※この作品はR-18です。

輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~   作:oosima

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今回、本作主人公に加えてあのギリシャ神話原典の処女キャラで悲恋担当枠であるあの子が活躍します。
それらに尺が取られて大人向けシーンは今回もありません。


056 飛べない鳥は代わりに何かを得てるものだけど…●

 ○神代 黒海某沿岸 アマゾン国 王都 城下町付近農業試験場○

 

「ゴゲエエエエエエエエエエエエェエエ!!」

「逃げろー!」

「毒の息まで吐くから近寄るなー!」

 

 アマゾン国の発展で大きく役立っている王都の傍に広がる広大なその農園で、鶏を思わせる巨大な鳥型魔物のコカトリスが暴れ回り、周囲の人々はその多くが逃げ惑うだけであった。

 

「くそ! 矢や投げ槍をしてもほとんど傷を付けられない!」

「何て丈夫な羽毛なんだ!」

「これ以上は下手に打ちこむな! 武器まで毒で汚染されて触れられなくなる!」

 

 アマゾネス達はどうにかコカトリスを討ち取ろうとするも、コカトリスのあまりの丈夫さや毒を撒く体質から上手くいかない。

 

「…うわぁぁ! ど、毒で足がぁ…!」

「手を掴んで! 悪いけど毒に汚染された箇所は私に近づけないでください! 他の子達を逃すことが出来なくなります!」

 

 そんな状況でポダルゲはその飛翔能力や足の速さを生かし、毒や怪我で動けなくなった人々を安全な場所へ逃がしていっていた。

 ポダルゲは“足の速い女”を意味するその名の通り、その足は俊足で怪我人や老人など逃げ足が遅くなっている者達を抱えても類まれな俊足を特に見せ、時としてコカトリスの攻撃が迫っても毒が宿っている部分を避けてそうでない部分から蹴り飛ばして無傷を保っていた。

 

「…よし! これでこの辺りの皆は逃せられた! 後は武器のあるところま…きゃあァアアアア!?」

 

 だが、そうして辺りから他の人の気配がいなくなったその時、ポダルゲが踏んでいた地面が内側から爆ぜてその身は宙に投げ出されてしまう。

 

「シャアアアアァ!!」

 

 爆ぜた地面から立ち上った土煙より巨大な大蛇が豪速で姿を見せ、宙へ投げ飛ばされたポダルゲの足首に巻き付いてきたのだ。

 

「そんな!? あの鶏みたいな魔物以外の気配など感じ取れなかったのに…!?」

 

 それに驚愕と不審を生じさせたポダルゲのその疑問はすぐに答えを得た。

 

「ゴゲエエエエエ!」

「シャアアアアァ!」

 

 蛇の長い胴体を視線で追っていくとその根元はコカトリスの尾部に存在しており、大蛇はコカトリスのもう一つの頭かその身の一部であることが分かったのだ。

 

「うぐ…! こんな魔物もいたなんて―――!」

「シャアアアアァアア!」

「―――え…グ…ううぅ…」

 

 自分が見てきたものとは異なる新たな生態の魔物にポダルゲは悔しさを覚えて翼を羽搏かせて逃れようとするも、蛇の頭から霧状の毒を浴びせられて意識が薄れ始めてしまう。

 

(…あ…だ、駄目…姉様たち…そして…ユピタさん…そしてま(・)だ(・)産(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)あなた…ごめんなさ…!?)

 

 ポダルゲが消えつつある意識の中でまだ再会できていないものも含めた姉たち、この地で恩人となって誰よりも愛おしくなった男、何よりも今のこの身に宿っているその男との絆の証に心中で詫びたその時、朦朧としていた視界の中でキラっとした光が映ったかと思えば、それは猛烈な勢いでこちらに向けて近づいてくるのが見えた。

 

「ギジャア!?」

「ゴゲェ!?」

 

 その光は稲妻を伴った大槍に変化し、蛇の胴体を中心から焼き穿ち抜いて二つの頭に悲鳴をあげさせた。

 

「…少しだけ雷の力を使ったけど…周囲の気配からしてあの盗み見るような感じには気付かれていないかな―――」

「あ、ありがとうございま…あう!? し、痺れ…!」

「―――あ! ご、ごめん…」

 

 光の槍はこの国へ神族の逃亡少年ゼウスという正体を隠した少年魔術師ユピタへ姿を変えるが、その手に残った先ほどの雷光に、彼に抱き留められてその手に触れていた肌を少し焼かれてポダルゲは驚き悲鳴を上げてしまう。

 

「とりあえず君はこの場から逃げて! ヴィーナが便利なのを送ってきてくれたから!」

「ユ、ユピタさんはどうするつも…きゃあ!?」

 

 そこで大きなシャボン玉を思わせるボールがポヨンとその場へ割り込み、ユピタがその中へポダルゲを投げ込むとシャボン玉は鳥のような形に変化し、浮かび上がってその場から飛び去った。

 

「…ゴゲえええええええぇ!」

「…どうにか足を引っ張られそうなのは近くからは避難させられたけど…、あまりさっきの雷みたいな僕自身の力と気配を強く出しそうな攻撃は、緊急のために使ったさっきと違ってまだ気付かれないって保証はどこにもないから…どうしたものか…!?」

 

 それからしばらく頭の一つを潰された怒りで暴れ回るコカトリスに、今の安全な範囲内に含まれる使える魔術で倒すことの困難さにユピタは攻撃を避けつつも頭をひねくらせるが、そこでコカトリスの暴れまわりで飛び散る瓦礫に混じるあるものに気付いた。

 

(…あれは、この場から避難させる前にアマゾネス達があの魔物へ投じ続けていた投げ槍や矢…待てよ、今のこの国の武器はほとんど鉄製だから…、この前からの魔術実験で…雷の応用であの特徴的な波長を抑えつつも別用途に向けて改良してきたあの術を用いれば…)

 

 ユピタは自分も手掛けているそれらの道具のこの場にあるものを確認しつつ、波長を変えてから再び我が身の内側で魔力を練り始めた。

 

「…よーし! あそこにいた皆はあの子以外は避難が終わったわねー!」

 

 一方、農業試験場から離れた城壁の内側で、美の女神アフロディーテという正体を隠してアマゾン国の客将女魔術師をしている、ユピタの相方というべきヴィーナが避難した者達の治療に当たっていた。

 

「…うう、ありがとうヴィーナさん…メディア様…」

「やっぱりこの人たちの回復魔術は上手いなぁ…」

「あ、すみませーん。魔術で効果を引き上げている解毒用の薬湯が出来上がりましたー」

「ありがとうございますヘスティアさーん」

「ヘスティアさんの火の魔術で温めた薬湯が一番温かくて優しい味で安心できるんだよなー…!?」

 

 城壁に守られたその内側で怪我人たちは一先ず安心して治療を受けていくが、それを遮るように農業試験場から戦闘の轟音と魔物の怒号が響いて大気と地面を揺らしてくる。

 

「…あの魔獣のあの暴れ方…! もうそろそろこっちにまで来るんじゃ…」

「あ、大丈夫よお嬢ちゃん。あの子が他に離れてもらったおかげである程度自由になった状態で頑張ってるから」

「え? それってー…まさか」

「うん、ユピタが頑張ってくれてるからー…!?」

 

 それで再び首をもたげ始めた不安に周囲が慄く中、ヴィーナが安心させようと今コカトリスと戦ってくれている少年を思い出させるが、そこである一人の城壁を強く蹴りたつ音が響いた。

 

「ゴゲエエエエエ!」

 

 一方その頃、コカトリスはユピタと交戦中のままだったが先ほどの怒りは薄れ、鳴き声には代わりに侮りと思える色が浮かぶようになっていた。

 コカトリスの周囲は次々と瓦礫が飛び交って細かく砕けていくが、その中から少なくなっていくある種類があった。

 

「…すごいなあ。ここまでずっと同じような攻撃を続けられるなんて…鶏に似ているだけあって頭も鶏みたいで飽きるという概念を考える余裕がないのかな…うお!?」

 

 それに笑みを浮かべつつも少なくない汗をかいている様子で攻撃を避け続けているユピタだが、後ろ向きで走っていたその時に踵が瓦礫に躓いてとうとう倒れてしまう。

 

「ゴゲェ!」

 

 それを好機と見たのかコカトリスはその巨大で鋭い嘴を豪速でユピタの前面に振り下ろした。

 

(あの馬鹿! マセガキのくせしてこういうところばっかり無茶なかっこつけばかりしてー…!?)

 

 遠目でそれを見たある少女は表情を険しくさせるが、嘴がユピタの腹部に当たる寸前に彼女は驚くべきものを目の当たりにする。

 

「ゴオオゲエエ!?」

 

 周囲の瓦礫の影より、アマゾネス達によって防衛のために用いられていたが、先ほどのコカトリスの動きに比例して姿を消していっていた投げ槍や矢が飛び出し、コカトリスの片目に撃ち込まれたのだ。

 

「…雷の力を直に使うのじゃなく、その応用で生じさせられる電磁力で周囲の鉄を操るのは上手くいったね…。隠すのはそっちが勝手に巻き上げ続けた土煙で上手くいったし…」

 

 目前でのた打ち回るコカトリスの血を浴びつつも、立ち上がったユピタの周囲には姿を消していたはずの鉄製武器が浮遊して周囲を旋回しだした姿があった。

 それらの浮遊している武器の正体は、ユピタが得意とする雷の波長を変えて、金属、特に鉄と引き寄せ合う性質を持つ電磁力によって操作されているものであった。

 

「やはり目の方はそこまで丈夫じゃないな。じゃあ、残された方の眼も潰して一気に脳を―――」

「キシャああアアアァアア!!」

 

 新たな攻撃魔術の可能性と威力に満足しつつユピタはコカトリスに止めをさそうとするが、そこで彼の足元が爆ぜて大蛇が姿を現し襲い掛かってきた。

 

(―――おってええ!? こいつはポダルゲを助けた時に雷槍で胴に当たる尾の部分を穿ち抜いて首を飛ばしたはずじゃ…!? この真新しい皮膚とこびりついている血…まさかあのコカトリスの尻から再び生やしたか…!?)

 

 完全な不意打ちで宙へ投げ出されたユピタは驚きつつもそのその理由を悟るが、直後に新しく生えてきた大蛇の猛毒の牙が自身の後ろ首に迫りくるのを察知してしまう。

 

(まずい! この感じの毒…いくら神族でも…自己封印でスペックを落としてる今の状態で受けるとかなりまずい奴だ―――!?)

 

 それにユピタが久々に本当の意味で身の危険を覚えたその時、風を切る音が鼓膜を震わせてきた。

 

「キシャア!?」

 

 猛毒の牙がユピタの肌に触れようとした寸前に、その牙は火の魔術を纏った矢で打ち砕かれて毒も燃やし尽くされてしまったのだ。

 

「―――あ…この攻撃はぁう!?」

 

 その弓矢にユピタはある少女の姿を思い浮かべるが、それに気を取られて瓦礫の大きな突起に股間から不時着して悶絶してしまう。

 

「…全く、かっこつけてるときは本当にかっこいいのに…いつも肝心なところで台無しにするわよねあんたって…っ!!」

 

 そうしてプルプル震えながら地面に蹲ったユピタの傍で、先程の矢を撃ち放ったその少女の、小馬鹿にしつつも安堵している声と再び弓矢を放った音が大気を震わせた。

 

「ゴゲ!?」

「ギジャ!?」

 

 二本の矢は毒の牙を射抜かれた痛みでのた打ち回っているコカトリスの鶏部分の残された片目と、再生された蛇の両眼をそれぞれ穿ち抜き、深さから脳髄まで矢に到達されただろうその巨躯は倒れてズシンと大きな地響きを立てた。

 

「…アルテミスか…助かったよ。ごねんね、良いところで余計なことを考えててまたみっともない所を見せちゃったね…ありがとう」

 

 その後、どうにか痛みが引いたユピタは身に付いた土や砂を払いつつ、少し苦悶が残りつつも精悍さと明朗が調和した気恥ずかしさの目立つ苦笑で頭を下げた。

 

「ッッッ!? ななな何がありがとうよ! そもそもあんたが一人で勝手にあれこれ決めて間抜けな自分だけで片付けようとしてたからこうなったんじゃない! 本当に申し訳なさとありがたさを覚えてるんなら以前にあんたがしてた土下―――!」

「じゃ…じゃああ…!」

 

 それにアルテミスが急に何故か猛烈な羞恥と嬉しさを覚えて顔を赤くしつつもそっぽを向こうとした時、背後から苦悶しつつも怨嗟を宿らせたうめき声とズズッと地面をゆっくりとだが重く這いずる音が忍び寄ってきた。

 

「―――座を…!?」

「危ない!」

「…え!?」

 

 アルテミスがその背後を振り返ろうとした時その身はユピタに突き飛ばされて、彼の強張った表情とそれを包み込んでいく毒の霧が、現実では一瞬だが感覚的には走馬灯のようにゆっくりと彼女の視界を埋め尽くしていった。




次回、ある重要キャラの治療のお話が中心になりつつ、ギリシャ神話のアーチャー枠で首位争いをするあの娘のお話が進展します。
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