【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
聖王国に帰った俺は、カルカの寝室まで来ていた。
「遅かったな、ベリアル」
「これでも急いだつもりなんだが」
「む、言い方が悪かったか? 別に責めたつもりはないぞ」
待っていたレメディオスに出迎えられ……部屋の中に入る。
そして、ケラルトの姿を探し……ソファで横になっている事に気付いた。
「……なんだ、ケラルトは寝てるのか?」
起こさないよう、レメディオスに小声で確認する。
「最近は忙しかったからな。こういう時ぐらい、休ませてやりたい」
「……随分と姉らしい事を言うんだな」
「姉だからな」
「それもそうか」
俺は虚空からタオルケットを取り出して、ケラルトに掛けておいた。
……いつも思っているが、寝顔が可愛い。
気を張ったような表情は鳴りを顰めて、穏やかな顔で眠っている。
そんなケラルトの頬を撫でてから、カルカを見る。
彼女もすやすやと眠っている。
この部屋に居る半分の人間が眠っている。
そんな状況に苦笑しつつ、レメディオスに視線を戻した。
「レメディオス。魔導国から軽食を持ってきたが、食うか?」
「あぁ、頂こう。何があるんだ?」
「そうだな……おすすめだと──
アレもコレも、と出すのは容易いが、アイテムボックスがイカれた能力だとバレる可能性がある。
選択肢を提示せず、彼女の好みに合いそうなものを出そう。
「これならどうだ? パンにベーコン、レタスとトマトを挟んだやつだ」
「む……なるほど。しかし、生の野菜が入っているのか?」
「何か変か?」
「いや、塩か酢に漬けられていない野菜を食うのは久々だと思ってな……」
虚空から出てきたサンドイッチに、レメディオスは目を釘付けにさせている。
少し横に移動させると、それに合わせてレメディオスの目線も動く。
面白い。
まぁ揶揄いたい訳じゃないし、手元のサンドイッチを差し出す。
「食べるか?」
「あぁ、それでいい。くれ」
それでいい、じゃなくて、それがいい、だろ。
手を伸ばしてきたレメディオスに手渡すと、口に頬張って食べ始めた。
「……美味いな」
もきゅもきゅ、という音が聞こえてくる。
こういう食いっぷりが良い所は好きだ。
自分が美味しいと思う物を、美味しいと食べてくれる女の子って、こう、どうしてこうも魅力的に映るんだろうな。
美味いものを食べさせたくなる。
そんな事を考えながら俺もサンドイッチを食べていると、後ろで布が擦れるような音がした。
振り返ると……ケラルトが寝ぼけ目を擦りながら、上半身を起こしていた。
「……おはようございます」
「おはよう、ケラルト」
「……なに美味しそうなもの、二人で食べてるんですか」
ジトっとした目に俺は苦笑した。
「いや、悪いな。起こすのも悪いかと思ってな……食べるか?」
「はい……頂きます……」
ケラルトも受け取り、小さく齧った。
寝起きだからだろう、動きが怠慢だ。
「帰ってくるのが遅くなって悪かったな」
「いえ……まぁ、いいですけど」
いいと言ってはいるが、よくなさそうだな。
まだ意識がハッキリしていないから、本音が透けて見える。
まぁ、別にだからといって気分を害する事はない。
というか害する理由もない。
寝起きのケラルトも可愛いなーってぐらいだ。
俺はそのまま机にティーセットを取り出して、紅茶を注ぐ。
「ほら、喉も渇くだろ?」
そう言いつつ、ケラルトに渡す。
「……あ、はい。ありがとうございます」
そうして紅茶を口にして、ケラルトは眠気から覚めてきたようだ。
少しずつ声に張りが戻ってくる。
そして、思考力も。
「……これ生の野菜が入っていますね。鮮度も高そうですが、魔導国で取れる野菜ですか?」
何でそんな事聞くんだ?
と思ったが、存外答えにくい問いかけだと気付いた。
これはナザリックの大森林、ドライアドに管理させている畑から取った野菜だ。
魔導国で栽培したものではない。
だが、魔導国自体にも今食べているトマトやレタスと同様の品種の野菜を栽培はしている。
だから、そう、答えは──
「そうだが、どうかしたのか?」
嘘だ。
対してケラルトは少し考えるような仕草をした。
「最低でも農地から都市部に輸送され、調理されるという過程があったというのに萎びた気配がありません。これは輸送技術の差と思いますが……やはり魔導国へ技術援助を願う事は……あ、いえ、ごめんなさい。何でもありません」
ケラルトは自分の眉間を揉みながら、申し訳なさそうな顔をした。
眠気で微睡む意識の中、度が過ぎた要求をしてしまった、とか考えているんだろうな。
別に良いのに。
「魔導王が聖王女陛下を魔道国に招致したいと言っていただろう?それを機に、魔導国を案内しようか?気になることがあるなら、尚更だ」
「よろしいのですか?」
「まぁな。特に秘密ってのもないし」
「えっと……はい。興味はありますし、お願いしてもよろしいですか?」
「あぁ、なら決定だな」
そう言いつつ、俺もサンドイッチ……
ベーコンの塩気、レタスの瑞々しさ、トマトに酸味が調和していて美味しい。
そんな俺から視線をズラしたケラルトは、ベッドで眠るカルカ一瞥した。
「しかし、それもカルカ様が目を覚ましてからですね」
「そうだな」
同意した俺の横から、レメディオスが顔を出した。
「ベリアル。カルカ様はいつごろ目を覚ますんだ?」
「ん? いや知らないが」
「分からないのか?」
「……まぁ、今は普通に寝てるだけと聞いている。起こそうと思えば起こせる筈だ」
「……いや、無理に起こす必要はない。分かった」
俺は紅茶を口にしながら、ベッドで眠る聖王女……カルカの顔を見た。
ずっと眠っているというのに艶やかな唇が妙に気になってしまう。
やっぱり美人だなー、目の保養だ。
◇◆◇
ローブル聖王国。
聖王女であるカルカは、魔皇バアルから救出してくれたベリアルと婚姻関係を結んでいた。
「旦那様、こちらは仕事が終わりましたが……本日は休憩致しませんか?」
「ん? そうだな、休もうか」
カルカはベリアルのことを旦那様と呼んでいる。
親愛を込めているが、何よりも自分がベリアルにとって“特別”なのだとアピールする為だ。
実際に旦那様と呼び始めてから、どこか愛が深まったような気がしている。
そして夜、カルカとベリアルの共同の寝室で二人机に並んでいた。
魔皇バアルによる侵略行為の爪痕で、聖王国は佳境に立たされている。
あれやこれ、仕事をプライベートに持ち込まなければ終わらないのだ。
「旦那様、今日はもうベッドに行きませんか?」
「あぁ、構わない。行こうか」
手を添えられて、カルカはベッドまで案内された。
この部屋は夫婦であるカルカとベリアルの、共同の寝室だ。
そして、この部屋にはベッドが一つしかない。
となれば、やるべき事は何か。
ぱちゅぱちゅ♡ぱちゅぱちゅ♡♡
「あっ♡あん♡旦那様っ♡♡」
子作りである。
聖王女の子息、つまり次代の王族を孕むべく性行為に励んでいた。
毎日、毎晩、カルカは精液を膣内にたっぷりと吐精して貰っている。
今も、こうして……全裸でベッドに仰向けになっているカルカを、ベリアルが正常位で抱いていた。
どちゅどちゅどちゅ♡♡♡♡
「あ♡イク♡イキますっ♡イク♡♡」
太くて硬い、カリ高の陰茎に膣内をごしごしと擦られる。
それがあまりにも気持ち良くて、カルカは喘ぎ声を漏らしていた。
どちゅんっ♡♡♡♡
「イっ、ク……っ♡♡♡♡♡」
ぷしゃっ♡♡♡♡
膣奥を突かれて、子宮を押し潰されて……カルカは絶頂した。
普段は優しくて、可愛がってくれる大好きな旦那様だが……夜はこうして、身体を貪るように犯してくれる。
聖王女としても、女としても、ただ一人のカルカ・ベサーレスという個人を男は愛してくれる。
それが堪らなく、幸せだった。
どちゅどちゅどちゅ♡♡♡♡♡
「あ♡きゃっ♡イったのにっ♡激し……っ♡♡」
絶頂直後の膣内を、男の陰茎が何度も抽送する。
膣奥の子宮口をとんとんとノックされて、子宮がぐつぐつと湧き立つ。
ばちゅばちゅばちゅばちゅ♡♡♡♡♡
「あっ♡んっ♡♡あ♡あんっ♡♡♡♡」
射精間近の脈打つ陰茎が、何度も激しく膣内を擦る。
長いストロークに浅い所と、深い所を責められて……本気汁が粘ついてくる。
そして──
びゅるるるるるるるるっ♡♡♡♡
「んっ♡あぁ、ぁ……ぁっ♡♡♡♡」
ぷしゃぁっ♡♡♡♡♡
膣内にたっぷりと射精されて、カルカは絶頂した。
熱くてぐつぐつと煮えたぎった濃厚な精液が、身体の中に入ってくる。
「あ、う……♡あっ♡」
そんな感覚に身体を震わせ、潮を吹く。
「カルカ」
「は、はい……♡」
そして、たっぷりと射精して貰った後はキスをする。
それがカルカの日常であり、男とのルーチンだった。
ちゅっ♡
「んっ……♡」
射精したのに硬いままの男らしい陰茎が膣奥を押し潰しながら……それでも唇を重ねる。
ちゅっ♡ちゅる♡れろれろ♡♡♡
「んっ♡んぅ♡ん、っんぁ♡♡♡」
舌を絡めあう。
口も、膣内も、体も、全て。
全てを密着させて、溶かし合う。
それが堪らなく幸せで、大好きだった。
「気持ち良かったか? カルカ」
「は、はい……♡今日もありがとうございました♡旦那様……♡」
ベッドで裸のまま転がり、ベリアルに腕枕をして貰う。
硬い胸筋を撫でつつ、軽く小さくキスをする。
あまりにも幸せで、幸せ、だから。
少し、不安になる。
こんなに幸せな訳があるのだろうか。
本当は夢なんじゃないか。
そう考える時もある。
カルカは不安で男に抱きついた。
「……どうかしたのか?」
「いえ、何も……」
「……そうか」
ベリアルにゆっくりと抱き寄せられた。
暖かくて力強い感触に身を包む。
その優しさに甘えて、カルカは目を閉じた。
ゆっくりと、微睡みの中へと……沈んで──
ふと、目を覚ました。
「ん、……ぅ」
欠伸を一つして、目を擦る。
そうすれば……自分の目の前に
もうすでに起きていたのか、そう思いつつ、微睡みの中……カルカは微笑んだ。
「おはよう、ございます……旦那様♡」
いつも通りの挨拶を一つ。
そしてそのまま、抱き着いた。
しかし、反応が変だった。
「…………?」
カルカの言動に、ベリアルは硬直していた。
何故硬直してしまったのだろうか。
「旦那様……?」
カルカは不思議に思った。
夫婦になってから、毎朝の日課の筈だ。
普段ならば抱きしめ返してくれて、キスまでしてくれる筈。
だというのに、目の前のベリアルは困惑している。
何かあったのだろうか。
そう考えていると……室内にケラルトとレメディオスが居る事に気付いた。
「……あ、れ?」
何故こんな所に居るのか、答えが思いつかない。
ただ、二人が困惑している事だけは読み取れていた。
「えっ? えっと、レメディオス?」
「お、おはようございます……カルカ様」
「え、ええ? おはよう?」
カルカは困惑していた。
何処か嬉しそうだが、どう反応して良いか分からない……という顔だ。
そんな中、ケラルトが頬を引き攣らせながら視線を向けてくる。
「あの、カルカ様? 少し、内密に話したい事があるので……ベリアル様に少し退室して貰ってもよろしいでしょうか?」
「え、ええ……あの、よろしいですか? 旦那様」
「だん……? あ、うん。いい、ぞ?」
何処かぎこちないベリアルを、何故か怒ったような顔したレメディオスが引っ張り連れていった。
どうしたのだろうか、とカルカは後ろ姿を見送った。
◇◆◇
「お前! カルカ様に何をしたんだ!」
俺は眉と目尻を釣り上げたレメディオスに壁ドンされていた。
女の子から壁ドンされたのは初めてだ。
ちょっと興奮する。
って、それどころではなくて。
「いや、してないぞ?」
「正直に言ったら、今なら許してやる! 言え!」
「待て、俺がそんな事するような奴に見えるか?」
俺がそう問いかけると、レメディオスは真顔になった。
「お前はするだろ。“そんな事”を」
「……まぁ、それは確かに」
酷い言い掛かりだが、まぁ、確かに俺は「そういうこと」をするタイプだ。
レメディオスの言い掛かりは、少なくとも偏見ではない。
「でもなぁ、思い当たりはな……あ」
眠りに着くまで、面識は殆どなかった筈だ。
強いて言うならば、魔皇バアルから襲われている時に助けに来たぐらいか?
でも、すぐ気絶したし短時間だった筈だ。
だというのに、俺の事を「旦那様♡」なんて言ってくるなんて……眠る前じゃなくて、眠っている間が原因なのか?
そうだ。
悪夢にうなされているカルカを救うために、俺は彼女が幸せに感じるであろう夢へと書き換えた。
それは俺が見せたい夢を見せている訳ではなく、彼女の潜在意識を掬いあげる形となる。
カルカは聖王女である自分に対して色眼鏡を掛けず、一人の女性として愛してくれる婚約者が欲しいと言っていた。
そして、その婚約者のイメージとして選ばれたのが俺だった……という訳だ。
いや、何で俺なんだ?
目の前で魔皇バアルから、ケラルトを救ったからか?
俺が夢を上書きした術者だからか?
原因は不明だ。
だが、長い間眠っていたカルカは、長い間夢の世界にいた。
その彼女が目を覚ました瞬間に俺を「旦那様」と呼んだ。
それはつまり、カルカの夢の世界の中で俺は「旦那様♡」だったのだ。
なるほどな。
いや、どういう事だよ。
やっぱり分からん。
俺が悶々としていると、レメディオスが睨んできた。
「なんだ今の反応は、何故黙る? やはり思い当たる節があるのか!」
「あ、あー……あるにはあるが、わざとじゃないんだが」
「……言ってみろ。だが、お前が不埒な考えでカルカ様を惑わしたのなら、私がお前をブン殴ってやる!」
叩き切らずに殴るだけで済ませてくれるとは、優しいレメディオス様である。
実際、甘い。
出会った頃のレメディオスなら、壁ドンとかじゃなくて剣を首元に押し付けてそうだし。
話すら聞いて貰えなさそうだし。
そう考えると、今はマシだ。
「あー、実はな──
俺はポツポツと、自分の考察を口にする。
夢を上書きする際に、何らかの原因で俺の夢を見ていただろう……ということを。
レメディオスは途中まで怒りながら頷いていたが、途中から渋柿を口にしたかのような顔へと変わって行った。
「──という訳だ。不可抗力だが、俺の所為でもある」
「……………」
「レメディオス?」
「あぁ、いや……そうか。なら、仕方ない……か? いや、だが……」
仕方ないと口にしつつも、レメディオスは納得していないような顔をしている。
ただ、俺への怒りは霧散したようだ。
しかし、何故そんな顔をしているのか。
「レメディオス、何か気になる事でもあるのか?」
「……カルカ様が可哀想だ」
「可哀想、か。そうだな、クソみたいな内容の夢を見せられて──
「いや、違う。そうじゃない」
レメディオスが俺の顔を見た。
「幸せな日常を過ごしていたのに、急にそれが夢だった、嘘だったと突きつけられるんだぞ? 可哀想だろう」
「……そうか。それも、そうだな」
確かにそうだ。
幸せに生きている現実を、夢だ、嘘だ、なんて否定されたら……誰だってショックを受けるだろう。
「……カルカ様には幸せになって欲しい。泣いて欲しくはない。だがしかし、これはあまりにも……」
レメディオスが俺を一瞥した。
何か言いたげだが、俺にとやかく言うつもりはないみたいだ。
そうして顔を険しくしながら、ため息を一つ吐かれた。
「……とにかく、ケラルトが上手く事情を話してくれているだろう。ベリアル、部屋に戻るぞ」
「あぁ」
「……それと、さっきはすまなかった」
何故か急に謝られてしまった。
「ん? 何が?」
「……すまない」
何で謝るんだ?
分からんが、まぁ受け取っておくか。
少し落ち込んだ様子のレメディオスの後ろを歩きながら、どうしたものか、と俺は首の後ろを撫でる。
レメディオスが部屋の扉をノックして、入る。
それに続いて俺も部屋の中へと迎え入れられた。
「カルカ様、先程は失礼しました」
レメディオスが頭を下げながら部屋に入っていく。
俺もその後ろから部屋に入ると……カルカと目があった。
カルカはケラルトによって事情を説明され、良い感じに納得……していなさそうだ。
戸惑っているようだ。
「その……先程は申し訳ありませんでした。私は、えっと……寝ている間に夢を見ていたようで……現実との擦り合わせが、出来て……いなくて」
表情を強張らせて、俺に縋るような目を向けている。
アレは、そうだ。
見た事がある。
自分の受け入れ難い現実を耳にした時、当人に対して「実は冗談だった」と言って欲しい……そんな人間の表情だ。
ケラルトは困ったような目で、俺を見ている。
レメディオスは問い掛けるような目で、俺を見ている。
カルカは縋り付くような目で、俺を見ている。
何か、口にしなければならない。
俺はカルカの前で少し屈む。
「聖王女陛下。気になさらずに結構です。寧ろ、助けが遅れた事を申し訳なく──
「……聖王女陛下、ですか?」
小声でぼそっとカルカが呼称をなぞり、表情を曇らせた。
瞬間、ケラルトから責めるような視線を向けられた。
これが俺が悪いのか?
「あー……カルカ様?」
名前で呼ぶ。
するとカルカは泣きそうな顔をした。
今度はレメディオスから呆れるような目を向けられた。
「ええと……カルカ殿?」
流石にこれでどうだ。
そう考えての呼称だ。
そもそも俺は小心者の小市民だ。
自分より明らかに偉い、尊敬できる相手に呼び捨てにするのは気が引ける。
だから、この辺で勘弁して貰いたいのだが──
「…………やはり、ケラルトの話は本当だったのですね」
カルカが気落ちしたように口にする。
それに対してレメディオスとケラルトが、俺の事をジトっとした目で咎めてくる。
……あー、もう、分かった。
分かったから。
俺はカルカに側に擦り寄りながら──
「……カルカ」
名前を呼んだ。
こういうの柄じゃないし、恥ずかしいんだけど。
「は、はい……っ?」
それでも、目の前にいる女の子を落ち込ませるぐらいなら……多少の恥は飲み込もう。
「確かに夢だったかもしれない。だからまだ、俺はカルカのことを深くは知らない。カルカも現実の俺の事は知らないだろう」
「そ、そう……ですね」
落ち込むカルカの頭を、俺は撫でた。
「だからこそ、まだ白紙なんだ。これから互いに望むような関係を目指す事が出来る。俺だって、カルカと親しくなりたいからな」
“キザ”過ぎるが、カルカの欲しい言葉を投げかける。
まぁ、だが嘘でもない。
俺は可愛い女の子が好きだ。
カルカと仲良くなれるのであれば、無論、仲良くなりたいに決まっている。
「だん……ベリアル様」
あ、ケラルトに矯正されたのか。
まぁ、旦那様と呼ばれるのは別に嫌ではないが、万が一、国民に聞かれるとヤバいからな。
聖王女様からの様付けもちょっとどうかとは思うが、「旦那様♡」に関してはヤバさの質が段違いだ。
俺はカルカの手を取り、笑みを浮かべる。
「これから仲良くしてくれると嬉しいな」
「……は、はい! 是非、お願い致しますね?」
カルカが嬉しそうに頷いてくれた。
心なしか頬も赤く、照れているように見える。
パーフェクトコミュニケーションだ。
俺は俺を褒めてやりたい。
そう自画自賛しつつ、レメディオスとケラルトへ目を向けるが──
「……女誑しめ」
「……ベリアル様は本当に見境がないですね」
何で責められているんだ。
カルカを落ち込ませても怒られて、楽しませても怒られるなんて、逃げ場がない選択肢じゃないか。
俺は理不尽さを感じながらも……その原因が彼女達の嫉妬心である事も理解出来た。
女の嫉妬は怖いが、二人のものは可愛い程度だ。
甘んじて、その責めるような視線は受け取ろう。
しかし二人とも、カルカが絡むとちょっと理不尽になるな。
それだけ、大切に想ってるってことなのだろう。
◇◆◇
不在であった聖王女の目覚め。
それはつまり、ケラルトが激務から解放されるという事……ではなかった。
目を覚ましたとはいえ、カルカは本調子ではなかった。
聖王国の現状を正しく受け止めて、何が必要なのか、なんて考えるには情報が足りない。
魔皇バアルによって幾つもの都市を占拠された時、彼女は眠っていたからだ。
どうにも、国民との温度感に違いがあった。
それでも、南部貴族への牽制にはなった。
聖王国の王位継承者が健在の今、新たに王位を得ようとする事は国家に対する反逆……謀反に値する。
故に、表立っての行動は出来なくなっていた。
王兄カスポンドが王位を継承するという話も、お流れになったぐらいだ。
執務室で溜まっていた書類を確認しつつ、聖王の押印が必要なものはカルカに押してもらう。
そんな事務作業のようなものに追われていた。
「ケラルト……ごめんなさいね? 手伝えるのなら、もっと手伝いたいのだけれど」
カルカから返された書類を確認して、机に置く。
既に山積みになっていた。
「いいえ、構いませんよ。カルカ様も大変だったのですから、今は休んだってバチなんか当たりません」
「……ありがとう、ケラルト」
親友の笑みに、ケラルトは嬉しくなっていた。
ようやく日常が帰ってきたのだと、そう思った。
悪魔に侵略され、親友を眠らされ、命の危機に晒されて……そんな非日常は遠く。
魔皇バアルが攻めてくる前までの、日常に──
部屋にノック音。
「すまない、入っても良いか?」
聞こえた声は、愛する男の声だ。
魔皇バアルが攻めてくる前では、知り得なかった声だ。
今までの日常に増えた、新しい日常。
だがそれを疎ましいと思う事はなく、たった一つ増えた喜ばしい事だ。
「どうぞ、いいですよ」
「では失礼」
許可を出すと扉が開き、ベリアルが入ってきた。
いつもの軽薄そうな笑みを浮かべたままケラルトを一瞥して……その後、カルカと目があった。
「あー……こんばんは、カルカ?」
「ええ、はい……こ、こんばんは」
互いにぎこちなく──ただし、ぎこちない理由は決定的に異なる──笑みを浮かべていた。
その二人の関係性にケラルトが胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。
ケラルトとしては、親友には幸せになって欲しい。
だが、好きな男に新しい女が増えるのはあまり嬉しくはない。
それが知人であるとすれば、尚更だ。
曖昧な感情を燻らせつつ、それを表情に出さず……ケラルトは視線を、ベリアルへと戻した。
「ベリアル様、どうかしたのですか?」
「いや、夕食を食うにも、少し遅くなってきただろう? レメディオスがそろそろうるさくてな」
「あぁ……そう、ですね。申し訳ありません、気付きませんでした」
部屋に置いてある時間を知らせる
今日の夕食はケラルトを含めて、レメディオス、カルカ、ベリアルの四人で食べる予定だった。
時間の約束は、全員が役職についており忙しい事もあって、取り決めてはいなかったが……確かに、これ以上長引けば遅くなってしまうのは確実だ。
ケラルトがそう考えていると、ベリアルが苦笑した。
「レメディオスが腹を空かして凶暴になっている。俺としては来て欲しいんだが……まだ仕事のキリは悪いか?」
「いいえ。丁度、終わった所です。行きましょう、カルカ様」
ケラルトは頷きながら、カルカに目を向けた。
対するカルカは……少しぎこちない笑みを浮かべながら頷いた。
「え、ええ。行きましょ?」
そうして、先程まで作業していた書類を鍵の付いた机にいれて、更には部屋に鍵もかけて、三人で外に出た。
廊下を歩いて目的地を目指すが、少し気まずい。
独特な距離感というか、詰め難い空気感がある。
そんな中、カルカが口を開いた。
「ねぇ、ケラルト。夕食はどこで食べるのかしら。食堂……ではなさそうだし」
確かに、食堂は歩いている方向とは逆だ。
これでは何処に向かっているか分かるまい。
「社交室の予定です」
「社交室……社交室って、あの使ってない部屋であってるかしら? レメディオスがソファをズタズタにした……」
「はい、姉様がソファを破壊した部屋です。食事はベリアル様が収納魔法で用意してくれているので、どこで食べても大丈夫なのですよ」
「そうなのね……流石はベリアル様ですね」
カルカがベリアルに笑みを浮かべつつ、褒めた。
しかし、ベリアルは苦笑していた。
ケラルトは知っていた。
ベリアルは確かに軽薄な見た目をした美丈夫であるが、あまり自尊心が高くないのだ。
謙遜とかではなく、本心で、他人から褒められる事に抵抗があるように見えた。
そうして、ベリアルが口を開いた。
「それより、カルカ。レメディオスが部屋のソファをズタズタにした、というのは?」
「え? あぁ、はい、それはえっと……レメディオスが騎士団長として任命された日の話なのですが……」
ベリアルとしては、ケラルトに聞こうと、カルカに聞こうと構わない話だ。
それを敢えてカルカに聞くという事はつまり、自分から距離を詰めようとしている……という事だろう。
実際、ケラルトの目にはカルカが喜んでいるように見えた。
「私達が彼女を、使われてない社交室で細やかに祝おうと思ったのですけど……彼女、自分が鎧を着ているって事実を忘れてソファに座ってしまって」
「あー、それは災難だったんだな」
「そう、ですね。社交室は聖王国で使ってない部屋ですから……」
「……ん? 使ってない部屋なら、家具を壊しても、それほど影響が無いんじゃないか?」
「それが逆で。使ってない部屋ですから、家具を壊してしまうと予算が降りて来ないのです。そもそも、使ってない部屋を私的に利用していたので、言い訳も出来ないし……結局、ケラルトが有耶無耶にして修復費を国費から出させたのよね?」
話を振られたケラルトは頷いた。
「えぇ、はい。身内の恥ですから……」
ケラルトは思い出す。
自分の失態で敬愛する聖王女に迷惑を掛けてしまって落ち込んでいる姉と、それを慰める親友の姿。
まだ若い頃で勝手も分からず、大変な出来事だった。
苦い思い出だ。
だが、今思い出せば大した話ではない。
そうしみじみと思い出すケラルトに、ベリアルは視線を向けた。
「三人は昔から仲が良かったんだな」
「ええ、まぁ、そうですね……周りはあまり信用出来なかったので」
ケラルトは思い出す。
カストディオの天才姉妹と持て囃され、嫉妬されていた自身と姉。
やがてローブルの至宝と呼ばれる美貌を持ち、信仰系魔法の才能まで持ち合わせていたカルカ。
大人は誰も彼もが自分達を利用しようと擦り寄ってきた。
媚びるだけならまだしも、騙すような大人も居た。
ケラルトは大人にならなければなかった。
二人を守るために、知識を得た。
知恵を身につけた。
手を出されないために、舐められないようにと……苛烈さな報復を返し続けた。
そんな過去を思い出した。
今でも、変わらないが。
ケラルトにとって、真の意味で信用できる人間は姉と親友ぐらいだった。
……今は、もう一人増えたけれど。
ケラルトはベリアルへ視線を戻した。
「ベリアル様にも、そういったご友人は居ないのですか?」
きっと居るだろう。
そう思っての問いかけだ。
少しでも魔導国の事を知らねばならないという政治的な欲求と、好きな男のことを知りたいという個人の欲求。
そこから出た言葉だった。
カルカも興味深そうに耳を傾けている中、ベリアルは懐かしそうに笑みを浮かべた。
「あぁ、居たな。互いに遠慮しない対等な、仲の良い友人が……四十一人」
「……随分と具体的な数字なのですね?」
ケラルトは言葉に引っかかりを覚えた。
居た、ということは過去形だからだ。
「まぁな。その内の四十人とはもう会えないが……残りの一人とは今でも仲が良い」
「……すみません」
失言だったか、とケラルトは思った。
少し気落ちしたケラルトとカルカ……そんな二人を見て、ベリアルは目を瞬いて苦笑した。
「ん? いや、そういうつもりはないんだ。言い方が悪かったか……別に悪い思い出って訳じゃないんだ」
少し申し訳なさそうに弁明するベリアルを見て、ケラルトは質問を重ねる事にした。
この雰囲気を変えたかったからだ。
「その、今でも仲の良い一人とは、どんな方なのですか?」
「どんな、か……そうだな……」
ベリアルは少し悩んで、ぽつりぽつりと話し始めた。
「仲間思いの良い人だよ。人との繋がりを大切にしていて、友人同士が喧嘩をしていた時は真っ先に仲裁していた。身内が傷つけられた時には、本人以上に怒る。そんな友人だよ」
「そうなのですね」
そう語るベリアルの言葉に、ケラルトは頷き……カルカも頷いた。
「ベリアル様のご友人は、優しい人ですね」
「……まぁ、そうだな。優しい“人”だよ」
カルカの言葉にベリアルは少し苦笑していていた。
その苦笑の意味をケラルトは理解できなかったが、どこか嬉しそうで……どこか、申し訳なさそうな表情だと思った。
少しの間、投稿をお休みさせていただきます。
次回は11月を予定しています。
アルシェの話
-
いる
-
いらない
-
※解答だけ見たい