輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~ 作:oosima
○神代 黒海某沿岸 アマゾン国 王都○
「…あ、これってー…」
「やばい…」
ロードス38号の左足首が破損して歩行が難しい状態になると、その内部に搭乗して操作していたユピタとヴィーナは貌を引きつられた。
「…!? こ、こいつは…好機だぁ! うるあぁぁ」
「!?」
「きゃあァ!?」
それを目にした暴馬王はほくそ笑んで前足でロードス38号を大きく蹴り飛ばした。
「うわぁぁ!?」
「こっちまで来たああ!」
蹴り飛ばされたその巨体は地面を大きく削り、それで生じる土石の雨や土煙にアマゾンの人々は巻き込まれそうになる。
「…何処のバケモンか知らねえが…今まで好き勝手してくれた分の倍を返してやるぜぇ!!」
先ほどまで押されまくっていた恨みを咆哮する暴馬王。
「ちょ…これって地味にきつくない!?」
「わかってるよ! ちょっと不安は残るけどー…こうなった時に一番使えるのはー…」
それに顔を少し引きつらせるヴィーナの下でユピタは、搭乗席室内のいくらかを占めている、機体の一か所より魔術式が刻まれた板の一枚を引き出して魔力を流し込む。
「さあ! 少しでも多く苦しみながら少しでも早く死ねぇ!」
「だが! 断る!!」
そんなやり取りなど知らない暴馬王は下半身の四本足のジャンプによる勢いも付けて蹄を振り下ろすが、ユピタは機体の身をねじってその内の二本を回避し、残りの二本を足から掴んで止めた。
「ああ!? まだあきらめてねえのか―――!?」
それに暴馬王の顔が歪んだ次の瞬間、彼とロードス38号の巨体はバリバリとした音を伴った黄金色の閃光に包まれた。
「―――アアアアばばばっばばあばっばばあばばばあああああああ!!??」
「きゃあァ!?」
「…こ、これ…まさか…雷ぃ!?」
無数にのたうち回る黄金色の蛇のような閃光とそれで苦しみだす暴馬王の姿に、距離を取っていた人々は驚きつつもその正体に気付く。
「…ちょ!? これさぁ凄い威力だけど…
その威力を間近から見ているヴィーナは感嘆しつつも例の存在への懸念も抱く。
「大丈夫! 自分の魔力を雷へ直接変えてるんじゃない! 事前に貯めて性質を変えた魔力で周囲の雷の元をこの“魔操板”を通して操作して強化して向こうにだけ伝わるようにしてるから! 遠目で見てる限りは普通の雷くらいにしか感じ取れないよ! まー…多分」
「いや、いつもその最後で不安を増す蛇足を加えるのは何!?」
途中で不安を煽るユピタの自信ない言動がありつつも、今回用いられた新たな彼の発明品“魔操板” は本当に画期的且つ有効な発明品であった。
従来の魔道符は紙を原料として費用は安く大量生産は可能であったが、素材の都合で摩耗が早く、一枚あたりに刻み込める術式の量には限界があったのだ。
ユピタは周りと協力しての迷宮探索と資源開発で、新しい素材の幾つかを発見して今回のロードス38号を操作するのも可能にした魔操板を発明した。
魔操板は金等を主原料としていたのでコストは増したが、書き込める魔術式の情報量、耐久性どちらにおいても魔道符よりもはるかに優れていた。
これに手足を当てて魔力を通せばロードス38号の手足を自分のそれと同じ感覚で動かすことが出来て、ある程度大規模な魔術もこれを通すことで魔力の波長を変えて自分と発覚する確率を大幅に下げる事にも成功したのである。
「あびゃあああぁアアアァアアアアアァ!!??」
そうして今現在のユピタが出せるようになった雷の最大出力を浴びせられている暴馬王は、それがあと十数秒続けば間違いなく絶命するまでの状況にまで追い詰められつつあった。
「よし! このまま行けばやれるな―――!?」
だが、それをユピタ本人も確信して更に魔力を流し込もうとしたその時、至近よりバギンと何かが割れて砕け散る音が鳴り響いた。
「…あ! 割れちゃった―――!?」
ヴィーナが雷系魔術の魔操板が割れてしまった証がその音なのに気付いた直後、彼女はぞっとした悪寒を覚えた。
「ブヒアアアアアアアアアアアア!!!!」
「―――あ…!?」
雷電から解放された暴馬王の憤怒と恐怖の咆哮を添えた前足の蹄が、スローモーションのようにゆったりとした感覚の中で魔望鏡布を埋め尽くしていくのをヴィーナは目にしてしまう。
「―――ぁ危ない!!」
「!!??」
ユピタの叫びが鼓膜を振るわせて身を掴んだその直後、ロードス38号の胸部装甲を拉げさせる勢いで暴馬王の暴脚が叩きこまれ、その巨体は宙高く舞った。
「うわぁ! ユピタさんとヴィーナさんが乗ってる巨人が山の方まで蹴り飛ばされちゃった!」
「あの馬! まだあそこまで動けたのか―――!?」
それは王都に避難していた人々にも見え、アテナは戦士としての感性でそのまずさを覚えて今にも飛び出しそうになるが、それよりも一歩早く、けれども猛烈な勢いで駆け出したその身内に顔から血の気が引いてしまう。
「―――あ!? 姉上ーーーーー!?」
その身内の中では最も大人しいと思っていた人物の予想の斜め上を行く行動に、アテナは悲痛な叫びを上げた。
「……ぅうぅ…くぅぅ…ここはーー…山まで吹き飛ばされたの…?」
一方その頃、巨体の機体ごと吹き飛ばされた衝撃で頭がグルングルンとしていたヴィーナは、朦朧としつつも徐々に回復していっている視界でノイズが所々生じている魔望鏡布で周囲の状況を確認した。
「…おなかの赤ちゃんは!? あ…この感じは大丈夫そうね…。あれ? そう言えばあの子は…? たしか私の下にいたはずなのに…!?」
そこでヴィーナは自分の視界に赤を徐々に染め付けていき、自身の柔肌に生暖かい潤いを染み込ませてくる、大量の血とそれに混じる愛しい男の普段に比べて弱々しい匂いを感じる。
「…あ、起きてたんだね…良かった…」
「!?」
ヴィーナが愛しい男の今の姿に気付いた時には、外側から蹴り砕かれて拉げた影響で内部にて割れて飛び散った破片から自分を守った後なのがわかる、背中を中心にそれらが浅からず幾つも突き刺さって血を流して目が虚ろとなっているその姿にユピタはなっていた。
「…気づかない内に調子乗ってぇ…防御に回すべき分の魔力まで費やした影響でぇ装置がぶっ壊れてぇ…そこをあの馬の火事場の馬鹿力に突かれたみたい…」
「そんなことを言っている場合じゃないでしょ! 早くここから出て治療しに行くわ…ぁあう❣❓」
ユピタの初めて見る酷い重傷の弱った姿にヴィーナは普段の余裕を忘れて彼を解放しようとするが、そこで子宮をいつもと比べて弱めだが突かれて、量こそ少ないが濃密な魔力を宿した子種汁が満たして活力が急速に戻っていく感覚を覚える。
「…あー、中出しすればその滑りで膣痙攣でも滑って抜けだせるってのは本当だったんだ…。とりあえずヴィーナ…先に逃げて…、君とお腹の子達はどうにか結界をとっさに掛けて守ったし、先の中出しの時に回復魔術も注いでおいたから足もきちんと動くよ…」
「ちょっと!? そんなへとへとな状態で何をかっこつけてるのよ! 二人でさっさと逃げるわよー…!?」
それを感じて安心したユピタを身を担いでその場を逃げようとするヴィーナだが、外から拉げている胸部装甲のヒビから暴馬王がもう間近から見下ろしている近くまで迫ってきているのに気づく。
「ブヒヒヒヒ! 死ねええええええええええええ!!」
「っ! こうなったら―――!?」
殺意と破壊力を隠さない高く上げられた巨大な蹄を振り下ろそうとしたのを目にし、ヴィーナが
「駄目です!!」
その誰かの手が振り下ろされてきた蹄に触れた次の瞬間、暴馬王のその足は血も痛みも発さないまま、まるで人形を綺麗に分解したように彼の胴体から
「大丈夫ですか! ユピタさんにヴィーナさん!」
そして、分離された暴馬王の足が地に落ちてズズンと揺らしたのが原因なのか、壊れていた胸部装甲がガタンと外れて地面に落ち、それをなした
「「…へ!? ヘラ!?」」
五人姉妹で最も大人しくてこういう荒事の場から最も無縁そうな印象のヘラが助けに来た姿に、二人とも驚愕と困惑が声に出た。
次回、ヘラの能力(の一部)が戦いを大きく進めます。