【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
翌日、カルカはケラルトだけを私室に呼び出した。
そして、ベリアルへの想いを告げた。
「私、あの方が……ベリアル様のことが好きで……」
「知ってます」
「……え?」
「見れば分かります。私が何年、カルカ様と一緒に居ると思ってるのですか?」
「……そう、そんなに分かりやすかったかしら」
「はい」
なんとも、緊張していた自分が馬鹿らしくなってしまった。
ケラルトには敵わない、そう思いつつカルカは目線を戻した。
「その、相談というのはね?貴方に手伝って欲しいからで……だって、ケラルト、あの人と親しいでしょう?」
「それは、まぁ、はい」
ケラルトの反応に、カルカはふと思った。
歯切れの悪い返事、ケラルトが珍しく男性と気さくに話していたこと、そして……。
「ケラルトも……ベリアル様のこと好き、なのかしら?随分と親しくしているから」
カルカから見て、ベリアルはケラルトを含むカストディオ姉妹と親しく見えた。
普段のケラルトなら嫌味の一つでも言いそうな場面で、少し照れ臭そうにしていたり。
普段のレメディオスなら怒りそうな場面で、呆れたような顔をさせたり。
そういった様子から、二人がベリアルに対して並々ならぬ感情を抱いている事はカルカにも理解できた。
それがもし、恩義や友情ではなく、恋愛感情であるのなら……と、カルカは考えていた。
出来る事ならば、親友と恋敵になりたくはないとカルカは考えて──
「愛していますよ」
少し照れるような仕草で、笑みを浮かべるケラルトを見てカルカは強張った。
好きか問われて愛していると答える意味を、噛み締めた。
「そ、それはつまり、どの程度の──
そしてつまり、親友と恋のライバルになるという事を示していて──
「昨晩もベリアル様に愛して頂きました」
「……え?」
遠回しではあるが、カルカにも理解できた。
つまりそれはその、肉体関係にあるという事で……恋敵などではなく、カルカは既に敗北していたという事に。
心の中でがらがらと崩れいく感情を、何とか止めようとカルカは──
「姉様も一緒に愛して貰いました」
「…………コヒュッ」
完全に崩れ落ちた。
一瞬、気が遠くなってしまうほどに衝撃だった。
カストディオ姉妹、その両方と肉体関係があるだけでも気を失いそうなのだが……当事者であるケラルトとレメディオスはそれを許容しているのだ。
呆然とするカルカに、ケラルトは目線を向けた。
「カルカ様、ベリアル様は恋多き人です。側室を多く迎えていまして、私と姉様も迎え入れて貰ったのです」
ケラルトが手の甲を見せてくる。
指輪があるが……何かしらの
引き攣る頬、心の中で崩れいく理想の男性像……それらから目を背けて、ケラルトを見た。
「ケラルト、それは、その、大丈夫なの?ベリアル様が、その……」
「ええ、大丈夫ですよ。私は幸せですから」
微笑むケラルトを見て、カルカは少し引いた。
聖王国では普通、夫は一人の伴侶を一生愛する筈だ。
南部の貴族の中には、愛人を囲っているような者も居るが……そういった手合いが、ケラルトは大っ嫌いだった筈なのに……それは何故か?
何か洗脳されていると言われた方が、カルカには納得できた。
「本当に? 私、貴女達が我慢していないか心配なのだけれど……」
「いえ、納得した上で側室となっていますから。ベリアル様は……魅力的ですからね。沢山の女性を娶っても、仕方がない方ですから」
まぁそれは確かにと、カルカも少し同意した。
一夫多妻の国は多くある。
妾や愛人を囲う権力者も少なくはない。
自身が女である立場として、聖王国の国主として、受け入れ難く考えているだけだ。
そして、ベリアルには多くの女を娶れる地位と実力、甲斐性が兼ね備えられてる……とカルカは考えた。
「……その側室というのは、どうやったらなれるのかしら」
故に、カルカは陥落した。
例え、自分だけを愛してくれないとしても、側室の一人として愛して貰いたいと思ったからだ。
それほどまでに、カルカは愛に飢えていた。
カルカの言葉に、ケラルトは少し笑みを浮かべた。
思惑通りの事が進んだ、という笑みだ。
「カルカ様も気になりますか?」
「それは、ええっと……その、参考までに、ね?」
あくまで興味があるだけ。
がっつくような真似はしまいと、カルカは平常心を装って──
「単純な話ですよ。ベリアル様を押し倒せば良いのです」
「押しっ……? だ、ダメよ、ケラルト?そんな無理矢理だなんて……」
カルカは思わず困惑の声を漏らした。
気になる殿方に愛してもらう為とはいえ、無理矢理などとは。
信じられない話だ。
「ベリアル様もカルカ様のこと憎からず思っていますし……あの人、スケベですから。きっと喜んでくれますよ?」
「スケベって……だとしても、ダメよ、そんなはしたない真似……っ」
憎からず思ってくれている、という言葉に少し顔が熱くなる。
嫌われているとは思っていなかったが、それでも好意を保証されると嬉しくもなる。
ケラルトはそんなカルカの様子を見て、目を細めた。
「……ベリアル様はカルカ様のこと可愛くて、綺麗で好ましいと言っていましたよ。きっと女性的にも魅力的だと思ってる筈です」
「えっ、そうなの?」
「私から見れば……カルカ様なら、少し押せば、すぐにでも側室ぐらいにはなれる筈ですよ」
「そ、そうかしら?」
満更でもなくなってしまう。
胸の奥が熱くなって、頬が緩んでしまう。
「一国の主として尊敬しているとも言っていました」
「……そ、それは……そう、なの」
カルカは少し、目を逸らした。
自身は聖王女として、務めを果たせていないと考えていたからだ。
一国の危機である魔皇バアルと亜人による侵攻に対して、ただただ眠ってしまっていたからだ。
民が苦しみ、逃げ惑う中、何も出来なかった。
全てが解決してから目を覚ました自分に、聖王女としての器があるのか……心が揺らいでいる。
故に統治者として褒められても、言いようのない感情が湧いてしまう。
そんなカルカの様子を見て、ケラルトは少し目を細めた。
「……押し倒す、というのは無しにしても、積極的にアプローチしてみるのは如何でしょうか? きっと、ベリアル様は応えてくれますよ」
ケラルトの言葉にカルカは目線を上げた。
眠っている間、親友である彼女には随分と迷惑をかけた。
だというのに、気にもせず、人の恋路を応援してくれているのだ。
それも恋敵とも呼べる相手を。
なんと良い友人か。
自分にはもったいないほど、素晴らしい友人だ。
「……ケラルト、どうするべきか教えてくれる?」
カルカは感謝しつつ、ケラルトへと問い掛けた。
「……私に任せて下さい。良い作戦があるんですよ……うっふっふっふ」
「い、いい作戦……?」
久々にこのいやらしい笑みがでた、なんてカルカは考えていた。
ケラルトは……こう、腹黒である。
表面上は穏やかな態度を取っていても、裏で色々と企んでいるタイプだ。
ただ、身内には優しく表裏のない友愛の感情を見せてくれるが……。
今の笑みは、自分の目的のためだったら、どんな手でも使うケラルト……という感じの笑みだ。
カルカはそう思いながら、内心僅かな心配を抱いていた。
翌日、ケラルトとレメディオス、ベリアルを含めた四人で茶会となった。
茶会と言っても、魔導国への会談前の打ち合わせ、となるが。
紅茶を口にしつつ、ベリアルが出した茶菓子を口にする。
程よく甘く、麦の味がする菓子に思わず頬が緩む。
ケラルトも同様の笑みを浮かべている。
レメディオスは──
「……んぐ」
無言で口に頬張っていた。
つまり、食い意地が張っていた。
「レメディオス、そんなに気に入ったのなら、俺の半分やろうか?」
「ん……いや、構わん。お前の食う分が無くなるだろうが」
「いや、俺は魔導国に帰ればいつでも食えるからな。遠慮しなくて良いぞ」
「しかしだな……いや、そこまで言うのなら?まぁ、頂こう」
何だかんだと遠慮する仕草を見せながらも、レメディオスはベリアルの持つ茶菓子を半分貰っていた。
カルカは茶を啜りながら、二人を交互に見る。
レメディオスも、ベリアルと肉体関係があるという。
側室という立場で、異性として愛して貰っていると。
そう考えれば、この気安さの理由も分かるものだ。
それを羨ましいと、カルカは僅かに嫉妬心を芽生えさせ……信頼する友人に対して嫉妬なんて、と思考を振り払った。
そんなカルカを知らずか、レメディオスはベリアルに視線を向けた。
「しかし、私も魔導国に行くのか……良いのか?」
「良いのかって、別に良いだろう? ダメな理由でもあるのか?」
「私は……政治など分からん。迷惑を掛けるかも知れん」
カルカは目を瞬いた。
レメディオスが自分を客観的に見て、不得手な箇所を考慮して提案をしている。
昔から「自分は頭が悪いから他人の意見に従うぞ」と言っていたが、今は盲目的に意見を受け入れず、疑問を抱くようになったのだ。
成長したんだな、とカルカは思った。
何とも失礼な感動である。
そんなカルカを他所にベリアルは笑みを浮かべた。
「迷惑なんてないさ。それに、何かあれば俺が責任を持つ。そう畏る必要もない。ただの旅行だと思えばいい」
「う、うーむ、しかし、だなぁ」
「魔導国に来れば、美味い料理が沢山食べられるぞ」
「……そ、そうか。なら行くしかないな? 仕方なく、だぞ?」
「はいはい、そうだな。仕方なくだな」
後頭部を掻きながら口を窄めるレメディオスに対して、くっくっくとベリアルが笑みを浮かべた。
そうして、ケラルトへと目を向けた。
「取り敢えず、二人には俺の屋敷の部屋を貸そう。それなりに整っているし、客室としてはそこそこだ。カルカの方は……聖王女だからな。宮殿の方に部屋を借りて──
「いえ、私もベリアル様の屋敷が良いです」
カルカが口を挟んだ。
確かに聖王女と聖騎士団長、神官団長の部屋であれば前者の部屋が上等な部屋が割り当てられることは何らおかしくはない。
しかし、特別扱いは好まない。
あくまで客人として、一人の人間として扱って欲しいと思ったからだ。
というかぶっちゃけ、ベリアルと一つ屋根の下で過ごせるという魅力にどうしても打ち勝てなかっただけだ。
我儘ではあるが、切実な願いだった。
「そうか? なら構わないが」
そんなカルカの内心を知らず、ベリアルは承諾した。
そうして少し四人で会話を楽しんでいると──
徐にケラルトが席を立ち、レメディオスへ目を向けた。
「姉様、そろそろ聖騎士団と神官団の共同会議です。向かいましょう」
「ん? そうだったか? そんなのあったか?」
「何ですか姉様、忘れたのですか?」
「い、いや、忘れてないぞ? そうだな、会議……会議か、会議だったな?」
カルカもそんな話は聞いていない。
恐らくはでっちあげだ。
レメディオスも口裏を合わせて……いや、あの様子だと「会議なんて知らないが、自分が忘れているだけだろう」と納得している様子だ。
「では、ベリアル様。失礼致します」
「あぁ、仕事頑張ってくれ」
「ありがとうございます。ほら、姉様も行きますよ」
「わ、分かっている……!」
レメディオスはこっそりと、ベリアルが用意した瓶からクッキーを一枚抜き取っていたが……ケラルトに引っ張られていった。
そうして二人は部屋を去り……カルカはベリアルと二人っきりになってしまった。
(こ、これがケラルトの言っていた『良い作戦』なのかしら……? ベリアル様と二人っきりは嬉しいけど、気まずいと思われないかしら……?)
内心不安になりながら、カルカはベリアルへ目を向ける。
ベリアルは落ち着いた様子で紅茶を口にしていた。
全く、落ち着いた様子だ。
……本心ではカルカと同じように不安になっているのだが、知る由はない。
(そもそも何を話せば良いのかしら……そこまで含めて考えてくれないと……なんて考えるのは、流石にケラルトに悪いし……なにを、なにを……)
互いに何を話すべきか考えた後……少しの間が空いて、カルカが口を開いた。
「あの、ベリアル様」
「ん? なんだ?」
意を決して、言葉を紡ぐ。
「ベリアル様は側室を複数、側に置いていると聞きました。それはその、事実ですか?」
「あぁ、事実だ。幻滅したか?」
ベリアルの言葉には、どこか探るような意図が見えた。
互いの心に踏み込む一歩手前、そんな距離感。
カルカ首を横に振った。
「いえ、優秀な男性が女性を多く侍らせるのは、理に適っていますから……」
「……別に俺は優秀じゃないぞ。ただ好きな女が多いだけの、女好きだ」
カルカのフォローを無碍にするような言葉にカルカは少しぎょっとした。
しかし、それが本心のようで謙遜のようなものであることを感じ取っていた。
カルカは再び、ベリアルへと目線を戻した。
「では、その好きな女性が多いというのなら……好みというのは? 側室に置く条件などあるのでしょう?」
「……条件という程ではないが、そうだな。俺にだって好みはある」
「それは?」
ベリアルはティーカップを置いて、目線をカルカへ向けた。
真剣な目をしている。
思わず、カルカの頬が上気した。
「俺は強い意志を持つ女性が好きだ」
「強い意志、ですか?」
「あぁ、何かを成し遂げようと、何かを守ろうと、意志を強く持つ。それが正しいことであれ、世間的には正しくないことであれ、信念を持って行動できる女性が好きだな」
そうベリアルは語っているが、カルカはそれどころではなかった。
普段は優しげな目をしているのに、今はどこか真剣な表情で憂いを帯びた目をしている。
カルカの下腹部がきゅぅ♡と締め付けられているような感覚が続いている。
思わず内股になって、話を聞いているぐらいだ。
「……カルカ?」
反応のないカルカを見て、ベリアルが訝しんだ。
「あ、いえ! そう、ですか……強い信念ですね? ええと、ベリアル様とお似合いという訳ですね?」
一応、話は聞いていた。
信念の強い女性が好きだということ。
つまり、ケラルトやレメディオスに該当している。
なるほど、ベリアルの好みであるという訳だ。
そして、ベリアルも信念を持っている。
強い信念を持つ男が、強い信念を持つ女を好いている。
カルカはそう考えて言葉を口にしたのだが──
「いや、俺なんてまだまだ。俺にはもったいない女性達だ」
ベリアルが謙遜するような相手の女性。
まさかとんでもない聖女でも居るのではないか。
慈悲深く、弱き者を助けるような、強い女性が……。
カルカは頷いた。
「素晴らしい方々なのですね」
「あぁ、そうだな。自慢の側室だ」
カルカは手元の紅茶を机に置いた。
「……私には、ベリアル様も大変素晴らしい男性に見えるのですが」
カルカの言葉に、ベリアルは目を瞬いた。
瞬間、カルカは自分がとんでもない事を口にしたのだと理解した。
思わず漏らした言葉だった。
謙遜するばかりのベリアルに自信をつけて貰いたくて、口にした言葉だった。
だが、ベリアルはどう受け取るだろうか。
余程、鈍感でもなければ告白と受け取られても──
「お世辞でも嬉しいな。これほど綺麗な女性に褒められるのなら」
どこか受け流すような言葉だ。
だが、カルカには聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「き、綺麗ですか?」
「あぁ、勿論。流石はローブルの至宝と褒め讃えられているだけある。初めて顔を見た時は驚いたぐらいだ」
「そ、そうですか」
自分の右手の指と、左手の指を絡め合う。
何とも恥ずかしいが、満更でもない。
好きな男に容姿を褒められて、嬉しくない女は居ないのだ。
「……少し、不躾な発言だったか? すまないな」
しかし、ベリアルは自分の発言を咎めるように口を閉じた。
相手が不快に感じていないか心配になったからだと。
「いえ、ベリアル様に褒められるのは……私も、嬉しいですから」
ぽつりと吐いた言葉は本心だ。
南部の貴族に容姿を舌舐めずりをしながら褒められても嬉しくはないが、この男に褒めてもらうのは別だった。
「そうか? ならいいんだが」
「はい、構いません」
こういった気の抜けた優しさが、カルカには堪らなかった。
今すぐに抱きしめて欲しいし、キスをして欲しい。
そのままベッドに連れ込んで貰って──
そこまで考えてから、カルカは脳内の妄想を振り払った。
目の前に当人が居るというのに、妄想をするなどもってのほかだ。
「あの、ベリアル様。結局のところ、側室というのは恋愛感情で選んでいるという事ですか?」
「まぁ、そうだな。少なくとも損得ではないかな」
「だから、レメディオスとケラルトも愛しているのですね」
ベリアルが咽せた。
「ん? あぁ、いや……どこで聞いたんだ? 二人が俺の側室になったと」
「ケラルトから聞きました」
その発言にベリアルは片眉を上げた。
「本人からか……秘密にしろとは別に言ってはないが、普通言うか?」
「彼女を責めないで下さい。私が言わせたようなものですから」
「いや、責めるつもりはないんだ。言うとは思ってなかっただけだ……うん」
ベリアルは瓶からクッキーを一枚取り出して、口にした。
その様子に合わせて、カルカもクッキーを口にした。
聖王国で食べられているものよりも遥かに食感が良く、甘みを感じる。
味わっていると、ベリアルが口を開いた。
「親友に手を出した俺に、思う所はないか?」
「ない、と言えば嘘にはなりますが……二人が幸せならば、私は満足です。寧ろ感謝しているぐらいです」
「……感謝を?」
首を傾げるベリアルに、カルカは頷いた。
「ええ。ケラルトもレメディオスも仕事人間で、志も高く……立場も高い。釣り合うような男性も居ないですし、色恋からは遠く……宮殿で流れていた私を含む三人の噂を聞いた事はありますか?」
「噂? どんな噂だ?」
「カストディオ姉妹と聖王女はただならぬ関係だとか。そう噂されていました」
「……なるほどな」
カルカの空いたティーカップに、ベリアルが紅茶を注いだ。
感謝しつつ、言葉を繋ぐ。
「そんな二人を愛して、幸せにしてくれるというのならば私から言うことはありません。ええ……少し、羨ましいぐらいですね」
ぽつりと、最後に本音を溢した。
あぁ、そうだ。
羨ましいのだと、カルカは自覚していた。
自分が眠っている間に、夢の中で疑似恋愛をしていた間に……真実の愛を見つけた二人が羨ましいのだ。
「羨ましいのか?」
「私にもその、それなりに……誰かに愛されたいという欲はありますから」
そう思ってはならない、考えてはならないと、カルカ自身も戒めているが……それでも、羨ましい。
聖王女にあるまじき嫉妬心だと自覚しているが、自分の本心は欺けない。
そうして噛み締めているカルカを見て、ベリアルは少し迷って……口を開いた。
「なるほど、カルカも自分を愛してくれる男が欲しい、という訳だな」
「え? あ……それは、そうですね」
指と指を合わせて、視線を逸らす。
探さなくてもいい。
欲する対象は目の前にいるのだから。
カルカは視線を落とした。
この人は自分を好意の対象だとは思っていない。
であれば、指摘する必要もない。
己の好意を曝け出すことは、まだ恥ずかしかった。
「そうか……なら、聞いておこう。カルカの考える理想の男性像とはなんだ?」
「……そ、それは、そう、ですね」
「あぁ、すまない。言いたくなければ、教えて貰わなくてもいいんだ。どういう男が好きか、聞いておきたくてな」
「い、いえっ、別にそういう訳ではありません。答えるのは、別に構いませんし……」
こほん、と咳払いをしてカルカはベリアルへと向き合った。
これはベリアルが自分のためを思って聞いてくれているのだから、恥ずかしがってはダメだ。
それに先程、側室の条件というベリアルの好みについて問いかけていた。
自分は訊くのに、相手から訊かれたくないとは言えない。
「わ、私の理想は……その、優しい人ですね」
「……ふむ?」
何とも納得いってなさそうな顔。
それも当然だ。
優しい人というのは好みというよりは、前提条件のようなものだ。
誰だって、自分に優しい人間が好きなのだから。
カルカは言葉を重ねる。
「あとは率先して物事に取り組めて、思慮深い人、ですね」
「……中々、難しいことを言うんだな」
ベリアルは少し難しそうな顔をした。
確かにカルカの要求しているものは、壁が高い。
しかし、カルカとしては……目の前に居る男の事を言っているつもりなのだが。
「それと……私のことを、聖王女としてではなく一人の女性として愛してくれるならば……それで、満足ですね」
指先と、指先を合わせながら、そんな事をカルカは口にした。
聖王女である自分に物怖じせず、尊重しつつも気安く会話できる人間など……カルカは一人しか知らない。
遠回しの告白のようなものだ。
心臓が高鳴るのは言葉の意味を理解されることを恐れてか、期待してか……カルカにも分からない。
しかし──
「なるほど、地位に捉われない人間か。カルカほどの相手になると、確かに難しいな……」
ベリアルは何とも分かってなさそうな顔をしていた。
カルカは内心、がっかりとしながらも……こういう少し疎い部分がある所も好ましく思っていた。
優れた容姿、並外れた力、経済力。
それらを持ち合わせていながらも、どこか自己肯定感の低いとも言える謙虚さ。
カルカはベリアルの容姿が好きだ。
色白で筋肉質で、妖艶とも呼べる整った容姿が。
だが、それ以上に、思いやりという結果の中に僅かに滲む純朴な優しさを愛していた。
カルカはドレスの裾を握った。
二人っきりになって会話して思ってしまった。
(やはり、私は……この人のことが、どうしようもなく……好き、だから)
ケラルトの「押し倒せばいい」という言葉が脳裏に過ぎる。
本当にそうできたら、いいのに。
目の前の美丈夫が、本当に自分を好いてくれているのか分からない。
だというのに、迂闊に踏み込むことはできない。
失敗したから、次に活かせばいい……なんて、言えない。
ベリアルとの、この心地よい関係を壊したくない。
それでも、自分も愛されたい。
レメディオスやケラルトのように、女として見られたい。
迷い、欲求、怯え、葛藤。
様々な感情が入り混じり、進退が窮まる。
だから、そう。
(気付いてくれないかしら……なんて考えるのは、求め過ぎ……でしょうね)
細く白い指が、手首を撫でる。
手を伸ばせば触れられる距離なのに、どこか遠くに感じていた。
「……何か、気に障ったか?」
ベリアルの言葉に、カルカは顔を上げた。
心配するような顔を向けてきている。
「い、いえ、そういう訳ではないのです。少し、その……自分の至らなさを、噛み締めていた所なので」
踏み込むのが怖い。
今、こうして会話しているだけで幸せなのに……その幸せを賭け金にして、より大きな幸せを願うことは、怖い。
もし断られたら?
きっと、心がズタズタに引き裂かれてしまう。
だから、誘うことも、触れることも出来ない。
願うことしか、出来ない。
少し視線を下げるカルカに、ベリアルが目を瞬いた。
「至らない、か。俺なんかより余程頑張っているさ」
「そ、そんなことは……っ、ベリアル様は私よりも……よく、していると」
「そうか? 俺はただ人より恵まれていて、余裕があるだけだ。余裕があるから、人に優しくできる。それだけの人間だ」
ベリアルは言葉を区切り、カルカに視線を合わせた。
「カルカは違うだろう? ケラルトから、俺が来る前までの聖王国の話を聞いた。弱き民が泣くことのない世界……その為にどんな努力をしてきたか」
「それは……聖王女として、当然の職務ですから」
「その当然というのが人は難しい。役目だと、職務だと、義務だと言おうとも、当たり前ではない。少なくとも、俺はそう思っている」
ベリアルの言葉にカルカは黙った。
どうしてこの人はこうも、優しくしてくれるのか。
最初は夢の中で見た幻像を追っていた。
夢から覚めて、現実を目の当たりにして……普通ならば、現実と夢の違いに諦めることだって出来た筈なのに。
「……そう、ですか」
だけど、これほど優しくされたら……諦められなくなってしまう。
例え、自分だけのものにならない相手だとしても、愛してくれるならば……その中の一人に収まるとしても欲してしまう。
愛している。
愛して欲しい。
ほんの少しでいいから、自分を見て欲しい。
そんな欲求に身を焦がされ、カルカは唾を飲み込んだ。
ケラルトやレメディオスの気持ちが分かる。
自分の価値観を変えてしまう程に、この男を欲してしまう気持ちが。
時間はただ、ゆっくりと過ぎていく。
それでも距離は縮められないまま。
ゆっくりと。
◇◆◇
「あーもう、じれったいですね……!」
「おい、ケラルト……もう覗き見はやめた方が──
「姉様は黙っていてください。これもカルカ様の為なのですよ?」
「……それはそうかも知れないが……人としてどうなんだ、それは」
ケラルトは覗き見用の
予め、部屋に設置していた
何故か──ベリアルが部屋に入って来てから一瞬、見えなくなったし、凄い寒気がしたが──今は問題ない。
ベリアルとカルカの会話を盗み見て、聞く事にケラルトは注力していた。
「こうして監視することで、次にカルカ様に助言をできるのです。分かりますか?」
「いや、分かるが……だが、そもそも、カルカ様とベリアルをくっ付けようと躍起になっているのがな……」
「では姉様はどう思うのですか。私達がベリアル様に愛してもらっていると言うのに……カルカ様を寂しく一人にさせるのですか?」
「そうは言ってないが……いや、そもそもカルカ様とベリアルをくっ付けようという方針が、私としてはあまり乗り気になれん」
ケラルトは姉であるレメディオスの言葉に眉を顰めた。
「不満ですか? ベリアル様ならカルカ様を幸せにしてくれる筈です。彼はこの国を救った英雄の一人ですから、例え国民にバレても非難はされないでしょう」
ケラルトは考えた。
レメディオスは熱心な聖王女信者でもある。
友人同士である前に仕えるべき主であり、信じるべき聖王女であると崇拝している。
そんな彼女が、信仰対象であるカルカが男性と関係を持つということに反対してもおかしくはない。
と、思ったのだが。
「いや、そうではない。ベリアルならカルカ様を愛して、幸せにしてくれるだろう」
「なら、何故ですか」
「……カルカ様が側室になれば、私達を捨ててしまうのではないか……と、思ってな」
レメディオスの言葉に、ケラルトは目を丸くした。
「な、何を言ってるんですか! そんなこと、ある訳ないじゃないですか! ベリアル様は性欲の塊ですし、何人増えても愛してくれる筈です!」
「……ケラルトは良いんだ。お前は綺麗で、女性的な魅力に見ている。比べて、私はどうだ?カルカ様は綺麗で優しく、女性らしい魅力に満ちている……私は、捨てられてしまうのではないか? それが怖いんだ」
レメディオスの言葉にケラルトは息を呑んだ。
自分の姉は綺麗だ。
間違いなく美人である。
だが、女性的な柔らかな魅力とはかけ離れている。
その気の強い性格も、鍛え上げられて硬くなった身体も。
一般的に見れば、確かに女性的な魅力は薄く、男からの反応もそれほど良くはない。
「でも、ベリアル様は姉様のこと大好きですよ?」
「そ、そうか?」
「この間も、寝ている姉様の頭を撫でてましたし……こう、愛する嫁に向かってするように頬にキスをしてましたし」
「なっ、あいつ、そんなことをしてたのか……!?」
レメディオスは顔を真っ赤にして照れているが……ケラルトにとっては今更だった。
(そもそも、あんなにラブラブえっちしてるのに、捨てられる訳ないじゃないですか)
ケラルトは口に出さなかったが、普段から体を密着させてキスしながら延々と愛し合っているのに、新しい女が出来たから捨てられるとは思っていなかった。
というか、正直、それよりも──
(もし捨てられるとしても、私でしょうし)
レメディオスには独特の魅力がある。
カルカにはない魅力が。
しかし、ケラルトはどうか。
自分はカルカの下位互換であるという自覚があった。
だが、それでもベリアルに捨てられるとはこれっぽっちも考えていない。
自分の魅力というものをあまり信じてはいないが、ベリアルの優しさと甲斐性を信じているのだ──
あとスケベさも。
ケラルトの脳内には三人の女に囲まれて、笑みを浮かべるベリアルの姿が見えた。
「ベ、ベリアルは私が考えている以上に、私のことが好きなのか……?」
「そうです。当然じゃないですか」
「そ、そうか……ま、まったく、仕方ないヤツだな……」
満更でもないって顔をしてニヤけている姉に呆れながら、ケラルトは
カルカはもじもじとしながら、ベリアルのことをチラチラと見ている。
あまりにも露骨な“恋する乙女”の顔だ。
ケラルトは、カルカと長い付き合いだが……こんな顔をしているところを見たのは、ここ最近からだ。
普段の理知的ながらも微笑みを絶やさない、聖王女らしい振る舞いはそこにはない。
歳相応……よりも若い、乙女のような顔になっている。
だが、その気持ちはケラルトにも分かった。
自分も少し前まで、ベリアルと会話する時は“あんな顔”をしていた。
それだけ、彼の魅力は暴力的な猛毒なのだ。
「……しかし、ベリアル様もすぐに手を出せばいいのに」
ぼそりとケラルトは呟いた。
ベリアルの様子から、カルカに対する印象は良いように見えるし、性的に魅力的だと考えているに違いない。
それでも手を出さないのは何故か。
聖王女、だからか。
「……互いに好意を持ち合ってる事ぐらい分かるでしょうに。ほんっとーにじれったいですね」
ケラルトはそう口にしながら、次の作戦を考え始めていた。
◇◆◇
ケラルトが部屋を出た瞬間、対探知魔法に対する防壁魔法が発動した。
誰かに見られていることを探知して、判明させる魔法で……モモンガさんなら攻性防壁を発動させて覗き見した奴に対して反撃の魔法をブチ込むよう設定している。
俺はしていない。
あくまで、監視、盗聴に対する妨害だけだ。
ゲームの事は攻性防壁を常にかけていたが、こっちの世界だとトラブルのもとだしな。
そう思って切っていたのだが──
あっぶねぇ〜〜っ、切ってて良かった!
盗聴監視対策の逆探知が発動し、俺の視界の隅に映ったのは隣の部屋で監視盗聴の
出歯亀みたいな事をしているのだろう。
だが、攻性魔法が発動していたら間違いなく死んでいた。
本当に危なかった。
やはり切っていて正解だった。
ケラルトは盗聴監視の
監視と盗聴に対する対策魔法が正常に起動し続けている証拠……なのだが。
……まぁ、別に悪意をもって見ようとしている訳じゃなさそうだ。
カルカに変な事をしないか監視している、という事だろう。
別にやましい事をするつもりはないし、俺は対策魔法を一時的に遮断した。
そうして俺はケラルトとレメディオスに見られているという前提で、カルカと話を始めたのだが──
この聖王女様、めちゃくちゃ可愛い。
俺のことを誘うような言葉を何度も投げかけてくるし、褒めてあげれば嬉しそうに笑みを浮かべるし。
元々、俺はカルカのことが好きだ。
まず顔が可愛い。
めちゃくちゃ美人だ。
美人の度合いで言えば、ナザリックにて創造されたNPC達並みに美人だ。
これほど容姿が整っているのは、現地人で言えば……他にはラナーぐらいだ。
まぁ顔の容姿が客観的に整っているからといって、女性の魅力が決まる訳ではないのだが、それはそれとして美人は好きだし、愛でたくなるのも事実だ。
うん。
そして肝心の中身についてだ。
亜人の脅威に晒されながら、南部の性格の悪い貴族共と戦いつつ、国の民を守るために日々政務に励んでいる。
なんと素晴らしい為政者か。
他の国を見れば、腐敗し切った国から目を逸らすクソ爺やら、大量の愛人を使い捨てて軍隊を産ませ続けているカス野郎、嫌いではないが国のためなら何でもする過激な奴がいる。
それに比べれば──いや比べるのもおこがましいが──カルカのなんと素晴らしきことか。
正直、尊敬もしている。
私利私欲のためではなく、民草のために身を粉にする権力者とは……難しいものだ。
力を得ると我欲が強まるものだ。
それに打ち勝てる慈母のような心を持っている。
そりゃ魅力的に見える。
俺の中では魅力的な王様ランキング1位だ。
ちなみに1位は二人いる。
カルカとドラウディロンだ。
ラナーは王ではないので除外……するし、入っても2位だ。
あいつ、我欲を満たせるようになるとメチャクチャするタイプだし。
あぁ、皇帝であるジルクニフも2位だ。
うん。
まぁ、そういう訳でカルカなのだが。
「……これ、美味しいですね」
「そうか? 口に合うのなら良かった」
俺が魔導国内からアイテムボックスに入れて持ち込んだ菓子を食べている。
嬉しそうに、美味しそうに食べてくれている。
美味しいものというのは偉大だ。
人を簡単に喜ばせてくれる。
これはナザリックからの持ち出しではなく、俺の屋敷に居るメイド達お手製の品だ。
ナザリック内に居る料理人達に比べれば腕は落ちるが──いや、俺程度の舌だと“どっちも美味しい”としか分からんのだが──現地人の中では相当な腕になっているらしい。
指導してくれている、ラズロが優秀なのだろう。
無論、メイド達も優秀なのだろうが。
彼女達を用意してくれたジルクニフには感謝しなければならない。
今度、何か物でも送ろうかな。
なんて現実逃避しつつ、カルカを見る。
「あ、あの、どうかしましたか?」
しまった、見つめ過ぎたか。
でも、仕方ないだろ。
可愛いし、綺麗だし。
美人は三日で飽きるとか言うが、絶対そんな事ない。
どれだけ見ていても飽きないだろ。
だって、こんなに可愛いのだから。
そう思いつつ、カルカの言葉に返事を返す。
「いや、すまない。綺麗だったからな」
こういう時は誤魔化さない方がいい。
本心から答えなければ誤解されて、碌な目に遭わない。
「あ、ありがとうございます……」
カルカは嬉しそうに笑みを浮かべて、照れて視線を落とした。
なんともいじらしく、なんとも可愛い。
あーーーーーーーーっ、押し倒したい。
今すぐ抱きしめてキスしたい。
カルカの好意には俺も気付いている。
ラズロに時々言われているが俺は鈍感系主人公ではないのだ。
だからそう、普段ならば言い寄って抱きしめて、ベッドに連れて行く所なんだが。
俺、今、ケラルトとレメディオスに監視されているんだよな……。
つか、あいつら会議とか言ってたのに、何で戻ってきて監視しているんだ。
さっぱり分からん。
やっぱり俺がカルカに変な事しないか監視しているだろ。
これではカルカに手を出せない。
俺の恋愛的な好意。
それと性的な欲求。
俺は、勃起しそうになる陰茎を必死に堪えている。
これでは生殺しだ。
俺は表面上、爽やかな笑みを浮かべながら……ドロドロした性欲を何とか抑えていた。
誰か早く、俺を解放してくれ。
マジで。
アルシェの話
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