今回はエロなし、日常シーンです。
卓上には美味しそうな山盛りポテト、四人でシェアするならそこまで負担の無い金額だ。人の事情故あまり言及するのは良くないが、小鞠が気兼ねなく参加できるのは良いことだ。
目をキラキラさせながらしょっぱ美味いサクサクポテト、そして真っ白いチーズソースの濃厚な味に脳は何かしらの成分を分泌しまくっていることだろう。とにかく夢中、げっ歯類の様にかぶりつく姿の微笑ましさに感動すら得てしまう。
焼塩も俺も、生暖かい目で一本一本カリカリと食べる姿を鑑賞する。そろそろ悪態が飛んできそうだ。
「……二人、共さ……小鞠ちゃんも……ちょっと、食べる?四人でシェアしない?」
言い切った瞬間、空腹の悲鳴で八奈見さんの強がりが証明される。
「うん、そのクリームたっぷりふわふわスフレパンケーキは八奈見さんが食べなよ。」
「そうだよ。やなちゃん食べたいんでしょ。どしたの?もしかしてダイエット?」
「檸檬ちゃん、スフレはね……ふわふわで密度が無いから大丈夫なの。霞だから、平気……うん、平気なの」
絶対にありえない。そんな霞を吸って仙人になれるのなら人は誰だって仙人だ。
ショート動画でパンケーキが流れるたびにこの国の若い女性が皆長ヒゲの老師になっては国が廃ってしまう。
しかし、非現実的な理論を唱えるのはいつものこと。
だが、目の前の美味しそうな菓子を前にして四等分だなんて、うん、そうだ。間違いなく
……貸付金、1,104円
「……八奈見さん」
「ごめん、悪いとは思っているから……おかしいなぁ、なんで足りないんだろう」
思い出深く、そしてなじみ深くなってしまった穴場の喫茶店で、デジャブ過ぎるやり取りが行われている。
比較的新刊購入予定が無く、また両親から小遣いに色を付けて貰う&遠い親戚からの先払いお年玉のコンボで懐に痛みは無い。
痛みは無いけども、何事も三度目のなんとやらだ。この愛すべきラッコ様には一言二言小言を吐いても良いだろう。飼育員として
「やなちゃん良くないよ。普通に」
「そう、だな……普通に、良くないぞ……八奈見ッ」
「普通に叱らないで……ちょっと鬱になりそう」
焼塩と小鞠の小言の方が深く刺さるのか、三発も小言を放つまでもなく八奈見さんは皿を中央に差し出した。
「ねえ、シェアしちゃだめかな……温水君」
「……それは、まあ……でも、二人が」
焼塩を見る。チーズの塩味でお口が甘みを欲している。小言は言ったがシェアは願ったりかなったりなのだろう。人更にスフレパンケーキは四つでそこにどっさりクリーム。食指が進まないわけが無いのだろう。
だが、困るのはやはり。
「……ッ……ぁ、えっと」
机の下で動く手は、きっと財布を抑えているのだろう。
四等分のポテトの値段は良くても、パンケーキの四等分の値段を追加するのは想定外。きっと、何かを我慢する計算をしていることだ。そんな考えがわかりやすく漏れている。
「……八奈見さん、そのパンケーキ俺が買っていいかな?」
「え……ひゃ、お金……何、何々??」
うろたえ過ぎだ。何を企んでいるのかと思われたのか、人を悪代官か何かとお思いか
「……俺も食べたいと思ったから。でも、独りだと絶対食べきれないから」
卓上の取り皿を一つ取り、その皿に二口程度の切れ端を取る。
残りは三人にパスした。本当に今はこのぐらいでいい。
「八奈見さんには、その……借りがあるから、ほら三人とも食べて」
「ぬっくん」
「温水君」
目線が、今度は妙に恥ずかしい。
格好つけたつもりはないのに、なんかキザなことをしてしまった。恥ずかしい、止めてにやにや見ないで
「優しいね、ぬっくんも男の子なんだ~♡」
「ちょっと見直したかも……じゃ、遠慮なく食べちゃお、三等分するね~♡」
「……」
こっちの気も知らず、いや知らずでいいのか。八奈見さんが意気揚々と残るケーキを三等分。自分の前、焼塩の前、そして小鞠にも配当が行き渡る。
「……ッ……ぁ、はわぁ……スフレ、これがッ」
甘い、見るだけで甘そうな塊にフォークが刺さる。霞とは思わないけど、空気を多量に含む軽い食感と、そしてその食感に見合わない多量の糖分と油脂。
小鞠の顔がキラキラと輝く。頬張った瞬間には頬が比喩抜きで落ちそうになっている。
不思議だ。八奈見さんや焼塩が食べる時よりもずっと美味しそうに見える。
「……」
二口でも多かったかもしれない。ポテト、食べ応えあったから。
「小鞠、よかったらいるか?」
「————ッッ」
頷く速度が一瞬光を超えたかとも思った。いや、そんなわけはないけど。でも、本当にうれしそうに食べている。
「温水君、ありがとね……いいとこあるじゃん」
やっと察したのか、こっちの思惑を知って肘で小突いてきた。
「……言っとくけど、今回だけだから」
「わかってるよ、女に四言は無いからね」
二言も三言も許容しないで欲しい。だが、まあしかし小鞠が気兼ねなく甘味にありつけているようでよかった。
しかし、本当に甘い。匙ですくったクリーム一口だけでかなり甘い。
「このクリーム美味しいね。パンケーキも美味しいけど、真っ白なのに甘いなんてちょっと意外だったかな……最近苦いのばかりだから舌が驚いちゃったよ」
「げふん、げほごほッ!!」
「ちょ、ぬっくんどうしたの!?」
「……————ッ」
咽た咳を膝の上に吐いた。向かいに座る焼塩や小鞠にはかかっていない。最低限のエチケットを守れてまずは安堵の息を吐くために水を飲んで喉を
「……ぁ、そっか……苦いってそっち……あぁ、確かにそれわかる。白いってなるとねばねばで苦いのって思っちゃうよね~、この前晩御飯でシチュー出た時に違和感めっちゃあってこれ本当にシチューって聞いちゃったんだよね~お母さん変な顔してたから誤魔化すの大変だったなぁ」
「…………」
「あれ、ぬっくんどうしたの?お腹痛くなるぐらい面白かった?」
「突っ伏して何してるの?……ちょっと、理由もなく変なことしたら流石にキモいよ温水君」
「…………」
早かった。うつむいたまま指先のフリックで二人にメッセージを投げつけてやる。通知の振動で二人共すぐにスマホを確認してくれた。通知機能とはなんとありがたいものか、今ほど痛感したことは無い。決してソシャゲのスタミナ回復機能の為だけにある機能ではない。
「……あ、白いで思い出した。この前クラスの娘が行ってきたスイーツなんだけどさ~」
「白と言えば……えっと、えっと……あ、白って二百色もあるって、この前聞いたんだよね~」
手遅れ過ぎるが、二人は軌道を修正した。失言が無かったかのように毒にも薬にもならない薄味の話を広げる。
これで、どうにか名誉は保たれて秘密も、いや、そもそもあれだ
「……っく……ぁ、っむ」
「————」
小鞠は、パンケーキに夢中だ。
変に指摘しなくても、そもそも聞いていない可能性もあったか
「……温水、何見てる?……か、返せないから、無理だぞ」
「あ、いや……何でもないよ。完食したんだなって」
「わ、悪いかッ」
「悪くない、オレの分まで食べてありがとうな……ぁ、残ってるポテトどうぞ。まだ、あるぞ?」
「い、いらない……チーズ味とか、たべたくなくなった」
「そっか、そうだよな」
「……そろそろ、帰る……美味しかった、ご馳走さま」
「え、あぁ……じゃあ、二人もお会計でいいかな?」
「いいよ~」
「任せて、残り物は全部食べるから……食べたからッ」
もしゃもしゃ頬張る八奈見さんがきりッとかっこつける。うん、やっぱり小鞠が食べている方が美味しそうに見える。
「……とりあえず、俺が一度建て替えるから……後でみんな細かいの払ってよ」
支払いが一番大きいからと、伝票をもって先にレジへと向かう。
離れて距離多いて、遠目に見て異常もなく
「…………はぁ」
やっと吐いた安堵の息。目の前の店員さんが少し申し訳なさそうな顔をしている。違う、そうではないと訂正。
しかし、あの失言は肝が冷えた。
今後同様のことが無いとは言えない。また、二人には徹底してもらわないと。少なくとも、小鞠は気づいた様子はなかった。
様子は、とくに
……「い、いらない……チーズ味とか、食べたくなくなった。食欲、消えた」
「?」
何だろう。引っかかる、あれはパンケーキを食べて胃が重くなったから、と受け取って流してしまった。
だけど、もしも
「ぬっくん、何してるの?……出るよ~」
「……あ、うん……今行く」
店を後にする。違和感に意識が向く前にまた姦しい二人の会話で、もう尋ねる隙はなくなった。
前を行く八奈見さんと焼塩と、そして小鞠。
いや、特に小鞠に
「小鞠ちゃんいっぱい食べたね~……いいよ~、いっぱい食べていっぱい運動してさ、新しい焼塩メソッドを実践しよっか!」
「し、しないッ……メソッド成立していないッ」
「なになに?また檸檬ちゃん新しいトレーニング考えたの??」
「こ、殺す気かッ!」
「……」
まさか、そんなわけがない。そう、今は思うべき。
こんな詮索はただのセクハラだ。八奈見さんと焼塩の失言に、呆れるような反応をした小鞠は、もしかすると知っているかもしれないなんて、なんて、ただの思い過ごしだろう。
バレないかと危惧しながら二人との関係が続いている日々だから、ただただ不安になっているだけだ。
間違っても、小鞠まで
そう、二人みたいになるなんて、流石に無いはず。
今回はここまで、まだ導入が続きます。小鞠編は難しいからとっても長くなりそう
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