※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#65 愛を囁く

食器の鳴る音が聞こえる。

俺の目の前で、ドラウディロンが食事をしている音だ。

 

モモンガさんとドラウディロンの面談も終わり、俺達は屋敷に帰って来た。

時間もそれなりに掛かり、空も少し暗くなっている。

 

視線をドラウディロンに向ける。

幼い少女の姿らしからぬ、上品な食べ方だ。

しかし、少女らしい素直な笑みを浮かべている。

彼女の実年齢から考えると不相応なあどけなさだが、それだけナザリック産の食事が美味しいのだろう。

一国の王女としての責務もあるだろうが、食事時ぐらい、素直に喜んでくれるのは嬉しい。

 

ふと、ドラウディロンは俺の視線に気付いたようで、目を向けて来た。

 

 

「む……ベリアル殿、どうかしたか?」

 

 

見惚れていた、とは言えない。

 

 

「いや、随分と美味そうに食べるなぁ、と」

 

「……仕方ないだろう。それだけ美味しいのが悪い」

 

 

照れ隠しか、ドラウディロンは少し眉を顰めた。

可愛い。

 

 

「いや、俺は嬉しいだけだ。気を休めてくれるのは、心を許してくれた……とまでは言わないが、警戒心を解いてくれた証拠だろう?」

 

「それはそうだが……まるで私が、ここに来た時は気を張っていたような言い方だな」

 

「……はは」

 

 

いや、実際、警戒はしてたし、気は張っていただろう。

借りて来た猫みたいな状態だったし。

 

俺は手元の料理を口に含む。

美味しい。

 

料理名は……何だったか。

魚を柑橘類で味付けして、揚げ焼きしたやつだ。

食事前にメイドがつらつらと料理名を話してくれたが、覚えていない。

 

分からないし覚えられないのだが、それをドラウディロンに知られると恥ずかしい。

だから、物知り顔で分かっているフリをして食べている。

 

まぁ、美味いものは美味い。

それでいい。

 

 

「しかし、ベリアル殿には今日も世話になったな……返しようのない量の借りを作ってしまった」

 

「貸し借りなんて気にしなくていい。俺はやりたいようにやっているだけだからな」

 

 

まぁ、これは本音だ。

俺はやりたいようにやってる。

この世界に転移してからずっと、そうだ。

好きなように歩き、好きなように暴れて、好きな女を囲ってるだけ。

自分勝手で、自己中心的に生きているだけだ。

 

しかし、ドラウディロンは俺の言葉に納得していない様子だ。

……彼女は俺のことを買い被っているみたいだ。

実際はロクデナシなんだ、俺は。

 

そんな自己嫌悪をしている俺へ、ドラウディロンは視線を向けた。

 

 

「それでも借りは借りだ……ベリアル殿、何か私にして欲しい事はないか?私に出来る事なら、その、何でもするぞ?」

 

 

……何でも?

なら、口で……っと、そういう空気じゃないな。

というか、ドラウディロンは王女なだけあって真面目な女性だからな。

セクハラしたら嫌われてしまいそうだ。

 

……ドラウディロンには嫌われてたくない。

何とか、内なる(すけべ)を抑えなければ。

 

 

「その気持ちだけで十分さ」

 

 

いや、本音で言えばエッチなお願いをしたいが。

 

 

「……そうか」

 

 

何故か少し落ち込んだ様子のドラウディロンを見て、俺は目線を逸らした。

一国の王女であるという自負心から、俺に借りを作りっぱなしにしたくないのだろう……多分。

そうじゃなければ……というのは俺の自惚れ過ぎだな。

惚れられるようなこと、してないし。

 

そんな事を考えながらワインを口に含む。

 

 

「なぁ、ベリアル殿」

 

「ん?」

 

「……自分で言って何だが、私ってそんなに女性としての魅力が無いか?」

 

 

咽せそうになった。

無自覚なのか?

このドラゴン王女合法ロリ美少女は?

 

 

「いや、そんな事はない。ドラウディロン殿は魅力的な女性だ」

 

「……それは、ベリアル殿にとっても、か?」

 

 

……もしかして、ドラウディロンって俺に気があるのか?

 

 

「それは──

 

 

いや、待て、俺。

彼女は一国の王女で腹芸も出来る。

思わせぶりな発言と見せかけて、俺を誘導しようとしている可能性もある。

……ドラウディロンに限ってそんな事はしなさそうだが、可能性が0とは言い難い。

 

 

「…………」

 

 

俺は口を噤む。

どう返答するのが正解なのか分からん。

これって女心なのか?

それとも政治の分野なのか?

誰か教えてくれないか。

 

なんて、内心、頭を抱えていると──

 

 

「……なんてな。少し意地悪な質問をしてしまったな」

 

 

どうやら時間切れのようだ。

ドラウディロンが笑みを浮かべつつ、言葉を繋ぐ。

 

 

「これでも対外的な評価を気にするタイプなんだ、私は……怒らないでくれよ?」

 

「いや、怒りはしないが──

 

 

俺はそう言いつつ、ふと、ドラウディロンの顔に目を向けた。

どこか、悲しそうな顔をしている。

 

……俺は、彼女にそんな顔をして欲しい訳ではない。

腹を括るか。

 

 

「ドラウディロン殿は……」

 

「何だ?どうかし──

 

「一国の王女として相応しい振る舞いと、心の強さを持っているように見える」

 

 

俺の言葉に、ドラウディロンがフォークを動かす手を止めた。

 

 

「ベ、ベリアル殿?何を──

 

「自立した一人の女性であり、意志の強さを感じさせる。俺はそんな女性こそ、魅力的に見える」

 

「ちょっ」

 

「無論、容姿も美しいな。まだ幼くはあるが──

 

「待て、待て待て!もういい!分かったから!」

 

「何だ、もういいのか?」

 

 

ドラウディロンの言葉に、俺は口を閉じた。

……あ、止めて貰って正解だったな。

これ以上、喋っていると中々に下劣な事を言ってしまいそうだったし。

 

 

「な、なんなんだ。急に私を褒めて……」

 

「ドラウディロン殿が対外的な評価を欲しいと言っただろう?だから話しただけだが」

 

 

褒められたがっていたのは、表情から読み取れた。

なら、褒めるべきだ。

それでドラウディロンの気が済むのなら。

 

まぁ最悪、俺が恥ずかしい思いをするだけで済むだけだし。

 

 

「そ、それはそうだが……そんな洪水のように世辞を浴びせられても困るというか……恥ずかしいというか……」

 

「世辞じゃない。本音だぞ?」

 

「本音だとしても、だ……!まったく、ずるい男だな……」

 

 

え、ずるい?

誠意を持って話したつもりだったんだが……。

ダメだな、政治も女心も全然分からん。

 

恥をかいたと言わんばかりの顔で、ドラウディロンは野菜を口にした。

 

 

「…………」

 

 

ドラウディロンは先程の俺の発言が恥ずかしいのか、無言で食事をしている。

 

 

「…………」

 

 

対して、俺も先程の発言は失策だったかと反省して黙っている。

少し気まずい空気の中、しばらくの間は無言で食事をした。

 

 

「「…………」」

 

 

気まずい。

 

そうして、少しして……ドラウディロンは視線を俺へと戻した。

 

 

「……ベリアル殿……今晩、時間は空いているか?」

 

「ん?あぁ、空いているぞ?」

 

 

今夜は特に予定はない。

屋敷内のメイドとのエッチも一通り全員と終わったし、こそっとナザリックに戻って側室の誰かと“する”つもりだったが……ドラウディロン側に予定があるのなら、それが最優先だ。

 

 

「……なら、その、夜に会いに行ってもいいか?」

 

「あぁ、構わない。私室……いや、書斎の方がいいか?」

 

 

今日、話していた竜王国の宰相に送る手紙の話だろう。

鉄は熱いうちに打てと言うし、早めに送りたいに違いない。

 

だから、私室ではなく、書斎の方を提案したのだが──

 

 

「い、いや、私室でいい。私の予定と付き合わせているからな、うん」

 

 

どうやら気を使わせてしまったらしい。

 

 

「なら夜に鍵でも開けて、待っておくとしよう」

 

「そ、そうか!ありがとう、なるべく遅くならないように行くとしよう!」

 

 

顔を赤くしながら、ドラウディロンが頷いた。

顔を、赤く?

 

 

「……あまり気負わなくて良いからな?」

 

 

なんて、言いつつも……今、気付いたんだけど……これ、もしかして、エッチなお誘いなのか?

 

俺は朴念仁ではないし、無自覚系ラブコメ主人公でもない。

流石に気付く。

 

ドラウディロンは俺にエッチなお誘いをしているに違いない。

でなければ、私室で良いなんて言わない筈だ。

 

 

いや、待て。

本当にそうか?

 

 

……確証は持てないし、自意識過剰かも知れない。

取り敢えず、夜中まで待とう。

もし違ったらぬか喜びで、恥ずかしいしな。

 

俺はそんな事を考えつつ、料理を口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ドラウディロンは割り当てられた寝室にて鏡の前に立っていた。

レース状の下着、薄い布地のネグリジェ……その上から、ケープを羽織った。

 

僅かに震える手で羽織ったケープを整える。

 

 

「……よ、よし」

 

 

今夜、ドラウディロンはベリアルへ夜這いに行く。

 

 

(本来の目的は達成しているというのに、な……)

 

 

ベリアルを籠絡し、国への支援を引き出すこと。

これは、籠絡せずとも解決している。

最早、目的である支援の引き出しは達成済み。

だというのに、ドラウディロンは手段である筈の「ベリアルを籠絡すること」へ躍起になっている。

 

 

(いや……無意味ではない。親しくなっていた方が、融通は効くだろうし)

 

 

脳内で、自分に“言い訳”をする。

 

 

(そうとも。これは国を思ってのこと。私の私利私欲ではない)

 

 

鏡を前にして、ドラウディロンは何度か頷いた。

 

 

(もしベリアル殿が望むのであれば、婚約してもいいな。そうすれば、竜王国の未来も安泰だろう……うむ、うむ)

 

 

絵に描いた未来を想像し、笑みを浮かべた。

 

 

(いや、ベリアル殿には側室が沢山居ると聞いた。新参者である私を、本妻に迎えることは難しいか……ベリアル殿はその辺り、義理深いからな)

 

 

そして、現実を思い出して顔を顰めた。

 

 

(まぁいい。とにかく、ベリアル殿に意識して貰うのが重要だ。既成事実さえ作れば、邪険には出来ないだろう。うむ、我ながら完璧な作戦だ)

 

 

ドラウディロンは机の上の手紙を手に取り、部屋を出た。

手紙は、宰相に届けて貰う手紙だ。

これを口実にベリアルの私室へ向かうのだから、忘れては困る。

 

 

 

ドラウディロンは期待半分、不安が半分の状態で廊下を歩く。

 

夜、メイド達も寝室で眠っている。

普段ならば<永続光(コンティニュアル・ライト)>の掛かった魔法道具(マジックアイテム)も消灯しているが、今日は幾つか灯ったままとなっている。

 

それは恐らく、ドラウディロンが夜中にベリアルの私室へ向かう……という事を考え、ベリアルが配慮してくれたからだろう。

 

 

(こういう気が利く所も……)

 

 

ドラウディロンは少し頬を緩めて、そのままベリアルの私室までやって来た。

心臓を高鳴らせながら、ドラウディロンはドアをノックした。

 

直後、「入っていいぞ」という声を聞き、ドラウディロンは部屋の中に入った。

 

 

「夜分遅くにすまないな、ベリアル殿」

 

 

そう言いつつ、室内を見渡す。

日中によく来る事はあったが、夜間は初めてだった。

昼夜で間取りが変わる訳でもない、見知った部屋だというのに、少し新鮮味を感じてしまう。

 

そんな部屋の奥、庶務机にベリアルは座っていた。

 

 

「いや、構わないとも。幾らでも予定は合わせるつもり──

 

 

そう言いつつ、ベリアルは視線を上げて……ドラウディロンを見た瞬間、固まった。

 

 

「む?どうかしたか?」

 

「い、いや……何でも」

 

 

ベリアルは視線をふらふらを宙へ向ける。

だが、ドラウディロンは気付いていた。

ケープの下から僅かに見える肌や、素足を見てベリアルは照れているのだと。

 

 

(……脈がないという訳ではない、か)

 

 

ドラウディロンは安堵と共に、好きな男に視姦される興奮を感じていた。

 

 

「それで、ドラウディロン殿。要件とは、竜王国の手紙に関してで違いないか?」

 

「うむ。これが私が認めた手紙だ……中身も見てくれて構わないぞ」

 

 

ベリアルに手紙の入った封筒を渡す。

それをベリアルは外側を少しだけ確認して、中身も確認せずに机に置いた。

 

それだけ信頼してくれているのか、とドラウディロンは少し嬉しくなる。

 

 

「この手紙、今から届けた方がいいか?」

 

「いや、今じゃなくて良い。この時間だと、城の文官も寝静まってる頃合いだからな」

 

「そうか?なら明日の昼前に届けようか」

 

「構わない。礼を言おう、ベリアル殿」

 

 

ベリアルの言葉に、ドラウディロンは首を縦に振った。

正直、その辺りはいつでも構わないのだ。

本来、魔導国と竜王国の間で手紙のやり取りをすれば、どれだけ急ごうとも数日は掛かる。

それを転移によって届けてくれると言うのだから、時間が多少前後した所で不満はない。

 

 

「それで、ドラウディロン殿……用事は以上、か?」

 

 

ベリアルの言葉に、ドラウディロンは少し目線を逸らした。

 

 

「い、いや……よければ、なのだが、ベリアル殿と少しだけ話をしたい……」

 

「あぁ、それはいいな。俺もドラウディロン殿と話したい気分だったからな」

 

「……あ、ありがとう」

 

 

そう返事をしてくれたのは、優しさか。

ドラウディロンは心臓を早鐘のように鳴らし、顔を赤らめつつ……ベリアルの対面にある、応接用らしきソファに座った。

 

 

「飲み物でも出すか……ドラウディロン殿は何か飲みたいものでもあるか?」

 

「い、いや、何でも構わないぞ?」

 

「なら、ホットミルクでも用意しよう」

 

 

そう言うとベリアルは席を立ち、何やら魔法道具(マジックアイテム)のような箱からマグカップを二つと、牛乳の入った瓶を取り出した。

それをドラウディロンの座っているソファの前にある、応接机の上に置いた。

そして、マグカップへ牛乳を注ぎ……何やら、魔法を行使して温めた。

 

 

「熱かったら言ってくれ、冷ますから」

 

 

ベリアルはホットミルクを二つ用意した。

そして、向かいの席に座った。

 

 

「……ありがとう」

 

 

差し出されたマグカップを手に取り、それほど熱くないことを確認する。

そして、仄かに感じる甘い匂いに笑みを浮かべた。

 

 

(……ベリアル殿は権力者だというのに、こんな些事も嫌な顔をせずにしてくれる。本当に出来た男だな)

 

 

自国の偉い人間の場合、夜間だろうとメイドを叩き起こして作業させるだろう。

そう考えつつ、ホットミルクを口に含む。

 

素朴だが、甘い。

身体の芯から温まる、安心できる味わいだ。

 

そして、穏やかな心のままドラウディロンはベリアルへ視線を戻した。

 

 

「私は、ベリアル殿には感謝している」

 

「ん?」

 

 

ベリアルがマグカップを降ろせば、僅かに口元が白くなっていた。

 

 

「国を助けに来てくれたことも、魔導国へ招待してくれたことも……私にとっては返せない程の恩だ」

 

「……まぁ、俺にも思惑があっての事だから。それほど恩を感じなくてもいいぞ?」

 

 

そんな事を口にするベリアルを見て。ドラウディロンは笑みを浮かべた。

この男は謙遜ではなく、本心からそう思っているのだ。

 

ここ数日、屋敷で世話になってドラウディロンが確信した事がある。

ベリアルという男は有能ではあるが、万能ではないという事だ。

凄まじい力を持っているが、人並みの価値観で行動している。

全ての選択を間違えない訳でもなく、少し抜けている部分もある。

 

そんな欠点とも言えない欠点。

それにドラウディロンは幻滅する訳でもなく、親しみと愛おしさを感じていた。

 

 

「魔導国と同盟を結べたのも、ベリアル殿のお陰だ」

 

「……ん?いや、それは自力で成し遂げた事だろ?俺は何もしてないぞ」

 

 

笑みを浮かべて、ベリアルへ視線を向ける。

整った容姿が少し困惑しているように見えた。

 

 

「この国に来てからも、私が不便に感じないよう色々と便宜を図ってくれただろう?」

 

「客人をもてなすのは普通の事だ」

 

「それでも、私はベリアル殿のお陰で不自由なく……幸せに、不安なく過ごす事が出来た。だから私はあの時、勇気を振り絞る事が出来た。ベリアル殿のお陰だ」

 

 

ドラウディロンの言葉に、ベリアルは目線を逸らした。

 

 

「……ドラウディロン殿がそう思うなら、それでもいいが」

 

 

完全には納得していないようだが、理解はしてくれているようだ。

 

ドラウディロンは、ベリアルから見た自身の評価が高い事を知っている。

一国の王女として尊重し、尊敬してくれている。

それは嬉しい事だ。

 

だが、それでも……王女であっても。

ドラウディロンは自身を、一人の女であることを自覚している。

一人で出来る事もあれば、出来ない事もあると。

 

 

「それだけの恩があっても、私がベリアル殿に返せるものは、そう多くない」

 

 

何かを成し遂げた時、それが全て自分の功績なのだとは思わない。

誰かの助けがなければ一国の運営など出来はしない。

重要な決断も……自分だけでは、きっと。

今回のようには。

 

 

「財宝も必要ないのだろう?確かに、この国に比べれば、竜王国の財などたかが知れているからな」

 

 

だからこそ、彼が必要だ。

だからこそ、彼が欲しい。

 

 

「そう、だからもし、私が貸しを返せるのだとしたら……私そのものでしか返せない」

 

 

だからこそ──

 

 

「だから、ベリアル殿……私のことを……」

 

 

一人の、女として──

 

 

「抱いて、みないか?」

 

 

彼が、欲しい。

 

ケープをはだけさせれば、夜風が肌にあたる。

それでも身体が火照っている。

先程飲んだホットミルクの所為か、それとも。

 

頬が熱い。

きっと赤くなっている。

 

 

「……ドラウディロン殿」

 

 

ベリアルの声色は落ち着いている。

だからこそ、不安になる。

自分を受け入れてはくれないのかと、不安になる。

 

思わず、口を開く。

 

 

「ど、どうだ?本当に、好きにして貰っても構わないぞ?」

 

 

どうか、受け入れて欲しいと、そう懇願して──

 

 

「ドラウディロン殿。無理をしてまで、借りを返す必要はない」

 

「あ……」

 

「俺に身体を許す必要もない……そんな事をしなくても、俺はドラウディロン殿の味方だ」

 

 

ベリアルの言葉に、俯いた。

やはり、自分を恋愛対象には見ていなかった。

こんな少女の身体を愛してくれる訳がなかった。

 

 

「そ、そうか……すまなかった、変な事を……言って……」

 

 

震える自らの身体を、抱きしめる。

拒絶された悲しみは……ドラウディロンの内心を覆い──

 

 

「その上で──

 

 

ベリアルに、手を握られた。

少し硬い、女とは全く違う男の手に握られて……視線を上げた。

 

 

「俺と身体を重ねる意味がないと知った上で、もし……それでも、許されるのなら。俺はドラウディロン殿のことを愛したい」

 

「……へ?」

 

 

普段の優しげな笑みとは違う、真剣な表情で見つめられて……顔が熱くなる。

身体の芯が、ぎゅぅっと締め付けられるような感触に切なくなる。

 

 

「そ、それは、どういう……」

 

「俺はドラウディロン殿のことが好きだ」

 

「……え?」

 

 

それは愛の告白だった。

最近、この屋敷の書斎で読んだ恋物語の見せ場のような告白だ。

 

 

「あ……っ」

 

 

それを身に受けているのだと実感し……顔が熱くなる。

 

 

「もし、ドラウディロン殿が俺の事を──

 

「わ、私も……っ、好きだ……!」

 

 

竜王の血を引く、王女として生まれて……今までずっと恋なぞ知らずに生きてきた。

そんな我が身に初めて宿った恋心。

 

全てが初めてだった。

手を繋ぐだけで心臓が高鳴るのも。

話していると頬が熱くなるのも。

後ろ姿を見て切なくなるのも。

 

 

「私はっ、ベリアル殿の事が……す、好き、だ……」

 

 

こうして、好意を言葉にすることも。

 

握り締められた手を、強く握り返す。

そうすれば、引き寄せられて……密着した。

 

 

「ドラウディロン殿」

 

「あ……」

 

 

名前を呼ばれて、思わず、目を閉じた。

何かを期待している、というのがベリアルに伝わったようで──

 

 

「んっ……!?」

 

 

唇が、重なった。

 

思わず背中に腕を回した。

抱きしめれば……抱きしめ返された。

 

 

「ん……っ」

 

 

幸せだった。

愛されている、という気がした。

 

渇いていた心の奥底が、満たされていく。

 

 

「……ん」

 

 

そうして、少しの間、唇を重ねて……離れた。

名残惜しさを感じつつも、ドラウディロンは目を開いた。

 

愛しい男の顔が近くにあり、気恥ずかしくなって視線を逸らす。

 

 

「まさか、ドラウディロン殿が俺の事を好きになってくれていたとは」

 

 

そんな事を言う男の顔を見て、そして……ドラウディロンは目を細めた。

 

 

「ド、ドラウディロンだ……っ」

 

「ん?」

 

「敬称は不要だ……嫌なら、せ、せめて二人っきりの時ぐらい呼び捨てにしてくれ」

 

 

一国の王女に対して、呼び捨てなど不敬で不適切だ。

だが、ベリアルには竜王国の王女としてではなく、ただの“ドラウディロン”という女として扱って欲しかった。

 

 

「なら……ドラウディロン?」

 

「な、なんだ」

 

 

愛する男に名を呼び捨てにされて、少し身体が疼く。

まるで自分のものだと言うような扱いに、心臓が高鳴る。

 

 

「俺の事も呼び捨てにして貰っていいか?」

 

「……で、ではベリアル、と。その、いいのか?」

 

「いいとも」

 

 

互いに呼び捨てにする。

それはつまり、この場では身分など存在せず……その身一つの男と女として、関係を持つということ。

 

 

「……ふふ、ふふ」

 

 

小さく笑みを浮かべる。

口から溢れてしまうほど、幸せだった。

 

好いた男と両想いになれる。

それがどれだけ幸せなことか、ドラウディロンは噛み締めていた。

 

 

「それじゃ、ドラウディロン」

 

「ん?なんだ?」

 

「寝室まで行こうか」

 

「……ん?」

 

 

ドラウディロンは首を傾げた。

どうして寝室に行くのか。

良い子は寝る時間とでも言いたいのか。

 

一瞬、そんな事を考えたが……ドラウディロンは、気付いた。

ベリアルの視線が少し、いやらしいものになっている事に。

 

それは、つまり──

 

 

「……あっ、……ぅ、わ、分かった……」

 

 

寝室で性行為(セックス)するという事だ。

 

嫌ではない。

むしろ、それを望んでこの部屋に来た。

だというのに、土壇場になって尻込みをしていた。

 

 

「ドラウディロン、嫌なら別日でも良いんだが……」

 

「い、嫌ではない!そ、その……」

 

 

本当に、嫌ではない。

寧ろ、期待している。

それでも尻込みしてしまうのは、きっと──

 

 

「は、初めてだから……その、緊張してるだけだ……」

 

 

上手くできるか、不安なだけだ。

身体を重ねて、まぐわって、気持ち良く出来るか不安なのだ。

 

ベリアルは複数の側室がいるのだと、ドラウディロンは知っている。

故に、その側室と比べられて、拙いのだと思われたら……愛も冷めてしまうかも知れない。

 

そう考えれば考えるほど、不安になって──

 

 

「大丈夫、心配しなくていい」

 

「ベ、ベリアル……」

 

 

ベリアルが耳元に口を近づけて、囁く。

 

 

「優しく……ドラウディロンが気持ち良くなれるよう、俺も努力するから」

 

 

それはドラウディロンの懸念と少しズレた返答だった。

しかし、それでも……身体が熱くなってしまう。

先程までの不安を、期待が遥かに上回ってしまった。

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

思い出す光景は、先日覗き見してしまった森妖精(エルフ)とベリアルの性行為(セックス)

気持ち良さそうによがり、喘ぐ、森妖精(エルフ)の姿。

そして、ベリアルの大きく魅力的な男性器(いちもつ)

 

下腹部がぎゅぅ──と、締め付けられるような、そんな感覚。

 

 

「よ、よろしく……頼む……」

 

 

絞り出した同意の言葉は、今にも消えそうな……かぼそい、声だった。

 

 

 

 




次回、エッチ

竜王国編の後は、聖王国編の予定です。
(閑話を挟むかもしれないです)

聖王国編で欲しい話

  • カルカ・ベサーレス
  • ケラルト・カストディオ
  • レメディオス・カストディオ
  • ネイア・バラハ
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