※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#55 星に願いを

帝国と王国間の戦争は、帝国の勝利に終わった。

エ・ランテルは帝国の物となり、その後、アインズ・ウール・ゴウン魔導国に譲渡された。

 

今はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都エ・ランテルとなっている。

 

当初はアンデッドによる支配やら、他国による侵略という事実から住民の国外逃亡やら何やらの危険性があったが……アダマンタイト級冒険者モモンが魔導国の支配下となったこと、そしてアンデッドやゴーレムを生かしたインフラ整備などにより住民の不満は解消されつつある。

 

つまり、どういう事かっていうと、王国はアホみたいに腐敗してたので、魔導国下の方が良い生活できるじゃん?

という感じで、住民は納得してしまった訳だ。

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導王……つまり、モモンガさんは国王をやっている。

じゃあ、このエ・ランテルの都市長は誰がやるんだ?

って事で、白羽の矢が立ったのだが──

 

 

「また、仕事が増えた……」

 

 

俺である。

ベリアル都市長とは俺のことである。

 

帝国との大使をやってたつもりだったんだが、兼業なのか?

まぁ、細かい仕事は殆ど配下に任せてるから、形だけの都市長だけどさ。

うーん。

 

でも、明確に身分があった方が対応する者も助かる、ってジルクニフも言ってたしな。

ナザリックの支配者の一人……って、対外的には分かりやすい身分じゃないし、良い機会だし適切な身分を持っておくのは重要だろう。

 

ん?

いや、待て。

ちょっと前まで、俺の職業は“無職”だったのか?

 

……一応、ベリルという冒険者の顔もあるが、ベリアルとは紐づけてないしな。

まぁ、見る人が見れば分かる、公然の秘密みたいなモノだが。

隠す気ないし。

でも公にできないのは確かだが……む、無職じゃないし!

ナザリック、の支配者なんですけど!?

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

取り敢えず、一旦、俺は帝都アーウィンタールの屋敷から、エ・ランテル内に作られた屋敷へと居を移した。

無論、帝都の方の屋敷も残したままだ。

 

で、ジルクニフからの提案で、帝都で雇っていたメイドの半分をエ・ランテルの屋敷に住み込みさせる事となった。

一定期間ごとにその半数の人材を、帝都と交互に入れ替えることを提案されたのだ。

 

確かに、ジルクニフから派遣されたメイド達も、俺の……こう、お気に入りだからな。

帝都に残したままで放りっぱなしというのは気が引ける。

転移門(ゲート)を使えば入れ替えも簡単だし、週に一回入れ替えを行う事にした。

 

いやぁ、名案だなぁ、ジルクニフ。

 

帝都内に戻ったメイドから、魔導国の情報を得ようとしてるみたいだが。

 

それは見逃そう。

敵対している訳じゃないし。

そりゃ隣にアンデッドが王の国家が出来れば気になるだろうからな。

隣国の皇帝として当然の行動だ。

 

取り敢えず、静観。

ジルクニフが何かしら敵対行動をしない限り、俺に手を出すつもりはない。

 

で、だ。

帝都の屋敷も、魔導国の屋敷も、メイドの数が半分ずつとなり……つまり、一つの屋敷を管理するメイドの数は半分になってしまった訳だが、その辺りはナザリックからのメイドを採用して管理している。

 

具体的にはシクスス、フォアイル、リュミエールの三人だ。

彼女達の労働力は、一般的な人間メイドの五、いや、七倍ぐらいのパワーがあるからな。

何とか成り立っている。

 

それにあの三人はラズロによる教育やらで、人間とも友好的な態度を取れている。

現地のメイド達とも仲良くできるだろう。

 

俺は好きな女の子達同士で喧嘩されると、凄い悲しくなるからな。

その辺りが一番、気を使う部分だ。

 

アレだな、ハーレム漫画の主人公って凄かったんだなーって思ったよ。

昔はまぁまぁ気楽に良いなーと思っていたが、現実は女の子達を喧嘩させないようにヘイト管理する中々に難しい役職だった。

尊敬するよ、本当に。

 

 

まぁ、そんなわけで。

現状、俺は何とか上手くやっている訳だ。

 

 

そんなエ・ランテルにある俺の屋敷に、客人が来ていた。

 

 

「十日ぶり、ですね。ベリアル様」

 

「あぁ。よく来たな、レイナース」

 

 

帝国四騎士、“重爆”のレイナース・ロックブルズである。

いつもの重鎧ではなく、ドレス姿だ。

紺色の落ち着きのあるドレスがよく似合っている。

金糸のような金髪とも相性がいい。

 

普段の鎧姿も可愛いが、こうしてお洒落をしようとドレスを着てくれるというのが可愛い。

 

 

「あの、ベリアル様。あまりそう褒められると、その、恥ずかしいのですが」

 

「……ん?」

 

 

口に出ていたらしい。

まぁ、聞かれて困る内容じゃないし、本心だから良いか。

 

 

さて、レイナースが魔導国内の俺の屋敷に来た理由なのだが、帝国側の大使として来たらしい。

実際、色々と帝国側から書類やら外交についての色々を持って来ていた。

 

……よくわからないから、ラズロにぜんぶなげちゃお。

後で多分、色々と小言を言われるだろうが一旦はよし。

 

ジルクニフがレイナースを大使として任命したのは、俺が彼女に対して好意を抱いている事がバレているからだろう。

ジルクニフは帝国の主に相応しい強かな男だ。

細かな機微を思考に取り入れて、有利に事が運ぶように舵取りをしているのだ。

えらい、かしこい。

 

で、レイナースは仕事も終わったので、三日程、魔導国の視察を行うらしい。

都市内に警邏としてデスナイトが歩き回ってるし、その辺の情報やらをジルクニフに報告するのだろう。

……既に、魔導国は既存の国では再現できないような、良く言えば画期的で、悪く言えば異常な国家運営をしている。

話を聞いたジルクニフが胃を痛めない事を祈っておこう。

 

 

「という訳で、まだエランテル内では表面上、大きな問題は起きていないな」

 

 

俺は馬車の中、窓の外を一瞥して、正面で座っているレイナースに声をかけた。

しかし、レイナースは少し難しそうな顔をしていた。

 

 

「……いえ、寧ろ、大きな問題が起きていない事が凄いと思いますわ。支配者が変わり、環境にも大きな変化があった筈なのですから」

 

「……それもそうだな。表面上だけでも変わりがないのは、上手く統治できている証明という話になるか」

 

 

流石はレイナース、領主の娘という過去から、その辺の視野もあるのか。

対して、俺は前世も転移前も一般人だったからな。

やはり、モモンガさんみたいに書庫の「よくわかる帝王学」とかでも読んだ方が良いのかもしれないな。

 

 

「……ベリアル様、皇帝陛下に話すべきではない内容などあるのでしょうか?」

 

「ん?話すべきではない……?いや、そんな話はないぞ。どうして、そんな事を訊くんだ?」

 

 

俺が首を傾げると、レイナースは小さく笑みを浮かべた。

 

 

「恩を仇で返したくはありませんから」

 

 

恩?

レイナースに恩なんて売ったか?

……あー、いや、色々と顔の呪いの件で魔法道具(マジックアイテム)を譲渡したからか?

呪いを直せてないのだから、恩と言われる程のモノではない気がするが。

まぁいい、ここで訂正する必要もない。

 

 

「……と言っても、やはりジルクニフに流して欲しくない情報なんてないな。悪いな、気を使わせて」

 

「いえ……やはり、歯牙にも掛けていませんか?」

 

「そんなつもりはないんだが……」

 

 

ジルクニフを見下している訳ではない。

寧ろ、あれやこれも頑張っているジルクニフを尊敬しているぐらいだ。

しかし、それでもナザリックは強大過ぎる。

……油断し過ぎは良くないが、ジルクニフは気にするほど強大な敵ではないという事だ。

 

ハムスターが威嚇してこようと、人間は本気で取り合わない。

……あ、ハムスケは例外な。

アイツはデカ過ぎる。

 

 

「しかし、街中にアンデッドが居るのは少々慣れないですね……」

 

「それは確かに、気持ちは分かる」

 

「……貴方の立場で口にして良いのですか?」

 

「ん?ダメなのか?」

 

「……いえ」

 

 

魔導国がエ・ランテルを占拠する前に、エ・ランテルから逃走した住人もいる。

占拠前の八割程に人口は減少してしまったのだ。

 

そして、人が減れば労働力が減る。

その穴埋めとして、魔導国は住人にアンデッドを貸し出している。

当初、住人達はアンデッドに対する恐怖を感じていたようだが、今は平常運転だ。

 

死者と生者、選り好みをしている余裕が彼等にはない。

働き盛りであった筈の若い男達が、王国と帝国間の戦争……というかモモンガさんの超位魔法で多数死んだからな。

大黒柱を失った家庭も多い。

 

 

その辺りはなんとか、俺達の手で支援しなければならないだろう。

 

 

……なんて、考えている間にレイナースの視察は無事に終了した。

まぁ、デスナイトが警邏してる中、テロを起こそうなんて命知らずは居ない。

都市を占拠した魔導国に悪感情を抱いていたとしても、表面化する事はなさそうだ。

 

 

視察を終えたレイナースと俺は、都市長の屋敷まで戻って来ていた。

 

 

「今後はスラム街の人間に、アンデッドの補佐を付けて開拓村へ送る予定だ」

 

「開拓村、ですか?」

 

「法国の陰謀やら、八本指による黒粉により破綻した村が多数ある。スラム街出身の人間を労働力として送り込む訳だ」

 

「……なるほど。単純な労働力として、疲労知らずのアンデッドを送り、移民としてスラム街の人間を送る訳ですか。村を立て直す事による税収の増加と、スラム街の住民を送りつける事で都市部の治安向上にも繋がると」

 

「そういうこと。話が早くて助かる」

 

 

……やはりレイナース、地頭が良いな。

ちゃんと人の上に立つべき者としての教育を受けて来たのだろう。

俺は、その、ちょっと悩んでから理解したんだが……こうしてすぐに気付かれると自信なくなる。

頭の回転が違うんだろうな。

 

なんて、レイナースと世間話をしながら廊下を歩いていると、とたとたと可愛らしい足音が聞こえて来た。

 

 

「あー、ベリアルさま!」

 

「ベリアルさま!」

 

 

直後、廊下の角を曲がり、小さな女の子が俺に気付いて駆け寄って来た。

アルシェの妹、クーデリカとウレイリカである。

 

情操教育の一環として、異形種だらけのナザリック内ではなく、人と触れ合えるよう魔導国内に移住させたのだ。

この時間帯は、エ・ランテル内にモモンガさんが作らせた魔導学院の低学部に行っている筈だが──

 

 

「こら、二人とも。廊下で走ったらダメだって……え」

 

 

アルシェも後から追いかけて来て、俺の横にいるレイナースを見て固まった。

まぁ、俺単体なら別に気にしないが、客人が居るとちょっと拙いよな。

 

そう考えて、俺はレイナースを一瞥した。

……怒ってはいないが、戸惑ったような顔をしている。

 

そんなレイナースを見て、アルシェは妹達を抱き抱えて頭を下げた。

 

 

「も、申し訳ありません。レイナース様。とんだ不躾を……」

 

「い、いえ。構いませんわ。子供は元気が一番ですから」

 

 

なんて、レイナースは引き攣った笑みを浮かべながら頷いた。

そうして、アルシェは頭を下げながらクーデリカとウレイリカを連れて離れて行った。

子供部屋に連れて行くのだろう。

 

そうして静かになった所で、レイナースは俺へ目線を向けた。

 

 

「あの、ベリアル様?彼女達は……ベリアル様のご息女なのでしょうか?」

 

 

待ってくれ。

凄まじい勘違いをしている。

 

 

「いや、俺の側室の妹だ。俺が父親代わりのような事はしているが……すまない、騒がしかったか?」

 

「いえ、構いません。ですが、そうですか……三人も面倒を見て居られるのですね」

 

 

三人……これアルシェも含めているな?

いや、確かにアルシェはまだ若いが……この会話を本人に聞かせたら、メチャクチャ落ち込むだろうな。

 

 

「いや、年長の女性……アルシェは俺の側室だ。一人が側室で、二人が妹だ」

 

 

そう口にするとレイナースは驚いたような顔をして、頭を下げた。

 

 

「も、申し訳ありません。とんだ失礼を致しましたわ」

 

「いや、いい……だが、本人には秘密にしてくれ。この事は」

 

 

アルシェ、若く見えるが……いや、実際に若いが。

小柄だから若く見られがちなだけで、相応の年齢ではある。

ちゃんと一個人の大人の女性として扱わないと、な。

子供扱いはNGだ。

 

 

「……ベリアル様は、彼女のような方が好みなのですか?」

 

「好み?好みか、と聞かれたら好みだが──

 

 

レイナースが目線を下げた。

ちょっと落ち込んでいるように見える。

アルシェとレイナース、タイプが全然違うからな。

薄幸の美少女と、麗しい女騎士だし。

 

でも、こう、俺の発言で嫉妬というか、落ち込んでいるのを見ているといじらしくて……凄く可愛いな。

 

 

「俺はレイナースのことも好みだぞ」

 

 

ちょっとキザ過ぎるか。

口にしてから、羞恥を感じてしまう。

 

 

「そう、ですか……それは、その、嬉しいです」

 

 

だが、レイナースは俺の回答が嬉しかったようで顔を赤らめながら頷いた。

うん、喜んでくれるなら良かった。

恥ずかしい事を言った甲斐もある。

 

そんな会話をしながら俺の私室についた。

応接室に通すべきな気もしたが、今のレイナースとは仕事の関係じゃないし。

 

 

席に座ったレイナースの前に、メイドが飲み物を用意した。

よく分からない茶葉のよく分からない紅茶だ。

ナザリック産で状態異常を治癒する効果があるが、そんな事より味が良いのが特徴だ。

 

俺とレイナースはそれを口にしたが……レイナースはあまりの美味さに頬を緩めていた。

俺は慣れているから、そんな表情を緩めたりしないが……後でメイドを褒めておこう。

帝国から連れて来たメイド……名前はクリアーナだったな。

メイド達は褒められると、かなり喜ぶ。

ちょっとした手間で喜んでくれるのなら、俺は手間を惜しむつもりはない。

 

 

「それで、ベリアル様」

 

「ん?」

 

「側室は何人いらっしゃれるのですか?アルシェ様以外にも居るのでしょう」

 

「あぁ、側室なら……8人居るな」

 

「……そう、なのですね?」

 

 

何で、そんな微妙そうな顔をするんだ。

 

 

「幻滅したか?」

 

「いえ、皇帝陛下も側室は複数居ます。為政者ならば、当然の事だと思いますわ」

 

 

そう言いつつ、レイナースは紅茶を口にした。

 

 

「そう言われると助かるな。レイナースに幻滅されたら、立ち直れそうにない」

 

「……ふふ、ご冗談を」

 

 

いや、冗談ではないが。

言い過ぎかも知れないが、間違いなく寝込むぞ俺は。

 

そんな事を考えていると、レイナースは自身の前髪を手で撫でた。

ちら、と呪いによって爛れた顔が見えた。

 

だが、俺が渡した魔法道具(マジックアイテム)によって、呪いは軽減されている。

依然は膿が止まらず定期的に拭かなければならなかったそうだが、今は日に一度、風呂に入る時ぐらいで済むそうだ。

 

 

「……ベリアル様?私の顔が……なにか?」

 

 

ジロジロと見過ぎて居たようだ。

レイナースは怒る訳ではなく、不安そうな目で俺を見て来た。

 

 

「いや、レイナースは美人だな。と思って」

 

 

誤魔化すように口にしたが、実際に思っている事ではある。

メチャクチャ美人なんだよな。

品があって、意志の強さを感じさせる目とか、口元の黒子とかもチャームポイントだ。

 

なんて考えていると、レイナースは目線を下げた。

 

 

「お世辞、ですか?」

 

「いや、本音だ。嘘を吐く理由もない」

 

 

こうして、卑下するのは自己肯定感の低さが原因だ。

何とかしてやりたい。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

少し気まずいな。

レイナースに落ち込んで欲しい訳ではなかったが……何とも言えない空気だ。

 

折角、今日、色々と準備をして来たのに切り出せない。

誰か何とかしてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目前に居るベリアルが気まずそうに視線を逸らしたのを見て、レイナースは下唇を噛んだ。

 

 

(彼には側室が8人も居る。きっと、先程、会った彼女のように見目麗しく若い女性達に違いない)

 

 

感じているのは嫉妬心だ。

側室という立場に対する嫉妬。

ベリアルに愛されているという嫉妬。

 

この身が呪われていなければ、その立場に自身も就けたのではないか……という、嫉妬。

 

確かに、レイナースは男と一夜を共にした。

だが、あれっきりだ。

それ以上の進展はない。

 

ベリアルは言葉では褒めてくれるが、それ以上の関係には踏み込んで貰えない。

 

レイナースには理由が分かっていた。

この身の呪い……醜い顔。

性格も、別に良い訳ではない。

執念深く嫉妬深い。

 

そんな自身が、この男の側室になれるのだろうか。

 

……例え、呪いがなくとも、側室にはなれなかったのではないか。

その思いが脳内に過ぎる度、「いいや、この顔の呪いの所為だ」と首を振りたくなる。

 

手元のティーカップに力が入りそうになり、堪える。

自身の叶えたい願いのように儚く……少し力を込めれば、壊してしまいそうだと思ったからだ。

 

 

「……レイナース、今から少し提案したい事があるんだが。構わないか?」

 

 

そんなレイナースに、男が声を掛けた。

 

 

「……提案、ですか?」

 

「提案だ。もし気に食わなければ断ってくれていい。そして、断ったとしてもレイナースに不利が働かないよう振る舞うと約束しよう」

 

「……はぁ、そうですか?」

 

 

レイナースは困惑した。

ベリアルの突拍子もない言葉に首を傾げる。

 

提案。

 

目の前のベリアルの顔は真剣そのものだ。

いつもの軽薄そうな笑みではなく、真剣な顔。

これほどまでに真剣になることとは。

レイナースは考える。

 

帝国を裏切り、魔導国につくような提案か。

ジルクニフには恩がある。

だが、ベリアルにも恩はある。

最終的に魔導国につくのは構わないが、今すぐに帝国を裏切れと言われれば躊躇する。

 

ジルクニフに対して恩を返したと、胸を張って言えるまでは帝国の四騎士として、この身分を全うしたい。

 

レイナースはそう考え、ベリアルの言葉を待った。

頭で返答を幾つか考えて──

 

 

「レイナース。俺の側室になってくれないか?」

 

 

思考が停止した。

 

 

「……は、ぇっ」

 

 

そして、上擦った声が出た。

 

普段から可愛いだの、好きだの、綺麗だとか、そう口にしてくれていたのは真実だったのか。

レイナースの心臓は早鐘のように鳴り響いていた。

 

愛する男に告白されて、嫌な気持ちになる訳がない。

 

 

「……すまない。やはり、側室というのは──

 

「い、いえ!構いませんわ!」

 

 

消極的な顔をしたベリアルを見て、レイナースは慌てて机に乗り出した。

ティーカップが机の上で揺れるほどの勢いだった。

 

 

「……いいのか?レイナース」

 

「ええ……むしろ、貴方の方こそ構わないのですか?こんな、呪われた女を……」

 

 

そう、レイナースは口にした。

自分から、自身の価値を蔑むような言葉だ。

だが、それでもレイナースは口にせざるを得なかった。

 

もう、裏切られたくなかったからだ。

裏切られるぐらいなら、最初から拒絶して欲しかったからだ。

 

試すような気持ち。

自虐的な言葉。

 

レイナースの目は、言葉とは裏腹に不安で揺れていた。

 

そして──

 

 

「構わない。俺はレイナースの事が好きだからな……呪いがあったとして、レイナースを選ばない理由にはならない」

 

 

ベリアルの言葉にレイナースは……椅子へ座り直した。

欲しかった言葉を吐かれて、裏切る事はないと言われて、自身の失ったものも拾い上げてくれて……レイナースの目から涙が溢れた。

 

 

「……泣いているのか、レイナース」

 

「いえ、その……申し訳、ありません。お見苦しい所を……」

 

 

夜、一人で泣く事もあった。

呪いに対する怒りや、悲しみで枕を濡らした。

どうして自分がこんな目に遭うのか、どうしてこんなに不幸なのか、理不尽に泣いていた。

 

だが、この涙は違う。

ただ、嬉しかった。

 

愛する男に受け入れられて、手を引かれて、嬉しかった。

胸から込み上げる感情に、涙が止まらなくなっていた。

 

 

「……ぅ、すみ、ません。すぐ、泣き止みます、ので……」

 

「いや、構わない。泣いてもいい」

 

 

男の言葉に、レイナースは顔を上げた。

 

 

「ですが……」

 

「悲しくて泣いているのなら、俺が止めよう。だが、嬉しくて泣いているのなら……構わない。その涙を俺は否定しない」

 

 

……どうしてこうも、優しいのか。

レイナースは自身の目を拭いつつ、少しだけ落ち着いた心で向き合った。

 

 

「……随分と格好いい事を言いますね」

 

「……少しキザ過ぎるか?もう少し上手く言葉を選べたら、良いんだが……」

 

 

照れ臭そうにしている男を見て、レイナースは少し面白くなって笑みを浮かべた。

 

 

「……いいえ、いい言葉ですわ。よく沁みましたから」

 

 

もう涙は出なかった。

正面から男に向き合い、レイナースは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイナースはベリアルから、指輪を受け取った。

いつでも<伝言(メッセージ)>で会話できるよう魔法が込められた魔法道具(マジックアイテム)の指輪だ。

 

それを握りしめながら、レイナースは頷いた。

これはただの指輪ではなく、愛の象徴なのだと、そう思った。

 

 

「さて、レイナースは側室になった訳だが……帝国での役職はどうする?四騎士という立場は辞職できないだろう」

 

「それは……はい。皇帝陛下への恩もありますし、すぐに辞めるというは出来ません」

 

「……帝国四騎士のままで居たいなら、継続しても構わないぞ?俺としては魔導国で、騎士として活動して欲しいところではあるが……レイナースの意思を尊重したい」

 

 

男の言葉にレイナースは笑みを浮かべた。

自身の新たな立場というものを考えていてくれたから、嬉しかったのだ。

 

 

「いえ。将来的に、ベリアル様の近くで働ける事を望んでいますわ。なので、帝国四騎士という立場を返上するつもりです」

 

「……なら、いいが。本当に俺に配慮する必要ないからな?」

 

「はい。それが私のしたい事ですから」

 

 

男の側に居たい。

ならば、帝国で騎士をするにも限度がある。

魔導国での立場があるのなら、そちらに転職したい。

 

当然の帰結だ。

 

 

「……なら、分かった。魔導国に移住するなら……そうだな、俺の近衛騎士でもやって貰う事にしよう」

 

「ありがとうございます」

 

 

レイナースは胸を撫で下ろした。

この身でも為せる仕事があり、男の役に立てるのだと安堵したのだ。

 

 

「よし、そうと決まれば……レイナース、少し時間を貰ってもいいか?」

 

「……えぇ、はい?構いませんわ。明後日まで、私に予定はありません」

 

 

レイナースはそう答えつつ、笑みを浮かべた。

もしかすると……夜のお誘い、だろうか。

側室となったから、抱いて貰えるのだろうか。

 

そう考えると、少し頬が緩んで、ニヤけてしまいそうになる。

レイナースはそれを必死に堪えていたのだが。

 

 

「なら、少し試したい事がある。ここでは出来ないし、ナザリックに転移して試そうと思うのだが」

 

「試す、ですか。何をする予定なのですか?」

 

 

レイナースは戦々恐々とした。

この魔導国では出来ない規模で試したいとは……もしや、エッチな事だろうか。

どういうプレイなのだろうか。

例え、どれほど倒錯的で過激なプレイだったとしても、愛する男に求められるのなら成し遂げてみせよう。

 

息を呑む。

心臓が高鳴り、顔も熱くなっている。

 

そんなレイナースに男は口を開き──

 

 

「まだ試せていなかった、その呪いを解く方法だ」

 

 

男の言葉に、レイナースは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、俺は正式に側室になってくれたレイナースと共に、ナザリックの闘技場まで来ていた。

転移で急に移動したからか、見慣れない景色だからか……その両方か、レイナースはそわそわとしている。

 

そんなレイナースの前に立つ、俺の指には流れ星の指輪(シューティングスター)がはめられていた。

それは超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>を使用できる超貴重アイテムだ。

 

そんなものをレイナースに使っていいのか、という話なのだが──

 

 

「……来たか」

 

 

俺の真横に転移門が現れて、そこから見知った骸骨……というか、モモンガさんが現れた。

少し焦った様子だったが、レイナースを見た瞬間、威厳のある支配者に戻った。

 

 

「ベリアルさん。流れ星の指輪(シューティングスター)を使用すると聞いたが、本気なのか?」

 

 

ナザリック外の部外者がいるからと、俺相手にも支配者然とした口調で話しかけてくる。

 

 

「本気だ」

 

「……ただの、帝国の一騎士に流れ星の指輪(シューティングスター)を使用すると?」

 

 

言外に、勿体無いだろ、という気持ちが込められた言葉だ。

少し威圧的なモモンガさんに、レイナースは不安そうな顔を浮かべた。

 

 

「いや、そうではない」

 

「……ああ。やはり、私の勘違いだったか──

 

「ただの帝国の騎士ではなく、俺の側室であるレイナースだから使うんだ」

 

 

その言葉にモモンガさんが顎をカクカクとさせた。

驚いているようだ。

……幸いにも、レイナースには見えていないようだな。

威厳もあったもんじゃない顔だからな。

見えない方がいい。

 

 

「……いや、だが、しかし……むぅ」

 

 

モモンガさんは自身の顎に手を当てて、悩ましそうな声を出した。

 

俺が側室達を大事にしているのはよく分かっているだろう。

レイナースが側室にならないのであれば流れ星の指輪(シューティングスター)を使うような説得はできなかったが、側室になれば別だ。

 

恩を売るために流れ星の指輪(シューティングスター)は使えないが、愛する女のために流れ星の指輪(シューティングスター)を使うことは承認してくれる。

 

そう、モモンガさんなら。

 

 

「……だが、しかし、なぁ……」

 

 

……だよね?

 

俺の作戦はガバガバだったのかも知れない。

常識的に考えれば、何でも願いが叶うアイテムを、命の別状もない女に使うのは勿体ないだろう。

 

 

「モモンガさん、頼む。使わせて欲しい」

 

 

だが、それでも俺は使うべきだと思った。

 

レイナースは顔の呪いをうけて、不幸になったと思っている。

まるで自分に言い聞かせるように。

 

それは、これからもずっとそうだ。

呪いの所為で俺に捨てられるかも知れない、なんて考えてしまう事もあるだろう。

 

 

「…………」

 

 

それは看過出来ない。

俺がどれだけ愛を伝えようとも、自信がなければ意味はない。

顔の呪いというのは、それだけ重傷だ。

女ならば、尚更。

 

心に突き刺さった釘のようなものだ。

俺は、その釘を抜かなければならない。

 

 

「……分かった。ベリアルさんの好きにしてくれ」

 

 

モモンガさんは俺の目を見て、折れてくれたようだ。

 

 

「恩に着る……悪いな。どこかで埋め合わせをしよう」

 

「いいや……そもそも、それ、ベリアルさんの物だし、俺が口出しするのも……いや、何でもない」

 

 

近くにいるレイナースを見て、モモンガさんはまたアインズ・ウール・ゴウンとしての態度に戻った。

 

 

「ただし、使うのならば私も同席させて貰おう。貴重なアイテムの使用だ。興味もある」

 

「それは好きにしてくれ」

 

 

そうして、頷いたモモンガさんから視線を逸らし、レイナースへと戻した。

のだが……。

 

 

「……レイナース?」

 

 

レイナースは不安そうな顔をしていた。

思わず、顔を覗き込んだ。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「……い、いえ、それは貴重な魔法道具(マジックアイテム)……なのですか?」

 

 

そう聞かれて、誤魔化そうかと一瞬思ったが……もう手遅れだと思い、頷いた。

 

 

「ああ」

 

「……どんな効果が?」

 

「どんな願いも三度だけ叶える指輪だ」

 

 

そう口にすると、レイナースは顔を青くした。

 

 

「どんな願いも……!?そんな、貴重な魔法道具(マジックアイテム)を……?よろしい、のですか?」

 

 

そう口にしつつも、レイナースの目の奥には期待が満ちていた。

顔の呪いが解けるかもしれない、という期待だ。

だが、彼女の理性が咎めているのだろう。

 

どんな願いも、とは、それだけの価値がある。

 

まぁ、しかし、俺は悩む事もなく頷いた。

 

 

「いいぞ?」

 

「……私は、貴方が顔の呪いさえ気にしないのであれば……我慢、できますわ。それでも、使うのですか?」

 

 

そう言われて、俺は目を細めた。

レイナースの言葉は本音だろう。

例え、呪われていても、俺さえ良ければ……なんて、本当に思っている。

 

だが、それは我慢だ。

 

手に入る筈の幸福から目を逸らし、俺に対して義理を立てようという理性。

心の奥底では、今すぐ呪いを解いて欲しいと思っている筈なのに。

 

呪いを受けてからずっと、その呪いに苦しめられ、呪いを解くために生きてきた。

そんな彼女が、俺の為にと最大の機会(チャンス)を手放そうとしている。

 

 

「レイナース」

 

「……はい」

 

「断らないでくれ」

 

「……え?」

 

 

困惑した顔で、レイナースが俺を見た。

顔の右半分は爛れている。

それでも美しい瞳で俺を見た。

 

 

「レイナースの言葉を聞いて、ならば使うのを止めようか……なんて考えるような、情けない男に俺はなりたくない。だから、素直に喜んで欲しい」

 

 

これは本音だ。

 

いや、確かに?

この指輪の価値は凄まじい。

正直に言えば、レイナースに使うのは勿体無い。

俺の理性は、指輪をアイテムボックスに戻したがっている。

 

だが、俺はレイナースに幸せになって欲しいと思った。

その為には、この指輪が必要なのだと思った。

 

だから、使う。

そう決めたのだから、理屈は不要だ。

 

勿体無い?

重大な場面で使うべき?

 

今がその場面だと、俺は思う。

 

 

俺の言葉に、レイナースは目を見開き……ゆっくりと、頷いた。

 

 

「……はい」

 

 

短く、同意した。

その同意にはきっと、万感の想いが込められていたのだろう。

 

……愛おしい。

俺は思わず、レイナースを抱きしめようと──

 

 

「ん゛んっ……ゴホン!」

 

 

モモンガさんが口に手を置き、咳払いをした。

アンデットなのに。

 

確かに、そういう雰囲気だからと言って、人前でする事ではないか。

 

俺は慌てて、レイナースから少し距離を取り、真面目な顔をした。

努めて、真面目な顔だ。

 

そして、流れ星の指輪(シューティングスター)を掲げた。

 

 

「……俺は願う(アイ・ウィッシュ)

 

 

言葉を口にする必要はない。

だが、何も口にせず使う事は出来なかった。

 

脳に流れてくる莫大な情報に少し吐き気を催す。

……不快感を感じながらも、取捨選択を行う。

叶えたい願い、その為にするべきこと。

 

 

「……レイナースに掛けられた呪いを解き、元の顔に戻せ」

 

 

瞬間、指輪が光を放った。

指輪に込められていた魔力が渦巻き、一つの魔法を行使する。

 

星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>が発動し、レイナースの元へと向かう──

 

うおっ、まぶしっ。

めちゃくちゃ光ってる。

普通に直視してたら目が焼けそうなぐらい、光っている。

 

思わず目を閉じて、少しすると……光が消え失せ──

 

 

「あ……」

 

 

そこには爛れた右半分もない、美しい顔を取り戻したレイナースが立っていた。

どうやら、上手くいったようだ。

 

……だが、レイナースは少し戸惑っているようだった。

 

 

「……レイナース?」

 

 

俺が声を掛けると、不安そうな顔をした。

……何か、まずい事が起きたのか?

右半分が痛むとか?

もしくは違和感があるとか?

くそっ、初めて使うアイテムだったから、副作用とか知らないぞ。

しくじったのか?

 

そう頭の中でぐるぐると不安な考えを回していると──

 

 

「あ、あの……ベリアル様?その……上手くいった、のでしょうか……?」

 

 

……そりゃそうか。

鏡も何も無いのだから、確かめようも無い。

俺が不安そうな顔をして、反応も悪かったから失敗したのかと思ったんだな。

 

 

「いや、成功だ。これで確かめてくれ」

 

 

俺は慌てて、アイテムボックスから鏡を取り出し──

 

 

「あ……っ」

 

 

レイナースは自身の顔を手で撫でて──

 

 

「あ……」

 

 

膿んでいないこと、爛れていない事を確かめた。

そして──

 

 

「う、ぁ……ぁ……あ」

 

 

号泣した。

 

 

「……あぁ……」

 

 

涙を流して、嗚咽を漏らして、蹲る。

 

 

「う、うぅ……うっ……」

 

 

呪いが解けた喜びを表現するように。

今までの孤独感を吐き出すように。

 

レイナースは声を上げて、泣き喚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや、長いな。

泣き過ぎだ。

 

こうなる想定はしていたが、思っていたよりも壮絶だ。

確かに長年の苦労が解けたのだから、こうなるのも理解できるが。

でも長い。

 

ちょっと心配になるレベルだ。

 

ど、どう慰めたら良いんだ?

なんて声を掛けたら良い?

 

モ、モモンガさ──

 

 

「……ふむ。私はこれで失礼するとしよう」

 

 

そう言いつつ、モモンガさんは転移で姿を消した。

 

 

に、逃げやがった。

く、くそっ。

 

俺は闘技場の中心で、泣いているレイナースを見て……抱きしめようと手を伸ばして……いや、そういう雰囲気じゃないかと手を引っ込めた。

 

頭を撫でる?

いや、これも気まずい。

 

何か、声を掛けるべきじゃないのか?

でも、なんと声を掛ければいい?

 

だ、誰か、助けてくれ。

 

 

 

 

 

そうして俺はレイナースが泣き止むまでの間、彼女の前で立ち続ける羽目になった。

なんとも情けない姿だった。

 




次回はレイナースと。

現在の予定
①レイナース
②竜王国
③聖王国
間に、プレアデス関連も入るかも。
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