輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~ 作:oosima
○神代 黒海某沿岸 アマゾン国 王都 城下町○
「その荷物は西の工房に持っていってー」
「土器の材料はー…」
神族の少年が姿を偽ったものである少年魔術師ユピタが、辺境にある村でメープルシロップ及びそれが採れるサトウカエデの森と、土器に使える粘土の良質且つ広く露頭した層を発見し、更に何処からともなく流れてきたところを保護した美少女五人姉妹を連れて王都に戻ってから一週間後、都のアマゾネス達は新入りが増えた状況に慣れつつも活気が増していた。
「ユピタ殿、東の工房についてですが…」
「うん、こっちも手が空いたからすぐに行くよ」
そうした活気の中を、理由となったユピタは忙しなく動き回っており、今も別の人だかりに呼ばれてしまう。
「あ、こんにちわですユピタさん! 先に必要な分の土器はもうそろそろ焼き上がりますよ!」
数分後、到着した現場では多くの土器が製作されており、その中に混じるヘスティアの両手から出た穏やかで優しいパチパチとした音を奏でている火が広範囲に広がっていた。
その中では、サトウカエデがある村ほどではないがこの近くで新たに発見された土より採取されし粘土を用いて作られた土器が焼きあげられていた。
「すごいですねーこの土で出来る“土器”って道具はー。ものを入れたり運んだり食べ物を美味しくできたりで便利ですよー。こんなの考えつくなんて凄いですねー」
「いや、この一週間の間でここまで火の魔術が上達したヘスティアも凄いと思うよ」
近くにはヘスティアの火の魔術で焼き上げられて完成した土器が並んでいた。
ここ最近、ユピタは力の大半の封印こそされて一応は人間の範疇に入れられてはいるが強い潜在魔力を持つ五人姉妹に、魔術を教えながら仕事も手伝ってもらっていたのだ。
「ユピタさん、こちらの魔術を用いてない土器による壺の出来は…?」
「ああ、ヘスティアが焼き上げたものほどじゃないけどこれも十分に皆の間で使えるよ。前にも言ったとおりに、形が完成してもいきなり火の中に入れて焼くんじゃなくて、十分乾くまで日の光で乾かすか、焚き木の傍において湿気を取ってから火の中に入れて完成させるんだ」
その一方で、魔術を用いない普通の人々による土器づくりの基盤整備も進めており、助言を入れながら彼女達だけでも出来るような体制を目指していく。
そして、完成した土器は、同じくユピタにいる技術導入で使役されるようになった馬に乗せたり、それが引く車に詰まれて運ばれていき、ユピタも同じく乗り込んで別の場所を目指していく。
「あんた夜だけじゃなく昼もよく働くじゃない。まー昼間の内でも夜みたいな仕事をしばしばこそこそとやってるみたいだけど」
「あ、はい、王都で唯一の男で且つ魔術師という立場で胡坐をかいて発情期のお猿さんみたいな醜態をあちこちでしていてすみません」
ちなみに、ユピタが乗り込んだ馬車は五人姉妹の末っ子であるアルテミスが手綱を引いており、彼女は彼に羞恥で頬を薄朱色にく染めつつも軽蔑を少し滲ませた眼差しを向けていた。
そうして二人を含めた車の一団が行きついたのは、王都の近くにある多くの樹林を抱えた山であった。
「あ、来たんだねゼウス君、こっちも色々と美味しそうなのを集めて見たよ」
そこで採集をしている女性達の中に、先に出来上がった大きな壺の中に大量のドングリを入れて担いでいるデメテルが健康的な汗を滴らせている姿があった。
「いやー、まさかこの“ドングリ”って実が食べられるものだったなんてねー。ゼウス君って目の付け所が凄いねー」
「いやー、普通なら水であく抜きとかしなくちゃ渋くて食べられない品種が多いんだけど…ここまで早く食べられるようになったのはデメテルさんが大地の魔術で才能があったのも大きいというか…」
「いや、あの形を考えたのも君だから一番の手柄は君だよ」
そのデメテルが指さした方角にあったのは、小山から湧き出る急流を段々状の水路に形を変えられて作られた水さらし場であった。
(デメテルに魔術を教えた時に、彼女は土や岩など大地に関する魔術に才能があったのはわかったから…、大学の時のゼミで習った縄文時代のトチの実などを加工していた水さらし場遺構の復元図とかを元に設計図を描いて、作ってもらったけど…ここまで早く且つ大規模なものが出来るなんてな…。アマゾネスの皆にいくつか手伝わせて次からは自分達だけでも作れるようにしたし…)
「あ、デメテルにゼウスさんもいたんですね! だったらお昼になって来たし昼食を作りましょうか! 面白い料理を考えたんです!」
そうしてヘスティアが作り出したのは、ドングリを主成分に作られた“縄文クッキー”に酷似したものであった。
「あ、こっちはサトウカエデの液を混ぜた分で、こっちはアテナちゃんが海で、アルテミスちゃんが山でそれぞれゼウスさんの作ったあの凄い道具や考えた方法で狩ってきたイノシシさんのお肉やお魚さんを挟んで焼いたものです!」
そうして現れたアルテミスの手にはこの時代にはまだないはずの形状や素材に工夫を凝らした複合弓と狩ってきた獲物、アテナの手には魚が多く詰まっている袋が担がれていた。
「…はぐはぐ、美味しいねー」
「ああ、そちらにいるユピタが一緒に考えてくれた道具で色々と魚を取ることができた。皆も感謝していた。俺からもありがとう」
「まあ、ここの人達が言っていたみたいに道具作りや作戦とか魔術で才能があって、色々知恵があるのは認めるわ。こっちもその分に働くから安心してちょうだい」
「…ああ、こっちもこれからよろしく…!?」
そうして新たに得た食材も用いて、作られていく縄文クッキー風料理を一堂はおいしそうに食していくが、そこで素直に感謝するアテナとは対照的に、アルテミスは再び弓を手に取ってユピタに弓矢を差し向けた。
「!? アルテミスちゃん何をするんですか―――!?」
「ぎゃわん!?」
それにヘスティアは驚くが、矢はそれを見ても動じた表情を見せないユピタの頬のギリギリ真横を通り過ぎ、背後の茂みに突き刺さるとそこから獣の悲鳴が響いてきた。
「後ろから狼が隙有りと見て忍び寄ってきてこっちを背後から不意打ちしようとしていたのは気配でわかってた。だから避ける必要もなかったよ。ほら、これも食肉や道具の原料にしよう」
「―――あ、は、はい、そうだったんですねー。良かったー。人を見る目と度胸もあったんですねー」
ユピタが背後の茂みに手を突っ込み、アルテミスの放った矢が全て当たって死亡している狼を取り出すと、ヘスティアは安堵すると同時にすごいものを見る眼差しを彼に向ける。
(…ウゥ、一番人が良いヘスティアお姉ちゃんが一番危なそう…。ここには女の人しかいなくて、男はこいつしかいないから子供が欲しいならこいつを当面は頼るしかないってほとんどの人も言って来て、元からいるアマゾネスの皆はほとんど受け入れちゃってるようだし‥。ここの人たちは強くて優しいし…実際に交わってる人達はいやいやそうじゃなくてむしろ本当に楽しそうだったし何より気持ちよさそうだった…いやいやいや何を考えてんのよあたし!? ととととにかく皆がこいつにこれ以上食い物にされないためにも! 特にお姉ちゃん達までその毒牙にかけられないようにあたしが何とかしないと!!)
それに対し、アルテミスは周囲と異なってユピタに(時々顔を赤くしたり勢い良く横に振ったりはしつつも)警戒心全開なジト目を向け続けるのであった。
(…すごく警戒されている。まあ、傍から見れば普通は唯一の男である立場を利用して周囲の女性を性的に搾取している男か…、良くて女性達に集団で性的暴行されている子供にしか見えないし…、何か名前を聞いた時から弓や山林絡みで危ない感じがするから…というかさっきみたいに危ない真似をしてくるから…仕事と緊急時以外はあまり近寄らないようにしよう…)
一方、ユピタはその彼女の複雑な内心など知らず、この一週間での彼女から感じた危険な気配や敵意から危なさを感じて、落ち着いた面持ちとは異なって内心でビビっていてなるべく避けようと決めつつあった。
次回より、今回の話で紹介したアマゾン国各所の詳しい変化の様子が描かれていく予定です。