【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
エ・ランテルから北東……魔導国領土内。
カルネ村。
ゴブリンやオーガ、他にも幾らかの異形種が在住する村である。
そんな村から少し離れて、大森林が存在する。
トブの大森林と呼ばれるその場所は、カルネ村の生活とは切っては切れない場所だ。
生活必需品である薪、治癒薬の元となる薬草、食料となる果実や野草、動物の皮や肉……自然の恵みを与えてくれる場所である。
だが、安全な場所とはいえない。
宝の山と言ってもいい場所ではあるが、モンスターが存在する。
恵みを頂くと言っても、モンスターに会わぬよう祈り、こそこそと盗み取るような事しか出来なかった。
しかし、それは過去の話である。
今はゴブリン達の協力をもって、比較的安全に狩りや採取が出来る。
そして、異形種だけではなく──
「イミーナさん、行きました!」
村の狩人の言葉に、イミーナは木の上で目を開いた。
眠っていた訳ではない。
耳を澄ましていただけだ。
獣の足音を耳に、位置と数、質を特定する。
走ってくるのは
数は二体……猪は基本的に群れない。
大きさに差はない……母子ではない。
番だ。
「……よし」
それは魔獣の牙や爪を元に、貴金属のフレームを持つ弓だった。
各所に光る文字が刻まれており、ただの弓ではない事を見る者に理解させる。
名をアルティメイト・シューティングスター・スーパー。
既に失伝した太古の技術<ルーン>によって強化された弓である。
そんな弓に矢を番える。
矢は凡百のもので、カルネ村で養畜している鶏から取れた羽根を使用している。
ただの矢、だが特異な弓につがえる事で、ただの矢ではなくなる。
そんな矢を、二本。
同時に、弓に番えた。
「…………」
一呼吸。
矢を同時に、二本放つ。
矢はいっさい揺れる事なく、空を引き裂き、木々を通り抜ける。
そして──
「グモッ!?」
「ブゴッ」
獣の悲鳴が聞こえた。
目を凝らせば……頭蓋に矢があたり、矢尻まで突き刺さっている
「……ま、こんなものね」
アルティメイト・シューティングスター・スーパー……弓を背中に戻して、木から飛び降りる。
そうしてそのまま、仕留めた
側には、既にカルネ村の狩人達が集まっていた。
「いやぁ、流石はイミーナさんです」
「そんなに褒めなくていいわ。弓のお陰だから」
「ご謙遜を……その弓を扱えているのは、イミーナさんだからですよ」
「……あっそ。血抜き、お願いできる?」
適当に流して、血抜きを頼む。
大きさだけでいえば、一般的な猪の倍以上ある。
その肉は食料になり、牙は工芸品に、毛皮は服、皮は防具になる。
自然の恵みという奴だ。
イミーナはため息を吐きながら、木にもたれ掛かる。
視線が狩人達から集まっているのを自覚しつつ、無視する。
イミーナは、
その容姿は
その自覚はイミーナにもある。
だからこそ、カルネ村の狩人である若い男性陣から、そういった目で見られるのも理解できている。
村に来るナザリックのメイド……ルプスレギナやユリも美人ではある。
だが、彼女達は美人すぎる。
ほんの少しもチャンスがないと思えるほどに、完璧な美しさをもつ。
高嶺の花というやつだ。
対して、イミーナは一般的な美人の範疇に収まる。
なので、村の狩人からアプローチされている。
(これさえなければ、暮らしやすいんだけど)
ベリアルの側室となってから、幾らか時が経った。
カルネ村に在住し、
彼等の手に負えない獣や、モンスターが現れた時に戦う仕事だ。
その為の武具として、ベリアルからアルティメイト・シューティングスター・スーパーを預かっている。
(……まったく、過保護なんだから)
背中の弓、その力。
明らかにトブの大森林に生息するモンスター相手には、過剰戦力と言わざるを得ない。
先程もそうだ。
加減しなければ、
「イミーナさん、終わりました!」
「そう。じゃあ、村まで運びましょ」
必要最低限の部位を幾つかの台車に分けて、何人もの男手で運ばれていく。
大仕事だが、イミーナは手伝わない。
イミーナの仕事は用心棒であり、狩人ではないからだ。
運ばれていく
トブの大森林から離れて、カルネ村に到着すれば──
「みなさん、ご苦労様です!」
可愛らしい容姿の女性が、狩人達に頭を下げていた。
(げっ……)
その女に対して、イミーナは苦手意識を持っていた。
こそこそと、ゴブリンに囲まれた女に見つからぬよう移動する。
女の名は、エンリ・エモット。
カルネ村の村長であり、数多のゴブリンとオーガ、トロールすらを従える覇王である。
そんなエンリに対して、イミーナは苦手意識を持っているのだ。
「あ、イミーナさんも、お疲れ様です!」
「え、あー……お疲れ様」
見つかって声を掛けられて、小さく手を振った。
イミーナはゴブリンや、オーガなどの異形種が苦手である。
元々、
ベリアルによる記憶処置により、その大半は曖昧な物となっているが……それでも、異形種との交配実験に従事したという事実は残っている。
異形種の雄を見ると、記憶になくとも嫌悪感が湧いてしまうのだ。
そんな異形種を従えている覇王エンリ……苦手意識をもって当然であった。
「じゃ、私は帰るから。あんた達は、後始末しておいてね」
目線を狩人達に向ければ、頷かれた。
「分かりました、イミーナさん!あ、よろしければ、夜にでも食事を──
「ごめん、無理」
予定はないが、彼等との予定を入れるつもりはない。
落ち込む若い男の狩人を無視して、イミーナは自宅へと足を進めた。
自宅は、村の中心から少し離れた所にある。
トブの森林で伐採した木を利用した木造建築であり、一人で暮らすには少し広い家だ。
昨今、カルネ村に移住してきた移民向けの建築が進んでいる。
その一環で建てられた家である。
「……ただいま、っと」
誰も返事はしないが、口に出す。
背負っていたアルティメイト・シューティングスター・スーパーを壁に掛けて、皮の鎧を脱ぐ。
蒸れた黒い服を脱ぎ捨てて、
そして、十分に溜まったのを確認して……水場に桶ごと移動する。
布を濡らし、ベリアルから贈られた石鹸を布で擦る。
泡だった事を確認して、そのまま体を拭い始めた。
「……はぁ」
鏡を見れば、半裸で体を洗う自分の姿が映る。
イミーナは自分の体を見た。
薄い身体だ。
胸も尻も、丸みが殆どない。
辛うじて、くびれだけが女である事を示している。
「…………」
確かに、村の若い男性には受けがいい。
モテていると言ってもいい。
ただ、それは村人の基準だ。
イミーナは考える。
自分が好意を寄せている男の近くには、魅力的な女性が多い。
若くて綺麗で、スタイルのいい……自分と違って素直で、可愛らしい性格の女性達。
品のあるメイドや、凄腕の戦士など。
自分より女性として、人間として価値のある側室達。
そこに並ぶには、少し自信が足りない。
それもこれも、その男が村に中々来ないのが原因である。
「……何考えてんだろ、私」
イミーナは自身の薬指を撫でた。
銀色のシンプルなデザイン指輪がそこにあった。
愛を囁かれ、受け渡された指輪。
それはベリアルの側室である証だ。
そして、<
「…………」
困った事があれば、連絡して欲しいと言われている。
危機に陥った時、指輪を介して呼べば、いつでも来てくれると。
それはきっと事実である。
ベリアルは庇護欲が強い。
身内と認めた人間に対して、何があっても見捨てない。
それはイミーナにも分かっている。
「……………」
特に、今は何か困っている事などない。
別に、この指輪は緊急時にしか使ってはならないという決まりはない。
話をしたければ、使っても良い筈だ。
だが、それは少し躊躇われる。
ベリアルには現在、何人もの側室が居る。
各々が気のままに<
だから、滅多な事がなければ使わないように、側室達は注意しているのだ。
それはイミーナにも分かっている。
分かっている上で……無意識に魔力を流し込んでしまった。
『……ん?イミーナか?何かあったか?』
「あっ」
声が返ってきた時、イミーナは自分が何をしていたか気付いてしまった。
間違って<
何かあったか、といえば何もない。
であれば何故、<
「……何もないけど。ちょっと話したかっただけ」
単純な動機だ。
『なんだ、そうか。別に助けが欲しい訳じゃないんだな?』
「そうだけど……ダメだった?」
問いかける。
裸のまま、鏡を前にしながら……少し不安げで情けない表情を浮かべる自分を見ながら。
『いや、いいさ。話したかったんだろう?話し相手になら、いつでもなるさ』
「……あっそ」
『でも、初めてだな。イミーナから、そんな事を言われるのは』
「悪い?」
『いいや?俺もイミーナと話すのは好きだから、構わないさ』
「……ふーん」
鏡に映る自分の顔が、赤くなっている。
暖かい湯で身体を濡らして、体温が上がった所為か……それとも、もっと単純な理由なのか。
『それで……なんだ、カルネ村の生活は上手く行ってるのか?』
「まぁね。村の狩人からも信用されてるし、尊敬されてるわ。でも、貴方がくれた弓、アレは正直、過剰でしょ」
『弓?あー……なんだっけな』
「アルティメイト・シューティングスター・スーパー」
『それだ。アルティメット・スーパー・シューティングスター』
「え?アルティメイト・シューティングスター・スーパーでしょ?」
『……すまん。名前に関してはうろ覚えなんだ。覚え辛くないか?』
「ぷっ」
ベリアルの情けない声に、イミーナは少し笑った。
『何も笑う事ないだろ……で、あの弓が過剰だったか。アレで獣を撃つと、爆散する、とかか?』
「いや、その辺の加減は出来てる、もう。でも、田舎の村で、私みたいなのが持つには強過ぎるってこと。紛失や破損したら、弁償できる気しないし」
『いや、弁償なんてしなくていい。あの……なんだ?』
「アルティメイト・シューティングスター・スーパー?」
『そう、それだ。その弓は俺からイミーナに贈ったものだ。気にしなくて良い』
会話しながらもイミーナは身体を拭いた。
「ていうか、そっちは?最近、大きい仕事が終わったんでしょ」
『ああ、聖王国の仕事がな。魔導国とも国交が開けるだろう』
「ふーん……で、他にも女の子、誑かしてきたんだ?」
『……人聞きが悪くないか?』
いいや、正論だ、とイミーナは思った。
そもそも、イミーナ自身、勝手にベリアルの住居に侵入したとはいえ、異形種の孕み袋にされかけたのだ。
その上で今、こんな関係になっているのだから……誑かされている、という自覚があった。
「それで?次はいつ会えるの?」
『そうだな……四日後とかはどうだ?』
「……忙しいの?」
『まぁ、そこそこだ。今日明日は書類仕事が立て込んでいるんだが……』
「……そう」
少し、イミーナは落ち込んだ。
会話して思ったのだ。
会いたい、と。
その気持ちは元々あった。
その上で、気持ちが強くなった。
『イミーナ?やっぱり、何かあったのか?』
「いや、そういう訳じゃなくて……ちょっと、会いたいな、って思ってから」
そう、イミーナは思いを口にした。
寂しいと思ったから、会話を始めた。
会話を続けたから、会いたくなった。
我儘な女だと自嘲しつつも、堪え難い。
『……そうか、『会いたい』か』
「悪い?」
『いいや』
対して、ベリアルの返答は短いものだった。
どういった表情で答えたのか、それは<
それでも、イミーナは少し眉尻を下げた。
怒りはなく、悲しみもない。
ただ、寂しかった。
「ま、気にしないで。四日後ってのは分かったから」
面倒臭い女だと思われたくない。
その一心で、イミーナは強がった。
『……いや、少し待ってくれ。その予定も』
「え?」
ベリアルの言葉に困惑していると、<
声が聞こえなくなってしまった。
そう落胆すると同時に、背後で気配がした。
「……何の音」
転移魔法による空間の裂け目が、イミーナの背後に現れた。
そしてそこから、男の顔が見えた。
「イミーナ。やはり、顔を合わせて話を……って──
ベリアルが部屋に現れた。
服を脱いで身体を拭いている今、部屋に。
「……あー」
「…………」
「待て……その、すまん。そんなつもりがあった訳ではなくて──
「取り敢えず、こっち見るのやめて」
「すまん」
語気を強めると、ベリアルは申し訳なさそうな顔をしながら目線を逸らした。
だが、既に何度も裸は見せあった仲だ。
裸を見られる以上に、恥ずかしいことを何度もしている。
その上で、男が申し訳なさそうにしているのならば……恥ずかしい気がしてくる。
イミーナは身体をぬぐい、乾いたタオルで水気を取りながら会話を続ける。
「で、どうして来たのよ」
不機嫌さの中に喜びを隠し、ベリアルへぶつける。
「それは……なんというか、今、会うべきだと思ったからな」
「は?なにそれ」
「書類仕事は後でも出来るしな。些細な事は後にしたんだ」
ちら、とイミーナはベリアルを見た。
目を閉じて、少し難しそうな顔をしている。
イミーナは考える。
ベリアルは不器用で、乙女心の分からない男だ。
そんな彼にも伝わるぐらい、会いたいという気持ちが溢れていたのかと。
恥ずかしさを感じる。
それと同時に喜びも。
「……ま、いいけど。どんだけ私の事が好きなの?」
「かなり好きだぞ」
「そういう返事を求めてないって」
「……悪かった」
「謝らなくてもいいでしょ」
一つ、ため息を吐いて、イミーナは下着を……部屋着を身につける。
湿気た髪を束ねる事はなく、ベリアルの方へ向き直した。
まだ、顔を逸らして、目も逸らしていた。
その様子を見て、イミーナは少し滑稽に思って笑みを浮かべた。
「もう目を開けていいから」
呼び掛ければ目を開けて、ベリアルはこちらを見た。
何度か目を瞬いて、何も話さない。
イミーナが不審に思っていると、ベリアルが口を開いた。
「あー、なんだ……その、いつもと髪型が違うが、それも似合ってるな」
「あっそ」
イミーナが顔を逸らして、水場から離れた。
何だか恥ずかしかったからだ。
そして、大きな机の前に座った。
それと同時にベリアルも向かい側に座った。
「それで、何か用事があるんじゃないの?」
「いや?ただイミーナに会いに来ただけだが」
「……本気で言ってる?」
「ああ、本気だ。今日明日ぐらい、予定を空けたからな。したい事、やって欲しい事とかないか?」
ベリアルの言葉に、イミーナはため息を吐いて頬杖をついた。
「あのさ……それ、あんたの悪い癖ね」
「ん?」
「何かをしてあげようってのに、何すればいいか本人に聞く癖。女ってのは、言った事をして貰うより、思ってる事をさりげなくして欲しいものでしょ?」
「……そうなのか?」
「人によるけど。私は少なくとも、そう」
「そうか……」
イミーナの言葉に、ベリアルは腕を組んで悩ましげな顔をした。
女慣れしているのに、していない。
肝心な所の選択肢は外さないのに、普段は抜けている。
良い男だが、情けなくもある。
その仕草を見て、イミーナは少し笑みを浮かべた。
(そういう所も、好きだけど)
口にすれば調子に乗るだろうから、口にはしない。
だが、その情けなさ……人間味をイミーナは可愛げと認識していた。
そんな中、ベリアルが口を開いた。
「……なら、俺の屋敷に来ないか?晩飯はまだだろう?ご馳走もする。それで、アルシェとも会う……いや、今日は遅いから、それは明日だな。それで、どうだ?」
考えた末の案に、イミーナは苦笑した。
「結局、いつも通りね」
「……ダメか?」
「ううん、いいけど。寧ろ、それがいいかな」
魔導国にあるベリアルの屋敷は、帝国内の高級宿屋より遥かに良い体験が出来る。
食事は美味い、風呂は広い、寝床は綺麗だ。
別棟に友人であるアルシェも住んでいる。
会いに行きたい気持ちもある。
「よし、なら行こうか」
安堵の息を吐いたベリアルを見て、イミーナは笑みを浮かべた。
◇◆◇
広い部屋に、大きな机。
その上には豪華絢爛な食事。
ベリアルと向かい合って、イミーナは料理を口にした。
「これ、美味しいわね」
柑橘系の味が僅かにする焼き魚だ。
ハーブの匂いがして、後味もいい。
「そうだな」
ベリアルも口にしている。
彼自身も美味そうに食べているが……イミーナは少し不満に思った。
自分からすれば感動するほど美味いのに、ベリアルのリアクションが薄いからだ。
それは間違いなく、慣れから来ているものだ。
「こんなに美味しいものばかり、毎日食べてると……舌が肥えるでしょ」
自分の舌が貧しいと思いたくないイミーナは、少し嫌味を口にしてしまった。
そして、口にしてから後悔した。
美味しい食事を提供された立場の人間が、そんな嫌味を言うなんて……と。
自分の性格に嫌気までさしていた。
だが、ベリアルはそんな様子もなく頷いた。
「確かに、そうだな。俺もこの待遇に慣れてきてしまっている……皆には感謝しないとな」
それどころか、殊勝な発言までした。
イミーナは嫌味が通じなかった事に少し呆れつつ、笑みを浮かべた。
「あんたって……はぁ、なんでもない」
「……何か俺が、気に障るような事を言ったか?」
「逆よ、逆」
「逆?」
困惑するベリアルを見つつ、イミーナはスープを口に含んだ。
南瓜の甘みと、温かさを感じつつ、ため息を吐いた。
「ていうか、愚痴吐きたいんだけど。聞いて貰っていい?」
「愚痴?いいぞ、イミーナの話なら、俺は何でも聞くが」
ベリアルの言葉に、よくもまぁ素面でこんなことが言える……とイミーナは苦笑した。
だが、発言自体は嫌ではなかった。
「最近さ、カルネ村の若い男達にさ。好意持たれてるみたいで」
口にしながら、愚痴というよりモテ自慢に聞こえるかも……なんて、イミーナは後悔した。
したが、口にした言葉は引っ込める事はできない。
ベリアルを一瞥すると……何とも言えない顔をしていた。
何というか、不安そうな顔だ。
「ベリアル?」
「あ、あー……あぁ、そうだな。イミーナはモテるな、確かに。良い女だからな」
「……そう?」
褒められて嫌な気分はしない。
ただ、不安そうな顔はなんなのか、イミーナは首を傾げた。
すると、ベリアルが口を開いた。
「それで……気になる男は居るのか?」
そして、脈絡もない事を口にした。
「……なるほど、そういう事ね。はぁ」
そんなベリアルの言葉を聞いて、イミーナはその不安そうな顔の理由を理解して、ため息を吐いた。
「……イミーナ?」
「あんたは自信が無さ過ぎ。村の男程度で、私が浮気する訳ないでしょ」
イミーナは考える。
ベリアルは良い男である。
女を何人も娶るような男だが、甲斐性がある。
一度、懐に入った女を大事にする責任感もある。
確かに、欠点はある。
だが、それを遥かに凌ぐ良い所がある。
(それに、
イミーナはベリアルのことを愛している。
それは元々いた恋人であるヘッケランを捨ててまで、全てを捧げたいと思った程だ。
確かにヘッケランとは恋人であった。
一緒にいて、快適な恋人ではあった。
だが、全てを捧げたいと思ったのはベリアル相手が初めてだった。
身も心も……望むのなら、全てだ。
それ程までに、恋をしている。
「……そうか?」
「なに?あんた、女に浮気された経験でもあんの?」
まさか、この男を捨てて浮気するような女は居ないだろう。
そう思って、イミーナは煽るように口にしたのだが──
「……まぁ、な」
まさか、同意が返ってくるとは思わなかった。
「え?は?嘘でしょ?」
「嘘じゃないさ」
「……誰?」
「かなり昔の話だ。今のような立場でもなく、力もなかった頃の話だな」
ベリアルは少し落ち込んだ様子で、自嘲した。
その様子を見て、イミーナは自分の失言を悟った。
それと同時に、怒りが湧いた。
ベリアルに対して、ではない。
「じゃあ、その女に見る目がなかっただけでしょ。あんたは悪くないわ」
その浮気した女に対してだ。
「……そうか?」
「そう……少なくとも、私はあんたから誰かに乗り換えるつもりはないけど。ま、寝取られた私が言っても信用無いかもしれないけどさ」
イミーナも自嘲した。
元々いた恋人から、ベリアルに乗り換えたのは事実だ。
そんな自分がベリアルに、私は浮気しない!と言った所で信用はないだろう。
「いや、俺はイミーナを信用するさ」
そんなイミーナに対して、ベリアルも言葉を口にした。
……少し、気まずい空気が流れる。
互いに自嘲して、互いに慰め合う。
何とも気恥ずかしい事だ。
イミーナは話題を無理矢理、戻す事にした。
「って、そんな話がしたいんじゃなくて……興味ない男達から好意持たれていて困ってるってこと」
「……あー、そうだな。それは確かに困るな」
「でしょ?恋人がいるって言ったら黙るかな」
「言ってないのか?」
「まぁ、カルネ村では一人だし。男連れ込んでる訳じゃないし。勝手に独り身だと思われてんのよ」
「言えば良いじゃないか、俺が居るって」
「あんた、自分の立場を考えた事ある?村を救った英雄、アインズ・ウール・ゴウン殿下の右腕でしょ?私みたいなのを恋人にしてるって知られたら、幻滅されるかも知れない」
イミーナはそう口にした。
確かに村人からすれば人気なのは確かだ。
だが、それは村人からも手が届きそうな美人だからだと、イミーナは自覚していた。
女らしい肉付きはなく、胸は小さい。
目付きは悪いし、性格も良くない。
その自覚はイミーナにもあったのだが……ベリアルは首を振った。
「イミーナと恋仲にあって落ちる評判なんてない。そして、それで落ちるような評判ならクソ喰らえだ。言えば良いだろう」
その言葉にイミーナは頬が緩んだ。
顔も赤くなった。
嬉しいが、恥ずかしい。
無理矢理、意図的に……目付きを厳しくして、ベリアルを睨んだ。
「……今食事中なんだけど。クソ喰らえ、なんて汚い言葉使わないでくれる?」
「……すまん」
照れ隠しだということは、ベリアルにも伝わっているのだろうか。
素直じゃない……と自覚しつつ、イミーナはワインを口にした。
少し、苦味を感じる。
その苦味が逆に、気恥ずかしさを打ち消してくれるような気がした。