【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
ナザリック地下大墳墓、第十階層──玉座の間。
その玉座にモモンガが座っており、側にはアルベド、ベリアル、ラズロが立っていた。
対して、向かい側には背に大きな武器を背負った、褐色のメイドが膝を立てていた。
髪は赤茶色で三つ編み……見た目は20代前後で、絶世の美女だ。
名前をルプスレギナ・ベータという。
ナザリックの戦闘メイド、プレアデスの一人だ。
「えっと……顔を上げよ」
ベリアルの言葉に、ルプスレギナは顔を上げた。
至高の御方が二人、そしてその従者が二人。
いつも気楽であるルプスレギナも、僅かに緊張する感覚を覚えた。
「今回、カルネ村の……なんだ?脅威の報告、重要人物の護衛、そして脅威の排除に関して、ご苦労だった」
「ありがたき幸せです」
ベリアルの言葉にルプスレギナは頭を下げた。
いつもの奔放な口調は鳴りを潜めて、メイドらしい丁寧な口調になっている。
流石のルプスレギナも、時と場所を弁える教養を持ち合わせていた。
「その成果を評価し、お前に褒美を与える」
「はっ」
先日、カルネ村に迫っていた脅威をルプスレギナは排除した。
正確には排除前に事前にアインズに連絡し、対処について自分なりの考えで相談。
その後、脅威を排除し、後始末の報告をした。
その一連の流れを、アインズはかなり評価していた。
曰く「うんうん、普段は気楽だけど、ちゃんと『ホウレンソウ』できてるんだなー。偉いぞー」である。
その数日前に同じプレアデスの一員であるナーベラル・ガンマが、お偉いさん相手に「黙れ、ガガンボ」と罵倒して問題を起こしていたため、相対的に高く評価されたのだ。
(
自身の妹に対して、内心で形だけの謝罪をしつつ笑みを浮かべる。
勿論、表面上は清楚な乙女のような顔をして膝をついているが。
「さて、で……ルプスレギナ、何がいい?望む褒美を与えよう」
ベリアルの言葉にルプスレギナは内心で歓喜した。
何か物的な褒美ではなく、望む褒美、と来たのだ。
(事前に
自身の望むもの、いや、望む立ち位置。
そして、望む愛を口にする。
「ナザリック内にて、ベリアル様の後宮が作られたとお聞きしました」
「ん?ああ……よく知ってるな」
「私も、その側室に入れて頂けないかと」
ルプスレギナは内心で、宙に薔薇を蒔いていた。
愛する主、至高の御方……そのベリアルに抱いて貰う。
側室となり、愛して頂く。
情けを貰い、一匹の雌にして貰う。
それはナザリックのメイド達にとって憧れであり、ルプスレギナにとっての至高の夢である。
何度、ベッドの上で夢見ただろうか。
愛する主に愛され、情けを貰う夢で自慰をしただろうか。
愛を囁かれる夢で、何度悶えただろうか。
不敬だからと妄想をやめる事は出来なかった。
ルプスレギナは
獣の性欲、そして、知性による愛への欲求。
それが今、叶おうと──
「ん?いや、ダメだが」
……叶おうと、して、いたのだが。
「へ?」
ルプスレギナは希望から一点直下、絶望のどん底に叩き落とされた。
それは奇しくも、
愛する主、ベリアルから拒絶された。
その事実に、ルプスレギナは顔を青褪め、目を瞬き、口を開きっぱなしにして、大粒の汗を大量に流した。
その後、色々と言われていたが、ルプスレギナは覚えていない。
ただ、何とか、元気なフリをこなしていた事だけを覚えていた。
ナザリック、食堂。
現在、時間外であり誰もいない閑散とした場所である。
そんな中、大机に一人、腕を放り出して顔を突っ伏しているメイドが居た。
「……大丈夫?ルプー」
頭上から掛けられた声に、メイド……ルプスレギナは顔を上げた。
「ユリ姉……」
涙は出ているし、鼻水も垂れている。
そんなルプスレギナの顔を見て、プレアデスの長女、ユリ・アルファはドン引きしつつも、心配した。
「何があったの?そんな……えっと、そんなになるまで」
ユリは言葉を選んだ。
口に出すには惨め過ぎるからだ。
「ユリ姉ぇ……私って、そんなに魅力ないっすかね……?」
「え?」
いつものルプスレギナらしからぬ自信のない発言に、ユリは困惑した。
しかし、普段、迷惑を掛けてくる妹と言えども可愛い妹である。
ユリは首を横に振った。
「いいえ、貴女はとても魅力のあるメイドよ……性格は少しだけ難があるけど」
ボソボソとユリは小声で本音を呟いた。
それをルプスレギナは聞こえていないのか、聞いていないのか、ぐずぐずと鼻を鳴らしながら頷いた。
「ユリ姉ぇ……」
「それで?何があったのかしら?ボ……私に教えてくれる?」
「実は──
ルプスレギナは何があったのか口にした。
シクスス達のアドバイスにより、命令を遂行できて、褒美が得られたこと。
ナーベラルが怒られてションボリしていたこと。
褒美として何でも貰えると聞いていたのに、自身を側室に迎え入れて貰えなかったこと。
対して、シクススや一般メイドは側室となっていること。
食堂で落ち込んでいる自分に、「美味しいもの食べてぇ、元気出そぉ」とエントマが『おやつ』を渡してきたこと。
それがカサカサしてたこと。
ユリ・アルファは黙って話を聞いていた。
半分ぐらい、どうでもいい話だな……とは思っていたが、黙って聞いていた。
「それで、どうすればいいっすか?ユリ姉……」
「どうと言われても……ベリアル様が側室にしないと言うのであれば、黙って引き下がるべきだと思うけれど──
「嫌っす!」
首を振るルプスレギナを見て、ユリは眉尻を下げた。
至高の御方であるベリアルの判断を、ただのメイドが覆していい筈がない。
しかし、ルプスレギナは愛する妹の一人である。
その願いは叶えられて欲しいと思う。
特に、恋路については。
「そう、ね……私はそういう事に、あまり詳しくないのだけれど……ベリアル様の興味を惹けるよう、ルプーが振る舞えば良いのでは?」
「…………エッチなアピールしろって事っすか?」
「そこまでは言ってないけど……」
ユリは自身の頬に手を当て、至高なる御方の事を考える。
べり❤︎ある、または、ベリアル。
綺麗な女性が大好きで、ナザリックの外からも側室を迎え入れている。
……という、イメージ。
対して、ルプスレギナを見る。
性格はサディスト。
人の不幸を見るのが大好きで、入念に積み上げた砂の城が破壊されると気持ちよくなる……性格の悪いサディストの変態。
ただ、見た目は可愛らしく、愛嬌もある。
自身の主に対する忠誠心と、恋慕は見た目相応の物だろう。
つまり、容姿ではルプスレギナはベリアルのストライクゾーンに入っていると考えて良いはずだ。
故に、ベリアルがルプスレギナを拒絶するとしたら、性格ぐらいの話だ。
……性格の不利を上回るほどの、情欲を煽れば……勝算はある。
「まぁ、迷惑にならない程度なら良いんじゃないかしら」
「……!なら、スカートを短くして、アピールしてみるっす!」
「……それぐらいなら、やっても良いと思うわ。でも、度が過ぎないようにね?」
「分かってるっす!明日のベリアル様当番は……
やる気に満ち溢れたルプスレギナを見て、ユリは安堵……ではなく、少し心配になっていた。
また空回りして、変なことをしでかさないかと言う不安だ。
「程々にね、ルプー。本当に。くれぐれも不敬はないように……」
「勿論、程々にするっす!いやー、ユリ姉、心配しすぎっすよ!私がそんな、加減なしちゃんに見えるっすか?フヒっ!」
「……はぁ」
はしゃぐルプスレギナから目を逸らし、ユリはため息を吐いた。
もし叱られるとしたら、その時は一緒に叱られてやろうと、そう思った。
◇◆◇
ナザリック第九階層、俺の自室……窓はないから分かりにくいが、早朝。
机にある疾る書類を整理しつつ、顎に手を置いた。
思い出すのは昨日のこと。
ルプスレギナに褒美を与えた時のことだ。
彼女は「褒美に側室に入れてくれ」と言っていた。
だが、俺は断った。
シクスス達、一般メイドの時もそうだったが、金や報酬で抱くとか、そういうのはしたく無かったからだ。
まぁ、ルプスレギナの容姿も性格も好みだが。
ちょっとばかり屑な感じが大好きだ。
彼女が側室になりたいというのなら、入れても良いのだが……ただ、ちょっと、本当に性格が……人間とは相性が悪い。
カルマ値は-200、つまり凶悪だ。
多分、ナザリック外の同種族も惨殺するレベルだし、人間相手なんて以ての外だ。
まぁ、デミウルゴスとかアルベド、モモンガさんは-500の極悪だから、それに比べればマシだが。
それでも……俺の側室には人間がいるし。
その為に内部と外部を分けたという話なのだが、何かの歪みで外部側の誰かが不幸になったとしたら……俺は辛い。
ルプスレギナは表面上は人間に友好的だが、人間達の事を玩具としか思ってないし、自滅するように積極的に誘導するぐらいの屑だしな。
俺の知らない間に外部の側室の誰かが……なんて考えると怖い。
ただ、それは俺の知っているルプスレギナの話だ。
今回、褒美を与える事になったのは、想定外だった。
カルネ村が破滅するまで放置せず、ちゃんと脅威について報告・連絡・相談をした。
これは俺の知っているルプスレギナでは、なかなか有り得ない事だ。
入念に親しくなった人間達が陵辱されるチャンスを捨ててまで、主人の命令に従ったのだ。
……カルマ値は生まれた時に固定される訳ではない。
善行を踏めば改善し、悪行をすれば下がる。
そして、その性格は単純にカルマ値で全てが決まる訳ではない。
アルベドも-500だが、目的のためなら人間と友好的に振る舞えるぐらいだし。
つまり、ルプスレギナは俺の考えているイメージより、性格が良い……もしくは社交性がある……の、かも知れない。
「……はぁ」
俺は書類への記載を終えて、ペンを机に置いた。
これは回覧板だ。
内容は『べり❤︎あるの後宮が出来たよ!ナザリックのメンバーが入れる内部後宮と、ナザリック外の人間が入る外部後宮があるよ!地位に差はないので、内部と外部で差別しないように!』を小難しく書いた感じ。
情報伝達をしていなかったしな。
態々、言わなくても良いか……と思っていたが、アルベドに周知した方がいいと怒られたんだよな。
「今後、アインズ様の後宮も作りますので、前例を作って頂かないと」とか何とか。
アルベドぐらい情欲に対してストレートで忠実だと、分かりやすくて取っ付きやすいんだよな。
デミウルゴスは無理だ。
何言ってるか分からんし、そもそも言葉を濁す事が多い。
「なるほど、つまり、そういう事ですか?」とか勝手に納得してくるし。
どういう事だよ。
回覧板は階層別に幾つか用意した。
階層守護者に配って、そこから領域守護者へ伝達、配下に周知の流れだ。
まぁ、階層守護者とコミュニケーション取りたいし、直接渡しに行こうかなーって話だ。
俺は作成した書類をバインダーに挟む。
それを何枚か作成して、アイテムボックスに収納する。
直後、部屋にノック音が響いた。
リュミエールか。
メイド達に『アインズ様当番』というものがあるように、俺がナザリックに居る日は『ベリアル様当番』というものが存在する。
今日はリュミエールだった筈だ。
「いいぞ、入れ」
俺が声を掛けると──
「失礼するっす!」
リュミエールではなく、ルプスレギナが入ってきた。
「……何でルプスレギナなんだ?今日はリュミエールが当番の筈だろう?」
「リューちゃんが代わってくれたっす!」
俺は自分の耳の裏を掻いた。
リュミエールはこの当番を楽しみにしていた筈だ。
自分から代わるとは思えない。
「ルプスレギナ。無理矢理、代わったのなら──
「ちゃ、ちゃんとお願いしたっすよ!リューちゃんは快く譲ってくれたっす!無理矢理じゃないっすよ!」
慌てて弁明する様子に、俺は懐疑的な目を向けた。
本気か?
一般メイドとプレアデスには明確な力関係が存在する。
プレアデスであるルプスレギナの頼みを、一般メイドであるリュミエールが断れるだろうか。
「私とリューちゃんは友達っす……!信じて欲しいっす!」
涙目になってる。
多分、演技じゃなくて本気で焦ってるな。
……邪推し過ぎか。
まぁ、ルプスレギナは身内には優しい奴だしな。
「分かった分かった。もう疑わない……リュミエールには後日、何か別の仕事を与えれば良いだろう。これで全員、不利益はない」
ナザリックのメイドは仕事したがりなんだよな。
至高なる御身の役に立てれば、最高!って感じ。
忠誠心高過ぎて、全然休まないし。
仕事を与えておけば喜ぶだろう……もしくは夜伽でも頼むか?
あからさまにホッと安堵しているルプスレギナを見て、俺は小さくため息を吐いた。
「それで?何で態々、リュミエールと入れ替わったんだ?」
「そ、それは……」
ルプスレギナがもじもじとした。
……可愛いな。
って、違う違う。
「ベ、ベリアル様と一緒に居たかったからっす……ごめんなさい」
……やっぱり可愛いな。
「……いや、俺に責める気はないが。取り敢えず、今日は
「はいっす!
……ん?
今、何かニュアンスが違った気がするな。
まぁ、気の所為か──
「好きな時に抱いてくれて大丈夫っす!」
気の所為じゃなかった。
「あのな……」
「何すか?私のことコキ捨て穴として使って貰って全然大丈夫っすよ?」
コキ捨て……って。
どこで、そんな下品な言葉を知っ……
一般メイド達が言っていたな……主との恋愛感情を学ぶ為に、あのアホが残していったエロ本で勉強していたと。
やはり悪影響が出ているのか……禁書送りにするか?
というか、俺に対する側室像、どうなってんだ。
「俺はリュミエールにそんな扱いをした覚えはない。お前は側室に対して、妙な偏見を抱いているぞ」
「え!?そ、そうなんすか?側室って……そういうものかと……」
どういうものだよ。
ギャハハ!
側室は全員、俺の生オナホだ!
ってなってると思っていたのか?
んな訳ないだろ。
俺がそんな
「あのな……側室は、俺と、まぁ……愛し合う関係になった者を入れる場所だ。だからそういった、性奴隷みたいな扱いをするんじゃない」
「……も、申し訳ありません」
普段の口調も忘れて、しょんぼりとした様子でルプスレギナが頭を下げた。
凄く、しょんぼりしてる。
この世の終わりみたいな顔だ。
「……すまん、言い過ぎたな。怒ってないからな?気にするなよ?」
「は、はい……了解致しました……」
全然、気にしてるな。
こんな多少の叱られで、こんなにも意気消沈するのか?
いや、これは他に要因があるな。
どれだ?
側室は性関係ではなく愛し合う関係だと訂正しただけだろ。
それのどこが……原因は、今の話じゃないのか。
昨日、ルプスレギナの側室入りを否定したから、彼女はここに来ているのだろう。
あわよくば既成事実により、側室になれれば……と。
なのに、俺が「側室は愛し合う恋仲だよ」なんて言って、しかも昨日、拒絶までしたから……お前のことなんか好きじゃない!って思っているように見えるのか。
……俺はルプスレギナが嫌いな訳じゃない。
落ち込んで欲しい訳じゃない。
寧ろ、個人としては好きだし。
「……ルプスレギナ。正直に言えば、お前を側室に入れるか、俺は悩んでいる」
「えっ!?」
ルプスレギナが期待に満ちた顔で顔を上げた。
目からバシバシと光る星のような物が飛んできている。
「だから、まぁ、なんだ……?そんなに落ち込むな。俺はお前のことが嫌いな訳じゃない……可愛いと思っているぐらいだ」
「か、可愛いっすか!?」
ルプスレギナが顔を真っ赤にした。
……うん、そういう所が可愛いと思う。
マジで。
「な、なら、今から私を抱いてみないっすか!?抱いてから側室にするか、考えてみないっすか?」
いや、でも、そういう所が可愛くない。
マジで。
エロいとは思うが、可愛くはない。
「ルプスレギナ、今ので-5点だ」
「な、なんすか!?そのポイント!?」
「ははは、冗談だ」
「目が笑ってないっす!何がダメだったか、教えて欲しいっすよ!」
いや、でもこうして気軽に話せるのは良い関係だな。
……側室について、もう少し前向きに考えてみるか。
性格についても、何とか折り合いを付ければ……いけ……い……いけるか?
……いや、ヤバいか?
取り敢えず、ルプスレギナの性格が掴めるまでは側室にしないでおこう。
俺の性欲が我慢できなくなって、押し倒したりして、既成事実が出来たりしない限りは……うん、様子見だ。
俺の意思は硬い。
という訳でまず、ルプスレギナを連れて第二階層『墳墓』にやってきた。
第一階層から第三階層までの階層守護者は同じだからな。
目的地は第二階層の屍蝋玄室だ。
しっかりと装飾された扉を俺はノックした。
アポなしで来たが、事前に<
少しすると、扉が開いた。
出てきたのは、美しい容姿をした美女だ。
赤い瞳に白蠟のような肌……シャルティアの従者であるヴァンパイア・ブライドだ。
「何様ですか。シャルティア様は現在、入浴中でございます。お取次は──
そこまで口にして……ようやく、俺を見た。
そして、顔を強張らせた。
「う……べ、べべ、ベリアル様!?」
「すまない、入浴中だったか。出直すと──
「い、いえ!ようこそおいで下さいました偉大にして至高なる淫魔の王たるベリアル様!シャルティア様の部屋までご案内致します!」
うおっ、めっちゃ早口。
「いや、急かすのも悪いだろう?」
「いえ!すぐに、すぐに向かいますので!お少しの間、シャルティア様の部屋でお待ち下さい!」
「あ、うん」
そこまで言われるとな……。
階層守護者であるシャルティアの住む屍蝋玄室。
そこは幾つかの玄室からなり、妙に濃厚で甘ったるい匂いが充満していた。
アンデッド特有の死臭を消すための香水か?
少し鼻に付く。
「ちょっと、臭いっすね」
こら、ルプスレギナ。
そういう事を言うな。
俺もそう思うけど、人の付けている香水やらに文句を言うな。
そんな事を考えていると、ドタバタと音がして扉が開いた。
「お、遅れて申し訳ありんした!ベリアル様!」
そこに現れたのは顔色が悪い美少女……なのだが、いつもの姿と違い髪の毛はしっとりしてるし、結んでないし、ちょっとアレな感じになっている階層守護者シャルティア・ブラッドフォールンだった。
「いや、俺の方こそ急に来て、すまない。事前に<
「何をおっしゃりますか。このナザリック地下大墳墓は至高なる御方のもの……アインズ様とベリアル様はいつ、いかなる時にも、いかなる場所でも訪れようと自由でございます!そのお迎えを出来ないのであれば、我々の落ち度でありんすえ!」
「あ、うん。いや、そこまで重く考えなくて良いからな」
口調がぐっちゃぐちゃになってる。
物凄く、テンパっているんだろうな。
「それで、ベリアル様。今回は、何のご用でございんしょうかぇ?」
そうそう、これがシャルティアのデフォルトの口調だ。
「あぁ、伝達事項があってな。シャルティアの方から、領域守護者達に回して欲しい物があるんだが」
俺は虚空から、回覧板を取り出し、シャルティアに渡した。
「これは……」
「開いて良いぞ。回覧板という奴だな。読んだら、下の枠に自分の名前を書いて、配下に渡してくれ。最終的に全員が読めたら、俺に返してくれればいい」
「今読んでも、よろしいですかぇ?」
「ああ」
ガバっと、勢い良く開いて、回覧板を読み始めた。
シャルティアの顔が赤くなったり青くなったり、点滅している。
どういう感情なんだ、それは。
「その、ベリアル様はナザリック内部に向けての、側室も作られるので?」
「あぁ、内部と外部で切り分けて作ろうと思ってな」
「分かりんした。でしたら、このヴァンパイア・ブライドを側室へ捧げ──
「待て。何でそういう話になる?」
どういうこと?
というか、ヴァンパイア・ブライドもなんでそんなに嬉しそうな顔をしてるんだ。
「いえ、非常に申し訳ないんすが、私の身はアインズ様の物でありんすえ、配下のヴァンパイア・ブライドを捧げようかと……」
「俺の側室は自由恋愛だ。そういう、捧げるとか捧げないとかじゃない。気持ちは嬉しいが、そういうのはダメだ」
「こ、これは……浅慮でございました。この失態、この身をもって──
「いい、そういうの、いいから」
喋ってると疲れる。
俺に対する忠誠心が高過ぎるのは良いが、俺はもっと気楽に会話できる奴が良いんだよな。
シャルティアに回覧板を押し付けて、俺は第二階層を後にした。
そのまま、ため息を吐いて……隣にいるルプスレギナを見た。
「ん?なんすか?」
……そうそう、これぐらい気楽な方が良いよな。
「いや、シャルティアが悪い訳ではないんだが……話していたら疲れるな、と」
「まー、残念美少女っすからね」
ルプスレギナが「へっ」と鼻をかいて、馬鹿にする様な顔をした。
「……そういう意味なら、お前も同じ残念美女だろ」
「え?美女っすか?て、照れるっす……」
こいつ、どういう思考回路してるんだ。
人の悪口は言うが、自分に都合の悪い言葉は聞こえないタイプなのか?
でも、まぁ……。
「く、くく……」
「え?何、笑ってるんすか……?」
「いや……」
やはり、これぐらい気楽な方が絡みやすい。
……人間種に対するエグ過ぎる偏見がなければ、即座に側室にするんだが。
うーん。
お次は第五階層、『氷河』だ。
極寒の地、アホみたいに寒い。
ブリザードによる持続ダメージで侵入者へダメージを与える効果があるが……今はその効果を切ってる。
だが、寒いのは寒い。
「ささささ、寒いっす」
ルプスレギナがガタガタ震えている。
そりゃメイド服だけじゃ寒いか。
……よく見たら、今日はいつもよりもミニスカートっぽいし。
俺も厚着している訳じゃないが……高レベルによる暖寒への耐性を獲得してるからな。
スリップダメージ無効……ってのが、この極寒の地にも耐性を付与しているのだろう。
……自分の身体を抱きしめて、震えるルプスレギナを見る。
普通に可哀想だな。
俺は上着を脱いで、ルプスレギナに放り投げた。
「わぶっ」
「その服、気温に対する耐性あるから、メイド服の上から羽織っておけ。少しはマシになるだろ」
「で、でで、しかし、っ、ベリアル様は」
「俺は装備なんかなくても耐性がある。気にしなくていい」
まぁ、脱いだら確かに、ちょっと寒くなったが。
こんなもん我慢できる。
「あ、ありがとうございます……」
ほんのり顔を赤らめながら、ルプスレギナが俺の上着を羽織った。
……彼シャツみたいだな。
こうして、お淑やかにしてれば、素直に可愛い美女なんだが──
「スゥッ……」
おい、何、俺の服の匂いを吸ってんだ。
やめろ、恥ずかしいだろ。
はぁ……まったく。
俺とルプスレギナは氷河にある『
白くて丸い、蜂の巣をひっくり返したみたいな、氷の住居だ。
その中で、俺はこの第五階層の階層守護者であるコキュートスと顔を合わせていた。
その体長は俺より大きく、蟷螂と蟻を足して割らない見た目をした異形種だ。
「ヨク、来ラレマシタ。ベリアル様。本日ハ、ドノヨウナ御用件デ、ゴザイマスカ?」
人間とは違う発声で、コキュートスがしゃべった。
「回覧板というものを作成した。中身を確認して、お前の方から領域守護者への伝達を頼みたい」
「承知致シマシタ。コノ身ニ代エテモ、遂行サセテ頂キマス」
「そこまで、思い詰めなくてもいいけど」
俺が回覧板を渡すと、コキュートスはその大きな手を器用に使って中身を確認した。
シャルティアと違って表情が出にくい異形種だからか、リアクションは極小で──
「オ、オオ、オオオオ……」
ん?
「オオオオオッ!!」
コキュートスが急に号泣し出した。
シャルティアより表情が出にくい?
いや、前言撤回だ。
隣にいるルプスレギナがビビってるお陰で、逆に俺は冷静になれた。
あれだよな、自分よりビビってる奴が周りにいると、逆に冷静になる奴だな。
「どうした、コキュートス」
「……失礼致シマシタ、ベリアル様」
うおっ、急に落ち着くな。
「コノ、コキュートス、ベリアル様ノ御世継ギノ為デアレバ死スル所存デス!オ任セ下サイ!」
あぁ、後宮を作ったって事は、子作りをすると思ったのか。
「……いや、世継ぎはまだ、ちょっと、そんな……直ぐに作るつもりはないぞ」
「……左様デ御座イマスカ」
目に見えて落ち込んだな。
コキュートスは……その、あれか?
俺の子供が見たいという事か?
でもなぁ、俺の子供なぁ……俺は
人間種がナザリックの跡継ぎになったら……いや、その場合、寿命のないアンデッドであるモモンガさんが支配者として君臨し続けるか……というか、人間の子供が生まれたらどうするんだ?
ナザリックの面々は許容してくれるのか?
人間種に対する差別意識が強い奴らが多いし──
「なんで二人とも黙っちゃったっすか?」
ルプスレギナの言葉に我に返った。
コキュートスも落ち込んだ様子から元に戻ったようだ。
「あー、コキュートス。取り敢えず、その回覧板を配下に回しておいてくれ。頼んだぞ」
「承知致シマシタ。爺──コキュートスニ、オ任セ下サイ」
今、自分の事を『爺』って言わなかったか?
俺の世継ぎの『爺』ポジションになろうとしてるのか、コキュートス。
……いや、まぁ、コキュートスなら構わないか。
このナザリックでは珍しいカルマ値が善寄りだし。
まぁ、子供作ったらな。
子供……いや、子供なぁ。
うーん。
……何でクレマンティーヌの顔が思い浮かんだんだ?
やめだ、やめ。
俺は『氷河』を後にして、第六階層の『大森林』まで転移した。
ルプスレギナは寒さから解放されたからか、ホッとした顔をしてる。
「……ルプスレギナ。その上着、返してくれるか?」
「うぇっ!?」
ルプスレギナは俺から借りた上着を見て、俺を見た。
そして、俺を見てから、上着を見た。
さらに、上着を見てから、俺を見た。
何度か往復した後──
「はいっす……」
しょぼくれた顔をして、上着を俺に返した。
ルプスレギナは
知らんけど。
ルプスレギナと俺はそのまま『大森林』を歩く。
毒沼を抜けて、平原を歩けば……小規模な村が現れる。
いや、村というか集落か。
俺達に友好的な植物系のモンスターや……あと、“フォーサイト”の面々がいる。
ヘッケランとロバーデイク、あとイミーナだな。
……あ、俺に気付いたみたいだな。
先に声を掛けるか。
「やぁ、元気にしてるか?」
なんて気さくに声を掛けると、ヘッケランが笑った。
「あぁ、ここの外よりもよっぽど良い生活だな」
その言葉にロバーデイクが頷いた。
「ええ。将来的には、このような農業に就職したいぐらいです」
二人の言葉に頷く。
「そりゃ良かった……あー、でも、お前らをナザリックの外に開放するのは、もう少し掛かりそうだぞ。もう少し待ってくれるか?」
「そりゃ構わないさ……なんせ、アンタが居なけりゃ俺らは死んでたからな」
うーん、お前らを殺したのは俺みたいなモノなんだが。
良い感じで恩を売るのに成功してるな。
まぁ、嫌われるよりは好かれた方が良いだろ。
「ではこの辺で失礼させて貰おうかな。また様子を観に来る……あぁ、次はアルシェも連れて来るからな」
なんて言いつつ手を振り別れた。
のだが、イミーナが俺の後ろを着いて来た。
何か話したい事があるのだろう。
ヘッケランが見えない位置になってから、俺は音が漏れないようにする魔法を使用して振り返った。
「イミーナ、何か用か?」
「用って訳じゃないけど……その──
もじもじとしながら、俺を見上げた。
「今日はしないの?」
する、しないっていうのは、まぁ
来る度にほぼ毎回ヤってるしな。
「今日はなしだ。ルプスレギナが居るし」
「……あ、そう。分かったわ。こんな綺麗な
イミーナはルプスレギナをみて、少し自信がなさそうに笑った。
……まぁ、ルプスレギナ、見た目は絶世の美女だからな。
「そんなに卑屈になるなよ、イミーナ」
「なってないわよ」
なってるだろ。
面倒くさい女だなぁ……そこが可愛いんだが。
俺はイミーナの頬を掴んで、無理矢理引っ張り──
「んっ……」
キスをした。
ディープじゃない方な。
舌まで絡めたらスイッチ入って、即
唇を離せば、イミーナは顔を真っ赤にしていた。
「ば、ばか……ずるいわ、こんなの」
「でも気は晴れただろ?」
「……えぇ、今日はこれで満足してあげる。でも、次はちゃんと誘ってよね」
なんて言って、イミーナは俺の側から離れて、ヘッケラン達の元へと帰っていった。
いやー、可愛いな。
ちょっとツンデレっぽいのが堪らん。
……って、思いつつ、俺はルプスレギナを見た。
なんかこう、元気のない笑みを浮かべていた。
「どうした?」
「いや……特に、何もないっすよ」
空元気っぽい笑みだ。
……恐らく、側室になれない自分と、側室になっているイミーナの間で葛藤してるんだろう。
俺は息を少し吐いて、ルプスレギナの頭を撫でた。
「ルプスレギナ、さっき会った人間達についてどう思った?」
「どう……すか?まぁ、生きてるな……とは思ったっすけど」
虚無みたいな感想が飛び出して来たな。
まぁ、いいけど。
「……殺したいとか、苦しむ所が見たいとは思わなかったか?」
「そんな思わないっすよ!仲良く出来たら良いな、と思ってたっす」
即座にルプスレギナが否定した
否定したが……。
「本音は?」
「……さ、さっきのが本音っすよ?」
目が泳いでいるな。
「アインズ・ウール・ゴウンの名に誓えるか?」
俺の言葉にルプスレギナは顔を強張らせて……俺の前で膝をついた。
「……申し訳ありません。先程の奴らが苦しんで死ぬ所が見たいです。ベリアル様に対しての不敬な言葉遣い、あの馴れ馴れしさは許せません」
ルプスレギナが目を細めて、視線を下げた。
「
「……殺しはしませんが、死ねば喜ばしいと」
俺は自分の後頭部を掻いた。
やっぱり、カルマ値が悪に寄りまくってる。
けど、まぁ……。
「なんで俺に嘘を吐いたんだ?」
「……申し訳ありませんでした。今直ぐ、この首を掻き切って、謝罪致し──
「いや、しなくていいから。怒ってないし……ほら、な?」
危ない。
俺に気さくに話しかけてくれるルプスレギナですら、こうして狂信者みたいな振る舞いをするんだよな。
……いや、これは責めるような言い方をした俺が悪いな。
俺はルプスレギナの頬に触れた。
「俺が知りたいのは、本心を偽った理由だ。どうして嘘を吐いたんだ?」
「……あの人間達は、ベリアル様が大事にしてる人間っす。そんな人間を殺したいとか、死ぬ所が見たいって思うのは……良くない事っすから」
俺は目を瞬いた。
そして、ルプスレギナの頬を撫でた。
「……お前は偉いぞ。ルプスレギナ」
「え、偉いっすか?こんな事を考えているのに……?」
「ああ、偉いとも」
カルマ値が下がると思考が残虐になるのか、思考が残虐だからカルマ値が下がるのか。
鶏が先か、卵が先かってぐらい、意味のない考えだろう。
それでも、ルプスレギナは邪悪たれ、として作られたのは事実だ。
その上で、俺に憚って、その邪悪さを発露しないように振る舞っている。
それは、とても偉い事だ。
善良な人間が善良な行いをするのは尊い。
だが、善良ではない人間が善良な行いをするのもまた尊い。
自身の望みを抑えてまで、主君の在り方に従おうとするのなら……それはとても難しい事だ。
邪悪たれ、と作られた彼女ならば、尚更。
「我慢できる良い娘だよ、ルプスレギナは」
「……え、えへへ?そうっすか?」
俺の考えている事は分かってなさそうだが、ルプスレギナは嬉しそうだ。
……取り繕えるなら、良いか。
根が邪悪だとしても、その邪悪さに誰も気付かないのであれば、善良だと言えるだろう。
人間に対しても、その本心がどうであれ友好的に振る舞えるなら……それでいい。
「さて、ルプスレギナ。アウラとマーレの所に行くとしようか」
「はいっす!」
元気に返事したルプスレギナを連れて、俺は森の方へと向かった。
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