※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#83 プラート奪還

日中、馬車の中。

 

 

「…………」

 

 

ナーベは惚けた顔で自分の手を見ていた。

幌の隙間から漏れる太陽光にかざす様に……手を。

 

そこには指輪があった。

飾り気のないシンプルなデザインの指輪だ。

 

それを見て、ナーベは惚けた顔をしている。

 

 

アレは俺が渡した指輪だ。

俺宛ての<伝言(メッセージ)>が刻まれた魔法道具(マジックアイテム)であり、側室全員に配っている側室の証。

それをナーベが持っているということは……まぁ、そういうことである。

 

昨晩、ナーベを俺の側室へと迎え入れた。

帰ったらモモンガさんの説教確定コースだが、仕方ない。

俺なりの責任の持ち方なのだから。

 

まぁ、仕方ない。

うん、仕方ない。

……仕方ないよな?

 

昨日、ナーベには俺が満足してくれるまで相手して貰った。

合計で、えっと……5回以上はした。

数えてないけど、かなり“し”た。

 

そんな昨日があって、今日。

今の今まで引き摺って、ナーベは使い物にならなくなっている。

 

そこにとやかく言うつもりはない。

人に迷惑を掛けている訳じゃないし、可愛いし。

ただちょっと、聖王国の兵士とかに話しかけられても上の空なのはちょっとアレだが。

 

罵倒が飛びかけるか、上の空かなら、ちょっと後者の方がマシだ。

 

 

 

 

 

 

しっかし、なぁ。

 

 

 

 

 

 

 

今日は何故かレメディオスが来ない。

ここ最近、毎日、馬車の方まで来てお喋りしていたのだが。

毎晩ではないが性処理もしていたし、仲良くなったと思っていたのだが……今日は何故か来ない。

 

魔導国のゴーレム馬車の幌から顔を出して、視力を強化する。

先の方でレメディオスが聖騎士団の副団長……イサンドロと一緒に居る。

 

角度的に表情までは見えないが、何となく元気がないように見える。

 

 

「……何かあったのか?」

 

 

こちらから話しかけに行きたいが、あちらは騎馬で、俺は馬車。

行こうと思えば行けるが、そこまでするのも気が引ける。

 

原因はなんだ?

ナーベは……レメディオスに興味なんてないだろうし、知らないか。

 

 

……うーん?

思い当たる節がまったくないぞ?

 

 

後で本人に理由を聞きたいが、今日は大きなイベントがある。

大都市プラートの奪還だ。

 

今までの小規模な都市ではなく、交易の中心でもある大都市の奪還。

住人、守っていた兵の多さ、規模。

それらを占領した亜人達の数も、強さも今までの都市とは比べ物にならない。

 

悠長に会話できる時間があるか、怪しい。

 

積もる話はプラートを奪還してからにするか。

……こんな事を考えてたら死亡フラグっぽいけど。

 

ま、俺は死なないし。

レメディオスも大丈夫だろ、多分。

 

 

いざという時は、俺が守るし。

 

 

プラートを占領している亜人を配置したのは、魔皇バアル……というかラズロだ。

この戦いで亜人の数を減らして、聖王国の治世を安定させるのが目的の一つ。

もう一つの目的は、俺が聖王国での影響力を高めるために、功績を残す事だ。

 

そういう意味でも、プラートの亜人は俺がいれば何とかなる程度にしか配置されていない。

……あー、いや、そもそも、亜人がどれだけ配置されていようが、俺が本気出せば何とかなるんだが。

 

俺が本気出したら、聖王国に怖がられるからな。

恩とか感謝とかの前に、恐怖されちゃう。

 

だから、『程々に力を出せば』何とかなる程度っていうのが正解か。

 

俺は馬車の中で姿勢を崩した。

ちら、とナーベを見れば、まだ指輪を眺めていた。

 

……飽きないな、ナーベも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が沈む前。

レメディオスが率いる都市奪還部隊は、大都市プラートの近くまで来ていた。

 

現在、拠点とされている城塞都市カリンシャと、首都ホバンスの中間に存在する重要拠点だ。

 

そんなプラートの付近、大きな天幕の中でレメディオスは作戦会議をしていた。

 

 

「イサンドロ、どうだ」

 

「はい。偵察部隊から、都市内の亜人の数が想定より少ないかと」

 

「……つまりなんだ?」

 

「首都ホバンスに亜人の半数が遠征に出ているかと。ケラルト様の想定通りです」

 

「そうか。ならいい」

 

 

そういえばそうだったか、とレメディオスは頷いた。

そして、首都ホバンスを亜人達が攻撃しているという事実は、焦りを生み出していた。

 

ただ、この場で焦っても仕方がない。

そうレメディオスは自分を納得させて、その場に居る聖騎士団の副団長、イサンドロから目を逸らして……ベリアルへと目を向けた。

 

 

「ベリアル。お前はどう思う?」

 

「良いんじゃないか? 兵力が少ない今が攻め時だ。俺達が付近に来ている事が知られる前に、都市を奪還すべきだろう」

 

「……そうか、そうだな?」

 

 

少し気まずい思いをしながら、レメディオスは頷いた。

民を救うための戦の前に、痴情のもつれ等と言っている場合ではない。

思う所がないと言えば嘘となるが、レメディオスは弁えていた。

 

意識を切り替えて、レメディオスは副官のイサンドロに視線を戻した。

 

 

「作戦はあるか?」

 

「はい。プラートは大きな正門が一つ、小さな裏門が二つあります。正門に聖騎士団の大半を配置し、裏門の二つ……それぞれに少数精鋭の部隊を送ります」

 

「……ふむ?」

 

「正門に意識が集中している間に……レメディオス団長とベリアル様には、都市内の亜人の指揮官を討伐して頂きたいのです」

 

「なるほどな。挟み討ちという形か」

 

 

レメディオスは納得した。

指揮官を倒せば、亜人は兵から暴徒へと成り下がる。

統制の取れていない亜人ならば、集団戦闘に長けた聖騎士の敵ではない。

 

亜人の指揮官を倒せれば、だが。

 

亜人は人間と異なり、地位が高ければ高いほど強くなる。

力を持つ者ほど偉いという価値観が、亜人の根底にあるからだ。

 

そういう意味では聖騎士も、地位が高ければ高いほど強い組織ではあるが……実際、イサンドロではなく、もう一人の副団長であるグスターボは指揮能力で副団長となった。

力だけが全てではないのだ。

 

閑話休題(それはともかく)

 

強力な亜人の指揮官には、少数精鋭で挑む理由も分かる。

無闇に兵を増やしても被害が増えるだけだ。

 

戦闘の混乱に乗じて、指揮官を奇襲する。

仲間を呼ばれる前に、素早く討伐する。

 

その為にも、人数は最小限でいい。

 

 

「では、ベリアル様は西の門から。レメディオス団長は南東からお願い致します」

 

 

その言葉に頷き、軍略会議は終了した。

神官の代表やら、副団長のイサンドロが天幕を出ていく中──

 

 

「レメディオス、少し話いいか?」

 

 

ベリアルに話しかけられて、レメディオスは立ち止まった。

 

 

「……な、なんだ?」

 

「いや、何か元気がなさそうだと思ってな。不安でもあるのか?」

 

「不安など……ある訳がないだろ。私は聖騎士団長だぞ?」

 

 

レメディオスは自分の内心が悟られるのを避けたくて、震えた声で否定した。

 

昨晩、ベリアルとナーベがまぐわっている所を見た。

好意を向けている男が、別の女と愛を交わしていた。

……自分には立場があり、そんな事にうつつを抜かす事などできないというのに。

 

妬み、僻み、怒り。

 

己の持つ信念と、男に対する好意。

聖騎士の役目と、女の幸せ。

 

天秤にかけるには、どちらも重過ぎる。

 

それでも、レメディオスは聖騎士である自分を選んでいた。

親友であり、敬愛する主であるカルカを救い、正義を実現する為には……色恋にうつつは抜かせないのだ。

 

そんなレメディオスに対して、ベリアルは片眉を上げた。

 

 

「なら、良いんだが。この戦いが終わったら、少し話がしたい」

 

「……な、なんでだ? 何を話す必要がある?」

 

 

レメディオスは少し目を細めた。

 

心配してくれているのだろうか。

だが、心配などされても……嬉しいが、辛いだけなのだ。

 

心配しているなどと言われれば『心配などいらん!』と怒鳴ろうと身構えていると──

 

 

「俺がレメディオスと話したいだけだ。それじゃダメか?」

 

 

思っていた返答と、違っていた。

 

 

「ダ、ダメという訳ではないが……」

 

 

思わず、まごつく。

男の言葉が嬉しくて顔が熱くなる。

 

そんな喜びを捨てようと、距離を取ったのに。

 

 

「なら、話をしよう。今はしたくなさそうだしな、後でいいさ」

 

「……すまない」

 

「いいや、気にするな」

 

 

レメディオスが頷くと、ベリアルは天幕の外へと足を向けた。

それを見送ろうとして……レメディオスは少し迷い、顔を上げた。

 

 

「ベリアル!」

 

「ん?」

 

「し、死ぬなよ?」

 

 

プラートでの戦いは激戦となる。

そんな気配をレメディオスは予感していた。

この大都市を落とせる亜人の指揮官が、弱者である筈がない。

 

だからこそ、心配するような言葉が漏れた。

例え、ベリアルが自分より強くとも、ただ『死んで欲しくない』と思った。

それだけだ。

 

人によれば不快に思うだろう。

自分より弱い奴に心配されても。

 

だが、ベリアルは少し嬉しそうに笑った。

 

 

「お前も死ぬなよ? レメディオス」

 

「と、当然だ……! 私にはまだ、やるべき事があるからな!」

 

 

腕を組んで、レメディオスは鼻を鳴らした。

自分には聖騎士団長として、聖王女カルカに仕える役目がある。

亜人撃退後、荒れる聖王国を纏めるであろうカルカの手伝いをしなければならない。

 

であれば、死ねる訳がない。

 

 

「そうだな、互いに死なないようにしよう……それじゃあ、次会う時はプラートの中で」

 

 

レメディオスの言葉に、ベリアルは笑みを浮かべた頷き……そのまま天幕を出た。

そんな男の背中を見て、レメディオスは下腹部が疼いているのを感じていた。

 

 

「……くそっ」

 

 

昨晩から淫紋が疼いている。

自慰を行い症状を軽くは出来たが、それも充分ではなかった。

 

ただ耐えられない訳ではない。

しかし、不快であるのも確かだ。

 

レメディオスは顔を顰めて、地面を踏み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大都市プラートの奪還戦が開始した。

 

正門で本隊が亜人達とぶつかっている。

戦力としては相手が上……そもそも、攻城戦とは防衛側が有利なものだ。

攻撃者を迎撃する、そのための城壁なのだから。

 

ただ、本隊の聖騎士達も負けてはいない。

時間を掛けて、亜人達の目を釘付けにしている。

 

当分は亜人達も、正門に釘付けとなっているだろう。

作戦通りだ。

 

 

「いくぞ!私に続け!」

 

 

その間に、レメディオスは裏門を突破していた。

監視の目を盗み、梯子をかけて城壁を登った。

そのまま、見張りの亜人が叫ぶ前に斬り殺し、都市内に潜入したのだ。

 

大都市プラートの中をレメディオス、そして、選りすぐりの聖騎士が疾走する。

 

 

「正面、刀鎧蟲(ブレイダー)! 団長、如何しま──

 

「行け! お前らに任せる!」

 

「はっ!」

 

 

レメディオスの言葉に、二人の聖騎士が先行する。

部下である聖騎士エステバンと、フランコだ。

 

対する亜人、刀鎧蟲(ブレーダー)とは戦闘能力の高い亜人種だ。

両腕の先から刀のような鋭い突起が生えている、蟲型の亜人。

 

それらに向かって、聖騎士エステバンが肉薄する。

 

 

「キィェエッ!」

 

 

凄まじい声をあげて、刀鎧蟲(ブレーダー)がその腕の刀を振り上げて……エステバンが剣で受け止めた。

 

 

「今だ!」

 

 

その瞬間、フランコが刀鎧蟲(ブレーダー)の横を通り過ぎながら、剣を振るった。

刀鎧蟲(ブレーダー)は甲虫のように硬い外骨格を持つ。

故に、斬撃に対する耐性は高いが……フランコはその腕の関節部を狙った。

 

 

「ギャッ」

 

 

甲殻の隙間を通り、聖騎士の剣が刀鎧蟲(ブレーダー)の腕を切り落とした。

瞬間、エステバンは刀鎧蟲(ブレーダー)の刀を振り払い、剣を振り上げた。

 

 

「<剛撃>ッ!!」

 

 

武技が発動し、刀鎧蟲(ブレーダー)の頭部が叩き割られた。

白濁色の体液をぶち撒けて、刀鎧蟲(ブレーダー)が床を転がった。

 

その様子を見たレメディオスは、満足げに頷いた。

 

 

「よくやった。聖騎士エステバン、聖騎士フランコ」

 

「はっ!」

 

 

賞賛も最小限にして、レメディオスは探索を再開する。

狙いは亜人の指揮官だ。

 

消耗を抑えて、力を温存するため、選りすぐりの聖騎士を連れて来た。

だが、彼等が消耗し切ってしまえばレメディオス自身も指揮官ですらない亜人と戦わねばならない。

 

雑魚と戦っても、レメディオスならば消耗は少ない。

だが、少ないだけで消耗はする。

 

武技を扱う為の体力と精神力。

それらは、強敵となるであろう亜人の指揮官に残しておかなければならない。

 

 

そんなレメディオスに、対して──

 

 

別の裏門から侵入したベリアルは、ナーベのみを連れて行った。

碌に連携も取れないであろう聖騎士を連れて行くのは、足手纏いだと判断されたのだろう。

 

レメディオスもベリアルの判断に異論を唱えるつもりは無かった。

 

 

正門は副団長であるイサンドロが指揮をしている。

裏門の一つはレメディオスが、もう片方からベリアルが。

 

この戦いの肝となるのは、自分だとレメディオスは考えていた。

無論、正門での戦いや、ベリアルを軽視している訳ではない。

 

正門はイサンドロが何とかしてくれる。

ベリアルも亜人の指揮官を討ってくれるだろう。

 

そう、信頼している。

だからこそ、自分の働き次第だとレメディオスは考えていた。

 

 

(ここで私がしくじれば、戦いも不利になる。責任は大きい)

 

 

そう考えつつ、レメディオスは足を進めて──

 

 

「そこまでにして貰おうかの、小娘」

 

 

女の声が聞こえた。

小娘、と呼ばれるような年齢ではないが──

レメディオスはそちらを見た。

 

 

「貴様は……」

 

 

腕が四本も生えた、血色の悪い細身の亜人。

手には杖を持っており、魔法詠唱者(マジックキャスター)であることがレメディオスにも感じ取れた。

 

そんな亜人に対して、聖騎士の一人……エステバンが反応した。

 

 

魔現人(マーギロス)か!」

 

 

種族の名を確かめるように声を出したが……レメディオスは内心、首を傾げていた。

 

 

(まーぎろす?……奴はマーギロスという名前なのか)

 

 

亜人の種族名を碌に覚えていないレメディオスが勘違いしていたが、それを無視して亜人は頷いた。

 

 

「いかにも……よく知っているのう。だが、知識不足じゃ。儂はその中でも頂点に立つ者よ」

 

 

その言葉にまた、別の聖騎士が反応した。

 

 

魔現人(マーギロス)の女王……“氷炎雷”のナスレネ・ベルト・キュールか!?」

 

「ほう、無知でない者も居るらしいのぅ。感心じゃ」

 

 

“氷炎雷”、その二つ名はローブル聖王国でも有名だ。

凄まじい魔法の使い手で、幾人もの聖騎士を葬った実績を持っている。

 

……レメディオスは、その辺りの話に鈍かったが。

聖騎士達の反応から、敵が強者であり……亜人達の指揮官である事を察した。

ついでに“マーギロス”という単語が固有名詞でない事も察した。

 

ローブル聖王国でも名が通る強敵、つまり亜人の指揮官ということ。

ならば、ここで相手をする。

レメディオスは聖剣を鞘から抜いた。

 

 

「お前、ナスレネと言ったか! この都市の亜人を統率しているのはお前か!」

 

「いかにも……と、言いたい所だが、半分は違っておる。儂だけではない」

 

 

という事は、指揮官はまだ何体か居るのだろう。

であれば、このナスレネという亜人に注力し過ぎてはならない。

 

そうレメディオスは判断したが……それを察してか、ナスレネは少し苛立った様子を見せた。

 

 

「年端もいかぬ、娘っ子が。名も名乗らずに、そう侮ろうとは……躾がなっとらんの」

 

「生憎、亜人などに名乗る名など、私は持っていなくて……な!」

 

 

瞬間、レメディオスは地面を蹴った。

魔法詠唱者(マジックキャスター)戦は先手必勝だ。

正面からの火力であれば戦士より、魔法詠唱者(マジックキャスター)の方が上。

だが、瞬発力は戦士の方が上だ。

 

そう判断しての攻撃だったが──

 

 

「<炎焼騎士槍(バーンランス)>」

 

 

ナスレネの、杖を持たぬ手の上に炎の槍が生み出された。

それは宙を浮き、レメディオスに向かって凄まじい速度で飛来した。

 

 

(速い! だが、避けれん訳ではない! 回避しつつ、あの亜人を攻撃できれば……っ!?)

 

 

レメディオスは自身の背後に、聖騎士達が居る事に気付いた。

ここで回避すれば、あの炎の槍は部下を貫く。

 

属性が付与されている事から、聖騎士の鎧を貫通して殺害するだろう。

 

だが、彼等は聖騎士だ。

戦場にて、大きな目的のために命を投げ捨てる事が出来る者達だ。

 

だからそう、そんなことは無視して攻撃すれば良いのだが──

 

 

「ちぃっ!」

 

 

レメディオスは聖剣で、炎の槍を叩き落とした。

聖なる力が込められた聖剣だからこそ、魔法によって生み出された炎の槍を防げたのだ。

 

ここでナスレネを倒しても、部下が死ねば戦力が低下する。

そう内心に言い訳しつつ、レメディオスは足止めされた事に気付いた。

 

 

「レメディオス団長……」

 

 

聖騎士達に名を呼ばれるが、レメディオスはナスレネから視線を逸らせなかった。

レメディオスは魔法に関して知識がない。

知識がないからこそ、相手の魔法を見てから反射神経のみで対処しなければならない。

 

目を逸らすという行為は、自殺行為なのだ。

 

そんなレメディオスに対して、ナスレネは感心したような反応を示した。

 

 

「ほう、そうか。貴様がレメディオス……この国最強の聖騎士か。であれば、それが聖剣とやらか……」

 

「そうだ。己の運の悪さを恨むが良い」

 

 

そうレメディオスは口にした。

しかし、大粒の汗が流れたのを感じた。

 

 

「いいや? 儂は運がいい……貴様の首を差し出せば、魔皇バアル様の子種を頂けるかもしれぬ」

 

「子種……だと? 悪魔にねだるというのか?」

 

 

なんとおぞましい。

レメディオスが不快感に顔を顰めた。

 

 

「愚かじゃの。絶対的な強者、全てを支配する雄……そんな魅力的な雄との子を宿す価値が分からんのか?」

 

「ふん、分かろうとも思えんな」

 

 

ナスレネの言う魅力的な雄という条件に、レメディオスは顔を顰めた。

 

強ければいいのか?

権力があればいいのか?

 

違う。

真に魅力的な雄……男というのは、それだけではない。

 

そう、レメディオスは確信していた。

 

強くあれば良いのは確かだ。

権力もあった方が良いだろう。

 

だが、それだけではダメなのだ。

 

優しく、正義感があり、己の確固たる信念を持っていなければ……力や権力など、二の次でしかない。

 

 

「女の本懐も分からんとは。人間の小娘らしいといえば、らしいが」

 

「歳を喰っても、その程度の浅さしか持たん亜人には言われたくないな」

 

 

言葉で互いに牽制しつつ、レメディオスは背後の聖騎士達に後ろ手で指示を出した。

そして、そのレメディオスの指示を汲み取り、聖騎士達はレメディオスの背後から移動した。

 

少しずつ、ナスレネを囲うように移動する。

 

 

「挑発の質も低いのう。隠し事も下手じゃ。儂が気付かん訳が無かろう」

 

 

そう口にして、ナスレネは魔法を行使した。

空いた三つの手の上に、魔法の槍が生み出される。

 

炎の力を持つ<炎焼騎士槍(バーンランス)>。

氷の力を持つ<氷葬騎士槍(フリーズランス)>。

雷の力を持つ<電爆騎士槍(ショックランス)>。

 

それらはナスレネが第四位階魔法<白銀騎士槍(シルバーランス)>という魔法を元に生み出した、独自の属性魔法だ。

 

元の<白銀騎士槍(シルバーランス)>とは異なり、付与された魔法の属性は物理攻撃に耐性がある鎧すら貫通する。

多様な属性は対処が難しく、防御も困難。

それを同時に三本も生み出せる。

 

それこそが“氷炎雷”という二つ名の由来だ。

 

そんな絶望的な光景を前にして、レメディオスは前へ足を進めた。

 

 

「各自、攻撃されても自力で対処しろ! 私が奴を討つ!」

 

 

それは自身に攻撃を向けさせるための挑発だった。

攻撃を自分以外の騎士に放とうとも、それを無視して斬るという宣言。

 

つまり、ナスレネはレメディオスに全力で当たらねばならないという事を告げているのだ。

 

 

「ほう。ならば、耐えて貰おうかの」

 

 

しかし、ナスレネはレメディオスの虚勢(はったり)を見抜いていた。

 

そして、その腕に持つ炎の槍を……ナスレネは、聖騎士に向けて投擲した。

 

 

「ちっ!」

 

 

レメディオスは舌打ちをしつつ、即座に横に飛び……炎の槍を叩き落とした。

 

この攻撃を無視して、ナスレネを詰める事も可能だった。

しかし、その手に氷と雷の槍を持っている今、距離を詰めても勝てるかは怪しい。

 

であれば、消耗させるために炎の槍を塞ぐのは必然だった。

 

だが──

 

 

「甘いのう」

 

 

炎の槍を弾いたレメディオスに向けて、ナスレネは氷の槍を投げた。

即座にそれを弾こうとレメディオスは構えて──

 

違和感。

 

瞬間、レメディオスの視線の先で、氷の槍の狙いが変わり、レメディオスの身体ではなく……その足元へ変わった事に気付いた。

 

氷属性……つまり、レメディオスの足元を凍結させて、本命である他の魔法でトドメを刺そうとしているのだ。

 

だが、それをレメディオスは看破した。

 

 

(ここは引き付けて、氷の槍を防げばいい!)

 

 

瞬間、剣を振り下ろして……地に衝突する寸前の、氷の槍を弾こうとした。

だが、その瞬間、レメディオスの身体から、力が抜けた。

 

 

「なっ!?」

 

 

強烈に、下腹部が疼いた。

淫紋の効能によって、身体の力が乱れたのだ。

 

 

(こんな、時にぃ……っ!)

 

 

そんなレメディオスなどお構いなしに、氷の槍は剣の隙間をすり抜けた。

 

 

「くっ!?」

 

 

地面に縫い付けられるように、レメディオスの足は凍結した。

直撃ではないため、怪我はないが……下半身の動きを封じられて、身動きが取れなくなってしまった。

 

 

「ほほ、勝負あったのう」

 

 

嘲笑いつつ、ナスレネの手から雷の槍が離れた。

回避しようにも、回避できない。

腕の力も、どうにも込め難い。

 

しかし、それでも諦める理由にはならない。

 

 

「このっ、<剛撃>!」

 

 

レメディオスは地面に剣を叩きつけた。

氷を砕き、そのまま雷の槍を避けようとする。

 

 

(だめだ!間に合わな──

 

 

しかし、一手、いや、二手も遅れていた。

何とか身を捩り、雷の槍による致命傷を避け──

 

 

「ゔぅぐっ!?」

 

 

電撃が、レメディオスの肩を貫いた。

しかし、そこから魔法によって生み出された雷が全身へと走る。

 

全身の筋肉が萎縮し、身体の感覚が麻痺する。

 

だが、致命傷ではない。

少しすれば動けるようになる。

 

レメディオスはそう考えて、顔をナスレネに向けて──

 

 

「なっ……!?」

 

 

その腕に三本の槍がある事に気付いた。

全てを手放した後、再度、氷炎雷の槍を生み出したのだ。

 

 

「これで終わりじゃ、小娘」

 

 

そう言いつつ、ナスレネは三つの槍を同時に、レメディオスへと放った。

 

 

(まずい!)

 

 

避けられない。

 

そうレメディオスが確信した瞬間──

 

赤い、結晶のような三つの槍がレメディオスの頭上を通り抜けて……その氷炎雷の槍を相殺した。

 

 

「な、なんじゃと……っ!?」

 

 

属性魔法が砕け散り、砂煙が巻き上がる。

その先で聞こえたナスレネと、レメディオスの間に……人影が着地した。

 

 

「遅れて悪かったな、レメディオス」

 

 

ズボンについた砂埃を払いながら、レメディオスへと振り返った。

それは、レメディオスが最も会いたくて……今は会いたくなかった、男の姿だった。

 

レメディオスと

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