つわぶき祭以来に、またこの家の前に立った。
小鞠が無理をして倒れてしまったあの時とは違い、今度は意識のある当人を連れたって。
そして、あの時にいた小抜先生に変わって
「……ねーちゃと、いっしょ」
「かわいい、ね」
なんでか、そのまま一緒に同行して小鞠妹と小鞠弟に夢中な志喜屋先輩が一緒にいる。出会いしてすぐは二人とも怖がったけど、今は順応して懐いている様子。
女の子の陽奈ちゃんにはもちろん、男の子の進くんにも構ってやっている。そして、これがまあ中々に打ち解けているのだ。正直、見ていて微笑ましい。基本的に顔立ちの整った美人さんなのだから、子供相手に優しく振る舞っている姿に清廉さを感じる。
「ゾンビごっこ!ぼくがケーサツ、悪いゾンビがねえちゃんね!……ひなをたすけるー!」
「……ぉ、おおぉ」
敵役として重宝できる先輩は男の子の琴線に触れるものがあったのだろう。即興エチュードで三人ともせわしなく遊んでいる。微笑ましさに頷いて後方腕組みをしていたら、ふと背後から刺すような声がかけられた。
「……なんで、付いてきた」
「さあ、子供好きなのかもな……じゃあ、俺はもう」
長居しても悪い。そう思い腰を上げようとしたら強めに服を掴まれてしまった。
「ち、ちがう……温水、の……方。なんで、よりにもよって」
「今だと都合が悪かったのか?今日だって学校で顔を合わせて」
いや、思い返すとあれだ。そそくさとすぐに去ったりして、あれ
もしかして避けられていたのか?
「……なあ、小鞠」
「し、死ね……ぁ、えっと……な、何?」
悪態を吐いてから、普通に返事。
いたって小鞠だ。よく見る小鞠でしかない。
だけど、なんだろうか
「……な、なに……見てるんだッ」
「あ、いや……もしかして背がおっきくなったり縮んだりして無いか、って」
「死ね、十回死ねッ」
違和感の正体があるとすれば物理的に何か変わったのかとも考えたが、流石に無い。
「……とりあえず、この場に居ていいってことでいいのか?小鞠」
「め、迷惑じゃない……あと、本ありがと」
「ん……今度貸してくれ、俺も読みたい」
書店であったこと、懐が潤っている気の大きな温水は小鞠の足りない支払いについつい足長おじさんをしてしまったのだ。
ちなみに打算が無いわけじゃない。面白いけどもレディース向け、佳樹に買い集めていると知られるのに気が引けてしまうからこそ、あの場で小鞠には購読して欲しかった。
露出の多い萌えキャラばかりのラノベを見られるのは良いが、逆に純粋に恋愛重視でさらに女性向けとるとどこか恥ずかしい。
「……やっぱり返す」
「いいって、足りないって言ってもほんの少しだし……って、この言い方は嫌味になるな。だが、しかしだ……小鞠、俺としても読みたい気持ちはあったんだ。そして、家に置いとくのは都合が悪いし男でレディース物を買うのは気が引ける」
「…………」
「だから、その買った小説は小鞠の部屋に置いてくれ……たまに読ませてくれたらいいから」
「ひ、わざわざ家にまた!」
「あ、いや……学校に持ってきてもらえればと」
「……ッ」
安堵の息を吐いた。
「……じゃ、また貸してくれ……ということで、うん……この話は終わり、でいいかな?」
「い、いい……貸してやる、ありがたく読め」
「わかった……じゃあ、そろそろ」
……たす、ケテ……たすけ、て
……ひゃー!逃げろー!
……————ッ!(聞き取り不可の喜声)
三人はというと家の外に出て中庭でさらに大立ち回り。志喜屋先輩が振り回されているけど、もしかしてあれ抜けるに抜けられなくて実は助けを求めてるとか。
子供に遊んであげているんじゃなくて子供に遊ばれて逃れられなくなってる?
「なあ、助けに行った方がいいんじゃ」
「い、いい……ちび達、遊びのスイッチ入ってるから。止めるとぐずる」
「先輩の身も心配して……って、小鞠」
「こっち……ずっと、居間にいても……何もない」
「へ、部屋……小鞠の部屋に、か?」
「……良いからッ」
「……」
やけに強引、それもいきなり強引になってきた。
何か伝えたいことでもあるのかと、小鞠の意を組み取ろうとしてみる。
ここ最近で、何か気にかかることと言えば。
「……客だから、もてなす……座ってろ」
「あ、あぁ……わかった」
お客に命令形で喋り、そして強引にその場に停めようとする小鞠。
何を想い、今の動揺を抱くに至っているのか、考えれば考えるほどあの時ファミレスでの会話劇ばかりが脳裏によぎる。
〇
6畳間の和室に、ベッドと机、本棚。
部屋としてはかなり大人しい。だが外見では情報量が無くても部屋にある活字の量がこの部屋にある個性の厚みを増している。
「良いラインナップだな……小鞠」
「ふ、ふふ……日頃の倹約の賜物だ。羨んでいいぞ」
「なあ、この巻だけ続きが出てないけど……読むの止めたのか?」
「……安くなったら、中古で一気に集める予定、いつか」
よし、この話は終わりにしよう、そう懸命に判断を下す。
しかし、話のタネを変えようにも植える種なんてほぼほぼ同じ種類しかない。同じ会話しか咲かない、あるとすれば
「温水……最近、八奈見また……太った」
「そうだな……霞=ゼロカロリーダイエットは失敗に終わったみたいだな」
共有の知人の話に自然と切り替わる。
焼塩と一緒にやっているトレーニングなんか、他にもこっちには佳樹の話があるし、小鞠にも返す刀で陽奈ちゃんの引き出しがある。妹トークに花を咲かせることもできる。
そんな想定で話を聞いていた。
だから、だろう
「八奈見さん、スフレダイエット止めて今度はメレンゲダイエットって言ってたな」
「卵白なら、カロリーないし……タンパク質取れる」
「小麦粉焼きに砂糖いっぱいのメレンゲをかけて食べてるみたいだ。ほら、今上がってきた」
「……アドバイスしてやれ」
「やだよ、正論で煙たがれて蹴られるのは俺なんだぞ」
「お前ら、最近仲いいから……問題ない」
「その場で何もなくても後が怖いんだ……後が」
最近の八奈見さん、説教しながら口を使ってくるからなぁ。
「……また、二人でやらしいことするんだろ……死ね」
「いや、こっちだって場所は変えてくれって言って……って、小鞠」
「……」
しばし、沈黙
出したお茶を床に置いたお盆から手に取り、小鞠は一口飲んで
「……ぶえ、けほごほッ!」
「————ッ」
まるで、人の思いを代弁するかの様に咽てみせた。
次回、エッチ展開、になるといいなぁ。
今朝がた、本作が日刊ランキング一位になってました。感謝感謝、読者に感謝して小鞠ちゃんのエチエチをお届けしたい。
次回もお楽しみに