輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~ 作:oosima
今回は、本作主人公による技術やアイディアでのチートのこれまでの積み重ねが、主人公にとって大きな助けになります。
それとギリシャ神話アーチャー代表ヒロイン枠のあの子も、出番は少ないですけど主人公への感情に変化が生じます。
○神代 黒海某沿岸 アマゾン国 王都 王宮○
「…それで彼の様子は…?」
アマゾン国の重要施設である農業試験場がコカトリスに襲われるも、それが撃退された日の翌日、同国女王アウラはその武功を挙げた人物の今の状態を憂えていた。
「…は、我がアマゾン国の最高技術顧問魔術師ユピタ様の容態ですが、コカトリスの死の間際に吐き出した毒の息を浴びせられてから意識が昏睡しているままで…」
「これでもメディア様たちの尽力で毒を浴びせられた直後よりかは持ち直しているようですが…」
同じく王宮でアウラに仕えるアマゾネス達も、この国へ神族の逃亡少年ゼウスという正体を隠している客将魔術師にしてアマゾン国発展の貢献者になっているユピタの重体に重い顔を禁じ得ない。
「…本来なら触れただけでもどんなに長持ちしたところで百を数えないうちに死ぬはずの毒で…今も持ちこたえているのは凄いというか…(…本来の神族の肉体ならもうとっくに治っている頃合いなのに…けれど、今のギリギリではあるけど人間基準まで制限をかけている肉体だとどうなるか…もしも死んだりしたらどうなるか…)」
その場で重い顔を浮かべている一同の中でも、ユピタと同じく正体を隠して美の女神アフロディーテとしてではなくこの国に客将女魔術師として暮らしているヴィーナは特に不安な表情を浮かべていた。
(…クレーテー島に連れ帰ってレアさんに診てもらえばどうにかなるだろうけど…この状態だと高度な魔術と多くの魔力を使ってすぐに行かないと…けれど、それをしたらあの子の父親とは思えない
「クルッポー」
そうして一同が考え込んでいる中でも、窓から見える中庭で鳩たちはこの国で大量に出るようになった米粒や麦粒を啄ばみに来ていた。
「―――あーもー、こんな時でも盗み食いに来るなんて鳥さんは呑気で良いわよねー…あ」
零れ落ちていた麦粒を美味しそうに啄ばむ鳩にアフロディーテは呆れと羨望の混じる表情を浮かべるが、その姿でこの国に来ていたある存在を思い出す。
「…ねー、ちょっと…ユピタを苦しめている毒を治せるかもしれない知り合いがいるんだけど…聞いてもらえるでしょうか?」
「!? 何者ですかその者たちは…?」
「はい、ここからだと普通は遠くになりますけど…幸いにもそこまですぐ行けそうな子たちも今はこの国にはいますし…」
「…え?」
そして、ヴィーナの希望が浮かんだ表情はポダルゲらハルピュイア達に向けられた。
「…よし、準備はできたぞー!」
数十分後、王宮にある中庭でアテナが皆に呼びかけると、彼女の隣に丈夫且つ耐水性や防腐性を高めるために塗料を塗られた蔓や木材で作られた人が数名乗り込める船が用意され、それには引くのに使われそうな縄が何本も付けられており、そのうちの幾つかは篭も包み込める大きな袋と結ばれていた。
それらはユピタによる技術の持ち込みや発見、それらの改良で生まれたもので構成されていた。
「ええ! すぐにこの子を乗せるわー!」
すかさずヴィーナ達が彼女の魔術による治癒と感染防止を施した泡に包まれた担架でユピタを連れてきて、荷物とともに彼を船に乗せて自分たちも乗り込んだ。
「よし! それじゃヘスティアちゃんお願い!」
「わ、わかりましたー!」
「私たちも行くわよー!」
次に、魔術によって熱を閉じ込められた札が大きな袋の幾つもあるポケットに何枚も差し込まれ、そして幾つかボタン状の留め具がつけられた小さな穴を開いて人々は息で空気を吹き込んでいく。
「……おおお!」
「こ、これは…!」
数分後、空気で満たされてヘスティアが中心で作成した熱の札をポケットに入れられた大きな袋は、大きく楕円形に膨らんで空に浮かび上がり、それと縄で括り付けられていた船は浮き上がった。
「す、すごい!」
「船が空に浮かんでるー!」
この世界の人間社会で初めてだろう“魔術式熱気球型飛行船”の誕生と成功に、周囲の人々は驚いた。
「…す、すごいな…初めに話をお前から聞いていたが…まさか実際に浮かぶなんて…ヴィーナ…」
「まー、ほとんどはユピタが昔に焚火で舞い上がる木の葉とかを見て思いついてあれこれ考えを深めたり描いたりしたものだからねーアテナ」
「…本当にこいつって色々考えるわねー。普段の仕事もきちんとやってるしー、助平っぷりさえなければ良い奴なんだけどー…」
「もー、素直じゃないねーアルテミスちゃん、あの子があの毒の息からあなたを庇ってまともに受けて倒れちゃってからずっとあちこちの山を駆け回って毒に聞く薬草を集めてたのにー」
「ちょ!? ヘスティアお姉ちゃんそういうのを言わないでよ! もしもこの馬鹿に聞こえて助平なことをもっとされるための口実にされたらどうするのよー!」
「あーもー皆ーそんな喜んだりもめたりしてる暇があったら乗ってさっさと出発よー!」
「そ、そうだな」
それで色々話が脇道にそれそうになるが、そこでヴィーナの呼びかけで本来の目的に戻り熱気球に括り付けられていないほうの縄を、ケライノらハルピュイア達が自分達の身に括り付けた。
「よーし、こっちも準備が出来たし、ヴィーナ道案内をお願いー」
「わかったわー! まずはー西南のあの山の方角に向けてー…出発-!」
そして、号令が発せられると、飛行船を地面と繋げていた縄もほどかれ、自由になったその身はユピタ達を乗せてさらに浮き上がり、その船体は縄に介されて飛行するケライノ達の引っ張られて行って猛烈な勢いで進みだした。
「うわー! 本当に船が飛んでるー!」
「もうあんなにも早くー!」
「ヴィーナ様ー頑張ってー!」
「ユピタ様を助けてー!」
それは王都を中心としてアマゾン国の多くの人々に見られ、人々は大きな歓声と期待の声を上げていく。
「…本当に飛んでいきましたねメディア…」
「ええ、アウラ様…まさか飛んで行かれるとは…」
「本当にユピタは多くのものをもたらしてくれて、多くの人々や物に異郷とこの国を結びつけてくれましたね…」
「それが今回の彼の危機も救ってくれるとよいのですが…」
「助かりますよ。この子達の強き父であるあの子は、このような道半ばで倒れるような子ではありません」
その遠ざかっていく姿に、女王を含めたユピタの子を身ごもった人々は特に強い期待を抱いていた。
「…うわー、もうアマゾンが地平線にまで…すごいわねこの飛行船ってー」
数十分後、遠くなったその地に飛行船へ乗り込んだ一人であるアルテミスは瞳を輝かせていた。
「あまりそんな身を乗り出させると危ないぞ。落ちたらどうするんだ?」
「…うー、わかってるわよお姉ちゃん。けれど―お姉ちゃんたちもこれに乗っていいのー? まだそんなに荷物や人を乗せられないからって、そんな身重の身でー…」
ちなみに、今回その飛行船に乗り込んでいる方の面子にはアテナもいるが、彼女は今現在ユピタの子の一人を妊娠中であった。
「仕方ないだろう。まだそこまで人を乗せられない以上は万が一のためを考えて精鋭を乗せないと…」
「まー、今回行く先はヴィーナさんのお友達みたいらしいから大丈夫だと思うけどー…」
ちなみに、同乗して治癒魔術要員の一人として乗り込んでいるヘスティアもユピタの子を妊娠中である。
「それを言うのならあなたもよくこの子と同じ船に乗ってるわね。普段あれだけツンツンしてるのにー…あー、コカトリス戦の時のこの子がかっこよかったー?」
「っ!? かかか勘違いしないでよ! わわ私はあの毒から守られた借りを返そうとしてるだけよ! そそそそれに早く返さないとこいつにあれのお礼目的で変態行為をされそうで―――!」
「う…! うう…ぐぅ…!」
その状況もあってかアルテミスが周囲の問や揶揄いで顔を真っ赤にしてバタバタとしだすが、寝込んでいるユピタが本日初めてうめいているが声をあげて身をねじらせ始めた。
「―――えってそいつが久々に声をあげてる!? けれど苦しそう!」
「! ユピタ大丈夫!? すぐに治癒魔術をかけるわ! ヘスティアも手伝って!」
「は、はい!」
「アテナはユピタに身体強化魔術をかけてこの子の毒と戦う力を強くして!」
「わかった!」
それに周囲は不安と期待を同時に浮かばせ、大急ぎでユピタの治療に取り掛かった。
「…ふう、どうにか収まったわね…」
「ええ、本当にこいつは生命力とかは強いわね…」
「すごい汗をかいていたけど、それも拭き終わって体温は下がって落ち着いたし…」
「寝息や心音も落ち着いたし…けれど、何度見ても綺麗な子ねー…」
数時間後、夕方になった頃には治療がどうにか成功して一同は一安心していた。
「…うーん、元からご立派だっていう話は聞いてたけどー…本当にすごいものしてるわねこの子ってー♪」
ちなみにその船には、休憩のために腰を下ろしていたケライノの姿もあったが、彼女は頬に薄朱色を浮かべつつも面白いそうなものを見つけた様子で、汗で体が冷えすぎないようにと一旦全ての衣服を逃されていたユピタの身で大きく自己主張している男根を指先でツンツンとした。
当然、その裸体は周囲の全員の視線に晒されてしまっている。
「…人にこんだけ苦労かけといて寝ながらこんな不細工なナニを元気にさせてるなんて…良いご身分してるわねー」
「…うう…まだ体がもっている証拠と喜ぶべきでしょうかー…?」
「…こんな状況でもこれを奮い立たせるとは…これが男という存在の…もしくはこの男の強さか…」
周囲の女性は赤面しており、アルテミスはそれに軽蔑のジト目を浮かべつつも視線はちらちらと、ヘスティアは顔を手で覆いつつもさりげなく指の隙間から、アテナはごくりと生唾を飲んでじっとと、各々違いはあるがユピタの雄々しき男の象徴に魅入られてしまっていた。
「…うーん、生死の境目に立たされると子孫を残そうとあっちが元気になることがあるっていうバテマラっていう現象はこの子に聞いたことあるけど…一旦落ち着かせないとかえって危なさそうだし、うまくすれば体の中にある毒とかをいくらか…よし、私が今のこの子の相手をするわ」
「…な!? ちょっと待て! ユピタに下手に触れると毒が移る可能性があるって言ったのはお前だろう! ユピタも妊婦が強すぎる薬や毒を口にすると赤子に悪影響が出やすいと言っていたじゃないか!」
「あーだから、実際に触れるわけじゃないわよアテナちゃん。ちょっと見てて―…ん…」
その中でヴィーナが切り出した動きに周囲は驚きつつ止めようとするが、彼女はそれをあしらいつつ目を瞑って一旦座禅のようなポーズをとって普段とは異なるまじめな表情になる。
「…ん…く…」
すると、ヴィーナの身から幽体離脱のようにひとつなぎの大きなシャボン玉がモワンと溢れるように生じ、それは大きさを増しながら形を変えていく。
「…ふう、以前に適当に思いついたものを形にしたけど、上手くいったわね…(私自身を一時とはいえ二人に増やす分身とかみたいに複雑で高度な魔術じゃないし…これならばれなさそう…)」
数十秒後、彫像のように動かなくなったヴィーナの肉体より出でた泡は、半透明状に透けている幻想的な彼女の生まれたままの姿となった。
ヴィーナは自身の泡に自意識をいったん宿らせ、自身に似せて一時的な仮の分身としたのである。
「…な、なんつーか…あんたも本当にすごいわね。け、けれど本当にそれだと大丈夫なの? 確かにそれなら直接には体は触れないけど…まだわからないことも多い毒だし…?」
それにアルテミス達は凄いものを見た表情になりつつも不安は払拭できない。
「記憶喪失しているあなたたちよりかはその分は魔術の腕は磨いているつもりよ。それにねー…」
ヴィーナはそうした不安の視線に対し、赤くなった夕焼けを背景にした余裕のある微笑みも添えて言葉を返していく。
「愛する素晴らしい男の子に逝かれて泣くのも、先に逝っちゃって男の子を泣かせるのも嫌いだからね♪」
「「「「………………」」」」」
その時のヴィーナは普段のちゃらけた感じを半分残しつつ、半透明状の透けている体で夕日の光を受けて艶美で且つ幻想的な姿を見せ、それが周囲の女性たちには現世へ降臨した女神の啓示を与えられたかのような安堵感を生じさせて魅入らせた。
次回より、ヴィーナによるノクターン的治療が本格的に始まりつつ、新たな波乱も起こる予定です。