※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#94 救国の英雄

「<上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>」

 

 

俺は<飛行(フライ)>を維持しながら、剣を創造し……そのまま射出する。

対象は魔皇バアルが召喚した悪魔だ。

 

位階の低い魔法で召喚された悪魔など、大した事はない。

飛行(フライ)>で宙を旋回しながら、魔法の剣を打ち出していく。

 

ただ、このまま続くと拙いのは確かだ。

魔法を行使するのに必要なMPが、無限にある訳ではない。

幻像創造(クリエイト・テンポラリー)は魔法による一時的なアイテムの創造。

普通に斬撃を飛ばしたり火球を飛ばす魔法よりも消費は激しい。

 

宙に浮かぶ剣を握り、悪魔を寸断する。

そのまま返す刃でもう一体を斬り殺す。

 

こうして、一本につき一体ではなく、創造した一本で二体以上狩らなければならない。

 

そうして消耗されるMPを抑える俺に対して、魔皇バアルは連続で悪魔を召喚している。

 

 

「……面倒だな」

 

 

上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)であるハリボテの魔皇バアルが持つMPは、本物である俺より二回りほど少ない。

こうして悪魔を連続召喚して、奴のMPは持つのか?

答えはYESだ。

 

弱過ぎる偽物の更に偽物である二重劣化品の魔皇バアルが、そんなに召喚してMPは持つのか?

答えはYESだ。

 

弱過ぎて聖王国にバレないよう、俺やラズロが事前に強化を与えている。

 

MPが自動回復する腕輪も装備させている。

秒間回復量は大した事がないが、低位の悪魔召喚ならば、ほぼ無尽蔵に召喚し続けられるだろう。

 

 

このままでは千日手だな。

いや、続けていればいるほど、ゆっくりと俺が不利になるのだから状況は悪いか。

 

 

ならば、本体を叩く。

 

 

「<魔法二重化(ツインマジック)上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>」

 

 

右手にミドルソード、左手に短剣(ダガー)を生成して魔皇バアルへ接近する。

対して、魔皇バアルが俺の進行方向に向けて尻尾を薙ぎ払った。

だが、ここは上空。

飛行(フライ)>によって互いに浮いている今、多少間合いがひろくとも鈍重な攻撃は当たらない。

 

飛行(フライ)>を駆使して尻尾を踏み越え、魔皇バアルへ接近する。

 

俺は剣を振りかぶり、魔皇バアルへ攻撃を繰り出すが、回避される。

 

 

……俺に剣術の才能はない。

というか技術もない。

元々ゲームによる補正頼りの人間だったのだから仕方がない。

以前、クレマンティーヌに師事して貰った時は「ベリちゃんさ、言いたくないけど才能ないよねー」とお墨付きも得てしまった。

 

故に、俺がするべきは奇策の分からん殺しだ。

 

俺は薙ぎ払った剣をそのまま投擲する。

だが、既に回避されている。

魔皇バアルが先程までいた場所を素通りするだけだ。

 

 

『フッ、どこを狙って──

 

 

しかし、投擲した剣は空中で回転し、物理法則を無視してブーメランのように戻って──

 

 

『ぬ゛うっ!?』

 

 

魔皇バアルを背後から切り裂いた。

そうしてそのまま、宙を回転し続けた剣は、俺の手元まで戻った。

 

 

「どうだ? 中々イケてるだろ」

 

 

俺の習得している職業(クラス)の一つ、サイ・ウォリアーの<念力>スキルだ。

物質を飛ばしたり、引き寄せたりするスキルで……普段からこれを使って、ウェポン・クラフターの魔法で生み出した武具を射出している。

 

ちょっと集中すれば、さっきみたいに飛ばすだけじゃなくて自由自在に操れるという訳だ。

 

 

『フン! ならば、これはどうか!』

 

 

魔皇バアルが手に火球を生み出した。

そして、サッカーボールほどの大きさになった火球を俺へと打ち出した。

 

速度がかなりある。

速い。

 

だが、避けられない程じゃないな。

俺は横にズレて避けようとして──

 

 

「っと……!?」

 

 

直後、火球が炸裂した。

小さな火の塊が放射状に拡散して撒き散らされ、回避行動を取った俺へと襲いかかる。

 

 

「チッ……<上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>」

 

 

瞬間、俺の目の前に赤い結晶の盾が生まれた。

宙に固定したそれを火球へと押しつけて、俺は即座に後退する。

 

 

『いくぞ!』

 

 

その隙を見逃す魔皇バアルではない。

俺の倍近い体格が急接近して、鋭い爪を俺へ叩きつけようとする。

 

俺はその爪を短剣で受けた。

こういう時、剣は短い方が取り回しが効く。

 

咄嗟に短剣で受けたが、もう片方のミドルソードで俺は魔皇バアルへと攻撃を繰り出した。

 

 

『あまい』

 

 

その瞬間、魔皇バアルは高速で回転して尻尾を薙ぎ払った。

 

 

「っ!」

 

 

尻尾が俺の身体に直撃して、吹っ飛ばされた。

俺に対しては殆どダメージにならなかったが……その尻尾攻撃を受けたのが普通の人間なら、トラックに撥ねられたみたいにバラバラになってもおかしくはない。

 

俺は空中を錐揉みながら衝撃を受け流し、<飛行(フライ)>で耐性を立て直した。

 

 

「はぁ……今のはちょっと痛かったな」

 

『フン、舐めた事を言う』

 

 

いや、実際ちょっと痛かった。

ステータス上ではあまり減っていないように見えるだろうが、普通に痛みを感じていた。

 

まぁ、だがほんの少しだ。

スキルを使用しない打撃では、致命傷になりえない。

スキルや魔法の使用制限はしているが、俺の能力値(ステータス)はレベル100相当だ。

幾ら強化(バフ)してようと、偽魔皇バアルの攻撃は致命打になり得ない。

 

そう考えつつ視線を戻すと、魔皇バアルが魔法陣に囲まれていた。

 

 

『<魔法四重化(クアドラプルマジック)第八位階悪魔召喚(サモン・デーモン8th)>』

 

 

こいつずっと召喚魔法で……ってそうか。

俺と魔皇バアルの共通点を減らすために、戦い方を変えてくれているのか。

にしても、面倒だが。

 

召喚されたのは……『呪詛の悪魔(カースドキャスター)』が四体か。

灰色のしわがれた肌をもつ、呪詛系の魔法詠唱を得意とした悪魔だ。

だがまぁ、魔法を使うとしても第八位階程度の──

 

 

『『『『<魔法上昇(オーバーマジック)>』』』』

 

「げっ」

 

 

思わず声が漏れた。

魔法上昇(オーバーマジック)は膨大な魔力を消耗することで、本来は使用すら出来ない上位の魔法を無理矢理に行使できる魔法強化だ。

つまり、呪詛の悪魔(カースドキャスター)は第八位階を越える魔法を使おうとしている訳で。

 

ここで止めなきゃ拙いな。

 

即座に俺は両手の魔法剣を投擲した。

ミドルソードは狙い通り、呪詛の悪魔(カースドキャスター)一体の身体を貫き、魔法を中断させた。

しかし、もう一本の短剣は魔皇バアルに防がれてしまった。

 

召喚者が召喚したモンスターを守るなよ。

 

俺が内心で、ちょっと理不尽な悪態を吐いた瞬間──

 

 

『『『──ッ』』』

 

 

呪詛の悪魔(カースドキャスター)の準備が整ったようで、魔法が発動された。

 

瞬間、頭上に何か気配を感じた。

飛行(フライ)>でも到達できない程の後者から、何かが。

見上げれば、巨大な光の塊があった。

 

 

「……マジか」

 

 

熱せられ発光する巨大な岩の塊が、そこにはあった。

それは第十位階の魔法、<隕石落下(メテオフォール)>だ。

魔法上昇(オーバーマジック)によって無理矢理発動させたからか、本来のものよりも小規模……だが、それでも第十位階の広範囲攻撃。

 

それが、同時に、三つ。

聖王国へと、落下を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、神よ……」

 

 

ケラルトの隣で、神官団の副団長が祈っていた。

 

 

「お、おわりだ……こんなの、もう……」

 

 

文官の一人が投げていていた。

 

 

「…………まさか。これほど、までとは」

 

 

姉であるレメディオスですら、呆然としていた。

 

だとしても、仕方がないとケラルトは思った。

頭上から山と見紛う程に巨大な岩が、熱せられ、光を放ち、王都ホバンスへと落下を始めたのだから。

それも一つではなく、三つも。

 

この世の終わりだと、そう考えても仕方がなかった。

 

ケラルトは、ベリアルならば魔皇バアルに勝てると考えていた。

いや、期待をしていた。

僅かな希望に縋っていた。

 

だが、その希望が霞む。

強大な絶望が形となって降り注ぐ今、カケラのような希望では心を保てない。

 

魔皇バアルという存在を見誤っていたのだと、ケラルトは自覚した。

どれほど強大な悪魔だろうと、勝つ術はあるのだと。

しかし、ようやく理解した。

あんな悪魔に誰が勝てるのだろうか。

 

 

「ベリアル様……」

 

 

頭上で魔皇バアルと向き合う、愛する男へ視線を上げた。

先程まで魔皇バアルと互角以上に戦っていた男を。

 

 

「……………」

 

 

ケラルトは両の手を組んで、祈る。

神が本当に居るのか、ケラルトには分からなくなっていた。

神がいるのであれば、ローブル聖王国をここまで苦しめる意図が分からない。

謙虚で慈愛に満ち溢れた聖王女カルカを苦しめる理由が分からない。

 

それでも祈らずにはいられない。

 

どうか、聖王国を救ってほしい。

どうか、ベリアルを無事に返してほしい。

どうか、どうか。

 

巨大な燃える岩が上空から迫る今、それだけをケラルトは祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対して、レメディオスは自分の無力さに歯を食いしばっていた。

手に持つ聖剣で悪魔を斬る事なら出来る。

だが、あんな巨大な落石をどう受け止めればいいのか。

 

不可能だ。

それは人の所業ではない。

 

 

「くそ……」

 

 

敬愛する親友、愛する妹……二人が守りたいと思ってきた国が、滅ぶ。

そんな事が許せる訳がない。

 

自分にできる事は何かないのか。

何をすれば聖王国は助かるのか。

 

分からない。

何も動けない。

 

聖王国の聖騎士団長という肩書きが、酷くちっぽけに感じた。

 

 

「……く、そ」

 

 

自分のどうしようもない無力さに、レメディオスはただただ悪態を吐いた。

 

聖王国は滅ぶのか。

これで終わりなのか。

自分の今までしてきた事は一体何だったのか。

これまでの日々は無意味で無価値に成り下がるのか。

 

すぐ側で、妹であるケラルトが祈っていた。

 

 

「ベリアル様……」

 

 

その名前を聞いて、レメディオスは頭上に飛ぶ男を想う。

遠く離れて、ちっぽけに見える男を……レメディオスは見上げた。

 

 

「…………」

 

 

レメディオスに祈る事は出来ない。

どうしても今、神に祈ろうとは思えなかった。

だからこそ、レメディオスはベリアルへと願いを託した。

 

 

「……頼んだぞ」

 

 

約束を守ってくれ、と。

無事に帰ってくれ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隕石落下(メテオフォール)>は、対人戦において攻撃魔法としては欠陥品だ。

発生が遅く、対象に攻撃が命中するまで莫大な時間がかかる。

つまり、見てからの対処が余裕だという事だ。

防御魔法を使うもよし、転移魔法で範囲外に逃げるもよし。

見た目に比べて、上級者であれば対処が容易な魔法。

 

それが<隕石落下(メテオフォール)>だ。

 

では、弱い魔法なのか?

使用用途はないのか?

 

答えは否。

攻撃対象が人ではなく、拠点ならばどうなるのか。

 

隕石落下(メテオフォール)>は莫大な破壊力を発揮する。

大地を抉り、地表を削り、粉砕する。

防衛装置が正しく設計されていない場所ならば、一撃で粉砕して使用不能にできる。

 

それが<隕石落下(メテオフォール)>の脅威だ。

 

そして、今。

 

俺の頭上には<隕石落下(メテオフォール)>が三つ降り注いでいる。

無論、俺一人なら対処は容易だ。

 

転移魔法で、そのまま王都ホバンスから離脱すればいい。

本当にただ、それだけで無傷に抑えられる。

 

だがしかし、その場合どうなるのか。

王都ホバンスは滅ぶだろう。

そこに居る人々も死に絶えるだろう。

 

それは、許せる事なのか?

 

無関係な人々が死ぬ事を俺は許容できるのか?

 

許容できる、筈だ。

何も心が痛まない筈だ。

 

今すぐ地上に降りて、ケラルトとレメディオス、あとはカルカを抱えて王都から転移すればいい。

それが賢い判断だ。

 

だが、そんな事をすれば確実に、三人は自責の念に駆られるだろう。

 

それは、許容できない。

 

俺はクズだ。

見知らぬ誰が死のうと知った事ではない。

興味もない誰かが死のうと知った事ではない。

 

だが、俺の知る、俺が好意を持っている誰かが傷付くのだとしたら……全力で、その事象を遠ざけるだろう。

自己中心的な人間……いや淫魔(インキュバス)なんだよ、俺は。

 

だから、俺は王都を守らなければならない。

誰かを守るためではなく、好いた女を悲しませない為に。

 

それを魔皇バアルの偽物は理解しているのだろう。

俺に負荷を掛けて戦いを有利に進めるつもりだろう。

 

ラズロはコイツに『ベリアルを全力で殺せ』と指示を出している。

ケラルトやレメディオスの記憶の上澄みを読み取ったコイツが、王都ホバンスの民を人質に取るような攻撃をするのも理解できる。

 

これが魔皇バアルの狙いだ。

俺が王都の民を救う為に、力を消耗するのを狙っている。

 

……だが、良いだろう。

お前の望み通り、力を消耗してやろう。

 

 

「<魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>」

 

 

俺の側に、剣と槍と斧が召喚された。

それらは魔法強化により、赤い稲妻を纏っている。

 

使える手は限られている。

俺は元々、<ビーストテイマー>で<ウェポンクラフター>だ。

職業(クラス)の構成も、後方支援向きだ。

 

こうして強大な魔法を対処するのは得意ではない。

 

ここから対処するのであれば……本来の俺なら、防御力に特化した悪魔を複数召喚する。

そして、悪魔に防御強化(バフ)を加えて隕石を受け止めさせる。

 

だが、俺は今、聖王国に助太刀に来たベリアルでしかない。

悪魔や淫魔の召喚は控えなければならない。

召喚士(サモナー)系統のスキルは使えない。

使えるスキルは自己強化、武器の創造……<ウェポンクラフター>のスキルが主になる。

 

 

「こんな事なら、魔力系の魔法詠唱者(マジックキャスター)ツリーを伸ばしておくべきだったか……」

 

 

この程度、モモンガさんなら即座に対応できるしなぁ。

なんて場違いな事を考えつつ、俺は更に<上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>を重ねていく。

 

頭上から迫る三つの隕石に対して、魔法で創造した武器は九つ。

頼りないが、ここいらが限界だ。

そろそろ対処し始めなければ、地上に激突する。

 

それで、本体の魔皇バアルは──

 

 

「……範囲から逃れる為に逃げたのか?」

 

 

居ない。

ユグドラシルなら自分の<隕石落下(メテオフォール)>の範囲内に居てもダメージは受けないが……ここは現実だ。

無論、自分の魔法で自傷は発生する。

 

故にこの場を離れる判断は理解出来る。

姿が見えないのは気掛かりだが。

 

 

「……まぁ、いいか」

 

 

俺は再び隕石へ目を向けて……そして、魔法で創造した武器の中から三つ、隕石へと射出した。

 

 

 

 

隕石落下(メテオフォール)>で生み出した隕石は、巨大な質量を持って攻撃地点を粉砕する。

だが、その巨大な隕石自体はただの岩でしかない。

 

故に──

 

俺が<上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>で創造した武器を直撃させれば……その岩盤を貫き、奥深くまで貫かせる事も容易だ。

 

三つの隕石の中心部に、魔法強化された三つの槍を埋め込む。

 

そして、俺は手元に同形の魔法の槍を手に持った。

 

 

「<魔法最強化(マキシマイズマジック)共鳴破壊(ブレイクレゾナンス)>」

 

 

そして、その魔法の槍を砕いた。

瞬間、隕石の中心部に埋め込まれた魔法の槍が爆散した。

 

強烈な爆発は隕石を内部から砕き、粉砕する。

 

俺の頭上で、<隕石落下(メテオフォール)>が砕けた。

三つの隕石が全て、爆散したのだ。

 

 

「さて……」

 

 

これで聖王国は救われたのか。

隕石落下(メテオフォール)>の脅威は去ったのか。

 

 

「ここからが大変(ほんばん)だな」

 

 

違う。

隕石は砕けて、大量の破片となった。

それが地上へと迫る。

 

隕石落下(メテオフォール)>が砕けたといっても、その岩の破片(かけら)は残ってる。

……ま、破片と言っても民家ぐらいの大きさが残っている。

そんなものが幾つも街に降り注ぐのだ。

 

砕いただけでは、何も解決していない。

 

 

 

俺は残っている<上位幻像創造(クリエイト・グレーター・テンポラリー)>で創造した武器を、隕石の破片へ向けて投擲した。

狙いは比較的に大きなものだ。

被害を最小限に抑える為に、優先順位を付けて破壊しなければならない。

 

<サイ・ウォリアー>の念力系スキルで宙を飛ぶ武器を操作して、岩を砕いていく。

砕けた岩は質量が分散する。

 

 

大まかに大きな岩は全て破壊したが……それでも、決して小さくはない落石達が王都ホバンスへと迫る。

これ以上時間を掛けても、確実に地上へと降り注ぐだろう。

 

 

「……ここいらが限界か」

 

 

宙で俺の投げた斧と斧が、剣と剣が、衝突していく。

 

 

「<魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)共鳴破壊(ブレイクレゾナンス)>」

 

 

そして、爆ぜた。

炸裂した熱と衝撃に、岩の破片が蒸発して、吹き飛ぶ。

 

それでも全ては破壊できない。

 

砕けた岩の破片が民家に降り注ぎ、屋根や窓ガラスを砕く。

それでも、当初の隕石よりは被害が抑えられる筈だ。

 

死人がゼロ、とはいかないだろう。

運悪く頭に命中して死ぬ人もいるだろう。

 

それでも何もしないよりはマシだ。

 

 

「はぁ……重労働、だったな」

 

 

悪いが全員は救えない。

だから、そう、俺は視線を地表から戻して──

 

 

『隙だらけだぞ』

 

 

体に衝撃が走った。

 

 

「…………お前」

 

 

魔皇バアルが俺に密着していた。

そして、その巨大な拳が俺の身体にめり込ませて──

 

 

爆発音が響く。

 

 

瞬間、俺は吹き飛ばされた。

火だるまになりながら、地上へと……そのまま、撃墜された戦闘機のように。

 

堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あぁっ!?」

 

 

悲鳴を上げたのは誰か。

周りの誰かか、それともケラルト自身か。

 

それが分からない程の衝撃に、ケラルトは目を見開いた。

ベリアルが魔皇バアルの攻撃に火だるまになり、落下してくる。

 

落下場所は──

 

大きな音が響いた。

王城へ墜落したのだ。

 

この部屋ではない、どこかに。

 

 

「……っ!」

 

 

周りが呆然とする中、レメディオスが真っ先に部屋を出た。

慌ててケラルトも外へと出た。

 

ベリアルは王都を、聖王国を、民を守るために魔皇バアルの魔法を防いだ。

しかし、その隙を突かれて攻撃を避け損なった。

 

ケラルトは見た。

身体を炎に焼かれながら、高所から墜落していくベリアルを。

 

助かるとは思えない。

だが、助かって欲しいと思っている。

死んで欲しくない。

生きていて欲しい。

また、あの笑顔を見せながら抱きしめて欲しい。

どこかに、行かないで欲しい。

 

呼吸が荒くなっている。

レメディオスの後ろへついて行くのに必死になっているから……ではない事は、自分でもよく分かっている。

身体よりも心が苦しいのだから。

 

それでもレメディオスの後をなんとかついて歩き、そして……王城のバルコニーへと辿り着いた。

そこには原型を留めていない程に壁の破片や、壊れた家具が散らばっていた。

 

そんな瓦礫の中に……ベリアルが転がっていた。

鎮火してはいるが、服がボロボロになっているベリアルの姿が──

 

 

「ベリアル!」

 

 

レメディオスが駆け寄ったのを見て、呆然としていたケラルトも駆け寄った。

 

レメディオスはカルカの魂を片手に持ちながらも……器用に、ベリアルにのっていた瓦礫を押し退けた。

そうすれば、ベリアルの状況がケラルトにもよく見える。

 

怪我は……あれだけの高所から落下したと思えば軽傷か。

しかし、これほど傷だらけになっているベリアルを見た事はなかった。

 

自分達が遠く及ばないほどの強者であるベリアルが、打ちのめされていた。

 

 

「……っん? あ? レメディオス……と、ケラルトか?」

 

 

ベリアルが目を開き、レメディオスとケラルトを交互に見た。

そして目を何度か瞬いた。

 

意識が朦朧としているのか。

ケラルトは急ぎ、治癒魔法を行使した。

 

 

「っ、<重傷治癒(ヘビーリカバリー)>!」

 

 

少しでも傷を癒さなければならないと思ったからだ。

 

対してレメディオスに出来る事はなく、ベリアルの前に腰を下ろした。

 

 

「お、お前、大丈夫なのか?」

 

 

震える声でそう問い掛ける。

 

 

「……あー、大丈夫だ。思ったより軽傷だしな」

 

 

そう言いつつ立ちあがろうとして、ベリアルがよろけた。

思わず、ケラルトはベリアルへ抱きついて座らせた。

 

 

「大丈夫なわけ、ないじゃないですか!」

 

 

治療魔法は正しく発動した。

だというのに、ベリアルは立つ事もままならないという。

であれば、治癒魔法で完治しないほどの重症だという事に違いない。

ケラルトはそう考えた。

 

 

「……いや、ちょっと目が回ってるだけだ」

 

「強がらないでください!」

 

 

ベリアルの言葉をケラルトは嘘だと判断した。

どこか真実味を帯びている声色だったが、そんな訳がないと切り捨てた。

魔皇バアルの攻撃が直撃し、身体を焼かれ、空から落とされたのだ。

並の人間では……いや、御伽話の英雄でも死に至る。

だからそう、いくらベリアルが強くとも、無事である訳がない。

 

 

「……いや、マジで目が回ってるだけなんだけど」

 

 

自分達を心配させないが為の痩せ我慢だと、ケラルトは思った。

 

それはレメディオスも同様だった。

あれほどの高所から落下して、生きているだけで奇跡だと考えていた。

 

 

「わ、私も力になれれば良かった……の、だが」

 

「……いやいい。そう気に病まなくていいから。マジで軽傷だから」

 

 

ベリアルの少し焦るような言葉に、レメディオスは悲しくなった。

弱みを見せてくれないほどに、自分は頼りないのだと自覚させられたからだ。

 

意気消沈する二人と、苦笑するベリアル。

そんな三人の頭上から、魔皇バアルの声が響いた。

 

 

『貴様らの英雄、ベリアルとやらも大した事がない!我が魔法から民を救ったのは褒めてやるが、その所為で俺の攻撃から身を守れなければ……意味がない!』

 

「っ、魔皇バアルめ、好き勝手に言う奴め!」

 

 

嘲るような言葉にレメディオスが歯を剥き出しにして、上空を睨んだ。

しかし、大空を飛ぶ魔皇バアルは、地を這うレメディオスに睨まれてる事すら気付かない。

 

 

『足手纏いの愚かな下等生物(ニンゲン)どもよ! この俺の血肉となるがいい! 皆殺しにしてやる!』

 

「そ、そんな……」

 

 

ケラルトは絶望感に身を苛まれていた。

唯一の希望であるベリアルは重傷だ。

そして、王都の民を人質に魔皇バアルは攻撃を繰り返すだろう。

何も守るものがない魔皇バアルと、地上の人間を守らなければならないベリアル。

力量が互角だとしても、勝敗が決まってしまうほどの有利な条件。

 

魔皇バアルの言葉の通り、自分達が足手纏いになってしまっている。

それが堪らなく、ケラルトは辛かった。

 

 

『さぁ、また俺に殺されるべく空へ戻ってくるがいい! 相手をしてやるぞ、ベリアル!』

 

「…………」

 

 

魔皇バアルの挑発。

それに対してベリアルは……顔を歪めて、複雑そうな心境を見せていた。

 

レメディオスとケラルトは、ただ、ベリアルのことを心配そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケラルトとレメディオスにめちゃくちゃ心配されている。

まぁアレだけ高い場所から燃えながら落下したし、心配される理由も分かる。

 

だが、HPは一割しか減ってない。

全然、まったく、ほんの少しも、これっぽちも重傷ではない。

 

だというのに、心配されている。

 

怪我の痛みとか全然ない。

ただ、落下中に空中でグルグル回ってた所為で、平衡感覚がメチャクチャになってるだけだ。

だから立とうとしてよろけただけなんだが、ケラルトは誤解していた。

 

いやマジで大丈夫なんだって。

だから、二人とも退いて欲しいんだけど。

 

そう言ったが、納得して貰えない。

何を言っても強がりを言っているようにしか見えないだろう。

 

ってか、まぁ実際、まだ平衡感覚が戻ってないし……バッドを持ってグルグル回った後みたいになってるし、本調子ではないのは確かにそうなのだが。

 

……まぁ、いっか。

 

もう少しだけ休憩したら、魔皇バアルの元へ行くとしよう。

アイツ、場の雰囲気を持たせるためにマイクパフォーマンスしてくれてるし。

 

 

……よし、平衡感覚も戻って来た。

 

待たせ過ぎても悪いし、そろそろ立って、向かうとするか──

 

 

「ベリアル様、もう少し待って下さい! 私がなんとか治癒を……!」

 

「ベリアルっ、私に出来る事はないか!? 何か、何でも良いんだ!」

 

 

た、立てない。

圧が凄い。

 

俺を心配してくれるのは嬉しいが──いや本当にめちゃくちゃ嬉しいが──今は一旦、退いて欲しい。

 

 

「……俺は大丈夫だ。魔皇バアルと戦ってくる」

 

「そ、そんな! そんなの、ダメです! 行かないでください!」

 

 

だ、ダメ?

え? いや、ダメ?

俺以外、魔皇バアルに勝てる奴いないよね?

 

ケラルトは合理的な女の子だと思っていたんだが……いや、別に馬鹿にしようという訳じゃない。

寧ろちょっと、こうして理屈を超えた心配をされるのは嬉しいし。

めちゃくちゃ可愛いし。

 

このまま抱きしめ返したいぐらいだ。

 

 

「ベリアル! 勝算はあるのか!?」

 

「……あるぞ?」

 

「ほ、本当か!? 本当なんだろうな!?」

 

 

レメディオスに肩を揺すられる。

いや、勝算はあるって。

そもそも、魔皇バアルの攻撃で俺を殺すのは不可能だ。

単純に火力が不足しているし、速度も足りていない。

 

完全に油断していた状態の、俺への不意打ちですらHPの1割しか削れていない。

理屈的には俺にあと9回不意打ちすれば勝てるかも知れないが、現実的には不可能だ。

 

対して俺の攻撃は、命中すれば魔皇バアルの体を寸断出来る。

さっきも一度、腕を切り飛ばしてたぐらいだしな。

 

 

「…………」

 

 

だからそう、幾らでも勝てる。

勝算しかないのだから。

 

 

「ベリアル!」

 

「ベリアル様!」

 

 

あの、だから俺、そろそろ魔皇バアルの元へ行きたいんだけど──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、出てくるが良い! ベリアルよ! それとも、恐れをなしたか!?』

 

 

魔皇バアル……正確には、淫魔(インキュバス)の人外形態をコピーしたラズロを、更にコピーした上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)は、上空から地上を見渡した。

 

“全力で戦え”と、そう願われたからこそ、王都の民を巻き込むように範囲攻撃魔法を繰り出した。

それが最も勝率を生み出す策だったからだ。

 

結果は想定通りの隙を生み出し、不意打ちまで熟す事ができた。

 

しかし、地上に墜落したベリアルが上がって来ない。

アレで致命傷になるとは魔皇バアルは考えていない。

だからこそ、すぐに上空へ戻ってくると思っていたのだが。

 

しかし何故か。

ベリアルへ攻撃を叩き込んだ瞬間からずっと、背筋が凍るような感覚がある。

怖気、というもの……それが身体を駆け巡っている。

 

それを振り払うべく、魔皇バアルは己の任務を熟すべく……聖王国の人間が持つ恐れを読み取り、役割(ロール)を熟す。

 

 

『どうした! 来れないか! 臆病者め!』

 

 

魔皇バアル。

正確にはラズロが召喚した上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)

 

この偽魔皇バアルは、ナザリックの住民ではない。

ナザリックの住民であるラズロが召喚したモンスターというだけで、ナザリックの常識を知らない。

 

知らなかったのだ。

 

 

『愚鈍な弱者め! 英雄気取りの愚か者め! アインズ・ウール・ゴウン魔導国とかいう、貴様の国もさぞ大した事がないのだろう!』

 

 

至高の四十二人であるベリアルを。

そして、アインズ・ウール・ゴウンを。

 

例え演技であろうと嘲笑する事の危険性を……魔皇バアルは、知らなかった。

 

 

「いい加減、耳障りだぞ」

 

『ん?』

 

 

魔皇バアルの背後から声が聞こえた。

振り返ろうとした、その瞬間──

 

 

「<現断(リアリティ・スラッシュ)>」

 

 

身体を真っ二つにされた魔皇バアル……上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)が最後に見たのは……死を超越した者(オーバーロード)の姿だった。

 

 

 




ベリアル「あっ」

ラズロ「あっ」

上位二重の影「あっ(絶命)」
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