【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
亜人達によって支配された小都市。
そこは亜人達の食糧庫となっていた。
つまり……人間が収容されている場所、という事だ。
都市プラート奪還を目標にしている奪還部隊は、プラートに到着するまでの間に、小都市を奪還する事に決めていた。
目的は奪還した小都市で食料や、薬など消耗品を補給する為である。
カリンシャでの対悪魔戦で消耗した食糧や薬、武器についてはカリンシャの備蓄である程度は補給できた。
しかし、“ある程度”である。
満足のいく状況とは言い難い。
その為、手薄な小都市を奪還し、消耗品を補給……そして、あわよくば民兵を仲間にして戦力を増強しようとしていた。
レメディオスはその内容を聖騎士団の副団長、イサンドロ・サンチェスから伝えられていたが……あまり詳しくは理解していなかった。
ただ、目的地までの道中で苦しむ人々を解放するという事については、レメディオスも賛成の意思を示していた。
そうして、レメディオス達、都市奪還部隊は小都市まで移動し……夜間に襲撃を掛ける事にしたのだ。
レメディオスを含む一団は馬に乗り、夜に紛れて小都市へと接近していた。
そこには魔導国から来ているベリアルとナーベの姿もあった。
レメディオスは少し胡散臭く感じながら、視線を逸らした。
どうにも、レメディオスは二人……特にベリアルのことを胡散臭いと思っていた。
レメディオスは自身の嗅覚を信じている。
獣のような勘が、嘘を吐いていると確信している。
しかし、その嘘が何かは分からないが。
(まさか……魔皇バアルと繋がっているのではないか?)
レメディオスの勘は鋭い。
しかし、その疑念を裏付けさせるための情報収集の方法も、駆け引きも、何も分からないので宝の持ち腐れだった。
(いや、今はこの戦いに集中すべきだ。民を解放せねば!)
そして頭を使う事を止めて、レメディオスは槍を掲げた。
「行くぞ!」
レメディオスの声に反応し、一団は小都市へと駆け出した。
神官は天使を召喚し、城壁を陣取る亜人達に奇襲をかける。
亜人……その小都市を占領している亜人はバフォルクと呼ばれる亜人だった。
山羊のような顔と足を持ちながらも、人間のような形をした亜人。
それがバフォルクだ。
鎧のような剛毛で身を包み、崖すらも踏破する足を持つ。
そして、バフォルクには知性もある。
槍を持ったバフォルクは強襲した天使に驚きつつも、槍を振り回している。
しかし、そこに技量は存在しない。
空を舞う天使に右往左往している。
ただ、バフォルク相手に天使の攻撃は致命傷となっていない。
天使の聖なる攻撃は、悪魔に対して特効があるのだが、亜人にはただの魔法攻撃でしかない。
しかし、それはレメディオスにも分かっている。
正確には副団長のイサンドロが、なのだが。
天使の強襲、その目的は撹乱。
本命は聖騎士達による城壁の破壊である。
「今だ! 行け! 行け!」
レメディオスが指示すれば、破城槌……とは名ばかりの、尖らせた丸太が姿を現した。
都市間の移動をしている最中に伐採した作り立ての破城槌である。
そんな破城槌を複数の聖騎士が囲んで持ち上げ……そのまま城壁の門を破壊せんとぶつけ始めた
ミシリ、という音が響き、城門が歪む。
このまま、あと何度かぶつければ突破できるだろう。
そう考えていたレメディオスは……頭上からバフォルクの雄叫びが響いたのを感じ取った。
「っ、来たか!」
破城槌を持つ聖騎士を妨害しようと、バフォルクが城門から飛び降りる。
そんなバフォルク相手に破城槌を持たぬ聖騎士達と神官が迎撃を開始する。
レメディオスも、破城槌部隊を守るべく、剣を引き抜きバフォルクへと飛びかかった。
「死ねぇっ!」
「ギャァアッ!?」
人間の鎧に相当するバフォルクの毛皮を、レメディオスは難なく両断した。
血飛沫が飛び散り、レメディオスの鎧を汚す。
しかし、それを気にせず、レメディオスは次のバフォルクへと攻撃した。
聖王国の民を脅かす“悪”を斬る。
何も考えず、ただ敵を討つ。
それによって弱き民が泣かなくて良い世界を作れる。
この瞬間、レメディオスは最も理解しやすい解答を熟すだけの戦士になれる。
「ウギャアッ!?」
レメディオスがもう一体のバフォルクを寸断した所で──
「下がれ! 人間ども!」
城門の上から、バフォルクの大きな声が響いた。
苦し紛れの命乞いか?
そう考えて、レメディオスは視線を上げたが……そこにはバフォルクが“何か”を持ち上げて立っていた。
その何かは──
「な、っ……!?」
人間の少女だった。
まだ幼い十歳にもなっていないであろう少女の首を、バフォルクは掴んでいた。
生きているが、正気ではない。
虚な目でなされるがまま揺すられている少女。
そんな少女の首元に、バフォルクが刃物を押し当てた。
「下がれ! 下がれ人間ども! 下がらねば殺すぞ!」
その声にレメディオスは事の重大さに気付いた。
「っ、卑怯者めっ!」
怒りのまま、大きな声で罵る。
聖剣を握る手の力が強くなる。
そんなレメディオスをバフォルクは見下し、吠える。
「うるさい! 下がれ! 脅しではないぞ!」
バフォルクが刃物を少女へと押し当てた。
すると少女の首から血が、少し垂れた。
その瞬間、レメディオスは歯を食いしばった。
何という卑怯か、何という下劣か。
子供を盾にするなど、正に悪魔の所業だった。
しかし、今……その憤りを持ってしても、対抗策はレメディオスに思い浮かばなかった。
「……総員、下がれ! 一時撤退する!」
兎に角、今はバフォルクを刺激しないよう下がるしかなかった。
レメディオスの言葉に聖騎士も、神官も後ろへ下がる。
そんなレメディオスに対して、バフォルクは歪んだ笑みを浮かべた。
「ははは! そうだ! 下がれ! もっとだ!」
そうして更に下がり……破城槌も捨てて、聖騎士達は後退した。
もう少しで城門を突破できる……その優位性を捨ててまで。
そんな指示をしたレメディオスに向かって、イサンドロが声を上げた。
「団長! どうしますか!」
「っ、くっ! 私に聞くな! お前も考えろ!」
レメディオスはイサンドロを怒鳴りつつ、奥歯を噛んだ。
どう対処すれば良いのか分からない。
人質を無視すれば……確かに、城壁は破壊できるだろう。
しかし、あの少女は間違いなく死ぬ。
「くそぉ……っ、卑怯な……!」
それは、それだけは……避けなければならない。
人質を無視して勝利を得ようとする行為は、レメディオスの信念……即ち”正義“に反する行為だからだ。
この国の全ての民が安らかに生きられること。
それがレメディオスの信じる正義であり、民を愛する聖王女カルカの願いなのだ。
「レメディオス団長……ここは決断を」
イサンドロの言葉に、レメディオスは顔を歪めた。
聖騎士団には副団長が二人居る。
今この場に居るイサンドロと、首都ホバンスに待機させていたグスターボ。
後者であればレメディオスと共に躊躇っていただろう。
しかし、イサンドロはグスターボに比べて現実主義者だった。
故に、今この状況で時間を掛ける事は愚策だと理解していた。
時間を掛ければ、バフォルク達に体勢を立て直す時間を与えてしまう。
だからこそ、今、あの人質を見捨てる決断をレメディオスに迫ったのだが──
「……っ、それはダメだ!」
「レメディオス団長……っ」
「忠義を果たすべき主君の願いを叶えるべく、最後まで努めるのが聖騎士だ! この場で幼い少女を切り捨てて、カルカ様に誇れるのか!?」
「……しかし、このままでは」
「それとも何だ! カルカ様の願いが間違っていると言うのか!?」
「いえ、ですが……」
レメディオスは自分が熱くなっている事に気付いていた。
今、この場で現実を見据えているのは自分ではなく、イサンドロである事も。
しかし、自分の中にある正義を裏切る事が出来なかった。
千を救うために一を見捨てる。
それは正義だ。
しかし、それでも……千も、一も救いたい。
どれだけ困難であったとしても、途方もない無謀だったとしても……そう願わずにはいられない。
そんな、レメディオスの後ろから──
「レメディオス殿、何があった?」
少し離れた集団から合流した、ベリアルとナーベの姿があった。
一瞬、何をしていたのか! と声に出そうになったが……レメディオスは飲み込んだ。
この二人に対する不信感から、レメディオスは前線から離れるように配置していたのだから。
一つ息を呑んで、レメディオスはベリアルに目を向けた。
「……人質だ。まだ幼い子供だ。亜人は、我々が下がらねば殺すと脅している」
簡潔にそう伝えると、ベリアルは頷いた。
「なるほど、それで? どうするつもりだ?」
「どうもこうもない。人質を救う、亜人どもを殺す……それだけだ」
そう言い切ったレメディオスに対して、ベリアルは片眉を上げた。
「俺は方針を訊いているんじゃない。方法を訊いているんだ」
「…………」
答えられない。
答えられる訳がない。
「何も思い付かないのか?」
「っ、だったらなんだ! 子供を見捨てろと言うのか!?」
「そうだ」
「お前っ──
ベリアルの言葉に、レメディオスは胸倉を掴もうとして──
「ゔッ!?」
その横にいたナーベに腕を掴まれた。
万力のような力で握り締めるそれは、
「
しかし、レメディオスが真に恐れたのは力ではない。
だが、このナーベの目、その気迫にレメディオスは気圧された。
怒りに満ちた視線は、それだけで人を殺せるかのような殺気に満ちて──
「いい、離してくれ。ナーベ」
「ですが……」
「今のは俺の失言だった。レメディオス殿が怒るのも仕方がない」
「……申し訳ありませんでした。ベリアル様」
レメディオスの腕を解放し、ナーベは謝罪した。
しかし、謝罪したのはベリアルに対してだ。
腕を掴んでいたレメディオスには、依然として厳しい目を向けている。
そんなナーベを不気味に思いつつ、怒りも静まりつつある心境でレメディオスはベリアルへと目を向けた。
「俺はレメディオス殿の……いや聖王国の掲げる正義を否定するつもりはないんだ」
「……ならばっ──
「しかし、力不足だ。無力は選択肢を減らし、進むべき道を減らす。レメディオス殿に力か……いや、この場を打開する知恵があれば、人質を救い、バフォルクを討つ事も出来ただろう」
「わ、私が力不足だと……!?」
レメディオスは怒りに満ちた目で、ベリアルを睨んだ。
しかし、もう当初の勢いは無かった。
自身の力では、人質を救う事はできない。
自身の知恵では、人質を救う事はできない。
だからこれが図星なのだと、理解はしていた。
それでも尚、怒りはしていたが。
そんなレメディオスに、ベリアルは目を細めて頷いた。
「そうだろう? 確かに聖王国の、聖王女陛下の願いは尊い。だが、その願いを遂行出来る力がなければ、その正義は無力だ」
「……っ」
レメディオスは黙って、拳を握りしめた。
皮の手袋が軋むような音がした。
そして、ベリアルに視線を戻した。
「では、どうすればいい! 私は何をすれば良い!」
「答えは単純だ。自分に出来ないのであれば、妥協した選択肢を取るしかない。人質を見捨てて、大勢を救う。それが最善の選択だろう? 副団長殿」
ベリアルがそう言いつつ、イサンドロへと視線を向けた。
突如、剣呑な雰囲気の中、話に巻き込まれたイサンドロは少し戸惑ったが……凡そ、ベリアルの言葉は正論だった。
「っ、はい。そうです、ベリアル殿……!」
イサンドロが頷いたのを見て、レメディオスは思わず舌打ちをしそうになった。
副団長ならば団長を肯定すべきだと思ったからだ。
しかし、反論できない。
大勢を救う為に、少数を犠牲にする。
その正義は、聖王女の願いに反する。
何としても避けなければならない。
だというのに、反論できない。
己の無力さを噛み締めて、不条理に怒り……レメディオスは決断を──
「もしくは、だ」
ベリアルが小さく指を鳴らした。
その音に反応し、レメディオスは顔を上げた。
「レメディオス殿に出来ないのであれば、出来る人間に頼るという選択肢もある」
その言葉の意味に、レメディオスは片眉を上げた。
「……どういう事だ?」
何を言っているか分からなかったからだ。
しかし、そんなレメディオスの仕草に男は首を傾げた。
「……ん? 言った通りだが? 出来ない事は出来る人に頼めば良いだろう?」
「……つまり、どういう事だ?」
当たり前のようにベリアルは言うが、レメディオスには分からない。
しかし、イサンドロは理解していたようで……レメディオスに「こいつマジか」という目線を向けた後、ベリアルに視線を戻し口を開いた。
「可能なのですか? ……ベリアル殿には」
「もちろん可能だ」
ベリアルの言葉に、レメディオスはいよいよキレた。
散々、力不足だの、無理だの、仕方ないだの言われた挙句、自分には出来るんだけどね……なんて言われたのだ。
「お前! なら何でさっさと言わない!?」
「可能ではあるが、恐らく聖王国は忌避するような手段になるからだ」
レメディオスは片眉を上げた。
聖王国が忌避する方法というのが何か、さっぱり思い付かなかったからだ。
イサンドロも訝しんだ。
“レメディオスが忌避するような手段”ではなく“聖王国が忌避するような手段”だと言ったからだ。
それはつまり、イサンドロも忌避するであろう手段だとベリアルは言っているのだ。
イサンドロが問い掛けを躊躇う中、レメディオスが先に口を開いた。
「……教えろ。何をすればいい?」
「いや、聖騎士達に何かをさせるという話じゃない。俺がする事を忌避するだろうってだけだ」
尚更、分からない。
困惑する二人にベリアルは指を立てた。
「聖王国の神官が天使を召喚するように、俺も“隠密行動に長けた悪魔“を召喚できる」
「悪魔、だと!?」
レメディオスは目を見開いた。
悪魔の召喚……それは一般的な
悪魔召喚に長けた術者とは即ち、邪悪な存在だという事だ。
悪魔を召喚すれば、魂が穢れる。
魂が穢れると、性根が腐る。
それが常識だ。
それに……聖王国を襲っている魔皇バアルも悪魔だ。
そんな悪魔を召喚し使役するなど、到底許し難い事だった。
「ほら、二人とも……俺の出した選択肢には忌避感があるだろう? だから提案しなかった訳だ」
ベリアルの言葉にイサンドロは気付いた。
最初に提案されていれば、レメディオスもイサンドロも反感を持ち、訝しんでいただろう。
だが、レメディオスの意見を否定し、他の選択肢が不可能だと教えられた今ならば……頭ごなしに否定できない。
その為に、徹底的にレメディオスの意見を否定したのか……とイサンドロは驚愕した。
そんなイサンドロとは全く別の事を、レメディオスは考えていた。
悪魔を召喚できる者は悪だ。
やはり、このベリアルという男は悪だったのだ。
だがしかし、それでも……。
「……その悪魔を使えば、人質は解放できるんだな?」
「団長!?」
イサンドロは驚愕した。
正義を誰よりも信じているレメディオスが、悪魔を許容するような発言をしたからだ。
「ん? あぁ、人質を解放できる。バフォルクの掃討までは出来ないが」
「それは我々が行う……頼めるか?」
イサンドロはその判断に口を挟まなかった。
このどうしようもない現状を打破出来るのであれば、もう悪魔でも何でも良かったからだ。
しかし、その思い切りの良いレメディオスに、ベリアルは少し驚いていた。
「……構わないが、良いのか?」
「良い。それで皆が救えるのならば……さっさとしろ」
レメディオスの言葉にベリアルは何度か目を瞬いて、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「分かった。なら、お言葉通り、さっさと始めるとしよう」
ベリアルの手から魔法陣が生まれた。
その様子をレメディオスは、眉を顰めながら見ていた。
◇◆◇
俺はレメディオスを、見くびっていたのかも知れない。
彼女の事を正義感が強過ぎる所為で、周りが何も見えていない女だと思っていた。
だからこそ、先にレメディオスの意見を潰して、俺の提案を押し通すことにしたのだ。
そうする事で副団長のイサンドロを納得させ、こちらの意見を説得させるよう仕向ける事が出来るからだ。
幾らレメディオスが反発しても、俺の出した選択肢しかないのであればイサンドロに説得されるだろうと。
そう考えて、憎まれ口も叩いたし、挑発もした。
レメディオスが取り乱せば取り乱すほど、冷静に語る俺の意見の方が説得力があるように見えるからだ。
そんな真似までして、俺の意見を押し通そうとしたのだが──
存外、レメディオスは俺の意見を受け入れた。
悪魔を召喚するという、聖王国では禁忌とされている手を黙認したのだ。
それは俺の予想外だった。
悪魔の召喚は確かに、人間に悪影響を及ぼす。
偏見でも何でもない。
本当の邪法だ。
何故なら、カルマ値が下がる……この世界の言葉で言うなら「魂が穢れる」からだ。
人の善性はカルマ値に影響を受ける。
カルマ値の高いセバスやユリ・アルファが、人間に対して友好的で善良であるように。
カルマ値の低いデミウルゴスやナーベラルが、人間に対して敵対的で凶悪であるように。
であれば、悪魔召喚に熟達した人間とは即ち、極悪人である事に間違いはない。
善良な人間も、悪魔を召喚し続ければ悪人になるのだから。
聖王国が忌避するのも仕方がない。
……ま、俺は元々、カルマ値が低いから、悪魔召喚程度で悪影響などないのだが。
とにかく、そんな方法をレメディオスが許諾するとは思わなかった。
というか今も──
「…………」
まだ、納得はしていないようだし。
顰めっ面だし。
だがレメディオスは、そんな納得のいかない事に喚く事もなく、ただ受け入れている。
聖王国の、聖王女の……その願いを後押しするという誓いを果たすために。
俺に散々言われて、己の無力に憤り、それでも、俺の言葉に納得したのだ。
……もっと、聞き分けが悪いと思っていた。
だが、いや、そうか。
俺の知っているレメディオスは、カルカが目の前で凄惨な姿にされて、妹も連れ去られ、焦っているレメディオスだ。
今、確かにカルカは昏睡しているが生きている。
ケラルトに至っては全くの無事だ。
だからまだ、ほんの僅かだが余裕があるのだろう。
人の意見を聞き入れる余裕が。
「……さて、と」
可愛いと思ってはいたが、いやはや、中々。
「<
俺の手から魔法陣が離れて、宙に浮いた。
亜人であるバフォルク達から見えない程度には退いたつもりだが、一応は見えないようコソコソとやらないとな。
そうして魔法陣から、悪魔が召喚された。
それは人間が凡そイメージする悪魔のような姿ではない……光を一切反射しない真っ黒な蛇だった。
その大きさは普通の蛇と変わらず、あまり強そうには見えない。
今は俺の手に収まっている程だ。
「……そんなもので、人質の救出が出来るのか?」
レメディオスが思わず訝しむのも仕方ないだろう。
だが、見た目がただの蛇だとしても、これは歴とした悪魔だ。
「まぁ、見ているといい」
俺が手から悪魔である蛇を離すと……地面に二匹の蛇が落ちた。
「……何だこれは?」
そうして地面に落ちた蛇は四匹になっていた。
そのまま渦巻くように分裂し、八匹の鷲に姿を変えた。
「
鷲に姿を変えた
変身した姿と同等の能力を持つことで、鳥類に変身し飛行能力を持つのは勿論、陸上、水中など如何なる状況にも対応している。
俺は
「人質を取るバフォルクを暗殺し、新たな人質を取られないよう収容所を悪魔に護衛させる……後は好きにするといい。最初と同じように、破城槌で門をこじ開けてバフォルクを掃討するんだな」
俺の言葉にレメディオスは嬉しそう……な顔もせず、奥歯を噛んだ。
なんか卑怯だとか何だとか思ってそうだな。
まぁ、聖騎士だから仕方ないか。
そんな事を考えていると──
「あ、がぁ、あっ!?」
城壁に登っていたバフォルクが断末魔を上げた。
蛇に変身した
前後不覚となったバフォルクは人質を手放して、そのまま城壁から落下し……地面に落ちて、潰れたトマトみたいになった。
一瞬、バフォルクも、聖王国の人間も無言になってしまった。
「そら、お膳立ては終わったぞ?」
俺の声に副団長のイサンドロが目を見開き、レメディオスの肩を叩いた。
そして、レメディオスは頷き槍を頭上に構えた。
「行くぞ! 私の後に続き、卑劣な亜人どもを殲滅し、民を救うのだ!」
「「「おおう!」」」
レメディオスの言葉に、聖騎士達も声を上げた。
そうして、レメディオスが先導し一団は小都市に向けて突撃を始めた。
その様子を後ろから眺めつつ、ふと、俺は視線を横の……顔を険しくしているナーベに視線を向けた。
「ナーベ」
俺が名前を呼ぶと、ナーベは俺へ視線を向けて……バツの悪そうな顔をした。
「はっ、あ、いえ、申し訳、ありません」
俺の胸倉を掴もうとしたレメディオスを止めた事に関して、叱られると思ったのだろうか。
まぁ別に叱るつもりはないんだが。
「いや、謝らなくていい。あれが忠義の為だと分かっている……それに、悪いのは俺だしな」
ヘイト管理は難しい。
レメディオスを煽って怒らせるのは良いが、手が出るまで怒らせるつもりはなかった。
やはりこの世界で
ラズロにも最近、もう少し人の機微を感じて欲しいとか苦言を呈されたからな。
知らず知らずのうちに人に嫌われていそうで不安だ。
ケラルトとか、惚れさせなきゃいけないのに……全然ダメだったし。
しかし……レメディオス、なぁ。
煽っておいて何だが、彼女を俺に惚れさせるのは難易度が高いな。
あの
俺と魔皇バアルが裏で繋がっていると考えてそうだし。
側から見れば陰謀論に傾倒しているようだが、実際はそれが真実だ。
ケラルトやイサンドロはレメディオスの言葉を信じないだろうが、それでも疑ってくる女を堕とすのは至難だ。
うーん。
なら、そうか。
仕方ないか。
……やっぱり一発、犯しとくか?
快楽に沈めて、脳を破壊し、性奴隷にまで堕としておくか?
いや、それは最終手段だ。
危ない危ない。
面倒臭くなると、短絡的な手段を取ってしまうのは俺の悪い癖だな。
「ナーベ、そろそろ俺達も小都市へ向かおう。亜人をある程度狩っておいて、仕事をしているフリをしようか」
「はい、畏まりました」
しかし、ナーベのこの忠義の臣下ムーブ。
レメディオスはどうだか分からないが、イサンドロは気になっているだろうな。
アダマンタイト級の冒険者が、一介の高官相手に臣下として働いているのは違和感があるだろう。
面倒事は多い。
考えなくてはならない事も。
あー、俺も思考を放棄して、好き勝手したい。
家に帰って女の子達とエッチしたい。
……昨日今日、エッチしてないから性欲がヤバいんだよな。
ナーベを襲う……なんて事はせず、鋼の意志で堪えているが、限度がある。
娼館でもあれば発散できるんだが、今この状況で行く余裕はないし。
俺はナーベを連れて、小都市へと足を進める。
既にレメディオス達の破城槌によって、城門は突破されていた。
……なんか、その様子すら性行為の暗喩に見えてきた。
疲れてるし、ムラムラしてるんだな、俺。
あー、くそ。
◇◆◇
レメディオスは亜人の血に濡れた剣を振り払い、息を深く吐いた。
イサンドロはその様子を見て、やはりレメディオスが優秀な聖騎士である事を確信していた。
彼女の側には両断されたバフォルクが、何体も存在していたからだ。
一旦の危機は去った、と考えて良いだろう。
イサンドロはレメディオスへと声を掛けた。
「しかし、レメディオス団長が悪魔の召喚を許容するとは……意外でした」
気になっていた事を口にすれば、レメディオスは鼻を鳴らした。
「ふん。聖王国の民が悪魔を召喚するというのなら、私は止めていただろうな」
「……というと?」
「奴は魔導国の人間だ。魂が穢れようと知った事ではない」
レメディオスの言葉に、イサンドロは少し頭痛がした。
「レメディオス団長はどうしてそこまで……ベリアル殿を敵視するのですか?」
「……魔皇バアルが聖王国を襲撃して、利益を得ているのは誰だ?」
「それは魔皇バアルでしょう」
「いや、違う。あの男達だ。魔導国だ」
レメディオスの言葉に、イサンドロは少しではない頭痛がした。
「しかし、ベリアル殿はケラルト団長が呼んだ助っ人ですよ。それに報酬も断っています。善意で助けてくれている方々に失礼なのでは?」
「それも罠だ。何らかの方法でケラルトを洗脳したに違いない。報酬の件も、金銭ではない何かを聖王国から奪うつもりだ」
「……つまり、何が言いたいのですか?」
「魔皇バアルと魔導国はグルだ。裏で繋がっている……奴らは聖王国の民を犠牲にしてまで、利益を得ようとしてる」
いよいよ、イサンドロは頭痛に耐えきれなくなってきた。
「……レメディオス団長、この戦いが終わったら少しお休みして下さい」
そして、この陰謀を語るレメディオスの言葉を一切信じる事なく、切り捨てた。
レメディオスは「何故分かってくれないのか」と憤る。
既にバフォルクの大半を掃討し終えて、後は聖騎士達に残党狩りをさせるだけだったとしても……不用心と言わざるを得ない。
「私は疲れてなどいない。私の勘が、あの男は信用できんと言っているんだ」
「……ベリアル殿が、ですか?」
「あぁ、人を人だと思っていない節がある。見下しているように見えるし……何処となく軽薄だ。気に食わん」
「レメディオス団長。そんな陰口のような事を口にしないで下さい」
何処で誰に聞かれているか分からない。
少なくとも、イサンドロを含むこの場にいる聖騎士はベリアルに密告などしないだろうが……それでも度を越えた発言だと理解していた。
だからこそイサンドロは咎めたのだが、レメディオスはそんな事も関係なく言葉を繋ぐ。
「そもそも、あんな男に忠義を向けている、アダマンタイト級の冒険者も狂犬のようだしな。先程のように制御出来ないとは……あの男は人の上に立つ才覚が無いのだろ──うっ!?」
そうして、そこまでレメディオスが口にした瞬間。
途轍もない殺気が、イサンドロの側を突き抜けた。
大量の冷や汗が垂れる中、イサンドロはレメディオスを見た。
レメディオスはいつも通り、凛々しい顔をしていたが……その表情が強張っている事を自覚した。
何か、拙い。
何かが来ている。
イサンドロが反応するより早く、レメディオスは剣を構えた。
その先には──
「なに!?」
イサンドロも知っている悪魔が居た。
仮面を付けた人形のような姿をした悪魔。
イサンドロは思わず声を上げた。
「な、何故ここに!?」
この悪魔は強力だ。
だが、人形のような無機物に近い悪魔。
先程の殺気の正体は
「魔皇バアルが来ているのか!?」
では、魔皇バアルが側にいるのか、とイサンドロは探した。
しかし、姿は見当たらない。
そんなイサンドロにレメディオスは視線を向けた。
「狼狽えるな、イサンドロ! 私がここでこの悪魔を討つ!」
レメディオスは、この悪魔をベリアルが討伐していた事を知っていた。
しかも、三体同時に討伐した悪魔の中の一体だと知っていた。
例え、もし、万が一、ベリアルがレメディオスより強かったとしても……一体ぐらいならば勝てる。
そうレメディオスは考えていた。
実際、
レメディオスとは相性が悪い。
レメディオスは腐っても高レベルの聖騎士だ。
単純な力量であれば、王国最強の戦士に勝るほどだ。
そんなレメディオスであれば、
気を抜かなければ、負ける事はない。
そう、
「な、あっ!?」
悲鳴を上げたのは、聖騎士達だった。
居住区の隙間、影から
その数、一体や二体、三体どころの話ではない。
最早、数えきれぬ程の
イサンドロの顔に冷や汗が流れ、レメディオスは顔を歪ませた。
ラズロ(怒り)
誰好き?
-
カルカ・ベサーレス
-
ケラルト・カストディオ
-
レメディオス・カストディオ
-
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