「待って……」
湊友希那の声が響き、彼は身体を停止させた。
ベッドの上の友希那は全裸で仰向けだった。股間も十分に熟れており警戒心は薄く広がっていた。その友希那に対する彼もまた全裸だった。彼は今まさに男として友希那を貫く寸前だった。股間の勃起とはそのためのものであり、赤黒い部分は友希那にのみ向かっている。
彼という男はつまりこの友希那から肌色を許された唯一の男だった。
二人の熱気はこの寝室の中で絡み合い、雄と雌は触れ合う直前だった。彼は生物としての高ぶりに居る。
しかしその男体は停止していた。
彼という男は確かに性欲に満ちた獣だったが、愛する者を無視してまで己を進める鬼畜ではなかった。故に彼は友希那の声に素早く反応し友希那から降りていた。彼がそのように停止しても友希那は何も喋らなかった。声は続かず呼吸だけが過ぎていた。だがとにかく彼は己を収めていた。男体が行きつく先とはもちろん愛する者のすぐ近くであり、彼は友希那の左隣に忍び込んだ。
「大丈夫」
そういった彼の優しさ、というより気遣いは指の先端にさえ発現していた。彼は姫の一番近くで姫の柔らかい頬の輪郭を確かめる。
「ごめんなさい、やっぱり……」
小さい友希那はベッドの上で己の筋力を放棄するように楽にしていた。顔は彼に伸びているがそれは偶然その向きに転がっただけのような態度だった。だが瞳の中には彼しかいなかった。
「今日、やめておこうか?」
「ま、待って……!」
彼が起き上がろうとした途端に友希那は声を上げて否定した。後方から裾を引っ張る女児のようなか細くも意思に満ちた姿だった。彼はもちろん友希那のことを窺うが、対する姫はそこから続かなかった。復活した語感はまたすぐ下向きに消えてしまうだけだった。彼は姫の隣に戻っていた。
「あの、そうでは、なくて……」
友希那は頬を深く沈め、それから彼の素手を掬い上げた。彼は変わらない情緒で友希那のことをしっかりとみつめた。
友希那の瞳は光に満ちていた。それはとても重たい高貴な雰囲気だった。まるで金属類のような質感で、けれどなんだか危ういものがある目だった。きっとこのまま放置をすれば、この瞳は眼窩の中で溶けて流れて沈んでしまう。
彼は姫にいつくしむ視線を向けて探っていた。
「話してみてよ」
今の友希那の内情を彼が完璧に知り尽くし、完璧に理解することはできない。
だが彼はそれ故に自分を抑えることができなかった。愛する者への探求心や好奇心は高まり続けて彼を発火させていた。そしてその一切の欲望は何やら白っぽく濁りながら友希那に向かっていた。彼は友希那の肉体も精神もどちらも全て体験したいだけだった。
「知りたいからさ、友希那のこと、もっと」
彼は読み聞かせをするように少し迫った。すると友希那はひとつの別の反応を彼に向けた。頬はより赤く染まり、視線もまだ沈んでるところではあるが、友希那はその先で口を開いて喉を張った。
「こういうことは、まだ……」
「恥ずかしい?」
「ええ」友希那は悪事を告白する調子で首肯し続く。「は、裸で、向き合うだなんて……」
友希那が言葉を置いた後、彼は身体を起こして上を取った。彼は俊敏だった。友希那のひと言はそういう特殊な合図であり、獣の彼は自分の思考ではない自分の部分で反応し動いていた。背中が友希那の真上を覆い、姫の細い表面に影がもたらされた。
「ちょっと……」
彼を見上げる友希那はその場で強張るだけだった。抵抗も嫌悪も呆れも何も無いようだった。彼はそれをいいことに彼女に己の素手を流して真白い左右の手を包み込んだ。友希那はまだ抵抗の色をみせずに居る。彼は友希那の五指を絡め取るように連結させ、繋がった腕を上方向に持っていく。そこは友希那の頭上で、握った素手はその位置に固定された。
「どうして、手を握ったのかしら……」
「友希那のこと、もっと視たいから」
「けれど、これは……」
彼は友希那の腕を固定していたが強固に縛るようなことはしていなかった。故に彼女の指は彼の素手の中で少し蠢いた。彼はその友希那の細い運動を汗ばみの中で尊重していた。そして友希那が彼の中で動けば動く度、彼の太い五指は友希那へしっとり絡みついて複雑に成っていった。
今の友希那はつまり生け捕りだった。腕そのものをまるで引き剥がすように上げられたことで胴体部分の詳細が彼に対して明らかになっている。彼は上の位置からこの女体の不可思議な美しさを観察しはじめた。
胸部には起伏が少なかった。その位置に膨潤な別のものが実っているのではなく、胴体という肌が少し前方向に突き出ているだけという具合だった。友希那が少しでも動くと肌色は突っ張り、鎖骨の形状やあばら骨の形状が浮き出てきた。特に鎖骨部分はくぼみのような造りとなっており、可愛げや愛玩とは異なる妖艶の美しさがあった。そこから続く首の形状にも艶やかな色香が在り、友希那が顔を右側に流すと中の筋が主張してくるため彼は肘をついてその部分に鼻先を向けた。
「ねぇ、こっち視て」
「で、できないわ……」
彼が吐息でせがんでみても友希那は変わらず右側を向いていた。友希那の横顔というものも美しいのだが彼の目が夢中に成る部位とはその下の首の部分だった。
「恥ずかしいの?」
「いいえ、そうではなくて……」
今の友希那は彼の方向だけを視ていなかった。常に逃げるように頭を倒し、肌を引き伸ばすように首を斜めに寄越している。筋の浮き沈みがなんとも妖しいものだった。また、その妖艶をさらに助長させるように薄紫の毛髪が細かく這い、いくつかは友希那の小さな動きによってシーツに流れ落ちていた。
「みつめられるの、恥ずかしいんだ」
彼の小声は友希那の吐息と混ざって消えた。彼は友希那の上を鼻頭で這い、臭いを嗅いでにやけていた。
ああ、はたしてこの友希那は自覚をしているのだろうか。
普段の気丈な態度から一転し、声を弱く潜ませ、裸体を蛇行させる。腰部分がくねりくねりと動き、あばら骨がなめらかな肌の上に唐突に浮き立つ。足は何か必死に脱ぎ捨てるように動いたり脱力する。
本気で拒絶をしているわけではないが、恥ずかしいものは恥ずかしく、なかなか素直に進まない。故に表面には、ぎりぎりの生娘の色のみが映し出される。
そういった慎ましい色気こそがまさしく毒であり、男の性欲を過激に追い込んでしまう。
姫とは姫であるから強く振る舞えるが、姫だからこそ羞恥に弱い。男はすっかり夢中に成り、もう友希那の全てが愛らしい。我慢することこそが馬鹿らしく思い、この女体を接吻で巡る。
「まって……。ちょっと……」
そうして彼女にひと通り自分を塗った後、彼はまた誘われるかたちで友希那の首を舐めしゃぶる。友希那が首を大きく振ることはなかった。その口からはいよいよ本格的な少女が香っていた。彼が少し大きく廻すとその背が反り、胸部が突き出るように集中した。彼は舌先のみで彼女の喉の浮き沈みさえ理解していった。
堅牢な歌姫はすでに溶けているようだった。精神的な余裕が喪失し、声も、空気もまともに成り立っていないようだった。今の友希那は奥底の無力な乙女が引き出されているだけだった。
誠実な音楽家を続ける友希那にとって、それは自分が生物として弱く成ることであり、伴う羞恥は計り知れない。
友希那の場合はそれに加えて、必死に誤魔化すために取り繕っている部分もある。
彼としては、普段のあの強さが消え、甘い声を漏らすだけの友希那を前にしてみると途端に卑猥を意識し、硬く成る。また、そういう湿った彼女を自分という男が発掘し、独占してゆくことに意識を向けてみると、今度はそこに倒錯じみた劇的な興奮を知覚する。
彼は友希那の香しい表面を舐め、唇を与え、満足した後に顔を上げて姫を覗く。
姫はくたびれている様子だった。腕にも力が入ってなかった。だが目元はまだ緩んでいなかった。
「わかったから……」
姫は何か被害者じみた顔つきだった。彼をさらに発情させるだけだった。
「もう、好きにして」
一瞬、目元の部分に涙が浮かんでいるように視えたがそれは汗だった。女体の全体が一気に萎縮し、素手からも力が抜けていく。友希那は彼に胸部を明け渡す。
「けれど、お願い……」両手が抜けて指は彼に向かう。「優しく、してちょうだい」
「わかった」
彼は友希那の耳元で嘘をつくように囁いた。友希那の顔はその詐欺師に騙されているように緩んだ。彼は腰を友希那に突き出した。
友希那の入り口部分はすでに高い完成度を誇っていた。垂れ出る粘液は周囲を湿らせ、その箇所のみを甘く満たしている。彼は己の雄をその友希那の熱に当てた。真っ赤な頭の部分で少女をかき混ぜ、少し熱く広げた後、ひとつの取っ掛かりを得て内部へ滑り込んでいく。
友希那はまるでそういった経験がまだ済んでいないような態度で生で彼を受け入れた。背筋が反り、唇は開花の逆再生のように中心につねられた後に弾けて甘い空気を打つ。彼は彼女のその腰を握り、さらに奥まった友希那へ到達する。
「あなたを、感じる……」
「ああ、僕も」
上体を倒す彼は友希那の中でさっそく順応していった。自分の中の貴重な部分が自分ではない場所でより柔軟に当てはまっている。
広がる友希那は至極丁寧、だが容赦はせずに彼を咥える。
「温かい……」
どうしようもない恥じらいの中、唯一の女は口角部分を上擦らせる。
彼はそういう彼女の肌色に狂おしい艶を嗅ぐ。そして完璧の純度の中で、ようやくひとつに成り果てる。
だがこういった光景、というか状況に対し彼はよい意味で慣れを感じない。
そこに至る過程の中でどちらがどれだけ主導権を握っていたかという部分に関係なく、友希那の中から湿っぽい色香をみつける彼は特別を意識した。それは必ずといっていいほど発生する現象で、これは本当によいものなのかと勃起の傍ら思う瞬間さえあった。
友希那とは確かに情熱的な人だった。分厚い想いを投げかける人だった。しかしそれはあくまで音楽家としての彼女だと思っているのが彼だった。その分野において友希那とは特に優れた一人であり、常に徹底的で停滞はないものだった。故に卑猥はないと思っていた。こういう性的な、俗っぽいものとは無縁なのだと思っていた。本人からそういう話を聞いたわけではないが彼はいうならば自分の雄の感覚でそれを察知していた。音楽の中で披露する情熱と性欲は直結しないものだと考察しているのが彼だった。
だからこそあの日は本当に驚いた。友希那のほうから夜を求められた。開通を終えてまだ二日しか経過していないが友希那は性的な熱をすでに自分から希望していた。月の明かりが妙に真白く目立っていた。彼は自分と友希那の男女としての関係性が本格的に変動してゆく前兆を視た。
ベッドに尻を落とす友希那はしかし変わらない顔つきだった。変わらないというのは友希那が自ら性交の話題を持ち出した瞬間からのことで、友希那は無言で寝室に入った後に彼に背を向けて脱衣をはじめた。まるでこれからただ音楽的な仕事の打ち合わせをするだけような平気な動作だった。友希那はそうして男に食べられるためだけに自ら姿を拓いて肌色を増やしてゆく。
友希那の尻や太腿はすでに男を抱え込むことができる程度には育っていた。だが彼女の体躯とは全体的に細く薄いものだった。女性的な、あるいは何か母性のように膨らんでいる部分は臀部だけであり、その肌色は背筋に成るにつれ慎ましく反り立っている。だが彼は友希那の背中の肌色をあまり詳しく視ることはできなかった。友希那は髪が長く、故に彼は猫じゃらしを追う猫のように彼女の細かい毛先の動きを追っていた。
「あなたもはやく脱いで。できないでしょう?」
「あ、ああ……」
振り返る友希那に彼はなぜか急かされていた。彼はベッドから腰を上げ、ズボンやシャツや下着を剥ぐ。友希那はその一切をみつめていた。男体というもの自体に物珍しさを得ているらしい視線で彼は舐め廻されるがそれは彼も同じだった。彼はベッドの上で少し前のめりに手をつく友希那の乳房を視ていた。主張のない乳房は少し震える程度に収まっていた。肩口も小さくしっかり造られており、背に乗る毛髪が液体のように何の引っかかりもなく落ちていた。
脱衣を完了した彼は再びベッドに乗った。仰向けに横に成り、友希那が上に成った。するとそこに神秘の光が差した。それは月の明かりで、この寝室の窓から差し込む白い光芒は素知らぬ態度で友希那を包み、むしろ吸収されていくように形作る。
この薄闇の中、姫君の裸体の形のみが浮き立っている。その真白い神秘を前にした彼は何か、か細いものを支えたいというありえない欲求に浮かされた。美麗を視るのではなくこれに対し性を向けた己というおこがましさに怯えた。
けれど彼は同時に月の明かりのことをすっかり忘れた。友希那は光の中から彼という薄闇のほうに飛び込むように身体を突き出して腰を少し上げた。
「――いくわよ」
それから二人は動作の一つ一つを確認するように繋がった。互いの隙間を熱気で埋め合わせていく。
互いの肉が絡み合っていた。
互いの吐息が空気の中で交差していた。肉体は揺れ、だが輪郭はそのままだった。そうしてさらに混ざり、溶けて流れて、また熱されてゆくだけだった。
この薄闇の中、男女の蠢きは続いている。
何か話すことはなかった。何か合図することもなかった。彼と友希那は視線のみで相手を覗き、ほだすように圧し、揉むように圧し返すことを繰り返していた。
この世界で二人だけだった。
小さい耳と優しい頬、それから目元に汗が浮き、その薄い光沢は友希那という女体により香ばしい深みをもたらしている。
一年ほど前に出会い、友希那の秘匿を打ち破った彼はそれからこの湊友希那という極上の女体を毎日堪能していた。彼は友希那と二人で快感を駆け上がっていた。ベッドに仰向けに在る彼女を彼が覆う体勢で、繋がった股間で突き上げるように揺れると姫は呼応した。だが身体とは不思議なものだった。彼がどれだけ彼女の上で股間を上げ、彼女がどれだけ肌色を弾けさせたとしてもその女体の肩幅や薄い乳房は形を保ったままだった。崩れ去ってしまう雰囲気はあるが崩壊することはなかった。内側の柔らかい肉は波打つように彼を誘うだけだった。
だが友希那はまるで自分の乙女が身勝手に虐げられているような顔をしていた。
それは一種の怯えの態度だった。友希那は自分は何か被害に遭って、故に彼という獣に歯向かうことができないという表情だった。今の二人の触れ合いとはもちろん確かな同意によって発生しているが友希那は声も表情も噛み殺しているようにおとなしく在った。
普段あれほど冷静だからこそ、こういった普通ではない舞台の中では消極的に居るのかもしれない。
だが何をどうしても友希那は女性であり肉食だった。濡れた股間は彼を咥えてシーツさえ湿らせていた。その胎内はとびきり熟れており、彼の形に組み上げられた雌は雄を離さない。彼は竿そのものが抱き締められているような心地で友希那と共に在った。
「まって、奥っ……」
「駄目?」
「いや……」
友希那の語尾はふやけていた。それは危機にひんしているような声だった。緊急で余裕がなく、それでもどこか卑しい飛沫は彼の腰の動きに添うように歌姫の喉から漏れ出ている。そこには小動物的なものがあり、彼は愛玩欲求を感じて思わず友希那の頬や耳の輪郭を舐め廻した。それから腰を押し、そうして姫の奥の位置に進んで掘り起こしてみる。友希那の喉から何やら甘い息が漏れはじめた。
彼はなんだか聴いてはいけないものを耳にしているような心地に成った。だがそれは罪悪ではなくそういう味の背徳だった。彼は普段のあの冷静沈着な友希那を想起し、すかさずこの乱れた友希那を聴いた。どれだけ堅実な性格をしていたところで男に貫かれてしまうと後は挽かれるように喘ぐだけだった。そういう友希那に対し得るものとはやはり背徳だった。
それはいわゆる趣きというもので、彼は野蛮な狼藉者に成り引きつる友希那の上に改めて君臨した。
「友希那……」
彼はこの小さな姫の名を耳元で呟き内部を竿で執拗に追いかける。彼は自分がまだ友希那を突いているのだと勇んでいた。自分の中で何か自分ではない獰猛なものが一斉に決起し、それでこの友希那を食い潰そうとしている。
そういう自分が実は友希那に搾られていたことに気付くのは胎内で果てた後のことだった。
友希那に押し付けるように停止した彼はそこからずり落ちた。膣は彼に対してすっかり機能しており、肉の動きが絡み付くことで彼は引っ張られてゆく。それはつまり友希那の女性に敗北したということなのだが彼の中に後悔は無かった。彼は真白い粟立ちを得ていた。薄い呼吸の中で快感のみが尾を引いていた。
彼はそのまま行き倒れた位置にたまたま友希那という柔らかい熱が在ったという要領で姫の首筋に突っ伏した。
「落ち着いた、かしら……」
友希那の瞳は広がったままで彼の意中に留まっていた。その呼吸は彼同様にさすがに乱れており、薄い胸部は男を許しつつ何かもどかしそうにうねっている。それは男からの仕打ちによって消耗しているようにも思えるが、胎内に噴き出た男に対して何か喜悦を得ているようにも視えた。その友希那の上に広がる彼はすでに虚脱だった。動作が終結した友希那の首筋の起伏を視ていた。その部分には薄紫が貼り付いている。毛髪で、汗の色気と相まって実に美麗なものだった。
友希那はそういった乱れを整えることなく、まずはくたびれたままの彼を上から両手で包み込んだ。彼は友希那のより深い位置に触れていた。友希那の素手が頭髪をかき分けるように撫でてくれる。彼は彼女の皮膚の臭いを嗅ぐ。
ああ、これでは本当に、どちらが場の主導権を握っているかわからない。
熱とは聖母の熱であり、彼はこの安心感の中、友希那を離さないことだけを考えた。
盛りが収まった後、彼は完全に落ちてしまう前に身体を動かして友希那から移動した。
彼は膣から竿を引き上げるこの瞬間が少しだけ苦手だった。抜けきった友希那を置き去りにするような一方的な心地が申し訳なかった。使用済みの女体から退散する身勝手な香りで、彼はそれを誤魔化すためにすかさず彼女の左隣に引っ付いた。
それは深夜が心細くて母親の熱を頼りにする息子の態度だった。
そういう彼は、ベッドの中に重心を放したところで次に己の体躯について自覚した。
今の自分は極限まで吸い取られていた。極限まで消耗していた。全ての関節がとにかく気怠く、なんだか波のようなものが皮膚の裏側に纏わりついていた。腕にさえ力が行き渡っていなかった。もう膝で立つことさえ無理そうで、彼はシーツの肌触りとマットレスの弾力に肢体を預けた。身体は確かに重たいものだったが悪い気はなかった。むしろ彼は今のところ満ち足りていた。まさしく性的な全能感でありそこに浸る彼はやがてすぐ隣の友希那の頬の香りに引き寄せられた。
「満足、したようね」
彼と友希那は砂漠か海のような何もない果てしない広い場所でようやく巡り会ったように絡み合った。だがそれは明確な意思のうえで素手や足を交差させているのではなく自分の手足や胴体を相手の部位に乗せて停滞するような調子だった。
彼はその中で自分の頭部を友希那の胸部にねじ込んでいた。そして内部の熱の得るために肌を鼻頭でさすっていた。脳裡は先ほどの行為を想起していた。
「気持ち良かったよ。友希那のナカ」
「はしたない言い方はやめてちょうだい」
「はは、ごめん」
「まったく……」
二人は二人だけの狭い空間の中で呟き合っていた。彼は自分の骨格を潰すようにして友希那の中に居た。友希那は自分の背の方向に長髪を流して彼を上から包んでいた。
「でもよかったよ、本当に」
「そうね、私も……」友希那の語尾はこの緩やかな空間の流れの中に消えてゆく。「私も、気持ちが良かったことは事実よ」
「それなら、よかった」
彼は友希那の中から友希那に向かってほほ笑んでいた。全身を包むこの熱が思春期のようにどこかに離れてしまうことはもうなかった。
「けれど、時おりわからなくなるの」
すると友希那の口調の中に唐突に陰りが現れた。彼は何かかけるわけでもなくただ視線で続きを促した。
「自分の意識というか、感覚のようなものが、どこかに紛れて、変わってしまったような、そういう心地になることが、少しだけあるわ」
「それは」彼は実娘に布団をかけてやるように声を伸ばす。「成長なのかもしれない」
それでも友希那の顔に変動は無かった。
「成長?」
「君が、女の子として新しく進んでいる証みたいなもの」
「……詳しくはわからないけれど、そういうものなのかしら」
「少なくとも、今の君はとても綺麗だし、すごく気持ち良かった」
「それは、喜んでいいものなの?」
「もちろん」
彼がほほ笑みで肯定すると、友希那は内部の余計な熱気を逃がすように少しだけ肢体を彼から伸ばしその先でひとつ息を吹いた。
今の友希那は柔軟だった。
元来の静謐の人格をそのままに、彼という他人や、こういった性的な好みと習慣に寛容に成り、理解し実践しようと進んでいる。多彩な色を己の中に孕ませることで自身の尊い知見をさらに広げることに成功している。それは今日まで続く音楽的活動が彼女にもたらした成果であり、その結晶のような歩みの歴史こそが今の友希那の魅力を形作っていることは明白だった。
だがおそらく、今の友希那の色の起源とはそれだけではなかった。
彼は胸中で確信に在る。
今の友希那を造る要素の中には、自分という男との出会いも含まれている。今の彼女の中には一摘み、あるいは一滴ほどの自分が居る。
柔軟な意欲を持つ友希那の中に異性というそれまでなかった別種の色が入り込み、現在と過去とで明らかに異なる色を友希那にもたらしている。
それは歌手としてでもあるし、また、女としてでもある。
性に関して何も知らない友希那は一人を愛し、裸体を披露し、湿ることを覚えた。それは極めて女性的な豊かな成長であり、彼女の人間性をそちらの方向に傾けた原因にはきっと自分という男が立っているのだと彼は確信していた。
歌手ではなくまず女として、友希那はより深い香りを習得している。
彼にとって、その成長に携わったこととは一切の間違いのない淀みのない誇りそのものだった。だが彼という探求者はまだ完全な満足には至っていなかった。この愛する友希那の奥底にはまだまだ多大な香りが眠っていると彼は確信していた。それは友希那に性的な才能があるだとかそういうものではなく、一匹の雄として彼が本能的に感じ取った友希那への可能性のことだった。そして彼は今、そういった友希那の新しい味に出会う瞬間というものを想像していた。それはまさに未知の海域を進む海賊の心地であり、友希那の中のさらなる艶を自らの手で引き出し独占する愉しさに彼は猛々しい気迫を意識した。
性的にはまだまだ無知な友希那のことを続けて安全に導くことこそが、自分の男としての役目なのだと彼は確信していた。
何か活気溢れる男の五本の触手は活動を再開し、友希那の裸体を探りはじめた。
「あなた……」
彼はもう指の一本さえ動かせないものだと思い込んでいたがそれは間違いだった。回復したのか、不思議なもので関節は浮き上がった。姫のものよりも圧倒的に角張った肌色はその獲物の上を這って確かる。
「まったく、際限がない人ね」
揉まれる姫の声色は硬いものだが彼の素手を退けることはなかった。友希那はまったく繊細な心地でその女体を伸ばしたままだった。
「君の身体がいけないんだ」
「私が?」
彼は寝返りのように体躯を動かし、今度は自分の胸の中に友希那を引き寄せてみつめた。薄い肌と薄紫と、それから瞳の色は変わらずに鮮やかだった。
「魅力的すぎる」
彼は友希那の肩や首の輪郭部分に指を沈めて撫で上げる。
「綺麗だよ」
その全ては彼のみを誘っていた。
「歌声と同じだ。君の歌声と」
「歌……」
友希那は平然とした顔だった。
彼は素手を友希那の背に廻し、垂れる長髪を背筋に揃えるように撫でた。
「で、でも――」
友希那は彼の胸の内に視線を沈めた。
「もう、誰も聴いてくれないわ」
震える声と共に友希那の肩が震えはじめた。
「友希那」
彼は彼女の肩を毛髪ごと抱き締めた。
「みんな、居なくなったのよ」
「友希那」
「みんな、全員……」
友希那は彼の胸板に顔を落とした。彼は何か考え付くよりもまず友希那の頭部を撫でた。この美しい薄紫の頭部に貼り付いている視えない何かを拭い落とすように素手をさすっていた。
胸板に在る友希那は己の内側の破裂を必死に抑えていたがやがて決壊し、声ではない細い音が喉から続いた。
「バンドも、もう、何もないわ。なにも……」
友希那は悲観的な部分に落下する己を彼に預けて震えていた。
彼は友希那の頭部を包み続けた。
それしかできない自分のことを、ひどく悔やみながら。
この世界から自分以外の全ての人間が消失したことに関する理由や仕組みなど彼からすればどうでもよいことだった。
人が居ない。
まるで時が停止したように。
人が居ない。
それこそが重要なことだった。他はどうでもよかった。興味が無かった。調べる気概も意欲もなかった。だが自分以外の人が居ないという事実だけは重要だった。これから続く余生とも呼べる時間の中で唯一意識すべきことのはずだった。
社会的な設備、つまりライフラインの停止はなぜかなかった。
一週間経過時点で照明やシャワーは使用可能だった。彼はそれに疑問を持たないわけではなかったが、ならばわざわざ該当設備に赴き、手当たり次第に探ることも別にしたいとは思わなかった。
そのテの専門知識など皆無だし、そもそも彼はもう何か、大きく体力を消費するようなことを自分で起こしたくなかった。
精神的疲労というものは現代人なら誰でも持っているが、それらの大半は自分ではない別の概念が原因である。つまり他からの束縛感や使命感、強制力こそがそのまま自分にとっての摩擦と成り、精神的な消費にさえ直結する。
今まで有象無象として生きてきた彼の唯一の自論はそれだった。
だが今の彼はこの世界に取り残されていた。一切の縛りや規則はもう彼を阻害しないものだった。疲労は皆無で、精神的にも大分柔らかいものだった。そして伸びきったバネとはもう縮らないものだった。
食糧問題には頭をかかえることになったが自家菜園という手段をすぐに取った。これは苦肉の策だった。約一か月で生野菜を克服し、それでどうにか解決した。
そうして生活に慣れてもう何度目かわからない夜を迎えた。周囲は薄暗かった。それは光が無いから暗いのではなくそういう色の煙が舞っているのだった。少なくとも彼にはそのように思えた。
今の彼は自分の人生で唯一他に自慢できる大きな家を寝床とし、庭で菜園をしたり気晴らしに運動するだけだった。
彼は最近夜に成ると歌声を聴いていた。
だが彼は歌声を無視しベッドに入っていた。声を振り払うように寝返りを打ち、使い慣れた枕に顔を落として目を閉じた。歌声はそれでも続いた。途切れる気配は皆無だった。歌声は彼の意識のすぐ横を過ぎてゆくものだった。濡れてしまった糸のような質感で、この孤独の夜の中を孤独だからこそ自由に流れていた。
彼はその一切を幻聴だと思っていた。
この世界に自分以外の人間が居るとは思わなかった。確かにそれは調査の結果という明確なものではないが彼はいうならば本能でそれを感じ取っていた。全身に触れているこの孤独の湿り気とは本物であり、この世界にはもう人が居ないはずだった。もしこの心地が何か間違っているもので、本当に自分以外の他が居たとしても唐突に歌を歌うだなんておかしな人間に違いないと彼は確信していた。屋内にさえ届くこの声量も何か常軌を逸しているとしか思えなかった。
ただ、彼はまた別のところで妙な納得も得ていた。それはこの歌声が本物の人間であるという前提の思考だった。こういった世界の中でこういう気の狂い方は十分に納得できるものだった。何か強烈な哀しみを歌に乗せて発散する行為自体はある意味真っ当と評することさえ可能かもしれなかった。
だが、彼はまた別のところで疑問にあった。この歌声とは哀しい心地に浸りすぎているような気がした。自分の中に現れた強烈な哀しみをむしろ逆手に取って創作に生かしているような気概を感じる見事な歌声だと彼はまた寝返りを打ちながら思った。
たとえば、自分の中のセンチメンタルが脳裡で歌声に変換されているとするのなら、歌声に対する全ての疑問の回答に成ると思った。彼は自分の中の男の渇望が女をひどく求めていることを自覚していた。故にこの歌声が女性で、自分にとって非常に好みの歌い方であるということについても納得できるものだった。
彼はベッドの上でまた寝返りを打ち、続く幻聴に身を任せ続けていた。
ひどく遠い、けれどどうして、とても近しい歌声だった。
月光に照らされた薄紫は泳いでいる。
だがそれは夜の中に彼女が響いているのではなく、彼女が夜というものを描いている。気迫は声だけではなく全身に宿り、特にその瞳の奥にはまだ燦然とするものを湛えている。彼女はそれでずうっと向こう、先の夜空に投げかけている。
そういう歌声だった。
彼女はこの世界に対し怒っているのか、哀しんでいるのか、あるいは憐れんでるのか。
一体、どれほどの探求と、それから挫折を飲み込めば、人はここに到達できるのだろう。
わからないが、彼はとにかく歌声に心地を任せた。だが歌声は間もなく途切れてしまう。
霧雨があがって景色が開いてゆくような気配の中で、唯一の彼女はたった独りの、おそらく久しい観客の存在に気付いた。
「邪魔をしたのなら、ごめんなさい。人がいるだなんて、思わなかったから」
彼女は丁寧な口調だった。就寝に入る彼を自分の声こそが害したのだと思い込んでいるようだった。
「確かに」彼は周囲を見渡す素振りをしてみた。「人は、もう居ないよね」
「ええ――」
首肯はするが、その彼女は極めて澄んでいた。
彼女はつまり、孤独だと思っていた世界で久々に異性と話しているということだった。だがそれで落ち込むわけでも、滾るわけでも、警戒するわけでもないものだった。まるで今日も一日、相応の生活を過ごしただけのような、彼に対しても、他人ではなくもともと数年ほどの付き合いがある友人のような、そういう態度で向かっていた。
彼はその彼女に対し、まるで舞台に上がる調子で喉を張った。
「名前、聞いていい?」
「湊、友希那よ」
友希那が口を開く度、彼はその周囲の風味というか、空気がより高貴な色香に洗われてゆくことを体験していた。
「君が、歌っていたの?」
「ええ」友希那は伏せているようなその視線を変えずに明瞭な声を打つ。「誰も、居ないから」
人が居ないのに歌うだなんて。
「けれど、もうやめることにするわ」
「あ、ごめん。邪魔したのなら――」
「違うわ」
友希那のひと声が彼の肩を留めた。
彼は友希那の方向をあらためて視た。目と目は合っていなかった。
ただ、友希那の中の表情の湿り気が、より深みを増していた。
彼が寝具の中で連想したあの湿り気がそこに漂っていた。
「もう、いいのよ」
「いいって、なんで――」
「みんな、居なくなってしまったわ」
友希那はまるで自分が流した灯篭の行方を見守る目で彼ではない部分を眺めていた。
「最初の頃は、歌を続けた。それが私だから。……けれど、もう聴いてくれる人も、共に音楽を続けてくれる人も居ない。何も分かち合えない。そんなもの、無意味でしかないわ」
姫をみつめるだけの彼は密かに喉を鳴らし、それから彼女へ真摯に挑む。
「でも、君は今、まだ歌ってた」
「それは……」
友希那は何か、後ろめたいものを背中で隠すようにたじろぐ。
彼女のそういう身振りとは、彼の視界の中ではすでにひとつの可愛げとして映っていた。
「僕は、君の歌声に誘われてここに来た」
「けれど――」
「綺麗だった」
彼は勇み、そうして表示をしてみる。
「……だからもう一度、聴かせてほしい」
彼が最後に大きく出ると、友希那の視線は不思議な煙たさに満ちていく。それは目の前ではなく、未来でもなく、過去を覗いている目だった。友希那はそういう瞳を少し迷わせ、その後にようやく前を、彼を見据えて息を吸う。
「聞いて、くれるの?」
「もちろん」
「最後まで?」
「当たり前」
彼はもう一度、己の意思を友希那に押し込む調子で勇んだ。すると友希那は何か沈み、体躯を張ってみせた。それはどこかに向くわけではなかった。だが友希那は周囲の全てをみつめて堂々と居た。背筋が少しだけ力み、やがて友希那は歌唱を開始した。
最初は彼という客人を意識し、そこに届けるように歌っていた。だがその心地はいつしか消え、ついに姿を現したものとは純然の歌姫だった。
対する彼は少し奇妙な体験に触れていた。それは生まれてはじめての心地だった。二つの別種の心地を同時に受け取る不思議な体験だった。彼は歌を聴いただけで胸と腰が同時に熱くなっていた。
美術品に向けるべき澄んだ興奮と、好みの女体に向いてしまう荒々しい興奮が同時に噴き出していた。
どちらか片方がもうひとつを邪魔するわけではなかった。むしろ興奮は均一に混ざり合い、正体不明のさらなる熱気と成り、彼は昇る。
この世で最期を迎える時、この歌声が近くに居るのなら、ほほ笑みと共に逝けるかもしれない。
「――ありがとう」
気品のこもった一礼で歌唱の終着は告げられた。歌姫の口角は薄っすら上がっていた。頬は品のある高揚の蒸気に満ちていた。
「やっぱり、いい声」
そして彼は、歌の終わりというものをこれほど悔やんだことはなかった。
平時の友希那は喋らず表さず、慎ましく、礼儀が正しい人だった。興味が無ければ何事にも見向きしない人だった。
彼は最初、友希那とは常に不機嫌にあるのだと思い込んでいたがそれは間違いだった。
友希那はただ口下手なだけだった。音楽ではない言葉で自己を表現することに戸惑いが少しあるというだけだった。
それさえわかれば後は簡単だった。対話を重ね、身体を重ねるだけだった。彼は友希那のそういった不器用な部分さえ愛でた。友希那は少しずつだが確実に心を開いてくれた。表情の中に変化はあまりないが、二人の中に何か穏やかな空気感が流れていることを彼も友希那も気付いており、よいものとしていた。
「これほど気持ちが安らいだのは、いつぶりかしら」
友希那はついに日常の中で、あのライブの時のような顔を彼に向けた。
咲き誇るような堂々たる笑みだった。
それを眺める彼もまた、己の中で何かが発芽していることを嬉しく想った。
「おはよう」
目覚めた彼がまだふやけている意識で最初に耳にしたものとは愛する友希那の声だった。
「ああ、お、おはよう。友希那……」
仰向けの彼は大の字のように左右を伸ばして開脚していた。衣類は上半身だけになっており、足も股間も丸出しだった。
友希那はその敷地のような肌色の中で四つん這いだった。小さな顔面は対比のように巨大化している陰茎のすぐ前に在る。黒い花柄の下着のみを身に着け、長い髪は何か余っているように左右に広がり散っている。両手は彼の陰毛だらけの根本部分に添えられており、その指の一本一本、というより指先のひとつひとつが彼に仕えていた。
「ちょうど、綺麗になったところよ」
友希那は精神的にも彼に降っている様子だった。
竿はすでにたっぷりの唾液で潤んでおり、亀頭は磨かれたような光沢がある。
「ここだって、清潔なほうがいいはずでしょう?」
友希那が己の口腔と舌を使用し、勃起した陰茎の清掃を済ませてくれたことを彼は素早く理解し、何よりも先に感謝の声を彼女へ宛てた。
「構わないわ」友希那は彼の礼を受け取った後、唐突に鼻先を竿の適当な位置へ沈めた。鼻骨がへこむような音が鳴り、閉じられた瞼の隙間から瞳が覗く。「唾液のにおい、しっかりついているわね……」
何か満足げに呟く友希那を前にした彼の脳裡にこみ上げてくるものとはその友希那の清掃の姿だった。
今の陰茎には恥垢がなかった。亀頭のすぐ下の何か首っぽい溝の部分にさえ粒一つも無かった。
そういった完璧な仕上がりを目の当たりにする彼は、舌を器用に使用し細かい黄ばんだ垢の塊を徹底的に採取している友希那をすかさず想像していた。
友希那の顔つきはいつもの澄んだ心地で、だか瞳は陰茎に付きっきりだった。伸び出る舌は唾液で潤み、恥垢にそれを塗り付けてふやかした後に舌先でこする。それは熱を出して寝込んだ男児の脇の寝汗を拭き取る若い母親の指先によく似た様相だった。彼専属の歌姫は、強さと優しさを兼ね揃えた練度であっという間に男の垢を掃除してしまう。
その行為中の光景を勝手に想像した彼は強烈な興奮と後悔に堕ちた。もう少しでいいからはやい時間に目覚めたかった。
また、採取した垢がどこか別の場所に備えられている様子も無いため、おそらく友希那自身がそのまま飲み込んでくれたのだろうと彼はさらに追加で妄想した。妄想を展開しながら彼は友希那を仰いでいた。美人清掃係はまるで彼の思考を覗いて答えを示すように喉の位置で硬いものを飲み下した。
そしてその視線は吸い寄せられるように彼の急所に向かっていった。
「すっかり、硬く成ってしまったわね」
友希那は呟いた後に口を軽く窄めて彼の亀頭に吐息を吹きかけた。彼は亀頭で友希那のぬるい息を感じ取った。腰そのもので反応した。友希那の方向に飛び上がるような動作だった。
「ゆきな……」
彼が物欲しそうに呟くと、友希那はその陰茎をせき止めるように右手で握り込んだ。根本に素手の熱を塗り込む動作で、逆立つ亀頭が友希那の視界に強引にめり込んでいるように思えた。友希那の高貴で落ち着いた瞳には期待がありありと浮いていた。
「友希那……」
「私が舐めた影響ということぐらい、理解しているわ」
彼は友希那の吐息を敏感な至近距離で体験し、彼女の名前を呼ぶだけだった。友希那が言葉を発したり呼吸をするだけでその脈拍が亀頭にも伝わってくる。
それから友希那の右手は唾液を拭うように彼の根本から上がり、光沢にまみれた五指はやがて亀頭を包んで少し揉んだ。股間の奥の位置が力む彼は腰を飛び上がらせようとするが竿の先端が友希那に絞られているため自由に動くことができず喘いだ。その引きつった腰の上には友希那の左手が常に置かれており、彼をさすってなだめていた。
「安心して。最後まで、ちゃんとしてあげるから」
友希那は彼の亀頭に留めた指をまるで瞼のように少し開け、中から覗く赤黒いものに唾液を垂らしてまた顔を上げた。
「あなたはじっと、そこに居て」
頬や肩に流れる長髪が友希那の少しの動作にさえ反応し揺れている。五指は竿を包み、唾液の浸透を促進する。
友希那の口腔内部の成分は彼の恥垢ではないまた別の何かをふやかすような大きな態度で股間に付着する。その指が退いたかと思えば、友希那はまた吐息と唾液を補充した。
「んれ……」
友希那は自分で造った指の筒の中に唾液を垂らした。筒に収まるものとはもちろん彼の陰茎であり、友希那はそこに向かって開口するのではなく下顎を垂らす。彼に自分の舌をみせつける動作で、赤色の上を落ちる唾液は糸を引きながら鈴口をぬめりで満たした。
補充が完了すると友希那は蓋を閉めるように彼の先端を指のみで覆って揉んだ。それは亀頭のみを握り締める動作だった。彼は捕まったまま股間を強張らせていた。
彼は起床して早々に友希那に尻尾を振っていた。友希那に握られていた。友希那の吐息とは友希那の言葉に含まれている優しさと同じ温かさを持っているものだった。友希那の唾液とは友希那の愛情に含まれている卑猥と同じ粘つきを持っているものだった。
それらは愛撫と大差がない真っ当な奉仕だった。この二人きりの世界の中、友希那はマイクを一旦忘れて男を握りしめている。男の朝の世話に懸命になっている。
果てることすら知らなかったあの友希那は今は自発的に雄の相手に成っている。
そういった転換にはさまざまな憶測を覗くことができる。だが彼はひとまずそういった思考を放棄した。彼は、自分が愛してやまない女性の奉仕を前に何か探偵のような偏屈じみた思考を保つことなどできなかった。というよりどうでもよかった。それよりも友希那だった。この手の込んだ奉仕を真剣に受けていたかった。彼は友希那という極上の口腔を余さず嗜むことにした。
彼は合図のように背を脱力させた。だがそれは合図というよりは何か降参している雰囲気だった。自分の股の間にするりと忍び込む友希那の瞳から朝が溶け消えている。
ひとつ了承を得た態度だった。友希那は今まで彼を撫でていた左手を竿に合流させ、根本の部分を握り込む。本格的な舌を行使せんと強張り、彼へ迫る。
「それじゃあ、いくわよ」
鈴口のすぐ上で出現した長い舌は彼の赤い実りへ流れ込む。突き出た舌先でさえとびきり熟れており、その友希那はくすぐるように彼を舐めはじめた。
彼は腰や竿そのものをまた震わせてしまうが友希那の両手は全てを逃がさない。
完全に竿の下側に位置する友希那の視線は常に彼の中へ向き、平然としていたが口元はだらしなく解放されている。舌は柔らかいまま細く研ぎ澄まされており、竿の中の溝の部分や裏側の筋のような部分を何度も何度も弾き、隅にまだ残る小さな汚れを撃ち落とす。友希那が顔を絶妙に傾けることで探る箇所も変わり、その妖しく細かい動きこそが本来の動きであるような当然の活気に満ちている。また、彼女の口の奥からは新鮮な唾液が次々と垂れ続けており、それらは舌を滑り亀頭に落ちて彼全体を温めていた。
優しさで満ちた時間だった。彼は男としての小さい弱点のさらに小さい僅かな部分だけが蹂躙されていた。友希那の中に搾精の気配はまだ希薄で、どちらかといえば労いやもてなしの気概に満ちていた。
だが目の前の女豹はそういった前置きをすぐに終わらせた。
友希那は一度竿から離れる。まるで食事を終えた直後のように慎ましい口元を演出し、無言で固唾を嚥下する。左手は膨らんだ彼のその膨張を体験するように上下に付き添い、後にまた大きく開口する。それは顔そのものを彼の股間へ傾けるような動きで、窄められた唇は亀頭を追いかけ飲み込んだ。
特徴的な肉厚は孔の入り口として機能し彼を抱き締めた。
それから友希那の頭部は時間をかけてゆったり下がっていく。それは陰茎が口腔に入るのではなく友希那の頬肉が彼の方向に伸びて半ば強引に被さる見ためであり、唇は彼の竿から空気そのものを拭って喉奥に招いた。
「んぶ……」
彼は友希那の奥に簡単に到着した。歌姫はその男に向かって自分の美顔そのものを突き出し全てを咥え込んで一度停止している。額や頬にすでに薄っすら汗が浮き、前髪は歪んでいるような様相で貼り付いていた。口元から黒いひびが噴き出ているように視えるがそれは彼の陰毛だった。
「んふ」
友希那は鼻息をいくつか漏らして整えた後、彼を仰いだままついに動きはじめる。
それは竿を基準とした顔の上下運動だった。顔を引く瞬間も押し込む瞬間も一切の余念がなかった。首が伸び、肉壁をこすり当てることで彼へ喉の構造を伝えていた。時おり何か小休止のような具合で股間に埋まり、竿というより彼の腰そのものを吸い上げるように音を立ててまた再開していった。
陰茎を詰め込んだまま彼を仰ぐ友希那の頬はへこんでおり、鼻の周囲は少し伸びている。竿の輪郭に忠誠を誓う唇には無数のシワが浮き、彼は股間が外れる予感を快楽と共に得た。友希那は彼が知らない特別な法則に乗っ取って運動を再開させた。彼はまた唾液の多大な音と共に自分の男性をかき混ぜられていった。
かつて重厚な世界を歌った小さな姫は、今は男の奉仕にのみ徹している。友希那はもうなりふり構わないような態度で、たとえばステージの上では姫の気品を助長させる美しい長髪も、今はシーツの白色の上でだらけている。そこにはまとまりや規律がなく、一本一本の細い印象がよく視える。動き続ける彼女の頭部はそういった毛髪を引きずるような様相で、その女性的な気迫が波のように伝播する度に雑に蠢き、慌てるように散る。
後ろ髪は彼女の荒々しさを、前髪は彼女の粘着の部分を彼に表示した。
彼がさらに特別に惹かれる部分とは、その前髪から覗く眉だった。
友希那の眉とは当然薄紫色だった。今は額に貼り付く前髪に紛れているが、その中で、頭部の動きや彼の反応に合わせて何やら穏やかな動きを打っている。
友希那の鉄面皮は行為中も変わらないものだった。だがこの眉毛、眉間の部分はそういうわけにもいかないらしく、つまりは友希那の本意が少し視える。たとえば彼が友希那の口腔の中で竿をさらに大きくさせたり、腰そのものを不安定に跳ねさせて求愛してみると変化が現れる。対する友希那は眉で表情を造り、彼に返事を与えてくれる。
感情が逐一浮き出てしまうところは猫に通ずるものがあった。つまり今の友希那の眉とは猫の耳だった。この世界一位の雌猫は気まぐれにご主人様に飛びついて徹底的な搾精を続ける。
彼は眉の情緒も眺めつつその友希那の粘膜に入り浸る。友希那はまるで彼など居ないような態度で淡々と口を彼へ執行しているが、彼はその彼女と時おり目が合う経験をする。
陰茎に対する友希那の真正面の気概は本物だった。汗さえ散らして顔が跳ねている。だが、そうして集中している最中にその硬そうな表情が時おり彼の顔の中に向けられることも少なくない。
歌姫は口淫は中断せず、むしろ自分の鼻から下を香ばしい彼の根本に付属したまま彼へ堅牢な瞳を差し込む。彼は弱っている瞬間のみを観察されてしまう。同時に自分とは盗み視ていたのではなく友希那という極上の餌に釣られて見惚れていただけという事実に打ちのめされる。姫は男性を頬張ったまま彼の表情を一瞥し、それでさっさと股間に戻る。まるで何も視なかった調子で口での束縛は変わらない。彼は友希那の喉で亀頭を撫でられる。
緩みきったこの男を馬鹿にするわけでもなく、あえて助長するわけでもない。友希那はただ彼の表情から彼の弱点を認識し、己の口淫技術向上に努めているだけだった。それで過激に成る友希那によって彼は自分の睾丸部分がなんだか奥まった部分に沈む心地を得た。凝縮し、シワが寄ると同時に内部から何か上がってゆくものを体験する。
友希那はそれを知ってか知らずか唐突に喉を止め、今度は亀頭に注力しはじめる。
突き出た舌先が彼の首のような溝に当てはまり、数回蠢くことで彼は肯定される。唇がそれを追うように表面に触れてひしゃげる。
友希那の唇は竿の裏側部分にぶつかっているが、彼から視るとそれは友希那が自分の竿を嗅いでいるようにも思える。すると目と目が合い彼は鈴口を吸われる。唇は亀頭の輪郭に対して実に忠実で、そのまま彼はまたねちっこく包み込まれる。ここでもまた友希那の口元が彼の方向に伸びて被さるような体勢で、咥えたまま停止する姫の視線は彼に触れていた。徹底した捜査の瞳は彼を射るものであり、友希那は口を離した後に竿そのものを貴重そうに右手で支えた。そちらの方向に手折るような調子で、すると彼の根本の何か複雑そうな肌の部分が明らかに成る。友希那はそに顔を沈み落とし、牡丹色を突き出して割り込んでいった。
彼は自分の凝縮されて熟れている部分が本格的にほぐされていく心地に別の甘い声を漏らした。友希那は一瞬だけそちらの方向を確認した後に根本の深い位置に唇を押し付けて動いた。それは席巻だった。友希那はまるで自分の顔面で彼の竿から何かを拭い取るように唇をこすり付けた。
友希那は後に息切れのため一度上がり、透明な糸をそのままに息を整え彼にまた沈んだ。
数度の接吻をやってからまた竿を手折り、奥まった位置に頭をはめ込んで表面を舐めた。居心地が良さそうだった。彼は吸い取られてゆく心地の中で友希那に喘いだ。
友希那は舐めてしゃぶっていればそれでいいのだろう、という投げやりで浅い態度ではなかった。彼を認めて彼を追い詰めている。コツや弱点を網羅し彼を責めている。女々しい吐息と時おり聞こえる甘い声のみが彼女がまだ人間であることの証拠で、今の友希那は彼という男の専属に落ち着いている。
堅実に彼を追い込む様相とはなんとも湊友希那らしい勢いであり、最高の女であり、その友希那を独り占めしている彼とは最も恵まれた男だった。
この早朝という時間から男に必死にかしずく姫を持ってみると、彼は流石に王様の気分に触れる。都合が良いとはこのことであり、彼はいちいち背徳な領域に至る。
友希那という女性は落ち着きに満ちた女性だった。それは日々の所作や言葉遣いから匂う美しさだったが、その一方で友希那は冷静に己の艶をみせつける瞬間もある。
今はまさにそれだった。雄を貪るその姿とは、普段の何かおとなしい淑女じみた態度からはあまり想像がつかないものだった。
たとえばこの状況が自分ではない他人で構成されているとしたら、彼はこの世の理すら憎む。
その必要が少しもない理由とは、この世界にもう誰も居ないから。
この状況だからこそ、自分は友希那という美徳を味わうことができている。
この状況になって彼は感謝している。
それは彼の本心の中に一滴だけ存在している思考だった。だが無論、それを友希那に向かって説くことはなかった。それはありえなかった。友希那をさらなる悲観に落とす自分とは自分ではなかった。それをやっている自分とは間違いなく虚偽の自分だった。
自分はこの優れた友希那という女性と互いを認め、従い、従わせるだけだった。
友希那に交際経験はない。本人の性格を考慮すると嘘をついているわけでもない。そういう友希那にこういった卑猥な知見を与える行為とはつまりひとつの禁忌だった。澄んだ水面に墨汁を一滴垂らすようなもので、その友希那はデキのいい女子生徒のように身体の使い方を知り、覚え、彼にのみ実践してくれる。
友希那を構成する女の部分に自分という男の手ほどきが入り混じる。
その実感は彼の中の男としての威厳を高ぶらせるばかりなのだが、一方で変化していく友希那に対してひとつ思わないわけではなかった。それは友希那が友希那ではなくなるような感覚であり、いいやそのテの知識を教えたのは他でもない自分だが、こういう友希那を肯定してもよいものなのか、というふうに揺らぐ瞬間も稀にある。
友希那はいうまでもなく歌姫だった。故に舌や喉、口腔という器官とは最大にして唯一の武器であり、男のシモをそこのみで対応させるというものは、たとえ口淫が何の負傷も発生しない行為だったとしても、姫の中の尊厳を破壊することに成る。
まさに彼女の神域を亀頭で圧し潰す心地だった。そして彼は男として至極正直なもので、自分の癖を汲み取り丁寧に再現してくれるこの友希那を前に、罪悪ではなく喜悦が勝る。
今、友希那は栄えている彼を頬張り、艶やかな視線を送り、ほぼ無言で奉仕のみを続けている。
彼は脳裡でこの今の友希那と過去の友希那を比較し、その思考そのものがさらなる倒錯として芽吹くことを体験する。かつてのあの無垢な友希那は脳裡で崩れ去り、やがて彼は自分の中で友希那により深い味わいを感じる。
ああ、この友希那は、自分を悦ばせるために我が身を削るほどの全力を尽くしているのではないか。
などという妄想にまで発展してしまう。
「――それは正しいと思うわ」
竿から口を離した友希那は右手で竿を揉みつつ彼の煩悩を肯定した。つらつらと語っていた彼は友希那に向かって腰を浮かせるが、その動きさえ友希那の右手に強く根本から阻止された。
友希那の唇には陰茎の熱が乗ったままだった。引いて繋がる唾液も多大で、だが友希那は平時と変わらない態度で彼に説いた。
「あなた、もしかして忘れているの?」
友希那は冷静に彼を覗いているが何か我慢ができないような態度ですぐに股間に戻っていった。口を尖らせて陰茎の裏側の筋に口づけをした。友希那は竿から離れぬまま唾液を啜った。やがて根本の位置に口で到着した。
竿の背後に友希那の顔が聳えるかたちで、鼻息が付け根や睾丸に当たっていた。
「私はあなたを愛している。好きな人を気持ちよくしたいだなんて、当然のことでしょう?」
友希那の語気はやはり真面目だった。けれどその顔面はまるで呆けたように伸びきった色に染まっている。陰茎は友希那の唾液とカウパー汁で熟れて満たされている。友希那の右手の五指も同様で、彼の根本にて引き締まる。
「そろそろ、入れるべきかしら」
「待って」彼は男体を置いたまま自分の胴体を起こそうとする友希那の顎を声で引き留めた。「このまま出したい……」
「けれど、大きくしたら、入れるものなのでしょう?」
友希那は浮かしかけた腰を留めて彼を仰いでいる。右手は竿に添えられたまま蠢いている。
その動きは彼の硬さと乙女の柔らかさを比較し、何か兼ね合いのようなものを見出そうとしている動きだった。
「あなたから貰ったビデオは、どれもそういうふうにやっていたと思うのだけれど……」
「でも、このまま出したい」
彼はなぜか自分の失態を打ち明ける男子中学生のような情緒で低く唸った。
「わかったわ」
友希那は彼の引けめのある意識さえ包囲するようにまた四つん這いに戻った。両腕が彼の腰に上がり、顔で彼を捕えた。
彼女の眼前の禍々しい肉棒は蠕動し、雌の柔らかさを待ち望む。友希那は腰の左右を握って舌の表面で対応してゆく。亀頭をまとめて舐り、筋を覆い、首の部分にも己の熱気を与えてゆく。唾液は常に多大に散らし、それらは睾丸にさえしたたって、まるで彼が漏らしているように映る。
彼は己の竿の全ての箇所に友希那が練り込まれていることを体験していた。それは一種の束縛だった。彼も友希那も同時に絡め取る強烈な束縛だった。
期待に富んだ眼差しを向けていると友希那の頭部は唐突に浮き上がった。それはまた口先が亀頭につくというものではなく、友希那は上体そのものを起こして正座した。彼の敷地の中に収まったままで、その右手にはリップクリームがいつの間にか握られていた。
一体、どこから取り出したのか、それともまさか、目覚めてから今まで隠し持っていたのか。
彼が真相を知ることはなかった。友希那が回答を与えることもまたなかった。彼女は慣れた手つきでそれの蓋を開け、自分の唇に施すだけだった。
男である彼の中にはリップクリームというものについての正確な知識が皆無だった。
なぜそれをつけるのか、つけるとどういう効果があるのか、全ての疑問への回答はぼやけており、どうにも浮ついていた。だがわかることもそれなりにあった。それは友希那についてだった。このテの化粧道具を使用した友希那とは、女性としてひとつの究極形態へ至るのだった。それは見ための印象のことではあるが、彼はその中に視えない精神的な勇ましさを嗅ぐ瞬間もあった。
化粧とは女性にとっての武装である。
そういう思想をどこかで読んだことがある。あれとはすなわち簡潔な真実なのかもしれない。いい香りのする液体やクリームを使用した女性とは男からするとまったく不思議で惹かれる自信に満ちている。覚悟のようなものさえ感じる。彼は化粧を完成させた友希那に喜んでひれ伏したい衝動に襲われている。
さらに彼は知っていた。
友希那とは化粧をした後の姿も素晴らしいのだが、それとは別に、化粧をしている所作や雰囲気なども負けないほど尊いものだった。
彼の妄想をだが知らない友希那は平気な顔でリップクリームの蓋を置き下部に触れて回転させている。連動して上部の内側からクリーム本体がせり上がり、適当な位置まで伸ばした友希那は塗る前にまず髪が邪魔にならないように素手で退かし、無表情で彼を一瞬みつめてリップクリームを口元に触れさせた。
唇を塗る友希那の顔の雰囲気とは口淫の雰囲気に少しだけ似ていた。口元というか顎の部分を軽く突き出し停止して、クリームを持った左手のみが細かく動く。動作に使用している手は左手のみだったが、もう片方の右手は何をしているのかというと、仰向けのまま友希那を眺める彼の股間についていた。
友希那はまだまだ滾る竿の相手を中断していない。それは流石に片手間の心地だったが、この雑な態度というか、軽い愛撫の対応も彼からするとまた別の味だった。指は股間の中のツボのようなものを押えて効いてくる。
その後、塗布を終えた友希那はクリーム部分を戻し、蓋をしたものをまるで生まれたての仔猫をそうするようにベッドに置いた。そして彼に控えめに目を戻し、それから唇部分をきゅっと絞った。それはリップクリームの塗布における最後の動きで、友希那は上下の肉厚を中心で潰してこね合わせるように揉む。すると塗ったものが溶け、唇の表面によく馴染む。次に友希那は唇を突き放すように開閉した。窓から入る自然光を反射させるほどの光沢を得た肉厚は震え、柔らかい音だけが彼を挑発するように場に残った。
彼は友希那の唇をみつめていた。
色の変化こそあまり見受けられないが、単純に水分量が増えたような質感がある。艶が強烈に成り、とにかく潤いに満ちている。塗る前と比較してみると、今の肉厚はなんだか可愛く妖しく膨れている。
その肉厚は彼のほうを向きながら開閉の動作を数回披露した。彼はそれをひとつの合図だと解釈する。つまり今からこの唇を使うという宣言で、友希那は彼のその思考を助長するようにひときわ大きい肉の震える音を打つ。すぐに頭が下って彼は光沢と逢う。
女性という捕食者が男の竿に狙いを定めているのか、あるいは男性の魅力的な香ばしい態度が、女という獲物を吊り上げているのか。
彼にはもうわからなかった。少なくとも目の前、友希那は捕食をするつもりのようだった。姫は無言で待ちかねている肉棒の相手に成っている。たったひとつの貴重な唇は彼へ接吻する。
口づけとは愛する者から与えられる最も健全な愛情表現だった。
だが、それを受け取る男が口ではなく股間で対応してしまうと、途端にそれらは何か健全とはほど遠い淫らな禁忌に転身してしまう。
彼は今、同じ唇という箇所で臨むべき接吻に陰茎のさらに先端部分で触れている。
純真な恋愛模様によくある美徳そのものを真っ向から貶し、馬鹿にしている節さえある。だがそういった罪悪の感情ほど快感を高めるよい酸味であり、受け取る彼は妖しくにやけている。友希那の肉厚はその彼の中に装飾した唇の質感をしっかりと刻印した後に外れてまた付着する。彼の表面を押し、内部にさえ唇のシワをもたらす勢いで友希那の接吻は続く。
柔らかい一点が連続であちこち飛び散る動きとは、肌で感じるもの以上にまず精神的な幸福が強かった。
友希那は彼の表面を唇で連続で突くように細かく動いた。愛の誓いを卑猥な象徴部分に集中させることとはやはり何よりも背徳を誘う行為だった。まんべんなく竿に唇を落とした友希那はすかさず根本に舌を突き出し、顔そのものを動かして舐め上げた。接吻で置き去りにした唾液を回収するような挙動だった。彼は呼応するかたちで腰をより強く張る。
だが友希那はそれさえ予測しているらしく、彼がどこか別の場所に転がり落ちないように竿の根本を独り占めして最後の一撃を彼に与える。
それは唇と陰茎を連結させるという通常の接吻の雰囲気ではなく、顔そのもので竿に突撃し、唇で竿を退かしてしまおうという勢いだった。そして彼に寄る友希那はそのまま口のみを突き出して停止し離れない。竿から彼を吸引するような唾液の音が少し響き、その後友希那はまるで頬ずりをするように顔そのものを小刻みに振るわせた。潰れる肉厚は彼に対して常に自慢の潤いを披露し、少し過ごした後に彼の尿道を辿るように下っていった。唇を彼の上で引きずる調子だった。つまりこの歌姫はせっかく自分で塗ったものを全て陰茎に移したいようだった。
竿の全域に薄く延ばされた新しい潤いとは唾液やカウパー汁と異なるものだった。
つまり人間の中の極めて野生的なものではなく、人工的な清潔な光沢だった。そこにはさらに女性特有の甘い風味も漂っている。
彼は友希那が唇を彩っている最中に化粧とは武装であるというものを脳裡で説いていたが、今まさにその真骨頂を目の当たりにしている。
身なりを整えた女性とは何よりも強いものだった。それは女性の自己の中で完結する自信や誇大妄想の類ではなく、周囲の他を圧倒する力に女性は化粧で目覚めるものだった。
今、友希那の唇は他にはない特殊な甘い潤みに包まれている。そして他の部位に関しても、唇から連鎖してゆくように雰囲気そのものがより引き締まる。
そういった姿の中に男性への奉仕意欲が混ざってしまうと、武装した化粧は装甲ではなく武器に成る。彼は友希那が颯爽と施した自分へのマーキングが卑猥に思えて仕方がない。そして特別に潤む彼女は止まらない。姫は今も陰茎の表面で連続で弾けている。焦げたような肌の上にて唇は素早く潰れ、歪み、友希那は軽く吸っている。唾液が巡るような音が響いている。唇が在った位置には何やら薄っすら形が残る。友希那は大して気にせず、次は何か、忘れ物を思い出したような調子で鈴口に接吻を落とす。
その友希那の誠実はついに彼の重厚な睾丸の部分にまで至る。
友希那は竿を右手で握り込みまた手折るように退ける。そこには竿を倒して固定するような気概があり、彼の根本の部分、付け根の位置は友希那に向かって引き伸ばされている。今までも何度か遭ったかたちだが、彼はその度に何か自分のさらに奥まった恥ずかしい部分が開けられたような感覚を得ていた。友希那は止まらず、何も喋らず、彼の付け根ではなくそのさらに下部の垂れている睾丸を舌で掬って洗いはじめた。
睾丸は竿の部分よりも汚いような気がする。
それは事実ではなく、ひとつの印象、イメージというものだった。
つまりなんとなく、ぼんやりそう思っているだけだった。男の睾丸は股間や他の部位よりもよっぽど不潔な気がする。なんだかくさい気がする。男性独特の垢にまみれてより香ばしく詰まっているような気がする。
男として生きる彼でさえそういう印象を持つのだから、異性がどう感じているのかについての妄想は困難ではなかった。
そういう部分に友希那は難なく舌を這わせていた。
においも垢も、ためらいなしだった。友希那は変わらない従事の態度で、男の中の最も汚らしいその中へ至る。瞳の色や頬の熱気に変化はない。いつもの凛とした色だった。自分の全てが正しく、自分の全てが尊いものだとまず自分で信じているあの表情のままだった。その美顔は半分ほどが彼のたるんだ睾丸袋の下の位置に潜っており、舌が伸びて蠢いている。睾丸にまだ残る汚れをすかさず捕食する執拗な態度で唾液をまき散らしている。口周りや首元さえ湿らせるのだが、姫はそれでも男体の太腿の内側を握り、彼の恥と尊厳を同時に刺激した。
それをすることが友希那の中では当たり前であるようだった。
そしてそれというものはつまり究極の愛のかたちだった。
彼の汚い部分は友希那に肯定されているが、同時に汚さは正しい方向、つまり清潔感のために友希那から指導されている。
相手をただ許すだけではなく、そこからさらに飛躍し、教育のところにまで友希那は到達している。そこまでいくともはやただの愛ではなく庇護のようなものであり、快感とはその中にも当然存在している。
友希那は彼の股間の中に入ってゆく。睾丸の袋そのものを頬張り、彼を直接吸い出すような動作で頬をへこませ大きく啜った。固定した竿も軽く撫でており、時おり鈴口や筋部分を親指でさすった。
友希那は作詞作曲のように徹底した仕事ぶりで彼の精液の製造も手伝っていた。彼は腰というより体躯そのものを支配されている感覚にあった。たとえばこのまま身体を後方に引きずって逃げようとしてもこの女豹は股間にひっついたまま付いてくるだろうと思った。
自分のシモが女々しい潤いで保護される中、彼は友希那の頭部を眺めて欲張りに想う。
このまま友希那の中に自分の男性的な色をとことん差し込みたい。
それは目覚めてから彼の中で練られている白濁とは別の精神的なことであり、つまりはこの友希那をもっと卑猥な方向に染め上げたい。友希那を自分専用の女性にしたい。
友希那が女性として新しい境地に到達する姿を一番近くで視ていたい。この歌姫がどのように成長するのかをみつめたい。
そしてその姫君から与えられる快楽を彼は独占したい。彼女と共有し、できることならこのままずうっと、友希那と共に過ごしたい。
ほほ笑んでいると友希那の顔が上がってくる。目と目が合うが、特に何か会話があるわけではなく、友希那は彼をみつめた後にまた戻る。
だが行きつく先とは睾丸ではなかった。友希那は己の両手の内部に深く入れ込むように彼を握った。彼はその友希那から歌姫の体勢を視た。つまり今の陰茎とはマイクだった。友希那は今歌唱の直前でマイクを握っている。
奉仕を受ける彼がそのように錯覚するほどの真剣な意志を友希那は目元に宿していた。
友希那は何か整えるように一度だけ大きく嚥下をし、それから口を突き出して彼の弾頭に息を吹きかけた。彼は敏感に腰を震わせる。友希那の焦点は上向き、彼は己の中の緩みを視認されている。
友希那の態度は変わらずだが、素手、というより腕そのものが彼の真上で展開される。左右の五指は彼の腰を握り、そこから続く腕そのものが立ち上がる。肘関節が角張りながら外側へ突き出し、肩や鎖骨の細い肌色は膜のように張る。彼は友希那の口腔内部の空気を亀頭で体験する。
それは奉仕の前の準備のようにも、飢餓感に苛まれる肉食動物の吐息のようにも思えた。
いいやそれは一種の合図だった。
次の瞬間、友希那の上半身が彼に向かって伏せをする。骨格が皮膚ごと歪み彼に向かう。顔面のほぼ全域が彼の陰毛の生え際に埋まるかたちで留まっている。
彼のものを丸呑みにしたというよりは、彼の股間に顔面を突き出して捕まえている。彼のために拓いた喉は肉棒を簡単に抱擁し、全ての硬さや熱を許容する友希那は雄臭い草原の中、鼻息をフスフスと漏らして口腔内部をさらに馴染ませる。
苦しくはないらしく、というより慣れているらしい様相だった。
大きく澄んでいた友希那の瞳は今やただ薄っすら浮かぶだけであり、その全ては彼にのみ向けられている。彼は友希那がすでに精神的にとても柔らかいことをそういう部分からも察知する。己の竿はその友希那に閉じ込められている。友希那の頬は強くへこんだ様相で、喉は引き絞まっている。彼は友希那の口腔内部における自分の位置を完全に固定されている。彼はもうこの友希那という孔が自分にとっての名器だと思わざるを得ない。
「んふうぁほ」
友希那はそれから何やらもごもごと呻った後についに起動した。
それは豹変だった。
友希那は先ほどまでの男を窺う挙動を投げ捨てていた。前かがみのような体勢で彼の腰に君臨し、その彼のことさえ振りはらうように男をしゃぶって責めていた。それは徹底的で厳しいものだった。敵意だけが皆無だった。頭を振り、舌や喉で竿をしごきながら視線は常に彼に向いている。その上目遣いは淡々としており、彼は別に逃げているわけではないのに友希那から追いかけられているような心地に成る。野心にとことん燃える友希那は彼の射精を催促していた。
彼は友希那の気概に押されるように身体を脱力する。だが股間はその友希那が預かっており、左右の素手は彼の腰を押し込むように固定し離さない。肘が吊り上がり、頭のみが奥深い前後の運動を繰り広げる。
竿の表面で触れ合うものとは友希那の粘膜だけだった。激しく動くと左右の肩に乗る長髪がいよいよ垂れて落ちてゆく。
長い髪は友希那を中心にあちこちに散らかっている。それは何か溶け出している様子で、美しい毛先はシーツの色をさすりながらやがて自由に雑に決着する。
まるで彼を各方面から追い込んでいる雰囲気だったが友希那は構わず顔を動かし男を責める。彼は下半身を浮かせたり横に倒そうと震えてしまう。
すると次に友希那が少し離れた。唾液まみれの口が久々に人間らしく彼に向くがそこは唾液の光沢で満ちていた。
「あまり動かないで」
たったそれだけを言い終えた歌姫は再び獣に戻っていく。股の中で頭頂部が細かく動き、シーツへ流れている薄紫たちは軟体のようにその場をさする。
「舐めづらいわ……」
友希那は変わらず逆立つ彼を喉の奥で抱えていた。接合された唇から唾液の太い雫がいくつも落ちていた。それは彼が寝小便をこしらえたような状況で、姫君の顔はたおやかだった。時おり亀頭部分に留まり、彼を仰いで唾液を巻き取るように吸った。その間に竿を担当するのは指であり、撫でつける運動とは高速だった。
受け身の彼は快感の中で自身の意識の余白がどんどん消えていくことを視ていた。
思考が射精で満ちていた。それは脳ではなく股間で発生する新しい心地だった。股間の中心から何か、盛り上がるというか、外に向かっているような、けれど股間の部分に熱く凝縮されている心地がある。それは滾りで、今の彼に他の概念を思考することは不可能に近かった。罪悪や倒錯というものはもはやなかった。この友希那から強要されて急かされているような気分さえあった。彼はただ漏らしたいだけだった。今はこの友希那という女性の口に漏らしたい。
そういった彼の欲求を友希那は竿の体調から把握する。友希那は喉を伸ばして彼を丸呑みにし、そこからは唇で根本の皮膚を突っつくように至極細かい運動をする。
一切の奉仕は友希那の喉のみで完結するようになる。彼は友希那の小さな頭部を己の中に埋め込んでいるような調子を得る。
友希那が狙うものとは彼という男の中で練られた粘つく胆力だけであり、口の奉仕に集中する合間で視線を上げることも忘れていない。彼女はただ棒を咥えているのではなく彼の反応を視ている。そのうえで今まで鍛錬を続けた自家製の喉で彼の貪り味わっている。
それはもはや慎ましい女性という感情ではなかった。一匹の雌そのものだった。それも野生にある雌ではなく彼という男にのみ湿り気を許す特別な雌だった。そしてそういった雌の猛撃に耐えうる術を男は持ち合わせていなかった。
彼は愛する姫君に献上するように白濁を喉奥で打ち上げた。すると友希那はここぞとばかりに彼の腰そのものを抱き締めた。亀頭が喉の最奥にせり出し、彼は友希那の身体の内部に己を直接排泄した。その性的な降参は完璧な純度で歌姫に包まれており、彼がどれだけ漏らそうと態度は変わらず瞳は彼の中に居る。
友希那は鼻先さえ彼の中にめり込ませている。その彼の汚らしい生物的な羞恥が飛び出してくることを完全に許している。彼を受け取ることに徹しており、尿道の起伏に合わせて喉が動いて男を飲み干す。それはまるで彼の精液が自分にとっての唯一の食糧であるような態度で、歌唱力由来の強烈な肺活は彼のさらなる射精を補助する。鼻息の濃度もさらに上がり、彼は深く抱き締められて逃げられない。
彼は、人間性よりも深い己が友希那に暖かく保証されていることを実感していた。それは温かい肯定だった。男女の間にはただ粘ついたやり取りがあるだけだった。外気はなく、尿道から完全に二人きりだった。女の中で彼は安心し、そうして漏らすだけだった。
性器の中の、己の意識が届かない己だけの部分にまで友希那が行き渡り、何か掬い取られて掃除させられている。制御はできず、隠し事は不可能だった。
やがてひと通りの盛りが終結し、彼は呼吸を取り戻す。だが友希那は股間に引っ付いたままで、彼女はそこから数秒ほど彼の裏側を揉む。目と目で惹き合うだけの空気が数十秒過ぎ、その後に友希那は唇を彼の根本に置いたまま顔を離してゆく。
終わった後の男とは至極敏感なもので、友希那もそれについては熟知している。むしろ
彼の相手をする唯一の女性であるが故、そういう彼の調子については彼よりも理解に富んでいるのかもしれない。
友希那は瀕死の彼の竿を唾液で守りながら顔を上げ、亀頭の位置で止まってまた彼を吸う。みずみずしい口先が亀頭のさらに先の鈴口にのしかかり、彼はまた友希那へ大量の恥を打ち明けることになる。
「あう、友希那っ……」
「んふ」
友希那はすかさず腰を握り直し、何か逃げようとする亀頭の上に己の武器を忍ばせる。それは舌で、蠕動する肉厚は彼の下側を這いずり、腰がへこんだところで唇で大きく吸う。彼は成す術なしだった。亀頭で友希那と繋がったまま残尿のような白色をその友希那に漏らすだけだった。
友希那は驚かず、彼をみつめたまま彼を吸う。この友希那は彼の中にまだ精が隠れているものだと確信している様子だった。彼は精液ではなく自分の筋力や息の根が抜かれている快感だった。
それから彼は似たような調子で痴態を二度ほど友希那へ明け渡した。最後はただ彼女が亀頭を舌で磨くだけに成り、それで薄いものを彼が打った後、彼の竿は接吻の瞬間のような湿った音を受けながら先端を下向きにくたびれさせる。
友希那の口はつい先ほどの暴挙をすっかり忘れておとなしく閉じられている。何か名残惜しい雰囲気にあり、その口と亀頭の間で、なだらかな唾液の糸が引いている。
だが間もなく友希那はその口を開いて上向きに彼に表示する。
舌の上に在るのは彼の精液だった。友希那が彼の亀頭につき、そこで引っこ抜いた全ての白濁は今まさに友希那の新鮮な赤色の上に溜まっていた。
成果物を彼にみせつける友希那とは姫だった。満足げというか、ひとつの仕事を終えた後のような爽快な消耗に見舞われた友希那の額や頬には毛髪が貼り付き、それでも彼の目は大きく開いた舌に夢中だった。
彼が覗き込んでいると小さな口の小さな舌はその場で動きはじめた。それはまだ何か舐めているような動作で、友希那の舌は肉とは思えないなめらかな波立つ動きで表面の白色を薄く廻した。彼の精液はやがて友希那の口腔全域に行き渡り、その特別なぬめりは歯列さえ覆って輪郭を浮き立たせた。
その様相を目撃している彼が密かににやけたことこそが次の新しい合図だった。友希那は口を閉じ、内部の精液を熱することを開始する。だがそれはただ大切に温めるものではなかった。友希那の口腔は奥のほうからぬちぬちと音を奏ではじめた。
彼は妄想していた。彼は妄想させられていた。友希那の少しだけ膨らんだこの頬が揺れ、その動きに添うように鳴る粒のようなこのざらついた音だけで十分だった。彼は彼女が口腔内にて搾りたての精液を噛み潰すように廻していることを友希那そのものに妄想させられていた。
粘っこいものが友希那の唾液と舌と肉壁に容赦なく絡みつく。友希那はそれを苦とせずむしろ受け入れ舐めている。やはりそれが自分という女にとっての当たり前か、あるいはもうそれしか知らないという整然とした態度だった。歌姫は己の商売道具の全てを男に使用する。
すると彼の妄想の中に新しい色が浮く。それは友希那の口腔内部に在る精液の臭いが友希那の肺に到達し、雄の風味が歌姫の歩みに混ざっていくというものだった。
真剣そのものに居る友希那の瞳はいくつかのまばたき以外で変動がない。完全な鉄面皮に戻っている。だが口元の音はさらなる過激に向かってゆく。
音は粒の質感が細かく成り、飛沫として改めて彼女の口腔内部を廻る。つまり友希那は精液を咀嚼するのではなく精液に自分の唾液を混ぜている。友希那の中に最初から備わり、いつでもしとどに潤いをもたらす友希那だけの唾液は今は彼の種汁と口腔内部で混ざり合い、泡が立つほどの高速でかき混ぜられている。精液と唾液が混ざったその液体は一か所ではなく口腔内部を観光のように移動し塗り付けてゆく。歪んだ頬の肉壁と鮮やかな舌は口腔の全域に精液の風味と感触を与えて巡る。
その席巻というものがひと通り終了すると、彼女は唐突に躾が入った後のように綺麗に停止する。そして喉の部分の肌が上下する。ひどく硬いものを必死に喉で越した後、友希那はその反動のように肩を垂らして開口する。
垂れ幕のように広げられた友希那の舌にはもう何も乗っておらず、ただの赤い長い卑猥だった。
男の体液、ことさら精液といえば汚いものだった。他の生物とは一線を画す不潔であり、嫌な意味で特異な雰囲気を含んでいるものだった。
そういう感覚を意識しているのは他でもない男である彼だった。そして彼はそれとは別に友希那とはなんだか潔癖そうだなと思っていた。
いや、実際に彼女の口からそういう発言を受けたわけではなかった。つまりこの感覚も妄想の類ではあるが、それでもなんだかなんとなく、湊友希那は清潔感において徹底した意識を持って生きているような気がする。
潔癖そうな、あの友希那は、しかし他でもない自分の精液を難なく飲み干した。
それは彼にとって不思議であり、同時に高揚を伴う忠誠の証だった。
その友希那はすっかりいつもの調子だった。正座のように足をたたんで、虚脱の彼を見下ろしていた。
「……気持ち良かったかしら」
「ああ、もちろん」彼は友希那の腰から頭頂部まで空間の中にのみ焦点を置いて呟いた。「ありがとね」
「これくらい当然のことよ」
姫は唇に付着した残りの精液を指で拭ってさりげなく舐めつつ、鋭い口ぶりを彼に差し込む。
「ねぇ、美味しかった?」
だからこそ彼は聞かずにいられなかった。
友希那は答えなかった。
だが彼女はそれの代わりのようにもう一度上体を倒し彼の股間へ接近する。右の人差し指で竿を掬い取るその動作は開花の直前に枯れてしまったものを診る姫君によく似ている。友希那はそれから彼を窺うように素手の中に彼を入れて親指で揉んだ。
射精後の彼が受け取る刺激は多大だった。それはただの快感だけではなかった。彼は巨大な友希那に自分の身体そのものをいじくりまわされているような心地にあった。
何がそれほど気になるのか、無邪気な指遣いの姫はそれから溶けているように垂れ下がる彼の皮の部分をまた完璧に剥き、じっと眺めた後、股間の下の位置に指を流す。そこは睾丸で、姫は竿にしたことと同じように袋そのものに触れる。
「友希那……」
友希那は彼の言葉を回避するように上体をさらに低くする。背筋を反り、尻を頭部より印象強く示すと首が落ちてゆく。唇の隙間から吹く息が、むき出しの亀頭に触れて彼は震えた。友希那はそれを安心させるように唇でもう一度彼へ重なった。
また新しい糸を引き、再び彼を仰ぐ友希那は、それでも何も答えなかった。
口の余韻を味わうこともほどほどに、彼は友希那と共に風呂場へ向かった。
シャワーを浴びたいと申し出たのは友希那だったが、ならば二人で湯に浸かろうと提案したのは彼だった。
「ねぇ、今日もするの……?」
友希那は風呂の椅子を睨んで眉の部分を絞っていた。
「するって、何を?」
彼はその友希那に向かってにやけ顔を向けてみる。
「だから、その」薄い瞼が伏せのように控えめに成った。「洗いっこ……」
「いや、今日はしない」
聞きたいものを聞いた彼は得意げに応えた後に湯に足先から入って肩を沈ませた。体躯はすぐに友希那のほうを向き、彼は湯舟のふちから全裸の姫を見上げてまたほほ笑ましく溶ける。
「今日はこっちから、君が身体を洗うところを観察する」
「……変態ね」
しかし友希那のその語気に、彼の趣味をなじる色は浮いていなかった。
煩悩に生きる彼だったが、ならば友希那の裸体においても女性的な部分にしか注目しないのかといわれるとそれは大きな間違いだった。声すら反響するこのふやけた空間の中、彼の目は友希那の姿勢に執着しているところだった。
小柄で細身というものはつまり未成熟というわけではなく、そういう魅力として一度成熟しきっているということだった。洗練された雰囲気には魅力が宿り、彼はその神秘に釘付けに成る。
さらに彼はその肉体から肉欲以外のものを嗅ぐ。つまり彼女の身体というものはまさに真に友希那の性格を示している。
友希那は背筋を立てて椅子に座り、左右の肩を張っている。彼はその背の方向に居るのだが、友希那は気にせず自分の身体を洗っている。泡を全身に巡らせているのだが、そのおおよその体勢は崩れずに在り続けている。
何かに耐え忍んでいるような、けれど必要以上の力みというものも特にないような、そういう清楚な落ち着きだった。しかしその背とは完全な直線の面ではなかった。肌色とは背骨や肩甲骨の形に従って輪郭を造っている。友希那の身体の奥にはしっかりと骨格がある。胸部のすぐ下のあばら骨や鎖骨、骨盤部分にはその影が色濃く映り、体勢の変化によって連動するように形が肌の下からくっきりと出現する。それはつまりただ骨格が浮き出ているだけなのだが、男は愛する女性のそれに対し妙な色香を意識する。女体における何か視てはいけない部分と直面した気持ちであり、本人にばれないうちに視線を逸らす。
だがその男が次に視認する部分とは友希那の下半身だった。
彼は友希那の裸体を己の雄の本能の目で巡り、下腹部やその周囲の造詣の中に香ばしい女性が映っていることを突き止めていた。
ほっそりとしたくびれがまず卑猥で彼は強く惹かれてしまう。輪郭は徐々に膨らみを描き、母性というものがはじまる。尻は多少の我が儘を実らせているのだがそれは肥えているのではなく熟しているということだった。独特な安心感さえ含まれているその尻肉は今は椅子の上にて潰れている。
一定の気品を保ったまま肌色は優しい太腿として合流し、そこから先は細い足を成す。
椅子に在る友希那の尻を眺める彼は、その尻の形が歪で不格好という印象をあまり受けなかった。むしろ少し圧されたことで柔肉の特徴がより強調されている。彼は後方でその確かな安産に頷くほどの満足を得ていた。
打ち込まれた雄を捕えて離さず馴染ませて、そこからきつく搾り取る。
友希那の下腹部とはそのための準備をひと通り完了している。太腿の関節を担う何か特別な筋のような左右の二本さえ十分に卑猥であり、膣も子宮も持たない彼はそこを目印に友希那の子宮やその内部に流れて満ちる己を想う。
そのように魅力に富んだ尻の近くで何やら全く別種の妖艶が窺える。
それは友希那の長い頭髪だった。整然と細かい薄い紫は、今は湿って肌に貼り付き収まっている。それは静まりにあるという様相で、日常のあの柔らかさとの対比に成っている。
普段の友希那の毛髪とは彼にとって何よりも優雅に映るものだった。
頭頂部から落ちる流れの中にはわだかまりが一切存在せず、少しの歩行やそれ以下の小さい動作にさえ敏感に反応し余波のように大きく揺れる。前面は眉にかかる程度で、背面は仙骨の位置を知らせるようにその部分まで伸びている。肩口から落下する数本にさえ美麗が宿り、彼の熱い視線を常に後方に従わせることに成功しているまさに魔性だった。
この毛髪とは自由だった。たとえ友希那が己を硬く引き締めて勇んでも、毛先だけは何か慌てて時おり少女に成ることもあるのだから、男としては追いかけたい。
また、髪の広がる様というものは水中を舞う海月のようにも思える。
だが、そういう比喩を口にしても友希那は笑わずに黙ってしまうだろう。
彼は己の中で苦笑した。
寡黙な彼女とはもちろん美しいものだった。彼はそれを友希那の中から発見する度に絵画に収めたくなる。
だが、彼が友希那に対して求める寡黙とは気まずさではなかった。
揺れる前髪から見え隠れする眉毛は意外と穏やかな様子で可愛らしい。今のように湿気に満ちている場だと前髪が貼り付きよく視える。ここ以外でそのような様相に成る瞬間はおそらく行為中だけだろう。
絶頂する寸前の友希那とは全身が汗で熟れており、身体を包むような長い毛はあちこちに貼り付くものだった。
まつ毛は長く、艷やかで、強さと同時に艶美な雰囲気も嗅ぐことができる。
まどろみの中で想うとその友希那がすっと立ち上がった。彼があれだけ視線で舐め廻した肌色は白い泡にまみれている。
シャワーを掴んだ小さな姫はそれから裸体を洗いはじめる。幾千もの雫が音を立てながら友希那を下り、友希那は泡を脱ぎ捨てる。あらぬ方向から飛散する男の視線には臆していない様相で、むしろこの友希那は彼に己の肉体美をみせつけている。彼はまったく正直に視線で友希那を舐め続ける。
友希那の胴体の中、胸部の位置に特殊な大きな盛り上がりというものはほとんど認められない。
そこは正真正銘の平地であり、壁のような肌の起伏は美しいものだった。何よりも尊く、彼は明媚を意識する。頬ずりをしたくて我慢がならない。
ああ、もうこのまま強く友希那を抱きしめて、全身で友希那の熱を体感したい。
とにかく友希那と絡み合いたい。自分の身体の中に友希那を刻み、混入させ、いつでも身体の中で友希那の質量を意識することができるように成りたい。
友希那の女体は卑猥な技量を蓄え続けている。それは歌姫としての彼女に通ずる成長であり、肉体もまた立派に繊細に造られている。
そういった歩みとはたとえば化粧のように誰かから教えられるものではないし、あるいは見様見真似でやるものでもない。
女性という生き物は愛する男のその子供さえ抱えて守り、温める必要がある。
女体における成長とはいうならば女性の摂理だった。女体とは男と男の子供を抱えて温めるための準備を常に続けている。そして、その成長の一応の完成形にまさに最近到達した姫こそが友希那であり、彼は男として友希那の内部の奥の奥までを完璧に知り尽くしている。
友希那も女性であり、友希那も母親に成ることができる。
彼は女性という生き物の仕組みにさえ身勝手に卑猥を感じてしまう。友希那のそういう部分にこそ生物としての女を嗅ぎ、欲情し、ひとつの味、魔性として要求する。余計にわくわくしてしまう。
彼はまた頷くように思考を性に沈めて漂っていた。今、友希那は己の中の最たる女性らしさを余すことなく味わう男と共に浴室に入り、裸体を付き合わせ、精神的安堵に至り、身体を清めているということだった。
それは一見すると当たり前の摂生だった。つまり恋人同士の日常風景だった。友希那は日常に則っているだけだったが、彼はその中に一滴の汚れた気配を見出した。
つまり友希那は今、自分とのまぐわいのために裸体を洗っている。
愛する男の前では清潔で居たい。友希那の性格から考えるとそのケは強く、だからこそいつもより徹底的に、きっと以前の生活よりも細かく念入りに女体を洗っている。
全ては自分との行為のためだった。
自分に綺麗な身体を味わってほしいから。
彼はそのような淫らな思考を引きずっていた。そして視線を再度友希那に浸してみる。この友希那をさらに深く観察して享受してみると彼は途端に発火する。
彼女の存在そのものが、なんだか禁忌の猥褻の類に思えてくる。
友希那に向かう熱とは至極異質な熱だった。この湯舟や浴室にもうもうと漂うどの熱気とも別の特殊な生物的な熱気は彼を促進させた。
血流は股間へ集中し、彼は己をぎりぎりせき止めることができる具合にまで昇った。
いいやもちろん、無理やり事に及んで友希那を使い潰すことなどしない。
それはそもそも犯罪で、世界がどうなろうとそこは変わらない。
そのテの概念を抜きに考えたとしてもナシだった。彼はそういった思想に頷くことなど不可能だった。そんなものよりも彼は清らかに湿っていたかった。相手が持つ人間的な特徴を尊重し、相手の世界を楽しみつつ、その合間合間に自分の存在や重量や汚れを与える。すると相手も相応に己をさらけ出してくれる。彼はそれを丁寧に肯定し、また肯定され、さらなる濃厚な愛欲へ至る。
そういう嗜み方こそが至高だと思っていた。野蛮な雄の独占欲は極力潜めて、少し臭わせるぐらいが適切だと思っていた。
次に彼という変態の肴になるものとは姫君の生の足だった。
友希那の足はすらっとしている。極端な細さも肉厚な太さも発生しておらず、ただ本当に、性的という観点に絞って視てみると形の質がとことんよい。
曲線は柔軟な太腿を造り、それは一度膝の位置で集結したかと思われたが再出発をする。次に造るものとは脹脛で、何かもったいぶっているように肥えてみずみずしい。
この足を使用し、虐めてもらうこともまた別の趣きだろう、と彼は思った。
「入ってもいいかしら」
友希那の声が室内の中で久々に舞った。
彼は己の妄想をウェブページのように打ち消し、存在などしていない固唾を飲み干して頷いた。その目は友希那のみを仰いでいた。
彼に湿った目つきを落とす姫の髪はいつの間にか後頭部の一点にて団子と成っている。
彼は湯の中で身体を流していた。すると友希那の右足がまず上がり、つま先部分が水面に触れて湯を切り裂く。薄い胴体は湯の流れる音と共に彼の目の前に到着する。
彼がその後驚いた原因とは湯舟の中の友希那の動きに対してだった。
まず、彼は湯舟に背中を預ける体勢にある。それは長方形の湯舟の中で寝そべるような心地で、彼は肢体を伸ばし、何か一望しているような少し大きな態度にある。
友希那はそういった彼の内側に登場しているが、その白く小さい背は彼が湯舟に背を預けるように彼の胸板に任せていた。彼を背もたれのように使用する友希那は肩まで浸かって息を吐いた。
「ふぅ、いいお湯ね」
「ああ、僕がいれたから」
彼は自分の口元にやってきた友希那の右耳に吹き掛けた。
「……そうかもしれないわね」
冗談のつもりだったが友希那は案外平気な顔だった。彼はむしろ変に滑ったような心地に至った。
あれだけ視線で舐った友希那の肩は今や間近に浮かんでいる。いいやそれどころか、今まで窺えずのままだったうなじの部分や、毛髪の生え際、そして視線では味わえない熱気やそれに伴う風味がすかさず鼻孔を刺して誘ってくる。
彼は友希那に手を伸ばした。それは生まれてはじめて仔猫を抱くような調子で、彼女の輪郭にそれとなく添ってみる。潤んだ肌同士は湯の中ですぐに触れ合った。友希那が何か言い出すことはなかった。彼はそこに後ろめたさを感じた。買い物途中の母親のかごの中に勝手に菓子を入れておくような罪悪は彼を背面から覆い重たくした。友希那の顎先が唐突に跳ねた。
「不思議ね……」
友希那は彼に話しかけるのではなくただ独りで呟いている心地だったが彼は覗き込むように訊き返した。
「世界には人が居ないはずなのに、お湯も電気も、こうしていまだに使用できことが、なんだか不思議だと思って……」
なるほど確かに、と彼は首肯した。
「詳しくないけれど、発電設備が今も動いている、ということなのよね?」
友希那は首を廻して彼に訊ねた。
彼はこの世界で最も優れた横顔を肯定した。
友希那は部屋に戻ってゆくように前を向き、息を吐きながら肩幅をより彼へ沈ませた。
「私たち以外にもまだ人が居る、ということは、もう考えられないのね……」
友希那の声はこの湯けむりの中を自由に浮遊している。するとどこかの雫が一滴落ち、水面が音と共に揺らいだ。
「調べ尽くしたわけじゃ、ないけれど」
彼はそこから巡ってくる嫌な静寂を断つために補完した。
「ええ。そうよね……」
友希那は彼の腕の中で視線を下向きに震わせていた。彼は抱擁を続ける中で彼女のうなじの肌や唐突に移り変わる生え際の部分をみつめていた。
友希那が生存者の可能性に意識を向けることとは彼にとって少し意外なことだった。
何か、妙なこだわりを感じる。どうしても譲れないものがあり、生存者の可能性が少しでもあるのなら、そこに願いを賭して徹底的に探ろうと意気込んでいるように彼には視える。
いいや、この特殊な状況下でそれにこだわることとは至極普通であり、頓着がない彼のほうがむしろ異質なものだった。だがそういった異質は友希那にもあるのだと彼は思っていた。故に彼はこの友希那に驚きと疑問を得ているのだった。
彼は静かに鼻息を吹いた。友希那の後頭部周辺を観察していた。うなじも、丸まっている毛髪にも美麗が漂い大変よろしいものだった。湯の中で島のように浮く肩口は体躯に対して少し内側に反っていた。それらは片手で簡単に支配できてしまいそうなほど小さいものだった。
「ごめんなさい。せっかく二人で、入浴しているのに」
友希那のいつもの鋭い声が響いた。彼は自分の思考が覗かれている心地に成っていた。自分がこの真面目な雰囲気を無視して彼女の裸体や新鮮なシャンプーの風味に夢中に成っているということをすっかり見抜かれているような心地だった。何か誤魔化すように腹の部分を掌握している両手を引き締めた。鼻先に位置する彼女の団子の薄紫が右へ動き、やがて瞳の光が登場する。
「それで、私の身体のことは理解できたのかしら」
「ああ、もちろん」
彼は気取ったような調子で唇を突き出した。彼女の耳たぶを食む勢いで、だが友希那は去るように首を戻した。彼は友希那のうなじに唇を乗せて生え際部分を少し嗅いだ。
「次は、足でしてもらおうかな」
「……足を使うの?」
友希那は後ろから男に自由を奪われているが気にしていなかった。彼の発言のどこがどのように卑猥なのかについても知らない態度で真面目に訊き返した。
その声色は先ほどよりも明らかに軽いものだった。今までの空気感はすでに切り裂かれており、真新しい別の雰囲気の中で友希那は脱力している。
「手でしごくみたいに、足でこするんだ」
彼は友希那の左の肩口に顎を乗せて説明を囁いた。いざ口にしてみると脳裡にその光景が再現されてゆく。
女王然とした友希那は男の肌色を見下ろし、その中心の盛る部分に美脚を落とす。男はそれだけで喜悦に在るのだが、女王は足をこすって男を虐げる。慣れていないと口走りながらも足遣いは巧みなもので、男はほほ笑と共にすぐに果てる。友希那の美脚の全ての指の隅々までを白色に汚してぬめりに満たす。
「足、だなんて……」
「男はみんな、好きな人の足が好きなんだよ。僕は友希那の足が好き」
一連の光景を想像してみると、彼は途端に己の胸部や股間の部分がいかにも自分らしい熱気で盛り上がることを体験し、友希那への期待がまた高まった。
「そういう、ものなのね……」
新しい知識を必死に処理する友希那を前にすると、彼は次に特別なぬくもりへ至る。それは先ほどの足を使った嗜虐的な妄想からかけ離れたものであり、穏やかで倒錯している。
博識そうな友希那が他からの教養に素直に頷く姿というものには特別な味がする。
「こするだなんて、痛くなったり、しないのかしら」
「それは君の裁量次第かな。優しくしてくれる?」
「そうね……」
それから友希那のいつもの物事を流す唇が通る。次いで彼に重なる尻の部分が、柔らかい波のように男体のさらに奥へ向かう。彼は竿を捕捉され、そして友希那の横顔に表情を覗かれる。
「これほど硬いとなると、少し、難しいかもしれないわ」
それから彼は、自分がどのように身体を上げ、どのように友希那を抱きしめ、どのように浴槽を越えたのかを知らない。
意識のようなものを戻した時、彼は浴室内の一角に立っていた。目の前には友希那が立っており、彼は歌姫に壁に両手をつくことを命じた。友希那はそれを観る彼が何か不自然さを感じてしまうほどに従順だった。両手をついただけでなく、背を反らせて尻を突き出し、迫る彼に視線を送った。
「足でするのでしょう?」
「いや……」
彼は友希那への生殖本能を見過ごせる状況にすでに居なかった。視えない台に腹を置いているような体勢の友希那の後端で立ち、尻を握り、ああ、これは自分に差し出された肉厚なのだ、と確信を得て進む。
「ちょっと」
「友希那」
彼は強張る己を友希那に押し込むことで孔を探し当てた。先端はあっけなく彼女のふちに吸い付いて合わさり、それから彼は何か要領を得たように慎重に滑り込む。
「まって、落ち着いて……」
友希那は引きつった体躯でまるで逃げようと震えるが、臀部は彼の元に取り残されたまま、かき分けながら入ってくる男に抗うことなど不可能だった。
彼は友希那の背に上体を倒して腕を廻す。湯水ではなく汗でぬるついた二つは蛇のように胴体を固定し、彼は伸ばした顎で彼女の耳を追いかける。
「君が、魅力的だから……」
後ろから友希那を抱き締める彼は荒々しい呼吸をどうにか人間の言葉に成形して獲物を説き伏せようとする。
「褒めておけばいい、というものでも、ないでしょう……」
友希那は後方で半ば勝手にはじまる雄をなだめているが、胎内にて蠕動する彼そのものはそういった気丈をすぐに溶かす。
「落ち着いて……」
彼は友希那の腹や乳房を握って腰で姫を掘っている。一回の運動は過激ではないがそれは弱いということではなく強烈な運動を薄く引き伸ばしているような具合で、股間と尻が緩やかにぶつかっている。
友希那の下半身は次第に何か粗末な雰囲気に至る。突っ張っていた足は少しずつ外側へ開いて膝が軽く曲がり落ち、白い美しい尻がその位置と輪郭を主張するように彼へ突き出るかたちに成る。彼はその不格好な友希那に上から添うように腰を沈めて食んでいる。
「本気で、いいと思ってるよ」
彼は友希那に向かって母性をせがみ続けている。竿が奥の一点に食い込み、射止めるように集中すると友希那は両手を壁に残したまま頭のみを不安定に沈ませる。
「身体も、性格も、おかしいぐらい、いいからさ」
「……そうらしいわね」
友希那は自身の中の痴情を必死に噛み殺して彼を受け入れている。背に乗る髪が絹糸のようにほどけて宙に流れ、うなじは付き添うように柔らかく伸びている。
彼は友希那という女体に必死だった。犬の如く舌を垂らしてる。首を下向きにする友希那の、その真っ赤な耳たぶを食んでいる。頬に貼り付く毛髪ごと頬をさすり、腕の位置を直して駆け上がる。優雅な姫の尻に魅せられていた。故にその後部にしがみついて腰を動かしている。亀頭で内部を探り、その最も奥まった別の湿り気を捕えて圧す。すると姫の中に別の嬌声が浮き出る。彼は姫の柔らかい部分をさらに歪ませる。
友希那のひだは彼を懸命にしごいているが、彼女は極めて冷静な立ち位置で彼を飲み込もうとしている。彼はもちろんそういう友希那を糧とする。男性の欲望が友希那に打ち勝つことはなく、彼は尻に敷かれたまま次第に我慢を失くす。それは上昇の心地であり、ついに彼は溜め込んだものと共に友希那へ倒れ込む。
「ううっ……!」
圧倒的な快感は男の中から他の意識を吹き飛ばした。彼は弱く震える腰の位置に友希那の尻を詰め込んで果てていた。全ての動きはこの瞬間に報われる。彼はまるでのしかかる体勢であり、股間は勢い良く友希那へ漏らし続ける。
「まだ、でる……」
彼は大量の放出を友希那の奥で体験していた。その瞬間思考は消え、後はもう知らない。彼は友希那の母性に自分を塗り付けたいだけだった。友希那の母性に全身で浸りたいだけだった。故に性的に繰り上がり、彼は友希那でさらに盛るのだった。
「ゆきな、友希那……」
この友希那という極上の女体に己の種を受け入れてもらう。あわよくば孕んでほしい。それらは彼の中の身勝手な思想だった。だが友希那は女性として彼のそれを拒否するのではなく受け入れているようだった。
種子を任された友希那は彼を認めて惚れている。
友希那は下半身を後方に向けて張っている。子宮そのものを彼の鈴口に押し付け、自身に被さるこの獣の全ての動きを受け止める。彼はそれを知ってか知らずか友希那に向かってまた腰を使用する。彼女の小さい肩口に顎を当て、股間と尻とで接吻をする。温かい胎内に追加で己を残す。
互いの吐息は口元で混ざり合っていた。二人はそこから数分、繋がったままで居た。
行為に終着がついた後、彼と友希那は互いにもう一度シャワーで裸体を流し、また湯舟に入った。
「……朝から、するだなんて」
先ほどと同じ体勢だった。団子を直した友希那は肩まで浸かっていた。だが今度は静まった様相ではなく何か慌ただしい。水面を指で演奏し、独り言ちる調子にある。
ピアニストのような指先は唐突に沈み、友希那は自身の腹部をさすった。
「あなた、出しすぎよ」
友希那の声色は唐突に射精の瞬間のことを思い出したように急いた。頬の中には紅が浮いている。
彼はそのすぐ後ろで女体について想っていた。出してすぐの間だと、粘つきなどの質感が外からでもわかるものなのだろうか。
彼は水中に素手を泳がせて彼女の素手の甲を捕獲した。友希那の抵抗はなく、彼は姫と共に下腹部そのものを抱えてみた。
だが特に何もなかった。たとえば種子のあのうじゃうじゃとした蠢きが友希那の肌の向こうから細かく触れてくるというものもなかった。彼は姫の子宮を探ることを早々にやめて手の甲の素肌を楽しんだ。友希那の素肌はなんだか艶やかで、触り心地も嬉しいものだった。彼は胸から彼女へ前のめりに向かい耳元に口を突き上げた。
「最初、君が口でしてきた」
「……何のことを言っているのか、わからないわ」
友希那の切り替えは素早いものだった。まるで冷静だった。だがそれで彼の素手をはらい退けるようなことも、下腹部をさすることをやめることもなかった。
それを後ろから覗いていると、彼の脳裡もつい先ほどの行為を想起しはじめる。
今度の射精は少し長いものだった。それはまさしく種付けであり、ただの絶頂というよりは友希那に対する支配や独占のケが強いものだった。本格的に友希那の内部に己を埋め込む心地であり、友希那という女性を配偶している男は誰なのかという真相を、他でもない友希那の身体に打ち込む心地に成りきることができていた。
彼はふと想うことがあった。
この世界において、そういった自己顕示欲由来の行為に何か意味は宿るのだろうか。
冷静に考え込むと答えがでてこない。何か白けた不安定なものを感じ取る。だが彼はそれで嫌悪に至ることなど少しもなかった。そういうものはどうでもよいものだった。はただ友希那の子宮に直接己の種汁を注ぎ込む快感に酔っているだけで満足だった。
彼の中の極めて男性的なぎらついた思考を知らない友希那は彼に裸体を預けている。
するとその腹の部分から痺れによく似た音が鳴る。
「あがったら、食べようか」
彼は何も気にしていないふりをした。そしてさりげなく居住まいを正し、友希那を自分の中へ引き寄せてみた。
「あの、食事のことなのだけれど……」
友希那の肩幅に何か敷き詰められた輪郭が浮いた。
「もっと、他の食事にすることは、できないのかしら」
「いいや、駄目」
彼はここぞとばかりに感情を失くして問答無用を打った。
「バランスを崩すのは駄目だよ。こういう世界だから、なおさら」
「けれど……」
彼は何か融通が利かない風味を演出する。友希那の肩口はさらに内側に強張ってゆく。
だが歌姫は聞き分けがよいもので、観念した様子で脱力した。短いため息が漏れ、水面が少し煩く跳ねた。
「また、あれを食べないといけないのね……」
友希那は何か想い悩んでいる口ぶりだった。彼は思考の全容が理解できていた。
おそらく彼女の脳裡では家庭菜園の野菜のことが浮かんでいる。
料理、というより日々の中の家事を担当するのは彼のほうであり、献立も彼が管理することになっている。
冷凍食品や総菜ばかりを主食とすることに異を唱えているのもまた彼だった。それは栄養という観点から意識する意見だった。熟考の末にたどり着いたのが家庭菜園だったが、友希那は野菜の類が駄目だった。特にゴーヤなどの苦いものとは犬猿の仲であり、避けてしまうことも多々あった。
だが世界が世界であるが故、他に健康的に食べ続けることができるものもあまりない。友希那には苦行を強いることになっていた。
野菜を育てることがこれほど大変だなんて、と薄着の姫は汗を拭い、よく独り言ちる。
彼は横でそのような友希那を時おり眺め、たとえば素肌に貼り付くシャツや毛髪、袖から覗く脇の肌色、あるいは土の汚れにさえ自分だけの実りを咲かせる。まだ完熟ではない野菜たちに、人間のまぐわいを披露することも多々あった。
野菜を育てる労働というか、手間をかけることを通し、野菜との距離も縮めてくれればよいのだが、そこはなんとも友希那らしく、それはそれこれはこれだった。
克服への道のりとは、彼女がこれまで渡ってきた音楽の道のりに匹敵するほど険しいようだった。
彼はあの手この手で調理をしている。それはさながら、ピーマン嫌いの男子に克服を促す母親の如くであり、二人きりの食卓の中に、友希那の嫌そうな顔を咲かせたくない。彼自身もまた、長い探求の道を歩んでいるところだった。
「まぁ、僕も最初苦手だったからさ」
「どうやって、克服をしたの?」
「それは」彼は友希那の素肌をさすりながら天井に目をやった。「慣れ、かな……」
「食べることができる人は、皆、そういうふうに言うわ」
彼は友希那のうなじに視線を戻したがまた何か我慢ができない態度で左の肩を唇で這う。横から彼女の瞳を覗いてみる。それにしても、と少し意外に想う。
普段、あれだけ物事をはっきりさせたがる友希那が野菜ひとつでここまで揺らぐだなんて。
いいや友希那も人間である以上、好き嫌いのひとつやふたつは当然のはずだった。そこを別に変に持ち上げるつもりは彼にはない。だがどうしても、あの友希那が野菜に対して頭を抱える様子を前にしてみると、彼は意外性とそれからひとさじの愛らしさを得るのだった。
「あ、それならさ、僕が食べさせてあげようか?」
「あなたが?」
彼が少しふざけてみると、友希那の顔がその方向に至る。二人は至近距離で目を触れ合わせる。
「ほら、アーンってやつ」
彼はさらにおどけて表情を拓く。対する姫は息を漏らして正面に戻ってしまう。
それはいつもの、あの簡単にはらい退けるというか、彼のおふざけをやり過ごすような達観した態度だった。
「まぁ、今日は炒飯にでもして――」
「そうね」
友希那の平気な声が浴室を再び蠱惑的に震わせる。
「あなたがくれるのなら、食べれるかもしれないわ」
彼は何も喋らず友希那の裸体を腕で握った。この背筋とうなじの山脈にのしかかろうとした。
「先に出るわね」
だが友希那は、その合間をするりと抜けるように身体を起こし、彼を無視し、浴室から出ていった。
独りの浴槽にて彼は、己の身体とそれから周囲にまだ残る友希那を追った。
「友希那……」
彼女、耳が特別赤く視えたが、はたして熱気のせいだろうか。
「お、おはよう……」
だが今が何時なのか彼は知らなかったし、知りたくなかったし、そもそも興味がなかった。
ベッドの上でまるで早朝のように覚醒した彼は帰巣本能によく似た感覚で友希那に意識を向けていた。
今は深夜で、だが正確な時間はわからなかった。ただ彼は友希那を眺めていた。遠い天井を背にする彼女が提示する色香に付きっきりであり、その吐息さえ彼は嗅いでいた。
友希那は仰向けに在る彼に全裸で乗っかっていた。それは潰れかけの四つん這いで、身体を男体の表面に収めるように被さっているのだが、臀部や太腿はむしろ彼の腰を拘束して少しこすれている。彼の視界を埋めるその顔は色づいており、視線はいつものように据わっていた。
この女豹は彼の懐へ巧みに忍び込むことに成功している。
見上げたままベッドに脱力する彼は、自分が今、本当に友希那に捕獲され、襲われているのだと実感しているところだった。
だが彼はその実感の別のところでひとつ冷静になっていた。この光景とはデキのよい夢か幻覚か、あるいは自分という妄想家の底力がついに分別を超え、戻れないところに至ったのではないかと彼は考察した。考察していると思考はまた別の方向に触れた。これほどの美女が常に傍に居るといういつもの日常そのものがすでに十分に妄想じみているなと彼は思った。
彼に被さる友希那は魔性を増していた。窓から差し込む月明かりを裸体が受け、輪郭が青白く際立つ。その中で長髪は自由に動いて肌に陰りを造る。すると友希那の特別な彩は冴えわたり、体躯の中でより濃い妖艶へ育つ。
彼は一人の男として友希那の様子に取り憑かれている。
この美女が実は特殊な魔女の一人で、自分という男はただ栄養素として狙われているだけ。魔女は今晩の中で本性を発揮し、自分とう養分は後は食われるだけ。
そういういかにも妄想らしい妄想のほうが今の友希那にはむしろきっちり当てはまる。的を得ているように聞こえてしまう。友希那がそれほど蠱惑的で非現実的な域に在る。
とにもかくにも、これが現実であろうと妄想であろうと目の前に友希那が全裸で居ることに変わりはない。そして正直なところ、彼は今が現実なのか妄想なのかという部分についての真相に関心があまりなかった。
なぜなら今の彼には誰も居ない。
目の前、友希那という美女以外は誰も居ない。
だからこそ彼は友希那に夢中だった。今の友希那は極めて柔軟だった。人間性や女性に富み、いっそう麗しい魅力に満ちている。彼を見下ろすその目は真っ直ぐだった。瞳の光は妖しい色をしてこの薄闇の中でもよく目立つ。下に居る彼はまさに刺されているような感覚に成る。究極のところ女性とは、視線さえ性器に成るのだと知る。
友希那は動き出した。肩から長髪が垂れ、彼の頬のすぐ近くに落ちてくる。彼はそこから彼女の毛髪を嗅いだ。友希那は何か位置を整えるように身体を動かしている。彼はそれが何か不確かなもののように思えた。友希那はこのまま浮遊してどこかに消えてしまうのではないか。
彼は追いかけるように友希那に口を突き出したが間もなくして友希那に攫われた。
「ゆき――」
彼が口を突き出すことを友希那はひとつの合図とみなし接吻へ移行した。だがそれは男女が口や舌で互いの存在の熱気を感じて嗜むものではなかった。友希那は上から彼という獲物を両手で固定し、その口の周りを一歩的に咀嚼しはじめる。
彼は暴力的な彼女の熱がそのまま女性的な美へ大成したことを唾液の味の中で体感していた。友希那とはまさに狡猾な女豹であり、口で彼の中に進むと肩口に乗る少しの髪がすとんと落ちた。
彼は自分の所有者とは誰なのかということについてもちろん理解しているのだが、ここでまた自分の主からそれを教え込まれていた。友希那の唾液と吐息が脳に直接塗り込まれている。彼は主導権と共に舌も歯茎も顎も何もかもを必死にしゃぶられるだけだった。
彼の脳と股間は精神的な行き止まりを喪失し、被さる女体のすぐ下にて強く硬く発揮する。友希那の熱気にも負けない逞しさで突き上がる。
「大きくなっているわ……」
友希那は彼の口から少し浮き、夜に聞かれないように囁いた。口と口を繋ぐ唾液の糸によく似た様相で毛髪が乱れていた。
濃厚な息が漏れて続いていた。目と目が合い、なんだか両片思いのような空気が湿る。
二人は、二人だけの狭い空間で逢瀬のようにまた重なった。友希那は彼に寝そべるような様相をしていた。足は変わらない体勢だったが腕を彼の首に廻し、何かねじ切るような動きで彼を探っていた。卑しい雌猫の大げさな鼻息を体験する彼はまた惚れていた。友希那が上がり、彼はまた垂れ下がる長髪に保護されているような心地に成る。
それはこの姫の胸中で、それ以外の外の他から守られているような感覚だった。逃れられているような心地だった。自分とはまだ卵で、この友希那という優しい親に守られている。
「……電気、つけさせてほしい」
やがて彼は静謐を打ち破った。
「嫌よ」
しかし友希那はめっぽう強い声だった。
それは口づけの情緒とはまるで異なる空気だった。
「月の明かりだけで、十分でしょう?」
「でも、君の顔、ちゃんと視たいし、それに――」
「もう、喋らないで」
友希那の硬い声が鋭く飛んだ。同時に男体に絡まる素手が少し急いた熱を得る。
今の友希那の中に美麗な歌姫というものは存在していないようだった。
慎ましい振る舞いもなかった。威厳の格好もなかった。乱れとは無縁そうな風格もなかった。今の友希那からはさっぱり消えていた。今の友希那はただ貪欲で、とにかく相手を求めるのみであり、彼は実際に組み伏せられていた。
友希那にあるものは一種の開き直りか、はたまた何か別の重い感情なのか。
観測するだけの彼はそれらを詳しく探ることができなかった。
「わかった」
ただ、愛する相手が乱れたことで喜ばないなどむしろ失礼にあたる。
淑女の態度が引っ剥がされ、後に残った雌の風味のみを体験する。それは背徳的な心地であり、甘美であり、いや確かに、まさか自分が倒される側になるとは思ってもみなかったが、こういう立ち位置も悪くないと思っているのが彼だった。これが友希那の素直な愛情というのなら文句など無いし、違うとしても受け止める義務が彼にはある。
いいや、そういう使命感の態度など本当の彼ではなかった。それはふりでしかないものだった。つまりは格好つけだった。
本当の彼は迫り来る友希那に対し極めて男性的な欲望を持っている。
あの友希那から私的な重たさを向けられていること、友希那によって独占されてしまっていること。
それこそが何よりも重要な悦びだった。彼はそういう友希那への期待感で膨れているだけだった。
「いいよ」
彼は押し負けた心地で弛緩する。主導権を放棄し友希那へ譲渡する。彼女の口はそれを待ち望んでいたらしい調子で活気に溢れる。こめかみや頬に細かい数本が貼り付いている。彼はまるで鳥葬のように食われる。
「んぶ」
この空間の中、友希那の独裁のみが保証されている。彼は友希那を受容することのみを許されている。
そういった長い接吻の後、友希那は顔だけではなく上体そのものを彼から起こした。臀部を彼に置き去りにしたまま上に伸びるような様相で、窓の月の明かりが彼にも差し込んだ。友希那も光の中に居た。彼女を仰ぐ彼は粘ついた欲情以外に、それ以上に彼女を尊く想った。
この薄闇の中で、友希那の真白い肌のみが浮き上がっている。それは闇から白い友希那が浮いているのではなく、闇そのものが白い友希那に吸い込まれてた様相だった。彼の体躯の上の部分だけが、友希那の輪郭の形に切り取られている。空間がくっきり沈み、ただ白く、美しい友希那が存在している。そこから彼の頭部の周囲や胸板に降り注ぐ毛髪とは、そういう色をした霧雨か、あるいは鉄格子だった。
「……ありがとう」
友希那の瞳は彼のみに向いている。けれど肢体には束縛の強さが続いていた。雌猫は彼を絶対に逃がさない。
普段、彼は友希那の頭頂部をいつでも視ることができるのだが、今はまるで逆だった。
知らない扉が強引に開けられてゆく感覚だった。あの友希那に見下ろされるという状況は、単なる立ち位置逆転ではなく別の卑猥な方向から突っつかれている心地だった。
そして捕食者たる友希那は彼の腰に尻を乗せたまま己の髪を処理する。毛髪の中に片手を入れ、その一切を漕ぐように流すことで全てを左側に流した。それでも汗のせいで上手くいかず、肩や首の肌色の上に数本が残留した。
光に当てられているため、友希那のそういった細かい一本でさえ彼には美麗に映っている。
友希那は数本の取りこぼしが月にみつかることを恐れている。故に光芒から抜け出すように彼に伸び出る。それは先ほどの彼に重なる様相ではなく彼の頭上を取る態度で、細腕は頭部の左右に落ちた。毛先がその素手を追うように似た箇所に垂れる。
それは薄紫色の幕だった。友希那の髪は窓から差し込む月明かりを遮断していた。彼は周囲とは別の特別な闇の中に自分から逃げ込んだ。上から降ってくる友希那の薄い呼吸が少しずつ大きく成る。二人はそれから月もまだ知らない接吻へ昇る。
友希那の片手はその中で竿をさりげなく這っていた。それは寝汗で少し重たい衣類の上に内部の輪郭を浮き出させる調子で、友希那は筋の部分や首の部分に指の腹を絡ませているのだが、そういった運動は唐突にぴたりと停止し、口も彼から離れてしまう。
何か、と彼は友希那を見上げるが、その姫は彼の胸板に突っ伏すだけだった。
彼はその頭頂部に何か久しいものをみつめつつ友希那に向かって喉を張る。
「なんでもないわ」
だが友希那の声は彼を押し退けた。必死に震えている様子だった。
彼は友希那の毛髪と、その下の肩口や背筋の輪郭を撫で、彼女の様子をさらに観察する。
「大丈夫、だから」
「……そうはみえないけど」
「なんでもないわ。したいだけよ。本当に」
友希那は肩を震わせている。声には不安定なものが浮き、毛先たちが何かおねだりをするように男体をさすっている。
「でも――」
彼はまた口を開けるがそれはすぐに塞がれた。友希那が舌で彼の口に飛び込んでいた。彼は友希那の反り返る背を包んだ。男女はまた数秒揉み合った。
大量の糸を造った後に、姫はまるで強引にはじめてを奪われた生娘のように彼に体躯を落とした。両腕をたたんで胸板にまた突っ伏し、それから友希那は泣き続けた。
痙攣している彼女の肩を、月の明かりがまた横断する。肩には長髪が乗っているが、それらは頭部に向かって何か緩い薄紫を描いている。彼は友希那の震えをなだめるように素手で抱き締め撫で続けた。
現在、友希那は彼という男のぬくもりと強さを頼りに泣いている。理由は不鮮明だった。いくつかの可能性が彼の脳裡にはすでに展開されているがはっきりとしたことはわからなかった。というより決めつけるべきではなかった。とにかく今の友希那は彼の胸の中を求めていた。それで取り繕うことを止めていた。
それはまごうことなき信頼の証だと彼は思った。自分という男の存在とは友希那の中である程度の大きさを持って君臨しているようだった。それはきっとこれまでの歩みによる影響なのだと彼は確信していた。友希那と共に過ごした時間こそが友希那をそうさせているのだった。
彼はそういった状況だけで別の部分で昇天してしまう。だが今はまだ、そういうものに至るわけにはいかない。
友希那は男の上で肩を震わせ続けている。男の胸を濡らしてる。その小さい素手は引き締まるように強張ったり何かを諦めるように柔らかく成っている。鼻の奥の部分が香ばしく膨れ、ざらついた音が連続で鳴っている。
彼は自分の素手を友希那の肩から頭部に移した。柔らかい行動で自分に沈む頭部を撫でた。
すると乙女はより潰れた湿度の中で顔を少し上げた。背に乗る後ろ髪が細かく落ち、友希那は胸元から彼を窺うように唇を尖らせる。
「リサ……」
たった一言だけだった。
だがその一言は熱く重たく、何か痺れるものを彼に与えて滾らせた。
「幼馴染の人、だったよね」
こんな他人行儀な言い回ししかできない自分だけが悔しかった。
「どこにも居ないの」
「それは……」
「ええ、わかっているわ。仕方のないことよ。けれど」
「僕に、なにか――」
彼は喉を引っ込めた。留めるべきだと本能が叫んでいた。
取り残されてしまった哀しみとは強烈だった。存在していたものが失く成るという焦燥は壮大だった。何よりも切羽詰まって重苦しいものだった。
そういった一連の感情が夜という解放感によって溢れ出し、自分だけではどうすることもできず、大胆に彼を求めた。
それが今の友希那だった。そして彼はその友希那を包んであげたい。
「僕は、何かしてあげたい」
愛する友希那が理不尽に泣いているのなら、その頬を拭ってあげることこそが男の役割だと彼は何よりも強く思っていた。
友希那は声と共に身体を起こした。顔ではなく首から上がる動きで、胸板の上の毛先は引きずられて離れていく。彼は天井を背景に濡れている友希那の全容を眺める。
「それなら、お願い……」
その瞬間彼は、自分の中に友希那が現れたのか、それとも自分が友希那の中へ引き込まれているのか、わからなく成る。
ただ、肌のあちこちに貼り付く崩れた長髪が美しかった。
「あなたの熱で、私を埋めて」
小さく垂れる口の呼吸は彼の鼓膜を通って過ぎ、脳にぬくいものを塗って馴染む。
行為で払拭できるかなどわからなかった。
わからないが、友希那は行為を強く望み、眠りにある男にさえ挑んでいる。
そこには相応の葛藤が在るはずだし、今だってまだ、迷いに在るかもしれない。
彼は友希那の頬に素手を伸ばして熱の形を覆った。姫は彼の素手の表面を頬で舐めるように入ってくる。
「いいよ」
彼は、友希那という女性への悔しいほどの恋慕を意識する。
この夜は、生殖本能に素直に成ることこそが最も正しい姿なのだろう。
友希那は音楽家として多大な熱気に至る女性だが音楽という要素が完全に抜けた男女のまぐわいにおいても熱烈だった。
そうした友希那を体験する中、彼が個人的に真っ先に想起するものとは出会った当初のことだった。
当時、まだ硬い音楽家のみだった友希那は性的知識皆無のほか、そもそもそのテの行為に対しての関心が薄い人だった。
それは建前ではなかった。行為をしたくないという本心をそれらしく包んだ発言ではなく、友希那は本当のところで性愛に関心がなかった。愛を確かめたいのなら言葉で表現すればいいというものを真面目に主張するほどだった。
彼はそれでも友希那を誘った。剥くものを剝き、肌同士でまぐわった。
強要はしないが様々なことを試した。それは友希那の中の女性らしさを男性特有の鼻で嗅ぎ取ったが故の行動だった。友希那も無関心が故に拒絶はなかった。というより、当時の友希那は行為の終結のみを視ていた。少し喘ぐだけで、基本的には白々しいものだった。
彼は、それはそれで倒錯したものを嗅いだ。そして膨大な量をゴムの中に吐き捨て、終了後に膨らんだそれを何か干上がっている姫にみせつけることも少なくなかった。
彼が続けたものとはつまり友希那の中から卑猥な女性を取り出す勝負だった。そして彼はその勝負に勝ったと思っていた。
パンドラの箱が開いたか、あるいはもっと単純に、獰猛な獣の檻がついに解放されてしまった。
友希那の中に眠っていた湿り気とは彼さえ覆うものへと成長した。
彼がそちらの道に友希那を手引したことは事実だった。だが彼はよい意味で予測を疎かにしていた。芽吹いた友希那にこれほど肉食的な覇気が訪れることを彼は察知できなかった。
友希那は夜に乗じるかたちで彼を襲うまでに成長した。彼は友希那の魅力に飛び込むだけだった。
彼はベッドの上にて背を起こし脱衣をした。
全裸に成った二人はそれから自然と先ほどの体勢に戻った。
だが少しだけ異なる点があった。彼はもう仰向けではなかった。彼は背を起こしたままベッドの上に素手を置き、身体の表面を斜めに開放していた。
そこに合わさる相手とはもちろん友希那だった。膝立ちをする彼女は大きく開いた自身の股で男の岩肌のような腰を鋏み、特別に潤んだ股間の部分で彼の育ったものを捕えている。
「いくわよ」
ひとつの美声が彼を撫でた。だが彼は少しも動かずに友希那を待っている。小さな歌姫は彼の両肩を握ったまま肢体を駆動させる。
反り返る背筋から連なる豊潤な尻は、いかにも友希那らしい礼儀正しい姿で落下し男と逢う。彼にもう一度跨る様子で、股間の上に腰を下ろした後に友希那は唐突に彼へ胴体そのものをがっくりと下ろした。
友希那は完全に彼へ乗ったが、同時に彼の硬い部分は女体の奥に食い込んでいる。友希那はその彼を腹の部分で越した後、休憩のようにひとつ大きく息を吐いて彼に倒れ込んでいる。
彼は慌てて彼女の仙骨部分を抱きすくめた。だが友希那が蒸発してしまうことはなく、鎖骨の皮膚がまるでしわ寄せのように縮まっている。姫はそうして彼の表面に広がりながら密着する。
女体の柔らかさは彼の硬さの上でも従順だった。そして股を開く友希那は少し強引だった。体躯そのものが突起と穴のように絡み合っている。複雑な二つの体躯は最初から相手によく馴染むように造られている。
彼は友希那の全てを網羅する調子で友希那を強く包んだ。すると友希那もそれに応えてくれる。細腕は彼のうなじを支えるように包み込む。
友希那の頭は彼の右肩に垂れており、長髪は彼の中に埋まっている。もはや背筋さえ沈む勢いで、彼はその仙骨の位置を素手でさする。だが素手はすぐに下り、友希那の丸い輪郭を盗み取るように撫で下ろす。
友希那のこの肉厚の形とは変わらないものだった。彼女が男を咥え込み、男体に被さり息を吐いても尻の変動はない。そこは何かぷっくり、まるで突き出るような様相で肥えている。こぼれ落ちるようなことはなく、友希那の全ての肉感は彼の上でのみ柔らかさを主張している。
そして彼は、自分自身こそが友希那の実の父親で、今は幼い愛娘を抱き上げ、休日のデパートを散策しているような心地にさえ至る。
その生娘は今、自身の中の最も冴えわたる部分で雄を咥える恰好にある。自分の男性的な中心は友希那の中の柔らかい重量と熱に潰されており、食い込んでしまってもう離れない。
そうして抱き合って連れ込んでいるはずなのに、動いているのは友希那のほうだけだった。
だが彼女は彼の上で小ぶりな身体を上げ下げしているわけではなかった。友希那はまるでベッドの白色の中から彼を抱き上げる様相でしがみついて臀部を動かす。そうして豊潤を主張し、彼の硬いところにこすり付けている。それはベッドの中を漕いで進むような動きで、腹と腹が接吻のように激突する。汗の玉が浮き、それもまたこすれ合う。途切れることはなく、この熱帯の中で二人の深みだけが増してゆく。
友希那はまったく器用な運動だった。彼は友希那に応えるように包容を引き締め竿の部分で彼女を追った。自分の間近で自分だけの踊り子が自分に魅せてくれている。二人は絡み合い、その場で内側に向かって蠢いている。
肌の全域で友希那の真価を確かめる。媚びを知らぬ友希那はもう居なかった。無垢で無知で、男の言う通りに丁寧に動いて応える友希那は居なかった。友希那は自らの性的な価値と強さを知り、学び、一人の男に君臨していた。
彼は自覚していた。己の性とはすっかり友希那に飲み込まれてしまっている。それを受けた彼の脳裡に最後まで結局残るものとは独占欲だけだった。
友希那を独り占めしたい。
それがたとえ性に溺れるということであったとしても、隣に友希那が居るのなら構わないと彼は思っていた。
永遠にしがみついてもよいのなら、友希那が永遠に自分を捕まえていてくれるのなら、彼はむしろ友希那で耽溺することを切望する。
そうして脳裡で甘い独占を想っていると、ふと、耳に触れる特殊な熱気に彼は気付いた。
友希那は意図をしてかそれもと非ずか、孤高らしからぬまろやかな吐息で彼の右耳をふやかしている。
それは友希那の歯茎のにおいだった。それは一定の感覚で友希那の口から漏れ出るものだった。腰を上げた時に薄まり、また沈んで根本を搾ると同時に猛烈に濃く成る。
まるで泣いているような、怒っているような、苦しそうだけれど止まることはなく、友希那の甘い声は彼の近くで舞ってる。
彼は友希那の口腔に閉じ込められている心地を得る。弾頭は友希那の内部のそれを捕えてノックしていた。
それ、というものは友希那の入り口のことだった。入り口は膣のさらに奥の位置にて埋もれている。彼が雄としてそこに発射さえすれば、友希那は雌として的中する。
彼は圧された漢の部分でそれを刺激した。潰してしまう勢いだった。友希那は彼が戸惑うほどの練度で弾けた後、自分を誤魔化すように接吻を起こす。内部の肉ひだは彼を根本から抱きしめ、先端と入り口の独特な弾力は口に倣って常に触れ合った。
友希那はより香ばしい粘度で彼に一斉に食らいついていた。調節された友希那の孔は彼の形を忠実に再現し、何が何でも逃さない。その束縛とは両足にも現れている。友希那は何が何でも彼の子種を欲している。
今さら主導権を握ることなど不可能だった。沸騰にある彼は友希那にしがみついた。何か誤魔化すというか逃げ惑うように友希那の乳房に顔を当てた。そこで受け取る柔らかい雌は股間にとっての燃料であり、胎内で膨張する瞬間はもちろん姫君にばれている。友希那は腰で男体を潰してさらに詰める。彼は絞められたままだった。外側からも内側からも友希那に包容されている。彼は抱き締められたままだった。それで最初のものを胎内にて漏らした。
「んっ……」
途端に女体の動きが止まった。彼は至極安全な快感と共に真上の雌に注ぎ込む。
だがそれは、たとえば託すだったり、撃ち込むだったり、あるいは献上するという感覚ではなかった。そういった、何か彼のほうが上のような感覚は皆無だった。彼は搾り取られているだけだった。吸い取られているだけだった。
彼は友希那の中で呼吸をし、まどろんでいる。その彼を抱き締める友希那はやがて緩く駆動を再開する。その器用な腰遣いは彼の尿道の余波に合わせた動きだった。連結したまま股間はさらに混ざる。それはまるで補助だった。彼が高ぶる瞬間に膣も過激に成り、穏やかに成ると肉厚も落ち着く。彼は友希那から射精の補助をされていた。そうして睾丸の中に残っていた少ないものさえ彼女の中に排泄する。
猛獣の雌はとろけながら漏らす彼の様子をまだまだ収まらない熱気と共にみつめていた。
彼は自分が男として最も緩んだ瞬間を全て上から観察されていた。
「温かいのね、あなたの、精液……」
彼は友希那の胸部の内部の打撃に優しく叩かれている。性愛以外の別の心地良さを彼は友希那から感じ取る。
だがその彼は、間もなく体躯を後方に圧されてしまう。
それは空中浮遊のような心地だった。肩口が空気を切っている。次に背中の一面で柔らかい衝撃を受け、彼はそこから起き上がることがもう不可能であることを知る。
彼は友希那と繋がったまま友希那に押し倒されていた。
姫は彼の股間を跨いでいる。たたまれた左右の足が彼の腰を絞めている。下敷きに成った彼の股間に尻で乗り上げた調子だったが、それから友希那は彼の股間の位置に臀部を置き去りにするように背のみを伸ばし、前傾姿勢で胸板に両手を置いた。
完全に下の位置に在る彼は喉で固いものを越した後、姫を下から一望してみる。
肉体的な小ささや、それに伴う尊さと愛らしさ、乱れた髪や汗が浮く表情の一切を同時に均等に贅沢に観察できる。
ああ、友希那という女性と事に至る際、これほど簡単で絶景な体位もないだろう。
だが下に居る男が上に在る彼女を本格的に支えるという余裕はない。今の彼が最低限できることとは友希那の腰部分を左右から握って保持してやることだけだった。それは骨格そのものを自分の股間の上に固定する気概であり、胎内にめり込む彼のものはまだまだ意欲に満ちている。
彼の男性的な事情とは友希那にすっかりお見通しだった。彼も隠すつもりはなかった。
友希那は、彼の上で己の腹の特定の位置をさすり何かいつくしむような嚥下する。こめかみの部分に汗が浮き、髪が小さく貼り付いている。友希那は彼の鋭い視線に気付いているのか、長髪をすばやく整える。だが毛髪の形というものは次の瞬間どこかに弾け飛んでしまう。
友希那は気にせず彼の上で続いた。それは暴れ馬を上手くあやして乗りこなすような動きだった。腰を器用に廻し、柔らかい熟れた部分を彼の角張った腰にこすり付ける。突っ張る腹も、少ない乳房も揺れていた。肩幅と首にとびきりの筋が浮いていた。突き上がる度に薄闇の中に宙に舞う毛髪はそういう花火に思えた。
やがて友希那は自分が腰で生み出す起伏の流れの波に乗り、背中を倒して圧してみたり、腹を反らせて跳ね廻る激しさに移り変わる。顕著に暴れる箇所とはやはり毛髪で、薄い紫は何か翼のように自由に大きく乱れている。
彼は友希那の肌色を下から眺めていた。自分の竿を姫に預けている。彼は我慢をせずに友希那の胎内で破裂した。
それは比喩の類ではなかった。彼の肉棒は実際に一瞬だけ大きく膨らむことで友希那を圧し、勢い良く発射する。友希那は彼の上で故障したように唐突に停止し、細かい熱気に震えを示す。彼はその弱った姫にさらに注入していった。何か波のようなものが何度も突き出て姫に植え付けていた。つまり彼の陰茎の破裂とは何度か発生しているということであり、友希那の肩口はそれに健気に反応している。友希那は彼を跨いだまま彼を受け入れていた。
やがて男は呼吸を穏やかに潜める。己を体外に吐き出したことによる反動が内側から五臓六腑に広がる。それはつまり倦怠感で、だが彼がやる気を失くしたのではなく男とは射精がひとつの区切りになっている。
男とはそこを基点に行為の終わりを意識し、管理や操作さえ可能になる。
だがどうやら、対する友希那の活発はそうではないらしい。
というより、女性側には男のような明確な区切りがないように思える。
異性という立場からすると、彼女のそれはみえづらい。至極曖昧で、わからない部分が多い。
種を植え付けるだけの存在と、その種を預かった後に熱して育てる存在との違いという一節を小説で読んだ経験が彼にはあった。こうして実際に友希那で到達し、種子がそちらに流れてゆく心地さえ噛み締めてみると、あれは本当なのかもしれない、その通りなのかもしれない、と彼は怪しんだ。対する友希那は彼の今の幸福などただの途中経過だと言わんばかりに女体を倒した。それは彼が目覚めた時の友希那の体勢だった。あの崩れた四つん這いに彼は再び全身を拘束される。さらなる盛りは発芽のように至極自然に発現する。
友希那の肥えた尻の動きは過激にはじまり、彼の二度目の破裂によってまた止まる。友希那は肩で息をする。彼はその女体を腕で離さない。
今度の射精は重たく長い運動だった。だからこそ実感も強烈なものだった。彼は快感の中で自分の意識が薄くどこかに逃げてしまう気配を得ていた。男の熱には勢いがあった。睾丸が友希那の母性のすぐ傍で凝縮し友希那に仕込んでいる。
種は友希那の深い位置にしっかり到達して溜まり、独特の安堵感、ぬくもりをもたらしていた。
その女体に際限はなかった。額や耳の周囲に汗が浮いている。肌色は光沢を得て、乱れた毛髪が無秩序に貼り付いている。
「ゆきな――」
だが友希那は気にしていなかった。彼女はひとつの葛藤を越え、よい意味で投げやりな態度を獲得しているようだった。彼はまるで初体験のように唇を攫われてしまった。
歌姫の少し酸っぱい甘い蒸発は彼を這って鼻孔を包んでくれる。突き出された肉厚は彼の先端の形に上から被さり跋扈している。潤みに富んだ友希那は垂れ、蠢き、密着した後にまるで剥がれる調子で隙間ができる。
「まだよ」
煙のような風味が強く舞い、無数の唾液の糸が頬へ落ちる。胸部も腹も、股間の孔に至る直前の薄い箇所さえ彼の真上にぴったり寄せられている。離れることなどひと時もなかった。だがその中で唯一、臀部の余った半球の肌肉は誘惑をするように蠢いていた。
そして彼の視界には友希那の顔のみがあり、その姫君は鋭い目つきで彼に期待している。
「ねぇ、できるでしょう?」
友希那は彼を待たなかった。友希那は彼を休ませるという思考を見送っている。尻が何か調教じみた盛りで発動する。互いの骨格がベッドの上で軋み、姫は彼に揺れを与え続ける。
友希那が男性で卑猥に湿るように、彼も友希那の歯茎や粘膜を嗅いだ。それは互いにさらに暴走する心地で、燃え上がる男女は周囲を気にしない。友希那のひだは友希那の喉と同じように自慢に彼に絡み付いている。竿の輪郭を受け入れる。粘ついた摩擦は二人の中の恋慕以外の全てを溶かす。
しかし体躯を支配しているのは依然として友希那だった。彼が友希那に対してやっていることなどなかった。友希那は寝そべる彼に向かって裸体を沈ませ、それで尻のみを激しくさせる。尻の部分は一定の音の調子で上下に動いて弾けている。重なったまま停止することもあるのだが、その場合は奥でこねるように蠢き彼を搾る。
「いくっ……」
彼は舌を突き出すように叫ぶ。すると友希那の肉厚に下半身そのものが潰される。尻の重さ、というよりその余波のようなものが響くようにのしかかり、彼はその胎内で友希那にぶちまける。
友希那は彼の上にて彼に埋まるように停止する。彼は友希那の股の中で管理されて収納されている。
より高い粘度は竿を取り巻いており、その彼が吐き出す度に姫は何か堪える様子で下向きに震える。彼は永続的に搾られているが、その中で友希那もまた深い位置へ堕ちている。得もいわれぬ充実感に満ちている。女体を腕で覆う彼のほうにも、それらはしっとりと伝わってくる。
自分の恋人が子宮の部分で自分をしっかり受け止めてくれる。
これほど贅沢な時間もそうそうないだろう。友希那が絶頂に在るという事実で彼はまたひとつ誇りを得る。まるで夢想のように脱力し、すると睾丸に残っていたものたちがまた友希那へ流れ去る。彼は後味のような優しさを友希那で得る。
しかし全ての支配者たる友希那は物思いになどふけっておらず、むしろ肉欲にまみれたまま再び起動する。
だが今度の友希那にとって、これは男を責めるものではなかった。そういったものはむしろ二の次のようだった。
友希那は自分の中の黒ずんだ感情をどうにかしたい。故に大きく動いているのだが余裕は次第に消える。明確な表情を造っておくことが不可能と成り、やがて友希那は倒れるように彼へ停止してしまう。
彼は果てる寸前のところに居る。身体も、内側の意識も燃えて滾ったままに在る。
友希那の体躯が再び振動を散らすことはなかった。むしろ姫の顔は彼へ突っ伏し、肩甲骨が月の明かりに浮かび上がる。
「ねぇ、訊いてもいいかしら」
覆い被さる毛髪が散開し、友希那の胴体はまた持ち上がる。彼は潤んだ瞳と目が合う。
彼は友希那の頬に右手を伸ばしてさすった。
「あなたは、私の前から居なくならない?」
友希那は腕を伸ばし、彼の左右に素手を沈ませ喉を張る。
「急に、どこかに行ったりしない?」
「友希那――」
「お願い」
毛先が彼の頬を撫でていた。
友希那は深淵のように彼を覗いた。
「私を、独りにしないで」
その瞬間、彼は友希那のことをより強く、身近な位置に感じはじめた。
友希那の喉からせり上がる哀しみを彼は両腕で抱きしめた。友希那もそれに応えるかたちで体躯をまた彼の胸板に重ねた。四肢を引き締め、口が巡り逢う。
それは互いの熱を感じたいだとか、互いの柔らかさを確かめたいだとか、そういうものではなかった。
ただ彼は、友希那の相手としてそうするべきだと確信していた。
「どこにも行かないよ。どこにも、一緒に行くから」
接吻をしているような距離感だった。彼は友希那の瞳に居た。友希那の素手は彼のうなじに廻って強固に成っている。そして臀部は稼働してゆく。額の汗がさらに滲み、肌の艶がより際立つ。叩きつけられているような調子だった。胎内、肉同士がこすれており、快感だけだった。
「いかない。ずっと、一緒」
彼は呪文のように呟いていた。
「それなら、また、ちょうだい……」
この薄闇の中、友希那の声のみが彼をそそのかしている。
彼は股間に最大の力みと愛欲を込め、必死の友希那の奥を貫く。彼は自分という一個人の意思として、この友希那に使用されたい。
暴力でもよかった。
八つ当たりでもよかった。
それで彼女の、彼女自身さえ解明できない黒いものが残らず消えるのならそれでいい。
「たくさん、あなたのものを……」
彼は裂けるように泣く友希那の脈拍さえ手に取って、白いものを噴き上げた。
そうして全ては終結した。
彼は友希那と共に故障したマネキンのようにくたびれていたがその余韻もすぐに引いていった。
呼吸を取り戻した二人の間に合図はなく、自然と添い寝の体勢に成った。互いの肩を重ねるかたちだった。その体勢を自分たちとベッドに馴染ませるように少しだけまどろんだ後、口を開いたのは友希那のほうだった。
「なんだか、ごめんなさい……」
「なにが」
彼はすかさず知らないふりをした。すると友希那の小ぶりな肩が彼の懐に入港し、次いで素手が白蛇のように慎重に出る。だが友希那の力は弱く、彼の何かを掌握することは無かった。
「気を、遣わせたでしょう?」
縮こまった姫の五指は宙で力を失い、それから渋々と肌色の中へ戻っていく。
彼はその友希那を追うように素手を伸ばして上から取ってみせる。
「君が思うこと、僕もわかる」
そして耳に寄って吹いてみる。すると友希那はこのベッドの上で泳ぐように身体をうねらせる。両腕は彼に向かって引き締まり、彼は彼女の少ない谷間を鼻頭で突き進みそこに埋まる。友希那の乳房とは少ないものだった。彼は頬の全体でその火照った肌を潰すようにさ迷うが、その中ですぐにあばら骨にたどり着く。乳房のすぐ下で薄っすら浮き出る硬い起伏で、彼はもちろん厭わずにその一つ一つを唇で食んで確かめる。
だが今の彼は、友希那の中の肉体的な狭い印象とは異なる大らかな印象を受け取っていた。彼はその穏やかな心地に身を任せていた。
それはまるで心臓の中に居るような心地だった。
いいやこれは心臓ではなく子宮だった。
つまり今、彼は友希那という女性の子宮の中に居るということだった。友希那とは母性であり、小さな彼は友希那の鼓動に揉まれている。男の心臓はやがてその友希那の鼓動を真似するように新しい鼓動を打ちはじめる。彼は母性に導かれるように呼吸をしているだけだった。
「……少し、聞いてくれるかしら」
男を包む姫は内部の彼に薄く瞼を開いた。彼は友希那にしがみついたまま動かず、友希那の言葉を待った。
「私はきっと、私の哀しみをあなたにも背負ってほしいと思っている」
頭部に乗せられている素手がいっそう深く彼へ入る。彼は友希那の背を抱き寄せる。友希那は彼にのみ聞かせる。
私は、みんな消えてしまったことも、もう二度と共に音楽をやることができないことも、いまだに受け入れられていないわ。
今だって、家に行けば普通に居るんじゃないかって、時々思ってしまうくらい。
この哀しみは、何をどうしても消えるものではないわ。きっと……。
けれど、不思議なこともあるの。
私の中で、そういう哀しみが大きくなればなるほど、その全てを、あなたに話しておきたい。あなたにも、知ってもらいたい。
そんなふうに、考えてしまう自分も居て……。
「――いいえ、違うわね」
彼は声によって顔を胸から上げていた。最後のひとつは真水に落ちる一滴の墨汁のように彼の中にもうもうと舞った。目の前の友希那の素手が男体の背に寄り、彼は大きく覆われる。
「あなたの中に、私の哀しみを押し付けたい。私は、心の奥底で求めているのよ。きっと……」
けれどやっぱり、よくないわね、こんなこと。
あなたには、関係の無いことなのに。
「友希那って、甘えん坊だよね」
彼は至近距離にて彼女の顔を声で掬い上げた。
「なっ――」
すると姫は途端に赤い表情を外側へ広げた。それから精神的な均衡をどうにか保つために力むが不安定だった。その姿は頬に全て赤色として浮いており、彼は何やら胸の内で新しいくすぐったい喜悦を得る。友希那の瞳はそれからいくつか迷いを映し、やがて何にも収拾がつかぬままぎこちない呼吸が出てくる。
「これは、別に、甘えるだとか、そういうものとは、違うわ……」
「でも、知ってほしかったんでしょ?」
彼がまた鋭く訊ねた。友希那は耳さえ赤く染め、だが頑固に否定の構えに居続けるわけでもなかった。何か観念したように小さく首肯した。
「気持ちの共有なんて、恋人ならよくあることだよ」
彼は友希那の一連の恥じらいの動きに趣を見出し、真剣な声色を打つ。
「それに僕は、もっとそういう、君の気持ちの部分が知りたい」
「知ったとしても、何も、楽しいものではないわ……」
「でも、さっきは楽しかった」
彼はまた少し下向きに浸る友希那に迫った。友希那は思惑通り肩を少し強張らせ、だが顔色は動かない。
「覚えていないわ」
それは独り言ちる風味であり、何か強引に断ち切る気概でもあった。
姫はやがて寝返りをするように彼から少し外れた。ベッドに背を預け、顔は天井に向いていた。彼はそれらを横から眺めている。彼女の視線はどこにも触れていないように思えた。
いいやあるいは、いつかの過去の景色に。
「どうして、私だけが残ったのかしら……」
「それは役割があるから、だと思う」
「私に、まだ役割が……?」
友希那の瞳のみが彼に落ちる。彼は彼女の素手を握る。
「たとえば、僕に歌を聴かせるとか」
「そうね」
友希那の瞳が彼を一瞥し、離れ、過ぎてゆく。
「本当に、そうなのかもしれないわ」
そうしてまた言葉のみがこぼれた。同時に友希那は彼へ動いた。額で胸板に滑り込み、裸体を彼の中に隠すように到着した。
次は彼の番だった。彼は友希那の頭部を上から包んだ。友希那の喉はまた新しいざらつきを引きずる。湿り気が肌に漏れる。彼は友希那の美しい頭頂部を撫で続けた。
「あなたと会って、すっかり涙もろくなったわ」
「構わない」
「いいえ、あなたのせいよ」
「僕?」
「そうよ」それは中途半端なカーテンをしっかり整えるような声だった。「あなたの影響よ。何もかも」
彼は顎を引いて友希那を覗く。
「音楽以外で、これほど心が高揚するだなんて……」
「可愛かった。とても」
彼はすかさず囁いた。するとまるでその文言が魔法の呪文のように友希那の体躯は動き出す。
「前はこういうことに興味なんて、少しもなかったのに」
彼女の額は胸板から上がらない。その声質の中には羞恥の類が潜んでいる。友希那は彼へ向かってより深く抱き着いている。
絡み付く素手も両足も甘噛みのように緩く湿り気を帯びている。彼は自分の股の間の部分に友希那の美脚が紛れ込んでいることに普通ではない甘美を得る。友希那は彼の脇腹や腹部の形を確かめて彼へ馴染む。
「こうやって普通に触れ合うことは、外側のことだけれど、あれは違うわ」
「内側に、君が居るみたいな……」
「そうね」友希那は確かな声で彼の中から肯定する。「あれは、あなたが入ってくる。身体の中に、私の内側にあなたが居る。奥のほうまで、あなたの熱が流れてくる」
「ああ、よくわかる」
「あなたも同じなのね」
「一番敏感なところで、一番君を感じてるから」
「そうね、私も……」
二人の吐息は周囲が寒いわけでもないのにさらなる熱が籠っている。それらは相手の皮膚に入り、本当に輪郭を失くすような感覚に成る。互いの肌が膨張している。
「ひとつに成るという表現を、あなたからもらった小説の中でたくさん読んだけれど、本当に、その通りなのかもしれないわ」
「友希那」
彼はひときわ強く声を突き上げた。
「友希那、最後まで、一緒に居よう」
「最後?」
「ああ、最後まで」
友希那の表情が彼へ向かって浮き出てくる。彼はまた喉を引き締める。
「責任は、取るから」
「責任って、あなた……」
「ちゃんとしたいんだ」
彼は友希那の頬に現れた火照りに見惚れるよりもまず低く表明した。
「ちゃんと、君と居たいから」
友希那はその途端、なんだか表面からくたくたに成って、彼の胸の内へ帰ってしまう。
「だって、君は僕の恋人だから」
責任という堅苦しいものではなく、より欲望じみた感情として、彼は、もっと友希那と様々なことをしたい。
「それなら、尽き果てるまで、しましょう」
だが友希那の顔が再び上がることはなく、体躯は彼へ落ちてゆく。
「この哀しみは、あなただけで埋めておきたいの」
彼は、口で何か紡ぐよりも先に友希那を抱いて仰向けに成った。友希那は男体の上を少し這いずり、その後、強かな口でまた彼を食らいはじめた。
「ありがとう」
中から聞こえる友希那の声は、少しだけ、凛々しいものへと戻っていた。
彼と友希那はそれから互いにシャワーを浴び、あらためて横になった。
友希那はすぐに眠りへ入ったが彼は違った。先ほどの熱気を引きずっていることを彼は自認しており、そこに抗うことをしなかった。何か浮き立つ煙のような調子のまま夜を啜っていた。
友希那ともう一度、という運びも考えたが起こすことはためらわれた。
だが彼の目は冴えていた。
彼は枕に顔を落とし、上がり、隣の横顔をするりと眺め、ああ美しい、小さく独り言ち、また空気に酔い、もう一度枕の中で寝返りを打つ。
やはり意識だけは落ちず、むしろ鮮明で、駄目に成った彼はそっとリビングへ出ていった。
慌ただしい隣の彼を友希那は薄っすら視ていた。遠ざかる背に声をかけようかと思ったが、結局吐息だけを吹き、自分も仰向けに体躯を開いた。
彼は独りでリビングに居た。
帯のような白い月明かりが垂れるこの空間はもう孤独の部分ではなかった。
友希那が居る空間だった。
大きなソファーで雑談をする。木目調のテーブルで食事を取る。テレビには何も映らないが、その黒色は友希那との生活を反射してこちらに映してくれる。
彼は庭に目をやる。いつかの土いじりの日のことや、歌う友希那と、それを嗜むあの心地が蘇る。
台所は二人の残り香が顕著だった。冷蔵庫の中は互いの価値観や好みが視えている。
洗面所には歯ブラシが、浴室には互いの抜け毛、玄関まで行くとそこには靴がまるで二人の子供のように常に一緒で離れていない。
この家には友希那が居る。
孤独だった生活の中に友希那が登場している。
ひとつ屋根の下、家の中、友希那という姫が身近に居る。
彼の生活の中に友希那が、友希那の生活の中に彼が登場し、呼吸が混ざって、絡まって、時に邪魔さえして影響を与え合う。
それらの日々というものは、世界の情勢を無視できるほどに温かく心地がよいものだった。
だが、陰りがないわけではなかった。
彼は白色のソファーに腰を埋め、首のみを動かし夜を睨む。
藍色の空には月が浮き、淡い白色を映しているのだが、それより手前の窓の硬い支柱が光を十字に切っている。そして四つの、整然とした光芒は彼の足元に伸びている。
入室した際とは打って変わって、なんだか彼には湿っぽく視える。
彼の脳裡では幼馴染という単語だけが反芻していた。
彼はこの世界で出会う以前の友希那を知らなかった。
友希那と親しかったというその幼馴染のことも当然知らなかった。
だからこそ彼は浮ついていた。それは歯ぎしりのようなものだった。脳裡に明確なもやがあり。それは煩いものだった。常に自分の中ではっきりと煩く蠢くものだった。
友希那という人物の奥の位置には自分以外の人が在り、自分と同じくらい輝いているらしい。
友希那の音楽人生における重要な相手というものがその人であり、きっと、自分が知らない友希那をたくさん知っている。
彼はその幼馴染について、何より強烈な悔しさを得ていた。
幼馴染というほほ笑ましい関係さえ、彼からするとほほ笑ましいだけではなくなってしまう。何か黒い概念として解釈してしまう。
そんな邪険に彼はもう一度嫌悪する。喉奥の重たいものをやり過ごし、夜空に焦点を投げ飛ばす。
もやついた黒色は消えてくれず、出てくるものとはため息だけだった。
この夜が友希那をあれほど乱すのなら、それならもう、永遠に夜でいいのかもしれない。
いいや。
「……寝よう」
彼は自分を強く律した。そしてこの月明かりを置き去りに薄闇に戻った。
友希那が居る、あの薄闇の中に。
ベッドの上の友希那は仰向けになっていた。
彼はその友希那の首を嗅ぐように接近してみた。適度な呼吸の音を聞くことができた。彼は姫の眠りを邪魔しないように慎重に隣に身体を落とし、その瞬間筋力を忘れた。
室内を通り抜ける薄い風が身に触れて撫でてくれる。夜の暗さも相まって、なんだか余計に冷たいように感じる。
凍える心地はそのまま意識にまで刺さってくる。彼は垂れるように首を横に向けてみた。薄闇の中を視線でかき分けてみると友希那が居る。
パジャマに身を包む友希那は当然隣にて眠り続けている。
彼はその瞬間何かせつない想いに捕らわれてしまう。友希那の真白い横顔が薄闇の中で美しい。
その友希那の起伏、輪郭の曲線、肉感そのものがありえないほど毒々しい。甘えてみたいなと彼は燃え上がる。
「ゆきなっ……」
男子は我慢など知らなかった。股間は無防備な友希那とはまるで対照的な調子ですでに組み上げられている。夜の中で息が上がっていた。彼は横から脱線するように友希那に抱き着いて嗅ぎはじめた。
「どうしたの?」
姫は意外にも落ち着いた態度だった。
少なくとも睡眠途中に男を嗅いだ生娘の顔ではなかった。首から上だけが少し起き、女体に引っ付いたままの彼を眺めている。彼は意に介さず友希那の胸を揉む。
「ちょっと、あなた――」
彼はもう男としての好奇心に歯止めがきかない。まるで自分が強引に友希那をこのベッドに打ち上げたような態度で両手を彼女の胸部に沈ませる。触れるものとはパジャマの布の質感だったがこの中には友希那の乳房が潜んでいる。膨らみは輪郭として指先に当たっている。それは脆いものではなく、彼は何か貴重そうな手つきで包み込む。友希那をパジャマごと揉む。友希那の輪郭は弾力として五指を受け入れている。
女体はその熱い指先が沈む度に反応して吊り上がる。まるで胸を強調しているようなかたちだった。彼はそういった一種の暴れ馬を上から押さえように蠢くがすぐに素手そのものがもどかしく成って顔で友希那へ向かってゆく。
それは友希那に引っ付いているのではなくむしろその逆だった。
彼は倒れてしまいそうな自分を友希那を使って保っている。友希那の大切な部分に頬を付けて鼻先を突き出している。煙たいパジャマの布と内部の熱に向かって深く呼吸をする。だが男子はより濃い雌を嗅ぎたい。その鼻先はやがて友希那の首元につく。
彼女の首元は卑しいものだった。少し不気味に肌色がひねられており、中から筋が浮き沈みしている。彼からするとそれは嬉しいものでありなんとも印象深いものだった。すかさず友希那に突っ伏し、その肉体とパジャマの複雑な部分を嗅いで味わった。
それは湿っていて、重たくて、酸っぱくて、いいにおいじゃないけれど、自分にとって別に悪いものではない。とても惹きつけられる。
そういうにおいだった。
友希那のにおいだった。
股間は握り拳のように燦然とさらに狭まり前のめりになっていた。
「あなたも、甘えたくなったのかしら」
彼が自分の下半身を剥こうとしていると、友希那の素手が背を包む。彼は友希那から頬に乳房を与えられていることを体験する。
「私は逃げないわ」
彼は友希那に補助されているような動きの中で彼女の胸に頬ずりをし、その中でいつの間にか自分の内面を吐露した。
「そんなことを、思っていたのね……」
すると友希那は語尾をふやかし、視線をどこか、視界ではない位置に迷わせる。
彼は腹の内を力んで備えていた。次に友希那から出てくるものはおそらく 責か、あるいは落胆なのだと思っていた。いいやそのどちらでもなく、愛情の尽きた後の呆れの顔かもしれない。どれかなど彼にはわからない。
だがとにかく彼は耐え忍ぶ心地だった。友希那のパジャマを握りしめていた。衣類は女体の素肌とはまた異なる柔らかさで抱き心地が温かった。
友希那は一切の思想を口にしなかった。
友希那は穏やかなままだった。白い手首がするりと起きて、甲のなだらかに伸びた肌も薄闇の中で浮き上がる。先端の五つの細いものは彼へすぐに至り、その指先は吸い付くように触れて男体を撫でる。
一切を厭わぬ友希那は彼をさすることを選んでいた。彼は母親の熱ですでに出来上がっている毛布の中に入ったような感覚を得る。
「これほどの密着を許す相手は、後にも先にも、あなただけよ」
友希那が優しい声を出す度に彼は鼻で反応する。彼の周囲には何か甘く、若干の深みを含んだ友希那のものが言葉に乗って舞っていた。彼はそれを鼻孔で受け取り、股間の己が研ぎ澄まされてゆくことを感じていた。彼は友希那の表情を仰いだ。友希那の呼吸の間隔さえ理解できる。友希那の顔は何よりも柔軟で広がりに富んでいる。一面が赤色で染まり、目元はとろけ、しかし奥には尽きることのない粘ついた熱が籠っている。
それは完全に男を許した顔だった。このまま彼に平伏してしまいそうな色だった。女性としての澄み切った余裕に在る情熱的な表情だった。
そういう顔を自分だけにみせている。
自分だけにしかしない顔。
もう、自分しか視ることができない顔。
彼は友希那の中でそういう部分を再確認し腰をこすりつける。それは蛞蝓か蛇が這って進む動作によく似た運動で、友希那のパジャマが相手をしてくれる。彼は友希那を嗅ぎながら乳房を揉む。その中で次に体験するものとは哀愁ではなく優越だった。
彼は音楽家として世界を舞台にしていた友希那の全容を知らなかった。
けれど音楽家ではなく、女性としての友希那のことは、誰よりも、何よりも、本当に、独占できているのかもしれない。
自由に眺めて肌に触れている彼はまた不安定に成る。自分の胸の奥の部分に湿り気が出現し、それは重たく彼を内側から激しく唸らせる。
この友希那に、もう一切を預けてしまいたい。
いけないものが溢れている。彼は流されてしまう。
「僕も、寂しいのかもしれない」
彼は餌を求める金魚のように何度も口をぱくぱくと迷わせた後、ついに友希那の中で少年に還った。
か弱さをもった男が求めるものとは女体の豊かさのみだった。彼は己を抑えることをしなかった。一切の欲を意中の友希那へ要求し行動する。彼女のパジャマに手刀を突き入れ、けれど丁寧に剥いていく。薄闇の中に肌色が出現する。
何もかもが寝静まる夜の中に肌色が出る状況とは、男に何かよからぬ香りをもたらす。それは先ほどのあの友希那の強襲に対しても同様に言えることで、今度は男児に還った彼が友希那を倒し、自分も女体の中に倒れ込み、胸部の位置のみを夜風に照らす。女体は彼に固定されている。まるで一方的で、だが仰向けの友希那は彼の猛撃を許していた。
友希那はベッドの中に肘を落として腕を広げている。彼はそれを合図とみなして母親の肌色を卑猥に観察しはじめる。
友希那の乳房は控えめだった。
胸部に房が実っているのではなく、たおやかな肌が男のために少し柔らかく膨らんでいるだけだった。その山脈の上には汗ばみがよく映る。光沢はたった少しの起伏にも艶を与え、彼は魅了されてゆく。彼は素早く友希那の極楽を両手で掴み、揉み、鼻頭で汗を舐め取る。そうして嗅いでいると感覚の全ての行き止まりに友希那が出現する。
「私のにおい、わかるかしら」
彼は友希那の濃厚な女性らしさの中にて吸引を続けている。それが返事だった。友希那の右腕はさらに深く進み、雌を嗅ぐ彼を肯定するようにうなじや頭部を補助する。
「いいわよ」
耳元より深い脳裡の位置にて友希那の声は反芻する。
「それで落ち着くのなら、いくらでも……」
彼は自分専用の母体の中に向かうのではなく戻る調子だった。友希那に抱えられたまま口はついに乳首に向かう。
友希那の二つ存在している中心部分は、まるでつねったように少し硬く溜まっている。
彼は誰かに教えられたわけでもなく右のそこに留まる。何か癒すような動きで乳首を濡らし、乳房そのものを唇で包む。肉を少し吸い出すように頬張ってみると口いっぱいに友希那が広がる。
その間、友希那は常に彼の頭部を抱いている。まるで友希那が彼に乳を与えているような様相で、彼は男児として友希那に保護されてゆく。彼女の股の中で足蹴にするようにパジャマを脱ぎ、すっかり滾った己を友希那に差し向ける。友希那の貴重な部分を暴き、ついに進入する。
「ちょっと……」
彼の熱い弾頭は大人の茂みをかき分ける。そして内部のひだを退かすように広げるがそこに貶す意図はない。男児はただ女体に順応するために中まで浸かる。友希那は男児の独占欲によって母親として剥けてゆく。
「まったく、仕方のない人ね」
彼は友希那の胎内に自分を捺印するため友希那を立派に抱きしめてみる。
だがその暴挙の後に追い詰められるのは友希那ではなく彼だった。彼は友希那からより純度の高い膣を受けてすぐに果ててしまう。まさに行き倒れような心地であり、脳は飛沫のように、肢体は泡のように女体の上で細かく弾ける。だが彼はそれで自分の意識を手放すわけではなく動き続ける。腰以外の全ての部位を友希那に置き去りにし、股間と股間をこすり合わせる。すぐに睾丸から絶頂が上がり、その衝動は自分を超えてくる。
「うう……!」
彼はまた友希那に落ちた。男女は重なり、股間が流し込まれている。彼は崩れながら精を吐き出していた。同時に友希那は肢体を硬くしていた。彼を抱き締め、膨らむように留まっていた。
彼女はその瞬間だけ呼吸を忘れていた。つまりは女性的な絶頂を彼の射精で体験していた。乳房に顔を埋める彼は股の部分で緩く震え、自由気ままに漏らしている。友希那はその吐き出された精液に反応していた。膨張する陰茎に反応していた。強張る尿道の硬い必死さによって友希那は彼と共に飛び出していた。
今の二人の中に残るものとは脱力だけだった。男体は力尽き、緩んだ女体に収まっている。彼は友希那と共に性の悦びに浸っている。男女関係における快楽を友希那と一緒に知り尽くし、さらに探求しようと歩んでいる。
それは幼馴染という友情の範疇では絶対に発生しない実りだった。この胎内の心地を幼馴染は知り得ないはずだった。彼が男であるからこそ発生している実りだった。
淫蕩な潤いと破裂のさ中、彼は、ああそうだ、と悟りに触れた。そして自分だけが居るこの胎内にさらに漏らした。友希那の膣は彼の射精に反応するようにその形を分厚いものに挽き直し、迷子の男児をそうするように彼を抱き上げてくれる。彼は友希那という母親に連れられていく。
それから彼は流石に顔を上げた。腰も離そうとしたが力が入らなかったため友希那が抱き締め横向きに倒れた。
股間の接続は継続したままだった。彼は友希那の左隣に身体を落としている。それはいつもの添い寝の体勢だった。友希那は長髪を流して彼を抱き締める。彼の顔は友希那の肩口に隠されているように収まる。
「落ち着いたかしら」
友希那の声が降ってくる。彼は首肯し鼻で深呼吸をした。
彼が現在身体を落としている位置とはもともと友希那が寝そべっていた場所だった。先ほどの性交によって飛散した汗が全てシーツに染み込んでおり、何か分厚いというか整えられている雰囲気の中に彼は友希那と共に埋もれていた。
つまり今の彼は自分の肢体をどのように動かしても変わらず皮膚のあちこちで友希那の湿り気を感じるということだった。
彼はまるで友希那から逃げるように友希那に潜り込んだ。女体に向かう睾丸は凝縮し、その後に彼は爽快感のようなものが己の中に再び駆け巡ることを虚脱の中で体験した。
「きもちいい……」
「よかったわ」
友希那はまるで彼のそういった睾丸内部を実際に目にして承認する口ぶりだった。彼は鼻先は先ほどから彼女の首元を離れない。その部分とは友希那のどの部位よりも友希那の風味が強く漂っているような気がする。彼は忠犬のように友希那を嗅ぐだけだった。
「時間を過去に戻すことはできない」
友希那は彼の頭部を撫でている。
「あなたも当然、理解していると思うけれど、だからこそ私たちは、未来をつくることができるはずよ」
彼は友希那の胸の中から彼女の表情を仰いでいた。
「……ずっと、居てくれるの?」
彼は呟いた。すると友希那の目が下がり、腕が引き締まる。
「ええ、もちろんよ。少なくとも、今の私の前にはもう、あなたしか居ないわ」
友希那はひとつの目覚めにあった。それはいわゆる覚醒だった。音楽に対する使命感や、女性としての立ち位置というものではなく、もっと根本的な、潜在的な、自分の概念というものを友希那はついに自認し、彼の弱い部分を受け入れている。
「それに私だって、あなたの今までが気にならないといったら、嘘になるわ」
彼がより友希那の奥へ進む度、友希那もまた彼を奥へ案内する。熱烈は表面から精神の部分に伝達され、男児は腰部分の動きをまたやんちゃに浮かせる。性的な蓄積はすぐに上限に達し、彼は二度目の破裂を友希那に圧し込むことになるがそれは特別大きな放出ではなかった。
彼は今、女体と自分の間の位置で勝手に漏らしてふやけているだけだった。彼の粘つきを受け止める友希那はその場で細かく蠕動し、彼を見守る。
排泄が終了した後、彼は毛布から頭だけを突き出すように動いて友希那の唇に迫った。
「ねぇ、おやすみのちゅーしたい……」
止まることは不可能であり、彼は友希那の母性へ崩落していた。
「一度だけよ」
友希那は厭わずに彼に重なった。彼は友希那を味わった。だが脳裡では一度きりという回数制限に焦りを得ていた。この場で友希那の唇を全て知り尽くさなければいけないような気がした。なんだか寂しかった。彼は名残惜しさを意識し友希那の内部を舌で一周した。
「待って」
そうして触れ合いが外れた後に友希那は顔を少し浮かせる。長髪の薄紫が幕のように流れている。友希那は別で口を震わせる。
「もう一度、あと、一回だけなら、いいわよ……」
そうしてまた、彼と友希那は受精のように口を合わせることになる。すぐに外れてみつめ合う。狭いこの空間の中、唾液の糸が弧を描いてくたびれる。
彼が肩を緩くしていると、巻き付いている友希那の腕がなんだか強張り、窄められた口が迫る。
「もう一度」
「ちゅー?」
彼がスプーンを差し込むように訊ねてみると友希那は頷いた。熟れた頬を隠すように数本がさする。盛りを終えた友希那は自分がそういう欲求を持つことにさえ慣れていない様子だった。
「まだ、したいの」
「いいよ」
彼は応えてうなじそのものを友希那に突き出す。男女は重なり、舌と舌で触れ合う。
いや、おかしい。彼は脳裡で想起した。自分が接吻を所望したはずなのに、いつの間にか自分のほうが接吻の許可を発言をしている。まるで我が儘な愛娘のお遊びに付き合う態度だった。彼は友希那の唇を受けて揉み合っていた。
わからないが、友希那の唇は気持ち良い。故に彼はあまり深く考えずに歌姫の口をいただいた。
「次の、ライブが決まったの」
互いの口周りを相手の唾液で充実させた後、友希那は新しい企画を彼にだけ知らせる。
「ライブ、するの……?」
「そうよ」
彼は友希那のぬくい声に吊り上げられていた。友希那は短く答えてくれた。すでに意思は決定されているらしく、相手に知らせるというよりは己の内なる熱意を強く示しているだけの眼差しだった。
「私がこれまで紡いできた音楽の全て、それをあなたに伝えるわ」
彼は脳と股間を同時に盛り上げている。すると友希那の顔は一瞬でとろけ、その瞳の奥にまた生娘が浮き出る。
「来て、くれるかしら」
「友希那――」
友希那はまるで彼がライブへの参戦をいちいち熟考すると思い込んでいる顔だった。慎重に事を窺う視線と、それでも何かわかっているような重厚な雰囲気で彼をみつめる。
ああはたして、これほど巧みな歌姫に討ち勝てる者など在るのだろうか。
固いものを嚥下した後、彼は首肯と共に期待の旨を伝えるばかりだった。
ライブ開催宣言を放った後の友希那にはひとつの劇的な変化があった。
はじめ、友希那は彼に対し何か隠しているような素振りだった。彼はそういった雰囲気を薄く読み取り、だが何も知らぬふりをした。
友希那はどこかそわそわしている。彼としては、これほどわかりやすい隠し事もないなという感覚だった。愉しく眺めているケもあるのだが、気になるものは気になってしまうため彼は夕食の際にもう堂々と訊ねてみた。
「曲を、作っているの」
友希那は変わらない態度で、汁物が入った温かい茶碗を置いて彼をみつめていた。
「新曲よ。といっても、まだ歌詞を書いているところだけれど」
「え……」
自分の愛娘が、お父さん私好きな人ができたの、と打ち明ける瞬間というものは、もしかしてこういう雰囲気のことをいうのだろうか。
だが別に彼は焦る必要などなかった。今、現実の友希那から出てきた新しい告発の中に他人など皆無だった。友希那の声が反芻する中、彼はまた、気になることを口に打つ。
「それは、僕のための……?」
「ええと……」
友希那の控えめな声が溶けた後、それから二人は食卓の間で頬を赤く唸らせる。何か時期が過ぎ去ることを必死に待つ態度だった。その後、二人はまた示し合わせたように息を吹き、汁物を啜った。
彼をしゃぶることに平気で半日を費やす友希那はリビングから消えて自室に籠った。
自室とはほぼ作業室のようなものだった。音楽的な機材や資料が設置されている空間で、友希那は一時的にそこを住処とし、楽曲制作に本格的に取り掛かった。
そういう彼女を眺める彼が真っ先に浮かべたものとは体調面での心配だった。友希那は風呂や食を忘れてとにかく創作を続けた。だが彼は何もできなかった。彼に何かできることはなかった。邪魔には成らないように努めるだけだった。
いいやそれこそが、今の友希那に対する最大限の愛なのだと確信し彼は過ごした。
だが友希那との触れ合いが発生しないこととは恋人として何よりも退屈なものだった。時間は通常よりも圧倒的にのろまに進み、彼の胸中は引きつるばかりだった。
だが彼は、それに対し不満を意識しているわけではなかった。
友希那はあの自室の中で自分に向けた曲を作っている。
独りの中でそれをじっくり意識してみると、いや、時間の速度は変わらないのだが、その進みの遅さの中に明るい香りが宿ることは事実だった。そして彼はそこからさらに己の倒錯を拡張した。つまり、ご馳走を作ってくれるご主人様のために行儀をよくして待てをする、という味を日々そのものの中に獲得した。
「……駄目だ」
友希那が好むはちみつティーを一杯、甘味のクッキーを少々、自分用の珈琲を一杯。
彼はむくりと起き上がる硬い己に急かされている。理性が引きずられている。何か焦らされているような心地さえある。
全ての軽食をひとつの御盆に丁寧に乗せ、彼は慎重に持った。そうしていざ、姫君の自室へ挑んだ。
彼が友希那の自室をノックする瞬間とは食事や風呂の知らせか、あるいは唐突な発情を報告する際だった。
作業中の友希那が部屋から出てくることはあまりなかった。だが友希那はいつでもはっきり返事をしてくれる。彼がどのような用件であろうが関係はない。彼は友希那の空返事というものを知らなかった。
扉越しに穏やかな会話をしてみると、彼はまるで、友希那と自分が仲の良い父と娘の関係に成ったような湿度を得る。
だが現在、彼の中に父性に似た気概は窺えない。御盆はしっかり両手で握っているが、その保持に自信は着色されていなかった。
扉をノックしようと勇む彼の中にはごっこ遊びとは別の欲望が含まれている。それは直線的であり情熱的であり不道徳的な感情で、だが彼はまるで自分には何もないような態度を造る。
いいや別に、この顔や佇まいが友希那に視認されるわけではないが、それでも立ち位置はしっかり整える。
ノックの後の返答は軽いものだった。
それは創作活動に執念を注ぐ者特有の息遣いだった。彼は何か叱られる直前のような切羽詰まったものを得るが友希那は彼を邪険にしているわけではなかった。
「お邪魔します……」
入室した途端、彼はまず己の顔面いっぱいに何か熱風のようなものを感じ取った。それは顔面に前方向からぶちまけられた感覚であり、息さえ詰まる心地だった。
だがその窒息感とはつまり悦びだった。彼は友希那の空気に歓迎されて彼女の机に歩む。
「あの、これ」
彼は友希那がついている机の右隣につき、御盆を軽く差し出した。対する友希那は視線を少し上げるが作業は止まらなず進んでいる。彼は机の隅の位置に御盆を置いた。同時に友希那の額がまた上がり毛髪がぱさりと揺れる。少し乱れた薄紫から重たい瞳が覗いた。
「ああ……」友希那は停止したまま声を張り、それから胸部そのものを机から起こす。顎先が壁掛けの時計に向かって目元が細くシワが寄る。「いつの間に、こんな時間……」
「うん。だから、休憩しようよ」
彼は御盆の中の珈琲カップに指をくぐらせ持ち上げようとする。
「いいえ」
しかし彼は友希那のひと声によって動作を停止した。
友希那は机の上のノートに顔を落としている。歌姫の美声とはいつ何時であろうと強い力を持つが今度のそれはひどく冷たいものだった。
「もう少し、続けるわ……」
友希那はやはり彼ではなく自分そのものを鼓舞する気概だった。それでノートにつき、ペンを走らせ続けている。
彼は横で棒立ちのまま友希那を眺めていた。友希那の周囲の空気が変動していることを皮膚で体験していた。一人の音楽家が本当の意味で創造する姿をはじめて前にしていた。息ではなく意識そのものが詰まる心地だったがなぜか息苦しいものではなかった。むしろ彼は別の箇所で興奮していた。彼が今まさに注視している部分とは友希那の横顔に乗る部位の色だった。
今の友希那は仮死状態だった。それはもちろん友希那そのものが本当に絶命したわけではなく、友希那の人間の表面に映るべき全ての感情が死滅しているということだった。
本来表情として浮くべき友希那の色は、今は人間の肉体ではない奥まった内側に宿っている。それは精神的なものであり、その精神は創作というかたちでノートの上に文字列として映し出されている。
つまり今、友希那はこの場で己の脳内世界をさらに広げている。そして練り上げた想いの全ては歌詞として出力されている。
それは生命誕生によく似たものだった。殺伐とした心地と神秘的な輝きが同時に宿り、彼は自分がより場違いなのだと自覚する。
一体、この子は何を考えて、どんな曲を造っているのだろう。
想ってみても外野の彼にはわからなかった。男の視界に映るものとは友希那という美女の横顔のみだった。肌の色や艶、部位の輪郭や位置関係、その一切を舐め廻したいと狼藉のように思うだけだった。突っ立ったままの男はそれだけだった。彼には彼女の脳裡の思考のその少しの片隅さえ読み取ることができない。無理なものだった。そしてそのようにただ見守るだけの立ち位置とは実にもどかしいものだった。
彼の中に新しく宿る情緒とはこの姫に討ち取られた感覚だった。
それは羞恥であり罪悪だった。
つい先ほどの入室直前のあのむらむらとした熱気の自分そのものが妙な恥だった。申し訳ないものだった。すでに嫌な歴史として脳裡で再生されていた。彼は喉の部分を詰めてみた。だが焦燥は消えなかった。何か自分がとてつもなくいけない行為に及んでいるような気がしていた。とにかくここに居たところで仕方がないとようやく考え付いた。
だが集中に浸る友希那のことが少しだけ名残惜しい。
それでも彼はひとつ見切りをつけて背を廻し扉へ向かった。足取りは控えめだった。自分の存在を友希那から隠すように浮いていた。
「待って」
彼にかけられた声とは当然友希那のものだった。それは冷酷な姫君ではなく穏やかな母性の声だった。男は極めて慎重な前かがみのまま停止して振り向いた。愛おしい友希那と目が合った。
「その大きなもの、どうするつもりなの?」
女性とは自分の乳房をみつめられるとそれに気付くとよく聞くが、男性の場合も少なからず同じらしい。
「えと、自分で――」
「私以外のところで勝手に出すなんて、私は許可していないわ」
彼は自分の行くべき場をようやく見定めた心地で歩み寄った。友希那は発火に在り、室内は全く別の熱気で一気に満ち足りる。
彼が姫君に最初に提示したこととは変わらず居てほしいということだった。
創作はそのまま続けてほしい。そういった彼の願望を聞いた友希那は流石に少しだけ動揺していた。行為に応じたくないのではなく彼の癖へ困惑していた。だがそれでも構わず指示に従うのだから彼は友希那からの多大な愛情を意識せざるを得ない。
その一連の感情は新たな楽曲制作にさえ到達しているため正真正銘の本意であり、確固たる信念であり、もはや彼さえ邪魔できないものだった。彼は友希那の寛容に付け込むかたちで己の硬く高ぶる欲望をまざまざと解放した。
操縦手たる彼は股間が自由に成った後、その部分でまず爽快感を意識した。
今まで、複雑な布に閉じ込められて詰められていたその表面に、気前よく空気が通り抜けている。膨れ上がった赤い先端部分はもちろん、竿や睾丸、付け根の位置や鬱蒼とした陰毛の間という全ての箇所にこの室内の空気が流れ込んでいる。
この空間とは当然友希那の自室だった。その中で股間を露出する彼は空気中の友希那を感じ取っていた。己の中で最も卑猥で最も正直な部位は今まさに空間の中の薄く舞う友希那そのものを体験して纏っている。
また、それと同時に彼は放出という体験にも遭遇していた。ズボンと下着という二つを脱いだことで、今までそこに凝縮されていた男の熱気というものが解放され、友希那の自室に流れて馴染んでいる。
雄の風味が生娘の空気感に登場している。それはちょっとした凌辱の気概さえ在る行為だったが全ては二人の中で容認されているものだった。故に何よりも安全で温かいものだった。そして彼は今のこの状況の中に純粋な凌辱とはまた異なる倒錯を意識していた。
もちろん、彼の人生の中に異性の何かを凌辱した経験など皆無だった。だが彼が男としてそういう妄想に浸ったことがないといえば嘘になるし、その架空の優位性のようなものを確かめながら独りで慰めた日がないわけではない。
そういった妄想家の彼はこの状況に舌鼓を打っている。密やかな願望というか、欲求を疑似的に満たすというものは、その行動を本当に起こすよりもよっぽど甘美な気がする。それは安全が保障されているからこその境地であり、彼は自分の癖の一切を許してくれる友希那にまた愛情の強いものを意識する。
友希那の楽曲制作は歌詞執筆を終え、ついに音を紡ぐ工程に突入しているようだった。
それでも見ために大きな変化はなかった。一心不乱で作業を進める中に美麗が在り彼は見惚れる。先ほど置いた御盆は隅に追いやられたままだった。そんなもの少しも視界に入っていないであろう歌姫が姫が独りで机に向かう姿には粛々と丁寧な品が視える。
性に一切の関心がなく、それどころか周囲のそのテの話をわけもなく毛嫌いしているような雰囲気がある。人間である以上、自分の中にだってそういう部分はあるはずなのに、自認にはまだ到達していないような、そういう方向性のお嬢様といった具合で友希那は楽曲制作に挑む。
右に立つ彼はそういった友希那の気品を粉々に破壊し否定する様相にある。彼は下半身のみをこのお嬢様に向かってさらけ出し、肥大化した自分をいかにも雄らしく手慣れた動作で遊ばせる。友希那の態度に変化は現れない。彼は横顔をみつめながらしごき続ける。
彼は、愛する者が懸命に仕事につくその姿さえ性的な満足のために使用している。
彼は友希那と自分の状況を比較し、そのちぐはぐとした位置関係を視てみる。そこには友希那の中の気品を貶すような色の他に、相手である友希那の明確な許しが混じっていることを彼は嗅ぎ取った。
自分の音楽の中に男を存在させ、性的な悦びに使用させるなど、かつての友希那では絶対に成立しなかっただろう。
卑猥を毛嫌いしていたかどうかなど知らないが、それでもこういう、湿り気にまみれた概念に対し眉を迷わせていたことは事実だった。当時の彼はそういう姫を陥落させることへのやる気や期待で満ちていた。
そうして教え込んでいるうちに、むしろ姫のほうが責めに転じる日さえ発生する。現在の友希那は、音楽家としての極みに至る傍ら、彼という自由な獣の相手を担う。
はたして、彼がそのように友希那を変えたのか、それとも友希那の中に、もともとそういう気質が在ったのか、これに関してもわからないが、少なくとも友希那がこの道に走った原因とは彼だった。この世界で二人出会ったところに全てが起因しており、彼女を独占する権利と最後まで付き添う責任が彼には確かにある。
今、現実において彼は、かつて自分がよく妄想していたあの状況に友希那と共に到達している。
友希那を愛する男として、これほど都合が良いこともない。
彼は友希那という奇跡に酔いながら己の滾った部分をさらに慰めてゆく。友希那の横顔に変化はない。無機質な顔で、だが手元の動作のみが機敏に動き続けている。彼は彼女の忙しない動作と動作によって生まれる音に集中し己をしごく。何かこの部屋の秩序のようなものから自分が外れているような心地に成る。例外というものであり、彼はある意味でこの部屋の支配者としてただ仕事をする友希那を肴にする。
友希那の心情の変化とは音楽のほうにも必ず現れる。性を知り、男を一人完璧に手玉に取る今の友希那はどのような音楽世界を披露してくれるのか。
彼はその部分により強い興味を意識した。そして陰茎のほうでもいよいよ最高潮に至る。
精において切羽詰まった男が次に脳裡で想起することとは排泄のことのみだった。自分の中の滾りを一体どこに委託すべきかという考えは他の思考を潰し、何か焦燥さえ感じる。
彼は自分の精液を友希那にぶっかけしたい。自分を無視し、淡々と進む楽曲制作の友希那の横から唐突に白いものを引っ掛けたい。そうしてこの神域そのものをとことんねばねばに汚したい。
野蛮な思考は彼の脳裡で雷雲のように蔓延し彼を雄にする。
けれど、ああ、駄目だ。
彼は自分の妄想を埃をそうするようにはたき落とす。
彼を正しているものとは友希那から事前にかけられたひとつの、だが強烈な言葉だった。
この身体と、机の周りにぶっかけするのは駄目よ。わかった?
脳裡にて当時の少し無機質な声が溢れ出た。脳裡の友希那は限界に触れそうな彼を引き留める。精神的に律されたということであり、さらに彼は何か自分が躾けられているような被虐的な香りを得る。
友希那との約束を破るなどありえないことだった。
故に彼は己を操縦する。発射寸前に至ると素手を穏やかにし、こぼれかけたものを引っ込める。だが最上の快感は常に味わいたいためしごく動きそのものはやめずに友希那の顔を視る。見惚れながら股間を刺激し、また溢れる前に素手を緩める。友希那の目線を追い、まるで一緒に楽曲制作に在るような態度で頷いてみたり、友希那の意見を求めるように顔を覗いて視線を当ててみる。音楽家の表情は変わらず、まるで彼のことを認識していないような顔で独りで続く。彼は股間で燃え上がりながら友希那の気を引く。友希那は何も合図を出さずに情熱を楽曲に込め続ける。
友希那の室内でしごくが、友希那に放つことは禁じられている。
自室という雌猫のテリトリーに進入してしまったが最後、主である友希那の言葉は絶対だった。
たとえ、彼がその雌猫を組み伏せることができるほどの強烈な性欲を含んでおり、そういうものがにおいとして友希那を誘い、今の状況を確立させていたとしても、それでも友希那の女性としての威厳は揺るがない。
「ゆきな、もう……」
彼は家来らしく進言する調子だった。友希那の視線は動かない。しかし素手が伸び、一つの箱を彼に向かわせる。
「出すのなら、これを使って」
主が命じたこととはそれだけだった。
彼は差し出されたティッシュボックスから素早く一枚を取った。亀頭のすぐ前に添え、逆に股間を動かすことで狙いを定めてしごき上げる。凝縮されたものたちは順調に昇り、彼は浮遊のような熱気で少し大げさに喘いでみる。それはなさけないものであり、彼は新しい屈辱じみた心地を意識する。
「でちゃう……」
この状況下、まさか独りの時のように、布の中に捨てるだなんて。
彼は両足を突っ張らせていよいよ腰を突き出す。
その瞬間、友希那の頭がありえない速度で動いた。整然としていた毛髪が揺れる。友希那が向かう先とは彼だった。肥えた亀頭が歌姫の唇に温かく保護される。
油断を突かれた彼が自身の射精を停止させることは不可能だった。
姫は座ったままだった。それで前傾姿勢だった。彼の方向に喉が伸び、唇で竿を捕えている。目は閉じており、彼の尿道の動きに合わせて唇と股間の距離が狭まる。長髪を耳にひょいとかけ、鼻息も彼を追う。彼は股間に友希那を持ったままそれまでの我慢を全て解き放つ。
友希那は至極協力的だった。いかにも姫らしく悦ばせることに務めている。
だがそれはみせかけに過ぎないものだった。
間抜けな男は自力で育てた欲望を横から全て奪われている。この雌猫は実に狡猾で、奪われた男は何か冷たい意識を得ていない。彼はむしろ友希那の支配が敷かれていることを心地の良いものとして体験し、喜悦に在る。
また、彼は先ほど抜き取った一枚の白紙をいつの間にか落としていた。本来精をぶちまけて誤魔化す予定だったものは今は羽のように落ち、彼を咥える彼女が造る影の中に着地している。
やがてその一枚の上に小さな斑点が浮く。彼の股間に接吻している様相の友希那はいつの間にか彼の腰を握っている。唾液が顎にまでしたたり、照明の光を受けてもなお友希那は彼を啜り上げる。
友希那は唇で尿道や亀頭を何度か揉んだ後、上体そのものを起こすような動作で彼から離れ去る。そして椅子の上で居住まいを正す。それは楽曲制作の合間に少し肩をほぐす程度の動きだった。
その後、友希那は唐突に机の隅に素手を伸ばす。指が摘まんだものとは御盆の上のはちみつティーのカップだった。姫はまさしくお茶会の要領でふちに口をつけて傾けた。
友希那の口元は丁寧にたたまれているが、その周囲は薄っすら白く濁っている。小さな毛も付着している。
だが友希那は構わずはちみつティーを飲んでいる。適量を口に流した後にまた上品な動きでカップが下がっていく。口元のぬめりをそのままに友希那はカップを御盆に戻し、それから彼を見上げて頬を廻しはじめた。
口腔内部の液体は極めて粒っぽく高速で混ざり合う。その弾けて震える音が十秒ほど鳴った後、友希那はそれを丸呑みするように大きく嚥下した。
「……ありがとう。とてもおいしかったわ」
友希那は熱気と共に口を開け礼を述べた。それから垂れ下がる亀頭にまた唇を落とし、口元の陰毛はそのまま、楽曲制作に戻っていく。
彼はリビングのソファーに居た。今は昼下がりで、気温も太陽も穏やかなものだった。ひと息つくにはちょうど良い空気が流れていた。
ライブに関する正確な概要を告知されたのは朝のことだった。
出演する音楽家はもちろん友希那一人だった。披露する楽曲は多くはないらしいが彼は満足だった。彼は友希那の全力の歌唱だけを強く望んでいた。彼女が全身全霊で歌うことができるのなら、どんな環境でも肯定できる気がした。
さらに今回のセットリストには新曲もあると友希那は話した。本来観客に新曲の情報など明かさないものだが特別だった。
他はもちろん彼でさえ聴いたことのない完全新規作成の楽曲がひとつ組み込まれている。
それはつまり彼に向けた曲であり、曲の中で語られるものとは自分だろうと彼は確信していた。
あの強烈な歌唱力から繰り出される想いとは、この世に存在したどんな恋文よりも濃密で価値がある。
彼がそうやって簡単に妄想していると足音が二階から降りてくる。それは自室に居た友希那のものだった。彼は音と自分の鼓動が共鳴して高鳴る体験に在った。友希那の足の音でさえ嗜みとして嗅ぐことに成功していた。友希那の心臓で自分の心臓を撫でられているような嬉しいものだった。
経験は無いが、女性を買って自室で待つ瞬間とはこういう心地のことをいうのかもしれない。
友希那に対して売買の意識など彼の中にはもちろん皆無だった。
ただ男として、あのテの火遊びに関心がないというのもまた嘘だった。
それでも彼はここに至るまでそれらの概念に一切手を出さなかった。
それはきっと自分の存在が友希那の存在に共鳴していたからだった。つまり彼という男は未来で巡り会う友希那という存在を最初からすでに感じ取っており、その未来に到達するために他への煩悩を滅却して進んでいたということだった。
「隣、いいかしら」
声に反応するかたちで彼は視線を上げた。顎の向かう先には友希那が立っていた。
今日の友希那の服装はおとなしい雰囲気だった。上は白色の長袖、下は黒色のタイトスカートとタイツを履いていた。
彼は友希那と知り合ってからこのタイトスカートというものを特別に好むようになっていた。腰の位置から女体にぴったり貼り付き太腿の輪郭や子宮の膨らみや膣の入り口さえ布の中で主張し、それ以外に大きな装飾はなく後はタイツか生足に任せるその雰囲気とはそれだけでひとつの猥褻なのだと彼は思っていた。
そしてそういったものを通常の洋服として使用する友希那のことがより際立った姫として映っている。
彼は無言で友希那の顔や股間を見渡し自分の左隣をすすめていた。友希那は軽く礼を述べた後に最低限の動作で着席する。彼の目にはその動作ももちろん卑猥に映っていた。
友希那が豊潤な腰を曲げ、まるでソファーに尻を突き出すような体勢に成った瞬間、タイトスカートの布は輪郭の上で薄く引き伸ばされる。それはスカートが中の肉の形に少し添って卑猥だとかそういうものではなく、内部の友希那という肉が布を突き破ってせり出てくるほどの印象だった。
彼は誘導されるように友希那の尻のみを横で眺めていた。撫で上げたい欲を抑えながらさりげなく少し前かがみに居住まいを正すが次はタイツに彩られた細い友希那の足が目に入り燃え上がる。座り込む二人の間に隙間はなかった。彼は左右の膝を揃えてほぼ直線の形だが、友希那はその横で左右の足先を左側に流している。というよりそれは丁寧に揃えた膝を彼の方向に寄せているような形だった。
彼は友希那の隣で当然呼吸をしていたが、吸引の中には友希那の髪の風味が含まれている。それから彼は何気ない態度でテーブルのリモコンを取り、また何気ない態度でテレビに向け、何気なくボタンを押して録画番組の棚を漁りはじめた。
「曲作り、どう?」
友希那の行動は全て把握済みだったがそういう問題ではなかった。こうして訊ねて本人から進捗を聞いてみたかった。
「少し、詰まっているの」
友希那は毅然とした態度で彼が操作するテレビの画面に顔を向けていた。だがその体躯はやはり彼の方向に少し倒れて肩が触れ合っている。首が男体に向く瞬間もあり、長い髪が艶やかに泳いでいた。
彼はそういった崩れている友希那のことをテレビの画面の反射で視ていた。
友希那の表情には変化が浮かんでいないが身体は確実に彼に向かって溶けていた。
彼は友希那の素手を握った。そしてリモコンで猫の映像を選んだ。すると友希那の体躯の勢いは増した。彼が大きく動いたことで限度を嗅ぎ取った友希那は彼の腿の上に素手を落とす。
彼は彼女の熱の籠っている体重を意識していた。身体の左半身が自分ではない甘い熱に包まれている。姫の顔には何も変化が窺えない。彼はリモコンの決定ボタンを押した。
映像はすぐに流れはじめた。すると友希那の顔、というより首から上の部分が彼から離脱した。視線は一瞬だけ画面に向かうがすぐに外れる。友希那は枕にそうするように額を彼の胸板に落とす。
リモコンをテーブルに置いた彼は友希那の腰に腕を廻して自分のほうに寄せた。もはや二人は並んで座るだとかそういうものではなかった。ソファーの一か所に二人でどうにか収まるように身体を絡ませ合っている。
「ねぇ、僕もやっぱりさ、音楽、はじめてみるよ」
「あなたも、音楽を?」
「ああ、やろうかなってね……」
彼は自分の目元のすぐ下の位置に収まる友希那の顔に進言する。
「ほら、たまに家事とか手伝ってもらってるのにさ、僕が何もしないのはどうなんだろう」
こうしていざ呟いてみると、案外滞りは現れないものだった。緊張や、否定への恐怖が特別強まるわけではなかった。
彼はそこに気付いて、それから表明は続く。
「助けに成りたいし、なにより、やってみたい」
それは真っ当な本心であり、友希那への愛情と全く同じで淀みは皆無だった。
テレビの中に流れる映像とは猫の映像だった。どこか知らない田舎の地域を闊歩する猫たちを至近距離で撮影している。人間の声や意思は一切介入しない類のものだった。
彼はその映像を横目に友希那にさらに触れていた。腰に廻した素手を動かし、つい先ほど妄想したあの撫で上げる動作を再現してみる。友希那の両足が引き締まるような動きをみせる。
その複雑にひねったような細い体躯はさらに狭まりながら彼の中に寄ってゆく。彼のすぐ近くにある全く別のものを必死に避けて彼の中に収まっている。
「ねぇ、僕が本気で音楽やるっていったら、友希那は教えてくれたりするのかな?」
「私が、あなたに……」
彼は真面目な口ぶりの友希那をさすっていた。腰の丸い形の上を自分の左手の定位置とし、まるで形を整えてやるような執拗な手つきを繰り返す。友希那は長い髪を揺らしながら彼の胸元に入り込むだけだった。肩や背や彼の中に薄紫が乱れながら触れて廻る。彼は友希那の質量を胴体そのもので感じていた。自分の内側に温かいものがめり込んでくる心地で穏やかになった。また彼はそういった雰囲気の中で友希那の他の肌色も嗅いでいた。首筋や頬の箇所に時おり軽く唇を触れさせて弾けることもやった。
その二人から遠い位置のテレビ画面の中では無数の野良猫が一か所に集まり、何やら会議のようなものを展開している。
友希那は彼の中から首のみを画面に向けていた。彼はそれを見守るように眺めていたが、友希那の口は肯定を口にする。
「そうね。構わないわ」
「ほんとに?」
「ええ。人にイチから教えるとなると、それはそれで、いい刺激になるかもしれないわ」
相手の音楽的技術向上ではなく自身の中の新たな発見に対しての期待感に高ぶっているらしい笑みだった。だがそれこそが彼の中に残る申し訳なさを消し飛ばしてくれるものだった。
「じゃあ、その時はよろしくお願いしようかな」
彼は素手を友希那の仙骨のほうに進めてから首を少し傾げてみせた。
「こちらこそ」
すると友希那はまるで彼の首元を嗅いでいるような位置に在り唇を緩ませた。いよいよ制限が利かない調子らしく、目元はトゥンクと潤み彼に近づいている。
彼はまた首を沈めて友希那に触れる。何かかき分けるような動きで彼女の内部を嗅ごうとし、耳をくすぐるように呟く。
「可愛いね、猫」
彼は微風のような声を出した。そのひと言は友希那の不意を突くものだった。彼女はかっくりと力を失くし首を落とす。毛髪がまた揺れ、彼の腹や股間の中で震えた。
彼はにやける顔を留めず友希那の腰や背を撫で続けた。
「猫、好きなんだっけ?」
「い、いいえ……」
「あれ、そうだっけ?」
「別に、好きでも嫌いでもないわ」
友希那は彼に撫でられたまま、己の中に在りもしない気丈というものを内側から取り出している。それであたかも今まで堅実に続いていたような態度を演じている。
その視線は彼の意識から逃げるように斜めに流れているのだが、目元の内に在る寵愛を隠すことはできていなかった。
彼はそういった友希那の可愛げを声で撫で上げる。
「好きなんだ、猫」
「……普通よ」
友希那は徹底した無関心に努めている。彼は自分のものがより穏やかに、重たく育つことを感じる。
テレビ画面の中では二匹の白い野良猫が覆い被さる体勢を終え、路地裏の向こうに去ってゆく。映像はそこで一度終了し、だがすぐにまた浮かび上がる。今度は灰色の猫の親子が堂々と映った。
「それよりもあなた。今日は他に、何か予定はあるのかしら」
「今日?」彼は変わらない態度で友希那をみつめてすぐに想起する。「いいや、もうないよ」
「何も、ないのね?」
友希那の視線は真剣で、故に彼も真面目な態度で応える。
「もう、休みかな」
「そうなのね……」
すると姫は本格的に彼の胸板に倒れ込む。彼は姫の小さな熱い重心を己の深い位置で体験する。友希那は自分の額や頬の部分で彼の表面を少し雑にこすっている。それは彼の硬さを感じているのではなく自分の色やにおいを与える動作だった。彼はその友希那の肩を抱き締め頭頂部を嗅ぐ。
「……昼寝でもしたいの?」
彼はあえて何も知らない態度を映して腰を浮かせてみる。すると友希那の素手が考えられない素早さで彼の衣類の裾を捕える。
「そこに居て」
平然とした顔だった。
自分の大胆な行動にさえ無関心そうな変わらない顔のままだった。それで彼が着席に戻ると獲物を抑えるが如く上半身で飛び掛かる。彼に対してのさばる調子で、耳の赤色を誤魔化しているようだった。
「友希那、まだ昼だよ……」
「どうして、時間を気にする必要があるのかしら」
友希那の唇や喉の動きそのものが彼の耳元に迫っている。
「大丈夫。しっかり、気持ち良くするわ」
ああ、まさか友希那が、これほど献身的に育つだなんて。
彼は己の股間をより硬く引き伸ばし、友希那の内部に流れ着く。
彼がテレビを消したことを皮切りに友希那はいよいよ熱をむき出しにする。
だが彼女のほうに脱衣があるわけではなかった。姫はあくまで慎ましい態度で彼に臨む。タイトスカートの下から覗くタイツの両足は重ねて揃えられており、スカートの表面にも足の大部分にも足と足が合わさり潰れる箇所にもそれぞれ別種の黒い艶が浮いている。
燃え上がる男女の中に他の意識は存在しない。彼は自分に流れ着いた彼女の背に腕を廻し、腰を掴み、自分の手元に引き寄せる。友希那は彼のジッパーを下ろしズボンを引き剥がす。
後に彼の中に出てきたものとは黒色のパンツだった。彼の股間に少し緩く被さる布は内側の彼の様子を示して待っている。友希那の左手はその蒸れた薄い布にさっそく対応する。
膨らむ股間の輪郭を一周した後、温めるように中心部分に収まる。股間に被さるように素手を止め、かと思えばまた動いて揉みほぐす。
それは見知った存在の調子を改めて確認する動きだった。小動物をあやす動きに似ている。彼はそういったもので自分の急所を尊重されている。だが友希那の腕は次の瞬間大きく動き、彼は何かあっという間の流れの中でシャツを脱がされてしまう。
その姫君のなんと繊細なことか。彼女は彼のシャツのボタンをするするとほどき、裾を退かす。金庫を打ち破った女盗賊のように肌色へ突っ伏してしまう。
膜のように貼り付く男の汗を友希那は厭わない。我が儘な唇は唾液で濡れている。雌猫は彼の左乳首に素早く到着し、こねるように舐めはじめる。
「友希那、乳首……」
「ええ、乳首よ」
友希那は平然とした顔で男の乳首に付属する。長髪が男体に触れ、液体のように下向きに自由に垂れる。友希那は彼の顔と胸板を交互にみつめて舌を動かしたり唇で吸い付く。
股間という部分を好みの女性に刺激されて燃え上がらない男は居ない。
しかし、そのテの刺激が乳首に至ると、反応する男は限られる傾向にある。
その点、彼は快感に対して敏感且つ素直な態度だった。
目下に居る友希那の小さい赤い舌が蠢く度、彼は腰をびくりと上擦らせることしかできなかった。友希那は容赦がなかった。舌先で弾くのではなく唇で胸に吸い付く瞬間もあった。彼は母乳ではなくの表面の汗を啜られる。
「ゆきなっ、ゆきなっ……」
まるで少女のように反応してしまうのは相手が友希那だからだと思いたい。
彼は与えられる快感への反応を隠したり誤魔化すことができなかった。己の弱点を友希那に知らせることしかできない。そして弱点のひとつである股間部分には友希那が這っている。姫はまだパンツに埋まったままの彼の弾頭を抑えながら彼の乳首を舐めている。彼は友希那に押さえつけられているような感覚に陥り、ソファーの上で男体を広げながら口元を喜悦で満たす。
やがて友希那の細い指先は彼の陰茎の中で最も敏感な筋のような部分に遭遇する。
彼の竿は今、パンツの中で上向きにたたまれた形で収納されている。つまり肥えた亀頭は彼の腹のほうに向いており、竿付け根や背面部分が内側からパンツを圧迫してこんもりと輪郭を担っている。
友希那はそういう彼と布越しに左手で逢っている。親指は雌を期待している彼の部分を的確に突き、絶頂の気配を誘い出す。それは指に付着した絵の具を彼の表面で潰して引いて伸ばす動きによく似たもので、やがて五指は股間から流れ落ちるように彼の下部に向かう。そこは彼の睾丸だった。友希那は彼の種汁がまさに製造される部位の表面を撫で上げる。彼という男の雄そのものを労うために細かくくすぐるように巡り、竿の付け根を揉みほぐす。
それらはまさに先ほどの彼の素手の動きだった。甘えてくる雌猫の相手をする雄の動きを、女豹と化した友希那は指で再現することで彼へ返している。それは上部の唇も同じで、彼という表面にめり込もうと勢いづいている。
彼の腰は透明な糸で吊り上げられている挙動だった。友希那に横から押えられているとはいえ痙攣のように動きすでに瀕死だった。すると友希那のほうに今までにない色が浮く。それはある種の我慢の限界だった。奉仕によって腰を震わせ続ける彼への躾の気迫が友希那の中で起動し、彼女は右腕をついに起動させる。
今まで何もしていなかった細腕は彼の背面を巡って男体の右側に這い寄った。たおやかな質感の袖に包まれた腕は彼を包むように抱くように引き締まる。
「ほら、じっとして……」
これで彼はもう逃げられない。最初、彼が友希那を自分の方に引き寄せていたが、友希那のほうも彼をがっしり固定し自分の中に留めている。友希那は女体とは異なる彼の角張った山脈に柔らかい自分の右肩を滑り込ませる。それは彼を横から抱きしめているような様相で、服ごと乳房をこすり付ける。
彼は、自分が一方的に惚れている音楽教師と個人的な秘密の授業に興じているような気分に成っていた。美人音楽教師の友希那は彼という児童に徹底的に付きっきりで、乳首や鈴口と尿道、それから周囲の溝を覆って自由に弄ぶ。
彼のことをある程度仕上げた後、友希那は唾液の音をめいっぱい引きずって一度勢い良く乳首から外れ去る。彼は自分の胸部が女体のように肥えたのではないかと温かく思ったが乳首は友希那の印象で焼けているだけだった。友希那の小さな唇には糸が乗り、その先は彼の乳首に繋がっていたがすぐに崩落する橋のようにタイトスカートや上半身に落ちた。
これから何をするのか、彼は勘ぐっていると音楽教師は自分の右手を持ち出した。
それは今まで彼の右側を持ち腰を握っていたあの右手だった。友希那は舌を伸ばしてその指を丁寧に舐めはじめた。だがそれは舐めているというよりは指の表面に唾液を塗って伸ばしているような調子だった。間もなく新しい光沢を得た細い指は糸を引きながら彼に向かってきた。
腕が描く動きは先ほどと同じだった。友希那は彼を背後から包み縛る。だが今度の右手は腰を握ることをしなかった。ならばどこに収まるのかというと、ぬるついた素手は男体の右の乳首を預かる。
それは乳首という一点を摘まんでいるというわけではなかった。彼は友希那の指と唾液に身体の右側そのものを包まれていた。口で対応してくれたあの感覚とは異なり、本当に握りしめられている感覚だった。
同時に友希那の左手も決起する。彼はパンツを簡単に脱がされてしまう。彼はその瞬間に友希那とはパンツを脱がせなかったのではなくあえて脱がさなかっただけなのだと思い知った。だが左手はまた彼を握らない。友希那は左手を受け皿のように自分に添えて唾液を落とし、五指をすぐにたたむ。それは唾液の熱を素手の中に閉じ込めるような素早さだった。
友希那の左手は何かを揉んでいるような動作でいくつか音を散らした後に最小限の動きで彼の竿に飛びついた。
それは隠し持った飴を他の児童にみつからないうちにひっそり手渡しする美人音楽教師のそれだった。
竿を握られた彼は当然友希那の中で飛び跳ねるが、彼女の右の指たちはそういった秘め事を待ちかねていたように気前よく動き出した。指は彼の中に埋まる勢いで乳首を弾きはじめる。左手も上下の運動を開始し、五指の中で彼の唾液を塗り付ける。その肘はあらぬ方向に角張りながら立ち、そして友希那の顔は残りの左乳首に再び舞い降りる。
「――逃がさないわ」
友希那は何か宣言のような調子で彼の懐で囁くように顎を上げる。彼の左乳首の周りを舌で数回巡る。それは肌という表面をさするのではなくペースト状のものをかき混ぜるような動きで、期待に満ちた彼の左はすぐに丸ごと熱気に含まれる。
友希那は何か吹っ切れている勢いだった。彼を叱りつける調子とおもねる穏やかな心地が同時にあった。左右の乳首はその友希那の中で最も熱され位置にめり込んでいる。唾液のざらついた音が鳴り、口は完全にひしゃげて雄を揉んでいる。敏感な彼は下から雌にみつめられつつ徹底的に躾けられている。自分の最も深い位置に友希那が収まっていることを悦びとして意識しその尻を撫で続ける。
というより今の彼にはそれしかできなかった。友希那の豊潤な尻に素手を当てて少し力むことで己を確立しておくことだけだった。姫は自分の乳房や毛髪を彼にこすり当てるように体躯を引き締めこの男体を接待し続ける。男の表面に寄り添った形に変動している。彼の全身を自分の全身で網羅する心地であり、それは巨大な楽器を独りで演奏しているような様相だった。
本来、恋人との昼下がりの時間に卑猥な湿度は登場しない。基本的にぬくもりのみで、山も谷もないまま進む。それこそが恋人関係における日中のはずで、至極平和に事柄は進む。
そういう中で男が唐突にエロスを持ち出すと女性は置き去りの心地を体験する。不機嫌に至り、正式な拒否を打ち出す。それは女性が悪いだとかそういうものではなく、単純に男が本来の場の雰囲気を読み取っておらず、異なった選択をしてしまうだけだった。
しかしこの友希那は異なっていた。友希那はむしろ男の股間を包んでいる。
己が常に性的な目で視られていることを理解し、その熱線を肯定していた。膨張の手助けさえ発動し、彼に添っている。
彼はやはり背徳に在った。時と場所を選ばない自分の欲情を許される瞬間というものは何にも勝る快感だった。きっとこの友希那は彼以上に彼の男性を知り尽くしている。
彼は、友希那からの個人的な強い感情というものをありありと意識する。こすられたり吸われたり、軽く噛みつかれたりする乳首の部分を眺めて悦に浸る。
するとその友希那の瞳が浮き、次いで口が離れる。
「目、みて」
友希那はそれだけを置いて乳首にさっさと戻っていった。彼は彼女の命令を素直に守ってそれ以降焦点を友希那の瞳の中に預けた。股間も十二分に過激に弾けている。我慢は長くは続かない。
「いいわよ……」
友希那は弱っている男に合わせてそれでも刺激的に搾精を続けてゆく。
「ほら、出して」
「友希那、もっと……」
「はやく出せっ」
友希那の重たい目つきと声が彼を同時に刺激する。何か、脳と股間を本当に友希那に握り潰されてしまう心地であり、彼は男として一気に自分が押し上げられて白いものを自由に打ち上げる。だが友希那の腕は口は指は少しも止まらない。むしろ弱った彼を冷静に発見し、そこに漬け込んで陥落しようと過激に前のめりに成る。
「ほら、もっと……」
彼は友希那の中で腰をへこつかせ射精し続ける。友希那の中で友希那に密着し、友希那にみつめられて友希那へ飛沫を打ち上げる。彼女の素手はそれでも駆け抜け、彼はやがて何か濁りの無い透明な粒のような弱いものを排泄する。
それは敗北だった。これほど心地のよい敗北もないだろう。彼は確信にあった。彼は敗北という概念におけるなんとも都合の良い部分のみを友希那から享受している。むき出しになった雄の弱弱しい部分に友希那の快感を捺印されている。
彼はそのままくたびれていった。もちろん友希那の腕の中で、表面に這う彼女の素手はその彼を追いかけるように動き続けていたが次第に勢いを失くして止まる。ぬるついた五指はそこを頼りにするように根本の部分に集合した。
彼はソファーに背を落としているがその頬に友希那の顔が迫った。彼は汗ばんだ頬に彼女の唇を体験した。
「お疲れさま」
それは褒美だった。主たる友希那の素手でしっかりと射精を完遂させたことによる報酬こそがこの口づけなのだと彼はまた確信していた。
股間に在る友希那の素手はそれから彼の表面の全てのぬめりを拭うような掬うような少し強い動作で上がって抜けていった。
「気持ち良かったかしら」
「ああ、とても……」彼は胡乱に口を浮かせる。「ゆきな、すき……」
「そう。よかったわ」
友希那は一曲歌い終えたあの瞬間によく似た顔で彼を一瞥し、それから水分補給のように素手を口に添えた。排泄後の彼にはその所作や身体の流れの全てが極めて美術的な価値に満ちたものとして映っていた。
雌猫は己の素手の中の粘液を舌で舐め取る。素手はすぐに肌色に戻り、閉じられた口からは何かを必死に咀嚼するような大げさな音と嚥下の硬い一撃が続けて鳴った。
彼はその姿をなんだか遠い位置から眺めていた。雌猫はまだまだ火照りにあるらしく、彼はああなんだか、この余裕の底に触れてみたい。
自分の中で、黒い湿度がふつふつと湧き上がっている。熱気はすぐさま股間へ集結し、彼は硬さを取り戻し女体に主張する。友希那の行動は素早いもので脱衣を開始している。
その手際は日々の中ですっかり洗練されており、友希那は泳いで衣類の中を通り抜けるようななめらかな動きで肌色を披露する。ソファーに座ったまま眺めて待つだけの彼は自分がこの熟達した姫を本当に買ったような心地に触れる。
「僕はここに居るから、君が、入れてみて」
全裸で改めて隣に座る友希那に対し彼は満足げな顔を向ける。だが姫は対照的なほど的を得ていなかった。彼はこのソファーの上で陰茎を前に突き出すように大きく開いて友希那に再度説明する。すると迷いが含まれていた顔が唐突に引き締まる。彼は不貞腐れている姫の目つきを体験する。
「足の裏、はずしちゃ駄目だよ」
多大な恥ずかしさ、それから少しばかりの悔しそうな色彩は友希那のその耳の先にまで上がってゆく。
「そんなもの、どこで知ったの……?」
それでも友希那の中に行為を拒否する感触は皆無だった。彼はそういった友希那の徹底された奉仕精神を下劣な意識で舐めしゃぶる。
発情した男が求めているものとは挿入であり、今の彼はソファーから動かない。
その上で女体の胎内を味わうためには通常の性交にはない動きを女性側が起こす必要がある。女性がソファーに乗り上げ、男をみつめて確かめつつ、慎重に腰で捕獲するしかない。
対面座位。そういう言葉を友希那が認識しているのか彼は知らない。渡したビデオで数度耳にしたかもしれない。
あの体位ほど男の征服感を満たすものはない。だが彼には友希那を征服したいという意識はあまりない。それでも今の友希那にその体位を演じてみてほしい。
先ほどの狩人じみた態度から一転、自分の真面目な部分を自分で破壊する。
股を大きく開き、跡形もなく落ちてくる友希那には確かな価値がある。彼はそれらを独占しながら果ててみたい。
期待に潤んだ目で友希那を視ていると彼女は肌を軋ませながら向かってくる。まずは両手が彼の両肩にかかり、二人は至近距離で互いの興奮状態を嗅ぐ。友希那の瞳の中にはひとつの覚悟というか、据わっているような色が在り、歌姫は彼の妄想通りの動きを実践する。
友希那は自分の下半身の全ての関節を余すことなく使用し彼に乗る。最初は右足で、その細い一本は何か彼やソファーの様子を視るような慎重な調子で宙に浮き、膝関節がかっくりと曲がる。太腿の影の部分に脹脛が収納されているような見ためで、膝がこんもりと栄えている。
友希那はその膝で大きな外回りを描くように動き、足先がソファーに触れる。それはまさしく出来立ての湯舟に向かう少女であり、ソファーの一か所は友希那の足裏の輪郭に添って陥没する。足首が股間のすぐ横の位置に落ち着いている。
友希那はそこでひと息つかず、次に床に取り残されたままの左足を一気に折り曲げる。それは足を己のほうに巻き取る調子で、足裏が勢い良くソファーにめり込んでくる。
これで友希那の身体は床から完全に離脱し彼に乗った。友希那が彼を押し倒しているような姿勢だったが実際に支配下に在るのはその友希那のほうで、彼女は彼のために特別に自分の内部をみせびらかしている。
「少し、危ないかしら……」
「倒れる時はこっちに来て。いざとなったら支えるから」
「わかったわ」
友希那は彼の表面や自分の股の部分を眺めながら冷静に呟いているが下半身はひどく堕落したものだった。
あれほどおとなしく潜んでいた両足は半ば強引にたたみ込まれて左右に展開されている。それは脹脛の上に太腿が被さり垂れているような見ためであり、肉と肉は互いに潰れ合っている。余裕のない肉厚は妙な変形をみせ、人為的には出せない魅惑の曲線が肌色の中に描かれる。何か膨れ上がっているような、胴体や股間部分を左右から圧迫し、とことん目立つ卑猥な印象だった。そしてその肥えた見ためは尻にまで続いている。友希那の臀部は何かのしわ寄せを受けたように愛らしく蓄えており、この場で身体の均衡を保とうと必死に反り返る背中と同様に不規則に震えている。
その波のような揺れは胴体や足にまで伝わっていた。特に彼に向かって開く二つの肉厚は羽のように細かい開閉動作を打ち、友希那は上向く膝を時おり肘の置き場にしながら己を整える。だがそれは身体を保って安定しているのではなくこのソファーという不安定な場の上でどうにか体幹を堪えている調子で、友希那は彼の肩を握り、軽く足踏みをする動作で足の位置を変える。腹に筋が浮き、背が電撃を受けたように反っている。
彼はそのような友希那の中でやはり機敏に動く毛先や鎖骨の浮き沈みに注目しながら手助けは最低限に抑えた。
彼女の尻の側面と足裏はほぼ一列に揃っているが、踵と土踏まずが剥がれるように宙に浮く瞬間がある。だがつま先のみが離れることはなく甲の部分は反っている。引きちぎれてしまうような様相で細い骨格が肌の中に浮く。
それでも友希那は彼から降りず、最低限同じ位置でどうにか身体を収めるために背を丸くして彼にかかる。
長い薄紫は背や肩から自由にくたりと垂れ、彼の上を少し滑って落ち着いた。
そういった彼女の動きを視る度に彼は爽快な心地に触れていた。
普段の友希那とはまさしく淑女であり、身体の全ての角は輪郭の内側に収まっているが、今はその細々とした態度から一転して拓けている。
そういうものを目の当たりにすると、彼は自分が友希那に向けていた全ての清らかな印象が流水のようにさっさと消えてゆく体験に至る。友希那という女性の印象が友希那によって破壊されている。
その中で彼が最も気にしている部分とはやはり股間だった。
そこは通常はどこよりも内側に在る神聖な友希那の部分だった。しかし今の友希那はそういった神聖な雰囲気さえ捨てている。そのため彼は友希那の股間が今どれだけ濡れているのかについて友希那よりも詳しくみつめることができている。
けれどその彼は何か行動を起こすわけではなかった。彼はただ、自分の上で慌てふためく友希那を眺めて股間の一本を強張らせる。
この場で動くべき肌色とは友希那のほうだった。彼という山頂に至った姫君は、次に彼の首を頼りに腰を踏ん張り、股間を咥える動作に突入する。
友希那は彼の頭部を抱きかかえるように腕を廻してさらに接近する。昼下がりの色が肌の中に浮き、細々としたその輪郭を際立たせる。ソファーに置き去りにした尻が少し浮いて彼の先端を咥え込む。
彼の独占の欲望が根本からくすぐられる。今度もまた王様の心地だった。まさに酔いに在る彼は友希那の腰をさりげなく撫で上げてみる。
男に跨る雌猫は一時的な鋭さを獲物に向ける。卑猥な肉厚はひとつの取っ掛かりのようなものを得て先端によく馴染む。友希那は汗まみれの背を丸めて顔を彼に突き出し彼に落下する。
「んんっ……!」
眼前で弾ける友希那を前に、彼は唐突に自分の転身を体験する。温かい海に沈んでしまうような心地だった。自分の背丈はとても縮み、逆に、対する友希那のことが巨大に思えてくる。
彼は自分が捕らえられている側であることを悟った。どこからともなくやってきた巨大な友希那という女体はソファーに上がり、自分は負かされ、食べられる。それは捕獲であり、故に肌と肌は密着して離れない。女体は男を包んで股間を這い上がり、頭部さえ越しながら咀嚼する。
彼はそういう幻想を友希那の胸部や鎖骨から漂う汗を嗅ぐ中で視ていた。
それは自分が友希那を従わせて支配するというものよりもよっぽど綺麗で心地の良い満足のいく正しい感覚だった。
その女体はすでに腰を駆動させている。彼は熟知している雌の肉ひだをまるではじめて味わうような心地で竿を強固にする。彼の左耳には何やら低い嬌声が湿っぽく落ちていた。それは友希那の嬌声だった。だがそれは男とまぐわう雌というよりは、ひたすら己の餌を貪る肉食動物の呻き声のようなものだった。
低い喘ぎ声とは友希那が自主的にそうしているものではなかった。いうならば人体構造のせいだった。彼を真上から頬張ることで友希那は普段の粘ついた性交とは別の交尾に到達し喘いでいる。
彼はその倒錯じみた声や鼻息を皮膚で嗜み、素手を友希那に廻す。左右から尻に触れる。肉はそちらの方向に垂れているような様相で突き出ており、彼は持ち上げながら自分も腰で女豹に対抗する。友希那の動きに鈍いものが発現し、やがて頭部が左肩に垂れてくる。
長髪はすっかり乱れており、その大部分は彼にかかるが、友希那の肩やうなじに貼り付くものもあった。前髪もそれであり、彼は友希那の汗や汗で貼り付く毛髪を嗅ぎながら背を撫でた。友希那は彼の真上でしゃがんでいるような体勢のまま止まっている。これが普段の彼であるのならここで優しい手を伸ばす。だが今の彼は今までのどの彼よりも加虐的に発現し、股間は少しだけ異なる気概に突入している。このまま友希那をさらに潰して濡らしてみたいと思っている。
「ほら、動いて」
彼は友希那の耳に熱を与える。それは燃料で、友希那は押されるようにうなじを引き伸ばす。彼に向かう長髪に新しい波が逆立ってにおいが換気のように真新しいものに変わる。
彼はそれを嗅ぎながら友希那の腰を両手で握り、耳元で唇を尖らせる。
「どうしたの?」
「ちょっと……」
友希那の吐息を追随するようにより近くで溶けてみる。
「ほら、動いていいよ」
友希那は声の代わりに毛髪を散らす。体躯は動くが、それは動いたという範囲に到達できない中途半端な部分で停止して沈んでしまう。友希那は胸そのもので呼吸し、連れられるように毛髪が流れている。
彼は少しだけ腰を跳ねさせてみる。友希那は何か腹の内から突き上がる声を彼の肩の位置で聞かせることになる。腰の部分も痺れた毛先もふわりと舞って、弱った悲鳴が短く漏れる。
「なんだか、これ……」友希那は彼の股間に臀部のみを乗せて大きく息を吐いた。「これ、壊れてしまいそう」
友希那は口で湿り気を彼に塗るが腰はやがて男の真上で動きはじめる。彼に胸部で抱き着いたまま、臀部のみを過激にさせて男体を耕す。
彼の弾頭が奥の入り口に触れる度、彼女の口から蒸気のような息が噴き出る。腰はすぐに上がるが、すると胎内の肥えた彼と肉ひだがこすれ合い、また友希那は重たい声を上げる。
それは大きな運動だった。友希那は彼にしがみついたまま彼のことを撫でていた。友希那は勢いを増していた。
「出して、ほら、中にっ……!」
友希那は彼を上から叱りつけるように駆動している。自分の上に友希那を広げているのではなく、友希那が自分の上で踊っている。それはいつものまぐわいと何ら変わらない関係性であり、男は姫の甘い息で精を肯定されている。
彼という探求者がたどり着く快感とは常に友希那だった。勝つことなど不可能だった。彼は最初から最後まで友希那という渦の中をさ迷っているだけだった。性において彼が友希那に敵うことはありえなかった。友希那の最深部で友希那の恩恵を友希那から与えられているだけだった。それが何よりも気持ち良かった。
男は自ら白濁の耽溺に突入してくたびれる。それは四散するような衝撃で、友希那の奥に打ち込むことになる。
だが破裂をしても友希那の尻は止まらない。
「逃がさないわ」
友希那は彼のうなじを抱き上げ口で接続する。彼が最後の一滴を友希那に渡すまで、彼女の汗ばみは続いてゆく。
友希那は自身の身体を普通と評しているが彼からするとそれは嘘だった。
友希那の体躯は確かに細いがそれは味わいが薄いというわけではなかった。華奢な体型として優れているということだった。
彼女の外も内も余すことなく味わう彼が思うのだから、そこに間違いなど無いはずだった。
そして彼は今、その友希那の中で最も高い肉厚を誇る部位に意識を集中させている。
まさしく、太腿。
何か、使命感にも似た観念によって絞られている腰のすぐ下でようやく大胆に伸びる太腿は、しかしだらしなく広がっているわけではなかった。むしろわきまえており、引き締まっておとなしく完成されている。
そこが今、彼に向かって突き出されている。
正確には解放されている。
友希那は彼へ太腿を許している。
膝枕を提案したのは友希那だった。この満腹の歌姫は行為を終えた後にすみやかに彼から降り、隣で彼を覗く。
「疲れているでしょう?」
友希那は先ほどからは考えられない丁寧な佇まいに満ちていた。彼の視線はまだ一糸纏わぬ彼女の太腿に向いて動かない。専用の枕というにはあまりにも贅沢で大胆だったが、ならば遠慮をするのかと尋ねられて首を縦に振る彼ではなかった。
そうして次は彼がソファーに乗り上げる。身体を倒し、彼女の柔肉にあやかっている。
だが彼はただ自分が友希那の柔らかいものの上に在るという感覚に留まっていなかった。この友希那の奥というか、複雑な深部に入り込んでいる心地で素肌に頬ずりをしていた。
すると友希那の素手が彼の上をするすると這う。彼は細く柔らかい指で頭部を撫でられる。いいや、それは撫でているものではなかった。今の姫は自分の膝の上にやってきた男に何気なく指を落として触れて軽く遊んでいるだけだった。
つまり今の彼は愛玩されているということだった。
「あなたの頭をこうして視ていると、なんだか、新鮮な気持ちになるわ」
今、友希那は彼の頭髪の向きを尊重するように素手を動かしている。指先の動きは毛づくろいの動きで、彼はまるで友希那の催眠にかかったように欠伸を落とす。
「昼寝が必要なのは、あなたのほうね」
「ああ、なんか、ごめん……」
彼は反射的に謝罪をした。友希那は特に何か反応を示すわけではなく彼を撫で続けた。空間がぬるく、時間さえ緩やかに流れている。
「散々搾り取ったのだから、このまま眠って」
友希那の声が上から注がれる。彼は軽く頷く動作を示し本格的に脱力する。
安堵感が広がっていた。それは熱波のように彼を溶かしてくれる。友希那の素手は彼のその停滞をさらに促進してくれる。
彼は最後の意識で友希那の女性について思考する。
はじめは自分が友希那を導き、友希那の身体を開発しているものだと思っていた。その開発は実際に順調そのもので進んでいたが、やがてある程度完遂したところまでいくと今度は友希那が腕を引き、多大な悦びを彼は受け取ることになった。
彼にとってそれはとことん予想外のことだった。
勝負を仕掛けるのはいつも彼だが、友希那をその気にさせて事に至ると、いつの間にか友希那のほうが上気に成る。最後は彼が白旗を上げて、汗ばみ、どちらがどれくらい勝っているのかなど誰にもわからぬまま行為が終結し二人で満足する。
何か、運命付けられているようなものさえ彼は意識する。
たとえばそれは世界の理だった。強烈な決定によって、自分という男は未来永劫友希那には敵わない。
彼はそういった得意の妄想に自分でなんだか納得してしまう。すると友希那のことがより色濃く映る。友希那は彼の頭部を一定の流れで撫でている。彼の意識はいよいよ薄く浮遊をはじめる。
彼は友希那の太腿の上で唐突に頭を動かして肌色に突っ伏す。彼女の肉厚の上で鼻頭が潰れ、彼はそこで呼吸を開始する。
「嗅がないで」
上から友希那の声がする。彼は優しく頭の位置を戻される。彼はもう一度首で友希那に挑戦し太腿の中を嗅ごうとする。
「ゆきな……」
口が動き、愛する者の名を形作っている。腕が浮き、彼は友希那の手を握る。
「仕方のない人ね」
彼を抱える歌姫は何か諦めたように腕を下ろし、彼はその落ちてくる素手により深くしがみつく。
「大丈夫よ。私はここに居るわ」
「うん……」
「みていてあげるから」
「うん……」
彼はそうして友希那の本当のところに流れ着く。
「おやすみ、友希那……」
「ええ、おやすみなさい」
彼は男女の性の優劣と友希那の魅力を賛歌し、見過ごすように己を閉じた。
羽丘女子学園生徒指導室のベッドに腰掛ける彼は一人の生徒について思考していた。
生徒の名前は湊友希那で現在高校三年生だった。成績や素行に何か突出したものはないが、個人的に友希那とは他の生徒よりも浮いている存在だと思っているのが彼だった。だが浮いているというのも友希那が他の生徒から卑屈な疎外感に在るというわけではなく、むしろ逆で友希那は何か王位についている風格だった。薄紫の長髪に強い意志を感じる瞳は女子高校生とは思えない美しさが宿っている。故に彼は廊下で友希那とすれ違う度に自分の身振りに気を配った。下僕のくだらない挙動で姫君の機嫌を損ねるなどありえなかった。
友希那の人間性の中に女子高校生以上の香りが宿る原因は明確に存在していた。それは友希那が音楽活動をしているからだった。彼はあまり音楽に詳しいものではなかったが、友希那はガールズバンドという活動にその身を賭しているようだった。実力は高いもので、プロの世界からも特別に意識されるような存在であるようだった。
友希那の音楽的活動を知った彼は納得と共に疑問も得ていた。友希那が音楽世界で歌姫として確立しているのは、最初からあのような風格を持っていたからなのか、それとも友希那自身は音楽家として歩み続けたことで今の風格を手にするに至ったのか。
彼はその問題に答えを向けることができなかった。そうして日々の中で悩んでいると、まるでそういう自分と引き合うように友希那との接点が増えていった。
友希那は外見こそまさしく姫君の風格だったが、意外と年相応の振る舞いや思考、遠慮などもある。それらを体験してゆく彼は、友希那の中にも強烈な人間的な深みが在ることを喜悦として嗜んだ。
つまり彼は生徒指導教師という立場として友希那のことを気に入っているということだった。
だがそれとこれとは話が別だった。
彼は先ほどから腰を下ろしているこの柔らかいベッドの上にて腰の位置をあらためた。
将来が約束されている音楽家の卵だとしても、不純異性交遊が見過ごされるわけではなかった。
友希那はまだ女子高校生であり、生娘であり、乙女であるべきだった。そこに汚れを寄越す存在など友希那には不必要だった。そして彼とは生徒指導の人間だった。不純なものに足を入れる生徒を指導することこそが自分の使命だった。
故に今日も友希那のことをこの部屋に呼んでいた。他の誰にもみつかってはいけないという何か使命感じみた甘美な心地が彼の脳からみつかった後のことをかき消した。
彼は一度いかにも教師らしい態度で咳をした。
それは合図であり、この寝室、ではなく生徒指導室の扉にノックが打たれる。
「湊友希那です……」
扉の向こうから聞こえてきたのは友希那の少し沈んだ声だった。彼は身体を動かさずに入室を促した。扉はすぐに開き、足の静かな音が迫ってくる。彼は顔を上げて立ち上がり友希那と向かい合う。
灰色の制服だった。
羽丘女子の制服にもう一度身を包んだ友希那はほぼ無表情のまま立っていた。彼は腕を伸ばして彼女の両肩を握った。友希那は無抵抗のままだった。彼は今、女子高校生を男として自由にしている。
素手の中で制服の質感を揉み、彼は友希那に抱き着いた。それは教師が恋人にするものではなく、三日ぶりに母親に会った幼い息子がするような包容だった。友希那は少しも動かずに居てくれる。彼はその彼女の背に腕を張り巡らせて友希那を必死に縛り付けた。どこにも行ってほしくなかった。友希那とは自分だけのものだった。制服の質感が体躯にめり込んでくる。彼は全身を使って友希那を揉むように蠢いた。制服を嗅ぐように鼻頭を肩口の部分に沈ませた後に耳元で息を吐いた。
「生徒指導を開始する」
ベッドが在る生徒指導室の中、彼は少しも知らない生徒指導教師の真似をしていた。
制服姿の友希那はベッドに腰掛ける彼の股の中に座っていた。友希那は彼の太腿に触れないように努めているようだったがそのようなことなど不可能であり、彼女の太腿や尻はスカートを巻き込みながら男の内側をこすっていた。
彼は友希那の後方から抱き着いた。すぐに腕を廻し、前方の乳房を揉む。だがそれは素手で房を嗜むのではなく腕そのもので胸部を潰すような心地だった。彼は友希那を揉むのではなく後ろから束縛しているだけだった。
「それで、いつから付き合ってたんだ?」
彼は友希那の右肩に顔を乗せて訊ねた。薄紫の長髪を鼻先や唇でかき分けるように接近し、彼女の頬を嗅いでいた。
「……半年前からよ」
「ああ、そうかい」
彼はぶっきらぼうな声だった。その腕は友希那の胸部を制服ごとかき混ぜている。彼は友希那ではなく友希那の女体に注力し、会話はまるで片手間のような雰囲気だった。
「先生はな、別に付き合うのをやめろってわけじゃないし、音楽もいいと思うんだ」
彼は友希那の首に接吻をしながら口を開いていた。友希那は彼の顔から退くように顎先を斜めに向けているが、そうすることでうなじがはっきりと伸び、むしろ彼を惹きつけた。
「けど、湊は今、学生なんだ……」彼はついに自分の股間を尻に押し付けた。股間で友希那のスカートを撫でた。すると友希那の肩幅が少し跳ね、その後太腿がさらに内側に狭まっていった。彼はそれを追いかけるように自分も体躯を狭めて全身で友希那を体験する。「なあ、もしこれが、僕以外の人にばれたら……」
彼は屈むように腹をへこませ背中を丸める友希那にのしかかり、耳の中に一瞬だけ舌をねじ込んだ。耳の中にある何かを舌先で貫いて引き抜くような動作だった。
「な、わかるよな?」
彼は友希那の肩に頬ずりをした。数本の毛髪が絡まっていたが当然歓迎していた。自分の身体の内側に友希那の熱と制服の硬い質感を意識していた。
その友希那は背中を反り上げながら彼のほうを視た。
「私は、何をすればいいの……」
涙を噛み殺す友希那を認めた彼は腕を彼女の臀部に廻して女体を抱き締めた。彼の衣類と友希那の制服がこすれる音が鳴った。
「安心しろ」彼は友希那の近くで低く呻いた。「先生が、守ってやる」
それは彼が普段射精をする際のものと変わらない湿度の声質だった。
彼の胸中には愉悦があった。この少しずつ足場を削り追い詰める感覚とは野性的でなく人間的な支配の感覚であり、彼はまさしく生徒指導教師として友希那に不純を強要する。
「ではまず……」
彼は何か大儀そうな口調で友希那を上から指差し、まずは跪けと命令してみた。友希那は立ち上がって彼に振り向くと力が抜けたようにその場にしゃがんだ。彼は立ち上がり、足元を確認するように睨んだ。友希那が居た。
ちょうど股間の位置に落ちた友希那の顔は小さいものだった。ズボンの中ですでに勃起し、ズボンをこんもりと膨らませる彼の股間よりも小さいように思える。また、しゃがんで居住まいを正す友希那のほうから人体ではない音が聞こえてくる。それは彼女が着ている制服の音だった。少し分厚い衣類がこすれる音だった。中のワイシャツがブレザーとこすれ合っている。友希那は後方にスカートを乗せた尻を突き出すように跪いている。
今の友希那の中にステージの上で輝く歌姫などというものは跡形もなかった。
また、彼自身が日頃から友希那に向けていたどこか猫のような雰囲気さえ、今の姿からは嗅ぐことはできなかった。
たたまれた両足は土踏まずさえ浮き、つま先のみが床に触れている。指で必死に力んで崩れないようにしていることがタイツの歪みで彼にも理解できる。太腿と脹脛が重なる両足はスカートの下から覗き、それらはそれぞれ床に対して平行に広がっている。灰色に包まれた細腕はその足に引っ掛けて垂れ下がる様相だった。小さい顔の中のさらにつぶらな瞳は男を見上げて次の命令を待っている。
「犬だな」
彼は豪胆そうな口ぶりを作って友希那にズボンと下着を下ろさせることを命令した。友希那は何か不服そうな顔を数秒彼にみせつけた後に固唾を飲んでベルトに手を伸ばした。
今の彼は一般的なオフィスカジュアルだった。下半身は黒、上にはジャケットを羽織らずワイシャツのみだった。
友希那は彼の金具を少し手こずりながらも解放し、ジッパーを剥いた後に下着ごとズボンを勢い良く下げた。
「――きゃっ!」
前方向に飛び出した陰茎の先端は友希那の右頬のすぐ横を大きく通り抜けて発揮した。
「大きいかな」
「ええ」友希那の瞳はすぐに竿に向かい、やがて鼻先さえそちらに向く。「普段よりも……」
「普段?」
「あ、ええと……」彼が突くと友希那は顔を竿に向けたまま再び固唾を下した。瞳の中には消えかけた硬い光が再建されていた。「その、彼のものよりも」
「大きいんだ。彼氏のよりも」
彼は口ずさむように確認しつつ腰を友希那の頬に向けて押し込んだ。竿の先端が頬の肉を押し、彼の熱の中に姫の柔らかい質感が現れた。彼はそのまま友希那の頭部を両手で掴んで腰を数回動かした。そうすることでこの姫とやらに竿をみせつけた。みせつけることで強さを示した。歌姫としてもてはやされているがそれは所詮お遊びであり、実際には姫などではなく雄にひれ伏すだけの肉壺であるという現実を陰茎そのもので主張した。
「じゃあ、舐めろ」
彼は友希那の頭から手を離してまた命令した。語気を鋭く深くすることに集中していたがそういった力みは股間にも現れ、竿はまるで友希那の唇を待ち望んでいるように一回だけびくりを上向きに跳ねた。友希那はその竿や彼の顔を睨んだ。目頭の部分が軽く潰れる程度の眼力で、それでも女子生徒は彼の腰を左右で握り、身体そのもので竿に接近した。
だがそれは体勢を崩したというわけではなかった。友希那は身体のおおよその形を保ったまま、それでも胴体を薄く引き伸ばすことで男に対して前のめりに成った。背中が大きく反り立つことで制服の音がまた鳴っている。かつての歌姫は胸部そのものを彼という上方向に突き出すように股間に付属する。開いた口は歌を紡ぐのではなく男を気持ち良くさせるために男に添って動きはじめる。
友希那は自分が会得しているありとあらゆる技を連続で使用して彼の陰茎を舐めた。
まず最初に亀頭を唇で包み舌先で揉み、唾液で光沢を与えた後に竿の全ての箇所に順番に接吻する。下に到着すると睾丸を舐める。だがそれは汚れを取るのではなく睾丸を飴玉のように舌でかき回すという動作で、ひと通り整えた後に友希那は根本から竿をついばむように口を動かして上がって竿を丸呑みした。
そこから続くものとは実に慌ただしい頭部の動きで、引っ張られるように、あるいは連れられてしまうように長髪が少しずつ肩を越して垂れて揺れた。
友希那は彼の顔を眺めながら竿を少ししゃぶった後に口を離し、首っぽい溝部分を舌先で清掃した後にまた亀頭を唾液でべっとりと濡らした。
彼はその全ての技術を目の当たりにしていた。それはあまりにも素早い行動だった。彼はそれを何か誇らしい態度で味わっている。
友希那の口淫の全てを目の当たりにしている今の時間とはつまり二人きりの授業参観だった。
彼は友希那の父親として、娘が自慢の口淫の技術を披露する瞬間というものを自分の竿で体験している。
父親であるのなら娘の成長を全て見守るべきであり、故に中途半端な部分で果てるわけにはいかない。むしろ娘を負かし、射精を言葉で催促されるほどに成らなくてはいけない。
そういった義務感のようなものは彼の胆力の底上げに役に立った。股間部分を踏ん張り放出を耐えていた。力強く押さえ込むような具合だった。だが彼の踏ん張りを理解している相手こそが友希那だった。
友希那はひとつの境を越えた時から彼の腰を握るのではなく抱き締めた。そして口ではなく喉のみを使用し竿をしごいた。それもまた彼女の技量のひとつであり、歌姫特有の喉の柔らかさを受ける彼はおちんちんが自分はこの子の恋人だと勘違いしてしまうなどと思った。
そして女豹は次にいかにもこのシチュエーションに合っていそうな言葉を紡ぐ。
「はやく出して」その口ぶりはやはり不服そうなものだった。喉から離れた竿は右手でしごいている。「……彼が待っているの」
「彼……」その瞬間彼は背筋の部分から燃え盛るものを体験した。「彼氏にさ、こういうこと、したことあるの?」
「ないわ」友希那は一度だけ竿を舐め上げた後に彼をまた見上げた。「だからはやくしてちょうだい。はやく、射精して」
「そうなんだ……」
彼は川に流すような情緒で言葉を吐いていた。股間では友希那が再開して彼は責められる。だが彼は限界の脳裡ですでに別の趣味を友希那に向けてみたいと想起していた。
「ねぇ、顔にかけられたことはある?」
「顔に?」友希那の動きが停止した。「ないわ」
言い置いた後に続く友希那の頭頂部に彼は命令する。
「じゃあ、ぶっかけさせろ」
女子生徒の友希那はすると彼から喉を外し、代わりに竿全体を高速でしごきはじめた。表面はすでに唾液で満ちているため五指が前後する度に何か卑猥な水の音が鳴った。
友希那はそれで終わらず彼に舌を突き出した。それはみせつけているようなかたちであり、鈴口はその方向を狙っていた。
「いいわよ、らひて……」
友希那は股を閉じて彼に正座した。左手で腰を固定し、右手で竿をしごいていた。舌や顔はただ突き出されているものではなかった。それは彼という人間のすぐ下の最も心地の良い部分に差し込まれているものだった。友希那は受け皿に徹して動くことはなかった。
それは教師の言いなりの女子生徒ではなかった。権力に屈するしかない歌姫の姿でもなかった。それは彼のことを夫と認め、夫の性の世話をする妻の姿だった。灰色の制服がただ一点の異質であり背徳だった。友希那は女子生徒という身分でありながら男の性を支える。覚悟や寵愛とは友希那が個人的に音楽に向けているものとは別種の感情だった。己の全てをさらけ出す許しの心地に満ちていた。彼は自分専用の女子に射精するための場をその女子に整えてもらっている。
「いくっ……」
前に突き出すような動きと共に彼は爽快を得た。自分の一点から粘ついたものが放出される感覚は確かなものとして在り、彼はその精液を友希那に向かって引っ掛けた。
何本もの白い線は鞭のように友希那に飛散した。だがそれは彼という一方向から飛び出ているのではなく唐突に瞬間移動のように顔の上に出現したという様相であり、受け止める友希那はその熱気や少しの重たい感覚に声を上げた。白いものは大きく開かれたままの口腔を横断し、目元もまるで避けて前髪や頬に着地していた。
受け皿に徹していた友希那は遅れて目を開けた。精液たちはその形を崩さずに歌姫の顔面に乗っかったままだった。
友希那はそれを舐め取ることも指で掬い上げることもせず、体勢さえ変えずに彼を見上げた。いつもの整然とした顔つきで、だがその全容は彼の濁った白色が覆い尽くしている。
「満足したかしら?」
友希那の口ぶりもまたいつものものだったがそこには少しざらついた質感が浮いていた。立場を利用した鬼畜からぶっかけを強要された後の無力な女子生徒の鋭さを友希那は完璧な演技力で自分の中に再現していた。顔じゅうにしたたるものは顎に集結し雫として制服の上にぽたぽたと落ちていた。
友希那はそれから彼の感謝の言葉を待たずに顔を拭く作業に移った。顔はすぐに綺麗になったが制服の汚れは消えなかった。自分の胸元を叩くようにこすった後にハンカチを上げて確認し、色濃く成った灰色を視てまるでカップ数が上がっていないことに落胆する女子中学生のような顔をどこに示すわけでもなく造る友希那のことを彼はベッドに腰掛けながら眺めていた。
その後、友希那は部屋を出ようとする。だが彼はその腕を握って女子生徒を室内に留める。
「何よ……」
扉に向かう友希那は後方の彼に顔のみを流している。彼は窓から入る夕暮れの橙と影の黒の二色で化粧をした友希那をみつめ、けれどそこに見惚れるのではなく何か下衆のような顔を造る。
彼は何か明確な台詞を放つのではなく彼女の素手を自分の股間に誘い入れた。細い肉体の中のさらに細い部位の先端が触れ、同時に友希那の中に困惑と驚きの色が浮く。
「どうしてまだ大きいの……」
彼は息を呑んでいる友希那を室内に改めて引き入れた。向かう先とはもちろんベッドで、到着すると友希那は何か思考ではない規則や習わしに従う動きで自分の制服のボタンを外そうとする。
「まって」
彼はその手を差し押さえた。制服は脱いでほしくなかった。今の友希那にとってこの制服とはひとつの証明だった。自分は高校生という若い娘であり、さらに卑しい生徒指導の男につまみ食いをされてしまう弱い立場であるという証明こそがこの服だった。故に脱がせることはせずに愉しむと彼は決めていた。
彼は友希那の腕を持ち四つん這いを組み上げ、突き出た臀部を握り込む。尻に被さるスカートの中に手を入れてパンツを下ろし、女子生徒の胎内に進もうとする。
「まって――」
彼の熱いものが潤んだ部分に触れた途端、友希那は長髪を引きずるように首を廻す。背中から落ちたものはシーツの上を滑るようにあちこちに散っている。友希那は肩口を強くする。
「か、彼氏が居るのよっ……?」
「だから?」
だが彼は何か薄情な態度を打ち、友希那の尻が逃げないように左右の腕を少し強くする。友希那はまるで泣いているような目元を彼に向けていたが彼は無視して腰を狭める。閉じ切った肉壁をこじ開けて進み、美しい尻をスカートごと歪ませた。感度は良好だった。友希那は背中や肩を痙攣させて毛先を泳がせている。彼はその後方にて何も気にしていないような態度で腰をはじめる。
彼は友希那の腰を掴んでいた。素手が実際に触れているものとは灰色のブレザーの質感だった。彼はまさに校則のように分厚く硬い布に手汗を刷り込むように掌握し、腰を無理やりねじ込んで友希那の女を味わう。その接合部分はスカートの中に隠れている。それは友希那の中の女子生徒が彼との逢瀬を隠しているようにも思えるが、そのいかにも女子生徒らしい憧れの衣類は彼が腰で友希那の尻に密着する度に本来の角度やクセを無視してくしゃくしゃに潰れる。そうして股間同士が止まらずにこすれ合うと友希那の中から徐々に甘い声が漏れ、頭部が陥落のように下向きに成る。長い薄紫の数本は制服の上に這ったままで、彼はそこからに友希那というひとりの女子生徒の背を目で追う日々をまるで本当に経験したような純度で妄想する。
強い光が差し込み、室内はいよいよ橙色に潰れてしまう。それはまさしく暮れであり、他の生徒は影を引きずって帰宅している。教師連中も何かひと息ついている。
だがその中、彼はこの室内で友希那という女生徒を食らっている。自分たち二人だけは、周囲の何か哀愁のある部分とは全く別の境地に居る。それはまるで二人で別世界にたどり着いたような心地で、いいや今の友希那は生徒でありこの行為には不本意なのだが、行為を他の誰かが知ることは絶対になく、まさに秘め事として進行する。
互い以外の人間が介入してこない状況とは究極の独占であり、そこに興じる彼は己の生そのものに悦びを得る。
「出すぞ……」
彼はそうして友希那の耳元で囁いてみる。それはひとつの合図のようなもので、彼女は唐突に肢体を慌てさせる。
「まって――」
だが彼は腰の動きを停止させない。胸部そのものをベッドに突っ伏す友希那の唯一突き出た尻に腰で乗り、上から突くように動いている。
「待って……」
「はは、さっきからそれだけだな、友希那……」
彼は友希那を抱き締める自分の腕を靴紐のように縛り直し腰を揺さぶる。それは関節を使用した明確な運動ではなかった。この友希那とは常に引っ付いて揉み合っていたい。彼は友希那の尻の部分に己の股間をこすり当てたまま一緒に揺れている。
「ああ、駄目……」
友希那はまるでベッドに頬ずりをするように動いている。両足の膝関節から先の部分のみがおまけのように抵抗しているが彼は止まらなかった。生娘ごときのそれが彼に敵うわけない。彼はベッドの上で放置にある彼女の両腕を上から押えて指の隙間に入り込む。
「ほら、出すぞっ」
彼は友希那の耳元でまるで強引な恋人の口ぶりをした。足さえ落ち、完全にうつ伏せに成る友希那に同じようにうつ伏せで被さる。そして尻に股間を押し当て破裂してゆく。
「うう……」
友希那は今ベッドの上で広がっていた。左右の足の膝は外に向き、適当な軽い角度で曲がっている。その上に大胆に這っているのが彼だった。友希那を五臓六腑で体験し、雄の部分で制服の内部に割り込む。奥底で種を仕込んでおく。
「なんで、中……」
友希那はシーツの適当な位置を握りしめていた。彼は教師らしく説き伏せるのではなく雄らしく腰をめり込ませる。それで友希那を潰して黙らせ、拓いた中にさらに射精する。歌姫の喉から低くざらついた声が背筋と共に吊り上がる。胎内では彼が女性の神秘を食い尽くしている。
彼は友希那の耳を追って唇で食んだ。それから腰を動かした。それはこねるような動作だった。友希那の小ぶりな尻の上で緩く廻し、友希那の高校生時代をすり潰す。大切な愛しい友希那の奥の奥に自分という男をしっかりと塗り込み、また内部にて自由気ままに排泄する。
友希那はベッドの上で彼をしっかりと飲んでいる。彼が尿道で浮き立つ度に、汗まみれの喉で引きつった声を出す。
胎内での射精を終えた彼はすぐさま彼女から抜き去り、次いで彼女の顔に向かった。拓いた自分の股間に姫の顔を入れ込むような動作であり、友希那の顔はやがて浮かび上がって彼に付属する。
彼の今の陰茎は敏感でさらにぬめめっているのだが友希那は厭わず舌で清掃した。舌先で軽くさする程度の刺激で十分だった。陰茎は内部で新しい芯が入ったように再起動を果たして友希那を惹きつける。
「また、するのでしょう?」
「い、いいの?」
友希那の頭部を撫でる彼は呟いた。
「……一度だけよ」
友希那は彼の睾丸に語り掛けるようにした後に清掃を再開した。犬であり猫であり姫であり母親である友希那の繊細な舌遣いを彼は睾丸で受け止めた。睾丸とは彼の種子が生成される箇所であり、そこを積極的に愛撫する友希那とは本当の意味で彼に対し添い遂げる誓いを向けているということだった。
これからは自慰行為など一切せずにわき上がる性欲は友希那で処理しようと思った。
彼が友希那の誘いを受けた瞬間この生徒指導室は生徒指導室ではなくなった。
彼はくしゃくしゃに潰れたスカートを脱いだ友希那にベッドに腰掛けることをお願いした。友希那は穏やかに対応し、むき出しの太腿やちょろんと伸びている翼のようなワイシャツを気にせず落ち着いた。
彼は友希那に授乳手コキというものを説明しながらベッドに乗り上げ友希那に上半身を預けた。右側で倒れ込んで太腿に乗る調子だった。友希那は左手を彼の下側から廻して頭部を支えた。
女子高校生が男を一人抱きかかえている様相だった。
彼は友希那の太腿の位置から友希那を見上げている。胸部が薄いおかげで全容を仰ぐことができる。
この姫は変わらない顔つきだったが衣類は制服だった。数年前に実際に友希那が着て学業に勤しんでいたあの時の服を再度持ち出し、だが今は学業などではなく男を悦ばせることに注力している。
勉学と性交というものは対極に位置する概念だと彼は思っている。故に制服でそちらに従事するというものは卑猥な背徳や倒錯以外の何かぎくしゃくとした気概がありそうなものだが、友希那は特に嫌な顔をせず灰色の細腕は股間に向かう。
彼の股間とはすでに広げらており、愛する者に掌握される準備まで完了している。友希那は五指でそれの根本に到着し、しっかりと包んだ後にしごきはじめた。
彼は友希那の体臭や制服を嗅ぎながら股間の刺激を嗜んでいた。それで自分の頭を友希那のより深い位置に移動させてみる。
彼が今居る位置とは友希那の太腿であり、股間や子宮もすぐ近くに在る。
彼は顔を少しそちらに傾け、突っ伏すようにめり込んでいった。友希那の女性や母性に逢うことができるような気がした。実際に触れるものとは制服の硬い質感で、彼はそれを体験するのではなくそこに自分の肌の脂や体臭をこすり付けるためにより深く動いた。布とは異なる明らかに硬いボタンの質感や、裾のより分厚い心地が肌の上に明確に触れる。
そうしていると、友希那のほうも何か屈むように体勢を変えてくる。胸部を前のめりにすることで彼がどこかにこぼれ落ちないようにする。友希那の内部に入り込んだ彼は上から垂れ下がる薄紫の長髪も嗅いでいた。肌のどの箇所にもない独特な脂のような甘い風味の中には熱も含まれている。彼は鼻孔や頬でそれらを全て嗜み、さらに制服に頬ずりを続ける。友希那の学生の部分と女性の美味しい部分を同時に食べる。股間をさらに凝縮してゆく。
「あの……」友希那は素手の動きを加速させながら彼に口を開いた。「これ、授乳なのよね?」
「うん。そうだよ」
「それなら……」
彼が応えると友希那は何か疑問を得ている色をそのまま目元に出す。
「制服は、脱がなくてもよかったのかしら」
友希那は彼に困ったような顔を落としていた。素手の動きは止まっていなかった。
「ああ――」
今の友希那の胸部は少しも拓けていなかった。ブレザーさえ脱いでおらず、それは彼が命じたことだった。
彼は友希那ほどの女性であるのなら乳房を主張せずとも母親に成ることができるだろうという考えだった。
また、それとは別に友希那の制服をもっと味わいたかった。故に脱衣は最低限なのだということを彼は友希那に披露した。
「それも、過去の私が知りたいからなの?」
「同じ学校、通ってみたかったかも」
「……それは無理ね」
友希那の声に低いものが潜み、彼を相手する素手が彼の先端に留まる。
「女子校だもの」
そして女子生徒の腕は男に媚びるようにさらに粘つきを含んで駆け上がってゆく。
本番の盛りをひと通り終えた後の穏やかな雰囲気の中で、彼は制服姿の友希那を母親に持つ。
性行為で一度胎内にしっかり仕込んだ後に奉仕をさせるということは、いかにも女性を侍らせているような心地に成ることができて彼は喜悦に満ちた。
そしてそういった大きな態度は彼の中の赤子を呼び覚ます。
「ねぇ、やっぱり胸、観たいかも」
「あなたが言ったのよ、制服がいいって」
「でも、友希那のおっぱい観たい……」
友希那の素手が彼の根本に留まり、彼はまさに尻に敷かれるような心地に至った。
「友希那……」
「仕方がない人ね」
友希那は鼻の奥からため息を漏らし、落ちないように気を付けることを彼に注意した後に脱衣に動いた。だが彼はそこでもお願いをした。友希那は何か的を得ていないような顔だったが彼を無視することはなく言う通りに胸元をはだけさせた。
「これでいいの?」
「んう」
彼は首肯のように口を動かしながら友希那の乳房に口で向かった。
今の友希那は中途半端な脱衣状態だった。ネクタイは布の音を置いてどこかに去ったが、ブレザーとワイシャツは正面のボタンを解いただけ、下着は金具を解いた後に引き剥がすように乳房のすぐ下の部分に追いやっているだけだった。
友希那はそういった崩れかけの様相で彼に覆いかぶさっていた。左右に拓けた自分の衣類の中に彼の頭部を必死に隠すような動きだった。彼にのみ肌色を披露し、何か温めている印象を彼は受けていた。
自室で勉強をしていたが泣きはじめた赤子のために即席で授乳をする若い母親のように彼は感じた。与えられるだけの彼は何も遠慮などせず友希那の内部に顔を伸ばした。途端に顔面の全体に熱気が触れる。それは友希那という母からの保護だった。彼は友希那の胸の中でそれ以外の外の他から守られている。自分とはやはりまだ幼く、この友希那という優しい母親からまごころを与えられている。
年下の友希那に母性を意識し甘えるこの感覚はある意味異常ともいえる。
だが友希那は彼という一個人のみを許し、愛を与えてくれる。そういった一人を想う気持ちとは性愛を超えた領域であり、彼からするとそれは確かな母性だった。
つまり彼とは友希那という母親に愛されていた。年齢など至極どうでもよいもので、か細く拙い中にそれでも漂う明確な母性とは熟達した女性のそれを超える甘味だった。寂れた男のありとあらゆる傷を癒やすものだった。
彼は友希那の奥に潜む乳房を口で掬い取った。肌以外に下着も嗅ぎながら乳房を頬張っていた。自分のために大切な下着を半ば強引にずらして乳房を与えるその様相が彼としては何よりも気に入っていた。
だが友希那の素手は過激であり限界は近かった。彼は舌先で友希那の何やら甘い突起を刺激しつつ射精間近であることを宣言した。
「はやいわね」
友希那は素手の動きも体勢も変えずに淡々と分析していた。いつもの少し湿った冷静な目で竿を観察するその姿を彼は下の位置から眺めている。
何か遠くのものを傍観するような顔はやはり美しく、首や鎖骨の形は首から下げたネックレスのようにも思える。
この膝の上という位置からでしか視えない新しい色に満ちており彼は嬉しくなった。
友希那はその後に視線を下に戻した。二人は目が合った。
「いいわよ。このまま射精して」
友希那は周囲に聞こえないように呟き、それから居住まいを正し彼を抱き直した。彼は友希那の膝に頭部をめり込ませるような感覚で沈みつつ腰を逆に上向きに強張らせる。快感によって痙攣していたが竿を握る友希那によって舵は正確に取られていた。友希那は長い棒をさすっているのではなく彼の陰茎というもう一つの頭部を撫でている様相だった。だがそれは何か浸る調子で息子を寵愛する母親の素手ではなく、どちらかといえば仕込んだ芸を難なく披露し褒美を強請ってくる飼い犬に対するような激励に近い運動だった。
「ほら、射精して……」
射精のために身体の全てを使用してくれる今の友希那とはやはり自分の母親なのだと彼は確信した。やがて男体の硬直が一点に集中し、それでも続く友希那の愛撫によって彼は決壊した。
彼は乳房に口元を激突させながら二人の寝室に白いものを打ち上げる。精液がどこにどのように散っているのかなど彼は知らない。彼はまだ続く友希那の素手の運動に流されるかたちで最後まで射精するだけだった。口では常に友希那の左乳房を吸っている。母乳は出ていなかった。
彼が母体の上で何かへこんだようなくたびれた印象に成り果てるまで友希那の奉仕は続いた。
もし本当に私たちが生徒と教師という関係性だったとしたら、あなたは私をどうするの。
部屋の清掃を終えた後に友希那が最初に彼へ質問した文言はそれだった。
「それは……」
ベッドに腰掛ける彼は友希那を眺めていた。着替えもすでに完了しており、それは隣の友希那も同様だった。
彼は、友希那の新しい足や腰を経験豊富な人形職人のような顔つきで眺めながら思考し口を開いた。
「好きって言っちゃうかも」
「……正直ね」
友希那は花束に向けるような目をしていた。彼は首を伸ばすようにその顔のみを注視してさらに喉を張る。
「告白されたことって、あるの?」
彼はそれから友希那の回答を何か深刻な判決のように待っていた。だが彼女は至極軽い顔だった。
「ないわよ。女子校だもの」
「そう、だよね……。うん……」
「それより、あなたはあるの?」
友希那は奥から唐突に何か重たい色をむき出しにして彼に迫った。いつの間にか顔が目と鼻の先だった。彼は少し困惑していた。今度は自分が深刻な判決を迫られてるような心地だった。だが彼の答えは決まっていた。
「ないよ。君が初恋だから」
強く表明した途端、それがひとつの呪文のように友希那の顔は晴れてゆく。
「そう……」
友希那は彼の顔から離れ、だが彼に横からすり寄り、肩に顔を寄せた。素手の下から五指が忍び彼は包まれる。
「私も、はじめてよ」友希那は繋がった素手を眺めていた。「一人の、男の人に向けた曲を、完成させるだなんて」
彼は一瞬だけその意味がわからなかった。だがすぐに理解した。何か突き上がってくるものはあるが意外にも冷静で、友希那が新しく誕生させたという事実にのみ祝福を感じていた。
これからやってくる二人の輝かしい未来がどんな妄想よりも鮮明に視えていた。
「私としても、よいものができたと思うわ」
友希那の声が迫った。素手は胸板に這い、彼を愛でる様相だった。
「だから、期待してちょうだい」
彼は友希那からまず頬にひとつ貰い、そのまま流れるように口を重ねた。
「今日は、来てくれてありがとう」
ライブ会場として設定された場所とは公園だった。
ここはかつて友希那が独りで歌っていた場所だった。あるいは彼が友希那と出会った場所でもあった。二人にとってのはじまりの場所だった。
歌姫の友希那はやはり別格の気品で彼の前に、この会場の中心に出現している。
この場を会場として設定することそのものが友希那の気概だった。かつて以上の音楽を披露するという意気込みの表れなのだと彼は解釈して臨んでいた。
気品の中で、友希那はまず歌うのではなく彼に向かって口を開いた。
彼は、己の意識が友希那に向かって凝縮する心地を意識してまずは聞いた。
「あの日、夜に歌っていた日、私はきっと枯れていた。……あのまま、もしあなたと出会わなければ、私は近いうちに、独りで終わっていたでしょうね」
友希那はかつての自分を思い返している。だがそこにせつないものはなく、やがて姫は真っ直ぐに向き直る。
「けれどあなたが現れて、私に歌う意味をくれた。だから私は、今もこうして歌い続けている。隣にあなたが居るから。あなたが私の歌を聴いて、話を聴いて、それから、女性としても、求めてくれたから」
友希那の頬が少しだけ染まり、彼の股間もまた少し浮く。
「……だから、ありがとう。私の前にあなたが現れてくれて、本当によかった」
聡明な笑みに在る友希那を前に彼もまた晴れ渡る。身体も心の部分もすっきりしている。全てを理解し、緊張も、他の邪魔も消えたことを実感する。
互いに、同じ志しに在る。
「――こちらこそ」
後に残るものとは愛情だけで、彼は脳裡に浮かんだ想いをそのまま友希那に打ち上げる。
「出会う相手が、君でよかった」
彼が頷くと友希那もまた礼を述べる。そうしてたおやかな顔から一転、友希那はまた歌姫として彼の前に出る。
「こんな世界だもの。ライブを開催したところで無意味かもしれない。けれど、それでも私はライブをする。歌を歌う。世界がどうなろうと、私は信じて続けていることを続ける。私は好きだから。……歌うことが」
だからあなたも最後まで、しっかり聴いてちょうだい。
間もなく友希那は体躯を構えた。普段の硬さが凝縮されていく。少し萎むような湿度が彼の意識を吸収し、湊友希那の音楽がはじまった。
友希那はその瞬間、自身が生み出す世界の王に成り果てる。至極落ち着いた目つきで歌い続ける。歌声だけの音楽を魅せる。
友希那は彼にのみ歌を披露している。
彼は友希那の歌声の細かい部分にも意識を巡らせ聴き続ける。一切の淀みがない歌声が入ってくる。
友希那は彼のためだけに歌っている。友希那は自分のためだけに歌ってくれている。つまり一切の歌詞や歌い方は自分にのみ向けられている。歌詞の中で問いかけている相手とは自分だった。歌詞の中で語りかけている相手とは自分だった。歌詞の中で想う未来とは自分との未来だった。
友希那と二人だけの世界だった。彼はその全てを友希那の歌声に乗せられることで意識している。哀しさと覚悟を同時に宿した歌声のみで細胞が満たされる。この歌声とひとつに成ることができないことに焦燥さえ得てしまう。歌唱を続ける友希那に彼は人智を超えた美を意識する。
ああ、それはちょうど、あの上空に浮かぶ月の世界から降臨した女神のような――。
彼は友希那の眼前にて一つの解に至った。
音楽による高揚とはまた別の部分で興奮が立ち上がってゆく。何かが明ける心地に到達し、流れてくる清澄な歌声はそういった思考をさらに増長させてくれる。
そうして友希那の歌声は去ってゆく。
余韻もどこかに消えて溶け、薄闇が舞う。彼は何かに押されるようにステージへ上がった。火照った歌姫を身体に寄せて少しきつく抱き締めた。
「いい、歌だった」
口から漏れる言葉は短く熱の籠ったものだった。だが友希那はそれ以上の熱気で彼の胸元に突っ伏した。胸板が汗で、腹部が吐息で濡れた。彼の背は二本の細腕に縛られている。縛られて引き寄せられている。彼もすぐにそれに応えた。歌姫は自分の腰から腹の位置を彼に押し当てるように動き、やがて顎が上向きになる。口そのものを差し出す態度で表情は緩んでいる。彼はその汗ばむ姫の頭部を支えるように包んで唇を重ねた。
歌い終わったばかりの友希那をいただく。口はいつもよりいくらか熱い。彼はそこに舌を入れ、内部の唾液を漕ぐように廻る。絡まる彼女の温度も高く潤んでいる。
やがて離れ、すると無数の透明な糸が二人の隙間を垂れる。みつめ合い、また口を重ねる。
彼は友希那の頭を壊さないように両手で包んでいた。後頭部というより首の流れそのものを後ろから支えて抱擁し自分の方向に寄せていた。友希那の舌が口元の上で這いずり廻っていた。彼は果実を貪るように接吻を続けた。
「ねぇ、したい」
新しい唾液の糸が輝いている。彼は友希那を自分の肩の位置に倒して耳元に提案する。
「節度がないわ。そんなの……」
彼に頬を預ける友希那は口を尖らせるが、男体の背に這う素手は萎まず、また表情も、拒否の様子は窺えない。
「歌い終わったばかり君がいい」
「でも……」友希那は彼の胸板の上で首を傾げた。「ここでは、ちょっと……」
「なら、帰ろう。僕たちの家に」
彼は友希那と向かい合った。
対面の友希那は笑みを打ち上げ、彼の右腕にするりと入る。腕と腕が結びつき、五指同士が綿密に絡み合う。彼は友希那をみつめて素手を揉んだ。
「いきましょう」
彼はこの闇夜の中、一人の歌姫を持ち帰る。
歌い切った歌姫に隙など与えない。彼は友希那の素手を握ったまま寝室に入り、扉を明確に閉じてしまう。その瞬間この場はただの寝室ではなく彼の縄張りのようなものと化し、縄張りの中の雌をどうしようがそれは彼の勝手になる。
彼は脱衣をした後に友希那に向かってゆく。
友希那はまだ何も脱いでいなかった。それは彼が指示したことだった。ベッドに座って待っていてほしいとだけ言い付けておいた。友希那は男の指示に一切の抵抗をみせず丁寧に従っていた。
湿った行為に及ぶとはいえ、ひとつの披露を終えた歌姫に重たい動きを強いる彼ではなかった。
彼は友希那の隣に座り、自らの触手を伸ばして胸元に触れた。
先ほどの歌唱を労う、あるいは礼をするという思想は少しだけだった。正直なところそれらは建前でしかなかった。彼は友希那の火照りが冷めないうちに秘密の部分に介入し、自分の熱を浸しておきたいだけだった。
「荒々しいわ」
「そっちだって、熱くなってる」
「それは……」
友希那は冷静だった。まるで自分はこの行為に賛同していないような色だった。数秒逡巡するような顔で下向きに置いた後、また彼に額を上げた。
「あなたに届けるべきものは届けた。後はもう、あなたの勝手があるだけでしょう?」
「いいんだ、勝手にやって」
彼は横から友希那を抱き締めて激しく揉んでいた。それはお気に入りの人形と相対する少年の心地だった。それで友希那がもたらす声や唾液さえ嗅いでいる。
彼はそれからまた少しだけ胸を揉んだ後に愉しく眉を上げた。友希那の頬に新しい赤色が浮いている。彼がまた柔肉を揉むとその視線は右側に反れた。喉元が大きく起伏し、彼はそこに口元で進む。木に実るものを食べる動物のように一度だけ動いて離れて姫を窺う。
姫の顔には緩やかな羞恥のみが浮いていた。
「……好きにしてちょうだい」
「じゃあさ、下と上、最初はどっちがいい?」
「……いちいち訊かないで」
「あ、ごめん。嫌だった?」
彼は自分の発言を取り消すように静まった。
「……私が、してほしい人みたいでしょう?」
だが友希那は別のところで羞恥を得ているようだった。
「違うの?」
彼はまた突いてみるが友希那は応えない。肩と鎖骨が強張り、狭く成っている。いつもの態度が崩れることに逆らっているらしい。
だが、そういう無意味な抵抗を続ける姫君ほど男としてそそられるものはない。
「どっちがいい?」
「……あなたが、触りたいほう」
「じゃあ、乳首かな」
「あ、あまり口にしないでちょうだい」
友希那の少し投げやりな、けれど甘受した雰囲気が響く。溢れんばかりの滾りの熱が赤色として頬に満ちる。
友希那には様々な味がある。故に愉しみ方というものも千差万別で嬉しいものなのだが、彼としてはやはりこの恥じらいに満ちている友希那が至高だった。
彼はそのまま姫の装いを素手で崩す。友希那は顔をそっぽに向けているが身体は止まったままだった。むしろ胸部を突き出している様相で、彼はまるで自分が友希那の命令で衣類を脱がす心地に至る。白いフリルのような造りを避け、硬いボタンを丁寧にほどいてみる。柔い肌の上に花柄が咲いている。彼は誕生日プレゼントを開けているような特別な優越感に至る。
見惚れていると姫の素手が駆動し、最後の守りは解かれてゆく。
男にとってそれとは完全に未知の衣類だった。
たとえばパンツというものは男女共に似た構造であり、故に異性が履いているものに関してもそれとなく想像したり理解することができる。だがこちらは違う。違うというか、異質なものだと彼は感じる。乳房とは肉体における女性特有のものであり、そこを守る衣類もまた不思議なものだった。男は基本的に無縁であり、正確な造りを知り尽くすこと、網羅することとは意外にも困難だった。どうしても女性頼りになってしまう部分だった。
歌唱を労いたいという意識の手前、なんだか申し訳なさを彼は感じた。だが友希那は平然とした顔つきで彼に乳房を差し出した。
彼は腰を下ろしたまま友希那の乳房に屈む。彼女の熱風がどこかに逃げる前にその全てを飲み込んでおきたい。左の乳房を鼻頭で一周した後に舌を落として舐め上げる。生娘の酸っぱい味がより不道徳的な部分に連れていってくれる。
「……変わった人ね」
友希那の声は彼の行動を肯定している。彼の舌先はついにその彼女の中心の突起と巡り逢う。
柔らかい二つの乳房は肌色だが、その中心は唐突に薄桃色に移り変わる。円というか輪っかのような雰囲気で、だが乳房はそれで終わらない。薄桃色のさらに中心、まさに乳房の頂点と呼べる部分で肌の形はついに変化し、何か凝縮されているような突起が彼の舌を出迎えてくれる。
女体のその一点に男が関心を寄せないなどということはありえない。彼は食べ慣れた愛おしさを改めて食んでいる。突起の輪郭をさすり、下方向から弾いてみたり、上方向から撫でてみる。友希那の反応は良好で、彼が抱き締めている中の背は蛇行を繰り返す。窓から差し込む月の明かりが、友希那の肌を色白く映している。彼は自分の舌で生娘を操作しているような気分に成り乳房を頬張る。彼はこの乳房の中で生命のような爆発が発生し続けているのではないかという考えに至る。それは実に妄想らしいふざけた考えだった。だが今はそういうものに酔うべきだった。彼は友希那の目の前で赤子に成り果て、この母親の美しい裸体をより詳しく調べる必要性に駆られていた。
「まって……」
友希那の裸体がまた反りはじめるが彼は何も止まらない。乳房の輪郭に唾液を塗り、口に大きく含んで啜る。薄い汗の味が肌の柔らかさと共に流れてくる。しょっぱい友希那を舌先で感じる。彼はより夢中に成る。他のどの部分とも異なる硬さを舌で弾いてよくほぐしておく。友希那が背を丸くして彼の頭部を包む。それは頭部に捕まっているような態度だった。彼は友希那の腕の中で友希那の乳房を肯定する。
「だめ……」
友希那の口が淫らに散る。その小声は空気のようにどこかに流れてしまうだけだった。
彼は母乳を求めるように突起を軽くつねってこねている。乳房に顔面を突っ込む勢いで、そうして啜っていると友希那はついに昇り果てる。
「ああっ……!」
友希那は彼を抱き締めたまま腰や素手を震わせる。甘い高い声を引きずり、肌の中に痺れた波が出てくる。乳房に吸い付く彼の頭部を抱え、ひとつの境目を越えてくたびれる。
やがて頭部を包む腕は煙のように緩く去る。彼は枕からそうするように顔を上げて友希那をみつめる。
口と乳房には唾液の糸が成されている。友希那は数秒間だけ下向きに呼吸を流し、その後に身体を少し落とす。尻の後方に両手を付き、顔は溶けかけているような様相に至る。
「ごちそうさま」
彼は友希那の誇張された肩とそこに乗る薄紫をすかさず嬉しく想う。
「乳首、だなんて……」
友希那は先ほどの行為と自分を抹消するように彼から顔を引く。
「可愛かったよ」
「でも、なんだか……」友希那は肩を起こし、自分の思考の中に視線を落とす。「変態みたい……」
「それでも、可愛いものは可愛いから」
彼はまた友希那を抱き寄せた。自分の唾液で濡れている乳房をゆるやかに揉んだ。それは自分が支配した獲物の手応えを確かめる手つきだった。彼の胸板に倒れるように入る友希那は何も無いような態度だった。だが時おり彼の素手に合わせて腰を浮かせたり腹部を前に張り詰めて反応していた。
「あなたって、私なら何でもいいのね」
「君ならね」
二人はまた夜に紛れるように会話する。彼は何気ないふりをし、それから友希那を後方に流した。首筋や肩や膝に連続で接吻をしながら丁寧に仰向けに送った。友希那はベッドに背を落としおとなしく身体の表面を広げていた。長髪が何か咲き誇るように薄紫に散っている。
彼は次に友希那の脚を持って股の内側に入った。二つの太腿を握って開けるようにした。彼を窺う友希那もその動きに賛同し、足先は外へ向いてベッドの上に落ち着く。
今の友希那はタイトスカートを履いているが、その黒色は開脚に合わせて優しい音を立て捲れる。だが肌色が視えるわけではなかった。出てくるものとは友希那の美脚の形を正直に表している別の黒色、タイツだった。
彼はその薄膜のような色と内部に在る友希那の肉を撫でながらスカートの金具を弾いて完全にスカートを抜き取った。
だが出現する友希那の中身の輪郭とはスカート着衣時と大差がないものだった。腰周りから足に続く少し膨らんだ極上の肉付きはやはり常にスカートの上にくっきり発現しているようだった。
タイツの影響で色にもあまり変化がなく、だが股間の位置に下着が薄っすら窺える。
彼は友希那の両足をさらに掴み、自分のための敷地を開く。すぐさま飛び込んで鼻吸引を開始する。
「ちょっとっ……」
途端、友希那は自身を内股気味にへこませる。だが彼の頭部が太腿を邪魔し、友希那はほぼ無抵抗で彼に嗅がれてしまう。彼は鼻で身体そのものを吸い上げる勢いを打つ。すると友希那の表面は露骨に突っ張り、足先があらぬ方向に伸びる。彼は友希那の雌と距離を縮めるために鼻先を押し付けて友希那を嗅ぎ続けた。
股間から漂う友希那の雌は独特な風味に富んでいた。肌から漂う雌の風味とタイツに凝縮された少女の分泌が相性良く混ざり合い、彼という雄をより盛り上げる。
「ねぇ、これ破いてもいい?」
彼は顔を上げ、今までの彼をみつめていた這う這うの体の友希那に向いた。
「や、破く?」
「タイツ、破きたい」
「そんな……」
友希那の瞳がそっぽを向いた。
「渡したビデオでは、どうしてた?」
彼はそうっと差し込むように訊ねた。
友希那は視線で泳いだ先でより濃く熟れて唇を突く。
「全部、破いていたわ」
「じゃあそうしよう」
「……もう、好きにして」
友希那は言葉を置き去りにして脱力する。この歌姫はベッドの上にて諦めた。
それを見届けた彼は再び友希那の股間に戻る。秘部を隠す下着を覆う薄い黒色をこするように持ち上げ、爪を軽く立てた後に引いてみる。
濡れ場において女性のタイツとは強引に破くものである。
しかしそれは何も強引に事を進めるべきという思想ではなかった。男の企みとは女性に少し被虐的な色をもたらしたいということだけだった。
実際に今、通常では破かれることなどありえないタイツが切り裂かれ、黒色の中から下着や肌色が覗く様を眺める友希那は、自分が本格的に日常から逸脱したことを自覚している。心なしか肌にも別の艶が浮き、二人はより濃厚な部分へ耽溺する。
とはいえ彼は少し予想外だった。
今の友希那はスカートを脱がされ、タイツを破かれている。下着も簡単に退かされ、あの清い布は今はくたびれた輪ゴムのような様子でベッドの隅に放置されている。
もちろん全ては同意の中で発生しているが、この光景から同意を嗅ぎ取れといわれてもそれは不可能に近い。
彼はもはや友希那を強引に食べる心地で彼女の秘部についた。股間に向かって伏せをするような態度だった。眼前に在る肌色には美しく生々しい茂みが広がっている。それは歌姫の秘密の茂みだった。薄紫の毛の繁栄は伸び放題というわけでも完璧に気配がないわけでもなかった。いうならば並の繁栄だった。だが程度の話はどうでもよかった。彼が深く注目したい部分はそこではなく、友希那という存在にも生物的な散らかった部分がしっかり在るというところだった。
彼は友希那をどこか神格化しており、人間の肉体的な構造とは無縁だと思っている節があった。大げさにいうならば、自分と友希那は同じ人間ではない。友希那は上位の生命体で、自分は運良く交流しているだけ。
だがこうして、まるで正体を暴くように布を取り全容を視認してみると、自分の認識は覆される。思考の指針が崩れて精神的な距離はぐっと近しいものに転身する。
「ひゃっ……」
彼は友希那の孔に向かった。唾液で湿らせた人差し指で触れてみる。入り口はまだ入り口だというのにすでに男の熱を感じ取っている。まさに二つめの唇で、彼が慎重に指を進めると唾液を散らして吸い付いてくる。姫は至極敏感で妖しく歌っている。
「んんっ、だめ……」
彼はより深い位置の友希那を求めてみる。孔の輪郭を舐めるように触れ、緊張にある肉を溶かしていく。友希那が足を閉じて拒否することはなかった。女体は腹の位置がまるで膨張のように一瞬だけ浮き、また喘ぎながら沈んで腰のみが蛇行する。彼は内部から友希那を揉む。
「ねぇ、みて」
その友希那から採取した蜜を指でこすって報告しても、友希那は首を右に倒して知らないふりをする。
「ほら、こんなにネバネバ」
だが彼はしつこく指を動かして友希那に教え続けた。
「ほら、すごいよこれ」
「……あまり言わないでちょうだい」
友希那は子宮をアピールするように足を開いてひくひくと置き、顔のみで慎ましく在る。
彼はにやけた顔で股間に戻り、次に指ではなく舌を差し込んだ。途端に友希那の声が打ち上がるが下半身はすぐに虚脱し彼に任せる。それは徹底された淫らな作戦であり、彼からすると彼女の願望がおそろしいほど透けて視える。
彼は友希那の太腿や腰を撫でながら姫の泉を舐めしゃぶる。吸い出すために一気に啜る。すると友希那はベッドの上で何やらうねっている。腰や胸部が不規則に上に反り、だが一定のところで唐突にこと切れたように脱力した後、また別の熱波に浮かされてうねる。彼の口の中には友希那の味が広がるが彼はそれで満足せずに友希那を飲む。啜れば啜るほど液が溢れる。
彼はわんぱくに転身した境地で友希那を探索する。それは舌を使用して内部を泳ぐという動作であり、時おり思い出したように啜ってみると上のほうで嬌声も大きく反響する。
友希那はこれまで以上の高揚をみせた。快感を振り切ることなど不可能だった。彼は膣の内部をさらに進んだ。友希那もきっと壊してもらうのを待っている。泉を身体は正直というやつであり、肢体のいくつかの細い箇所は突っ張ったり溶けたりして堕ちている。
彼は友希那を完全に突き上げるようなことはまだしなかった。その寸前でまるで興味を失ったように舌を止めて顔を上げてみる。すると友希那の腰は舌を求めるように浮き、彼は餌やりをするような態度でまた顔を落とす。胎内そのものをかき廻す。だがやはり頂にくり上げることはまだせず、彼は彼女の矜持というものを破壊する。
「待って、やめて……」
「やだ」
「駄目、やめ……」
彼が激しく成るにつれ、友希那の息の根は詰まってゆく。
それはある意味で生命の消耗であり、またある意味で、友希那が女性として何よりも新鮮に生きている証拠でもある。
「おねがい。だめっ……」
左右の指が真白いシーツを切り裂こうと必死に泳いでいる。彼は友希那の太腿を抱え込むように後ろから腕を伸ばして自分のほうに固定し股間に突っ伏す。友希那の羞恥心そのものを舐め取るように責めてゆく。
「まって、ねぇ、まって……」
年齢相応の活気を漏らし、余裕を失い、それから友希那は頂へのし上がる。
全てが整然と進む友希那だったが、女性として果てた後は流石にだらしなさが浮く。
散らかった肢体は汗を残して放置されている。長い毛髪は散り、広がり、女性を飾るように薄く周囲に紫に舞っている。腕は投げられており、足はつま先の部分さえ伸びたままになっている。
今の友希那は本当の意味で女性のままだった。
生真面目そうな硬さも何か達観していそうな落ち着きも特になかった。人としての領域をいくらか逸脱し、裸体は異質な緊張感で干上がっている。
彼はそこに、何か香りか味のようなもの、温かみのようなものを男性的な舌触りで感じ取る。友希那の左隣に寄り添ってわざとらしく笑みを向ける。
「ねぇ、気持ち良かった?」
「これは、少し……」友希那は大きく呼吸をし、首筋を彼の方向に流した。「激しすぎるわ、こんなもの」
「でも、気持ち良さそうだったよ。声とか」
「あなたが、突然舐めはじめるから」
友希那はそれきり唇を詰めて閉じてしまう。股間の素直な粘つきを必死に嘘にしたがっているようだった。
友希那を前にする彼は己の理性の限界を見据えていた。
友希那はすでに二度絶頂しており、身体も気概も整っている。そのうえ表情の中には羞恥が在る。
今の友希那は完全に女性として完成されている。
彼はその甘美の全てを、この羞恥に潰れた姫というものを独占して味わいたい。
友希那の茂みを分けてみたい。友希那の中の母性を体験したい。生娘の滾った部分を丁寧に突いてみたい。
この友希那をもう一生、自分だけのものにしておきたい。それ以外は要らないし、とにかく友希那だけがいい。
起き上がった彼は友希那の足を握って拓いた。すぐに内側に入り、その中心の股間部分に己を寄越す。彼はひとつの征服感に満たされている。崩れた女体を前に硬い竿をみせつけてみると、そういう勝利宣言のように思える。
しかし彼はよく知っている。
自分という雄は友希那の女性に敵わない。
性的な行為において自分が本当の意味で強く上に出ることなどもうありえない。
実際、瀕死に等しい友希那を前にしても彼は強引に事を進めるつもりが皆無だった。
それよりもただ、この友希那から発現するさらなる雌に丸飲みにされて、圧し潰されたいと思っている。それは癖だった。彼の男性の癖こそが友希那に負けることだった。彼の中にはすでに負け癖のようなものが刻み込まれているのだった。
彼は固唾を越して友希那に進んだ。硬い部分が彼女の裂けめを強く揉み、こすり上げるように裂いてゆく。内部の友希那はまるで初潮のように力んでいた。なんだか愛らしかった。彼は腰で自分を主張しさらに進む。友希那の背が反り、腰のあたりの皮膚の中から筋のようなものが視える。腰そのものがどこかへ逃げたがっている。彼はそこを左右で押さえてさらにめり込んでいく。彼の竿は友希那に迎え入れられている。彼は友希那の肉ひだに包まれてゆく。そして先端の肥えた部分と彼女の母性が接吻を繰り返している。友希那は彼の中で唐突に力を失くすというか、肢体を楽に、彼を仰ぐ。
「もっと、きて……」
彼は上体を倒して姫を覆った。甘い息が彼の頬にぶち当たる。男体が見事な仕切りと成り、姫と他とを完全に隔てた。
そこに男性的な優勢はなかった。友希那の全ての動きは誘惑として彼を高ぶらせる。だがそれはライブの高ぶりと比べると異なる興奮だった。
「あたたかい、あなたが……」
友希那の小声が耳元をさする。右手が彼を這い上がり、うなじの汗ばみを覆う。彼は友希那に誘われる雰囲気で友希那の母性に還ってゆく。男体そのもので友希那に滑り込んで順応する。
女と男の吐息は重なり、身体さえひとつに成ってゆく。
友希那は穏やかな顔を造っているが、彼の腰の動きによってすぐに下から崩れてしまう。
表情の中に歪みが映り、女性としての気丈や輪郭そのものを見失う。彼はその友希那の中で腰を動かし続ける。丸く重なった体躯の全ての箇所がせわしなく動き、股間同士がこすれている。
それはどちらか片方がどちらかに付き合っているわけではなかった。互いが互いを本当の意味で信頼し、二人だけで臨んでいる。それは二人の間の愛情による影響が大きいが、この世界の事情も無関係ではない。
圧倒的な孤独感を持つ二人は己の中に消えないやるせなさというものを持ち寄り、抱き寄せ、情熱的に食い潰している。
「友希那……」
彼は友希那の至近距離で彼女を求めている。それは友希那も同じであり、抱かれている姫は膣で返事をする。姫は孕む準備を整えている。彼は歌姫に男として精いっぱい招かれている。二人の素手は接続され、どちらかが誘うわけでもなく接吻に発展する。股間があちこちに歪みながらこすれ合う。より香ばしい飛沫を散らしている。
「いいわよ。きて」
この湿り気が、常に続いてくれればいいのに。
彼は一番最初の発射を友希那の中に打ち出した。彼女に重なりながら停止し、破裂する陰茎ごと友希那に押し寄せる。
彼の鈴口が触れる箇所とは友希那の神域の入り口の部分だった。彼はその位置で強靭な発射を何度も何度も続ける。彼女の貴重な箇所も彼の粘液を吸い出すために顕著に下っている。
友希那の両足が彼に忍び寄り、彼は友希那の股の間で固定される。差し込んでいる竿が彼はより奥まった温かい位置に伸びるように到達し、彼はそこで緩やかに己をこすり付けた。友希那の内部に己の白濁を塗りながらまた漏らし続ける。
そうして二度、三度と続く放出を終えた後に彼は一度剥がれようとする。だが友希那の素手は彼を追って強靭に絡まる。彼はすぐに右側へ転がり落ちてしまう。
「まだ、できるでしょう?」
右半身をベッドに埋める彼は、すぐ近くで同様の体勢に在る友希那の吐息を嗅いで停滞していた。友希那の口がその顎を吊り上げるように接近し、彼は姫の唾液まみれの口の中でさらに深い息をする。
そして互いの口に唾液の糸をかけた後、友希那は彼の頬をさする。
「……あなたは、もう、いいの?」
瞳の光に嗜虐的な意識が浮かんでいた。
彼は口で何か示すことよりもまず己を突き出した。睾丸も竿もすっかり再起動していた。なんだかぎらついていた。友希那は寝転んだまま彼の首に腕を廻し股間を寄越した。彼も抱き締め返そうと腕を起こすが、先に動いたのは友希那のほうだった。
彼と同様の精神に在る姫は身体を起こし、男体そのものを大きく跨いで長い髪を後ろに退かしている。
「次は私の番よ」
見上げてみると、そこには野生。
友希那は仰向けに在る彼に向かってしゃがんでいるような体勢だった。両足をたたみ、膝を左右に突き出している。腰というより腹の部分で彼を下すような低い雰囲気で、左右の素手が腹を這い乳首に付属する。
「いくわよ――」
姫は自分の乱れた部分をもう隠さない。姫は人間のふりをきっぱり辞めて彼を覆う。その裸体には汗がしたたり、より複雑な荘厳は男の股間の上で動きはじめる。
彼は抵抗にだけは無関心だった。騎乗した友希那は自分の背で自分の後ろ髪を叩くように臀部を動かし続ける。竿は奥にめり込み、行き止まりの部分ですぐに白いものを噴き上げる。同時に友希那の全容が少し飛び跳ねた後にまるで押さえ込むように尻をつけて留まる。
濁った彼は独特な熱を持ちながら友希那の中に唯一無二の安心感を与える。
長い嚥下を終えた友希那は上体を倒して彼に迫る。長髪が前のほうに流れ着いて彼はまた濃いものを嗅ぐ。友希那は男体の表面に女体の表面を合わせるような動きであり、彼も腕を伸ばして姫の波立つ背を迎え入れる。
「口……」
友希那は彼をみつめて囁く。
「口、開けて」
彼は何か思考するよりもよっぽど素早い意識で開口した。友希那の頬が膨れ、唾液が混ざる音が鳴る。彼はやがて友希那から唾液を落とされる。
「ふふ……」
彼は自分の口内に自分ではない熱と味が広がることを意識していた。それは確かに自分ではない味だったが彼はよく知る味だった。友希那の甘美な唾液の味だった。
口内で溜まるこの唾液とはつまり友希那という母鳥から与えらた餌だった。
彼は友希那の無言の合図に誘われて口を閉じ喉を上下させる。
喉を流れて胃に溜まり、貼り付いて友希那が浸透する。すると口に歌姫がまた重なってくる。彼女は彼の口腔に舌で割り込み彼の歯茎に触れる。歯列を撫でて廻っている。友希那は彼を食らっている。彼は己の口の周りがすでに友希那の口の中と同じ香りに成り果てることを悦びとして認知し、それら全てを勲章として意識する。二人は多大な粘つきを間に設けながら股間で愛し合う。
内部では友希那のみが動き、彼はその腰の重みのみを感じる。
今、彼は滾る肉棒で姫を拓いて奥の肉圧に到達している。
今、友希那は柔らかい肉孔で彼を飲み硬さと熱気の全てを啜り上げている。
二人は離れることはなく動き続けている。彼はこの行為が進めば進むほど、つまり自分が友希那の中に入れば入るほど、そこに順応してゆくほど、自分の中の感覚がふやけ、友希那に流れているような心地に触れている。それは友希那も同様らしく、彼は彼女の心地を得ているような体験に至る。
「友希那……」彼は友希那の耳元に這い上がるように首を伸ばして口を開いた。「友希那、好きだ」
同時に腰を少しだけ突き出し、今しがた放った文言を誤魔化す。友希那の秘裂から漏れる蜜を掬って混ぜるように迫る。友希那の膣が絞まり、彼は根本から強く恋慕される。
「私も……」
互いを愛し、信頼し、受け入れているからこそ成り立つ行為こそが、今の濡れているまぐわいだった。
「とても、愛してる」
だが彼はやはり友希那の求愛に敵わない。彼は徹底的な敗北の印を友希那の膣に打つ。それは愛の種汁であり、彼は瀕死の中で友希那にしっかりと植え付けている。
友希那の口が飛び込んでくる。彼は歌姫のうなじを支えるように抱きしめ、自分の口も友希那へ突き出す。
悉く吸い取られている。友希那に潰されたまま、友希那の胎内で停止したまま、友希那の唯一女性的な部分の蠕動によって彼は吸われ続ける。
屈辱感や劣等を意識することが皆無なのは、彼がそれほど友希那に愛されているから。
また、彼の熱を受け入れてさらに炸裂するのは友希那も同じだった。歌姫は彼に口を預けて鼻で呼吸をしながら腰を廻している。肌が彼から離れることはなく、だが友希那はしつこく気丈に男を搾り取る。干からびたぬるい余韻のみが彼にやってくる。
「ゆきな……」
彼は友希那を呼び込むように呟いた。友希那の顔を眺めていた。
それから二人はまた横向きに流れた後に一旦落ち着いた。彼の右隣りに友希那が居るかたちだった。
彼の股間はまだ友希那の中に在るが竿は収縮していた。燃え尽きているといってよかった。だがそれでも彼の心地は友希那に向いていた。友希那は肢体を投げ出しくたびれているが、その腕は唐突に動き出し彼は捕まる。姫の素手は彼の体躯の中の居心地の良い位置に収まる。友希那は腕を引き締めることで男体をさらに寄せた。
彼の顔面は友希那の首元に在った。彼女の喉元の起伏を眺めていた。また女体の香ばしい熱気を感じている。汗のぬめりの上に這う細かい薄紫がやはり艶やかなものだった。
彼は友希那の胸部に耳を預けた。
すると奥の位置から友希那の硬い音が聞こえてくる。
彼はその打音に身を任せてみる。股間が盛り上がり、数度の炸裂を胎内に落とす。すると友希那の両腕がまた引き締まり、彼は五感さえ友希那と繋がる。
友希那は彼の精そのものを肯定している。彼もまた、友希那の柔らかい性を肯定して緩やかに射精する。
もう、どちらが何かをすることはなかった。落ち着く二人は互いに蒸れた息を吐き、それらを閉じ込めるように四肢で絡み合う。そのまま、まどろみの中へ落下する。
「……いい、歌だった」
彼は呼吸の中で呟いた。
彼は友希那と共にベッドの上、肌を合わせて同じ箇所に居た。歌姫の腕の中で、彼はあの歌声を想起してしゃぶっていた。
「少し」
すると右隣の友希那は肩を寄越して彼に添った。毛髪がするりと抜けて彼にかかる。口が耳元に寄り、彼は友希那が空気を吸う音を聞く。
「遅いわ」
「ごめん……」
「けれど――」
友希那がまだ少し動いた。頬に向かって毛髪が伸び落ちる。
「聴いてくれて、ありがとう」
彼は友希那の瞳にまた見惚れていた。瞳の中の何か光のようなものを追うように友希那の懐に入っていく。
一度絶頂を経験すると、身体は穏やかな調子に移り変わる。
それは男であろうと女であろうと大差は無く、彼も友希那もすっかり消耗し、力は消え、意志は消え、まるで焼け野原だった。放出の余韻に廻されている。手いっぱいではあるのだが、今この世界で何よりも満たされた二人であることは間違いない。
「もう一度、聴きたいな」
彼は友希那の肌に接吻するように呟いた。
脳裡に、自分が思う最も心地の良い睡眠というものがあった。
「それなら、違う曲を――」
「いや」彼は起き上がりかけている友希那を引き留めた。「あの曲がいい」
「もう一度、君を聴きたい」
それはつまり愛する者の歌声を聴き、自分が眠りにつくことを自覚しながら眠りにつくというものだった。
気付いたら寝ていたというものではなく、もっと緩やかなもの。身体の脱力を傍観し、その意識さえ遠のくあの心地。細かい思考が不可能に成り、全てが消えるように閉じること。
その極楽を友希那で体験してみたい。
「わかったわ」
友希那は彼の近くに戻った。彼はもう何度も経験した友希那の胸の中にまるではじめて還るような嬉しい安堵の心地で頬を預けた。友希那は左右の腕で彼の頭部を包み、裸体そのものを垂らして丸く成った。
「もう一度、あなたのためだけに歌うわ」
友希那の熱気がにおいと共に彼をさする。友希那の瞳に歌姫が広がっていく。
「しっかり、聴いてちょうだい」
そして彼は歌声に撫でられてゆく。歌声に、友希那に連れていってもらう。
その中で彼は、あのライブで得たひとつの気付きを復唱した。
きっと今の世界とは、自分と友希那だけの世界なのだ。
全てを喪失したその先に到達する楽園こそが、今の世界なのだ。
そして君はまだ、歌姫だ。
今は、僕の。
僕だけの、歌姫。