が良いかと思ってな」
「そ、それはその、そう……なのですか?」
「そうさ。俺はカルカがして欲しい事なら、なんでもするからな。権利なんて必要ないんだ、本来なら」
そう言いつつ、ベリアルはカルカの肩を抱いた。
「ベッド、行こうか」
「……はい」
カルカはその言葉の意味を理解して、頷いた。
肩に触れている男の手の感触。
火照る身体、激しく鼓動を刻む心臓。
これから抱かれるのだと、カルカは理解した。
男に抱かれて、純潔を散らすのだと。
しかし、少しも不安はなかった。
あるのはただ、その事実を噛み締めている多幸感だけだった。
アルシェの話
-
いる
-
いらない
-
※解答だけ見たい