※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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竜王国編
#59 竜王国の女王


バハルス帝国の南東に存在する国家、竜王国。

そこは隣接する亜人種、ビーストマンの国により侵攻を受けている国家である。

ビーストマンは獅子等の動物に近い頭を持つ屈強な獣人であり、人間の10倍以上の力を持つ種族である。

 

一般的なビーストマンですら、優れた戦士と同程度の力を持つ。

 

そんなビーストマンが竜王国を侵攻している理由は、竜王国を占拠したり滅ぼそうとしている……という訳ではない。

 

それは“戦争”ではない、ただの“狩り”である。

少なくともビーストマンはそう認識している。

 

ビーストマンにとって、人間種は食料だ。

特に母体を引き裂き、まだ産まれていない赤子を取り出せば、最上級のご馳走となる。

 

ビーストマンは竜王国の人間を食うため、そして娯楽としての狩猟の為に襲っている。

 

故に、目的は滅ぼすためではなかった。

逆に滅ばれては食糧庫としての役割も、狩場としての役割も失ってしまう。

ビーストマンは力量の差で竜王国に勝っていても、大規模な侵攻を行わなかった。

 

しかし、今は違う。

如何なる理由かは知らないが、数ヶ月前からビーストマン達は大規模な侵略行為を竜王国に対して行なっている。

既に三つの都市は落とされてしまっている。

 

そこで行われた宴は、ビーストマンからすれば煌びやかなもの。

人間種からすれば吐き気を催すようなものだった。

 

種族として異なり、価値観も倫理観も異なる外敵に対して、交渉が出来る筈もない。

竜王国は現在、国家の総力をもってビーストマンと争っている。

これは竜王国という国が滅ぶかの瀬戸際であり、アダマンタイト級冒険者すら雇っている。

 

しかし、その抵抗も虚しいものである。

竜王国はゆっくりと……少しずつ、滅びの道へと突き進んでいた。

 

 

そんな竜王国を治めている女王は”黒鱗の竜王(ブラックスケイル・ドラゴンロード)“と呼ばれている。

名をドラウディロン・オーリウクルス。

七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)“と呼ばれる真なる竜王を曽祖父に持ち、竜種と人間種の混血の子孫……真にして偽りの竜王である。

 

彼女は現在、竜王国の首都にある城……その玉座の間に座っていた。

十代前半に見える少女は、玉座の上で……足が剥き出しになった服のまま、あぐらをかいた。

 

 

「はぁ……だーるいな」

 

 

目は疲労のため濁っており、頬は引き攣っている。

半目で虚空を見つつ、ため息を吐き、脇腹を掻いた。

 

姿は十代前半の少女だが、三十……いや四十代の女性のような……いや、おっさんのような態度を取っていた。

 

 

「お疲れ様です、陛下。ですが、まだ仕事は残っていますよ」

 

 

すぐ側に待機していた男……宰相の声に、ドラウディロンは口を窄めた。

 

 

「あー、もう少し私を労うつもりはないのか?」

 

「ですから、お疲れ様と言っています」

 

 

ドラウディロンは自身の着ている服の裾を掴んで、引っ張った。

言いようのない癇癪をぶつけたかったのだ。

 

 

「……はぁ、それで?続きの仕事はなんだ?またロリコンの相手か?だるいんだが?」

 

「陛下。保護欲を刺激されるような姿と振る舞いをしているからこそ、皆は頑張ってくれているのです」

 

「……あー」

 

 

ドラウディロンは先程まで、玉座の間にいた冒険者との会話を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この国をすくうために、いっしょに頑張るのだ!まかせたぞ!」

 

 

ちょっと舌足らずだが、溌剌とした(というか無理をした)満面の笑みを浮かべる自分。

 

 

「はっ!陛下!私めにお任せください!」

 

 

それに対して“ねっちょり”した笑みを浮かべ、士気に満ち溢れた男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おえー……」

 

 

ドラウディロンは口を開き、舌を突き出すジェスチャーをした。

そして、玉座の上で足をバタバタとさせた。

 

 

「陛下、はしたないですよ」

 

「世の中の人間どもはどうかしているぞ。こんな身体の何が良いんだ?デカい方が何かと良いと思うんだが」

 

 

主に胸とか。

ドラウディロンはジェスチャーでそう示した。

 

彼女は本来、胸も大きく背も高い、“ないすばでー”の美しい大人の女性である。

保護欲を擽るような少女ではない。

 

だが、現状、宰相によって少女の姿を取るように言われている。

何でも、あっちの形態は男ウケは良いが、女ウケが悪いとか。

純粋無垢な少女の方が老若男女にウケるとのこと。

 

ドラウディロンも一応は納得しているため、このような姿で女王としての仕事をしている。

生足露出で歳不相応な演技までして……自分のキツさに嫌気がさしていた。

 

 

「それで?仕事の詳細は何だ?」

 

 

ドラウディロンは自身の思考を打ち切り、宰相に声を掛けた。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国について、です」

 

「……あー、王国と戦争をしたって話の?」

 

「いえ、あれは正確には帝国の戦争でして、魔導国は魔導王が魔法を一度だけ行使しただけかと」

 

「細かい奴だな。まったく……魔導王は魔法一つで、王国の兵を五万は殺したと聞いているぞ。話に尾鰭が付きすぎていると思うが、お前はどう思う?」

 

 

ドラウディロンは玉座にしかれた柔らかいクッションに身を投げ出した。

ここに居るのは宰相だけであり、気を張る必要もないからだ。

 

 

「私も戦果は盛られた物だと思います」

 

「だよな」

 

「……陛下の魔法で、同じ事は出来ますか?」

 

「始原の魔法か?可能ではあるだろうが……」

 

 

ドラウディロンは玉座に肘をついた。

始原の魔法(ワイルド・マジック)は、魔法詠唱者(マジックキャスター)が扱う位階魔法とは根本から異なる、古の魔法だ。

魔力ではなく、魂を消費する異能。

 

真の竜王に比べて竜の血が薄く、脆弱なドラウディロンでは、完璧に使い熟す事はできない。

その行使に犠牲を伴い、百万の人魂を消耗する。

 

そんな民の魂を消費して、消費した魂の数以上に敵を殺せるのか?

割に合うのか?

と、問われても……ドラウディロンに頷く事は出来なかった。

 

使用すれば、間違いなく国の寿命を縮めるだろう。

いや、寧ろ、ビーストマンによって滅びるより先に、始原の魔法(ワイルド・マジック)を放つための消耗で国が滅びるだろう。

 

 

「まぁ、いい。他国の現実味のない噂話など、考えていても仕方ないか。そんな事よりも、本題に入れ」

 

 

ドラウディロンが促すと、主宰が微妙そうな顔をした。

何だ、その顔は……と喉まで出かかったが、飲み込む。

 

 

「陛下、魔導国側から援助の申し出がありました」

 

「ほー、それは助かる。何も助けてくれん王国や帝国、最近見捨てられた気がする法国よりはマシだな。うむ」

 

 

ドラウディロンは玉座に座り直しつつ、笑みを……いや、乾いた笑みを浮かべた。

自分で言いながらも、お先真っ暗な自国の状況を再認識して気分が悪くなったからだ。

 

 

「それで?食料か?金か?」

 

「人員だそうです」

 

「ほう、兵か。それで、いかほど?」

 

「……100ほど、だそうです」

 

「ほー、100万もかー」

 

「いえ、だから100人です。100万なんて新興国から出せる訳ないでしょう。現実を見て下さい、陛下」

 

 

ドラウディロンは全身を弛緩させて、椅子の上に溶けた。

 

 

「はー、焼けた石に水をかけるようなものではないか。あー……そうか、アダマンタイト級の……えーっと──

 

「“漆黒”ですか?」

 

「そう、“漆黒”だ。アレの所属は魔導国だったろう。アレも来るのか?それなら100人でも大軍に匹敵するのだが」

 

「いえ、一般的な兵と……魔導国の都市長、実質的な立場で言えば宰相でもある方が来れると」

 

「なるほどな、武勲による箔付が目的か……」

 

 

ドラウディロンは顔を顰めつつ、頷いた。

恐らく、その都市長とやらは権力を内部の派閥に奪われないよう、力を誇示する必要があるのだろう。

他国の重鎮が内政的な理由で、ビーストマンと戦う……真正面から真剣に戦うとは思えない。

大した活躍は期待できないだろう。

 

 

「まぁ、居ないよりはマシと信じたいが。地位が高い奴が来るなら、護衛が必要だな。今の戦況から考えるに、半端な者では務まらんぞ」

 

 

それどころか、もしビーストマンによって殺されれば魔導国から文句まで付けられかねない。

役に立たない将を守るための部隊を、竜王国側でも用意しなければならないのだ。

迷惑な話である。

 

 

「でしたら、”彼“がよろしいかと」

 

「……”あいつ“か」

 

 

ドラウディロンは再び顔を顰めた。

竜王国、唯一のアダマンタイト級冒険者チーム”クリスタル・ティア“、そのリーダー”閃烈“のセラブレイト。

凄まじい力を誇り、光輝剣という剣技を使い熟す、竜王国の切り札だが──

 

 

「あいつに貸しを作りたくないな。あのねっちょりした視線がキモい。何が楽しいんだ、こんな平坦な身体を見て……絶対にロリコンだろ」

 

「そう言わないで下さい。彼のお陰で大勢が救われているのですから。あ、ちなみに彼はロリコンです」

 

「うげー、断言するな。少しは言葉を濁せ」

 

 

ドラウディロンは頬を引き攣らせて、ため息を吐いた。

 

 

「はぁ〜っ。うちの国のアダマンタイトは、どうしてこうも……もう少しマシな奴だったら良かったんだが」

 

「金を積まなくても死地へ喜んで向かってくれるのですから、良いじゃないですか」

 

「その皺寄せがこのザマなんだろうが」

 

 

ドラウディロンは自身の平坦な胸をペチペチと叩いた。

本来ある筈の自慢の巨乳はなく、あるのはつるぺた貧乳だ。

 

 

「取り敢えず、陛下は”クリスタル・ティア“へ依頼の手紙をお書き下さい。幼い子供が信頼を向けるような手紙でお願いします」

 

「げっ……お前の方から言ってくれないか?」

 

「いえ、陛下がお書き下さい。出来るだけ、子供らしい筆跡で」

 

「はー……いいだろう。酒を持ってきてくれ。アレは素面では書けん」

 

 

ドラウディロンは分かりやすく、自分が不機嫌だとアピールするために玉座を叩いた。

しかし、主宰はその様子を見て表情を一つも変えなかった。

 

 

「畏まりましたが、手紙はきちんと書いて下さいね。本日中には前線に送りますので」

 

「言われずとも、分かっとるわ」

 

 

手をひらひらと振るドラウディロンに対して、主宰は頭を下げて部屋を出て行った。

静かになった玉座の間で、ドラウディロンは顔を歪めた。

 

 

(この国の終わりも近い……どうにか、上手く生き残る方法はないのか?)

 

 

頭の中で巡る思案。

 

 

(……無理だな)

 

 

そのどれもが現実的ではない、逃避でしかない。

 

 

(はー、もうむり……誰か何とかしてくれー)

 

 

一国の王らしからぬ事を考えつつ、ドラウディロンは顔を覆った。

目に見えて迫りつつある絶望から、目を背けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

ドラウディロンは頬を引き攣らせながら、王城のバルコニーに立っていた。

魔導国からの兵が来たと聞いて、遠視の魔法道具(マジックアイテム)を持ち出してみれば──

 

 

「アレが魔導国の兵、だと?」

 

 

確かに、魔導国の使者を先導して城まで早駆けで帰ってきた兵は混乱していたが。

まさか、こんな“もの”を寄越すとは思ってもみなかった。

 

 

「アンデッドではないか……!?」

 

 

そこに居たのは、戦地で死者から発生する一般的なアンデッド……に比べて、凄まじい威圧感を放つアンデッドの騎士。

そして、その騎士は何やらよくわからないが──明らかに強大な馬型のアンデッドに騎乗している。

 

人も、馬も、アンデッドの騎士。

 

死霊の騎士、そう呼ぶに相応しい姿だ。

あれ一組でアダマンタイト級の冒険者パーティに匹敵するのではないか、と考えられるほど。

 

それが──

 

 

「あの位階(レベル)のアンデッドが……規律を持って行軍している……?これは夢か?」

 

 

複数も。

魔導国の言葉通りなら、100体も居るという。

そして、ドラウディロンは大まかに目で数えて、その言い分が正しいのだと理解した。

 

ドラウディロンは震えながら、振り返る。

そして、宰相へと目を向けた。

 

 

「お、おい、アレはなんだ?」

 

「……魔導国の兵かと」

 

「それは分かっている……!何故、あんなバケモノが国の下で、軍人のように振る舞っているんだ」

 

 

ドラウディロンは怒声をあげた。

八つ当たりなのだと分かってはいたが、それでも仕方のない事だった。

 

ドラウディロンは戦闘経験も浅く、竜の血を引いているとはいえ、ただの一国の王女でしかない。

そんな彼女でも、あのアンデッドが脅威……いや“厄災”と呼べるようなモンスターなのだと分かる。

 

国の下で騎士のように扱われる物ではないと、分かるのだ。

 

 

「……魔導国の王、アインズ・ウール・ゴウンはアンデッドという噂があります。眉唾物だと思っていましたが……事実ならば、兵がアンデッドだとしても意外性はないかと」

 

 

国王がアンデッド?

ドラウディロンは困惑しつつも、寄越した兵がアンデッドである理由は納得した。

 

 

「なら、あのアンデッドは何だ?普通のアンデッドではあるまい」

 

 

だがしかし、あそこまで強大なアンデッドを複数行使できるなど、異常だ。

 

 

「種類は私には分かりかねますが……帝国が魔導国に肩入れする理由ではないでしょうか」

 

「……なるほど。強力なアンデッドを使役できるからこそ、皇帝は魔導国を利用しようとしているのか……」

 

 

アレは人に利用できるようなアンデッドではない。

天災、厄災の類だ。

しかし、それを魔導国は使役している。

一度の魔法で幾万もの王国兵を殺したというのは噂ではなく、事実だったのだろう。

魔導国は、それ程までに脅威的な力を持っているのだ。

 

 

「……歓待の準備をしろ。手厚く出迎えて、気持ちよく戦って貰い、何事もなく帰って頂く。いいな?」

 

「承知しました、陛下」

 

 

ドラウディロンは宰相に指示を出しながら、爪を噛んだ。

ストレスで頭がどうにかなりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜王国、王城。

謁見の間。

 

玉座にはドラウディロン。

その側に宰相。

 

向かいには一人の男が立っていた。

 

たった三人。

騎士もいない。

 

これはドラウディロンの苦肉の策だった。

あれほど強大なアンデッドを行使できる相手に対して戦力を構えても無意味だ。

むしろ、そこが気に障ってしまい……自分のみならず竜王国に危機を招いてしまう可能性がある。

ならば、初めから武器を構えず、友好的な空気を出そうと判断した。

 

頭の固い他の者も玉座の間の外に出し、対応出来そうな宰相と自分だけで相手する。

それが最も勝算があると、ドラウディロンは判断したのだ。

 

そして──

 

 

(想像以上の色男が来たな。人、ではないようだが)

 

 

ドラウディロンは男に視線を向けた。

質は良いが、格式張らない服装を身に包む……美丈夫。

整った目鼻を持つ表情は薄く笑っている。

どこか女好きのする顔だと、印象を持った。

 

しかし、特筆すべきはその角と翼だ。

山羊らしき角に、蝙蝠の翼……悪魔の一種なのかと、警戒する。

だが、納得もできる。

あれほど強大なアンデッドの兵を従える、アンデッドの王……その将が人間である筈もない。

 

ドラウディロンがそう納得していると、男が口を開いた。

 

 

「お目通り感謝します、ドラウディロン・オーリウクルス竜王女陛下。私は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の国家運営補佐長兼エ・ランテル都市長のベリアルと申します」

 

 

自己紹介の中でよく分からない役職が並べられていたが、ドラウディロンは理解を後回しにした。

とにかく、主宰の言っていた通り、相応の地位に立つ男なのだと納得した。

 

 

「そちらこそよく来てくれた、ベリアル殿。私を呼ぶ際はドラウディロン、で構わないぞ」

 

「……ありがとうございます。では、ドラウディロン殿、と」

 

 

普通ならば、言葉を崩させるよう促す事はしない。

しかし、あの魔導国の兵を見て、ドラウディロンは考えた。

 

あれ?

魔導国って新興国なのに、竜王国より兵力があるくね?

その気になれば、竜王国どころかビーストマンどもも皆殺しに出来るのでは?

……と。

 

よって、今、ドラウディロンは媚び売り形態(モード)となっている。

相手に不快感を感じられてしまえば国益を損ない、逆に親近感を湧かせれば国益に繋がるのだ。

媚を売らない理由がない。

 

 

「魔導国には竜王国を代表して感謝させて頂く。よもや、あれ程の兵を用意してくれるとは……魔導国でも選りすぐりの兵なのだろう?」

 

 

ドラウディロンはそう褒めつつ、ベリアルの顔を見た。

 

 

「……いえ、困っている時はお互い様だと、魔導王陛下も仰っていたので」

 

 

そして、その表情に何か言いただけな物を感じ取った。

男は口にしなかったが、飲み込んだであろう否定の言葉。

 

つまり──

 

 

(アレが魔導国の精鋭、という訳ではないのか。信じたくはないが……見栄を張る理由もない。まったく、恐ろしい国だな……)

 

 

あのアンデッド兵に比べて、より強力な兵が居るということ。

ドラウディロンは言外のやり取りに少し怯えつつ、表面上は威厳を保ち続ける。

国主である自分が怯えれば、相手国の使者に舐められてしまいかねない。

 

 

「それでも感謝を述べさせて頂きたい。いやはや、魔導王陛下は素晴らしい人格の持ち主のようだ」

 

「そう言って頂けると、私も嬉しく思います」

 

 

さらに、この言動からベリアルが魔導王と親しいのだとドラウディロンは確信した。

気安さを感じ取ったからだ。

国主に対して気安く接する事ができる人間など、そうは居ない。

 

この男は、魔導国の重鎮……間違いない。

媚を売るに値する人間だ。

 

国に対して媚を売るのは当然。

その上で、個人としてこの男にも媚を売るべきだ。

 

 

「まずは歓迎を行いたい。食事も色々と用意させよう。しかし、戦時中故、魔導国に比べれば質も劣るだろうが……」

 

「それは勿論、喜んで……と言いたい所ですが、我々はビーストマンと戦う為に来ましたから。差し支えなければ、すぐにでも戦場に向かえればと」

 

 

ドラウディロンは内心、顔を歪めそうになった。

媚を売れる良い機会だと思っていたのに、無碍にされてしまったからだ。

 

しかし、思考を切り替えた。

今すぐにビーストマンを殺してくれるというのならば、好都合だ。

 

 

「では、我が軍の将を呼ぶとしよう。現在の戦況を鑑みて、どこを戦場とするか相談して、その上で連携を頂きたい。構わないだろうか」

 

「構いません。ドラウディロン殿の助力に感謝致します」

 

 

そうして男は、にこっとドラウディロンに笑みを向けた。

その瞬間、ドラウディロンは顔が少し熱くなるのを感じた。

 

これほど容姿に優れた男に微笑みかけられたのは久々だった。

自分を幼い少女だと思い子供扱いをするような笑みは多々あったが、一人の大人のように扱う笑みなど──

 

いや、なるほど。

このベリアルという男は、ドラウディロンが姿を偽っているのだと見抜いているのだ。

……もしくはロリコンなのか。

前者と信じたいが、後者の方が都合が良いかも知れない。

 

ドラウディロンは内心を悟られぬよう笑みを浮かべつつ、宰相に将を呼ぶように命令した。

 

 

 

 

そうして呼び出した将は、魔導国の兵ならば都市を取り戻す算段を立てられると判断した。

作戦の内容としては、魔導国のアンデッド兵による強襲でビーストマン達に混乱を起こし、疲弊した隙を突くというものだ。

 

単純な作戦だが、それを可能にする力が魔導国のアンデッド兵にはある、と。

 

 

細かい取り決めを行う中、都市の被害について将が語った。

 

 

都市の内部では取り残された人々が家畜のような扱いを受けている、と。

いたずらに殺され、食われ、弄ばれていると。

 

改めて聞く話に、ドラウディロンは顔を歪めた。

胸糞が悪く、吐き気すら催す程だ。

 

自らが治める国で、無辜の民が外敵に喰われている。

手を尽くしてはいるが、状況は改善せず、悪化するばかり。

 

自分を責める感情と、絶望。

ビーストマンに対する嫌悪と、恐怖。

それらが入り混じり、表情を歪めていた。

 

……ふと、ドラウディロンは視線に気付いた。

それは魔導国からやって来たベリアルの視線だった。

 

そして、自身が統治者に相応しくない顔をしていたのだと気付き、口元を手で隠した。

 

そんなドラウディロンに対して、男は口を開いた。

 

 

「ドラウディロン殿」

 

「……む、何か?至らぬ点があったか……いや、都市を奪還した際に、受け渡す報酬の話か。都市の自治権などは悪いが渡せない。金銭であれば──

 

「報酬など要りません」

 

「……え?なんて?」

 

 

思わず、ドラウディロンの口から出て来た素の反応に、宰相は顔を青ざめた。

しかし、ドラウディロンの反応も彼には理解できた。

 

軍を動かせば金が掛かる。

その補填すら必要ないと口にするのは、普通ならば考えらない事だ。

 

 

「私の尊敬する人が言っていました。『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』と」

 

 

聖人のような言葉に、ドラウディロンは目を丸くして……首を横に振った。

困難から無条件で助けてくれる手など、信用は出来ない。

後から、どんな難癖を付けられるか分からない。

 

国家は信頼関係や、情や仁義だけでは運営できない。

 

 

「しかし、それでは我が国の面子にも関わる。何か欲しい物は無いのか?」

 

 

そうドラウディロンは問いかけた。

金銭で解決してくれるのならば、それが最も良かった。

形のない物で要求される事がもっとも危険だ。

 

 

「……でしたら、都市を奪還した後、ドラウディロン殿には魔導王陛下に会っていただきたい」

 

 

その要求は、あまり喜ばしい物ではなかった。

しかし、ここで突っぱねてしまえば、話が拗れてしまいかねない。

 

 

「む……なら、分かった。都市を奪還したのならば、魔導王とも面会する事を約束しよう」

 

 

ドラウディロンは頭を縦に振った。

恐ろしいアンデッドの王と会うだけで都市が一つ取り戻せるのならば、簡単な話だ。

何なら、もっと大きな事を要求されても飲み込める程だ。

 

それ程までに、現状は絶望的なのだから。

 

 

「ありがとうございます、ドラウディロン殿。ならば、私の力をもって都市の奪還をお見せしましょう」

 

「よ、よし。頼んだぞ」

 

 

私の力……?

魔導王から借り受けた、アンデッド兵の力ではないのか?

そう思いつつも、ドラウディロンは言葉を飲み込んだ。

そんな相手の機嫌を損ねるような言葉を口にする意味はないからだ。

 

ただ──

 

 

(容姿の優れた男が、こう、自分に傅いているのは気持ちが良いな。自尊心が満たされる気がする)

 

 

ドラウディロンは少しだけ、そんな下らない事を考えて現実逃避をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜王国の王都から出て、失われた三つの都市……その中でも、王都から最も近い都市へ向けて馬を進めていた。

まぁ、俺は死霊馬が引いている馬車に乗っているだけなのだが。

 

その馬車を囲むように、竜王国の護衛も居る。

何でもアダマンタイト級冒険者チームの“クリスタル・ティア”だとか。

まぁ、馬車の周りに居る死の騎士(デス・ナイト)一体より弱いだろうけど。

 

 

「……はぁ」

 

 

ため息を一つ。

息を吐きながら、俺は角と羽根のアクセサリーを外す。

 

ドラウディロン・オーリウクルスと面会した。

敬うような口調など、この身になってからは久々だったが……まぁ、何とかなってると思いたい。

 

しかし、凄く気まずかった。

 

竜王国に対して、ビーストマンの侵攻が激しくなっている理由……それはデミウルゴスが原因だからだ。

竜王国をナザリックの属国にするべく、あらかじめビーストマン達をアンデッドで脅して危機感を煽っていたのだ。

 

ビーストマンの国家、その上層部は今、ナザリック産の二重の影(ドッペルゲンガー)にすり替えられているらしい。

ナザリック(うち)の方で色々と裏で工作をしている所為で、ビーストマンは竜王国への攻撃を苛烈にしているという事だ。

 

だが、元々、ビーストマンは竜王国へ攻撃はしていたし……それを焚き火に吹きかけるが如く、後押ししただけに過ぎないが──

 

 

「……どの面下げて言ってるんだろうな」

 

 

俺のした事ではない。

俺が指示した事ではない。

だが、俺の責任ではある。

 

 

「…………」

 

 

竜王国に来たのは、デミウルゴスからの依頼だ。

 

 

 

魔導国の力を見せ付け、傅くように仕掛けつつ……竜王女、ドラウディロンを洗脳する。

 

具体的に言うならば、俺がドラウディロンを密かに強姦(レイプ)して性奴隷化スキルで支配下に置くよう、依頼されたのだ。

 

 

 

だが、まぁ……やってくれと言われたが……それは、最終手段だ。

なるべく、やりたくはない。

 

決して、ドラウディロン相手に食指が伸びない訳ではない。

めちゃくちゃ可愛かったし。

民を憂い、尽力する姿は好感が持てる。

 

あの、クソみたいな現実(リアル)のアーコロジーを支配する権力者と比べれば、天と地の差だ。

尊敬の念すら湧く。

 

だからこそ、無理矢理犯して性奴隷化、なんて事はしたくない。

だがしかし、ナザリックの為にもデミウルゴスの依頼は熟さなければならない。

 

 

ならば、どうするべきか?

 

 

ドラウディロンを俺に惚れさせれば良いのだ。

自ら身体を差し出すように仕向けて、愛し合う関係になる。

好感度を最大値まで引き上げれば、性奴隷化スキルなんて必要はない。

 

そもそも、俺もナザリックも、彼女の国に対して不利益を被るような契約はしないつもりだ。

愛し合う男と国を再建する……なんて、シチュエーションならば断る理由もないだろう。

 

この作戦ならば、デミウルゴスからの依頼も熟しつつ、ドラウディロンを傷付ける事もない。

 

 

しかし、この作戦には穴がある。

しかも、特大の穴が。

 

 

それは、ドラウディロンを惚れさせればならないという事だ。

これが最も難しい。

 

玉座の間で視線を向けてみたが、良い反応は無かったし、俺のこの顔はあまり好みではないかも知れない。

ならば言動で惚れさせる必要があるが、俺は根っからのクズ人間だ。

人を見抜く才を持つ一国の王に通用するとは思えない。

 

 

「……くっ」

 

 

やっぱり、難しいじゃないか。

内心で、俺は悪態を吐く。

 

この作戦を思いついた俺は、クレマンティーヌに相談に行った。

竜王国の王女を惚れさせたいが、どうすれば良いかと。

 

そうしたら、投げやりに「いつも通りのベリちゃんで良いんじゃなーい?」と言われた。

 

アルシェや、イミーナに聞いても同じだった。

「いつも通りで大丈夫、です!」とか「いつも通りのアンタで良いでしょ」とか。

 

レイナースや森妖精(エルフ)達も同様だ。

 

ナザリックのメイド達は俺を崇拝しているし、ニュートラルな意見は聞けなかった。

ラズロにも念の為聞いたが結果は同じ。

 

何でみんな、そんな適当なことを言うんだ。

悪い気はしないが、今はそういうのじゃなくてアドバイスが欲しいんだけどな……。

まぁその発言自体は嬉しいし、可愛いから良いんだけどさ。

 

結局、俺は何の用意もせずに竜王国まで来て、面会した訳だ。

 

 

「……良い所を見せないとなぁ」

 

 

馬車の中で頭を掻く。

最悪の場合、ドラウディロンを強姦して洗脳すれば良いだけの話なのだが……それでも、首を横に振る。

 

彼女のあの、民を憂う目。

逆境でも諦めずに、王として振る舞う姿。

舐め回したくなる綺麗な生足。

 

それらが失われる事は避けたい。

 

……ん?

今、ちょっと不純な考えが脳を過ぎったか?

危ない危ない。

 

 

「……ちょっと本気出すか」

 

 

俺はアイテムボックスから課金アイテムを取り出す。

 

ドラウディロンは都市を一つでも取り返せば御の字だと思っている節がある。

だが、俺は三つ全てを取り返すつもりだ。

 

ならば、俺も相応に準備をしなければならない。

 

この世界に来てから、まだ一度も試していない……本来の戦い方で、都市を取り返すとしよう。

 

 

ビーストマンには悪いが、俺は人間寄りなんだ。

それに、竜王国の領地に来たビーストマンは多かれ少なかれ人間を殺している。

だから、俺に殺されても……まぁ、文句は言えないだろ?

 

 

俺は砂時計のような魔法道具(マジックアイテム)を、手の中で転がした。

 

 




もうすぐ年間R-18ランキング1位になりそうです。
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ドラウディロン、どっちで?

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