輪廻の輪の転生ゼウス~前世知識に基づいてギリシア神話で穏便生存(?)ルートを目指したら…~ 作:oosima
090 新展開は急且つ舞台も変わりやすいし…●◎
○神代 ???○
「…ふう、今日はこれくらいでいいかな…」
アマゾン国とケンタウロス軍の激闘の最後で謎の閃光が襲ってから数週間後、アマゾン国と
肌の瑞々しい艶からして予想される年代と比べても背丈は低いが高密度に濃縮された筋骨で構成された均整の良い細身の肉体をした少年で、白く清潔感のある腰布とサンダルを履いて露になった多数ある古傷の痕も一種の装飾のように見え、土で汚れていても短髪や瞳を構成する金色には落ち着きを見せても色あせる気配のない少年だ。
その身には大きく余っているように見える鋤を棒きれのように振るって広い畑を耕しており、畑には色々な種類の作物が生えて豊かに揃っているように見える。
「…ゼウスくーん! こんにちわー!」
「今日は大きな魚が採れたからー交換したいんだけど良いー?」
そんな働いている少年であるゼウスの前に、彼が暮らす村の住民である中東系の人種が多い村人の女性達が、篭に魚や貝を満載しながら現れた。
「…あ、良いですよー。家の方で
ゼウスはそれに友好的な感じを見せながら鋤を振るっていたが、女性達は近くから美味しそうな匂いを漂わせている家を始めは無視して彼に近づく。
「いつもありがとうねーゼウス君。本当に君達が来てから見つけてくれる草やその実って本当に美味しいんだよねー」
「そうだよねー。あれらを前から食べてるゼウスってさー背はアレだけど本当に逞しい体しててすっごい力持ちで魔力も強いしー…」
「…これじゃーさー、夜の方だとー
女性達はこの狩猟採集時代と原始農耕時代の中間に位置する毛皮や麻中心の薄着を着崩し、頬に薄朱色を浮かべて彼に近づいてくる。
「…ど、どういう意味ですかそれ?」
それにゼウスは怪しさを覚えてジト目を浮かべつつも視線を逸らそうとせずに頬へ薄朱色を浮かべ、じりじりと仰け反って距離を取ろうとするようなそぶりを見せるが、女性達の距離を詰めてくるスピードに比べて普通に遅く、女性達は彼の手を掴んでくる。
「…だからさー、普段のお礼も込めてー
だが、女性の一人がゼウスの頬に触れようとしたその時、その女性の頬が白く美しいが妙に力強さを覚えさせる指に大きく抓られた。
「…あー皆さん、その子も仕事中ですからあんまり邪魔しないで上げてください」
「へへヘぇヘラちゃん! あんまり強く抓らないでぇぇ!?」
その女性の頬を抓ってムスッとした顔を浮かべているそのヘラという人物は、十代半ばを思わせる瑞々しい白き素肌に包まれた肢体はこの時代の働く女性の筋骨を持ちつつも細く引き締まった上で、若き女神を思わせるみごとな曲線美を持ち、大きな黒曜石を加工したような深みのある美しい黒き瞳を切りそろえられた前髪の隙間から覗かせた美女で、その身に纏う衣装は周囲の女性達と大差なかったがそれも上質に見せる生来の気品さがあった。
「べべ別に良いでしょ! ゼウス君くらいできる男ならさーお妾はまだ早いとして一晩のご褒美くらいあげてもー!」
「この子はまだ若いからあまり堕落させるような誘惑はやめてください!」
見た目では年上な周囲の女性達の食い下がりにヘラは顔を赤くして叱りまくる。
「へ、ヘラそこまできつく振舞わないで上げて! 何十日も前に君と大怪我をした状態で海岸に流れ着いてた僕を助けてくれたのはこのティルス村の人達なんだからー…」
「それはそうだけどー…」
「あ! 何か家からの煙が強くなってる! 何か匂いからしてパンが焦げ始めてるかも!」
「あ!?」
それをゼウスは何とか窘めてヘラの意識を別のことへ向けさせてどうにか場を鎮めた。
「…いやー、本当にさーあの二人って見た目凄く綺麗だし、力持ちで器用で魔術も上手いしで凄いよねー」
「そうだよねー。それで何だか近くにいると自然と凄く安心できるような感じがしてきてー…」
「ヘラちゃんは本当に物知りでー、ゼウスは色々便利なことを思いつくしー…」
そうして自分達の家の中に消えた二人に女性達は改めて感心しあった表情を浮かべ合って、二人についてお喋りを楽しみ始める。
「…本当にゼウス君って前に何をしてたんだろう? ヘラちゃんと一緒に魔術師の弟子をしてたって言ってたけどー…」
「そうだよねー。名前以外は何も思い出せない記憶喪失の出来る美少年ってー…すごく不思議な魅力があるよねー…」
だが、その内容が示す通り、ヘラとゼウスは彼女らここティルス村にとって色々謎が多い存在であった。
「…おいしー、ヘラって料理が上手だよねー」
「うふふ、あなたがいつも美味しそうに食べてくれますから腕の振るいがいがありますから…(まあ、ほとんどはユピタと呼ばれていた頃のあなたやヴィーナさんが教えてくれたものだし、何故かあなたの周囲で見つかることが多い、あなたがアマゾン国に持ち込んでいた作物の種子から魔術含めて育てたものばかりだし…)」
数分後、家の中が無事だと確認した二人は食事をとっていたが、ヘラはこの地に至るまでのことを思い返していた。
数週間前、ケンタウロスの大軍を率いてアマゾン国を襲ってきた暴馬王を、当時ユピタと名乗っていたゼウスはその類まれな技や機知でどうにか撃退することに成功し、ヘラもその助けを大きくしていた。
だが、暴馬王が最後の悪あがきに用いた黒い謎の物体から発せられた強烈な閃光で、最後にユピタが自分を庇ったところを最後にヘラはその場で意識を失ってしまう。
次に目を覚ました頃には、ヘラは縁も所縁もなかったティルス村で目を覚まし、その村で先に目覚めて村人の手伝いをしている真新しい傷跡が目立つユピタの姿を目にした。
自分と姉妹を助けてくれた恩人の無事を喜んだヘラだが、当のユピタはゼウスという彼女にも明かしていなかった本当の名を除いた記憶を失っていたのである。
それはアマゾン国で自分との交流の記憶も失われていたことを意味したので、ゼウスの記憶喪失を知ったヘラはショックを受けたが、村人たちに彼と自分の身元について彼の代わりに聞かれたのだ。
海岸で巨大なロードス38号の一部だっただろう装甲の一部が卵の殻の如く変わっていたものの中で、それに守られていたように発見された時のゼウスとアテナは互いを庇うように抱きしめ合っていたのを村人たちは見たので、彼女なら何かしら知っているだろうと判断したためだ。
だが、その時にヘラはこう嘯いてしまったのである。
『私とこの子ゼウスは許嫁の間柄です』
何故そう言ってしまったのかは今となってもヘラ自身にもわからなかったが、当時の彼女はゼウスに対し飢餓感に似た独占欲を生じさせられ、他の言葉を言ってその時の機会を逃せば何故か一生後悔するような強迫観念に襲われてしまっていた。
そして、嘯いてしまったヘラは、そのまま即興で自分とゼウスは生まれ故郷が同じ幼馴染で同じ師を持つ魔術師の姉弟弟子であったが、それを妬んだ別の弟子が他所の部族と内通して自分達が暮らしていた集落を襲撃させ、自分達は魔術の修行で作った船に乗って逃げたが、途中まで追いかけられて火矢を掛けられながら何とか逃げ切ったものの、そこから先で嵐にあって海岸の岩場にあたってしまったのだろうと嘯いたのだ。
実際に二人とそれが乗っていたロードス38号だっただろう金属板の塊は村の近くの海岸の岩場で見つかったので、当時重傷なのが一目でわかったゼウスの記憶が失われたのはそこへ頭を打ってしまったのもあるだろうと村人たちは納得してくれた。
(…ここがどこにある土地なのかわからず、アマゾンに帰れるかわからない状況や、あのケンタウロス達がどれくらい勢力を広げているかわからない状況で、迂闊に前の身元の情報を明らかにするのは危険。今は嘘をついてでも身元を隠してここで新たな住人としてやった方が良い…)
『もしもユピタが正式な婚姻を結んで正当な嫡男を持てば、その者は世を滅ぼしうる戦乱を起す』
今の自分達の立場も絡めて自分のその時の虚言を何とか正当化しようとするヘラだが、アマゾン国に残されたユピタ時代のゼウスと関係を持ってその子を非嫡子という形ながら身籠った友人や姉妹含めた女性達の姿、彼に掛けられているというその不吉な予言を伴ってどうしても罪悪感が生じてくる。
(…あの国でこの子の種で身籠った一人であるヴィーナさんが教えたあの予言が特に気になるけど…もしも、それが真実の予言というのなら…だましたのは私…もしも神々の裁きが本当にあるのなら、その裁きは私が一人で受けられるように祈ろう…)
「ねえ…ヘラ、ここ最近は何だか重く悩んでいそうな顔をしていることが多いけど…どうかした?」
「…あ、いいえ…ここに流れ着いてからまだ慣れていないことを思い返してまだまだ大変だなあと考えていただけですよ…」
その暗さを騙されていることには気づいていないゼウスは気づいてヘラを励まそうとする。
「あまり暗い表情はしない方が良いよ。あと何日かしたらここの人達が、僕はまだ思い出せていないけど故郷の方で戦火のせいで上げられなかった“”結婚式”を挙げてくれるんだから…」
「…あ、そうですね。暗い顔のままだとここの人達に失礼ですね…」
そうしてゼウスに掛けられた言葉に混じるその単語がヘラには嬉しく、そして何故か
そのやり取りは、ゼウスが前世で学んだギリシャ神話にも登場したりする、前世の歴史ではフェニキアと呼ばれた地に存在する、この頃はまだ小さな村であったティルスにおける日常の一部であった。
今回、何やら主人公とその周囲が大幅に変わりましたね。
次回は、本作における最大の災難(?)フラグになると予言されていた例の儀式に入る予定です。