【R-18】オバエロ:至高の淫魔がスケベする話 作:口だけの淫魔
それから何日か経った。
だが、カルカとベリアルの関係が劇的に発展する事はなかった。
カルカは恋愛経験の無さから、どう距離を詰めれば良いか分からず。
ベリアルはケラルトに監視されている状況から、何とかプラトニックな恋愛に発展させようとしたが……これもまた、上手く行かず。
ケラルトは何故こうも上手く行かないのかヤキモキしつつ、二人にアドバイスしつつ。
誰が悪いという話ではない。
全員が全員悪いともいう。
ちなみにレメディオスは特に何もしなかった。
なるようになるので干渉はしない方が良いだろう、という判断だ。
そんなこんなで時間は経ち、魔導国へと向かう日となった。
「ではカルカ様、準備は出来ましたか?」
「はい、大丈夫ですが……本当に何も用意せずよろしいのですか?」
ちら、とカルカはベリアルを見た。
着の身着のまま、といった様子だ。
今から遠く離れた魔導国へ向かうとは思えない。
「ん? ああ、大丈夫だ。三人は客人だからな。必要なものがあれば俺が用意しよう」
その言葉にカルカは頷いた。
転移魔法で運べる量に限度はある。
荷物を増やすと迷惑が掛かるだろうとも思った。
そうして少し待っていると──
ベリアルが何やら魔法を使用した。
恐らくは<
その予測通り、ベリアルが幾つか言葉を発すると……四人の前に巨大な門が開かれた。
「こ、これは?」
「転移門、魔導王陛下が作ったものだ。さ、入るぞ」
入れば転移されるのか。
そう考えつつもカルカは身構えてしまう。
ケラルトもレメディオスも、だ。
あまりにも常識はずれな光景に身体が硬直する。
そんな三人に気付かず、ベリアルは門の中へと入っていった。
門の先は見えない。
何があるかも分からない。
それでもベリアルは入ったので、追わねばまらない。
カルカは唾を飲んで、意を決した。
「では、私達も門へ──
「お待ち下さい、カルカ様。ここは私達が先に」
ケラルトがそう口にすると、レメディオスが頷いた。
「そうです。我々から先に」
「……だめよ。そんな事したら警戒してると思われてしまうわ」
「そうですが……」
「ベリアル様はもう向かったのだから、信用するの。いいわね?」
「……そうですね」
カルカの言葉に二人は頷き、そうして三人で門を潜れば──
「……きゃぁっ!?」
カルカは声をあげてしまった。
門の先は豪華な一室だった。
そこは問題ない。
魔導国が聖王国より豪勢だという事はベリアルの言葉から何となく察していた。
問題があるのは、部屋に滞在していた兵士だ。
アンデッドの兵士だ。
それも、カルカも見たことがない難度が推測される、強力なアンデッド。
剣と盾を持つ、鎧を身につけた巨体のアンデッドが下手に四体も居たのだ。
同時に入ったケラルトも声は上げずとも絶句していた。
神官であるが故に、アンデッドの強さが理解できてしまうからだ。
レメディオスも腰の剣に手が伸びそうになっていた。
それでも剣の柄に触れないのは、二人に対して「魔導国で何があっても、剣を抜かないこと」を約束していたからだ。
そんな三人をベリアルは一瞥して……側に居た褐色のメイドに話しかけた。
「……ほら見ろ。やっぱり怖がってるだろ」
「そうかも知れませんが……このあと、こんなのと比べものにならない御方と会うんすよ? 慣れておかないと」
「慣れるにしても段階を踏むべきだろ。今日は一旦“なし”だ。解散解散」
「えっ、折角準備したのに」
呆れた様子のベリアルは軽口を叩くメイドから視線を逸らして、三人の元へと駆け寄った。
「いや、悪いな。こんな豪勢な出迎えが来るとは俺も思っていなかったんだ」
ベリアルの言葉にケラルトは頬を引き攣らせた。
「それはいいですが……あのアンデッドの兵は?」
「あれか? あれは『デスナイト』だ。魔導国の警備、治安維持、悪人の捕縛などを任されている兵士だな」
「あ、あの強さのアンデッドが……沢山、居るのですか?」
「まぁ、そうだな。魔導王陛下が作ってる特注品のアンデッドだ」
ベリアルの言葉に三人は気が遠くなりそうになった。
ケラルトは思った。
ベリアルは常々、常識はずれな事をすると。
だがそれはベリアルが常識はずれなのではなく、魔導国自体が常識はずれだったのだ。
そんなケラルトの様子を見て、ベリアルは苦笑した。
「まぁ、取り敢えず魔導王陛下に話は通した。今日は休んで面会を明日にするそうだ。予定通り、七日間の滞在となるが……今日は魔導国に慣れて貰う日、という訳だな」
カルカは察した。
面談が明日になったのは、元々の想定通りだったのだ。
恐らくベリアルが転移後、この状況を見て聖王国の面々が怯えてしまう事を察して、日程を伸ばしてくれたのだと。
あまりにもありがたい提案だった。
「は、はい、その日程で構いません」
デスナイト、と呼ばれるアンデッドから目を逸らしつつカルカは頷いた。
ケラルトとレメディオスは何かあればカルカを守らねばと、少し身構えていたが……それでも頷いた。
転移した先は魔導国の王城だった。
それをカルカが知ったのは、屋外に出た時、先ほどまで居た場所が王城だったからだ。
あまりにも尊大で、偉大な城だった。
国力の差を見せつけられているような気がするほどで。
そうして、カルカは王城からベリアルの屋敷に移動すべく、馬車に乗ったのだが──
「……全く揺れませんね?」
カルカの言葉にレメディオスが同意した。
「はい、確かに……おい、ベリアル。ちゃんと走っているのか? 馬も変だったし」
「ん? 走ってるぞ? それとあの馬はゴーレムだ、変じゃない」
「ゴーレム? ちゃんと走ってるのか?」
「そう言うなら、窓でも開けても……いや、窓を開けるのはオススメしないが、走っているぞ」
ベリアルの言葉にケラルトは目を瞬く。
「窓を開けられないのは、何か機密が見えてしまうとか……ですか?」
「いや、特にそんな事はないんだが……王城付近はアンデッドが警護してるからな。心臓に悪いぞ」
「……そうですか。ではやめて置きます」
ケラルトは頬を引き攣らせた。
レメディオスも窓にかけていた指を引っ込めた。
カルカはそんな二人を見て苦笑しつつ、馬車の内装を見渡した。
「ところでベリアル様、この馬車は何故こうも揺れないのですか?」
「ちょっとした
ベリアルの返答にケラルトが少し前のめりになった。
「工学、ということは聖王国でも再現できるものでしょうか?」
「ん? あぁ、いや、多分? 仕組みは分かるが、作る難易度については分からないんだが……滞在中に馬車の製造工程の見学でもするか?」
「是非に。ここまで快適であれば、誰でも気になりますし、聖王国に導入できれば、と」
「あー……だが、道路整備の必要もあるぞ。馬車だけでは、ここまで揺れを防ぐ事は出来ない」
「……それは確かにそうですね。そこを含めて、整備を考えれば……予算は……」
ぶつぶつと呟くケラルトを見て、レメディオスは少しげんなりとした顔をしていた。
カルカは彼女が何故こうも魔導国の技術を得ようとしているのか、理解できる。
ケラルトは魔導国と交流する事で利益があるのだと聖王国民に示したいのだ。
魔導国との交流を反対する南部の貴族の意見を押し除け、民衆の世論を掴む。
その為にも、得られるものは得ておきたいという話だ。
今後も魔導国……というより、ベリアルと交流を持ちたいケラルトの涙ぐましい努力である。
「……ま、そろそろいいか。王城からも離れただろうし、窓を開けるぞ」
ベリアルはそう口にしつつ、曇った硝子の窓を開けた。
馬車の外の景色が、三人の目に映る。
その瞬間、レメディオスは顔を険しくさせた。
「……アレは、ナーガか?」
胸から上は人間、それ以外は蛇。
凡そモンスターと呼ぶに近しい、亜人種だ。
レメディオス自身も何度か争ったことがある。
そんなナーガが商店の前で何やら話していた。
「姉様。魔導国ではちゃんとした国民なのですから、そう睨まないでください」
「むっ。そ、そうだな……すまない」
レメディオスが謝るとベリアルは小さく手を振った。
「いや、まぁ確かに驚くからな。仕方ない」
「……ベリアル様はまた、姉様を甘やかして」
ケラルトが小言を口にしているが、カルカは黙ったまま外の光景を見ていた。
ナーガだけではない。
コボルト系のビーストマンらしき種族、酒飲みのドワーフ、直立したカエル顔の亜人、冒険者のような格好をしゴブリン……そして、人間。
様々な種族が街を歩き、仕事をして、生活している。
そこには混乱や不安もなく、雑多な種族が入り混じった街とは思えないほどに調和された……平和だった。
(これが、魔導国……)
まるでお伽話のような光景に、カルカは吐息を漏らした。
どれほどの知力が、カリスマが、力があれば統治できるのか。
まだ見たこともないアンデッドの王に、カルカは畏れを抱いていた。
「ここは亜人地区だ。まぁ、正式名称じゃなくて市民が言ってるだけだが……亜人種が多く住んでいて、様々な種族が住みやすいように調整された家屋が多く存在する」
なるほど、とカルカは頷いた。
亜人に忌避感を持たない人間が住む地区と、亜人に忌避感を持つ人間が住む地区で分けているのだ。
魔導王が亜人種と仲良くするよう言っても、個人の主観は変え難い。
無理矢理押さえつけるより、自主性に任せた方が上手く行くという好例だ。
そう考えるカルカの視線の先で、ドワーフが家屋を建てているのが見えた。
しかし、そこにはドワーフだけではなく多くのスケルトンが含まれていた。
「………ベリアル様。魔導国ではスケルトンを労働力としているのですか?」
「ん? あぁ、そうだ。農村とかで開拓や農作業もさせている」
その言葉にカルカは驚き、レメディオスが顔を顰めた。
「何故、アンデッドに仕事をさせるんだ。人にやらせれば良いだろう」
レメディオスの言葉にベリアルは少し笑みを浮かべた。
「レメディオス。人が労働をする際、その力はどこから来る?」
「む……力……身体からだろう」
「それも正しいが、身体が力を生むには適切な睡眠や住居……何より、食事が必要だ」
「それは確かにそうだな?」
ベリアルの言葉にレメディオスだけではなく、ケラルトも興味深そうな顔をした。
「その食事を生み出すには労力が必要だ。そして労働をするのは人間、その力を生むのは食事……といったように、人の営みというのは循環している」
「……ふむ?」
「アンデッドは違う。労力を生み出す元手が必要ないんだ。一度召喚すれば壊れるまで働き続けて、結果を生み出し続ける。それは凄い事だと思わないか?」
「……凄いな?」
レメディオスは何となくでしか分かっていなさそうだ。
ケラルトとカルカは理解しているので、何かしら耳打ちでもしようかと考えて──
「まぁ、つまり、アンデッドがタダで働いてくれるから人間はタダで利益を得られる。最悪、働かなくて飯が食えるぞって訳だ」
「あぁ、なるほど。そういうことか」
身も蓋のない話をベリアルがした為、レメディオスは理解して頷いた。
そうしてベリアルはカルカやケラルトを一瞥した。
「無論、人間だって何も労働をさせず遊ばせている訳じゃない。人間から労働を奪い過ぎると碌な事にならないからな。あくまで補助、便利な道具としてスケルトンを扱わせている」
ケラルトは納得して頷いた。
確かにアンデッドを労力にするというのは聖王国では考えられない話だが、聞けば聞くほど素晴らしいものに聞こえる。
魔導国が建国から短期間で大きく発展したのも、アンデッドによる労力のかさ増しが理由の一つだと理解した。
そんなケラルトにベリアルは視線を戻した。
「さて、先程の話を聞いた上で……ケラルトはどう思った?」
「どう、とは?」
「おっと質問が曖昧だったな。自国でアンデッドを使いたいと思うか、だ」
「それは、その……」
その言葉にケラルトは少し悩んだ。
ベリアルの先程の口調から、この政策を肯定して欲しいのだと思った。
ケラルトも確かに、アンデッドの労力は魅力的に思えた。
だが、しかし、それでも。
悩むケラルトに対して、ベリアルが口を開いた。
「本音を当てよう。ケラルトはアンデッドを労力に使用する利点は理解している。だが、その上でアンデッドを利用したくはない。違うか?」
「……はい。私は神官ですので、その……民がアンデッドを使役する、というのはどうも……」
「いや、それでいい」
ベリアルがそう口にして、今度はレメディオスに目を向けた。
「な、なんだ?」
「レメディオスは反対だろ? アンデッドを使うことには」
「まぁ、そうだな。アンデッドは倒すべき敵だ。意思疎通もできないスケルトンのようなアンデッドならば、何をしでかすか分からん」
あまりにもあんまりな言いようにカルカとケラルトはギョッとした。
魔導国、及び魔導王への批判として受け取られてもおかしくないからだ。
「くく、そうだな。それもそうだ」
そんな二人の驚きを他所に、ベリアルは頷いた。
そして、カルカに目を向けた。
「カルカは……推進してくれそうだな?」
「え? えぇ、はい。民が豊かになれるのであれば、惜しむべきではないと思いますから」
カルカはそう言いつつ、難しいだろうと思っていた。
聖王女という最高責任者の立場ではあるが、常に南部の貴族連中に後ろから突かれている。
宗教国家である聖王国でアンデッドを労力とする法を進めれば、間違いなく南部は反発するだろう。
そう考えるカルカから視線を逸らして、ベリアルは各々を一瞥した。
「という訳で、全員の意見が違う訳だ。その上で……だ」
「……はい」
「俺からは別段、特に言うことはない」
「「「……え?」」」
困惑する三人にベリアルは意地が悪そうな笑みを浮かべた。
「俺の意見を受け入れる必要はないし、意見を受け入れなければ敵対する訳でもない。他人の価値観を尊重して、その上で歩み寄り、関係を築く……それが重要だ」
ベリアルの言葉にケラルトがハッとした。
そして口を開いた。
「つまりそれこそが、魔導国内に居る亜人達と軋轢を生み出さない方法……という訳ですか?」
「そうだ。種族間で思想も価値観も倫理すら違うからな。そうでもなければ共に生きていく事はできない」
ベリアルが頷き、目線を外へ向けた。
そこには亜人と人間の子供が並んで、屋台の前で食事をしている様子が見えていた。
「まぁ“詭弁”でもあるが。人を食う種族を抑圧しているのは事実で、互いに何かを我慢させているのは事実だ。それでも、様々な種族が過ごせるような国を作りたいというのが魔導王陛下の望みだ」
ベリアルの言葉に、三人は頷いた。
そうして馬車を走らせて少し経って、ベリアルの屋敷に到着した。
(ここがベリアル様のお屋敷……案外、普通なのね)
馬車の窓から屋敷を見て、カルカはそう思っていたが……直後、入り口に王城でも見た強靭なアンデッドが見えて、意識を改めた。
全然普通じゃなかった。
「あの、ベリアル様の屋敷にもおられるのですね?」
「ん? あぁ、デスナイトか? まぁ、魔導国内なら何処でも見かけるからな」
「何処でも……」
カルカは信仰系
ケラルト程ではないが、相当に高位の
あまり戦場に足を運ぶ事はないが、それでもアンデッドとの戦闘経験はそれなりにある。
そんなカルカから見て、あのアンデッドの難度は計り知れなかった。
一体で都市を滅ぼせるのではないか、そう思える程に威圧感があった。
そんなアンデッドが、何処にでも居るというのは、カルカを何ともいえない気持ちにさせた。
「……怖いなら下がらせようか?」
ベリアルの伺うような目に、カルカは首を振った。
「いえ、そんな我儘は言えません」
気を遣われる事は嫌ではない。
それは優しさだ。
そう、嫌ではない。
だが、対等な立場に居たい。
必要とするだけではなく、必要とされたい。
そう考えてしまうことこそが、本当の意味で我儘なのかもしれないが……。
カルカは僅かに悩んでいると、馬車からレメディオスとケラルトも降りてきた。
「むっ、あのアンデッドか……」
レメディオスは露骨に嫌さそうな顔をしていた。
対してケラルトは少し呆れた様子をしているが、デスナイトと目を合わせないように視線を逸らした。
そんな三人を見て、ベリアルは足先を屋敷へと向けた。
「まぁ、いつまでも外にいても仕方がない。屋敷の中を案内しようか」
ベリアルの言葉に三人は頷き、そのまま屋敷へと向かう。
途中、デスナイトと顔を合わせないようにベリアルを盾のようにしていたが。
そうしてカルカは屋敷の中に迎え入れられたが──
家具や装飾を見て、どうにも聖王国の王城より上……権威主義者の南部貴族の屋敷よりも豪勢に見えた。
だが、豪勢といっても金銀財宝で彩られているというよりは、細かな彫刻や高品質な絨毯などの豪勢さだ。
品のある豪華さ、と言うべきか。
そんな屋敷の中、メイド達ともすれ違う。
屋敷の使用人は全て女性のようで──少なくとも見える範囲では──彼女達は皆、一様に頭を下げてくる。
メイド達は皆、容姿に優れている。
街中ならば看板娘、貴族達ならば自慢にできるほどの美人揃いだ。
ベリアルは面食いの女好きだ。
以前に聞いていた話の通り、そしてベリアルが定期的に口にしていた自認の通り……そうカルカとケラルトは考えていた。
そんな中──
「お帰りなさいませ、ベリアル様」
恭しくメイドが頭を下げた。
他のメイドと同様に整った容姿……だが、特筆すべきは、その耳だ。
尖った長い耳、それは彼女が
「あぁ。ただいま、ルニー……話は聞いていると思うが、彼女達は今日から滞在するお客様だ」
「承知しました。ルニーと申します。何かお困りの事があれば、気軽にお声がけください」
ベリアルの言葉にルニーと呼ばれた青髪の
カルカも釣られて頭を下げたが……その手に指輪をしていることに気付いた。
ケラルトやレメディオスがしているものと同じ、恐らくはベリアルの側室である事を示す指輪だ。
途端に問いたい欲求に駆られる。
しかし、口にはできない。
主人を前にして、メイド相手に側室か問う……なんてことは双方に対する失礼でもある。
もやもやとした感情を抱えたまま頭を下げて、カルカはルニーの前を横切った。
「……
そうして、代わりにケラルトが質問を口にした。
「ん? あぁ、そうだが……そうか、確かに珍しいか」
「えぇ、はい。聖王国は法国と交流関係にありましたから、
「……そういえばそうだな。法国は
ベリアルが少し不快そうな顔をして、顔を顰めた。
優しい人なのだろう。
虐げられている身内の同族を想い、憂いているのだから。
カルカは少し顔を熱くしながら、足を進める。
そうしてベリアルに連れられて、ある部屋にまで到着した。
ベッドが三つ並ぶ、大きな寝室だ。
「ここが今日から三人に泊まってもらう部屋だが……個室が良ければ用意もする。どうする?」
「いえ、こちらで構いません。ありがとうございます……」
ちら、とカルカは部屋を見渡した。
大きく曇りのない鏡、豪華な天蓋、純白でキメの細やかなシーツ。
思わず、頬が引き攣ってしまう。
確かに素晴らしい家具だろう。
だが、あまりにも質の高い家具は芸術品と同じだ。
幾ら素晴らしくとも芸術品の中で寝泊まりするのは気が引ける。
「部屋の中では好きにしてくれ。
「
「あぁ。生活魔法を
生活魔法を
だが、貴族が大金を掛けて用意するもので、こうして客室に常備されていることは珍しい。
「あとはそうだな。この屋敷内でのルールも教えておこう。屋敷の外に出る際は、メイドを随伴してくれ。でなければ、アンデッドに拒まれて出る事ができない」
カルカは脳内でデスナイトを思い浮かべて、顔を青くした。
「部屋の外を自由に出歩いてもいい。日中と夜間、ある程度は食堂に人が居るから、何か食べたいという時は……そこにある
三人で頷く。
部屋の外を出歩いていいというのは、つまりベリアルの屋敷の中で見られて困るものは無いと言う事だろう。
「あと、それと──
「失礼致します、ベリアル様」
ベリアルが話していると、いつの間にか側にメイドが立っていた。
この屋敷で今まで見たメイドの中で最も容姿が優れている……眼鏡をかけたメイドだ。
「リュミエールか。どうした?」
「帝国からレイナース様が来られています。ベリアル様が帰還していると知らないとは思いますが……いかがしますか?」
「……あー」
ベリアルは少し悩ましさそうな顔をした。
レイナース、と言う名前にケラルトは覚えはなかったが、リュミエールと呼ばれたメイドの言葉から察するに帝国でもそれなりの立場になるのだろう。
対してベリアルは今、聖王国の重鎮でもある自分達の対応をしている。
そう考えれば、こちらを優先してもおかしくかい。
そうカルカは考えて……ベリアルに視線を戻した。
「ベリアル様、そちらを優先して構いませんよ?」
「ん? あぁ、いや、だがなぁ」
「こちらも身支度をしたいと思ってますから。着替えを見たいのであれば、その、構いませんが……?」
自分で言っていて少し恥ずかしくなった。
そんなカルカに対して、ベリアルは少し笑みを浮かべた。
「ふふ、それは確かに拙いな。少し、レイナースの所に行かせてもらおう……リュミエール、レイナースは今何処に?」
「面談室です。アルシェ様が対応されていますので、当分は移動していないかと」
「なるほど。なら悪いが、彼女達の案内を引き継いで貰えるか?」
「はい。ありがたき幸せです」
その言葉に頷き、ベリアルはこちらに視線を向けた。
「少しの間、離席させて貰うが……夕食の時間までには戻ろう。何か疑問があればリュミエールに聞いてくれ。では、失礼する」
そうして部屋を出て行ったベリアルを見送ると、リュミエールが視線をカルカへ向けた。
「引き継ぎさせて頂きました、リュミエールです。何か疑問、ご要望があればお聞きします」
そう口にしつつ眼鏡を、手で押し上げた。
瞬間、カルカはその手に指輪があることに気付いた。
彼女も側室なのだろうか。
疑問として口に出すか、出すまいか、カルカが悩んでいると──
「では、その指輪について聞きたい。それはベリアルの側室であるという証か?」
レメディオスが踏み込んだ。
げっという顔をケラルトは浮かべていた。
そんな二人に気分を害した様子もなく、リュミエールが笑った。
「はい、そうです。ありがたいことに、私もベリアル様の側室とさせて頂いておりますが……そちらのお二人も側室なのでしょう?」
「そうだぞ」
「そ、そうですけど……」
自信満々のレメディオスに対して、リュミエールの美貌に気圧されているケラルト。
そして……部外者となってしまったカルカ。
もやもやと心の奥で渦巻く何かを必死に抑えて、カルカは何とか笑顔を取り繕う。
カルカは善人である。
人によっては聖人と呼ぶ程には善人である。
カルマ値というシステムが、この世界にも存在するのであれば300オーバー……極善以上は確定するほどに善人である。
弱き民を見過ごせず、恐怖を押し殺して悪魔を討ち、国のために涙を流して、誰かの為に悩み寝不足になれるほど。
そんな彼女ですら、嫉妬心を抱いてしまった。
他人を害したい訳ではなく、貶めたい訳でもない。
ただ、羨ましくて、妬ましくて、自分もああなりたいと思ってしまう。
(こんなこと、考えてはダメなのに……)
人であれば普通の感情だ。
事実、カルカも他人に「私は嫉妬心を抱きます」と告白された場合、「それは普通のことですよ」と返すだろう。
だが、彼女は自分自身に厳しい。
他人へ振り分ける感情が、必ずしも自分へ割り当てられる訳ではない。
聖王女として貞淑に、人の模範になるべく育てられた彼女の価値観が……カルカ自身を苦しめていた。
自分の手首を、もう片方の手で握りしめる。
そうでもしなければ震えてしまいそうで。
「…………」
その様子に気付き、リュミエールは僅かに目を細めた。
しかし、それも僅かな時間で──
「では、屋敷の中を案内いたしましょう。荷物などあれば預かりますが、いかがしますか?」
本来のメイドとしての姿に戻ったため、三人に知る由はなかった。
アルシェの話
-
いる
-
いらない
-
※解答だけ見たい