※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#60 それぞれの受難

という訳で、やって来ましたビーストマンに占領されている都市……の近くに。

丘の上から遠見できる魔道具で、覗いて見る。

 

いやぁ……R18って感じだ。

エロじゃなくて、グロって意味で。

 

人通りの多かった筈の道には腐肉が落ちてる。

その腐肉の上には、まだ新鮮な血や臓物。

 

……食糧保管の為か、娯楽の為にか、まだ生きている人間は居そうだな。

どこかで逃げないように管理されていると考えていいか。

 

 

「……くっ」

 

 

隣に立っている竜王国のアダマンタイト級冒険者……クリスタル・ティアのセラブレイトは顔を顰めている。

 

普通の人間なら吐いてもおかしくない光景だが、ビーストマンの所業には慣れている、という事か。

 

対して、俺は……「あー、死んでるなー」ぐらいにしか思えない。

魚屋の前で、魚の開きを見た時と変わらない。

 

 

「…………っ」

 

 

そんな俺の顔を見て、セラブレイトは訝しむような顔をした。

……もっと傷ましそうな顔をすべきだったな。

 

 

「ベリアル殿。アンデッド兵についてなのですが──

 

 

セラブレイトからの俺の印象、悪いんだよな。

コイツが聖職者寄りのビルドだから、悪魔やらアンデッドに対する印象が悪いのか、何なのか。

取り敢えず、他国のお偉いさんに『殿』付けはやめた方がいいよ。

俺、別にお前と仲良くするつもりないし……距離感考えてほしい。

 

 

「……聞いておられるのですか?」

 

「ん?聞いているぞ」

 

 

嘘。

殆ど聞いていない。

 

 

「……アンデッド兵に関してなのですが、民に万が一の被害が及ばぬよう、重ねて命令する事は可能ですか?」

 

 

……根本に「お前のことは信用してない」ってのが透けて見えるんだよな。

 

ここまで嫌われるようなこと、した覚えがないんだが。

……あー、俺がドラウディロンに対して色目を使っているのを見ていたのか?

 

コイツ、ドラウディロンの事を狙ってるんだよな、確か。

ドラウディロンのロリ形態が大好きだった筈。

 

まー、ロリコンだからって俺に偏見はないが。

俺はロリコンではないけど、ロリもイケるし。

 

いや、ドラウディロンはロリかどうかと言われると分からないが。

 

見た目が幼かろうと、一人前の女性を捕まえてロリだのなんだと言い難くないか?

内面さえ成熟していれば、それはロリというか合法──

 

……って、それは置いておいて。

 

セラブレイトが俺を嫌っているのは、(性的にも)愛する主君に群がる悪い虫だと思ってるからだろうな。

 

心外だ。

 

 

 

……ん?

いや、セラブレイトの考えは正しいのか。

 

 

 

俺は悪い虫どころか、とんでもないゴミカスだからな。

 

そう考えると、セラブレイトが俺を毛嫌いしているのも当然だろう。

この態度も正しい。

 

まぁ、理屈として正しかろうと、俺は俺の事が好きな奴には優しくするし、俺のことを嫌っている奴に優しくするつもりはないが。

 

 

「……ベリアル殿?どうかなさ──

 

「アンデッドは使わない。都市部への介入は俺の魔法で何とかするさ」

 

「……?ベリアル殿は魔法詠唱者(マジックキャスター)だったのですか?」

 

 

セラブレイトが俺の事を訝しむ。

まぁ、魔法詠唱者(マジックキャスター)っぽい服装じゃないもんな。

 

 

「いいや、俺は魔獣使い(ビーストテイマー)だ」

 

 

実際、メインは魔法詠唱者(マジックキャスター)じゃないし。

 

 

「……それはどういう意味ですか?」

 

 

俺の言葉にセラブレイトが訝しむ、を通り越して苛立ち始めている。

 

 

「まぁ、百聞は一見にしかずと言うだろう?黙って見ておけ」

 

 

俺は両腕を宙へと掲げる。

それをセラブレイトも、後ろの兵士も困惑した顔で見ている。

 

……これちょっと恥ずかしいな。

さっさと、起動するか。

 

 

瞬間、巨大な魔法陣が俺の周りに展開される。

 

 

「なっ、何を……!?」

 

 

十メートルはあるような巨大なドーム状に展開された魔法陣を見て、俺の周りに居たセラブレイトも兵士も距離を取った。

 

 

「こ、これは……?何が起きているんだ……!?」

 

 

この魔法陣、ただのエフェクトだから安全なんだが。

まぁ、男にベタベタと寄られても気分は良く無いし、距離は取ってもらうに越した事はないが。

 

魔法陣が青白い光を放つ。

幾何学模様が何重にも重なる。

 

巨大な魔法陣は、魔法に対する知識がない者にすら威圧感を与える。

 

 

「ベリアル殿、我々に説明をっ──

 

「うるさい。少し静かにしてくれないか?」

 

 

思わず、そんな事を言ってしまった。

 

セラブレイトも、後ろの兵士達も納得はしていないようだが口を閉じた。

 

……何?

何か文句でもあるのか?

仕方ないだろ。

今、俺は集中しているんだから。

 

まぁ、“超位魔法”を使用するのに集中する必要はないが。

起動さえしておけば、時間経過で勝手に発動するし。

 

 

俺が気にしているのは──

 

 

これが“超位魔法”なのだと理解して、阻止してくる奴は居ないのか、ということ。

 

 

“超位魔法”は起動してから発動されるまでに時間が掛かる。

その間、術者は無防備だ。

故に、プレイヤーやら、プレイヤーに詳しい人間……プレイヤーと敵対経験のある竜王ならば止めに来る。

 

ここで止めに来ないのであれば、俺の脅威となる敵は居ないという事になる。

 

立ち上った魔法陣はビーストマン達も見ているだろう。

しかし、こうして少し待機したが……攻撃が来る気配はない。

 

 

「……どうやら、誰も理解していないみたいだな」

 

 

思わず漏らした俺の言葉を、どう受け取ったのかセラブレイトは剣呑な顔をしている。

 

あー、もう、コイツら、邪魔だな。

黙って見ているだけマシだが、顔がうるさい。

可愛い女の子なら良いんだけどな。

男に後ろから見られ続けるなんて、どんな罰ゲームなんだ。

 

 

「さて……と」

 

 

俺は手に小さな砂時計の形をした魔法道具(マジックアイテム)を呼び出した。

これは、超位魔法のチャージタイムを無視して即座に発動できる課金アイテム。

俺のアイテムボックスに大量に余っている物だ。

 

それを握り潰す。

 

砂は溢れ、光を放ちながら魔法陣の周りを回っていく。

 

そして、“超位魔法”が発動された。

 

 

 

魔柱の招来(コール・オブ・レメゲトン)

 

 

 

魔法陣が頭上へ上昇し、分散する。

空をキャンバスに、幾つもの魔法陣が描かれていく。

 

その数は七十二。

 

大量の魔法陣から、それぞれ姿形も異なる悪魔が召喚されていく。

 

山羊顔の悪魔、獅子のような顔の悪魔、爬虫類らしき悪魔……人の形を保ちながらも、人の形を超越した悪魔達が。

 

 

「な、何だ……?これは……?」

 

 

セラブレイトは顔を青ざめさせている。

 

 

「ひ、ひぃっ」

 

 

一般兵士達は怯えている。

 

うーん、そんなに怖いか?これ。

それとも、レベル差でも感じ取っているのか?

兎に角、怯えを声に出さないだけ、セラブレイトも流石はアダマンタイト級の冒険者と言うべきなのか……よく分からんが。

 

 

そんな事を考えている中、魔法陣から悪魔が湧き出てくる。

七十二の魔法陣から、七十二種類の悪魔が。

 

この魔法によって召喚される悪魔は七十二レベルで統一されている。

 

七十二レベルという高レベルの悪魔が七十二体……いくら”超位魔法“と言えども、破格の性能だ。

まぁ、デメリットも多分に含まれているのだが。

 

 

─────ッ!

 

 

言葉にならない雄叫びを悪魔達が叫ぶ。

それは敵意に満ちた声だ。

 

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

「っ、ベリアル殿!?」

 

 

召喚者である筈の俺に対する敵意。

それを感じ取ったセラブレイトやら兵士達は動揺している。

 

 

「一々、声を荒げるなよ。黙って見ていられないのか?」

 

 

本来、召喚魔法によって召喚されたモンスターは、召喚した時点で召喚者に従僕している。

しかし、<魔柱の招来(コール・オブ・レメゲトン)>によって召喚された悪魔は、従僕していない。

 

この超位魔法はただ、悪魔を呼び寄せるだけ。

従える魔法ではない。

 

故に召喚ではなく、招来なのだ。

 

 

乱戦の最中に発動し、戦場をめちゃくちゃにするぐらいしか使い道のない魔法だ。

しかし、乱戦の中で超位魔法を使う余裕がある訳もない……唯一の使い道すら微妙で、使い勝手の悪い超位魔法。

Wikiにも産廃だの、ロマン魔法だの、悪口を叩かれている。

 

 

だが、俺はこの魔法を愛用している。

 

 

「<魔法抵抗突破範囲拡大化(ペネトレートワイデンマジック)究極の魅力(アルティメット・チャーム)>」

 

 

それは、俺がテイマーだからだ。

重ね掛けた魔法が、俺の召喚した悪魔へと伝播する。

淫魔(インキュバス)が魅力魔法を使用した際、強力な強化(バフ)が付与される種族特性がある。

 

それは七十二レベルという高レベルな悪魔を大量に、同時に、全てを支配下に置く事を可能とする。

 

 

ォオォ────

 

 

これにより悪魔の狂化は強制的に解除され、その全てが俺に服従する従者となった。

 

 

「ビーストマン程度なら武装化は不要だろうが、念の為に……<魔法最強化範囲拡大化(マキシマイズワイデンマジック)上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>」

 

 

力がごっそりと抜き取られていく感触を感じつつ、魔法を行使する。

俺の身体から赤い光が粒子が放たれ、悪魔達に付着していく。

それらは赤く、半透明の武器や鎧へと姿を変える。

 

 

これが、ユグドラシル時代に愛用していた戦法。

 

高レベルな召喚悪魔を召喚できるサモナー。

その悪魔を支配できるテイマー。

強力な魔法武器を生み出せるウェポンクラフター。

三つを組合わせた結果、生み出されるのは俺に従う武装した悪魔の軍勢。

 

 

高レベルの淫魔(インキュバス)のみが可能とする、高位悪魔の耐性すら貫通する魅了による即席テイムだ。

 

 

……こっちの世界に来て初めて使ったが、問題はなさそうだな。

ユグドラシルと魔法の性質が変容している場合もあるしな。

良い機会だし試しておきたかった。

 

 

オオオォォオ────

 

 

悪魔達は宙に浮きながらも、俺へと傅いている。

どれもこれも結構大きいし……壮観だな。

そう、黙って頭を下げたまま、俺の周りに──

 

 

「…………ん?」

 

 

あ、これ、口頭で直接命令しないと動かないのか。

その辺はゲームとは勝手が違うな。

 

……俺の後ろで竜王国の人間達が呆気に取られている。

こんな中、俺が命令を出さなきゃならんのか。

 

 

「ん、ん゛んっ」

 

 

ちょっと喉を鳴らして──

 

 

「都市内部に存在するビーストマンを駆除しろ。ただし、ビーストマン以外の生物には危害を加えるな。反撃も禁止だ」

 

”御意に“────

 

 

悪魔達が頭を下げて、都市へと向かう。

 

……今から都市を救う筈なのだが、悪魔達のビジュアルの所為で最悪だな。

まるで俺が都市を攻撃しているみたいじゃないか。

 

まぁ、いいか。

結果が良ければ、ビジュアルが最悪でも。

 

 

「さて……セラブレイト」

 

 

俺は背後で顔を青褪めさせているセラブレイトへ視線を向けた。

……返事がないな。

さっきまであんなに反抗的だったのに。

声も出せないぐらいなのか。

 

 

「都市へ向かうぞ。到着する頃には、ビーストマンの駆除も終わってるだろう」

 

 

俺の言葉に、セラブレイトは……いや、背後に居た兵士達も首を何度も縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都市に到着したセラブレイトは、その惨状に顔を引き攣らせていた。

 

ビーストマンが真っ二つになり、屋根に落ちている姿。

上半身だけ喰われ、臓物を垂れ流す下半身。

バラバラにされているビーストマン。

過剰に破壊され、明らかに戦闘目的以外で破損された遺体。

 

串刺しで、くり抜かれ、焼かれ、炸裂し。

 

まるで残虐なオブジェクトのように飾られた死体たち。

飾り付けられた内臓、血で彩られた街。

 

ビーストマンが人間に対して行った暴虐すら上回る凶行。

 

それが目の前に展開されている。

 

 

「ぅ、おぇ……っ」

 

 

クリスタル・ティアのチームメンバーの一人が吐いた。

しかし、それを咎める事はセラブレイトには出来なかった。

 

自身も言葉に出来ない不快感と、口の中に酸味を感じていたからだ。

 

それが普通だ。

当然なのだ。

 

だというのに──

 

 

「悪魔どもには、街を汚さないよう言っておくべきだったな。後始末が大変だ」

 

 

この男は、どうしてこうも平静を保っていられるのか。

 

確かに、セラブレイトとしてもビーストマンに同情するつもりはない。

人語を喋るだけで意思疎通もできない、人間を食うバケモノなど、死んで当然だと思っている。

 

だとしても、ここまで……生き物を生き物として捉えず、まるで幼児が果物を潰してしまうかのように、血と臓物をぶち撒けられるのか。

 

そんな怯えを感じているセラブレイトに、ベリアルは視線を向けた。

 

 

「セラブレイト、次の都市へ向かう。補給などは今のうちに済ませておくよう他の兵にも言っておけ」

 

「っ、今何と……?次の都市、だと?」

 

 

セラブレイトは目を見開いた。

 

この男は……この惨状を他の都市でも行おうと言うのか。

こんな、残酷で……醜悪で、暴虐な、光景を。

 

 

「ん?これだけ多くの悪魔を召喚したんだ。折角だ、使わなければ損だろう?」

 

 

そう言いつつ、足を進めるベリアルの背中を身てセラブレイトは足が震えた。

こんな景色を生み出し、鼻が曲がりそうな程の血の臭いを充満させて……その先に、笑みを浮かべていたからだ。

 

まるで何て事もないように。

 

 

「……っ!」

 

 

この暴力がビーストマンにのみ振るわれるのでば、全く問題はない。

これが人間の所業ならば、痛ましさを感じながらも納得できる。

同種である人間に、人間がこのような事は行わないと思うからだ。

 

しかし、ベリアルは悪魔だ。

人間に対しても、ビーストマンに対しても、恐らく感情の度合いは同一。

ならば、この目の前に広がる惨状が、散らばった血や肉や臓物が……ビーストマンではなく、人間で再現されるの可能性もあるという事。

 

この男は、危険だ。

アインズ・ウール・ゴウン魔導国は危険だ。

そもそも、アンデッドを兵として扱っている国に真っ当な倫理観を求める事など不可能だったのだ。

 

 

セラブレイトは身を震わせながら、剣の柄を握った。

 

 

たとえ、この後、どうなろうとも。

大局が見えないとしても。

この男を生かしておけば、ドラウディロン陛下に危害が及ぶ。

 

セラブレイトは、剣技に自信があった。

“閃烈”という通り名すらある。

 

自称“魔獣使い(ビーストテイマー)“の魔法詠唱者(マジックキャスター)だろうと、至近距離の背後からならば殺せる筈だ。

 

 

そう考えて、セラブレイトは剣の柄を握った。

……そう、握った。

握ったのだ。

 

だが、鞘から抜く事は出来なかった。

 

 

「…………っ」

 

 

この目前に居る悪魔に手を出す事は出来なかった。

自分とは格が違うのだと、本能が理解してしまっている。

 

剣を抜いても、無駄死にするだけだと。

 

 

「……………」

 

 

剣の柄から、手を離した。

 

 

(……この依頼が終わったら、竜王国からは離れよう)

 

 

自身の恋心は大事だが、仲間を死なせる訳には……いや、それは言い訳だ。

本心から思うのは、死にたくない、という感情だけ。

 

 

(申し訳ありません、ドラウディロン陛下。貴女の最愛の騎士は今、剣を折りました……)

 

 

セラブレイトの脳内では、涙目で自身を見上げる愛しのドラウディロンの姿があった。

拳を握り、震わせながら……セラブレイトは奥歯から血が出るほどに噛み締めて居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベリアルが面会に来てから一週間ほどの時間が経過した。

 

 

「はー」

 

 

ドラウディロンは執務室で、ソファに転がりながら資料を見て居た。

 

 

「陛下、はしたないですよ」

 

「別に良いだろ。お前ぐらいしか見てないし」

 

 

宰相にそう言い返しつつ、ドラウディロンは文官達が纏めた資料を見て顔を顰めた。

この国の、ビーストマンに対する防衛費は国家予算の半分以上だ。

それは、ビーストマン達と直接対面していない王都に近い者達からの税によって賄われている。

 

国家規模の危機であるとドラウディロンが話しているのを信じて、今は暴動やら何も起きてはいないが……いつまで、この状態を維持出来るかは分からない。

 

 

「頭が痛い。お先が真っ暗すぎる」

 

 

そう独り言ちながら、書類を見ていると……何やら足音が聞こえてきた。

 

 

「む……?」

 

 

ドラウディロンは慌ててソファから降りて、椅子へと腰掛けた。

その様子を見て、宰相はため息を吐いたが……ため息に対して、ドラウディロンは鼻で笑った。

 

ほんの少しの間の後、部屋にノックが響いた。

 

 

「入っていいぞ」

 

 

そう口にすれば、部屋の扉が開き、文官が現れた。

 

 

「何のようだ?」

 

「早駆けで、都市奪還部隊からの手紙でございます」

 

 

都市奪還部隊とは、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の使者と、竜王国の兵士、アダマンタイト級冒険者チーム”クリスタル・ティア“で編成されたチームの事だ。

 

 

「受け取れ」

 

「はいはい」

 

 

ドラウディロンが宰相を顎で指示した。

宰相は渋々ながらも手紙を受け取り、文官を部屋から退出させた。

 

封は切られておらず、この書類の中身は文官も確認して居ないのだと悟った。

 

 

「よし、それを寄越せ」

 

 

ドラウディロンは宰相から手紙を受け取り、ソファに座り直した。

そして、ペーパーナイフで手紙の封を切った。

 

 

「どれどれ、都市の一つでも奪還してくれれば御の字だが──

 

 

笑みを浮かべながらドラウディロンは手紙の中身を見て……落っことした。

そして、わなわなと震え出した。

 

 

「……どうかしましたか?陛下」

 

 

宰相は訝しみながら、手紙を覗き込んだ。

そこにあったのは奪還部隊に派遣した近衛兵の言葉。

 

 

ビーストマンに占領されていた“全て”の都市の奪還に成功したという、信じがたい報告だった。

 

 

「これは……」

 

 

宰相は目を瞬いた。

それほどまでにアンデッド兵は強力だったのか。

いやしかし、ここまでの短期間で全ての都市を奪還できるとは思えない。

 

嘘だと、自身の中にある常識は囁いている。

しかし、嘘を吐くのであればもっと信じやすい嘘を吐くだろうとも考えている。

 

 

「陛下……」

 

 

これは早駆けの馬に乗った兵が送った手紙。

つまり、これから本隊も帰ってくるという事を意味している。

 

即ち、ドラウディロンはこれから、この所業を行なった部隊を歓待しなければならないということ。

 

 

「…………」

 

 

ドラウディロンは身体を震わせながら、椅子に深く座り込んだ。

 

 

(”強い“のは分かっていた。だが、”強い“にしても常軌を逸している……常識の外、空想の上、凡そ、神のような……いや、神だと?)

 

 

ドラウディロンは脳内で、自身の記憶をほじくり返す。

法国からの使者や、真なる竜王である先祖の言葉を思い出す。

 

 

(法国で祀られている六大神……竜王を殺し回った八欲王……それらと同種なのか?あのアンデッドを管理するアインズ・ウール・ゴウン魔導王とは”ぷれいやー“なのか?)

 

 

無意識のうちに自身の口元に指を当てた。

 

 

(六大神のように人間と友好的ならば良いが……魔導王はアンデッド。生者を恨み、死を尊ぶアンデッド。ならば、八欲王と同様だと考えていいだろう)

 

 

震える指を、唇で挟む。

 

 

(八欲王は竜王の殆どを殺したと言われている。そして、私も、竜王の血を引いている……真なる竜王を滅ぼせる神がもし、私を殺そうと……いや、滅ぼそうとしているのなら?)

 

 

思考が段々と最悪な方向へと向かっていく。

ドラウディロンは顔を青ざめさせ、爪を噛んだ。

 

 

(わ、私を殺すのか!?八欲王は竜王を恨んでいると聞いたぞ!見つけ次第、駆除していたと!身体を剥ぎ取り、魔法道具(マジックアイテム)に加工していたとも!)

 

 

己の身を抱き、がたがたと震える。

 

 

(もし、魔導王が八欲王と同様の存在ならば……わ、私も、皮膚を剥がされて、魔法道具(マジックアイテム)に加工されてしまうのか!?)

 

 

自身の身体が引き裂かれる、最悪な妄想が脳を過ぎる。

 

 

(い、嫌だ!そんな死に方は嫌だ!)

 

 

そして、魔導国の使者であるベリアルとの約束で「魔導王に謁見する」という約束をしていたことを思い出した。

 

 

(あ、会いたくない!魔導王とは……!私は、なんという約束をしてしまったのだ!今からでも、ど、どどど、どうにかして約束を反故にっ──

 

 

その、尋常ではない様子に宰相は目を瞬いた。

 

 

「……陛下?」

 

「ひ、ひっ!?なんだ!?どうかしたか!?」

 

 

身体を跳ねさせ、涙目になっているドラウディロンに宰相は驚いた。

如何に絶望的な状況でも、“怯え”はしなかった君主が怯えている。

 

 

「明日には奪還部隊が王都に帰還すると思われます。歓待の準備を──

 

「わ、分かっている!全力でもてなせ!城に残っている財をどれだけ使っても構わん!」

 

「え?いえ、それは……破壊された都市の復興に必要な財なのでは?」

 

 

ぐうの音も出ない。

そもそも、ベルアルは見返りに財など必要ないと言っていた。

金銀財宝、その程度では靡かないだろう。

 

 

「な、なら……どうすれば……何を与えれば……!?」

 

 

ドラウディロンは頭を抱えた。

その拍子に、椅子の縁に置いて居た手紙、そして封筒が落下した。

 

 

「あ……?」

 

 

それと同時に、封筒の中からもう一枚、何かが落ちた。

 

 

「何か落ちましたよ、陛下」

 

「あ、あぁ……報告とは別の……誰からの手紙、か?」

 

 

ドラウディロンは震える身体を抑えつつ、落ちた手紙を拾った。

貰った報告書の他に入っていた手紙……そこに、今の状況を打開できる情報が記載されていると信じて。

 

 

「……ん?」

 

 

それは竜王国のアダマンタイト級冒険者チーム“クリスタル・ティア”のリーダー、セラブレイトからの手紙だった。

 

そして、その内容とは──

 

 

「は、はは……ははは」

 

「へ、陛下?」

 

 

竜王国を離れる旨、その謝罪の手紙だった。

 

 

「あばばばばばば」

 

「陛下!?」

 

 

ドラウディロンは泡を吹いて、椅子から転げ落ちた。

 

 

確かに、魔導国の協力によりビーストマンから都市の奪還には成功した。

しかし、ビーストマンの国が隣接している状況は変わらない。

今後も、今回のような侵略行為は続くだろう。

 

だというのに、アダマンタイト級冒険者チームが国外に去ってしまう。

アダマンタイト級の冒険者は兵に換算して、文字通り一騎当千。

チーム単位ならば、さらに何倍も強力な部隊となる。

 

そんなアダマンタイト級冒険者チームが居なくなれば、国防の戦力が低下する。

 

 

「は、はは、ふ、ふへ、おほほ……」

 

「陛下、お気を確かに!」

 

 

このままでは自国を守れない。

では、どうするべきか?

 

魔導国に追加の支援を頼まなければならないだろう。

かつて竜王を絶滅寸前までに殺し回った八欲王と同等であろう、魔導国に支援を。

 

 

身包みを剥がされるだけならいい。

だが、牙を抜かれ、皮を剥がれ、剥製にでもされれば──

 

 

「う、ゔぅ、ゔうう……!」

 

 

自分が何か悪いことしたのか。

どうしてこんな目に遭わなければならないのか。

誰か助けて欲しい。

 

目に涙を溜め、鼻水を垂らし、天井を見上げた。

 




風邪ひいてて投稿遅れました
ごめんなさい

ドラウディロン、どっちで?

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