輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~ 作:oosima
○神代 黒海某沿岸 アマゾン国 王都 防衛軍本陣○
「…ふう、何とか生き残って捕まえた捕虜からの事情聴衆も進んでるし、死体の処理も最初の見立て通りに終わりそうですね…」
牧場でユピタとヴィーナがアダルトな意味でのトラブルに見舞われる数分前、アマゾン国軍の本陣で女王アウラは各所からの報告で徐々に安堵の表情を見せていた。
「…ですが、この戦闘は終わりつつあるとしてまだ戦争自体が終わったわけではありません。捕虜にしたケンタウロスの口からしてまだ奴らを脅して働かせていたその元凶はまだ…。それも…l奴らの説明からして相当な実力者であるようで…」
アマゾン国魔術師筆頭のメディアがそれでも消えない懸念について上げたその時、巨人に近くを踏み鳴らされたような轟音と揺れが襲い掛かってきた。
「っ!? 何事です!?」
アウラがその揺れで外に飛び出すと、そこにはユピタとヴィーナが遠目ながら驚いていた馬頭で巨人サイズのケンタウロスが暴れて城壁を破壊しようとしている姿であった。
「くそぉ! 止めんかぁ!」
「ちぃ! ちびのくせしてちょこまかするだけじゃなく…何てぇ力だ!!」
「きゃー!」
「皆ー! 今の内に逃げろー!」
その城壁が大きくひび割れつつもまだ突破されずにいたのは、アテナが必死になってその巨大ケンタウロスを足元から攻撃していたためである。
アテナは身重であったが今の自分達が暮らすこの都を護るべく、魔術仕込みの鎧で全身を固めて強化した身で、巨大ケンタウロスの足元を攻めながらその攻撃を重装備に似合わぬ高い機動力で回避して戦闘を続け、他を避難させていく。
「このぉ! さっさとくたばるか出ていきなさい! この化け物馬ぁ!」
「ぐアア!? このくそチビ…! 頭バッカ狙ってきやがって…ぐオオオオ!!」
加えてアルテミスが魔弓を用いて超高密度に圧縮された不可視の大気の矢を、城壁の上を駆け回りながら連射し続けて巨大ケンタウロスの頭に小さめの傷ながら血を流させていく。
「や、やったぁ! 我らの王が来たぞぉ!」
「わ、我々をお助けくださ…あべぇぇ!?」
「だ、駄目だぁぁ! あいつやっぱ俺達のことなんか全然考えてねえよぉ!」
「に、逃げろぉ!!
最初から逃げていくアマゾネス達に対し、捕らえられるか茂みの中に隠れていたケンタウロス達は初めはその巨大ケンタウロスに喝さいを上げていたが、巨大ケンタウロスに一切顧みられずに次々と巻き添えで踏み殺されていくと、恐怖を思い出した表情で次々と逃げおおせていく。
「な、何なんだぁあの馬の化け物は!?」
「あ! 思いだした! こいつ…“トラキアの人食い馬”の暴馬王だ!!」
「何そいつ!?」
「行商に聞いたここから南方にあるトラキアって国で人語を解するけど人や他の魔物を食いまくって悪名を轟かせていた化け物だよ!」
「確かー、現地の王に討伐軍を向けられて追い詰められて海に落ちたという話を聞いたから死んだと思ったけどー…」
「それが生き延びてここまで大きくなってきたってわけか…」
「じゃあ、あいつがケンタウロス達にこの国を襲わせた馬の王って奴!?」
周囲の多くはその暴れている巨大ケンタウロス暴馬王の正体に話しながら気づくが、そこは戦闘民族アマゾネスなので何名かの猛者が今も戦闘中な二人に勇気づけられて加わってきた。
「行けー! 弓矢と投げ槍をあの化け物の足に集中して浴びせ続けろー!」
「あの二人を見殺しにするなー!」
「ちぃ! ウザいんだよぉ!」
だが、アテナとアルテミスの二人と比べると戦闘力、特に交易力には大きな開きがあるので、暴馬王は後ろ脚の一蹴りで岩石混じりの土砂の雨を彼女達に浴びせかけた。
「危ない!」
「皆! 動くなぁ!」
二人はそれに即座に反応し、アテナは瞬時に彼女達の前に立って巨大な岩石を盾と
「死ねぇ!」
「きゃあァ!?」
「ぐアア!?」
だが、それで生まれた一瞬の隙を突かれる形で、暴馬王が新たに蹴りだした岩石土砂攻撃をその背に受けてしまう。
「…うぅ!? 大丈夫か!?」
「ど、どうにか受け身取れたし…おなかの赤ちゃんの方は鎧とそれに掛けた防御の魔術式があるから…この感じは大丈夫だと思う…アアぁ!?」
どうにか見た目は軽傷で済んだ二人だが、苦痛で動きが鈍ったアルテミスの身を暴馬王の巨大な手で鷲掴みにされてしまう。
「ああ! アルテミスさん!」
「っ! アルテミスを離せぇ!」
「動くな! もし動いたらこいつをこのまま握り殺すぞ!!」
当然、それに周りは悲鳴を上げつつも助けようとするが、暴馬王は捕まえたアルテミスを握力で苦しめながら肉の盾として見せつける。
「く…卑怯な…あぐぅ!?」
アテナもそれに歯噛みしたところで暴馬王に蹴り飛ばされて城壁に叩きつけられてしまう。
「ぎゃははは! こんな一人の身重のくせして戦場にまで出るバカ女のためにご苦労なこったなぁ…!?」
それに暴馬王が嘲笑を上げたその瞬間、彼の大きな馬体の尻部分がポンポンと叩かれた。
『…へー、そんなに人を馬鹿呼ばわりできるって頭もいいんだよね? だったら後ろから急に攻撃されても対処できるようにこっちもちゃんと鍛えているから大丈夫だよね?』
「…あ…!!??」
真後ろから浴びせられた巨大なラッパ越しに大きくされたようなその感情がない声に、暴馬王が怪訝そうな顔で背後を振り返ったその時、その巨体ゆえに今までなかった後ろ足の付け根を蹴り上げられるすさまじい激痛が彼を襲いかかった。
「あびゃあああああああああああぁアアアァアアアアアァ!!??」
『あーもー巻き添えが出るから暴れるなら向こうで暴れてね』
「あべぇ!?」
当然、未知なるその大いなる苦痛に暴馬王は泣き叫んでのたうち回るが体の構造の都合でそこまで手を回せず、その巨体を声の主はその馬面から人がいないところまで蹴り飛ばした。
「きゃあ!?」
『危ない!』
そうなって自由になったが宙に投げ出されて地面へ落ちそうになったアルテミスの身を声の主は受け止めるが、その声に彼女は聞き覚えがあった。
「…お、遅いわよ…け、けれどありがとう…ユピ…タ!?」
その声の主で普段は色々文句や罵声を浴びせつつも何だかんだ深い信頼を寄せている男がまた助けてくれたことに、アルテミスは安堵と感謝を深く覚えるが、痛みで瞑られていた瞼を開くと目が丸くなった。
「…え、お、おい…ユピタ…な、何だ…その姿…!?」
そのアルテミスの下で立ち上がったものの彼女には何故か小さく見えたアテナは、引きつった顔でその妹や他の親友達と共に愛する男の今の姿をカタカタ震える指で指し示す。
『…え、えーーっと…無暗にしゃべらないようにお願いしたとはいえ…、知らない人だけじゃなく…事前に見せて説明を聞かせた人まで顎が外れそうなまでに驚いてるんだけどー…?』
『…いやまー、試運転を何度かしたとはいってもさー…やっぱりさー、乗ってるこの身としてもーいまだに半分信じられないんだからこれー…』
アテナとアルテミスを暴馬王から救ったユピタとヴィーナの今の姿は、アルテミスをその片方の手の平にやさしく乗せている、ギリシャ風意匠とユピタの前世現代のロボットアニメのそれが混じる鉄や銅の装甲版で形作られた、額にやけに大きなV字状の角のような装飾が付いた一体の巨人であった。
次回、ようやく戦場へ戻ってきた本作主人公と今回の章のラスボスの最終決戦へ本格的に入ります。