【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
レメディオス・カストディオは頭を使わない。
頭が硬く、政治に疎く、軍事にも明るくはない。
だが、だからこそ悩まない。
正義とは何か?そう問われれば人は悩むだろう。
しかし、レメディオスは悩まない。
友人であるカルカ・ベサーレスが聖王の座に就いた時に告げられた「弱き民に幸せを、誰も泣かない国を」という言葉を信じている。
正義とはカルカである。
正義とは彼女の信念である。
弱きを守り、悪を討つ。
その為ならば、自身の身はどれだけ傷付いても良い。
それこそが、彼女の“正義”だ。
レメディオスに裏表はない。
心の奥底から“正義”を信じ、戦う事しか出来ない。
頭を使う事は、向いていない。
自身はただ、カルカやケラルトの言葉を信じて戦うのみである。
「はぁあっ!」
レメディオスは雄叫びをあげて、悪魔に剣を振りかぶった。
「<剛撃>!」
「ギャアッ!?」
悪魔は寸断され、気色の悪い体液を撒き散らした。
「ふん……っ!」
悪魔の血を払い、聖剣を鞘に収める。
聖剣……それは聖王国に伝わる四大聖剣の一つ、聖剣サファルリシアだ。
悪を滅する聖なる剣であり、悪しき存在に強烈な損傷を与える聖剣。
対悪魔に対してこれほど有効な武器はない。
聖王国の聖騎士団において、代々受け継がれて来た聖剣であり、当代の聖騎士団長レメディオス・カストディオが持つ最強の剣である。
ちなみに、レメディオスは聖剣の名前を正しく覚えていない。
うろ覚えである。
レメディオスの足元で悪魔は白い煙となって消失した。
地面に付着していた血や、死体は完全に霧散し、そこには何も残らない。
「レメディオス団長、魔皇バアルの所在地が分かりました」
「何だと?」
聖騎士団、副団長であるイサンドロの言葉にレメディオスは視線を向けた。
ここは北部城塞都市カリンシャ。
数時間前、魔皇バアルが都市を襲撃した。
「場所は中央広場です」
「……何処だ?」
「……私が案内します」
その言葉を聞き、レメディオスは背後にいる部下達に目を向けた。
「聞いたな?各員、私について来い!ただし、負傷者は各自の判断で後退しろ!足手纏いになる!」
「「「はいっ!」」」
レメディオスの言葉に聖騎士達が剣を掲げた。
その様子に満足したレメディオスは、副団長であるイサンドロに視線を戻した。
「イサンドロ、他の部隊は?」
「伝令自体は行われています。ですが、中央広場に最も近いのは我々かと」
現在、城塞都市カリンシャに存在する聖王国の部隊は四つ。
カルカが率いる近衛部隊。
ケラルトが率いる神官部隊。
聖王国で雇った冒険者部隊。
そして、レメディオスが率いる聖騎士部隊。
先程まで魔皇バアルの所在が分からなかった為、部隊を分割し、都市部全域の悪魔を逐次掃討していたのだ。
だが、魔皇バアルが発見されたのならば話も変わる。
全ての部隊を集結させて、悪魔の親玉を討つ。
それが最優先事項だ。
「……ならば、我々のみで先に行こう」
「本気ですか!?」
「本気だ」
普段ならば、カルカやケラルト、冒険者……少なくとも、先の二人の合流を待っていただろう。
しかし、レメディオスは魔皇バアルが現れてから、カルカやケラルトが怯えているのを知っていた。
不安を感じている事も知っていた。
ならば、無理に戦わせる必要もない。
先に聖騎士団の面々で向かい、魔皇バアルを討ち取る。
(王国の冒険者でも撃退できたのだ。私に出来ない道理はない!)
それに万が一、魔皇バアルの方が強くとも、カルカやケラルトが来るまでの足止めぐらいは出来る。
魔皇バアルがいつまで中央広場に立ち止まっているかも分からない。
いつ気まぐれに被害を広げるかも分からない。
であれば、まずは聖騎士団だけでも先行すべきだ。
そうレメディオスは考えたのだ。
「イサンドロ、被害を抑えるためにも、我々が先に向かう。それとも、私では勝てないとでも言うのか?」
「……分かりました。分隊長は旗を掲げよ!我々は他部隊より先行し、魔皇バアルの元へ向かう!」
渋々、といった様子で承知したイサンドロの指示により、聖騎士達が建物に登り旗を立てた。
これは、遠くに居る他部隊への連携だ。
予め、四つの部隊で共有していた暗号のようなものだ。
<
「各員!持続時間の長い強化魔法は、移動しながら付与しろ!もたもたするな!いくぞ!」
レメディオスの声に、聖騎士達はの太い雄叫びをあげた。
角を曲がり、街の中を疾走する。
少しずつ血の臭いも濃くなり、空気が重くなる。
(悪魔が何か妙な技を使っているのか……?だが、関係ない!こんなものでは聖騎士は止まらん!舐めるなよ、悪魔ごときが!)
ケラルトとよく似た整った顔を険しくさせ、レメディオスは石畳を踏み抜いた。
その瞬間、視線の先に異形の姿があった。
山羊のような顔、足。
人間のような褐色の手と体。
背中には蝙蝠の翼。
間違いなく、レメディオスが聞いた通りの異形。
魔皇バアルの姿が、そこにあった。
「お前が魔皇バアルか!」
レメディオスは声を上げながら、聖剣を引き抜いた。
そしてそのまま、魔皇バアルの背後から斬りかかった。
しかし──
ガキンッ!
と、まるで金属とぶつかったような音が響いた。
魔皇バアルの身体が尋常じゃなく硬いのか?
硬いからこそ、金属のような音が響いたのか?
いや、違う。
音を鳴らせたのは聖剣サファルリシアの方だ。
魔皇バアルの身体は、少しの衝撃も受けていない。
「くっ!?」
レメディオスは反動を受け流しつつ、後退した。
それと同時に、魔皇バアルが視線を向けてきた。
『いきなり人に剣を振るうとは、躾のなっていないメス猿だ』
悍ましい、不快感と恐怖を煽る目だ。
思わず、逃げてしまいたくなる目だ。
レメディオスは心を強く保つため、魔皇バアルを睨みつけた。
「お前は人ではなく、悪魔だろうが……!珍妙な技で我が聖剣を防いだようだが、次は本気でいかせて貰うぞ!」
『珍妙な技だと?』
心底、何か分かっていないような声色にレメディオスは苛立ちを覚えた。
まるで何の能力も使用せずに、自身の攻撃を防いだかのような言い草だったからだ。
レメディオスは怒りに身を任せ、地面を蹴った。
石畳を砕きながら飛び出し、剣を振り上げる。
「<剛撃>ッ!」
武技を使用した斬撃が、悪魔へと放たれる。
『……ふむ、この程度か?』
だが、それも……金属を弾くような音と共に、防がれた。
反撃されないよう後ろに飛び、距離を取って着地する。
「っ、く……!?」
レメディオスは考える。
何か、不可思議で珍妙なインチキをしているに違いない。
でなければ、こうも聖剣を防ぐ事など出来る訳がない。
『どうした?珍妙な技とやらが破れないのか?』
「っ、ほざけ!」
どうすればいいのか?
レメディオスには分からない。
であれば、全力で武器を振るうのみだ。
このインチキを突破するほどの強力な一撃を加えればいい。
レメディオスは考える事を放棄し、即座に行動した。
「はぁぁあッ!!」
レメディオスは雄叫びをあげて、聖剣を掲げた。
剣に光が満ちて、剣身が伸びる。
聖剣サファルリシアが日に一度のみ使用できる聖なる波動だ。
この光は悪を滅する力を持ち、悪しき者ほど光が強く輝いて見える。
レメディオスには大した光には見えないが、魔皇バアルの目には焼けるほど強い光に見えるだろう。
光は防御を無視する力を持つ。
どんなに硬い鎧だろうと、毛皮だろうと、魔法の防御だろうと貫通する。
つまり魔皇バアルがどれだけ強かろうと、確実に命に届く一撃となる。
「だぁああッ!!」
怒声と共に、レメディオスは聖剣を振るう。
光を放つ聖剣は、吸い込まれるように魔皇バアルへと振り下ろされ──
『何だ?見掛け倒しか?』
手のひらで、受け止め、られた。
「……な、に……?」
悪に絶対的な特攻を持つ聖剣が、ただまるで子供の振るう棒切れのように受け止められたのだ。
「く、このっ!」
レメディオスは聖剣を押し込もうとした。
だが、少しも剣が魔皇バアルに届く事はない。
「クソっ……チッ!離せっ!」
レメディオスは聖剣を引き抜こうとした。
だが、聖剣は魔皇バアルに握られたままだ。
「こ、のぉ……!」
押す事も、引く事も、どちらも出来ない。
『フフ、ではお望み通り離してやろう』
突然、魔皇バアルが聖剣を手放した。
「っ、あ!?」
聖剣を引き抜こうとしていたレメディオスは、勢いの余り地面を転がり壁へと激突した。
身体の中に残っていた空気が吐き出され、咽せる。
『無様なものだ。これで聖騎士団の団長とは……猿山の主の方がまだ賢いぞ?』
「き、きさ、ま……ぁっ!」
怒りに満ちたレメディオスの元に、足音が響く。
「レメディオス団長!」
それは副団長のイサンドロだ。
レメディオスが勝手に突っ走った所為で、置いてけぼりにされていた聖騎士団の面々だった。
瞬間、レメディオスは魔皇バアルの視線に気付いた。
侮るような、馬鹿にするような目に。
「……っ!」
レメディオスは即座に立ちあがり、剣を構えた。
そして、聖騎士達に視線を向けた。
「全員、援護……いや、包囲しろ!魔皇バアルが逃げないよう、大きく包囲だ!」
この悪魔相手に、聖騎士達は有用だろうか。
否、最強の聖騎士であるレメディオスの攻撃が通らないのであれば、一般の聖騎士では役にも立たないだろう。
レメディオスの声を聞き、聖騎士達は即座に距離を取り魔皇バアルを取り囲んだ。
レメディオス自身も立ち上がり、距離を取る。
レメディオスは思考する。
魔皇バアルはどんな手を使っているのかは分からないが、物理攻撃に絶対的な耐性がある。
聖騎士団では有効打を与える事が出来ない。
故に、自分を含めた聖騎士達を囮にする事にした。
時間を稼ぎ、カルカやケラルトが合流するのを待つ。
それが得策だ。
『逃げる?俺に傷一つすら付けられぬ羽虫どもから、俺が逃げるだと?ハハハハハハハ、笑える冗談だな』
魔皇バアルの笑い声に顔を顰めていると……更に援軍の足音が聞こえた。
レメディオスは視線を向けた。
そこに居たのはケラルトの率いる神官団と、カルカが率いる近衛達だった。
道中で合流したのだろう。
そう判断し……直後、レメディオスは口を開いた。
「二人とも!こいつは強い……!兵を下げろ!無駄な死人が出る!」
その言葉にケラルトとカルカは頷き、神官と近衛兵を聖騎士団の包囲網に合流させ、自らはレメディオスの横にまで来た。
そして、カルカはレメディオスを睨んだ。
「レメディオスっ、先に戦っていたの……!?どうして……!?」
小声で叱るカルカへ、ケラルトが口を挟む。
「カルカ様、それは後にしてください……魔皇バアルの前ですから」
そう口にして、ケラルトは魔皇バアルを見た。
途轍もない威圧感と、内心から現れる恐怖に……思わず、一歩引いていた。
だが、それに対してカルカは表情を引き締めて……魔皇バアルへと一歩前に出た。
◇◆◇
カルカは一歩前に進み、恐怖心を必死に抑え込み……魔皇バアルと向き合った。
「貴方が魔皇バアル、ですね?」
『そうだ。自己紹介は必要か?』
「……いえ、必要ありません」
カルカはよく知っていた。
吐き気がするほど、同一の姿をよく知っていた。
カルカとケラルトは、夢に見ているからだ。
この悪魔に蹂躙される夢を見ているからだ。
『だろうな。俺とお前の仲だ、よぉく知っているだろう』
下卑た表情に、カルカは背筋をなぞられるような嫌悪感にかられた。
「……っ!やはり、あの夢を見せていたのは貴方だったのですね!?」
カルカの言葉に、背後のケラルトが身体を震えさせた。
対して、レメディオスは……何のことか分かっていないので、不思議そうな顔をしていた。
そんな三人に対して、魔皇バアルの山羊の顔が卑しく笑った。
『そうだ。薄々は分かっていただろう?』
「何のために……!あんな夢を!」
カルカは内心、怒りに満ちていた。
自分が汚される夢を見る……それが不快なのは確かだ。
だが、それ以上に……友人であるケラルトに酷い夢を見せた事が許せなかった。
『気持ちの良い、いい夢だっただったろ?ああいうのが好きなんだろ、聖王女サマ?寧ろ、感謝して欲しいぐらいだ』
「黙りなさい!あんな夢を毎晩のように見せられて、気分が良い訳がないでしょ!」
カルカは拳を胸元で握りしめて、声を荒げた。
ケラルトは身の回りに男っ気のない、仕事人間だ。
しかし、彼女は神官団の団長である前に女だ。
人並みに恋をしたいと語っていたのを、カルカは知っている。
恋を諦めて、カルカを立てる為に身を捧げている事を知っている。
だからこそ、許せない。
人の尊厳を踏み躙るこの悪魔は──
『……毎晩?』
魔皇バアルが呆けたような声を出した。
人を小馬鹿にしているのだと、カルカは察した。
後ろで震えていたケラルトも、顔を強張らせて、神官用のメイスを強く握っていた程だ。
「貴方の蛮行はここまでです!ここで私達が討ちます!天使隊、前に!」
瞬間、聖騎士や神官の包囲網……その背後から、召喚されていた天使が姿を現した。
カルカが気を引いている内に召喚するよう、あらかじめ神官達に指示していたものだ。
召喚された天使が羽をはためかせて、頭上へと舞い上がる。
『……っ、ふむ。なるほど、俺の気を引くための戯言だったか』
第二、第三位階の魔法によって召喚された天使が二十五体。
そして、カルカが第四位階魔法で予め召喚し、姿を隠していた
天使達は悪しき者に特攻を持つため、悪魔に対しては位階相当以上の力を持つ。
これだけの数が揃えば、どれだけ上位の悪魔だろうと討ち滅ぼせるだろう。
「ケラルト!」
「神官団、援護!」
ケラルトが声を上げれば、神官達の強化魔法が天使へと向かう。
「総員、攻撃!」
カルカの指示で天使が各々武器を構えた。
悪魔を滅するべく、聖なる力をまとった天使達が、魔皇バアルへと殺到して──
『邪魔だ』
尻尾の一振りで、その全てが霧散した。
◇◆◇
「…………え?」
声を上げたのは、カルカかケラルトか。
それとも神官達なのか。
レメディオスは目を見開いた。
文字通り、そこには何も残っていない。
天使など元から居なかったと誤認してしまうほど、何も残っていない。
『つまらん。今のが貴様らの切り札か?』
まるで砂埃でも払うように、たった一度の攻撃で全滅した。
その事実が受け入れられず、カルカもケラルトも、聖騎士も、神官も身体を硬直させていた。
誰も彼もが、この悪魔には勝てないのだと絶望していた。
──ただ、一人を除いて。
「ああああぁぁあッ!!!」
レメディオスは駆け出していた。
怯懦を振り払う為に意味を持たない声を振り絞り、剣を強く……強く握り締めて。
諦めるなんてあり得ない。
例え、どれだけ勝ち目が薄くとも、ここで負ければ聖王国は滅びるのだ。
絶望しても、恐怖しても、動かなければならない。
弱き民に幸せを、誰も泣かない国を。
その正義を、信念を守るため、レメディオスは魔皇バアルへと剣を振り上げて──
「でやぁぁああああッ!!!」
全ての力を振り絞り、全ての心を込めて、剣を振り下ろした。
それを魔皇バアルは避けも、防ぎもしなかった。
ガキンッ!!
と、先程と同様に弾かれた。
笑えるほど無様に、情けなく、レメディオスは地面へ転がった。
あまりにも大きな隙を晒したレメディオスは、慌てて頭上を見上げた。
魔皇バアルの視線はレメディオスへと向いていなかった。
追撃する事もなく、ただ無視をしていた。
その視線の先には──
親友と、妹の姿が。
「っ!お前達!何をしている!こいつの狙いはカルカ様とケラルトだ!」
レメディオスの言葉に、聖騎士団は我に返った。
武器を構えて、魔皇バアルの前へ立ち塞がる。
合わせて、レメディオスも跳ね起きて、剣を構えた。
それに魔皇バアルは感心したような声をあげた。
『ほう?立ち向かってくるか。互いの力量差は明確だが……随分な勇気をお持ちのようだ』
悪魔に褒められても、ほんの少しも嬉しくはない。
レメディオスは言葉を無視して、聖騎士達と合流した。
「総員、攻撃!二人が逃げるまでの時間を稼ぐぞ!死んでも食らいつけ!」
「「はい!」」
レメディオスの声に合わせて、聖騎士達が前へと足を進めた。
同時にレメディオスは、カルカとケラルトを守るように前へと立った。
「二人とも逃げろ!ここは退け!」
「で、でもレメディオス──
「良いから行け!ケラルト、カルカ様を無理矢理にでも連れて退け!」
余裕がないレメディオスは尊敬する主君を怒鳴り、妹へ指示を出した。
その剣幕にケラルトは決心し、頷いた。
「……っ、分かりました!姉様、ご武運を!」
「ちょ、っと、ケラルト!?」
瞬間、ケラルトはカルカの腕を掴み後退し始めた。
レメディオスは考えた。
普段はあまり考えないというのに、知恵を振り絞った。
魔皇バアルは強い。
強すぎる。
勝てる訳がない。
ならば、ここで二人を逃す。
三人で無駄死にするぐらいなら、二人を逃がしてここで死ぬ。
少しでも時間を稼ぎ、死ぬ。
未来のために死ぬ。
それならば意味のある死だ。
レメディオスは自身を、ただ強いだけの女騎士だと自覚している。
だが、二人は違う。
カルカは聖王女であり、誰にでも好かれる存在だ。
ケラルトは神官団の団長でありながら、政治にも詳しい。
これからの聖王国に必要な存在だ。
だからこそ、ここで死なせてはならない。
戸惑うカルカを引っ張るケラルトの背中を見て……視線を魔皇バアルへと戻した。
視線を二人に向けていた一瞬で、聖騎士達は紙屑のように吹き飛んでいた。
その事実に歯を噛み締めて、聖剣を構えた。
「いくぞ!魔皇バアル!お前の相手は私だ!」
大きく声を上げて、石畳を踏み抜いた。
自身の攻撃が魔皇バアルに届かない事を、レメディオスは自覚していた。
だが、それでも……戦わなければならない。
ほんの少しでも時間を稼ぎ、二人が逃げられるようにする。
そのために、その身も心も力も搾り出すつもりだった。
「はぁあああああッ!!」
怒声を上げながら、レメディオスは地面を蹴り──
『うるさい。邪魔だ』
直後、レメディオスの視界は高速で回転し……身体中に撃痛が走り、暗転した。
何が起きたのか理解する間もなく、ただ意識を失ったのだった。
◇◆◇
焼け爛れる街の中、ケラルトは目を見開いた。
魔皇バアルの腕の一振りで、姉が……レメディオスが吹っ飛ばされた。
地面を三度跳ね返り、民家の壁を突き破り、隣の民家に転げ落ちた。
幾ら頑丈な事が売りであろう姉でも、重傷は逃れられない。
「姉様……!?そんなっ!?」
聖王国最強の聖騎士、聖騎士団長レメディオスは……魔皇バアルの攻撃、たった一撃で戦闘不能となったのだ。
その事実は、何よりも恐ろしい。
今見えた景色は魔皇バアルから、毎晩のように見せてくる夢とそっくりだった。
それが、恐ろしい。
何故ならそれは、つまり。
これから、夢で見た事が起こるという事だからだ。
「〜〜〜っ!」
ケラルトは言葉にならない声を漏らした。
張り詰めていた心が砕けそうだった。
それでも親友を、主君を、カルカを守るため、腕を前へと突き出した。
「<
瞬間、ケラルトの手から光が放たれた。
それは魔皇バアルへ直撃したが……全くの無傷だった。
それは夢で見た通りの、結果だ。
『無駄だと分かっているだろう?神官団の団長よ』
そう言いつつ、魔皇バアルはケラルトの目前まで転移した。
「なっ──
『邪魔だ』
瞬間、魔皇バアルが腕を振るった。
人類最強格の肉体を持つ姉に致命傷を与えた一撃。
ケラルトは咄嗟に防御魔法を最大限まで使用したが……自身の身すら守りきれず、吹き飛ばされた。
「きゃぁあっ!?」
そのまま壁に衝突し、地面へと転がった。
骨は折れていないようだが……ひびが入っていそうだ。
体の内側から鈍い痛みが発生している。
思わず涙が滲む。
それは痛みからか、恐怖からか、ケラルトには分からなかった。
「ケラルトっ!?」
愛する主君の悲鳴に、顔をあげる。
全身が痛いが、それでも……カルカを守らねければ、と力を振り絞る。
だが、ケラルトがそうしている間に、魔皇バアルはカルカの目の前まで来ていた。
「あ……ぁ……い、いや……」
カルカが怯えたような声を出した。
これから自分に起こる事を理解して、それでも身動きが取れない程に恐怖しているのだ。
直後、魔皇バアルが腕を伸ばし……その巨大な手でカルカを握り、持ち上げた。
「い、いや!離して!」
『駄目に決まっているだろう?これから愉しむのだからな』
「た、たのし……っ!?」
『夢と同じ事をしてやる、と言っているんだ』
「ひ、っ……!?や、やめなさい!やめ、やめて!」
『やめろと言われて、やめる悪魔が居ると思うか?』
子供のように泣き噦る聖王女の……親友の姿を見て、ケラルトは倒れながらも手を正面へと向けた。
「……く、カルカ様……っ!<
ケラルトの手から光が放たれ、魔皇バアルへと直撃する。
やはり、少しも傷付いて居ない。
だが、全くの無意味という訳ではない。
魔皇バアルは少し苛立った様子で、ケラルトを見ていたからだ。
『そうか、そんなに俺と遊びたいのか?良いだろう……お前は先に、夢と同じ末路へ向かうが良い。<
魔皇バアルが発動した魔法により、醜悪な小型の悪魔が複数召喚された。
『ギャギャ!』
『ギャハハハハ!』
それらはどれも子供程度の大きさだったが……その体躯に見合わぬ、巨大で醜い陰茎を生やしている。
夢で見たものと全く同じ、醜悪な淫魔だった。
「ひ、ぃっ……!」
瞬間、ケラルトの内心に隠していた感情が爆発した。
それは……恐怖だ。
これから自分に起こることを、ケラルトはよく知っていた。
あの小型の淫魔に嬲られ、犯されるのだ。
『行け、淫魔ども』
「い、いや!来ないでっ──
『その女を徹底的に犯せ。心が折れるまでな』
魔皇バアルの言葉に、淫魔達が飛び出した。
ケラルトの元へと涎を垂らして、迫ってくる。
「ひ、っ……!?」
夢の中ならば、ケラルトは抵抗していた。
魔法を使用して、無意味な抵抗をしていた。
だが、今は無理だ。
ケラルトの中に“戦う”という選択はもう、とっくに無くなっていた。
あるのは恐怖と、後悔だけだった。
『ギギギッ!』
淫魔達は下卑た笑い声をあげながら、ケラルトへと飛び掛かってきた。
そのまま腕を掴んで押し倒してくる。
「は、離しなさいっ、こんな離しな……やめて……!」
ケラルトは懇願していた。
下等な淫魔に怯え、恐怖のあまり懇願していた。
この地獄から解放して欲しいと……。
『ギャハハハハッ!』
『ギギギギッ』
そんなケラルトを淫魔達は嘲笑う。
四体の淫魔は各々、ケラルトの手足を掴んで拘束した。
そして、召喚された淫魔は五体だった。
残りの一体は──
ビリビリっ、とケラルトの服を剥ぎ始めた。
「やだ!いやっ!やめて!いやなの!これ、嫌なのっ!」
怯える声は、淫魔達にとって逆効果だった。
より愉しみ、より嬉しそうにケラルトの服を剥いだ。
胸元と秘部が無理矢理に露出させられるが、手足は拘束されているため隠す事もできない。
(また夢と同じ結末なの……!?)
ぐりぐりと地面に押さえつけられ、頭を押さえつけられる。
淫魔の下卑た笑みを浮かべて、身体を舐め回すように視姦してくる。
(そんなの嫌……!こんな気持ち悪いのに犯されたくない!誰か、助けを──
視線の隅に、地面に転がるレメディオスが見えた。
血を流し、気を失っている。
頼みの綱であった姉は戦闘不能であり、カルカは悪魔に拘束されている。
そんな状況で、何が出来る訳もなく。
「助けて……!誰か……助けて、誰でも良いから!誰か、助けて……!」
助けが来る訳がない。
例え、助けに来たとしても、目の前の悪魔に勝てる訳がない。
だから、これは祈りだ。
不特定の誰か。
この最悪な状況を打破してくれる誰か。
その誰かへの祈り──
「ケラルトっ、そ、そんなっ……!?」
『情けない。見ろ、聖王女カルカ……お前の友人が犯される無様な姿を!』
愚弄され、囲まれ、叩かれ、嘲笑れる。
夢で見た地獄と同じだ。
あの地獄が現実まで来てしまったのだ。
淫魔の涎が肌にかかる。
犯されるのも時間の問題だろう。
(誰か……助けて……っ、誰か……!)
直後、淫魔は腰巻を脱ぎ、凶悪な陰茎を露出した。
気色の悪い光景に、ケラルトは目を閉じた。
(誰でも良いから、助けて……!)
「……何とか間に合ったか?」
頭上から男の声が聞こえた。
ここでは聴こえる筈のない、恐怖を感じない希望に満ちた声が。
「ぇ……?」
震える瞼を開けば……そこには、黒いジャケットを身につけて、赤い宝石のような剣を持つ美丈夫が……淫魔達の死体を踏みつけて、立っていた。
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