【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
#69 悪夢の足音
夢を見る。
夢を見ている。
聖王国の神官団団長、ケラルト・カストディオは夢を見ていた。
目に見える惨劇、鼻に付く悪臭、悪寒を感じる生温かさ。
高位の悪魔に拘束される主君。
醜悪な悪魔に囲まれる自分。
それらは全て夢であり、ここが現実ではない事をケラルトは知っている。
それでも、耐えがたい嫌悪感は拭えなかった。
「は、離しなさいっ!」
ケラルトは泣き叫んでいた。
密かに自慢にしている艶のある長い茶髪を乱れさせ、整っている顔立ちを歪ませて。
「っ、やめてっ!」
涙を流し、嗚咽を漏らして……まるでただの小娘のように。
醜悪な淫魔達に囲まれて、服を剥がれて……無理矢理、犯される。
「離し、て……っ!こんなの、嫌ぁ……っ!」
乳首に噛み付かれて、顔に陰茎を押し付けられ、強引に女性器を弄られる。
こんなのが気持ちいい筈がない。
「っ、う……!く、っ……うっ!」
それでも身体は本能的に、膣を傷つけまいと愛液を分泌させる。
淫魔は愛液で濡れた指を見せつけて、お前は淫売だ、と押し付けてくる。
それが堪らなく不快で、腹立たしくて、気持ちが悪い。
そうして満足すれば、淫魔達は我先にと陰茎を女性器に突っ込んでくる。
イボだらけで醜悪な、淫魔の体躯に見合わぬ陰茎が……ケラルトの処女を散らせる。
(痛い……!気持ちわるい、気持ちわるいっ!)
淫魔は気持ち良さそうな顔をしながら、腰を振るう。
ケラルトは鈍い痛みを感じながらも、耐える事しかできない。
膣口から、血が垂れる。
(こんなのが初めてなんて……っ!いや、なのに……!)
周りの淫魔もケラルトに陰茎を押し付ける。
咽せ返るような生臭くて、生理的悪寒を煽る臭いが充満する。
そうして淫魔は満足するまでケラルトを犯し、吐精する。
避妊なんて一切考えない膣内射精をされる度、ケラルトは顔を顰める事しかできない。
(もう、いや……こんなの……っ)
それでも、淫魔達はケラルトを犯し続ける。
次へ、次へと、代わる代わるに。
何度も。
何度も、何度も。
何度も何度も何度も何度も。
(誰か……!だれか、たすけて……)
神に縋っても救われない。
ならば、誰に縋れば良いのか。
ケラルトには分からない。
ただ、“誰か”に助けを乞うことしかできない。
しかし、その声は誰の耳にも届かない。
夢の中、襲撃された街の中で……淫魔の下劣な声がこだまする。
これは夢だ。
現実ではない。
だから、早く目が覚めて欲しい。
はやく、誰か。
誰か。
「……は、ぁっ」
ケラルトは目を覚ました。
ローブル聖王国の首都ホバンスにある王城……その王宮内の客室。
ケラルトは王族ではなく、本来ならば自宅で寝ているべきなのだが……友人である聖王女カルカ・ベサーレスの計らいで、現在は王宮で寝泊まりさせて貰っている。
それは王国を襲撃した悪魔、魔皇バアルを警戒するため……というのが外向けの理由だ。
「……っ」
ケラルトはシーツを蹴り、下の寝巻きを捲った。
下着は粘性のある体液で内側から濡れていた。
それに嫌な気持ちになる。
奥歯を噛み締めて、目を細めた。
「…………」
何とか泣き喚きたくなるような衝動を抑えて、ケラルトは寝巻きを脱いだ。
真っ白で清らかな寝巻きを脱ぎ、その上に汚れた下着を置いた。
淫魔に犯される夢を見るようになってから、結構な時間が過ぎていた。
姉であるレメディオスが殴り倒され、敬愛する聖王女カルカが犯され、自分が淫魔に嬲られる夢。
魔皇バアルによって、聖王国が陵辱される夢だ。
そんな夢を週に何度も見ている。
眠るのも怖くなってしまうほどに、何度も見ている。
そして、この夢はカルカも見ているという。
全く同じ内容の夢を、互いに何度も。
同じ夢を何度も見るなんて、普通ではない。
そんな事はケラルトにも分かっている。
何か、この夢は意味のある事だ。
ケラルトはそう確信していた。
あまりにも現実味があり、その痛みや気持ち悪さも体感できる夢。
恐らく、魔皇バアルが見せている夢なのだろう。
「……っ、冷た」
汗に濡れた肌を水桶の冷水で流し、気を引き締める。
魔皇バアルが夢を見せる理由は分からない。
だが、恐らくは自らの力を誇示して、心を折るためのものだとケラルトは考えていた。
だから、屈しない。
屈したりはしない。
ケラルトは鏡に映る自分の顔を見た。
寝不足で少し隈が出来ている。
眉間に皺が寄って、機嫌が悪そうだ。
「……はぁ」
ため息を一つ吐いて、下着を身につける。
黒を基調とした衣服の上に、白に青いラインを引いた神官服を被せれば……そこには美しい神官の姿があった。
ケラルトは光の加減で金にも見える艶のある茶髪を揺らしながら、部屋を出た。
王宮内の廊下には、部下である神官が等間隔で配置されている。
それらの神官達は魔皇バアルが万が一、王宮内に侵入した際、迎撃できるように配備された警備だ。
時間を分けてローテーションを組み、24時間の警備を可能としている。
……それが、どれだけ意味のある事なのか。
ケラルトは懐疑的だったが、しないよりはマシだと判断した。
そんな神官の一人が、ケラルトに頭を下げた。
「おはようございます、ケラルト団長」
「……おはようございます。警備、ご苦労様です」
内心を隠し、ケラルトは笑みを浮かべて会釈した。
神官団の神官の殆どは、ケラルトより歳上だ。
歳若く才能に恵まれたケラルトは、若い身空ながら最高位の神官となっている。
他の熟練の神官ですら到達できない信仰系第四位階魔法を使用できる、というのは実力主義である神官団にとって大きく評価できる点だった。
……実際には、ケラルトは第五位階まで使用できるのだが、それは親しい友人や家族すら知らない。
それ程までに、ケラルトは優れた信仰系
それこそ、聖騎士団長である姉が知性、才能、美貌、その三物を神に与えられたと口にする程に。
ただ、そのどれもが、今は慰めにすらならない。
内心、陰鬱なままケラルトは足を進めた。
聖王国の王城、そのとある一室。
そこにケラルトを含め、三人の女が集まっていた。
「それで……ケラルト。現状の報告をお願いできる?」
一人はケラルトの上司であり、親友でもある聖王女カルカ・ベサーレス。
美しい艶のある金髪と、整った容姿をもつ美女だ。
「そうだ。私にも分かるよう、簡単に説明してくれ」
もう一人はケラルトの姉、聖騎士団の団長であるレメディオス・カストディオ。
ケラルトによく似た容姿をした、しかし活発そうな印象を持つ美女だ。
ケラルトにとって二人は立場を抜きにしても、仲の良い友人であり、家族だった。
それこそ、二人が傷付けられる事があれば、どんな代償を払っても報復したいと思う程に。
ケラルトは二人に目配せをして、頷いた。
若干、姉に対しては呆れた視線を向けてしまった自覚はあるが。
「亜人達は現在、活発に行動しており……数日前にも、要塞線に大規模な侵攻を仕掛けて来ました。ですが、聖騎士達の活躍……あとそこの姉様の活躍により、最悪の事態は回避されました」
「うむ、そうだな」
レメディオスは腕を組んで、自信満々に頷いた。
それを無視して、ケラルトは言葉を繋げる。
「ですが、予断を許さない状況が続いています。要塞線を含めて、各地の防衛ラインの軍備を増強しなければなりません」
「ん?それはどうしてだ、ケラルト。撃退できたのだから問題ないだろう」
レメディオスに視線を向けると、不思議そうな顔をしていた。
ケラルトはため息を吐いて、カルカに視線を向ける。
そこには苦笑が浮かんでいた。
レメディオスは少々、政治“など”に疎い。
騎士団長という立場にも関わらず、軍事が分からない。
剣を持って振り回す事しか能がない、脳筋バカである。
しかし、その単純さは長所でもある。
心の底から正義を信じ、人を愛し、平和を尊び、悪を嫌う。
その善性に対しては、ケラルトもカルカも好意を感じていた。
故にケラルトは文句を口にせず、レメディオスに目を向けた。
「姉様、亜人達が活発化した理由は何だと思いますか?」
「知らん」
「……少しは悩んで下さい。亜人達は何らかの理由で要塞線を攻撃しています。新たな指導者が生まれたのか、共通の脅威が現れたのか……その両方なのか。どちらかは分かりません。ですが、危機は去っていない事も分かるでしょう」
「……ふむ?つまり、危険な奴が亜人達に攻撃を指示している可能性があるという事だな?」
「はい、恐らく」
レメディオスのオウム返しのような返事に苦笑しつつも、ケラルトは同意した。
今まで亜人達は種族ごとの同盟など滅多に結ばず、バラバラに侵攻を仕掛けてきた。
だというのに、最近は集団で団結して大規模な侵攻を行っている。
それは到底看過出来ない、異常事態であった。
「ねぇ、ケラルト。それって……つまり、魔皇バアルと関係があるんじゃないかって、私は思うのだけれど」
「はい、カルカ様。私もそう思います。亜人達が脅威に思えるほど強い、もしくは亜人達を束ねられるほど強い者など……魔皇バアルぐらいしか思い付きません」
カルカの発した言葉に、ケラルトは頷いた。
リ・エスティーゼ王国で発生した、魔皇バアルによる侵略行為。
それはアダマンタイト級冒険者、漆黒の英雄モモンによって解決された。
しかし、多大な被害は発生しており、死者や行方不明者も多数出ている。
非常に強力で、凶悪。
人間のことを憎んでいる大悪魔……それが魔皇バアルなのだと、ケラルトは考えていた。
顔を強張らせる二人を見て、レメディオスが口を開く。
「魔皇バアルならば心配は不要です!カルカ様、王国のアダマンタイト級冒険者が迎撃できたと言うのなら、私達にも問題なく迎撃できると思われませんか!?」
「……えぇ。そう、かしらね」
レメディオスの自信満々な表情に、カルカは少し目を伏せた。
実際、三人はアダマンタイト級冒険者と同等……もしくは、それ以上の力を持っている。
信仰系
しかも、三人は悪魔に対して有効なスキルを複数持っている。
本来ならば、王国のアダマンタイト級の冒険者に撃退される程度の悪魔など、恐れる事はない。
十分に対策すれば、負ける事はまずない。
だが、断言はできない。
ケラルトの内心には、不安があった。
あの夢だ。
魔皇バアルにより、レメディオスが打ちのめされ……ケラルトとカルカの魔法を身に受けても無傷。
文字通り、蹂躙され……犯される夢。
そんな夢が、ケラルトとカルカを不安にさせた。
レメディオスは夢を見ていないからか、随分と鼻息を荒くしているが。
……そんな中、カルカが口を開いた。
「ねぇ、ケラルト。その魔皇バアルを撃退したと言われている冒険者を、聖王国で雇う事は出来ないかしら?」
「カルカ様!?」
驚愕の声を上げたのは、レメディオスだった。
そして、すぐに表情を引き締めて、レメディオスは言葉を繋ぐ。
「カルカ様、私の剣が信用できないという事でしょうか!?私ならば必ず、難なく撃退して見せます!」
そんなレメディオスに対して、カルカは少しバツの悪そうな顔を浮かべた。
「いえ、信用していないとかそういう訳じゃないのよ?ただ、強力な悪魔という脅威があるのなら保険として、雇えないか……という話なの。ほら、一人より二人、三人で戦うよりも実績のある四人で戦う方が良いでしょう?」
「……そういう、事でしたら」
渋々、といった顔でレメディオスが頷いた。
自分がアダマンタイト級冒険者、漆黒のモモンより劣っているとは認めたくないのだろう。
ケラルトは心配そうな顔をしているカルカに、視線を向けた。
「カルカ様。アダマンタイト級冒険者、漆黒のモモンなのですが……現在は王国で活動しておらず、魔導国にて魔導王の配下に加わったそうです」
「そうなの?」
「何だとっ!?」
レメディオスが嫌そうな顔をした。
その反応に対して、ケラルトも仕方のない事だと考えた。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国。
新興国家であり、アンデッドである魔導王が支配する死の国。
アンデッドは生者を憎む。
愛はなく、そこにあるのは醜悪な嫉妬心による憎悪のみ。
そんなアンデッドが支配する国など、信用できる訳がない。
渋い顔をしているケラルトと、腕を組んで唸るレメディオス。
その姉妹に対して、カルカは目線を向けた。
「二人は魔導国のことが嫌いなの?聞いた事、なかったけど」
カルカの問いにケラルトが頷いた。
「勿論です。魔導国が好きな神官なんて居ませんよ」
「ケラルトに同意です!アンデッドが支配する国など、碌なものではありません!」
姉妹の反応に、カルカは少し困った顔をした。
「例え、王がアンデッドだったとしても……王の職務を果たせているのであれば、構わないと思うのだけれど。民を慈しみ、平和を与えられるのであれば──
「アンデッドが民を慈しむ!?そんなの、ありえません!」
「姉様に同じく」
「……二人とも、会った事のない人の悪口なんて言うものじゃありません」
人じゃなくてアンデッドだ、なんて姉妹は各々考えていた。
だが、揚げ足のようなものだと考えて飲み込んだ。
そして、ケラルトが視線を戻した。
「……とにかく、カルカ様。漆黒のモモンは現在、魔導国に所属しています。それを呼び立てるのは非常に難しいかと」
「……難しいのは、聖王国という立場だからかしら」
「はい、そうです」
ローブル聖王国は聖王を中心とした宗教色の強い国家。
民のアンデッドに対する敵意も強い。
そんな民の意思を無視して、アンデッドの支配する魔導国から力を借りたとなれば……聖王女カルカを認めない、南部の貴族達から責められる要因になる。
だから、助力を願う事すら難しい。
なのだが──
「それでも、ケラルト。魔導国に頼めないかしら……?私、不安なの」
「……それは、私も不安ですが」
ケラルトとカルカ、二人は夢の内容を共有している。
互いに魔皇バアルの侵略によって、国が崩壊する様を見ている。
それが未来に起こる真実なのかは、分からない。
だがそれでも、この不安を払いたいと思うのは至極当然のことだった。
「何を二人とも……カルカ様も何故、心配になっておられるのですか!私が何とかしてみせますので、ご安心下さい!」
レメディオスが自信満々に、己の胸を叩いた。
……それが余計に、二人の不安を煽った。
夢の中では、魔皇バアルに為す術もなく一撃で負けてしまうのだから。
ケラルトは少しの間悩み、そして視線をカルカに戻した。
「はぁ……分かりました、カルカ様。聖王国からではなく、私の方から魔導国に助力の要請をしておきましょう」
これならば万が一、国民の反感を買った場合、自分の身一つで対処できる。
聖王女カルカを無視した、独断だったのだと言い張れる。
だが、そんなケラルトに対してカルカは少し顔を顰めた。
「そんなのダメよ。ケラルトにだけ責任を押し付けるなんて」
「カルカ様。それが聖王国の為になるのです。ですから……黙認して頂けませんか?」
カルカも理解はしている。
誰にでも優しく……特に、友人には甘いカルカは、ケラルトだけを生贄にするなんて納得できる筈がない。
しかし、この聖王国を存続させるためには、聖王女に対する敵意で国を二分にさせたくはない。
政治が乱れぬよう、ケラルトが動くというのも……聖王女としては理解はできる。
私情と、理屈。
カルカ・ベサーレスという一人の私情と、聖王女としての立場。
二つで揺れる中、カルカは後者を選び……頷いた。
「……分かったわ。ケラルト、お願いできる?」
カルカの言葉にケラルトは笑みを浮かべた。
「はい、私の方から送らせて貰います」
「むっ……ケラルト、助力なんて私には必要ないぞ」
対して、レメディオスは嫌そうな顔をしていた。
言葉を挟まなかったのは、小難しそうな話だったから理解出来なかっただけだ。
「姉様、念のためです。念のため」
「そうよ、レメディオス。“念のため”よ」
「……念のためであれば仕方ないか」
腕を組んで唸るレメディオスを見て、ケラルトとカルカは顔を合わせた。
そしてため息を一つ吐いて、二人で微笑んだ。
それから三日後。
魔導国に対してケラルト名義で、親書を送った二日後だ。
王城に信じがたい情報が飛び込んできた。
「中央の大砦が打ち破られた、ですって……?それって本当なの?」
「はい、カルカ様。私も信じたくはありませんが……残念ながら」
いつもの密談用の部屋。
そこにはカルカ、ケラルト、レメディオスの三人が居た。
カルカは眉間に指を置き、椅子に深く座っている。
ケラルトはそれを見て目を伏せる。
亜人から国土を守る為に築き上げた要塞線……その重要拠点を亜人達が打ち破ったというのだ。
それは即ち、亜人達の手が本国内にまで伸びるという事。
国民の危機だ。
カルカは国民に被害が出る事を憂いている。
そんなカルカを励まそうと、ケラルトは口を開いた。
「非戦闘員は既に要塞線付近から撤退し、避難しています。被害に遭ったとしても、兵士ぐらいでしょう」
その言葉に、レメディオスが頷いた。
「そうです!カルカ様の悲しむ気持ちも分かりますが、兵は覚悟を持って使命を果たしております!死しても、悲しまれる事はありません」
その言葉を聞き、ケラルトとカルカは少し眉を顰めた。
何の慰めにもなっていなかったからだ。
レメディオスは時折、こういう所がある。
兵士ならば、騎士ならば……命を掛けて国に尽くすべきだ!
死ぬまで戦い、責務を全うし、民を守るべきだ!
──という、思想が当然なのだと思っている。
それは素晴らしい騎士道であり、尊いものであるが……それが出来ないのであれば、怠けているのだと叱責するのは頂けない。
自身の高潔さ、意識の高さを当然のように他人にまで求めてしまう。
それはレメディオスの欠点だ。
しかし、カルカはそれを指摘せずに頷いた。
「そう……ね。落ち込んでいても仕方ないし、そう考えざるを得ないわね。それで、ケラルト。現状は?」
「亜人達は連合を組んでいます。複数種族が協力して、要塞線の砦を破壊して回っていると」
「……そう」
カルカは手を口元へと持っていった。
整った眉を顰めて、頷いた。
そんな彼女に対して、ケラルトは話しづらそうに口を開いた。
「それと……要塞線には、魔皇バアルの姿があったそうです。亜人達を恐怖で支配していた、と敗走した兵が語っています」
「っ……やっぱり、魔皇バアルがいるのね……?」
それに対して、レメディオスが挙手した。
「ケラルト、それが本物だという証拠はあるのか?魔皇を騙る偽物かも知れんぞ」
「姉様、偽物か本物かは関係ありません。偽物であったとしても、亜人を束ねる力があるのですから危険な事に違いはありませんよ」
「……ふむ、それはそうか?」
レメディオスが一旦納得したのを確認して、ケラルトはカルカに視線を向けた。
「しかし、そう亜人達を支配できるような悪魔が沢山居るとは思えません。恐らくは、本物だと思います」
「……でしょうね」
沈痛な面持ちでカルカは目線を伏せた。
そんな中、レメディオスが拳を掲げた。
「ここで話していても仕方ありません!今すぐにでも兵を集め、亜人どもを迎撃しなければなりません!だろう、ケラルト!」
その言葉に、二人は目を瞬いた。
辛い状況、苦しい状況など、これまでにも沢山あった。
ケラルトとカルカは、こんな時、難しいことを考えず率先して行動するレメディオスの単純さに救われて来た。
「……そうね」
「そうですね、姉様」
三人ならば、どんな困難をも乗り越えられる。
そう考え、カルカは表情を引き締めた。
「ケラルト、国家総動員令を出すわ。北部の兵を城塞都市カリンシャに集めてくれる?」
「分かりました。詳細は詰めておきますので……二日程あれば、兵もカリンシャに集うでしょう」
「ありがとう。レメディオスも、聖騎士達に指示できる?」
「勿論です!私達、聖騎士の力をお見せしましょう!」
そうしてカルカは聖王女として、神官団団長であるケラルトと、聖騎士団長であるレメディオスに指示を出す。
「私達も城塞都市カリンシャに向かうわ。支度をして、兵と共に向かいましょう。そこで亜人……それと、魔皇バアルを迎え撃ちます」
不安がないと言えば嘘となる。
カルカもケラルトも、何度も夢で魔皇バアルに敗北している。
だからといって逃げる訳にはいかない。
何もしない訳にもいかない。
それが力を持つ者の責務であるのだから。
罪のない民を守るためならば、恐怖を乗り越えられる。
……そう考えつつも、二人は僅かに不安を感じていた。
いや、予感だ。
このままでは取り返しのつかない事になるかも知れない、という予感。
カルカの内心を察し、ケラルトが口を開いた。
「カルカ様……魔導国に送った助力を要請する手紙なのですが、北部城塞都市カリンシャに移動する旨を追加で送ります」
「……そう、ね。それがいいわね」
内心、その行為に意味がない事をケラルトは知っている。
手紙が届くのに数日掛かり、助力が貰えるとしても更に数日掛かる。
間に合うとは思えない。
そもそも、魔皇バアルという王都を危機に晒した悪魔相手に……他国が手を助けてくれるだろうか?
見ず知らずの、交流もない国のために、命を掛けてくれるのだろうか?
自分ならば、しない。
それこそカルカのような高潔な人間でもなければ。
そう考えつつも、出来ることはすべきだとケラルトは考えた。
「…………」
仄暗い不安と、恐怖が……ゆっくりと背後に迫っている。
そんな気がした。
次回、北部城塞都市カリンシャ。
カルカとケラルトが悪夢見せられているのは、ベリアルがデバフ魔法の解除を忘れて放置している所為(うっかり)
オーバーロードの原作を
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