※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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エッチなシーンはありません。


#15 王都動乱

最近、『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュースの挙動がおかしい。

 

イビルアイは確かに認識していた。

宿屋の食堂にいる時、ラキュースがそわそわしている事に。

誰かを待っているような雰囲気を見せている事に。

最初はその場に居ない『蒼の薔薇』のメンバーを探しているのかと思っていたが、メンバー全員が揃っても落ち着かなかった……イビルアイは訝しんだ。

 

先日、クライムと会話している時にラキュースが「何かを抱え込んでいるかも知れない」と言っていた。

指に魔法的な効果のない指輪を付けたり、深夜に魔剣キリネイラムを手に恍惚とした顔で独り言を喋っていたり、信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)なのに手荷物の中に髑髏の形をした銀細工を持っていたり。

確実に何かを隠している……そして、それらが原因なのかと疑った。

 

そうして、イビルアイはガガーランに相談したのだが──

 

 

「あ?リーダーが?」

 

「そうだ。様子がおかしいだろう……見ろ、今もだ」

 

 

宿屋の食堂で隠れながら、イビルアイは離れた場所にいるラキュースを指差した。

昼間というのにカウンターに座ってキョロキョロとしている。

 

 

「あー、ありゃ変だけどな」

 

「だろう?ラキュースは私達に、何かを隠しているに違いない」

 

「……そりゃそうだが。なんだ、イビルアイ。気付いてないのか?」

 

「むっ、何がだ。何か知っているのか、ガガーラン」

 

 

イビルアイは仮面の下で目を細めた。

脳筋であるガガーランが知っていて、自分だけ知らないのは、どこか仲間外れにされているようで悔しかったのだ。

 

 

「最近、話題になってるぜ。あの『蒼の薔薇』のリーダーが、男にお熱になってるってよ」

 

「な、なんだと?ラキュースが!?」

 

「しっ、静かにしろよ、イビルアイ」

 

 

思わず声を漏らしたイビルアイの頭に、ガガーランの手がのせられた。

身長差と筋力の差で、イビルアイは無理矢理しゃがまされた。

 

 

「くっ……お、男というのは誰だ?ラキュースに言い寄るような男は居ないだろう」

 

「まぁ高嶺の花って感じだもんな。だが、違うな……言い寄ってるのはリーダーだ」

 

「はぁ!?」

 

「だから、静かにしろって」

 

 

再び頭を押さえつけられながら、イビルアイは困惑する。

あのラキュースが?

恋愛ごとよりも使命を優先するラキュースが?

男になんて興味なさそうなラキュースが?

 

 

「そ、それで誰なんだ?その男は?」

 

「そいつは……って、丁度来やがったな」

 

 

ガガーランがラキュースを指差した。

イビルアイが目を向けると……その先で、笑みを浮かべて椅子から立ったラキュースの姿があった。

話しかけられているのは……。

 

 

「『銀翼』のベリルか……!?まさか、そんなバカな」

 

「リーダーも面食いだったって訳だ」

 

 

イビルアイは仮面の下で顔を歪めて、視線を戻した。

 

ラキュースは顔を僅かに赤らめている。

先程のガガーランの言葉を前提にすれば……なるほど、確かに恋する乙女のようだ。

そんなラキュースに男……オリハルコン級冒険者のベリルも笑顔で対応している。

だが、ベリルの後ろにいる女戦士……確か、クレアだったかは、面白くなさそうな顔をしている。

 

目に見えて分かる三角関係だ。

しかも、ラキュースの勝ち目が薄い三角関係なのだ。

 

『蒼の薔薇』は自由恋愛だ。

メンバーが好き勝手に恋愛していい。

それはラキュースにだって適応される。

 

イビルアイ自身は恋愛なんてものは下らないと思っているが、仲間の誰それが恋心を抱く事を否定するつもりはなかった。

 

だが、イビルアイにも気に食わないものがある。

 

 

「ラキュース……なんて男の趣味が悪いんだ」

 

 

普通の恋愛であればラキュースを応援していたが、あの男だけは気に食わなかった。

 

まず軽薄そうな顔がダメだ。

女相手にヘラヘラしているのもダメだ。

服装もだらしなくてダメだ。

笑い方がダメだ。

 

女たらしに違いない。

しかも、うさんくさい。

 

 

「あ?イビルアイ、そりゃどういう意味だ」

 

「見て分かるだろう。お前らは何とも思わないのか?あの男……」

 

「あー、まぁそりゃ、ちょっとはな。女関係が悪そうな感じはするが……そりゃ見た目だけだろ。宿に娼婦を連れて来ねぇし、酒の場で暴れた訳でもねぇ」

 

「……だが」

 

「それに良い魔法道具(マジックアイテム)屋を教えて貰っただろ?恩があんのに、悪口ってのはいただけねぇな」

 

「……そうだとしてもな」

 

「はぁー……お前は恋愛観が古過ぎるんだよ、イビルアイ」

 

「お、お前っ、言ってはならん事を言ったな……!」

 

 

数百年の時を生きるイビルアイにとって、年齢弄りは苛立つ煽りだった。

普段から自身を知恵者の老人扱いしているイビルアイだが、他人にそれをバカにされれば話も変わる。

 

 

「はいはい、お子ちゃまは黙ってな」

 

 

かと言って、お子様扱いも腹が立つ。

数百年を生きた吸血姫相手に子供扱いとは余程、物事を理解していないと言える。

 

 

「っ……く…………チッ」

 

 

舌打ちし、イビルアイは腕を組んだ。

我らが『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュースへ視線を向ければ浮かれた顔で男と話している。

 

自分達の前では見せない女らしい振る舞いで、男との会話を楽しんでいるのだ。

 

 

「…………」

 

 

その様子を見て、イビルアイは再び仮面の下で顔を歪めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

依頼を完遂した俺とクレマンティーヌは、王都の宿に帰って来ていた。

そして、一階の食堂でラキュースに絡まれたが……まぁ、悪い気はしなかった。

俺は可愛い女の子が大好きだからな、うん。

 

一方のクレマンティーヌは少し面倒臭そうな顔をしていた。

彼女としては、俺に新しいセフレが出来るのは推奨しているそうだが、その過程はどうでも良いらしい。

嫉妬心とかがないと言ってはいるが……もう少し普段から構ってやらないとな。

今度、ちゃんとしたデートするか。

ナザリックの第九階層に確か、雰囲気のいいレストラン風の場所があったな。

後で使うと連絡しておこう。

 

まぁそんな訳で、俺達は借りている部屋に帰ってきた……瞬間、<伝言(メッセージ)>が入った。

モモンガさんからだった。

 

 

『ど、どうしましょう、ベリアルさん!』

 

 

開口一番、焦ったような声を出すモモンガさんに俺は苦笑する。

 

 

「え、何が?俺、何も聞いてないんだけど」

 

『ソリュシャンが、セバスに裏切りの可能性があるって!』

 

「……あー」

 

 

そういやそんなんあったな。

俺は思い出した。

 

ナザリックの執事にして、メイド達を従える最高責任者の一人……セバス・チャン。

黒い燕尾服を身に纏った老執事であり、ナザリックでは珍しいカルマ値が『善』に振り切ったNPCだ。

 

そんな彼は今、ナザリックの外で情報収集を行なっており、俺達と同じく王都にいるのだが……。

 

 

『ソリュシャンから聞いたんですが、セバスが──

 

 

創造主である『たっち・みー』の「誰かが困っていたら助けるのは当たり前」という信念に忠実なセバスは、道端で死に掛けていた女を拾ってしまう。

その死にかけていた女、ツアレは昔、貴族に連れ去られ……『八本指』配下の娼館に売り飛ばされ、地獄の日々を過ごしてきた過去がある。

そうして最後はずた袋に入れられて、道端に捨てられてしまったのだ。

 

そんな女を、セバスは見捨てる事が出来なかったのだ。

 

なーんて、俺の知っている情報と同じ話を、モモンガさんは俺にしてくれた。

 

 

うーん、泣けるね。

 

でも、ナザリックの部下達からすれば、至高の御方であるアインズ様=モモンガさんや、俺に秘密で行動していたのは裏切りと見なされても仕方がない。

 

勝手に『八本指』相手にトラブルを起こしているのだ。

目立たないように情報収集しろって言われてるのにさぁ。

 

 

でも、まぁ……俺は嫌いじゃないよ。

 

 

「モモンガさん、そりゃ多分行き違いさ。セバスが裏切る訳ないだろ?」

 

 

それに、彼らの忠誠心は野を越え、山を越え、空を突き抜ける勢いでぶっ飛んでる。

事の顛末を俺は知っているが、知らなかったとしても疑わないだろう。

 

 

『ですよね……僕もそう信じているんですが。いやぁ、ベリアルさんに言って貰えて、安心しました……。ちょっとデミウルゴスにも言ってきます!』

 

「あぁ、俺に何か必要だったら呼んでくれ。すぐに行くから」

 

『ありがとうございます!了解です!』

 

 

そうして<伝言(メッセージ)>が終了した。

ふと顔を上げると、クレマンティーヌと目があった。

何か訊きたそうだが、訊いたらダメなことかも知れないと黙ってる顔だ。

 

殊勝な態度だが、今回の件は別に聞かせも良い話だ。

 

 

「クレマンティーヌ、気になるか?」

 

「え?あー……まぁね?でも、ベリちゃん。それって私が聞いてもいいのー?」

 

「いいさ。まずは──

 

 

俺は椅子に腰掛けて、ベッドに座るクレマンティーヌと向かい合った。

 

そして、セバスの事の顛末を説明した。

 

 

「へぇー、で、その女ってどうなっちゃうの?」

 

「ん?多分、ナザリックで保護だな。保護にならなかったとしても、俺が保護するように働き掛ける」

 

「……ふーん。ベリちゃん、その女にも手を出すの?」

 

「いや、セバスの女を寝取るつもりはないさ。ナザリックの身内の女に手を出すほど、俺は落ちぶれてはいない」

 

「……ナザリックの外の女なら寝取るんだー?」

 

「それはノーコメントだ」

 

 

俺の言葉に、クレマンティーヌは苦笑した。

……まぁ、既にこの国の第三王女のラナーを寝取って強姦したからな。

既にする事はしてる。

 

 

「でもさー。純粋な人間種がナザリックに来るなら、先輩として挨拶しといた方がいい?」

 

「……いや、やめておけ」

 

「なんで?」

 

「その女の妹を、お前が殺してるからだ」

 

 

俺の言葉にクレマンティーヌがギョッとした。

セバスの女、ツアレ……その妹の名前はニニャだ。

クレマンティーヌが殺害したエ・ランテルの冒険者チーム『漆黒の剣』の一員。

……彼女はツアレを助けるために冒険者となったのだ。

 

そんな彼女を、クレマンティーヌは殺した。

ズーラーノーンの目的遂行の為に殺害されたのだ。

 

 

「え?まじ?世間って狭いねー……はは」

 

 

いつも通りの言葉。

だが、声は震えていた。

 

クレマンティーヌは連続殺人鬼だ。

今は無闇に人を殺さなくなったとはいえ、過去の罪は消えない。

人殺しの記録を消す事はできない。

 

だが、まぁ、別にどうでも良いんだけどね。

俺からすれば。

 

 

「心配するな。誰かが文句を言ったら、俺が庇ってやる」

 

 

原作ではニニャを拷問し辱めて殺したクレマンティーヌだが、こっちでは単純に護衛を排除する為に殺害しただけになっている。

何かしら、俺との交友で思うところがあったのだろう。

 

モモンガさんは駆け出し冒険者の時に『漆黒の剣』と交流した事があり、一定の感謝の念を向けている。

残虐に玩具のように殺害したとなれば、モモンガさんもブチギレていただろうが……目的のために殺す必要があったなら、モモンガさんも納得する。

アンデット、故に殺人に対する忌避感が薄いしな。

 

だから、ツアレがどうなろうと、クレマンティーヌが責められる事はない。

というか俺がさせない。

 

知らない女の都合より、俺は自分の女の都合を優先する。

それが例え、こちらに罪があろうとも……踏み倒すつもりでいる。

 

 

「……ベリちゃんに庇って貰えるなら安心かなー。でもさ、私もーちょっとは罪悪感を持った方がいい?」

 

「いいや。何かを成す為の人殺しが許容出来ないなら、ナザリックには居られないだろ」

 

「それもそっか」

 

 

だって、今後……人の命を一つ二つ奪う所ではない、大虐殺をするからな。

きっと、俺も人間の頃の価値観なら許容できなかっただろうが……今は違う。

淫魔(インキュバス)だからな……他人の命を軽く見てしまう節がある。

 

 

「安心していいさ、クレマンティーヌ。何があっても、お前の事は最後まで責任もって、俺が面倒見てやる」

 

 

兎にも角にも、俺はクレマンティーヌを見捨てるつもりはない。

拾った責任は最後まで果たすつもりだ。

だから、安心して貰うために本心を言ったのだが──

 

 

「……ふーん、そっか」

 

 

クレマンティーヌは嬉しそうに頬を緩めた。

顔は朱色に染まっていた。

 

……あれ?

もしかして俺、メチャクチャ恥ずかしい事を言ったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、翌日。

 

ナザリックによる『八本指』の解体、及び王都襲撃が決行される事になった。

……話が早いよ、話が。

 

 

まず昨日、セバスの裏切り疑惑についても晴れ、ツアレはナザリックにて保護される事が決定された。

ちなみに、俺とモモンガさんの共同での承認だ。

 

ここまではトラブルなし。

問題は次だ。

 

そんなツアレが『八本指』によって誘拐された。

で、モモンガさんがブチギレた。

いやぁ、アレは怖かった。

見た目も相まって『魔王』って感じがしたよ。

 

 

さて、今回の計画。

セバスは『八本指』からツアレを奪還。

ついでに『八本指』をナザリック配下に置く為に襲撃。

カモフラージュの為に悪魔による王都ごと襲撃……ついでに、略奪。

 

という訳だ。

 

 

いや、どういう訳だ?

 

 

モモンガさんが、デミウルゴスの提案をうんうん頷いて『(よく分かんないから)全面的にお前に任せる!』って言ったら、こうなってしまった。

じゃあ仕方ない。

 

 

ちなみに王都襲撃に際して、デミウルゴスがラナーに接触しに行ったらしい。

色々と都合よく進める為に、ラナーを取り込もうという訳だ。

デミウルゴスは俺の名前……というか『魔皇バアル』の名前を出して、恐怖によってラナーを従順にさせるつもりだったらしいが──

 

 

「まぁ!バアル様が?でしたら、喜んで協力させて頂きます!」

 

 

と乗り気だったらしい。

何故、乗り気なのかと問えば──

 

 

「バアル様には感謝しているのです!愛するクライムと結んで頂きましたし、クライムの良い表情を見させて頂きましたから!もしよろしければなのですが、またクライムの前でグチャグチャに強姦していただけませんか?クライムのあの、無力さを感じて泣き崩れる所が最高に可愛いんです!」

 

 

これにはデミウルゴスもドン引きしていた。

俺もドン引きだ。

 

あの女、やはりヤバい。

安易に関わるべきでは無かったのかも知れない。

性癖に対して、忠実に生き過ぎだろ。

怖いよ。

 

自分の性癖の為に、自分の国の民を笑顔で生贄にする王女……う、うーん、やっぱりカスだな。

俺やクレマンティーヌと似た……いや、似てるっていわれたくないな、やっぱやめとこ。

 

 

 

まぁ、なに?

 

という訳で?

 

 

 

王都がメチャクチャになる事が決定してしまった訳だ。

だから俺も、色々とやらなくちゃならない。

ナザリック側の仕事もそうだが、オリハルコン級の冒険者ベリルとしてもだ。

 

俺の『お気に入り』が死なないように、何とか色々とセッティングして……あー、マッチポンプも……うーん。

俺別にそんなに頭が良くないんだよ。

かと言ってデミウルゴスに全部任せたら、皆殺しになりそうだし。

他の奴らも人間に対して当たりが強い奴等ばかりだ。

 

 

任せられる人材、と言えば一人しかいない。

 

 

「ラズロ、あとはそっちで色々と計画練ってくれないか?」

 

「え?ダメです。父上もちゃんと席に座って、一緒に考えましょう」

 

 

断られた。

 

 

「……お前に任せてはダメか?」

 

「ダメです。ほらほら、ちゃんと座って下さい。今から、あの娘達をどうするか決めるんですから」

 

 

娘が教師みたいな事を言い出した。

俺は自分が情けないよ。

 

 

ラズロが出した案の取捨選択をしつつ、原作知識で調整しなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

深夜、王都……とある屋敷の前。

そこは『八本指』の麻薬取引部門長、ヒルマの屋敷だった。

 

その屋敷の前に一人、メイドが佇んでいた。

その手には人間の腕……そう、切り落とされた腕だけが握られていた。

それを顎の下に持っていき、齧る。

 

 

「んく、んっく」

 

 

虫の顎のような歪な音ともに、血生臭い臭いを漏らす。

 

頭上にはヒルマの屋敷内にあった財を持った巨大昆虫(ジャイアントビートル)が飛んでいる。

それらは、予定地に向けて空を駆ける。

 

その様子を、メイドは見ていた。

彼女の名前はエントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。

ナザリックの戦闘メイド『プレアデス』の一人である。

蜘蛛人(アラクノイド)という種族の蟲使いであり、美しい少女のような姿をしている。

だが、顔は人面型の虫であり、声も彼女本来の物ではない。

複数の虫が集まって、人の形を保っているに過ぎない。

 

 

「けぷっ」

 

 

そんな少女の口……いや、喉元にある本来の口から、可愛らしいゲップの音が鳴った。

しかし、その吐息からは濃い血の匂いがした。

 

 

「やっぱりぃ、筋肉質な男がぁ一番、ダイエットにいいのよねぇ」

 

 

可愛らしい声の独り言。

それは、首元につけた人の声を真似る虫、口唇蟲から出ている声だ。

 

エントマは回想する。

逃げ回る人間の制圧には少々手こずったが、目的の女であるヒルマに関しては従順だった。

魔皇バアル……つまり自身の主であるベリアル様の手が付いていたという事もあり、スムーズに事が進んだ。

ついでに一緒に居た護衛の六腕?のエドストレーム?も、ベリアル様へのお土産に回収した。

あの御方は人間の女を凌辱するのが大好きだから。

 

オマケも付いた仕事だったが、時間通り、ピッタリに完了した。

荷物も運び終えたし、後は集合予定地点に向かうだけだ。

 

 

「エントマちゃん、お疲れ様」

 

 

直後、背後から聞こえた声にエントマは振り返った。

 

 

「ラズロ様ぁ、ありがとうございますぅ。何かぁ、ご用ですかぁ?」

 

 

そこに居たのは、卵のようにつるつるな顔に空洞のような目鼻をもつ二重の影(ドッペルゲンガー)……ベリアル直轄のメイド、ラズロだ。

服装はナザリックのメイド服のままだが、顔は普段の妙齢の女性顔ではなく、種族本来の顔だ。

 

 

「はい。これから、ここに来る冒険者の相手をしなければなりません」

 

「そうなんですねぇ。私もぉ、手伝いましょうかぁ?」

 

 

エントマの言葉にラズロは首を振った。

 

 

「いえいえ。有り難いですが、ここは一人仕事なんですよ」

 

「分かりましたぁ。ではぁ私は先に行かせて貰いますねぇ」

 

「はい、先に休んで下さいね。エントマちゃん」

 

 

巨大な甲虫を呼び出したエントマは、先ほど送った荷物と同じように持ち上げられ飛翔した。

その様子を可愛らしいなーなんて思いながら、ラズロは見上げていた。

 

誰も居なくなった……正確に言えば、生存者が誰も居なくなった屋敷の前で、ラズロは空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと」

 

 

二重の影(ドッペルゲンガー)は変身する相手の能力を、八割ほど複製(コピー)できる。

ただし、複製できるのは外装と能力のみであり、装備や練度は劣る。

戦う相手の複製をしても勝つ事はできない。

それが二重の影(ドッペルゲンガー)の弱点だ。

 

だが、変身先のレベルがカンストしていれば?

100lvならば80lv程の強さになれるという訳だ。

それ以下の敵を相手取るならば、それで十分なのだ。

 

 

「この姿になるのも久しぶりですが」

 

 

ラズロの姿が変容する。

愛する主君、自身の創造主の姿へ……淫魔(インキュバス)としての姿へ。

獣の顔、蝙蝠の羽、蛆虫の尻尾、巨漢の身体……完璧な再現を果たしたラズロは、エントマの食べ残しを手に取る。

 

 

……がりっ。

 

 

そして、それを齧った。

血と臓物が流れ落ち……ベリアルへと姿を変えたラズロが顔を顰めた。

 

 

『やはり不味いな』

 

 

ラズロ自身、人喰いのモンスターではあるが、好きな部類ではなかった。

それは倫理観の話ではなく、単純な好き嫌いの話だ。

先程、エントマが美味そうに食べていたので、自分もイケるかと思ったのだがダメだった。

 

 

『食えない事はないが、食う程ではないな』

 

 

調理されていない肉の臭みに顔を顰める。

ナザリックの食堂で食べるハンバーグの方が百倍美味しい。

 

ラズロは人肉を口から吐き出し、残りを地面へと投げ捨てた。

そして、視線を物陰へと向けた。

 

 

『……気付いているぞ。三秒以内に出てこい』

 

 

木々の並ぶ中、人影が動いた。

 

 

「おいおい……八本指が悪魔と繋がってるなんて聞いた事ねぇぞ」

 

 

それは巨漢……ではなく巨女だった。

赤い鎧に身を包み、手には刺突戦鎚(ウォーピック)を持っている戦士……その姿をラズロは知っていた。

『蒼の薔薇』の戦士、ガガーランだ。

 

 

(やはり父上の想定通り。流石です、父上)

 

 

内心で創造主である父上に畏敬の念を抱きつつ、戦士へと身体を向けた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「おらぁっ!」

 

 

ガガーランが刺突戦鎚(ウォーピック)を振るう。

通常の打撃ではなく、それは武技によって強化された一撃。

一撃、二撃、三撃と武技を重ねて行く。

普通の戦士ならばこうも武技を連続で放つ事は出来ない。

 

アダマンタイト級冒険者、『蒼の薔薇』の戦士ガガーラン……その肩書きに恥じない技術なのだ。

彼女の可能な武技の連続発動数、その数、十五……それら全てを──

 

 

目の前の悪魔は、指先で防いだ。

 

 

十五連続の攻撃、超級連続攻撃を終えたガガーランは後ろに飛び、息を深く吸った。

 

 

(チッ、バケモノかよ!)

 

 

ガガーランは様々な修羅場を乗り越えてきた。

単純な力量であれば、自身より強い敵にすら打ち勝ってきた。

 

だが、これほどまでの力量差がある相手は初めてだった。

 

 

自身の『死』を予感しながらも、ガガーランは武器を構える。

逃げる事はできない。

背を向ければ即座に殺される予感があったからだ。

 

 

『今度は俺の番だな』

 

 

瞬間、悪魔の足元にある石畳が砕けた。

ガガーランが認識できたのは、そこまでだった。

 

気付いた時には視界が回転していた。

強烈な衝撃が身体に走り、吹っ飛ばされた事に後から気付いた。

 

 

「ぐ、あっ!?」

 

 

地面を転がりながら、ガガーランは何とか姿勢を立て直した。

顔を上げれば、先程までガガーランが立っていた場所に悪魔が立っていた。

 

骨が折れた感触がある。

ポーションを飲めば……いや、そんな余裕がない事も分かる。

 

 

(しくったぜ……)

 

 

こんな事ならば、悪魔の姿を一目見た瞬間から逃げれば良かった。

ガガーランは痛みに顔を顰めつつ、顔を上げた。

 

 

「随分と強ぇな。もしかして、てめぇが魔皇バアルか」

 

 

限界状態の中、ガガーランに出来るのは情報収集と時間稼ぎだけだった。

 

 

『よく気付いたな、脳筋。その通りだ』

 

 

やはりか、とガガーランは舌打ちをした。

イビルアイの言っていた強敵、その正体。

見積もりよりも遥かに強かった。

 

 

「そんな大物を相手にするなんて、ついてないぜ……まったく」

 

『ああ、そうだな。その運の無さがお前を殺す』

 

 

せめて、魔法詠唱者のイビルアイとラキュースが……いいや、『蒼の薔薇』の全員が揃っていれば……そう考えざるを得ない。

 

 

『行くぞ』

 

 

そう思考するガガーランへと、魔皇バアルが踏み込んだ。

 

 

「っ……!?」

 

 

だが、やはり見切る事はできなかった。

ガガーランが反応するよりも速く、魔皇バアルが接近していたのだ。

 

 

『これで終わりだ、戦士』

 

 

そして、腕を振り上げ──

 

 

『……闖入者か』

 

 

その腕は空を切った。

地面が砕けて、石のカケラが魔皇バアルの身体に跳ね返った。

 

そこにはもうガガーランは居なかった。

即座に、魔皇バアルが顔を上げた。

 

 

『鬱陶しい奴らだ。まったく』

 

 

悪魔から離れた先、ガガーランの目前には黒い衣装を着た女が立っていた。

 

 

「わりぃな、ティア……マジで死ぬかと思ったぜ」

 

 

そこに居たのは『蒼の薔薇』に所属する元・暗殺者であるティアだった。

 

 

「ガガーラン、アレはなに?」

 

「魔皇バアルだ。ちょっと前に王城を襲撃した悪魔だな」

 

「……どれぐらい強い?」

 

「俺たち二人なら、無駄死に確定だな」

 

「聞かなきゃ良かった」

 

 

表面上は明るく会話をしながらも、ティアの顔が険しくなった。

 

だが、ガガーランはほんの少しの希望を見た。

戦士一人ならば勝ち目はなかったが、サポートできるレンジャーが居るならば戦力差はマシになる。

 

可能な限り時間を稼ぎ、援軍を待つ。

来るかも分からない援軍だが、黙って死ぬよりは遥かにマシだ。

 

 

『話は終わったか?』

 

 

底冷えするような悪魔の声に、ガガーランとティアは構えた。

ガガーランは刺突戦鎚(ウォーピック)を、ティアは苦無(くない)を。

 

 

魔皇バアルが地面を蹴った。

 

その刹那、ティアは忍術を発動する。

 

 

「影技分身の術」

 

 

ティアの影が実体化し、二人に分身した。

影がティアの前を走り、魔皇バアルの足元へと滑った。

 

 

『小賢しい児戯だ』

 

 

だが、魔皇バアルはその分身を無視した。

影技分身によって生まれた分身は、本体より遥かに劣る能力しかない。

この悪魔は忍術についても造詣が深いのか……と、考えつつ、ガガーランの前にティアが立った。

 

 

「不動金剛盾の術!」

 

 

ティアの目の前に七色の光を放つ、六角形の盾が現れた。

それを使ってガガーランを庇うつもりなのだ。

 

そんな盾へ、魔皇バアルが腕を振るった。

魔皇バアルの拳は不動金剛盾に接触し、その勢いを止め───

 

 

ガラスのような澄んだ音と共に、砕けた。

 

 

「なっ」

 

 

防御系の忍術を貫通し、それでも勢いを止めなかった拳が、ティアに直撃した。

 

 

「かはっ……!?」

 

 

悪魔の巨大な手がティアの身体に減り込み、そのまま吹っ飛ばした。

 

 

「ティア……!」

 

 

子供の玩具のように地面を跳ねて転がるティアを見て、ガガーランは目を見開いた。

魔皇バアルに接近していた、ティアの分身も霧散した。

間違いなく、今の一撃で戦闘不能になった。

最悪の場合、死んでいたっておかしくはない。

 

ガガーランは後退しつつ、ティアを回収しようと移動し──

 

 

『逃がす訳ないだろ』

 

 

悪魔が踏み込んだ。

 

ガガーランの視界がゆっくりと進む。

極限の状況、極度の集中により反射神経が加速する。

 

ガガーランは思案する。

 

後退する。

無理だ、回避出来ずに死ぬ。

 

防御する。

無理だ、防げずに死ぬ。

 

迎撃する。

無理だ、相手の方が速くて死ぬ。

 

出来る事はない。

選べる選択肢はない。

 

 

それでも、ガガーランは武器を構え──

 

 

 

瞬間、ガガーランと魔皇バアルの間に水晶の騎士槍(ランス)が突き刺さった。

 

 

『ふん……<水晶騎士槍(クリスタルランス)>か』

 

 

悪魔が反応した瞬間、ガガーランは即座に距離を取った。

九死に一生を得た彼女は、その魔法を放った仲間へと……頭上を見上げた。

 

 

「イビルアイ……!」

 

 

仮面を付け、赤いローブを身に纏った少女が<飛行(フライ)>によって宙を浮いている。

『蒼の薔薇』の魔法詠唱者(スペルキャスター)、イビルアイだ。

 

 

「何を呆けているガガーラン!今すぐティアを連れて撤退しろ!」

 

「あ!?お前はどうする──

 

「黙って私の言う事を聞け!」

 

 

切羽詰まったイビルアイの言葉に、ガガーランは意識を切り替える。

吹っ飛ばされていたティアを回収すべく、走り始めた。

 

 

「<魔法最強化(マキシマイズマジック)結晶散弾(シャード・バックショット)>!」

 

『<酸の盾(アシッド・シールド)>』

 

 

背後で炸裂音が響いた。

イビルアイが戦い始めた音だ。

 

ガガーランは走りながらティアを回収した。

意識はあるようで、僅かに目を開けている。

 

 

「ガ、ガガーラン……イビル、アイは……?」

 

「信じるしかないだろ!アイツの判断を!」

 

 

そう言いつつも、予感はしていた。

イビルアイでは、あの悪魔には勝てない。

そんな事はアイツ自身にも分かってる筈だと。

だが、それでも、イビルアイはガガーランに逃げろと言った。

その意思に反するのは、イビルアイの覚悟を汚す行為だ。

 

イビルアイは転移系統の魔法が使える。

ガガーランとティアが撤退した所で、転移によって撤退できると……そう、信じるしかなかった。

 

 

「くそっ!<魔法最強化(マキシマイズマジック)竜雷(ドラゴン・ライトニング)>!」

 

『<竜雷(ドラゴン・ライトニング)>』

 

 

雷が衝突し、背後で爆ぜた。

空気の破裂する音と共に、背後で強烈な光が発生し、ガガーランの影が伸びる。

草木の焦げる臭いを感じ、ガガーランは背後で凄まじい魔法が衝突したのだと悟った。

 

魔皇バアルは魔法を使える……それも、純粋な魔法詠唱者(マジックキャスター)であるイビルアイと同格以上に。

だが、ガガーラン相手には一度も使用しなかった。

つまり、加減されていたのだ。

本気を出せば即座に殺せたのに、素手で嬲られていたのだ。

 

その事実に、ガガーランは唇を噛み……それでも振り返る事なく、走り出した。

 

 

「……死ぬなよ、イビルアイ……!」

 

 

仲間の事を思いながら、今はただ足手纏いにならないよう逃げる事しか出来ない。

そんな自分に無力感を感じながら、ガガーランはその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

イビルアイは仮面の下で歯を食いしばった。

魔法最強化による強化を与えた竜雷(ドラゴン・ライトニング)が、ただの竜雷(ドラゴン・ライトニング)によって相殺された。

その事実は、相手の魔法詠唱者(マジックキャスター)としての力量が自身を遥かに上回っていると示していた。

 

 

(見積もりが甘かった……!)

 

 

前にラキュースと魔皇バアルの力について推測した事があった。

『蒼の薔薇』全員ならば勝てるだろうと、そう話した。

だが、違った。

 

イビルアイは感じ取っていた。

目前の魔皇バアルの強さを、ハッキリと。

 

数百年の時を生きてきて、イビルアイは様々な強者と出会ってきた。

その中でも別格の強さだ。

 

吐き気すら込み上げてきそうだ。

年甲斐もなく泣きそうだ。

悲鳴をあげてしまいたい。

逃げたい、隠れたい。

 

そう思いながらも、イビルアイは向かい合った。

 

 

(仲間を見捨てて逃げる訳がないだろう!私は伝説にすら謳われる吸血姫、イビルアイだ!ここで戦う以外の選択肢はない!)

 

 

己の心を奮い立たせて、悪魔へと手を向ける。

 

 

「<魔法抵抗突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)水晶の短剣(クリスタルダガー)>!」

 

 

水晶の短剣が宙に作られ、射出された。

念のため、魔法に対する耐性を考慮して発動した魔法だ。

だが、その様子を見て魔皇バアルは嘲笑するような笑みを浮かべた。

 

また何かしらの魔法で防御を行うつもりか、とイビルアイは想定したが……答えは違った。

 

何の抵抗もなく、魔皇バアルの身体に水晶の短剣が衝突した。

 

 

「なっ!?」

 

 

想定外だったのは防御も回避もしなかった事。

そして何よりも──

 

 

「バカなっ!?耐性貫通を強化した魔法で、無傷だと!?」

 

 

魔皇バアルに傷一つ付けられなかった事だ。

想像以上、そしてそれを遥かに上回る強さ。

 

 

(上級の悪魔?悪魔の王……そうか、魔皇と名乗っているのは伊達ではないという事か!?)

 

 

今までは何とか魔法さえ当てれば勝算があった。

しかし、現実は非情であり魔法を当てても意味がないと悟った。

つまり、イビルアイに最初から、勝ち目はなかったのだ。

万に一つすら、なかったのだ。

 

 

『無駄な抵抗だったな、イビルアイ。中々強かったぞ?未成熟な子供の姿にしか見えないが、中々どうして楽しめた』

 

 

悪魔の勝ち誇ったような声に、イビルアイは仮面の下で眉を顰めた。

最早、勝ち目はない。

出来るのは負け惜しみと、命乞いぐらいだ。

 

 

「はは……お前の方は、その悪趣味に相応しい醜悪さだ。王女を強姦したと聞いていたが……なるほど、その容姿では相手にされないだろうな」

 

 

そして、イビルアイは前者を取った。

この悪魔からの敵意を一身に受けて、王都から離れるように逃走し……そして、仲間を守ろうとしたのだ。

 

だから、敢えて悪魔を怒らせるような事を口にしたのだが──

 

 

『……お前今、何と言った?』

 

 

魔皇バアルの顔が無表情になった。

全ての感情が抜け落ちたような、無表情だ。

 

 

『この姿が醜悪だと?そう言ったのか?』

 

 

だが、イビルアイは感じ取っていた。

悪魔から放たれる威圧感が何倍、何十倍にも跳ね上がった事を。

 

 

『よ、りにもよって……我が……ち……うえ……を……っ』

 

 

空気が歪む音がする。

魔皇バアルが何か小声で口にしているが、耳に入れる事すら出来ない。

 

しくじった。

そうイビルアイは後悔した。

まさか容姿を侮辱されただけで、ここまで怒るとは思ってもみなかった。

 

イビルアイの身体が自然と震える。

無意識のうちに奥歯を噛んだ。

声も、漏れる。

 

 

「……あ……ぁ」

 

 

恐怖。

ただ純粋な恐怖がイビルアイの中に満ちた。

 

思わず、後退りをしようとして──

 

 

 

威圧感が急に失われた。

イビルアイは慌てて呼吸を再開した。

息をする事すら忘れるほど、恐怖を感じていたのだ。

 

イビルアイは目前の悪魔へと、逸らしていた視線を上げた。

 

悪魔は怒っていたことが嘘のように、元の笑みを浮かべていた。

 

 

『俺とした事が、蛆虫の苦し紛れの言葉に怒るとはな』

 

 

そして、悪魔が指を立て……イビルアイを指差した。

 

 

『宣言しよう、イビルアイ。お前には『少し』痛い目に遭って貰う』

 

 

そんな冷ややかな声に、イビルアイの身体に悪寒が走った。

 

 

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