【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
ドラウディロンは顔を青ざめさせていた。
緊張、不安……逃げ出したい気持ちを堪えて、震える拳を握り締め……息を呑んだ。
魔導国に来てから数日が経過した。
母国である竜王国との違いにも慣れ、馴染んできたつもりだった。
しかし──
ドラウディロンは周囲を見渡す。
魔導国の居城……それは、外見だけ見れば竜王国の城と大差の無い城だった。
しかし、その中……玉座の間へ向かう道中は、竜王国と大きく異なった。
道の側に、高位のアンデッド兵が並んでいる。
それらはベリアルの屋敷で見たデスナイト、と呼ばれるアンデッドに比べて細身だった。
細身だが、デスナイトと同程度の威圧感を持つ事から、凶悪なアンデッドである事には違いない。
そんなアンデッドが旗を持っており、道を挟み左右で掲げている。
右側に魔導国の国旗。
左側に竜王国の国旗。
歓迎されている事はドラウディロンにも理解できた。
しかし、周囲のアンデッドの儀仗兵が恐ろしい。
そして、ただの儀仗兵として扱える魔導国……魔導王が恐ろしい。
たった一体で都市一つを落とせそうなアンデッドを、小間使いのように扱っているのだ。
恐怖を感じても仕方あるまい。
(少しは慣れたつもりだったが、これ程とは……っ)
招待されている身であり、ここで足を止めるのは失礼極まりない。
自らの足で、玉座へ進まなければならない。
これらのアンデッドを従える、アンデッドの国主の元へと。
だというのに──
(あ、足が、進まない……!く、くそ、動け!動け!私の足!)
足が震える。
力が入らない。
意識を強く持って、立つのが限界だった。
歩く事など、出来る筈がない。
時間は、何も解決しない。
それどころか、少しずつ自分を不利にする。
(足を……進めなければ……!)
ドラウディロンは目を強く瞑り、そして──
「大丈夫か?ドラウディロン殿」
背中を摩るような手に、目を開いた。
振り返ると、そこにはベリアルが立っていた。
同行してくれた、男と目が合う。
「ベ、ベリアル殿」
「体調が優れないなら、面会の日を後日にしても構わないが……」
心配する声色に、甘い提案……縋りたくもなる。
ドラウディロンは元々、アインズ・ウール・ゴウン魔導王と面会する前に、ベリアルを籠絡するつもりだった。
だが、出来なかった。
今日に至るまで、親交を深めど、情愛に発展する事は出来なかった。
だというのに、それでも……ドラウディロンは縋りたかった。
この男ならば、助けてくれるかも知れないと。
そう、考えて──
「いや、少し緊張していただけだ……すまない。だが礼を言おう、ベリアル殿」
ドラウディロンは視線を正面……玉座の間へ続く扉へと向けた。
自分は竜王国の女王である。
自国を救うため、国民を守るために、逃げる事は許されない。
「そうか?なら、良いんだが……」
あくまで、対等でいなければならない。
守られるだけの小娘であってはならない。
一国の女王として、ドラウディロンはベリアルの横に並び……足を進めた。
そうして、玉座の間へ続く扉の前で、一人の女性が立っていた。
あまりにも美しい容姿と立ち姿……そして、腰から生えた漆黒の翼。
(……明らかに人間ではないな)
ドラウディロンが立ち止まると、その女が口を開いた。
「本日は、ようこそおいでくさいました。ドラウディロン・オーリウクルス王女陛下。僭越ながら、アインズ・ウール・ゴウン魔導国における階層守護者および領域守護者、全統括という地位を頂いております、アルベドと申します」
ドラウディロンは目を瞬いた。
階層守護者?
領域守護者?
全統括?
どれも聞き覚えのない単語だが、魔導国内で相応な立場の女性なのだと理解して、頷いた。
「丁寧な挨拶、感謝する。アルベド殿。本日はお忙しい中、面会の時間を作って頂き感謝する」
だが、あくまで立場は女王である自分が上である。
……本心では、魔導国の重鎮相手なら頭を下げて謙りたい気持ちでいっぱいだが、ここで平伏してしまえば舐められる危険性がある。
胃がキリキリと痛むが、何とか堪えて国主らしい振る舞いをしなければならない。
国主らしい尊大な表情の下、心臓は大きな鼓動音を鳴らしていたが……アルベドは気にした素振りもなく、笑みを浮かべた。
「感謝は不要です。偉大なる魔導王陛下は、竜王国の未来を慈悲深く案じております。是非とも、王女陛下と面会したいと仰られておりましたから……お時間を作るのは当然であると、そう話しておられました」
「そ、そうか……それでも、感謝する」
おしっこがちびりそうだ、とドラウディロンは思った。
何でこう、魔導王は面会したがっているのか。
やはり、自分を
“ぷれいやー”は竜王に恨みを抱いている……アインズ・ウール・ゴウンが“ぷれいやー”ならば、竜王の血を引くドラウディロンを生かしてはおかない筈だ、と。
そう考え、身を震わせそうになるも……堪えて、アルベドの方へ視線を戻した。
こちらの緊張も気にせず、笑みを浮かべて口を開く。
「それでは陛下がお待ちですので、謁見の間へ案内させて頂きます。それで……ベリアル様は如何しますか?」
「ん?あぁ、ドラウディロン殿に付いていくつもりだが」
「左様ですか。畏まりました」
ドラウディロンはベリアルと、アルベドを交互に一瞥した。
先程の会話の内容から、ベリアルの方が立場が高い事を認識したからだ。
自身の想像している以上に、この男の地位は高いのか……と考え、そして理解した。
ベリアルは凄まじく高位の魔法を扱える。
魔導国内でも、その力は唯一無二だろう。
彼の言葉から、アインズ・ウール・ゴウン魔導王よりは劣るだろうが……それでも魔導国の最高戦力に違いない。
(や、やはり、どこかでベリアル殿を籠絡せねば……う、うぐぐ)
ドラウディロンは内心で錯乱しながら、そう結論付けた。
「では、ドラウディロン王女陛下。魔導王陛下がお待ちですので……参りましょうか」
どこか、内心が読み取れない笑顔を浮かべるアルベドの言葉に、ドラウディロンは頷き、重い足を進めた。
玉座の間は、城の外見と同様にそれほど立派なものではなかった。
しかし、まだ誰も座っていない玉座だけは違った。
それは金色の椅子だった。
金で構成されている訳ではなく、恐らく金箔……と考えてから、小さく首を横に振った。
ベリアルの屋敷内にあった豪華な家具。
それを考えれば、純粋な金で出来た玉座だとしてもおかしくはなかった。
「それでは、陛下が参ります」
アルベドの言葉を聞き、ドラウディロンは悩んだ。
頭を下げるべきか、否か。
一国の主であるドラウディロンが頭を下げるという事は、それだけで国と国の立場を決める一手となり得る。
だがしかし、相手は魔導王である。
ベリアルの言葉が真実ならば、一人で大量のビーストマンを退治した彼より、魔導王は高位の
その機嫌を損なう事は、避けなければならない。
「…………」
ドラウディロンは少し悩んでから、跪いて頭を下げた。
頭を下げなかった場合のリスクを考えての、一手だった。
その選択を選ばせたのは、ドラウディロンの直感だった。
どちらの選択肢にも選ぶ理由がある時、ドラウディロンは直感で選ぶようにしている。
それは滅びゆく国を存命させるべく、平時から鍛えられた直感であり、信頼に足るものだからだ。
「では、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の入室です」
その直後、ドラウディロンは自身の直感が正しかった事を確信した。
カツン、カツンという硬質なもので床を叩くような足音。
それが近付くにつれて、心臓を握られるような威圧感を感じていたからだ。
(こ、これは……!これほど、まで、なのか……!?)
まだ頭を上げていないというのに、これ程の威圧感。
跪いた膝も震えてしまっている。
死、そのものが近付いているのではないかと、そう錯覚してしまう程に。
ドラウディロンに王女という立場がなければ、今すぐこの場から逃げ出していてもおかしくはなかった。
何とか、その場で堪えられているのは竜王国を背負っているという自負と、責任感からだった。
「許可が出ました。頭をお上げ下さい」
アルベドの声に、ゆっくりとドラウディロンは頭を上げ──
「…………コヒュッ」
息を呑んだ。
白い骨を剥き出しにした顔面……その両目に当たる部位には、赤く禍々しい光が灯っていた。
そして、その身には様々に華美な装飾が施されたローブを身に纏っている。
アンデッドの王……そう口にするのも烏滸がましい。
より強大で、より尊大で、より恐ろしい。
人の想像する神……それすらも凌駕する存在。
ドラウディロンは確信した。
アインズ・ウール・ゴウン魔導王は、”ぷれいやー“であると。
「さて……」
一つ、威厳のある声が響いた。
まるで心臓を掴まれてしまったかのような、そんな感触。
「はるばる竜王国からよく来られた。ドラウディロン・オーリウクルス殿」
じんわりと、股間が濡れた気がした。
ドラウディロンは今朝、下着の下に脱脂綿を入れておいた自分を褒めた。
でなければ、確実に……足元に水溜りが出来ていた筈だ。
震える膝、身体、心のままドラウディロンは口を開いた。
「こちらこそ招待頂きありがとう、ございます。魔導王陛下のご慈悲により、ビーストマンの侵攻を食い止め、都市を奪還する事が出来ました」
ドラウディロンは平伏した。
大粒の汗が大量に流れている。
何が対等に交渉する、だ。
何が支援を引き出してみせる、だ。
違う。
目の前のアンデッドは、自身の知る治世者とは全く異なる。
格の違う生物だ。
選択を間違えれば、国が滅ぶ。
あまりにも重い責任が、その小さな両肩を押し潰そうとしていた。
「構わないとも。誰かが困っていたら助けるのは当たり前、だからな」
その言葉に聞き覚えがあった。
ベリアルが竜王国に来た日、語っていた言葉だ。
「魔導王陛下。助けて頂いた礼として、竜王国から差し出せるものがあれば──
「それは不要だ。貸し借りとも考えなくて良い。こちらとしては……それなりの思惑があったと、答えておこう」
つまり、どういうことか。
ドラウディロンは思考を回転させる。
(何が目的だというのだ……!この“ぷれいやー”の思惑は!?)
当初、考えていたような竜王の血族に対する敵意はなさそうだ。
では何の理由があって、竜王国をビーストマンから守ったのか。
(示威行為か……武力をチラつかせることで、竜王国に対して優位に立とうと?しかし、ならばこの場に私を呼び寄せた理由が分からない!)
軽く頭痛がするほど、ドラウディロンは思考していた。
恐怖の象徴を前にして、極度の緊張を感じた結果、思考があやふやになっている自覚はあったが……それでも何か、考えずにはいられなかった。
「……………」
「……………」
魔導王も黙ってしまい、ドラウディロンは冷や汗を流した。
痛いほどの沈黙が重く、小さな背中にのしかかる。
(な、何か不興を買ったのか?知らぬうちに、竜の鱗を逆撫でたのか?)
ドラウディロンは脳内で小躍りする妖精を幻視しながら、小刻みに震えていた。
このまま放置されればドラゴンの干物になってしまいそうなほど、汗を流している。
「…………」
「…………」
それでもまだ、魔導王は黙っていた。
表情を感じさせない白骨の相貌が、ただドラウディロンを見下ろしている。
(ぐわーっ!なんでこうも気まずい!誰か助けてくれ〜っ!)
頭を下げながら、目に涙を浮かべる。
怖い、辛い、苦しい。
それら三つに感情で胸の内を占めていた。
「んんっ、ごほん」
「ヒェッ……」
魔導王が喉を鳴らした。
アンデッドである魔導王に喉はないため、これは敢えて声として出したのだとドラウディロンは気付いた。
魔導王は何か、自分に対して要求をしているのか。
「…………」
「……?」
ちら、と魔導王がアルベドに視線を向けた。
それにアルベドは気付いているようだが……彼女も困惑しているようで不思議そうな顔をしていた。
一体何の時間なのか。
何をすれば正解なのか。
ドラウディロンが頭を抱えていると、痺れを切らしたのか魔導王が先に声を上げた。
「ドラウディロン殿」
「は、はひっ」
声が上擦ってしまったが、今更、取り繕う事は出来ない。
「貴国の現状について何か困った事があるのではないか?話ならば、聞いても構わないが?」
それはあからさまなフリだった。
誘われている、とドラウディロンは思ったが……しかし、魔導王に逆らう事もできず意を決して口を開いた。
「竜王国では……恒常的なビーストマンの侵略に対する防衛が困難と、なっています」
「ふむ、それはどうしてだ?理由を聞かせて欲しい」
分かっている癖に白々しい、とドラウディロンは思いつつも顔には出さず、言葉を繋ぐ。
「今回のビーストマンによる大規模侵略の結果、三つの都市が陥落しました。ベリアル殿が──
「ベリアル“殿”?」
急に、魔導王が遮ってきた。
それは単純な疑問のようにも聞こえたが……立場を弁えさせるための威圧にも聞こえた。
(しまった!普段通りに呼んでしまった!拙かったか……!?)
ベリアルは魔導国の重鎮である。
しかし、一国の主であるドラウディロンといえど、竜王国と魔導国の国力の差は大きい。
”殿“ではなく”様“と呼ぶべきなのだと、魔導王は遺憾の意を──
「いや、アインズさん。ドラウディロン殿には俺の方からお願いしたから。気にしなくていい」
突然、ドラウディロンに背後からベリアルが弁明した。
「そうか、ならいいが……」
その言葉を聞いて、魔導王も納得してくれたようだ。
(た、助かった……)
死の寸前に糸が垂らされ、引き上げられたような気持ちだ。
ドラウディロンは内心、ベリアルに対して感謝を感じていた。
「ドラウディロン殿、話の腰を折って悪かったな。それで、続きは?」
魔導王の視線が戻り、再び言いようのない緊張感が胸を占めた。
「は、はい。ベリアル殿によって都市の奪還に成功はしましたが、低下した国力はすぐさま元に戻る事はありません」
「確かに、それは道理だな」
「ですから、国防に割ける兵力も減少し、占領されていた都市の避難民に対する食糧提供などもあり……次、ビーストマンに大規模侵攻を仕掛けられた場合、竜王国は壊滅的な被害を受けるのではないか……と私は考えています」
言葉に出しながら、ドラウディロンは内心、苦笑した。
竜王国は“詰み”の状態なのだ。
自国だけでは、民を守る事は出来ない。
何かに縋らなければ、国として立ち行かない。
「なるほど、そうか。それで?ドラウディロン殿はどうするつもりか」
話題を誘導されている、とドラウディロンは理解していた。
自分の話したい、都合の良いように誘導されている。
それは願ってもいない事だが、竜王国の考えを読み取られているというのは問題だ。
何か、蜘蛛の糸のような良からぬ策略に絡め取られているのではないか、と息を呑んだ。
しかし、それでも後ろに下がる事は出来ない。
誘い込まれるまま、前へと進まなければならない。
「竜王国は魔導国へ、支援を要請……いや、嘆願させて頂きたい」
ドラウディロンは、そう口にした。
緊張で口の中が乾く。
だが、ここで引き下がるという事は国が滅ぶ事を意味する。
拳を握りしめ、勇気を振り絞り、語り始めた。
「なるほど、魔導国からの援助に期待したいと」
魔導王の内面は分からない。
アンデッドであり、骨そのものであるからだ。
表情もなく、声色も冷たい。
「っ、はい……可能でしょうか?」
ドラウディロンは、人の機敏を察する能力が高いと自負していた。
それは国を運営する上で鍛えられた能力だ。
だがしかし、その機敏を察する事が出来るのは人間相手のみだ。
アンデッドには通用しない。
そうして、息を一つ飲み込んで──
「断る」
魔導王の返事は短く、簡潔な否定だった。
思わず、ドラウディロンは押し黙った。
何か、話さなければならない。
どうにかして覆さなければならない。
でなければ、国が滅ぶ。
でなければ、民が死ぬ。
「ドラウディロン殿。我々が竜王国を助ける事で、何の利益がある?」
「そ、それは……」
「他国からの支援がなければ滅ぶというのならば、そんな国は滅んでしまえばいい」
酷い理屈だった。
どこまでも冷たく、冷え切った判断だ。
大粒の汗が流れて、目を閉じたくもなる。
耳を塞いで逃げ出したくなる。
この現実から、逃避したいと考えてしまう。
「…………っ」
それでも、と……ドラウディロンは意識を現実に引き戻した。
竜王国の王女として、民を導く者として、国を守る者として……諦める事は出来なかった。
(ならば、どうする……!)
ドラウディロンは思考する。
恐怖でモヤがかかった脳を稼働させて、下唇を噛む。
援助に対して、利益が無いと言う。
かといって、何の利益を返せるのか。
それは──
「では、魔導王陛下。魔導国は……竜王国と、同盟を結んでいただきたい」
国として、金銭以上のものを差し出す事だ。
「ほう?同盟か……なるほど、それは我が魔導国にどんな利益を与えられる?」
「“正当性”です」
「………………なるほど」
魔導王は少しの合間、いや結構な間、黙っていたが……頷き、視線をアルベドへと向けた。
アルベドも納得したように頷いている。
どうやら、彼等は納得してくれたらしい。
ドラウディロンは確信していた。
アインズ・ウール・ゴウン魔導王は賢王である。
こちらの真意も理解しているだろう、と。
そんな事を考えていると、魔導王は視線を戻した。
「では、ドラウディロン殿。説明してくれるか?我々の考えと異なっていては困るからな」
試されている、とドラウディロンは思った。
ここが正念場だ、とも。
「はい。まず、魔導国は王国と敵対状態であるという認識ですが、間違いないでしょうか」
「うむ、そうだな。現在は停戦状態ではあるが、潜在的な敵対国家である事に違いはない」
「今後、もし魔導国と王国が表立って意見が食い違った際、我が国は魔導国の意見に賛成致します。つまり魔導国の意見に”正当性“を箔付け致します」
「……なるほど。しかし、魔導国の意見に”正当性“を与える事に何の意味がある?」
ドラウディロンはその質問に、予め考えていた解答を口にする。
「魔導国は武力では間違いなく他国を圧倒しています。ですが、他国と貿易を行い、利益を得ようとした際……王国と意見が対立した場合、王国と友好関係を結んだ国家との貿易が滞る事もあるでしょう」
「それはそうだな」
「ですから、魔導国の方に”正当性“があり、王国の方が”間違っている“のだと竜王国が支持致します。であれば、王国と友好関係を結んでいる国家であろうと、貿易規制を掛けるのは難しくなるかと」
ドラウディロンがそう言い切ると、魔導王は少し首を震わせながら頷いた。
「……う、うむ。なるほど、私の考えていた通りだ。アルベドもそうか?」
「はい、私も同様の意見です。アインズ様」
アルベドの返答に魔導王は頷き、ドラウディロンへと視線を戻した。
「しかし、同盟を結んだとて無償で武力や食料を与える事は出来ない。それについて、ドラウディロン殿はどう考える?」
「交易通貨による支払いを想定しています。現在、自国の防衛費に充てている費用ですが、それらでアンデッドの兵を借りる事が出来れば……と」
「……良いだろう。しかし、それはアンデッド兵を購入したいという事か?」
「それでも構いませんが、貸し出しという形でも構いません。費用に関して、継続的な支払いを用意する事も可能です」
ドラウディロンは今、自国に出来ることを語った。
極度の緊張の中、己に出来る事を全て出し尽くしたのだ。
(これで無理なら……もう、知らん!)
若干、捨て身のような話ではあったが。
魔導国の全ての行動に賛成するという事は、竜王国と魔導国が一蓮托生になるという事だ。
もし、魔導国が暴走し、他国が同盟などを組んで抵抗した場合、竜王国は間違いなく窮地に立たされるだろう。
だが、それでも今すぐに国が滅びるよりマシだ。
アンデッド兵の購入や貸し出しを知られれば、今後、法国からの援助は期待できない。
国民からも反対される可能性がある。
今はビーストマンという脅威があるため、国民も国の方針を飲まざるを得ないだろうが……時が過ぎて、ビーストマンの脅威を忘れた頃、アンデッドに対する排斥運動が行われるかも知れない。
その際、非難されるのは魔導国だけではなく、その代の国主であったドラウディロンだ。
だが、それでも今すぐに国が滅びるよりマシだ。
そう、例え未来にどんなリスクがあったとしても、今すぐに国が滅びるよりはマシなのだ。
国が続いた先、民に暗君だったと言われるとしても……何もせず、ただ滅びるのを見ているぐらいならば、行動した方がマシだ。
そうドラウディロンは頷ずき、魔導王からの言葉を待った。
そして──
「良いだろう、ドラウディロン殿。魔導国は竜王国と同盟を結ぶとしよう」
その言葉にドラウディロンは深く、ただ深く頭を下げた。
◇◆◇
俺は目の前で、少しおぼつかない足取りで歩くドラウディロンを見ていた。
先程まで、モモンガさん……魔導王陛下と面会していたからね。
そりゃ疲れる。
「……お疲れ様、ドラウディロン殿」
労いの言葉をかけると、ドラウディロンは背筋を伸ばして俺の方へ視線を向けた。
「ベ、ベリアル殿……いや、すまない。先程は、その、助かった……」
「助かった?何の話だ?」
俺は首を傾げた。
元々、今回の件についてモモンガさんは、竜王国に対して有利な条件で契約を結ぶため、圧力を掛ける予定だった。
それに対して俺は、竜王国が滅びないように魔導国から支援を送るように説得するつもりだった。
だから、ドラウディロンとモモンガさんの面会に同行したのだが──
なんか、ドラウディロンが一人で勝手に何とかしていた。
手助けするつもりだったのに、何もする暇がなかった。
そもそも、烏滸がましかったのかも知れない。
一国の国主であり、王女であるドラウディロンを舐めていたのかも知れない。
いや、侮っていた。
許される事なら謝りたいぐらいだ。
そんな俺の自己嫌悪も知らずに、ドラウディロンは笑みを浮かべていた。
「……ふふ、そうか。ベリアル殿は自覚がないか?」
自覚って、なに?
俺は何もしてなかったぞ。
「……悪いな」
「いや、責めている訳ではないんだ。本当に……あの場に、ベリアル殿が居てくれて、良かった」
「そうか?」
「そうだとも」
ドラウディロンが俺に対して、微笑んだ。
……うっ、可愛い。
先程までの凛々しい姿も良かったが、こうして安心したような笑みを浮かべられると……こう、可愛いな。
「なら良かったが……ドラウディロン殿。それで、これからどうする予定だ?」
「うむ。一旦は国に話を持ち帰ろう。同盟に関して宰相にも話していないからな……恐らく、同意を得られる……いや、確実に同意させよう。アンデッド兵の貸し出しに関しても、防衛費用から予算の算出をする必要がある。現在、兵役となっている兵士に幾らか金を渡して、農夫の仕事をして貰うとしよう」
「な、なるほど?」
あ、いや、そういう真面目な話じゃなくて。
この後の食事とか視察とか、色々な話を……って、そうか。
ドラウディロン殿は王女だからな。
忙しくなるだろう。
俺は首の裏を掻きつつ、ドラウディロンに視線を戻した。
「では、ドラウディロン殿。魔導国での滞在期間を短縮するか?」
俺の屋敷に居座るよりも、国ですべき事があるだろう。
少し……いや、かなり名残惜しいが仕方ない。
結局、彼女を射止める事は出来なかったが……それでも、これだけ友好的ならばデミウルゴスも過激な行動は控えてくれるだろう。
そう考えて、俺は提案したのだが──
「へ?え、あ……」
ドラウディロンは何故か、困ったような顔をして目線を泳がせた。
「どうかしたのか?ドラウディロン殿」
「い、いや……そ、そうだな?いや、確かに竜王国に帰るべきかも知れないが……なんだ、その、だな?ベリアル殿は帰った方が良いと思うか?」
これは……そうか、帰りたくないのか。
竜王国に帰れば仕事漬けが確定している。
それに比べて、魔導国の視察など休暇のようなものだ。
休暇を切り上げて仕事になど行きたくないのだろう。
それでも、帰るべきではあると心のどこかで分かっているから「帰るべきか?」と訊いているのだろう。
気持ちは分かる。
なら、少しぐらいは甘やかそう。
「いや、ドラウディロン殿にはもう少し魔導国に残って欲しいな。まだ見せたい物も幾つかある」
「そ、そうか……!」
ドラウディロンが顔をぱぁっと明るくさせた。
やはり、帰りたくなかったのか。
「宰相やらに手紙を届けたいのであれば、俺が転移で渡して来ても良いが」
「それは助かる……今日中に書くから、明日にでも届けて貰って良いか?」
「あぁ、それで構わないぞ」
そうして俺が頷くと、ドラウディロンは安堵の息を吐いた。
やはり、魔導国に残ることに罪悪感でもあったのだろう。
少しでも和らげばいいが。
そうして、俺はドラウディロンに視線を戻した。
見た目年齢相応の笑みを浮かべる彼女を見て、俺は少し頬を緩めた。
次回は、夜這い
今週中にアップ予定です
ドラウディロン
-
オホれ
-
オホるな
-
どっちでもいい