※この作品はR-18です。

【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話   作:口だけの淫魔

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#95 救国の後に

真っ二つになった魔皇バアルが、空から落ちていく。

その真後ろにはアンデッドの王の姿があった。

地上で見上げていた国民は歓声も上げず、ただ困惑した様子で見上げていた。

 

 

「え?」

 

 

俺の前でケラルトが素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「な、なんだ? 何が起きた!?」

 

 

レメディオスは困惑しながらも、取り乱していた。

 

そんな二人に対して俺は──

 

 

「……あー」

 

 

ラズロが俺に黙っていた“秘密”の正体を察した。

 

俺と魔皇バアルの戦闘を、モモンガさんが見学していたのだ。

なるほどね。

見学してると知ったら俺が恥ずかしがるからと黙ってたんだろうな。

モモンガさんらしい。

 

しかし、その……なんで?

何で魔皇バアルを殺しちゃったんだ?

 

困惑する俺のすぐ側で、ケラルトが恐怖に震えていた。

 

 

「ま、魔皇バアルを容易く殺せるアンデッド、なんて……」

 

 

ケラルトが腰を抜かして、尻餅をつき──

 

かけたので、俺が抱える。

あ、柔らか。

 

尻を触っちゃったが、不可抗力だ。

まぁ、普段からもっと凄い事してるし良いよね。

 

しかし、華奢だな。

抱く度に思っているが、もっとご飯いっぱい食べた方が良いぞ……っと、問題は上空の……何でか魔皇バアルをぶっ殺してしまったモモンガさんの扱いだ。

 

そっちが先だ。

 

そもそも何で殺したんだ?

……いや、俺の所為か?

 

魔皇バアルは俺を攻撃して、さらには嘲笑の演技までしていた。

見学していたモモンガさんは地面に落下して消息不明となった俺を案じて……。

 

あ、うん。

 

俺の所為か。

モモンガさん、キレちゃったのか。

 

まぁ、仕方ない。

モモンガさんは仲間思いだ。

だというのに、過去に仲間を失っている。

ナザリックという場所に来なくなる……二度と会えなくなる、そんな失い方をしている。

 

だからこそ、仲間の危機に動揺するのも当然だ。

俺と魔皇バアルの戦いは脚本なしの勝負だった。

モモンガさんが不安になるのも分かるし、今、過保護になってるケラルトやレメディオスのように、俺が重傷を負った!と勘違いするのも分かる。

 

 

……やっぱり俺の所為じゃん。

 

 

と、取り敢えずね?

取り敢えず、取り乱している二人を何とかカバーしなければ──

 

そう考えた瞬間、俺の居るバルコニーに一つに影が現れた。

空間転移によって、俺の元へとやって来たモモンガさんだ。

 

レメディオスは剣を持ち、俺を守るべく前に出た。

ケラルトは無意味だと知っているだろうに、俺を守ろうと抱きついてきた。

 

 

「…………」

 

 

急に敵意を向けられたモモンガさんが、少し困惑している。

アンデッド顔だから、俺以外の奴らには無表情に見えるかも知れないが。

 

 

「……ぇー、ごほん」

 

 

思わず、といった様子で、モモンガさんは咳払いをした。

 

 

「……聖王国の聖騎士団長と、神官団長だな? そこに居るベリアルを受け渡して貰いたいのだが」

 

 

魔導国の王に相応しい尊大な態度で話し掛けたが──

 

 

「だ、黙れ! お前がどれだけ強かろうと、ベリアルは渡さん! 例え、私が死んだとしても!」

 

「私もです!」

 

「……え? あ、うん?」

 

 

逆効果だった。

 

レメディオスの言葉に、モモンガさんがたじろいだ。

何故こうも敵意を向けられるのか分かっていないのだろう。

……一度、自分の顔を鏡で見た方が良いと思う。

めちゃくちゃ人相が悪い……いや、人相が存在しないガイコツ顔なのだから。

 

ちらちらと俺の方を見てくる。

助けを求めているのだろう。

 

俺は上半身を起こしつつ、二人に視線を向けた。

 

 

「あー……二人とも?」

 

「なんだ!?」

 

「何ですか!?」

 

「その人は、うちの上司の……アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下だ」

 

「……なに?」

 

「え?」

 

 

カストディオ姉妹は互いに顔を見合って、そしてモモンガさん……魔導王、アインズ・ウール・ゴウンへと目を向けた。

直後、モモンガさんは顎に手を当てて頷いた。

 

 

「……そうだ。私が魔導王アインズ・ウール・ゴウン、その人である」

 

 

鏡の前で練習していたであろう自己紹介を決めたモモンガさん。

だというのに、ケラルトとレメディオスは──

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

キャパオーバーで固まっていた。

いや、気持ちは分かる。

 

なんで一国の王が他国のピンチに救援に来てんだって話だし。

前情報は何もないし。

自分達が敵わない相手を一撃で倒したし。

 

何故、なに、どうして。

そう考えている二人を納得させられる言い訳を考えなければならない。

 

俺は全力で思考を回す。

別にキレ者でもないし、策略に長けた軍師でもないが、凡人なりに必死に思考を回す。

 

そして、捻り出す。

 

 

「……魔皇バアルが出た時、あらかじめ助けを呼んでおいたんだ。俺がな」

 

 

そう口にすると、モモンガさんの目が僅かに光った。

 

 

「そ、そうだ。我が盟友ベリアルの頼みとあっては、急ぎ来なければならなかった。故に転移でここまで来たのだ」

 

 

その言葉を聞いたケラルトは納得がいったような顔をして、直後、青ざめた。

 

 

「も、申し訳ありません、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下。先程は無礼な態度を……」

 

 

そう謝罪をしつつ、ケラルトはレメディオスの脇腹を肘で突いた。

 

 

「え、あっ。も、申し訳ありません?」

 

 

レメディオスは納得がいってなさそうな顔で謝罪した。

彼女は未だ、アンデッドであるモモンガさんに警戒心を抱いているのだろう。

 

対してモモンガさんは大らかな態度を見せた。

 

 

「いやいや、構わないとも。二人はベリアルを心配してくれていたのだろう。我が友を案じ、守ろうとする者を咎めるほど、私は狭量ではない」

 

 

その声色は心の奥底から、気にしていない素振りだった。

寧ろちょっと嬉しそうに見える。

……よく分からんが。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

ケラルトもよく分かってなさそうだが……少し安堵して、頭を下げた。

対して、モモンガさんは俺の方へ視線を向けた。

 

 

「しかし、ベリアルよ。その、すまないな?」

 

 

モモンガさんの謝罪に、ケラルトもレメディオスも少し不思議そうな顔をした。

何を謝っているのか分からないからだろう。

 

俺は分かるが。

元々予定していた作戦を癇癪でぶっ壊した事に対する謝罪だろう。

 

 

「いやいや、構わないさ。十分に間に合っている。助けてくれて感謝しているさ」

 

 

俺の言葉に、ケラルトは納得したような顔をした。

モモンガさんの発言を「“助けが遅くなって“すまない」と解釈したのだ。

まぁ実際は違うけど、俺が勘違いするように誘導した。

 

そんな俺とモモンガさんの様子を見て、ケラルトは少し考えるようなそぶりを見せた。

 

 

「その、恐縮なのですが……ベリアル様と……アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下にはお願いがあるのですが」

 

「……お願い?」

 

「お二方には、勝鬨をあげて頂かねばなりません」

 

 

その言葉にモモンガさんは首を傾げた。

 

 

「勝鬨か……そうか、なるほど」

 

 

あ、この仕草は分かってない、納得してない時のモモンガさんだ。

慌てて俺が口を開く。

 

 

「なるほど。魔皇バアルが討伐されたとはいえ、状況は国民も理解していない。ここでアインズさんが魔皇バアルを倒し、国は救われたのだと知らせる必要がある……という事か?」

 

「あ、はい。その通りです」

 

 

ケラルトが頷く。

そして俺の言葉で理解したのか、モモンガさんもこっそり頷いていた。

……レメディオスも。

 

 

「ふむ。では私が<飛行(フライ)>で上空に飛び、拡声魔法で声を届けるとしよう。ベリアルも来てくれるか」

 

「勿論だとも」

 

「では……レメディオス殿とケラルト殿。私は任を果たすとしよう。失礼させて貰う」

 

 

モモンガさんが顔を向けると、二人はどこか不安そうな顔をした。

何が不安だというのか。

……あ、そうか。

 

 

「二人とも」

 

「え? あ、はい?」

 

「なんだ?」

 

 

俺は立ち上がり、片腕でケラルトを、片腕でレメディオスを……二人を抱きしめた。

 

 

「すぐ戻ってくるさ、心配しなくていい。魔導国に帰るとしても、ちゃんとお別れをしてからだ」

 

 

彼女達は魔導王に連れられて、俺が居なくなるのを怖がっていたのだ。

まぁ、さもありあん。

街の復興は必要だし、カルカのことも解決していない。

勝手に帰られては困るだろう。

 

そう考えて抱きしめたのだが……二人とも、抱きしめ返して来た。

 

 

「あぁ、分かってるとも」

 

「姉様に同じく……貴方がそんな不義理をしないことぐらい、私は知ってますから」

 

 

……なんか、しんみりしちゃうな。

名残惜しく感じながら、すぐまた会えるからと二人から離れてモモンガさんの隣に立った。

 

 

「では行こう、アインズ」

 

「…………」

 

 

モモンガさんが、じっとりとした目で俺を見ている。

 

 

「アインズ?」

 

「あ、うむ。では行くとしよう。<飛行(フライ)>」

 

 

そうして、モモンガさんと俺は上空へと向かうが──

 

 

「ベリアルさん」

 

「ん?」

 

 

飛行中……アインズ・ウール・ゴウンとしてではなく、モモンガさんとして俺に話しかけてきた。

 

 

「……その、すみませんでした」

 

「いや、気にしてないから。大丈夫だ……でも、何故、魔皇バアルを殺したんだ?」

 

 

空の上、誰にも声は聞こえないだろうし、いいか。

俺の言葉に、モモンガさんが恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

 

「演技だと分かってはいたんです。いたんですけどね……ギルドやギルメンのことを悪く言われると、腹が立ってしまって」

 

「あー、まぁ、仕方ないな」

 

「やっぱり蘇生した方が良いですか? あの上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)」

 

「いや、しなくていい。元々殺す予定で召喚したモンスターだ。蘇生して害はあっても利益はない」

 

 

幾らラズロに従うといっても、ナザリックのモンスターじゃないし。

ナザリックに忠誠を誓っている訳じゃないし。

そんな外様をナザリックの者達が許すとは思えない。

 

俺の返事にモモンガさんは安堵の息を吐いた。

 

 

「ハァ、なら良かった……けど、どうします?」

 

「どうって、何が?」

 

「元々、ベリアルさんが聖王国を救済した英雄になる計画だった……ってラズロから聞いてます。でも、俺が魔皇バアルを殺しちゃったんで……ほら、筋書きがボロボロに」

 

「あー、そうだな。まぁ、いいんじゃないか? モモンガさんが……ってか、魔導王が聖王国を救ったって事で」

 

 

重要なのは聖王国の国民に、魔導国から恩を売る事だ。

魔導国の旗印が俺の顔だろうと、魔導王の顔だろうが、どっちでも問題はない。

 

俺はそう答えたが、モモンガさんは申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 

「良いんですか? 功績を横から来た誰かが掻っ払って」

 

「良いんだよ。本当に評価して欲しい人からは、ちゃんと評価されてるからな」

 

 

主に二人だ。

ケラルトとレメディオス……彼女達は、ちゃんと俺を評価してくれている。

ならば、万が一にも国民が「魔導王陛下万歳! ベリアルは口先だけのカス!」とか言って来たとしても、全然堪えない。

 

 

「…………」

 

 

そう思っての発言だったが、モモンガさんはまたジトっとした目で俺を見て来た。

 

 

「モモンガさん?」

 

「いえ……こう、どこに行っても現地妻を作ってるなーって思っただけです。聖王国で、しかも二人も」

 

 

責めるような視線だ。

女にうつつを抜かしているとか、そういった事を咎める目だ。

 

 

「ちゃんと愛してるぞ? 二人とも」

 

「そういう問題じゃないと思うんですけど」

 

 

そもそも、元々あの二人……というか、聖王女を含めて三人を救うための作戦だ。

現地妻を作りに来たといっても過言じゃない。

だからそう、作戦中にフラフラと女の子にナンパした訳じゃないんだ。

ナンパするのが目的だから、さ。

 

 

「……ハハハ」

 

 

なんて言い訳を口にはしない。

俺が苦笑していると、モモンガさんがため息を吐いた。

 

 

「はー……こうしてどんどん側室が増えていく、と。女の子にモテモテで良い身分ですね」

 

「……モモンガさんにも、アルベドとシャルティアが──

 

「こんなアンデットの身体でどうしろと?」

 

「…………」

 

「あ、ちょっと黙らないで下さいよ。冗談ですよ、冗談」

 

 

モモンガさんは白骨死体……生殖機能などない。

幾ら好意を向けてくれる美女や美少女が居ようと、何も出来ないのだ。

ちょっと失言だったか、なんて思いながらも、俺とモモンガさんはホバンスの上空に到達した。

下から、国民達が指を刺して見上げている。

 

 

「じゃあ、そろそろ勝鬨でもあげるか」

 

「そうですね」

 

 

俺はモモンガさんが喋るのを待つ。

 

 

「……………」

 

 

しかし、モモンガさんは喋らない。

 

 

「「………………」」

 

 

俺も喋らない。

黙って二人、顔を向けあった。

 

 

「モモンガさんがどうぞ」

 

「いえ、ベリアルさんこそお願いします」

 

「いや、ここは魔皇バアルを討伐したモモンガさんが」

 

「いえいえ、俺知ってるんですよ? ベリアルさんが聖王国で知名度あるの。ここはベリアルさんでしょ」

 

 

まるで会社の宴会で音頭を押し付け合うように、俺とモモンガさんは勝鬨を上げる役割を押し付け合い──

 

 

「はぁ、なら仕方ないか」

 

 

俺が折れた。

この作戦の責任者は俺だ。

ならば、こう言う場面で率先的に動くべきは俺だ。

 

俺は拡声器代わりの魔法を発動させて、声を張り上げる。

 

 

「聖王国の民よ! 国を侵そうとする悪魔、魔皇バアルは滅んだ! 魔導国の王、アインズ・ウール・ゴウン陛下の力によって、討ち滅ぼされたのだ!」

 

 

俺の言葉に、地上の国民達は感嘆の声を上げた。

対して、モモンガさんが片手をあげた。

 

直後、爆発的な歓声が上がった。

 

 

「「魔導王陛下、万歳! 魔導国、万歳!」」

 

 

崇めるような歓声に俺は安堵した。

何とか、モモンガさんの姿を受け入れてくれたようだ。

と、地上を見ると……げっ、ネイアとビビアナが号泣しながら万歳三唱している。

途端にこの歓声が気持ち悪く感じて、俺は耳を塞ぎたくなった。

 

だが、ここで耳を塞ぐと不信感を抱く国民も湧くだろう。

俺は羞恥心に苦しみながら、片手をあげて手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔皇バアルは滅んだ。

亜人達の問題が根本から解決した訳ではないが、一つ、大きな節目となったのは事実だ。

一先ずは平和が訪れたのだと、聖王国の国民達が喜んでいた。

 

そんな中……俺とモモンガさんは、聖王女カルカの居る寝室まで来ていた。

側にはレメディオスとケラルトがいる。

 

 

「ふむ。では、魔法によって魂を聖王女殿に戻すとしよう。構わないな?」

 

 

モモンガさんの手にはカルカの魂が込められた水晶……というのは大嘘の、低レベルの魔法水晶が握られていた。

 

そんなモモンガさんの言葉に、ケラルトは頷いた。

 

 

「はい、構いません……カルカ様をどうか、お助け下さい」

 

「……私からも、頼む」

 

「良いだろう」

 

 

ケラルトとレメディオスの言葉にモモンガさんが頷き、ベッドで眠るカルカの前にたった。

俺も付き添いで、反対側に立つ。

 

モモンガさんが水晶を手に、魔法陣を作り出した。

ちなみに、全然ダミーだ。

 

そして──

 

モモンガさんが虚空からスクロールを取り出し、発動させた。

あれは高位の信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)が使用できる治癒魔法だ。

同じく信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)であるケラルトでも、理解できない程に高位の治癒魔法……カルカに付与された状態異常を解除するには過剰だが、誤魔化すために態と仰々しい高位魔法を使用しているのだ。

 

実際、ケラルトは違和感よりも、スクロールから発動された魔法の位階に圧倒されていた。

 

そうして、モモンガさんの手元からカルカの魂……と、している水晶が溶けて消滅した。

カルカの身体に魂が宿った、という訳ではなく、マジで溶かしただけだ。

 

こういうのは雰囲気が大事。

実際は睡眠の状態異常を解除するだけだが、それを魂がうんたらに偽装するのだから、“けれんみ”は必要だ。

 

そして、一連の動作を終えたモモンガさんは──

 

 

「完了した。これで聖王女の魂は肉体に戻っただろう」

 

 

演技を終えて、頷いた。

しかし、カルカはまだ目を覚ましていない。

レメディオスは体を乗り出して、モモンガさんへ顔を向けた。

 

 

「ほ、本当か!? しかし、カルカ様はまだ目を覚ましていないぞ!?」

 

「落ち着け。呪いは解き、魂は戻した。今はただ、眠っているだけだ。いずれ眼を覚ますだろう」

 

「そ、そうか……なら、良いんだが……」

 

 

安堵の表情で、レメディオスは腰を落とした。

対して、妹であるケラルトは膝から崩れ落ち──

 

慌てて俺が抱き止めた。

あ、またお尻触っちゃった。

 

 

「ケラルト、どうした? 大丈夫か?」

 

「い、いえ、安心したら、その、腰が抜けてしまって……」

 

 

涙目でそう口にするケラルトは、幾分か表情が柔らかくなっていた。

カルカが不在の聖王国を支えて来たのだ。

重責から解放されると思い、心が楽になったのだろう。

 

……まぁ、聖王国をめちゃくちゃにしてたのは俺達なのだが。

じりじりと妬けつくような罪悪感を感じつつ、俺はケラルトの肩を抱いた。

 

そんな俺とケラルトから、モモンガさんは眼を逸らしつつ咳払いをした。

 

 

「ごほん。では、約束は果たした。今後の話は魔導国でさせて貰う……聖王女殿が眼を覚ましたら、魔導国まで来て貰おうか。構わないな?」

 

「は、はい! 魔導王陛下、ありがとうございました!」

 

 

ケラルトが慌てて立ち上がり、頭を下げた。

それに合わせて、レメディオスも頭を下げていた。

 

その対面にいるモモンガさんは気まずそうな顔をしているが。

 

 

「う、うむ。よい、困った時はお互い様だ……うん。では、私は魔導国に帰らせて貰う。<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>」

 

 

モモンガさんは気まずさからか、逃げるように転移魔法で魔導国へと帰ってしまった。

俺には分かるぞ。

特に大した事をしてない、原因が自分で作った事に対して感謝されると気まずいんだよな。

 

俺は一つため息を吐いて、二人へ眼を向けた。

 

 

「ま、これで万事解決って……訳でもないが……二人はこの後はどうするつもりだ?」

 

 

俺の問いにケラルトが頷く。

 

 

「私はカルカ様が眼を覚ますまで、ここで待つつもりです。目が覚めた時に事情を説明する人が必要ですから」

 

「それもそうだな。まぁ、無理はしないようにな……レメディオスは?」

 

 

俺がレメディオスに視線を向けると、忙しなく頷いた。

 

 

「私も同じだ。カルカ様が心配だからな」

 

「そうか」

 

 

魔導王というアンデッドから治療された……という事実が不安なのだろうか。

レメディオスはどこか真剣な表情で、カルカの寝顔を見ていた。

 

俺もカルカの寝顔を見る。

 

……めちゃくちゃ可愛いんだよな。

ケラルトやレメディオスも美人だが、容姿の整い方なら……優劣付けるのはアレだが、客観的に見るならカルカの方が上か。

まつ毛長いし、肌は綺麗だし、目鼻も整っている。

端的に言うと美人だ。

ローブルの至宝と呼ばれてるだけある。

 

 

「おい、ベリアル。カルカ様に見惚れる気持ちは分かるが、そう凝視するな」

 

 

ぼーっと見ていると、レメディオスに肩を叩かれた。

 

 

「すまん」

 

 

俺は自分の首の後ろを撫でながら、レメディオスへ視線を戻した。

……ちょっと妬いてる顔だな。

かわいい。

 

んー、女の子の可愛さって容姿だけじゃないんだよな。

信念の持ちよう、心の在り方、仕草、関係性、えとせとら。

容姿の整い方なら、確かにカルカの方がレメディオスより上だが……現状、俺はレメディオスの方が可愛く見える。

 

 

「しかし、二人とも此処で聖王女陛下が眼を覚ますのを待つのか。なら、俺も居ていいか?」

 

「……構いませんが、何故ですか?」

 

 

俺の言葉にケラルトが首を傾げたが、傾げたいのは俺の方だ。

 

 

「え? いや、何となくだが」

 

「……まぁ、良いですが。カルカ様に変な事はしないでくださいよ」

 

 

する訳ないだろ、と思いつつも……ケラルトが俺にこんな事を言う理由を考えれば、一つしか思いつかない。

ケラルトも嫉妬しているのだ。

 

二人とも、聖王女カルカ陛下を素晴らしい女性だと考えているからなぁ。

俺が目移りしないか心配なのだろう。

 

でも、まぁ、カルカは美人で可愛いし。

人に優しく、信念も持ち合わせている。

……うん、まぁ好みの女の子なのはひていしない。

だが、無理に関係を持つつもりもない。

 

当初の目的である、ケラルト、カルカ、レメディオスの三人を救う事には成功した。

魔導国に対して良感情を抱かせたのだから、ナザリック……主にデミウルゴスが、彼女達を処分する理由もなくなった。

 

カルカが魔導国をどう考えているかは分からないが、側近であるカストディオ姉妹が親魔導国側になったのだから、絆されるに違いない。

 

 

「取り敢えず、ここに居座るとしても、やるべき事を先にやらないとな……少し離席する。二人とも何か腹は減っているか?」

 

「それはえっと、まぁ……」

 

「減ってるぞ」

 

 

恥じらうようなケラルトに対して、あっけらかんと頷くレメディオス。

そんな二人を見て俺は頷いた。

 

 

「なら、少し時間をくれ。魔導国から何か取り寄せよう」

 

 

俺の言葉にレメディオスは顔を険しくさせた。

 

 

「なに? 今から魔導国に行って帰ってくるのか? 何日かかる? 私を飢え死にさせるつもりか?」

 

 

ケラルトも黙ってはいるが同じ意見のようだ。

それもそうだ。

普通に行けば、魔導国と聖王国の間はかなり距離が離れている。

それこそ数時間とかじゃなくて、何日だってぐらい。

 

 

「いや、魔導王陛下から魔法道具(マジックアイテム)を借りていてな。一日に回数制限はあるが、魔導国に転移する事が出来るんだ」

 

「え? そんな魔法道具(マジックアイテム)があるんですか?」

 

 

いや、ないけど。

全然、自前の転移魔法だ。

でも、こうして嘘を吐かないと、俺が転移を使えると知られてしまう。

知られると、この聖王国奪還の道のりが急激に茶番へと変わってしまう。

 

 

「まぁ、魔導国の国家機密だ。で、だ……魔導国への報告を兼ねて、何か美味い食事でも持って来ようって考えてな」

 

 

俺の言葉にケラルトは、脳内に俺が出した茶菓子を思い出しているようだ。

少し頬が緩んだが、慌てて顔を引き締めていた。

 

 

「それはありがたいのですが……良いのですか?そんな事に使って」

 

「いいさ。二人とも見ていただろう? 俺と魔導王陛下は仲が良いんだ」

 

 

俺の言葉にケラルトとレメディオスが、少し複雑そうな顔をして頷いた。

多分、頭では納得しているのだろうが、やはりアンデッドの王という存在が恐ろしいのだろう。

そんな恐怖の存在と友人である俺を、心配しているというか、不安に感じているというか。

そんな感じだな。

 

話せば良い人だって分かるんだけどな、モモンガさん。

 

 

「では、少し失礼。日が暮れる前には帰ってくるからな?」

 

「え、ええ、はい。お待ちしております」

 

「私もだ」

 

 

二人と別れて、俺は王城の廊下へ出て……こっそり、人が居ない所で転移した。

目的地は魔導国……ではなく、ナザリックの玉座の間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荘厳たる玉座の間。

そこに居たのは──

 

 

「っと、ラズロか」

 

 

ラズロだ。

いつも通りホワイトブリムさんにデザインして貰ったメイド服を着ているが──

 

 

「…………」

 

 

顔が、埴輪(はにわ)のようになっていた。

目が点で、口も窄めている。

 

虚無のような表情だ。

 

俺が横に来たというのに、そんな無表情で虚空を見ていた。

 

 

「……おい、ラズロ? おーい?」

 

 

俺が声をかけ、目の前で手を振ると──

 

 

「は、はひっ、父上!? 申し訳ありません!」

 

 

即座に顔を整えて、向き直った。

さっきまでの溶けたような表情ではなく、いつも通りの凛々しい美少女の姿に。

 

 

「……どうかしたのか? 随分と落ち込んでいたようだが」

 

「いえ、それは、その、あの……」

 

 

両の手を胸の前に合わせて、ラズロは視線を彷徨わせた。

気まずそうな顔で苦笑いしている。

 

 

「あー、そうか。魔皇バアルの件か?」

 

「へうっ、そ、そそそ、そーです……」

 

 

また表情筋を溶かして、この世の終わりって顔をした。

何でそう、精神ダメージを受けているんだ。

 

 

「落ち込むような事、あるか?……って、あー、仮にも召喚した部下を殺してしまった事を気に病んで──

 

「いえ、そういう訳ではありません。これっぽっちも同情してませんから」

 

「……あ、そう?」

 

 

随分な言いようだ。

ラズロの顔には、ほんの少し怒りが滲んでいた。

 

 

「……あの二重の影(ドッペルゲンガー)、アインズ様の機嫌を損ねていました。その所為で当初の作戦も破綻して、父上を聖王国を救済した英雄に祭り上げる事も失敗してしまいましたし。アインズ様が殺さずとも、私が折檻する予定でした」

 

「……あー、いや、そうだな? でも、俺は気にしてないぞ?」

 

「父上が何を言おうと、失態は失態です。召喚した部下の失態は、私の失態ですから……申し訳ありません」

 

 

うーん、こうなっては仕方ないか。

正直、ラズロはよくやってくれているし、欠点など無いのだが。

叱るような事などない。

 

なんて考えていると、玉座の扉が開かれた。

 

そこにいたのは黒いローブを身に纏ったモモンガさん……アインズ・ウール・ゴウン。

側近のアルベド、そしてデミウルゴスまで居た。

 

ラズロの顔がしわくちゃになった。

比喩とかじゃなくて、マジでしわくちゃだ。

二重の影(ドッペルゲンガー)だから、精神状況が顔に現れてる……のか?

 

まぁ一瞬で戻ったが。

モモンガさん達は気付いていないようだ。

 

なんて事を考えていると、モモンガさんが玉座に座った。

 

 

「まずは二人とも。聖王国での任務、ご苦労だった」

 

「は、ありがたき幸せです」

 

 

尊大な態度で労うモモンガさんに、ラズロが頭を下げた。

俺もちょっと頭下げとこ。

 

 

「長期間の出向だったが、十分な働きをしてくれた。この場に居ないが、ナーベラルも含めて三人には十分な褒美が与えられる事を約束しよう」

 

 

褒美か。

といっても、俺は現状満足しているからな。

あれが欲しい、これが欲しいと言えば手に入る現状、ある意味で無欲な状態だ。

 

 

「そして、デミウルゴスの方からも一言あるそうだ。デミウルゴス、話すと良い」

 

「はっ、ありがとうございます。アインズ様」

 

 

デミウルゴスが一歩前に出てきて、ラズロが顔を強張らせた。

 

取り敢えず、デミウルゴスが何かしらラズロの失態を咎めるような物言いなら、弁護してやらないと──

 

 

「いやはや、素晴らしい成果でした。私の想定していた筋書きより、遥かに優れた結果を残してくださいました。流石は至高の御方……そして、直々に創造された下僕(しもべ)と言わざるを得ないでしょう」

 

 

ん?

 

 

「このデミウルゴス、感服致しました。特に最終局面、魔皇バアルという虚像を踏み台に、魔導国と聖王国の力関係を確立させた一手に関しては、私の想像を遥かに上回る妙手としか呼べません」

 

 

ん〜〜〜???

 

てっきり叱られると思ってた俺は、困惑しながらモモンガさんを見る。

あ、意気消沈してる。

俺達と合流する前に、既に色々と会話したのだろう。

 

激情のまま作戦をめちゃくちゃにしてしまったのに「流石はアインズ様!」されて、罪悪感というか羞恥というか、色々なものが胸を占めているのだろう。

 

困惑したり落ち込んだりしている俺とモモンガさん。

その事実に気付いたか、ラズロが恐る恐る手を挙げた。

 

 

「……あのー、デミウルゴス?」

 

「ほう、何かな? ラズロ」

 

「私にも分かるように説明を願いたいのです。アインズ様がどのような叡智と策略をもって、魔皇バアルを倒したのか」

 

 

俺とモモンガさんの代わりに、質問をしてくれているのだろう。

本当に気が利く娘である。

 

 

「ふむ? 貴方は気付かなかったのですか? まぁ、いいでしょう……アインズ様、私から話しても構いませんか?」

 

「え、あー、うん。よきにはからえ」

 

 

モモンガさん、めちゃくちゃ適当な返事をしてるな。

 

 

「当初の目的ではベリアル様が魔皇バアルを討伐することで、聖王国の国民に恩義を感じさせ、将来的に属国にする予定でした」

 

 

……まぁ大体想定通りだ。

属国にする予定とか聞いてないけど。

 

モモンガさんに視線を向けると、目を逸らされた。

多分、モモンガさんも知らなかったのだろう。

 

 

「しかし、想定外の事が起きました。ベリアル様が偉大過ぎる余り、国民の信仰が集まり過ぎていたのです」

 

 

……あ、うん。

偉大過ぎる、ってのは肯定できないが、信仰が集まり過ぎているのは分かる。

ネイアとかの所為だと思うけど。

 

 

「このままでは魔導国に対する恩義ではなく、特定の個人への恩義となってしまいます。それでも問題はありませんが、魔導国の属国となった聖王国民が、愚かにも不信感を抱く可能性があります」

 

 

何となく言いたい事は分かる。

 

魔導国に対して恩義を感じているのであれば、魔導国の下についたとしても許容できるだろう。

だが、個人の英雄に恩義を感じているのであれば、その英雄が所属する国であろうと反感を持つ者が居てもおかしくがない。

 

魔王を倒した勇者に感動はしても、勇者を召喚した国に仕切られるのは腹立つ……って感じか。

 

 

「しかし、アインズ様が魔皇バアルを討伐した事によって、状況は変わりました。その身を盾に国民を守ったベリアル様と、そのベリアル様が敵わなかった魔皇バアルを討伐した魔導王……その関係性は、英雄としての賞賛を分散する事に成功しました」

 

「ふむ」

 

 

モモンガさんが相槌をうった。

何となく内容が理解出来たからだろう。

 

 

「義によって敬うべき相手と、功績によって敬うべき相手が聖王国に生まれたのです。結果的に個人への行き過ぎた賞賛は国家規模に拡散し、英雄相手ではなく国への畏怖へと変わるでしょう……それこそアインズ様が、魔皇バアルを自らの手で殺した理由となります」

 

 

へぇー、そんな理由があったのかー……なんて呆けつつ、俺はモモンガさんへ目を向けた。

デミウルゴスの考える賢者アインズ・ウール・ゴウンのイメージ像が、現実のモモンガさんと乖離し過ぎている。

 

しかし、部下に幻滅されることを恐れたモモンガさんは、デミウルゴスの言葉に頷いた。

 

 

「そうだ、デミウルゴス。我が計略を見抜くとは、流石はナザリック一の知恵者だな」

 

「いえいえ、ご謙遜を。アインズ様とベリアル様に比べれば、私の知略など児戯に過ぎません」

 

 

これ謙遜じゃなくてマジで言ってるから怖いんだよな。

どう考えても、お前がナザリックで一番賢いよ……デミウルゴス。

 

まぁ、失態が帳消し……というか、元々無かった事になるのであれば万々歳だ。

 

無責任な事を考えながら、俺はうんうんと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで胃の痛い会議を終えて、俺とラズロはナザリックの食堂まで来ていた。

俺は手元のグラスを傾けながら、ラズロに視線を向けた。

 

 

「しかしなんというか、存外……丸く収まったな」

 

「はい……ですが、良いのでしょうか?」

 

「良いんじゃないか? 物事が上手く回っている時は、流れに身を任せるのが一番だ」

 

「……相変わらず、てきとーですね、父上は」

 

「褒めても何も出ないぞ」

 

「褒めてないです」

 

 

既に昼は過ぎて、夕食には早い。

食堂に他の客は居ない。

だが、至高の御方が来たから……と、コックは慌てて料理をしている。

聖王国にお持ち帰り(デリバリー)するために発注した料理だ。

 

流石にアイテムボックスからあつあつピザを出すとケラルトとかが泡吹いて倒れそうだし、冷めても美味しいものを敢えて常温にして用意して貰っている。

 

いや、な?

ケラルトは賢いからな。

アイテムボックス内にあるアイテムが劣化しない事に気付かれると拙いんだ。

賢いが故にアイテムボックスの価値が「すごい」程度では済まないのだと勘付いてしまう。

レメディオスなら何も考えず「ふーん、便利だな」ぐらいで終わりそうだけど。

 

まぁ、無駄に刺激するのも良くないし、せめて冷めても美味しい料理を……と思った訳だ。

 

その待ち時間に、こうしてラズロと会話をしている。

机の上には二つの氷が入ったグラス。

俺はコーラで、ラズロはメロンソーダだ。

 

……こういう、この世界の文明レベルより遥かに進んだ飲料は、ナザリックか魔導国じゃないと飲めないからな。

久しぶりに帰ったんだから、コーヒーとかじゃなくて、炭酸飲料を飲みたいんだよな。

 

 

「しかし、本当にご苦労だったな。ラズロ」

 

「本当ですよ。亜人達って臭くて野蛮で……文句じゃないですよ? 文句ではないんですけど、文明レベルが低く……夜は魔導国やナザリックに帰還していましたが、苦痛は感じてました」

 

「あー……面倒な仕事を押し付けて悪かったな?」

 

「いえ、父上の役に立つのは至高の喜びですので」

 

 

少女の姿でラズロは椅子に座っている。

椅子の高さに足先が付いておらず、ぷらぷらと揺れている。

 

 

「それでも、だ。モモンガさんから褒美も貰えるだろうが、俺からも何かやろう。何か欲しいものはあるか?」

 

「え? あー、そう、ですね……でしたら、はい。少し我儘を言っていいですか?」

 

「我儘か。あー、うん。言うだけなら無料(ただ)だぞ」

 

 

ラズロの言う我儘とは何なのか。

まぁ、普段から人の気持ちを慮る事が多いラズロのことだ。

少しぐらいの我儘なら、俺も受け入れよう。

 

そう考えながら、俺はコーラを口に含み──

 

 

「父上の陰茎を模った『ディルド』を作っても良いですか?」

 

 

ぶふぉっ。

 

 

俺はコーラを吹いてしまった。

 

え? は?

何言ってんだ、この娘は。

俺の陰茎を模ったディルド?

なんで?

何に使う予定なんだ?

 

 

「ラズロ、お前……」

 

 

俺が信じられない者を見る目で見ていると、ラズロが弁明を始めた。

 

 

「父上の側室の方々が少し可哀想なのです。こうして父上が長期の仕事で留守にしていると、相手をして頂けない訳じゃないですか。何とか自力で発散しているようですが、それでも寂しく感じているのです」

 

「……そ、そうなのか?」

 

「はい。例えばアルシェ様ですが、昨晩も自室で──

 

「いや、いい。言わんでいい。可哀想だろう」

 

 

頭が頭痛で痛くなっていた。

眉間を揉みつつ、ラズロの言葉を咀嚼する。

 

淫魔(インキュバス)と性行為(セックス)をした女は、感度が磨かれてエッチな事に積極的になる。

つまり、性欲が強くなるのだ。

 

そんな彼女達を放っておいた俺が悪いという事か。

申し訳ない気持ちになる。

 

しかし──

 

 

「ディルド、か……?」

 

 

その解決が俺の陰茎を模したディルドってどうなんだ。

俺が何とか頑張って全員の所を回るのはダメなのか?

 

……と思ったけど、俺の体は一つだ。

側室の人数を考慮すると、相手できる回数に限度もある。

手が回りきらないのが現状か。

 

 

「ダメですか? 父上」

 

「いや、まぁ、別に構わないが……それで皆が喜ぶなら」

 

「喜ぶと思います。では、すぐにでも制作させて頂きますね」

 

「あ、うん……俺から何かする事はあるか?」

 

「いえ、なにも」

 

 

何でだよ。

俺の陰茎を模したディルドを作るのに、俺は必要ない……という事はつまり、一々調べずとも陰茎の形やらを出力できるという事だ。

……あ、そうか。

ラズロは二重の影(ドッペルゲンガー)、俺に変身する事ができる。

その変身体を使って形を取るのだろう。

 

……何か嫌な姿を想像してしまった。

 

 

「ではこれを褒美とさせて頂きます。完成したら側室の方々に配りますね」

 

「あ、うん……好きにしてくれ」

 

 

俺は若干の呆れと諦めを感じながら頷いた。

そんなこんなで、コックから料理を渡された。

 

ちょっとした軽食が幾つかと、焼き菓子を幾つか。

それをアイテムボックスの中に入れて、俺はナザリックを後にしたのだった。

 

 

 

アルシェの話

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