輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~ 作:oosima
○神代 黒海某沿岸 アマゾン国南部 海岸地帯○
「「「「「「「「「キシャアアアアアアアアァアアアァアア!!!!!!!!!」」」」」」」」」
漁業技術の進歩や製塩技術の確立で沸き立っていたアマゾン国の海岸部で、海原を突き破って異形の怪物が現れた。
海蛇に似た特徴はしているがサイズはけた違いに巨大で、何よりも人を丸呑みできそうな頭が九つ付いた異形の怪物であった。
「「「「「キャアァアアアアアアアァアアアアァ!!??」」」」」
当然、初めて目にするその怪物に海岸部で働いていたアマゾン国の人々は恐慌を起こして多くが逃げ出した。
「…この怪物…!? 海蛇みたいな姿で九つに分かれた頭…まさか…!?」
数少ないその場に残った一人である、神族の逃亡少年ゼウスもといアマゾン国の客将魔術師ユピタはその姿に記憶を刺激されるが、そこで自分と同じく残っていた一人で先ほどまで彼を今とは別な意味で追い込んでいたあの少女がその視界に現れた。
「この蛇の化け物! 何処のどいつかは知らないが今は皆でいいところなんだから邪魔をするな!!」
素潜りでカジキマグロを仕留めて持ち帰るのに使った大銛を振り上げた状態で、アテナがその怪物の頭の一つを穿ち抜くべく飛び上がったのだ。
「ちょっと! まだ詳しいことがわかってないのに無暗に近づいたら駄目だ…!?」
それにユピタが強ばった顔で声を張り上げた時、その飛び上がったアテナに向けられた怪物の頭の一つが口をいったん閉じて大きく頬を大きく膨らませ始めた。
「…あの動きは…まさか!? ヴィーナ! あいつが口から出しそうなものを人がいない方向へ!」
「はいはい、何かやばそーねーあの蛇っぽい子…えい!」
ユピタはその行動に前世の記憶を嫌な意味で刺激され、それが出た叫びに駆り出された美の女神アフロディーテもとい同じアマゾン国客人魔術師ヴィーナは両手から巨大な泡を繰り出して怪物目がけて高速で撃ち出した。
「それ!」
「うわぁ!?」
そして、ユピタは自身の雷の応用で両手に電磁力を発生させ、それで自身が手掛けた金属器の一つである大銛の動きを触れずして支配して大きく引き寄せ、それを掴んでいたので引きずられる形となったアテナを驚かせた。
「シュウゥ!」
すると、怪物の首の一つはつい先ほどまでアテナがいた宙に、唇を薄く開いて勢いよく怪しい色の煙を噴出した。
「
それを見たヴィーナが静かに目を細めて低くだが冷たい殺気を宿した声を発すると、彼女が宙に浮かばせた大泡の一部にパッと穴が開き、そこから強風が吹きだした。
「「「シャアァ!?」」」
怪物の首の幾つかはそれに驚くが、吹き込んできた風はその一つが吐き出した怪しい煙を人が居ない方向に飛ばした。
「「「「「!!!!???」」」」」
代わりに、人が逃げた後である岸辺に置かれた漁のための籠に煙は降りかかり、中に入ったままの魚は苦しそうにのた打ち回って死んだ。
「うわぁ!? あそこにいたお魚さん達が皆ぁ死んじゃいましたよぉ!」
「…あれは毒! だとすると…あとは―…!!」
それを見たユピタは確信を強めた表情を浮かべると、持ってきていた魔法の背嚢から、前世の故郷にある日本刀のような曲刀を取り出し、体内に稲妻と魔力を走らせて身体能力を底上げすると怪物の首の一本の首元まで一気に飛び上がった。
「し!」
「ジャア!?」
そして、その首の一つをユピタはその曲刀であっさり切り飛ばした。
「ッ!? 一つやったか―――!?」
「いや! 多分まだ!」
「―――!?」
それに先ほど怪物から強引に引き離されて地面に降ろされたアテナは笑みを浮かべるが、ユピタに制されると驚くものを目にする。
「「シャアアアアァアア!!」」
なんと、頭の一つを切り飛ばされて赤い血が勢いよく滴っている断面から、猛烈な勢いで新たな頭が、それも二つに増えた状態で盛り上がって再生したのだ。
「な、何ですかあのものすごいけど怖い蛇さんは―――!?」
「ヒュドラだ!!」
「―――あうええ!?」
それにヘスティアが驚きと恐れをないまぜにした顔で見上げると、その傍に着地し直したユピタが前世知識にあるものと当てはまった怪物の名を叫んだ。
「ユピタよ何だそれは!?」
「(前世だけど)昔にある古文書(実際は古本屋のギリシャ神話の笑い系解説本)で読んだことのある海蛇の怪物だよ! 生物を容易く殺せる猛毒を持っててい且つ九つある頭も潰してもすぐ二つ分で復活させられるって言う!?」
「ええ!? そんなの反則じゃない!?」
それに反応したアテナへのユピタの細かい説明を受けて、逃げる仲間の背を守ろうと同じく残っていた少ないアマゾネスの女戦士達から絶望の悲鳴が上がる。
「大丈夫! 手はあるから! ヘスティア!」
「は、はい!?」
「塩作りでたくさん作っていた種火を集めて魔術で強化して! それとヴィーナは泡の魔術であのヒュドラの毒が皆に襲い掛からないように守って! 他の皆はあの怪物が逃げている子達を追わないように弓矢でけん制しながら頭が増えないように致命傷を与えないで!」
「任せてー!」
「「「「「は、はい!!」」」」」
「それでアテナ! 君は僕と一緒にあの蛇の首を潰せるだけ潰しに行こう!」
「あ、ああ!」
だが、その中でもユピタは難しそうな顔を浮かべつつも決して絶望の色を見せずに周りへ矢継ぎ早に指示を下し、魔術の背嚢から刃渡りの長い大槍を取り出すと、それをアテナに持たせて彼女と一緒に身体強化魔術で高速になった体でヒュドラに襲い掛かった。
「…ふん!」
「せい!」
「「「「「シャアアアアアアアアァアア!?」」」」」
数分後、ユピタとアテナは身体強化魔術で機動力と敏捷性を上げた身でヒュドラの身のあちこちを飛び回るか駆け回り、着々とその頭を切り落とすか穿ち抜くかして潰し、ヒュドラに苛立ちとそれ以上の困惑、何より恐怖を生じさせるようになっていた。
「せい!」
「シャアア!?」
ヒュドラの首の一つが毒煙を吐き出すべく溜めで一瞬動きが鈍くなると、ユピタは稲妻のような速さでその首元に駆け寄って曲刀でその首を切り飛ばした。
「ヘスティアちゃん!」
「は! はい! とりゃー」
それを見たヴィーナの促しに応じてヘスティアは火の付いた薪を一本手に取り、もぞもぞと再生のため肉が盛り上がりだしたそのヒュドラの首の断面へ勢いよく投げつけた。
「ジャアアアアァ!?」
すると薪は切り飛ばされた首元に近づいた瞬間に大きな火球となってヒュドラに悲鳴を上げさせた。
悲鳴と火球が収まる頃には、ヒュドラの首の断面は肉の盛り上がりが止まっており、代わりに焦げ付いて黒くなって異臭を放つ火傷と化している。
(…この弱点は神話と変わらないな! 今の所は上手く行っている!)
その状態はユピタが戦いに加わっている面子に説明したとおりのもので、前世の記憶にある神話でヒュドラが退治された時の話と同じ展開にユピタは安堵する。
「姉上! こっちにも火だ!」
「はい! とー!」
それを見てアテナもヘスティアに火の付いた薪を投げ渡させ、それを大槍の穂先に術で纏わせると、ヒュドラの別の頭の片目に勢いよく突き込んだ。
「ジャアアアアアアアアアァアア!?」
すると火はその頭の内部で勢いよく燃え盛り、もだえ苦しむその頭の内部にある脳を焼き尽くし、数秒足らずで首の一本をぐったりと絶命させた。
「(…なるほどなぁ、ああすれば脳みそを失った頭は何も出来なくて且つ、次の頭は残っている空っぽの頭に邪魔されて生えることが出来ないってわけだ。やっぱり、あのアテナって子…頭…特に戦いになるととりわけいいな)よし! このまま行こう!」
「ああ!」
それにユピタはアテナの戦闘センスの高さを感じとって舌を巻きつつ、彼女と共にヒュドラの残りの首を次々と仕留めていく。
「よし! 最後に中央の一本! こいつで終わりだ…!?」
そして、他の首が焼き潰された断面か内部を焼かれてぐったりとしたものだけになると、アテナは最後に残された中央の首に襲い掛かるが、燃える槍先がその目に当たった時に信じられないものを目の当たりにする。
「シャアアアアアァ!!」
何とヒュドラ最後の頭は迫りくる赤き槍先をその片目の網膜で弾き返して見せたのだ。
「…なぁ!?」
「危ない!」
それに驚くアテナの身にヒュドラの毒の牙が襲い掛かったが、寸前でユピタが彼女の腰を掴んで地上に飛び降りて致命傷は避けられた。
「(…やっぱり最後に残しておいた中央の頭は不死身だったか…)どうやら最後のは外からの攻撃にはめっぽう強いらしい…」
「そんなのんきに構えてる場合じゃないですよぉ! 傷も付けられないならこっちには何もできないじゃないですかぁ! 向こうは
「そうなんだよなぁ…ん?
その神話にある通りの防御力に舌を巻くユピタにヘスティアが悲痛な叫びをあげるが、ユピタはその彼女の叫びに混じるある単語と、彼女の周囲にある今も燃える大量の薪に意識が向き、脳が雷速の如く高速回転しだした。
「ヘスティアー! 今からそっちにこのヒュドラを連れていくけど実際に到着するまでは踏みとどまって火を集めて僕が合図したらめっちゃ強くしてー!!」
「ええええええええええええええ!?」
「ヴィーナー! ヒュドラが集めて強まった大火に近づいたらとにかく頑丈で大きな泡! 特に火と毒に強くって空気もろとも通さないのでヒュドラと大火を包み込んでー! しかも暴れられても破られないくらいに超丈夫なので! それが出来たら少し距離を取って二人で一緒に逃げていいからぁ!」
「ちょっとぉ!?」
「アテナァ! 一緒にヒュドラをあの二人の傍へ連れてくよぉ!」
「わわわぁ!? わかったァアアアア!!」
そして、何かの策を考え出したようだがその内容で三人の女性に悲鳴を上げさせつつ、押し切って即座に動き出した。
「さー来い! 馬鹿蛇ー!!」
「こっちだこの死にぞこないデカブツー!!」
「シャアアアアアァアアァ!!」
ユピタとアテナの二名はヒュドラを挑発しまくって逃げつつ、その背を追うヒュドラを海辺から引き離していく。
「あわわわわ! ちちち近づいてきてますよー!?」
「ちょ、ちょっと…あちこちの砂にジュワッて嫌な音と煙立たせてるあの毒に触れたら(素の)私達でもキツイっぽさそうだけど…!?」
そうして近づいてくる二人と怪物にヘスティアはガクブルし、ヴィーナは少しひきつった顔を浮かべつつもユピタに言われた段取りを大急ぎで進めていく。
「よっしゃー! 皆ー! 今だー!」
「ああ!」
「シャア!?」
そして、現場に着いたところでユピタはアテナと同時に左右に勢いよく別れて岩礁の隙間に飛び込んで、追っていた獲物に別れられたヒュドラを戸惑わせて一時停止させた。
「ヴィーナー!!」
「あーもーわかったわよ! それー
それからユピタに呼びかけられたヴィーナは珍しくやけっぱちになった声になりつつも、半透明状の薄い黒鉄色を帯びた巨大な鐘のような泡で火の付いた薪とヒュドラを包み込んだ。
「ヘスティアー! やってー!」
「わわわわかりましたーーー! ええーーーーーいい!!」
そして、ヘスティアが手をかざすと閉じ込められた薪が赤い光線で結びつき、すぐに巨大な業火となって泡の中を多く満たしてヒュドラを覆い始めていく。
「よ、よし! これならー…もが!?」
「いや! 確かに熱さは感じているらしいけど火傷はしてなさそうよ! 今のうちに逃げるわよ…!?」
それに希望を見出したヘスティアをヴィーナは背後から掴んでさっさとこの場から逃げ出そうとするが、その二人の身はあの二人によって掴み取られた。
「さあ! ヴィーナ! 君への強化魔術は僕が! ヘスティアの方はアテナが支援する! 僕らの魔力を(あの嫌そうな目みたいな感じに気づかれない範囲に調整してあるから)全力で使っていいから踏みとどまって今の魔術を全力で使用して!!」
「えぇ!?」
「姉上! ユピタを信じよう!!」
「ももももうやけですよおおおおオオオオオオオ!!」
両腕で止められて逃げ足を封じ込められた二人は、ほとんどやけっぱちで今の時点で最大級の魔力を使用している魔術へ注ぎこむ。
「…キ…キイイィィシャアアアアァ!?」
すると、火にあぶられて煩わしそうにしつつも火傷は負っていなかったように見えたヒュドラが、急に息苦しそうな様子になって大泡の中で暴れ出して、次第にその動きは徐々に鈍くなり始める。
「…ほえ? 何が起きてるんですかぁ…?」
「密閉されてる中で火が燃え続けてると、空気の中の良い魔力を原料に悪い魔力ばかりが多くなってそれが肺から害して来るんだよ(実際には酸欠と二酸化炭素中毒とかだけど…この時代だから魔力ということにしておこう…)ヘスティア、ヴィーナ、気を緩めずにしっかりと魔力を注ぎ続けて!」
「わ、わかったわ!」
戸惑う面子の前でユピタは前世由来の科学知識に応じた作戦なのをこの時代風に言い直して周囲を納得させ、集中し直させた。
「…じゃアアアァアアアアァ…」
十数分後、酸欠及び二酸化炭素等の中毒でとうとう耐え切れなくなったのかヒュドラは勢いよく倒れてゲロと胃液を吐き出して白目になった。
「…お、終わったんですか…?」
「みたいだね。まずはヘスティア、中の火を完全に止めて。それから逃がした皆に縄を持たせて呼び戻して。集まり終えたら泡の魔術を解いてヴィーナ」
「わかったわよー…」
それに周囲は半信半疑とした表情ながらも安堵も覚え、ユピタの指示に従って再び自由になった身を動かし始める。
「…うわ! あの凄くでかい蛇が伸びてる!」
「いや、もう死んじゃってる感じだわー!」
数分後、戻って来たり隠れていた岩陰から出てきたアマゾネス達が縄など、ヒュドラの屍を縛り上げるための道具を準備した状態で集まり直してきた。
「よし、ヴィーナ」
「わかったわ、泡よ溶けて」
それに不死身改め不傷の頭を確認しつつヴィーナは泡の魔術を解かせ、触れられるようになったその頭に縄を掛けて顎を開かれないようにする。
「よし、ど、どうにか大丈夫なようですね―――」
「ジャアアアアァアアアアァ!!」
だが、それにヘスティアが安堵の念を強めたその直後、アテナに脳を焼き潰されて死んだはずの頭の一つが大口を開いて襲い掛かってきた。
「危ない!!」
「―――え…!?」
その毒の牙がヘスティアの背を穿ち抜こうとしたところで、戸惑う彼女にユピタは抱き着いて飛ばして牙から逃すが、代わりにその二人の視界はヒュドラの赤黒い口内に一瞬埋め尽くされ、すぐに闇へ切り替わって二人の意識はそれに飲み込まれた。
次回、今回は出番が無かった大人向けパートが活躍する(?)予定です。