※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#110 幕間:イミーナ 前編

エ・ランテルから北東……魔導国領土内。

カルネ村。

 

ゴブリンやオーガ、他にも幾らかの異形種が在住する村である。

 

そんな村から少し離れて、大森林が存在する。

トブの大森林と呼ばれるその場所は、カルネ村の生活とは切っては切れない場所だ。

生活必需品である薪、治癒薬の元となる薬草、食料となる果実や野草、動物の皮や肉……自然の恵みを与えてくれる場所である。

 

だが、安全な場所とはいえない。

宝の山と言ってもいい場所ではあるが、モンスターが存在する。

恵みを頂くと言っても、モンスターに会わぬよう祈り、こそこそと盗み取るような事しか出来なかった。

 

しかし、それは過去の話である。

今はゴブリン達の協力をもって、比較的安全に狩りや採取が出来る。

 

そして、異形種だけではなく──

 

 

「イミーナさん、行きました!」

 

 

村の狩人の言葉に、イミーナは木の上で目を開いた。

眠っていた訳ではない。

耳を澄ましていただけだ。

 

獣の足音を耳に、位置と数、質を特定する。

走ってくるのは巨大猪(ジャイアント・ボア)

数は二体……猪は基本的に群れない。

大きさに差はない……母子ではない。

番だ。

 

 

「……よし」

 

 

野伏(レンジャー)としての経験値を元に、イミーナはそう判断し、背中に背負っていた弓を手に取る。

 

それは魔獣の牙や爪を元に、貴金属のフレームを持つ弓だった。

各所に光る文字が刻まれており、ただの弓ではない事を見る者に理解させる。

 

名をアルティメイト・シューティングスター・スーパー。

既に失伝した太古の技術<ルーン>によって強化された弓である。

 

そんな弓に矢を番える。

矢は凡百のもので、カルネ村で養畜している鶏から取れた羽根を使用している。

ただの矢、だが特異な弓につがえる事で、ただの矢ではなくなる。

 

そんな矢を、二本。

同時に、弓に番えた。

 

 

「…………」

 

 

一呼吸。

矢を同時に、二本放つ。

 

矢はいっさい揺れる事なく、空を引き裂き、木々を通り抜ける。

 

そして──

 

 

「グモッ!?」

 

「ブゴッ」

 

 

獣の悲鳴が聞こえた。

目を凝らせば……頭蓋に矢があたり、矢尻まで突き刺さっている巨大猪(ジャイアント・ボア)の姿が二つ重なっていた。

 

 

「……ま、こんなものね」

 

 

アルティメイト・シューティングスター・スーパー……弓を背中に戻して、木から飛び降りる。

そうしてそのまま、仕留めた巨大猪(ジャイアント・ボア)に近寄った。

 

側には、既にカルネ村の狩人達が集まっていた。

 

 

「いやぁ、流石はイミーナさんです」

 

「そんなに褒めなくていいわ。弓のお陰だから」

 

「ご謙遜を……その弓を扱えているのは、イミーナさんだからですよ」

 

「……あっそ。血抜き、お願いできる?」

 

 

適当に流して、血抜きを頼む。

巨大猪(ジャイアント・ボア)の体長は、成人男性の三倍ほど。

大きさだけでいえば、一般的な猪の倍以上ある。

 

その肉は食料になり、牙は工芸品に、毛皮は服、皮は防具になる。

自然の恵みという奴だ。

 

イミーナはため息を吐きながら、木にもたれ掛かる。

視線が狩人達から集まっているのを自覚しつつ、無視する。

 

イミーナは、森妖精(エルフ)と人間のハーフである。

その容姿は森妖精(エルフ)譲りであり、一般的な女性よりも優れている。

その自覚はイミーナにもある。

 

だからこそ、カルネ村の狩人である若い男性陣から、そういった目で見られるのも理解できている。

 

村に来るナザリックのメイド……ルプスレギナやユリも美人ではある。

だが、彼女達は美人すぎる。

ほんの少しもチャンスがないと思えるほどに、完璧な美しさをもつ。

高嶺の花というやつだ。

 

対して、イミーナは一般的な美人の範疇に収まる。

なので、村の狩人からアプローチされている。

 

 

(これさえなければ、暮らしやすいんだけど)

 

 

ベリアルの側室となってから、幾らか時が経った。

カルネ村に在住し、野伏(レンジャー)としての技能を活かして、森に入る村人の護衛をしている。

 

彼等の手に負えない獣や、モンスターが現れた時に戦う仕事だ。

 

その為の武具として、ベリアルからアルティメイト・シューティングスター・スーパーを預かっている。

 

 

(……まったく、過保護なんだから)

 

 

背中の弓、その力。

明らかにトブの大森林に生息するモンスター相手には、過剰戦力と言わざるを得ない。

先程もそうだ。

加減しなければ、巨大猪(ジャイアント・ボア)を爆破していただろう。

 

 

「イミーナさん、終わりました!」

 

「そう。じゃあ、村まで運びましょ」

 

 

必要最低限の部位を幾つかの台車に分けて、何人もの男手で運ばれていく。

大仕事だが、イミーナは手伝わない。

 

イミーナの仕事は用心棒であり、狩人ではないからだ。

 

 

運ばれていく巨大猪(ジャイアント・ボア)に並んで、イミーナの足を進める。

トブの大森林から離れて、カルネ村に到着すれば──

 

 

「みなさん、ご苦労様です!」

 

 

可愛らしい容姿の女性が、狩人達に頭を下げていた。

 

 

(げっ……)

 

 

その女に対して、イミーナは苦手意識を持っていた。

こそこそと、ゴブリンに囲まれた女に見つからぬよう移動する。

 

女の名は、エンリ・エモット。

カルネ村の村長であり、数多のゴブリンとオーガ、トロールすらを従える覇王である。

 

そんなエンリに対して、イミーナは苦手意識を持っているのだ。

 

 

「あ、イミーナさんも、お疲れ様です!」

 

「え、あー……お疲れ様」

 

 

見つかって声を掛けられて、小さく手を振った。

 

イミーナはゴブリンや、オーガなどの異形種が苦手である。

元々、請負人(ワーカー)として異形種と戦っていたから……というのもあるが、ナザリック地下大墳墓での記憶の所為もある。

 

ベリアルによる記憶処置により、その大半は曖昧な物となっているが……それでも、異形種との交配実験に従事したという事実は残っている。

異形種の雄を見ると、記憶になくとも嫌悪感が湧いてしまうのだ。

 

そんな異形種を従えている覇王エンリ……苦手意識をもって当然であった。

 

 

「じゃ、私は帰るから。あんた達は、後始末しておいてね」

 

 

目線を狩人達に向ければ、頷かれた。

 

 

「分かりました、イミーナさん!あ、よろしければ、夜にでも食事を──

 

「ごめん、無理」

 

 

予定はないが、彼等との予定を入れるつもりはない。

落ち込む若い男の狩人を無視して、イミーナは自宅へと足を進めた。

 

 

自宅は、村の中心から少し離れた所にある。

トブの森林で伐採した木を利用した木造建築であり、一人で暮らすには少し広い家だ。

 

昨今、カルネ村に移住してきた移民向けの建築が進んでいる。

その一環で建てられた家である。

 

 

「……ただいま、っと」

 

 

誰も返事はしないが、口に出す。

背負っていたアルティメイト・シューティングスター・スーパーを壁に掛けて、皮の鎧を脱ぐ。

蒸れた黒い服を脱ぎ捨てて、魔法道具(マジックアイテム)で水桶に湯を溜める。

 

そして、十分に溜まったのを確認して……水場に桶ごと移動する。

 

布を濡らし、ベリアルから贈られた石鹸を布で擦る。

泡だった事を確認して、そのまま体を拭い始めた。

 

 

「……はぁ」

 

 

鏡を見れば、半裸で体を洗う自分の姿が映る。

 

イミーナは自分の体を見た。

薄い身体だ。

森妖精(エルフ)特有の肉付きの無さ。

胸も尻も、丸みが殆どない。

 

辛うじて、くびれだけが女である事を示している。

 

 

「…………」

 

 

確かに、村の若い男性には受けがいい。

モテていると言ってもいい。

ただ、それは村人の基準だ。

 

イミーナは考える。

自分が好意を寄せている男の近くには、魅力的な女性が多い。

若くて綺麗で、スタイルのいい……自分と違って素直で、可愛らしい性格の女性達。

品のあるメイドや、凄腕の戦士など。

 

自分より女性として、人間として価値のある側室達。

そこに並ぶには、少し自信が足りない。

 

それもこれも、その男が村に中々来ないのが原因である。

 

 

「……何考えてんだろ、私」

 

 

イミーナは自身の薬指を撫でた。

銀色のシンプルなデザイン指輪がそこにあった。

愛を囁かれ、受け渡された指輪。

それはベリアルの側室である証だ。

 

そして、<伝言(メッセージ)>の魔法が付与された魔法道具(マジックアイテム)でもある。

 

 

「…………」

 

 

困った事があれば、連絡して欲しいと言われている。

危機に陥った時、指輪を介して呼べば、いつでも来てくれると。

 

それはきっと事実である。

ベリアルは庇護欲が強い。

身内と認めた人間に対して、何があっても見捨てない。

 

それはイミーナにも分かっている。

 

 

「……………」

 

 

特に、今は何か困っている事などない。

別に、この指輪は緊急時にしか使ってはならないという決まりはない。

 

話をしたければ、使っても良い筈だ。

だが、それは少し躊躇われる。

 

ベリアルには現在、何人もの側室が居る。

各々が気のままに<伝言(メッセージ)>を使えば、休む暇などなくなってしまうだろう。

だから、滅多な事がなければ使わないように、側室達は注意しているのだ。

 

それはイミーナにも分かっている。

分かっている上で……無意識に魔力を流し込んでしまった。

 

 

『……ん?イミーナか?何かあったか?』

 

「あっ」

 

 

声が返ってきた時、イミーナは自分が何をしていたか気付いてしまった。

間違って<伝言(メッセージ)>を使ったのか……といえば、嘘になる。

何かあったか、といえば何もない。

であれば何故、<伝言(メッセージ)>を使ったのか。

 

 

「……何もないけど。ちょっと話したかっただけ」

 

 

単純な動機だ。

 

 

『なんだ、そうか。別に助けが欲しい訳じゃないんだな?』

 

「そうだけど……ダメだった?」

 

 

問いかける。

裸のまま、鏡を前にしながら……少し不安げで情けない表情を浮かべる自分を見ながら。

 

 

『いや、いいさ。話したかったんだろう?話し相手になら、いつでもなるさ』

 

「……あっそ」

 

『でも、初めてだな。イミーナから、そんな事を言われるのは』

 

「悪い?」

 

『いいや?俺もイミーナと話すのは好きだから、構わないさ』

 

「……ふーん」

 

 

鏡に映る自分の顔が、赤くなっている。

暖かい湯で身体を濡らして、体温が上がった所為か……それとも、もっと単純な理由なのか。

 

 

『それで……なんだ、カルネ村の生活は上手く行ってるのか?』

 

「まぁね。村の狩人からも信用されてるし、尊敬されてるわ。でも、貴方がくれた弓、アレは正直、過剰でしょ」

 

『弓?あー……なんだっけな』

 

「アルティメイト・シューティングスター・スーパー」

 

『それだ。アルティメット・スーパー・シューティングスター』

 

「え?アルティメイト・シューティングスター・スーパーでしょ?」

 

『……すまん。名前に関してはうろ覚えなんだ。覚え辛くないか?』

 

「ぷっ」

 

 

ベリアルの情けない声に、イミーナは少し笑った。

 

 

『何も笑う事ないだろ……で、あの弓が過剰だったか。アレで獣を撃つと、爆散する、とかか?』

 

「いや、その辺の加減は出来てる、もう。でも、田舎の村で、私みたいなのが持つには強過ぎるってこと。紛失や破損したら、弁償できる気しないし」

 

『いや、弁償なんてしなくていい。あの……なんだ?』

 

「アルティメイト・シューティングスター・スーパー?」

 

『そう、それだ。その弓は俺からイミーナに贈ったものだ。気にしなくて良い』

 

 

会話しながらもイミーナは身体を拭いた。

 

 

「ていうか、そっちは?最近、大きい仕事が終わったんでしょ」

 

『ああ、聖王国の仕事がな。魔導国とも国交が開けるだろう』

 

「ふーん……で、他にも女の子、誑かしてきたんだ?」

 

『……人聞きが悪くないか?』

 

 

いいや、正論だ、とイミーナは思った。

そもそも、イミーナ自身、勝手にベリアルの住居に侵入したとはいえ、異形種の孕み袋にされかけたのだ。

その上で今、こんな関係になっているのだから……誑かされている、という自覚があった。

 

 

「それで?次はいつ会えるの?」

 

『そうだな……四日後とかはどうだ?』

 

「……忙しいの?」

 

『まぁ、そこそこだ。今日明日は書類仕事が立て込んでいるんだが……』

 

「……そう」

 

 

少し、イミーナは落ち込んだ。

会話して思ったのだ。

会いたい、と。

その気持ちは元々あった。

その上で、気持ちが強くなった。

 

 

『イミーナ?やっぱり、何かあったのか?』

 

「いや、そういう訳じゃなくて……ちょっと、会いたいな、って思ってから」

 

 

そう、イミーナは思いを口にした。

寂しいと思ったから、会話を始めた。

会話を続けたから、会いたくなった。

 

我儘な女だと自嘲しつつも、堪え難い。

 

 

『……そうか、『会いたい』か』

 

「悪い?」

 

『いいや』

 

 

対して、ベリアルの返答は短いものだった。

どういった表情で答えたのか、それは<伝言(メッセージ)>越しだから分からない。

 

それでも、イミーナは少し眉尻を下げた。

怒りはなく、悲しみもない。

ただ、寂しかった。

 

 

「ま、気にしないで。四日後ってのは分かったから」

 

 

面倒臭い女だと思われたくない。

その一心で、イミーナは強がった。

 

 

『……いや、少し待ってくれ。その予定も』

 

「え?」

 

 

ベリアルの言葉に困惑していると、<伝言(メッセージ)>が切断された。

声が聞こえなくなってしまった。

そう落胆すると同時に、背後で気配がした。

 

 

「……何の音」

 

 

転移魔法による空間の裂け目が、イミーナの背後に現れた。

そしてそこから、男の顔が見えた。

 

 

「イミーナ。やはり、顔を合わせて話を……って──

 

 

ベリアルが部屋に現れた。

服を脱いで身体を拭いている今、部屋に。

 

 

「……あー」

 

「…………」

 

「待て……その、すまん。そんなつもりがあった訳ではなくて──

 

「取り敢えず、こっち見るのやめて」

 

「すまん」

 

 

語気を強めると、ベリアルは申し訳なさそうな顔をしながら目線を逸らした。

 

だが、既に何度も裸は見せあった仲だ。

裸を見られる以上に、恥ずかしいことを何度もしている。

その上で、男が申し訳なさそうにしているのならば……恥ずかしい気がしてくる。

 

イミーナは身体をぬぐい、乾いたタオルで水気を取りながら会話を続ける。

 

 

「で、どうして来たのよ」

 

 

不機嫌さの中に喜びを隠し、ベリアルへぶつける。

 

 

「それは……なんというか、今、会うべきだと思ったからな」

 

「は?なにそれ」

 

「書類仕事は後でも出来るしな。些細な事は後にしたんだ」

 

 

ちら、とイミーナはベリアルを見た。

目を閉じて、少し難しそうな顔をしている。

 

イミーナは考える。

ベリアルは不器用で、乙女心の分からない男だ。

そんな彼にも伝わるぐらい、会いたいという気持ちが溢れていたのかと。

 

恥ずかしさを感じる。

それと同時に喜びも。

 

 

「……ま、いいけど。どんだけ私の事が好きなの?」

 

「かなり好きだぞ」

 

「そういう返事を求めてないって」

 

「……悪かった」

 

「謝らなくてもいいでしょ」

 

 

一つ、ため息を吐いて、イミーナは下着を……部屋着を身につける。

湿気た髪を束ねる事はなく、ベリアルの方へ向き直した。

 

まだ、顔を逸らして、目も逸らしていた。

その様子を見て、イミーナは少し滑稽に思って笑みを浮かべた。

 

 

「もう目を開けていいから」

 

 

呼び掛ければ目を開けて、ベリアルはこちらを見た。

何度か目を瞬いて、何も話さない。

 

イミーナが不審に思っていると、ベリアルが口を開いた。

 

 

「あー、なんだ……その、いつもと髪型が違うが、それも似合ってるな」

 

「あっそ」

 

 

イミーナが顔を逸らして、水場から離れた。

何だか恥ずかしかったからだ。

 

そして、大きな机の前に座った。

それと同時にベリアルも向かい側に座った。

 

 

「それで、何か用事があるんじゃないの?」

 

「いや?ただイミーナに会いに来ただけだが」

 

「……本気で言ってる?」

 

「ああ、本気だ。今日明日ぐらい、予定を空けたからな。したい事、やって欲しい事とかないか?」

 

 

ベリアルの言葉に、イミーナはため息を吐いて頬杖をついた。

 

 

「あのさ……それ、あんたの悪い癖ね」

 

「ん?」

 

「何かをしてあげようってのに、何すればいいか本人に聞く癖。女ってのは、言った事をして貰うより、思ってる事をさりげなくして欲しいものでしょ?」

 

「……そうなのか?」

 

「人によるけど。私は少なくとも、そう」

 

「そうか……」

 

 

イミーナの言葉に、ベリアルは腕を組んで悩ましげな顔をした。

 

女慣れしているのに、していない。

肝心な所の選択肢は外さないのに、普段は抜けている。

良い男だが、情けなくもある。

 

その仕草を見て、イミーナは少し笑みを浮かべた。

 

 

(そういう所も、好きだけど)

 

 

口にすれば調子に乗るだろうから、口にはしない。

だが、その情けなさ……人間味をイミーナは可愛げと認識していた。

 

そんな中、ベリアルが口を開いた。

 

 

「……なら、俺の屋敷に来ないか?晩飯はまだだろう?ご馳走もする。それで、アルシェとも会う……いや、今日は遅いから、それは明日だな。それで、どうだ?」

 

 

考えた末の案に、イミーナは苦笑した。

 

 

「結局、いつも通りね」

 

「……ダメか?」

 

「ううん、いいけど。寧ろ、それがいいかな」

 

 

魔導国にあるベリアルの屋敷は、帝国内の高級宿屋より遥かに良い体験が出来る。

食事は美味い、風呂は広い、寝床は綺麗だ。

 

別棟に友人であるアルシェも住んでいる。

会いに行きたい気持ちもある。

 

 

「よし、なら行こうか」

 

 

安堵の息を吐いたベリアルを見て、イミーナは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広い部屋に、大きな机。

その上には豪華絢爛な食事。

 

ベリアルと向かい合って、イミーナは料理を口にした。

 

 

「これ、美味しいわね」

 

 

柑橘系の味が僅かにする焼き魚だ。

ハーブの匂いがして、後味もいい。

 

 

「そうだな」

 

 

ベリアルも口にしている。

彼自身も美味そうに食べているが……イミーナは少し不満に思った。

自分からすれば感動するほど美味いのに、ベリアルのリアクションが薄いからだ。

 

それは間違いなく、慣れから来ているものだ。

 

 

「こんなに美味しいものばかり、毎日食べてると……舌が肥えるでしょ」

 

 

自分の舌が貧しいと思いたくないイミーナは、少し嫌味を口にしてしまった。

そして、口にしてから後悔した。

 

美味しい食事を提供された立場の人間が、そんな嫌味を言うなんて……と。

自分の性格に嫌気までさしていた。

 

だが、ベリアルはそんな様子もなく頷いた。

 

 

「確かに、そうだな。俺もこの待遇に慣れてきてしまっている……皆には感謝しないとな」

 

 

それどころか、殊勝な発言までした。

イミーナは嫌味が通じなかった事に少し呆れつつ、笑みを浮かべた。

 

 

「あんたって……はぁ、なんでもない」

 

「……何か俺が、気に障るような事を言ったか?」

 

「逆よ、逆」

 

「逆?」

 

 

困惑するベリアルを見つつ、イミーナはスープを口に含んだ。

南瓜の甘みと、温かさを感じつつ、ため息を吐いた。

 

 

「ていうか、愚痴吐きたいんだけど。聞いて貰っていい?」

 

「愚痴?いいぞ、イミーナの話なら、俺は何でも聞くが」

 

 

ベリアルの言葉に、よくもまぁ素面でこんなことが言える……とイミーナは苦笑した。

だが、発言自体は嫌ではなかった。

 

 

「最近さ、カルネ村の若い男達にさ。好意持たれてるみたいで」

 

 

口にしながら、愚痴というよりモテ自慢に聞こえるかも……なんて、イミーナは後悔した。

したが、口にした言葉は引っ込める事はできない。

 

ベリアルを一瞥すると……何とも言えない顔をしていた。

何というか、不安そうな顔だ。

 

 

「ベリアル?」

 

「あ、あー……あぁ、そうだな。イミーナはモテるな、確かに。良い女だからな」

 

「……そう?」

 

 

褒められて嫌な気分はしない。

ただ、不安そうな顔はなんなのか、イミーナは首を傾げた。

 

すると、ベリアルが口を開いた。

 

 

「それで……気になる男は居るのか?」

 

 

そして、脈絡もない事を口にした。

 

 

「……なるほど、そういう事ね。はぁ」

 

 

そんなベリアルの言葉を聞いて、イミーナはその不安そうな顔の理由を理解して、ため息を吐いた。

 

 

「……イミーナ?」

 

「あんたは自信が無さ過ぎ。村の男程度で、私が浮気する訳ないでしょ」

 

 

イミーナは考える。

 

ベリアルは良い男である。

女を何人も娶るような男だが、甲斐性がある。

一度、懐に入った女を大事にする責任感もある。

 

確かに、欠点はある。

だが、それを遥かに凌ぐ良い所がある。

 

 

(それに、性行為(エッチ)も上手いし)

 

 

イミーナはベリアルのことを愛している。

それは元々いた恋人であるヘッケランを捨ててまで、全てを捧げたいと思った程だ。

 

確かにヘッケランとは恋人であった。

一緒にいて、快適な恋人ではあった。

だが、全てを捧げたいと思ったのはベリアル相手が初めてだった。

身も心も……望むのなら、全てだ。

 

それ程までに、恋をしている。

 

 

「……そうか?」

 

「なに?あんた、女に浮気された経験でもあんの?」

 

 

まさか、この男を捨てて浮気するような女は居ないだろう。

そう思って、イミーナは煽るように口にしたのだが──

 

 

「……まぁ、な」

 

 

まさか、同意が返ってくるとは思わなかった。

 

 

「え?は?嘘でしょ?」

 

「嘘じゃないさ」

 

「……誰?」

 

「かなり昔の話だ。今のような立場でもなく、力もなかった頃の話だな」

 

 

ベリアルは少し落ち込んだ様子で、自嘲した。

その様子を見て、イミーナは自分の失言を悟った。

それと同時に、怒りが湧いた。

 

ベリアルに対して、ではない。

 

 

「じゃあ、その女に見る目がなかっただけでしょ。あんたは悪くないわ」

 

 

その浮気した女に対してだ。

 

 

「……そうか?」

 

「そう……少なくとも、私はあんたから誰かに乗り換えるつもりはないけど。ま、寝取られた私が言っても信用無いかもしれないけどさ」

 

 

イミーナも自嘲した。

元々いた恋人から、ベリアルに乗り換えたのは事実だ。

そんな自分がベリアルに、私は浮気しない!と言った所で信用はないだろう。

 

 

「いや、俺はイミーナを信用するさ」

 

 

そんなイミーナに対して、ベリアルも言葉を口にした。

 

……少し、気まずい空気が流れる。

互いに自嘲して、互いに慰め合う。

何とも気恥ずかしい事だ。

 

イミーナは話題を無理矢理、戻す事にした。

 

 

「って、そんな話がしたいんじゃなくて……興味ない男達から好意持たれていて困ってるってこと」

 

「……あー、そうだな。それは確かに困るな」

 

「でしょ?恋人がいるって言ったら黙るかな」

 

「言ってないのか?」

 

「まぁ、カルネ村では一人だし。男連れ込んでる訳じゃないし。勝手に独り身だと思われてんのよ」

 

「言えば良いじゃないか、俺が居るって」

 

「あんた、自分の立場を考えた事ある?村を救った英雄、アインズ・ウール・ゴウン殿下の右腕でしょ?私みたいなのを恋人にしてるって知られたら、幻滅されるかも知れない」

 

 

イミーナはそう口にした。

確かに村人からすれば人気なのは確かだ。

だが、それは村人からも手が届きそうな美人だからだと、イミーナは自覚していた。

 

女らしい肉付きはなく、胸は小さい。

目付きは悪いし、性格も良くない。

 

その自覚はイミーナにもあったのだが……ベリアルは首を振った。

 

 

「イミーナと恋仲にあって落ちる評判なんてない。そして、それで落ちるような評判ならクソ喰らえだ。言えば良いだろう」

 

 

その言葉にイミーナは頬が緩んだ。

顔も赤くなった。

嬉しいが、恥ずかしい。

 

無理矢理、意図的に……目付きを厳しくして、ベリアルを睨んだ。

 

 

「……今食事中なんだけど。クソ喰らえ、なんて汚い言葉使わないでくれる?」

 

「……すまん」

 

 

照れ隠しだということは、ベリアルにも伝わっているのだろうか。

素直じゃない……と自覚しつつ、イミーナはワインを口にした。

 

少し、苦味を感じる。

その苦味が逆に、気恥ずかしさを打ち消してくれるような気がした。

 

 

 

 

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