※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#112 幕間:レイナース・ロックブルズ 前編

レイナース・ロックブルズは帝国騎士である。

それも一般の騎士ではなく、帝国四騎士であり、「重爆」のレイナースと呼ばれている。

要人の警護や、騎士団に対する一時的な指揮など、皇帝ジルクニフの側近としての立場を持つ。

 

全身を魔法道具(マジックアイテム)で身に纏っており、鎧騎士のような風貌をしている。

だが、その状態でも俊敏に力強く動くことができる。

 

バハルス帝国でも指折りの戦力を持つ騎士……それがレイナースである。

 

しかし、ここに至るまで順風満帆な人生とは言えなかった。

レイナースは元々、帝国領主の娘だった。

槍を手に、家領に出没するモンスターを狩ることを使命としていた。

弱きを守る、それが貴族としての誇りであると。

 

婚約者もいた。

平均的な貴族の男であったが、それ故にレイナースとはあまり反りが合わなかった。

彼はレイナースに淑女であることを求め、騎士の真似事を辞めるように言い聞かせてきた。

 

鬱陶しいとは思っていた。

だが、レイナースは貴族令嬢としての常識を持っていた。

そして、レイナースは見目麗しかった。

女としての役目を果たせば、男はそれで満足してくれた。

処女を失ったのも、その頃である。

 

しかし、そんな生活は長続きしなかった。

 

ある時、討伐したモンスターが死に際に呪いを放った。

それはレイナースの顔に命中し、右半分を腐敗させた。

 

どんな解呪魔法でも、魔法道具(マジックアイテム)でも治療は不可能であった。

 

自らの容姿に誇りを持っていたレイナースは傷付いた。

身も心も傷付き、失意の中にいた。

 

そんなレイナースに対して、領主である父も、婚約者である男も、慰めはしなかった。

それどころか世間体を気にする実家からは追放され、婚約者からは婚約破棄された。

 

レイナースは失意の中にいた。

だが、レイナースは強い女であった。

身体だけではなく、心も強かったのだ。

 

レイナースは逆境をバネに、復讐心を糧に、強くなった。

そして、バハルス帝国の皇帝であるジルクニフに認められて、四騎士となった。

 

その際に、実家や元婚約者に復讐する事ができた。

その後は呪いを解くために騎士を続けていた。

 

それがレイナースの過去である。

 

 

「……ふふ」

 

 

早朝。

レイナースは鎧姿のまま、馬に乗っていた。

場所は魔導国、首都エ・ランテルである。

 

帝国から離れ、同盟国である魔導国まで来ていたのだ。

しかし、それも仕事の内である。

 

レイナースは皇帝ジルクニフの命令により、定期的に魔導国の視察をしている。

ジルクニフにとって魔導国とは警戒すべき国であり、潜在的な敵国であるという認識らしい。

 

レイナースはそれについて、失笑していた。

ジルクニフには恩がある。

それでも、勝てぬ戦に加勢するほど忠誠心がある訳もない。

 

それだけ魔導国と帝国の間にある、国力の差は凄まじい。

 

 

「…………」

 

 

馬に乗ったレイナースは、ある屋敷の前で降りた。

屋敷の門番をしている男に馬を預けて、門を潜る。

 

広い庭の先には大きな屋敷がある。

それは魔導国の首都エ・ランテルの都市長の持つ屋敷だ。

 

正面に、帝国の大貴族が持っている程の大きさの屋敷。

左右には、それの半分程の大きさを持つ別棟。

 

富と権力を感じさせる、そんな屋敷だ。

庭を歩き、入り口へと近付けば……アンデッドの騎士が出迎える。

 

死の騎士(デス・ナイト)。

帝国魔法省の地下に封印されているものと同じ、アンデッドモンスターだ。

帝国随一の魔法詠唱者(マジックキャスター)であるフールーダ・パラダインでも使役出来ないほど強力なアンデッドだ。

 

そんなアンデッドが大人しく家の防衛をしている。

なんとも恐ろしい景色であるが、レイナースはもう慣れていた。

 

デス・ナイトの横を通り抜け、ドアノッカーを叩けば……大きな扉が開いた。

 

 

「ようこそおいで下さいました、レイナース様」

 

 

そこに居たのはメイドだ。

森妖精(エルフ)特有の長い耳を持つ、見目麗しいメイドだった。

 

 

「こちらこそ、お招き頂きありがとうございますわ……入っても?」

 

「はい、ご案内致します」

 

 

レイナースは小さく頭を下げて、手招かれるまま屋敷へと足を踏み入れた。

レイナースは四騎士であり、目の前のメイドより地位は高い。

だが、偉ぶる事はしない。

 

ここの屋敷の主はメイド達に対して、一定の敬意を持っている。

であれば、蔑ろにすることは出来ない。

嫌われたくないのだ、レイナースも。

 

屋敷の中はいつも通りの景色である。

上等な絨毯に、素晴らしい家具。

日中ではあるが魔法灯が灯り、暗い場所もない。

 

メイドに案内されるまま、屋敷の奥へと足を踏み入れる。

……案内などなくとも、レイナースは屋敷の構造を理解している。

だが、案内されることも礼儀の一つなのだ。

文句など言わず、ただ従う。

 

そして、ある一部屋に到着する。

それは都市長の執務室である。

 

メイドが頭を下げて横に捌ける。

 

レイナースは深呼吸を一つして、薬指に付けた指輪を撫でた。

そして、ドアを叩き……ドアを開いた。

 

 

「ああ、レイナースか。よく来たな」

 

 

執務机に座っていたのは、この屋敷の主人だ。

そして、呪われた自分を愛してくれて、呪いを解いてくれた……最も愛する男だ。

 

 

「ご機嫌よう、ベリアル様。本日もお目に掛かれて光栄ですわ」

 

「……そう固くならなくても」

 

「相応の身分にある方に挨拶するのであれば、体裁は必要ですわ」

 

「ここには身内しかいないのに、そういうものか?」

 

「ええ、そういうものですわ」

 

 

苦笑するベリアルを見て、レイナースは笑みを浮かべた。

 

ベリアルは貴族のマナーに疎い。

元々が貴族の出ではないことを、レイナースは知っていた。

だからこそ、ベリアルに貴族の礼節を求めない。

だが、それはそれとしてレイナースは相手を立てる為に、公の場では貴族の礼節をもって相手をしている。

 

ベリアルがちら、と視線をレイナースから外した。

背後にいる森妖精(エルフ)のメイドへ向けているのだ。

 

 

「レイナース様、一度鎧を脱がれては如何ですか?」

 

 

促されるまま、メイドが言葉を口にした。

 

 

「それもそうですわね」

 

 

鎧を着ていては、ソファに座る事も出来ない。

レイナースは頷き、ベリアルを一瞥した。

 

 

「では、少し席を外しますわ」

 

「ああ、その間にこちらも片付けておこう」

 

 

ベリアルが机の上にある書類を、ペンの尻で叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベリアル邸には、レイナースの普段着が置いてある。

そもそも、客人用の衣類……ドレス等を用意されているのだが、客人用ではなくレイナース個人のものが存在する。

それは恋仲となった相手の家に、自分用のタオルやコップを置くようなものだ。

 

レイナースは薄紫色のカジュアルなドレスに身を包み、再び事務室……ではなく、ベリアルの個人的な応接室へと足を踏み入れた。

 

 

「ああ、戻ってきたか。レイナース」

 

「ええ、戻りましたわ。ベリアル様の、お仕事の方は?」

 

「ひと段落といった所だな。まぁ、座ってくれ」

 

 

メイドが下がり、応接室にはレイナースとベリアルの二人っきりとなった。

横に長い机を前に、ソファが二つ。

その片方にレイナースは腰掛けた。

 

ベリアルは部屋の隅にある小さなキッチンスペースらしき場所で、何やらしている。

虚空からティーポッドと、ティーカップを二つ取り出し、トレーへ乗せて机に置いた。

 

 

「紅茶でよかったか?」

 

「ええ、お構いなく」

 

 

ティーカップに注がれた紅茶を、レイナースは受け取った。

 

このような些事を行う権力者は少ない。

給仕など、メイドに任せるべきである。

それが帝国貴族の常識だ。

 

だが、ベリアルはそういった給仕を自分で行う事がある。

さも当然のように、である。

 

慣れるまでレイナースも恐縮していたが、今はそれがベリアルなのだと受け入れていた。

 

 

「さ、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

レイナースは受け取った紅茶を口にする。

爽やかでいて、透き通るような芳醇な味わい。

心地よい渋みと、まろやかなコク。

 

 

「……ふぅ」

 

 

最高級の紅茶に、思わず目を細める程だ。

そんなレイナースを前に、ベリアルも紅茶を口にしていた。

 

そして、いつ間にか机の中央に置かれていたスコーンを口にしていた。

レイナースもそれを見習い、口にする。

 

外は程よく固く、中はほろほろと崩れる食感。

濃厚なミルクの香りと、香ばしい小麦の匂い。

程よく水分を奪い、生地はそなえつけの苺のジャムとよく合う。

無論、紅茶とも。

 

 

「それで、レイナース。よく来てくれたな」

 

 

さくさくと食べていると、ベリアルが言葉をかけてきた。

 

 

「いえ、貴方に呼ばれて来ない女は居ませんよ」

 

「そう煽てないでくれ」

 

「事実です……それで、何か用なのですか?」

 

 

昨日から七日ほど。

レイナースは定期的に行なっている魔導国視察の任務を遂行すべく、魔導国へ来ていた。

そんな中、明日よければ来ないか?と魔法道具(マジックアイテム)である指輪を通して、伝言を投げられたのだ。

 

 

「いや、前回の視察の時……あまり構えなかっただろう?」

 

「前回……ああ、そうですわね。聖王国からの客人が居たのですから、仕方ありません」

 

 

前回、ベリアル邸に来た際、聖王国から来た客人達が来ていた。

聖王女、聖騎士団長、神官団長の三人だ。

結果的に、あまり構ってもらえなかった。

 

……三人の目を盗んで、一度だけ抱いて貰ったが。

愛を囁く時間など、無いに等しい。

 

 

「今日からその穴埋めをしたい。任務はあると思うが、構わないか?」

 

「ええ、構いませんわ。魔導国視察と言ってはいますが、ジルクニフ様はベリアル様の情報を欲しがっていますので」

 

「それもそうか」

 

 

ベリアルが笑みを浮かべた。

その笑みを見て、レイナースも頬を緩めた。

 

 

「それで、何をしてくださるのですか?今から私を抱きますか?」

 

「それは魅力的な提案だが……そういう事は夜に取っておこう」

 

「あら。では、夜を楽しみにしていますわ」

 

 

レイナースは元々、性行為など好きではなかった。

自分より弱い男を気持ち良くする為に、奉仕するなど……楽しめる筈もなかった。

だが、今は違う。

あの婚約者と、ベリアルは違うのだ。

 

ベリアルに比べれば、元婚約者とは偽物の雄だと切り捨てられる。

それ程に違う。

 

 

「レイナースは前に、呪いが解けたら海へ行きたいと言っていたよな?」

 

「ええ、まぁ……」

 

 

何処で言ったか。

ベッドの上でのピロートークだったか。

レイナースは思い出しつつも、頷いた。

 

 

「行ってみないか?」

 

「え?」

 

「転移魔法があるからな。すぐだ」

 

 

急に海へ、言われて驚いたが……嫌な気持ちはなかった。

それよりも、呪いに掛かっている際に少しだけ話した、呪いが解けたらやりたいこと……なんて話を覚えてくれていた事が嬉しかった。

 

 

「では、是非」

 

「よし。なら、少し支度をしよう。待っていてくれ」

 

 

ベリアルの言葉にレイナースは頷いた。

 

好きな男に尽くして貰えるのは、女冥利に尽きる。

そう考えつつ、レイナースはベリアルを一瞥した。

 

ベリアルも嬉しそうな顔をしていた。

そこで察した。

 

ベリアルは女に尽くされるのも好きだが、女に尽くすのも好きなタイプの男である。

何か行動をして、女に喜んで貰えることを幸せと感じる男である。

 

それをレイナースは知っていた。

人並み外れた力と財、容姿を持ちつつも、恋人に尽くすことを幸せに感じる男なのだと。

 

思わず緩んでしまう頬を隠すように、レイナースはティーカップを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼前。

ベリアルの用意した転移門(ゲート)を抜けた先には、海が広がっていた。

白い砂浜、青い海……照りつける太陽に、潮の香り。

海である。

 

 

「……素晴らしい景色ですわね」

 

 

レイナースは薄着になっていた。

頭には麦わら帽子、首にはスカーフ。

口だけの賢者が広めたという、水着を身に付けていた。

 

下着同然の姿だが、周りにベリアル以外の男の姿はない。

よって、恥ずかしくもない。

 

 

「だろう?魔導国付近の海に浮かぶ無人島でな。開拓したんだ」

 

 

そう聞いて、レイナースは周りを確認した。

振り返れば、魔導国内にあるベリアル邸より小さな屋敷……というより、コテージがあった。

 

 

「……無人島、ですか?」

 

「ああ、心配しないでくれ。島内のモンスターは全て掌握済みだ。支配魔法を使っていてな。人間に敵対するモンスターは処分しているし、海辺から屋敷にかけて結界も張ってある。危険はない」

 

 

そういう話を聞きたかった訳ではなかったが、話の内容自体は興味深いものだった。

というか、過保護だな……とレイナースは思った。

 

くるりと周りを見渡せば……ベリアルと、メイド長であるラズロの二人。

ベリアルは下を海パン、羽織るように耐水性のジャケットを羽織り……黒いサングラスを付けている。

一方でラズロはメイド服のままだ。

暑くないのだろうか。

 

そんなラズロが頭を下げた。

 

 

「では、ベリアル様。私はコテージの方で用意を致します」

 

「ああ、ありがとう、ラズロ。頼んだ」

 

 

そうベリアルが口にすれば、ラズロは姿を消した。

四騎士であるレイナースでも見切れないほどの高速移動だった。

 

しかして、海辺にはベリアルと二人っきりになった。

手荷物として、青白い謎の箱と、大きな傘……パラソルをベリアルは持っていた。

 

 

「さて、レイナース。少し待っていてくれるか?」

 

「ええ、まぁ……はい?」

 

 

何を待つのか分からずに頷くと、ベリアルが砂浜にパラソルを突き立てた。

そして、大きな肌触りのいい布を取り出して地面に引いた。

その上に、青白い箱も置いた。

 

 

「……この箱は?」

 

「冷却魔法がかけられた魔法道具(マジックアイテム)だ。飲み物が入っている……ほら」

 

 

ベリアルが箱を開けると、瓶に入った飲み物……ベリアル邸で飲んだ事がある、ソーダらしきものが入っていた。

 

 

「飲みたければ、いつでも飲んでくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 

その言葉に頷き、改めてベリアルへ目を向けた。

 

割れた腹筋、色白の肌。

淑女の目には毒になるであろう肉体美である。

ベッドの上で何度も見た事はあるが、こうして陽の下で見ると違う味わいがある。

 

頬が少し熱くなる。

それは照りつける太陽の所為か、男の所為か。

恐らくは後者である。

 

視線を逸らして、砂浜を見る。

水面が太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。

 

少し歩いて、波打ち際へ足を踏み入れる。

冷たい水の感触を確かめて、水面を手で撫でた。

 

 

「…………」

 

 

騎士として、海へ来た事はある。

海辺に出没したモンスターを討つべく、戦った事もある。

海水が服についてベタついた記憶がある。

 

しかし、こうして、しがらみもなく。

海へ遊びに来たのは初めてだった。

 

ふと、ベリアルが横に来ている事に気付いた。

同じく波打ち際にまで足を踏み入れて、確かめるように水を撫でていた。

 

 

「……ベリアル様は、海に慣れているのですか?」

 

「ん?いや、そんな事はないな……開拓するにあたって下見はしていたが、遊びに来たのは初めてだ」

 

「そうなのですか?……そもそも、何故、ここの開拓を?観光地にでもするのですか?」

 

「ああ、いや?プライベートビーチって奴だな……俺や、まぁ側室達が個人的に息抜きできる場所を用意しようと思ったんだ」

 

「側室方の?」

 

「あまり交流を公に出来ない奴も多い。だからといって、屋敷に縛り付けるのも味気がないだろう?」

 

「ああ、なるほど」

 

 

ベリアルの言葉にレイナースは頷いた。

王女など権威のある女性とも、ベリアルは懇意にしている。

公に視察などの用事がない場合、国民などに顔出しし辛いものだ。

 

そんな時は屋敷に滞在する事になるのだが……それでは変わり映えがない。

なので、この地を用意したという事だろう。

 

 

「それに、レイナースは海に行きたいと言っていただろう?そこで海に別荘でも用意しようと思った訳だ」

 

 

笑みを浮かべるベリアルを見て、レイナースは顔が熱くなっていくのを実感した。

愛する男に想われているというのは、嬉しいものだ。

 

それを誤魔化すように、一歩、海へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイナースは良い歳をした淑女である。

海へ来たからといって、泳いだり……なんて事はしない。

訓練兵時代に湖畔で泳ぎ、鍛えていた事はあるが……遊びで泳ぐ事などないのだ。

 

だからそう、海辺を散歩したり。

足元に落ちていた綺麗な貝を拾ってみたり。

身体を波に委ねてみたり。

 

そういった、細やかで、穏やかな時間を過ごした。

何をしても、ベリアルは側に居てくれた。

 

世間話をしながら、時間を過ごした。

 

そうして、空が茜色に変わりゆく頃……レイナースとベリアルは砂浜で、沈みゆく太陽を眺めていた。

 

 

「素晴らしい景色ですわね……」

 

「ああ、そうだな」

 

 

布を敷いた砂浜で、肩を寄せ合う。

綺麗な景色を見て、磯の匂いを感じて、風に触れる。

同じものを、愛する人と共有する。

そして、同じ感想を抱く。

 

それはとても、素晴らしいことだ。

 

 

「あ……」

 

 

ふと、風が吹いた。

被っていた麦わら帽子が浮いて……それをベリアルが手に取った。

 

 

「っと」

 

 

麦わら帽子が飛んで、前髪が風で逸れる。

隠していた右半分の顔が露出する。

もう呪われていない素顔だ。

 

急に髪型を変えて顔を晒せば、部下の騎士達に勘ぐられるだろうと……そのままにしている髪型。

それが潮風で揺れて……ベリアルと目があった。

 

 

「……ありがとう、ございます」

 

 

漏れたのは感謝の言葉だ。

麦わら帽子を取ってくれたこと……だけではない。

この呪いを解いてくれたことについての感謝……それだけでもない。

 

心に根強く残っていた、己を蝕む悪感情。

自分は愛されないのだと蔑む、自己嫌悪。

いつかまた裏切られるのではないかという、不信感。

 

それらを溶かして、解かしてくれた男に対する感謝……そして、親愛。

 

 

「ん?ああ、どういたしまして……?」

 

 

しかし、ベリアルは気付いてないようで、何をそんなに大袈裟な……という顔で、帽子をレイナースの頭に戻した。

 

そんな鈍感さを、レイナースは蔑む事はなかった。

寧ろ、愛おしく感じた。

 

 

「ベリアル様……」

 

 

名を呼んで、顔を近づける。

そうすれば、ベリアルも気付いたようで──

 

 

「ん、っ……」

 

 

唇が重なった。

肩を抱かれて、引き寄せられて……確かめるように。

 

この男は自分を裏切らない。

この男は自分を見捨てない。

この男は自分を愛してくれる。

 

きっと、ずっと、いつまでも。

 

レイナースは、抱き締め返した。

 

 

「ん、ぅっ……♡」

 

 

気付けば舌まで絡めていた。

求めれば、求めるほど、男も応えてくれる。

 

砂浜が茜色に染まる中、情愛を舌に乗せて、絡め合う。

身体が火照り、下腹部が疼く。

 

 

「ん、ぁ……ベリアル様……♡」

 

 

男の手が、水着越しに手で触れた。

心臓の音を感じられる程に──

 

 

「お二人方、夕食の用意が出来ましたよ」

 

 

背後から、声を掛けられてレイナースは背筋を伸ばした。

ベリアルも同様に、手を胸から引っ込めた。

 

 

「ラズロ……いや、すまん。分かった、行こう。レイナース」

 

「え、ええ、はい……」

 

 

メイドのラズロである。

砂浜に似合わないメイド服を着ている。

 

邪魔をされた……とは思わない。

というより、プライベートビーチとはいえ、外で盛り始めた自分が恥ずかしくなっていた。

 

ベリアルに手を引かれて、レイナースは立ち上がった。

今、この場でしなくとも……きっと、コテージに行けば続きをしてくれる。

一晩中、愛してくれるだろう。

 

だから、そう、我慢だ。

 

 

「…………」

 

 

レイナースは前髪を弄りつつ、今夜のことを考えていた。

 

 

 

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