輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~ 作:oosima
○神代 黒海某沿岸 アマゾン国 王都○
「ウワアアァアアアアァアアアァアアアアアァ!? おおおおおお俺の足がああああああああああ!?」
アマゾン国王都の城壁の外で、同国の都を襲ったケンタウロス達を支配する暴君である暴馬王が悲鳴を上げてのたうち回っていた。
暴馬王の足は何本かが胴から離れてはいるが、それはまるで元から離れていたような綺麗な切断面で、何故か痛みも血も放っていないことが彼の恐怖と混乱を寧ろ掻き立てている。
「…あ、あれは…
それは暴馬王に大ダメージを与えられたロードス38号の胸部操縦席装甲のヒビから頭を出したヴィーナも見てその不可解さに気付いていたが、それをなしただろう人物が彼女の手を掴んできた。
「ヴィーナさん! あなたは早くこの場から逃げて! あとは私が何とかしますから!!」
「あ!? あなたはってぇ…ぇええ!?」
魔力の感じからして暴馬王に不可解な現象を起こしただろうヘラがヴィーナの腕をつかみ、その大人しい性格や華奢な体からは想像できない膂力で彼女を何と投げ飛ばした。
「アテナにアルテミス! ヴィーナさんを抱き留めて都に!!」
「わ!? わかったぁ!?」
「えええええええええ!?」
普段大人しい姉の急且つ凄いパワープレイに妹達は驚きつつもヴィーナを保護する。
「…き、君はヘラ…? す…凄いなぁ…こ、この子…ロードス38号の試運転の時でもぉ…君がぁ…一番相性が良かったけど…」
「そんな感心してる場合ですか!? 早く傷を見せて!!」
それにはこの場で一番の重傷であるユピタも驚くが、ヘラはそんな彼の身を割と乱暴な感じで掴み上げる。
「…いぎぃ!? ちょ…僕は(弱体化デバフ掛けてるとはいえ神族ボディだから見た目よりは)割と丈夫な方だけど今は見た目相応に重傷だからもう少し優しく…!?」
当然、ユピタは始め痛みを覚えて咎めるが、次に彼が目にしたものをその痛みを忘れさせる驚きを彼に与えた。
「…よし! 人の体に試すのはまだ少ないけど…
「…はい!?」
ユピタの腕に突き刺さっていた金属片とそれが突き刺さって出来た傷に噴き出た血で出来た汚れが、なんとヘラの手でまるでシールを剝がすかのようにはぎ取られて、その後には血や傷が始めから無かったような綺麗な肌しか残ってなかった。
(何だこれは!? これは魔術だけど…治療というより…切り離し…何と言うか…物体と事実の“分離”に近い! 僕の体から怪我という事実を切り離すことで…無傷の物体を残したというべきか―――!?)
「まだ怪我がありますからもっと体を見せて!」
「―――あ!? ちょっと待って!? 君のそれあんまりよくわかってな…あーーーーー!?」
それにユピタは警戒と知的欲求を大いに刺激されるが、ヘラの急な行動で現実に思考が戻るとまだ未知の技のため慎重さを求めるが、彼女の膂力と今の自分の重傷のためにペりぺりと傷を剥ぎ取られていってしまう。
「…やった! 全部とれた!!」
「…どういう原理かまだ分かんないけど凄い」
数十秒後、まるで怪我人から剥ぎ取られた包帯の塊のようになった、剥ぎ取られた怪我と血潮にその原因たる金属片の塊の前に、少し汗を掻いた健康的な笑みのアテナは喜び、怪我人であったことが嘘のような綺麗な状態になったユピタはポカンとしていた。
「…あ、でも…何か剥ぎ取られた傷とかが芋虫みたいなのろさと動きだけどまた僕に戻ろうとしてるっぽいけど…」
「あ! 本当だ…!?」
だが、ユピタが口にしたようにまた傷が戻ってきそうな現象も起きてヘラも驚き慌てそうになったところで、荒々しく地面を踏みならす地響きが近くより地面を通して伝って来た。
「…はあ! はあ! な、何だよ! 最初はすげえ不気味だったけどよぉ…! 別に痛みはなくて…普通にくっつけて元に戻せるじゃねえか!!」
地響きがしてきた方角で暴馬王が自分より血も痛みもなく切り離された手足を、何故か人形やパズルをはめなおすような動きで手足を元に戻していっていたのである。
「…ま、マジでどういう原理なんだあれにこれって…!? まるであの海賊漫画のスーパー外科医系能力みたいだ…」
「かか感心してくれるのは嬉しいですけど今はそれどころじゃないです! 私はまだ戦闘とかそういうのは慣れてないからあの敵に復活されるとー!?」
「あーもーそんな慌てないでーー…ってほら! 君が動揺して魔術が乱れたためか剥がされた傷とかが僕に戻ろうと近づいてるような動きのスピードが速まってるように見えてー…!?」
それに前世で呼んでいた漫画の知識から一種の懐かしさを覚えるユピタだが、ヘラの慌てふためいた催促で危機感が再び高まった所で、あることを閃いた顔になる。
「…ねえ、ヘラ、君ってさっきの言い方からしてこういうのは少なくても何度かしたような感じだったけど、その時に切り離した傷はどうしてたの?」
「そ、その時はー傷を治癒魔術で一通治してからまた元の患者さんに戻してましたけどー?」
「…じゃあ、その傷をそのままの状態で他に誰かに押し付けるってことも可能じゃー…?」
「…え!?」
そして、ユピタの口から出た思わぬその方策にヘラの目が丸くなったその時、彼らに向けて踏み鳴らすような地響きが近づいてきた。
「…はあはあ! やっと手足は繋ぎ戻せた…! だがなぁ! お前とあの金髪女にさんざんやられた恨みがあるからよぉ! お前らにはその分の落とし前を改めて付けなおしてやるぜぇ!!」
暴馬王が人形のようにぶつ切りにされていた手足を元にはめ直した様子で二人に襲い掛かってきたのだ。
「うわー! 考える暇はなさそうだからとりあえずその傷と血潮とかの塊をぶん投げてあれにー!」
「えー!? え…ええーーいーーーー!」
それに怯えの色が顔に戻ったヘラが魔術による強化も込めた投擲で、ユピタから剥ぎ取った傷などの塊を暴馬王に投げつけると、それは巨躯に地面へ染み込む水滴のように消えた。
「…ああ? 何のつもりだこ…ギャアァアアあアアァアアアアァアアアァアアアアアァ!!??」
暴馬王は始めそれに小馬鹿にしたような顔を浮かべるが、すぐにその身の表面を稲妻が生じて走り抜け、つい先ほどまでユピタが追っていた傷がその巨躯相応に拡大した形で追加されて悲鳴を上げた。
「…う、うわぁ! ひ、酷いけど…凄い…!」
「驚く暇があったらロードス38号を直すのに手伝って! 生き物でもあれならこれの壊れてる箇所もシールみたいに剥がせるでしょ!!」
「わ、わかりましたー! けれどー剥した壊れ箇所はどうすればー!?」
「そんなのも全部あのアホ馬に投げつければ良いでしょー!!」
「ええーーー!?」
ヘラはその凄惨な光景に驚きつつもビビるが、ユピタの始め真っ当な指示に頷きつつ冷静さも取り戻したものの、続けて彼の口から出た半分悪ノリ臭がする指示に絶句してしまう。
「っ!? や…止め―――!?」
「うおおおおお! ボンタ…ではなくて傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷うぅうぅう!!」
「…あ…あーーもー! こっちも傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷きじゅううううううううううぅ!!」
それに猛烈な悪寒を感じた暴馬王は怯えを隠さない様子で止めようとするが、前世のアフロヘアー体毛戦士のようなノリでユピタはヘラを悪ノリさせてやけくそにし、彼女がロードス38号より引っぺがしてボール状に丸めた傷を、二人がかりで彼に投げまくった。
「―――えってぇあんぎゃあアアアアァアアアァアアアアアァ!?」
当然、次々と暴馬王の身に重傷が移し替えられることとなり、彼の出血量と悲鳴はそれに比例して上がっていく。
「…よし! ロードス38号も元に戻ったぁ! やっと反撃再開だぁ! ヘラも一緒に乗って!!」
数十秒後、この戦いのもの以外にも試運転や倉庫に詰めたりして付いた傷や埃なども手当たり次第に引っぺがしたことで、新品同然になってピカピカしているロードス38号にユピタはヘラも引きずり込む形で乗り込んだ。
「よし! このままの勢いでこの戦いを終わらせ―――!!」
「あのー…もう終わったように見えますけどー…」
「―――え…??」
だが、ユピタが気勢と士気を高め直したその時、ヘラが苦笑して魔望鏡布を指さすと彼の声はそのトーンを一気に落ち着かせた。
「……………」
立ち直ったロードス38号の前には、彼とその操縦者が帯びていた傷とかの一切を押し付けられたことで、もう全身がズタズタのボロ雑巾のような状態になって直視できなくなっている暴馬王の無言で倒れている姿があった。
「…え、えーーっと…こ、これってー…?」
「……勝ったっぽい…ですねー…」
「「「「「…うわああああああああああああああああああああああああああああああああぁアアアァアアアアアァ!!!!!」」」」」
それを目にして始めポカンとした表情のユピタとやがて安堵していく顔になったヘラからのその言葉を契機として、アマゾン側から歓声の大津波が巻き起こった。
「やったんですねー! ユピタさーん!!」
「背は低いけれど功績と実力に器もデカいよー!!」
「皆ー! 英雄を胴上げだー!!」
「ユピタさーん降りてきてー!!」
戦いを見守るしかなかった人々は歓声を上げながら駆け出し、ユピタ達が乗るロードス38号を取り囲んで賞賛の声を浴びせ続ける。
「…あ、あーもー皆ー! まだ怪我人もいるんだからそんな浮かれてその人たちを放っておいちゃ駄目で…!?」
それをユピタは嬉しく思いつつも今の頭の良さからまだ危機が完全には去ってないことを忘れずに人々を注意するが、それすらも甘い見通しであることにすぐ気づく。
「直ぐに離れて皆! まだそいつは死んでない!!」
「…え!?」
そして、ユピタの警告通りにその脅威である暴馬王がギギギとゆっくりだが立ち上がり、人々を驚かせた。
「…はぁ、ハぁぁ…や、やってくれやがったなぁこのくそチビ共ぉぉ…! こ、こうなりゃアア…お前らを少しでもォォォ…迷宮で見つけたぁこいつでぇ道連れにしてやるぅぅ!!」
自らの命がもう残り少ないことを悟っていた暴馬王は、簡単な腰蓑程度である衣服の懐からあるものを震える手で取りだした。
「(!? あの形って…サイズは違うけど…確か広島の色々とトラウマを…特に小さい子には与えてくる
「え…!?」
それにヘラは初め戸惑うがすぐにゾッとした悪寒を感じるも、そこで暴馬王は震える手でだが残りの力の全てを込めて黒い塊を地面へ投げつけようとする。
「(間に合わない! だったらー!!)ヘラァ! 君の魔力を全て僕に回してぇ!!」
「えええ!?」
ユピタは超高速で指示を出しながらそれ以上の速度でロードス38号を操作し、黒い塊が暴馬王の手から離れないようにして握り固め、もはや魔術や自身の隠ぺいなど度外視したような勢いで自らと相手の巨躯を超高速飛翔魔術によってこの場から引き離す。
「…アア!? ち、ちくしょおお!! テメエらだけでも道連れにしてるぅうぅ!!」
あっという間に自分の視界で小さくなっていくアマゾン国の都とそこの人々の姿に、暴馬王が悔し紛れに自分の手に握らされたままの黒い塊を握りつぶすと、そこから強烈な閃光が辺りを包み込んでんだ。
「…え!?」
「危ない!!」
その全身をひとつ残らず包んでいって焼くような閃光が、スローモーションのように周囲の時間を遅れさせていく感覚と共にヘラの全身を包んでいく中で、ユピタの声が鼓膜を大きく震わせたところで彼女の意識は途切れた。
最後の最後でケンタウロスの暴君が出した謎のアイテムの正体はいったい…!?
次回から、舞台を変えて新たな章が始まる予定です。