~日曜日
~温水宅
「……」
スマホの通知はソシャゲの広告やスタミナ回復等々、人からの連絡は、無い。
日曜日になると必ず来客を待っている自分がいる。
学生という制約がある身分の俺達にとって親のいない自宅というのは最高のスペースだ。必然的に休みの日は狙い目になるし、それに今日佳樹は偶然にも家を空けている。こういうタイミングには必ずだ、必ず誰かが来る。
連絡があるかどうかはあまり関係ない。誰かは、必ずこの隙を逃さずに訪れるのだ。
誰かは家の玄関を叩くだろう。
そう身構えていて、そして昼食の頃合いに
「ぬーくみーず、くん……きたよ」
お腹を空かせてやってきたのは八奈見さんだった。
外は雪が降る寒空、吐く息は白くいそいそとブーツを脱がんとしている。
「あーさむさむ……着込んだのに冷えちゃったなあもう。あ、これ持ってて」
身を包むファーコートを脱ぐとガーリーなロングスカートにニットセーター姿を露にした。
かじかむ手先でブーツを脱ぐのに苦戦中。そんな八奈見さんの横顔を失礼ながら見ていた。魅入ってしまっていた。
曲線的な身体と鮮やかな髪色は実に映えているとしか言いようがない。
ふわりとしている髪の毛が顔のラインを隠していて、けどその髪を掻き分けるしぐさをしたら外気の寒さで真っ赤になった耳がちらりと見えた。
雪が降る中、痛み染みるほどの寒さに耐えてまでわざわざ会いに来てしまったのだ。
なんのために?
食事のため、もある。だけど目的は会うためだと八奈見さんは堂々と告げている。
寒さで震えた唇だから音は途切れていただけ、その口は確かに会いにきたと告げていた。
「お腹空いちゃった。ご飯、ご一緒しても良いかな?」
「……あ、別に良いよ。俺も今からだから」
「やった、じゃあ一緒に食べよ」
手渡したタオルで雪に濡れた顔や頭を拭う。玄関で雪を払い終える間に、俺はハンガーに受け取ったコートをかけて、八奈見さんが脱いだ靴を揃えておいた。
おいたら、八奈見さんは視線を向けていたことに気付く。
「……ありがと、温水君は紳士だね」
「そう、かな?……余計だった」
「ふふ、感心した。それと、ありがとうって思った。寒いからさ、温水君の優しさが嬉しいの……はい、タオルどうも」
「……八奈見さん、今日は一人だけ?」
「ん、檸檬ちゃんは部活みたい……小鞠ちゃんはお家で小説。だから、今日は二人きりだね」
「……ッ」
最後の言葉を強調して八奈見さんは告げた。そのせいか心臓のリズムに乱れが生じた。
胸に当てた手、撫で下ろしてチューニングを正す。
「……そう、なんだ」
「佳樹ちゃんは?」
「いや、少し出かけてるみたい……だから、二人きりだね」
最後の言葉を言い切るには、羞恥の耐性は足りなくて、視線を横にしてしまった。
八奈見さんはニヤついて、視線を追うように一歩ステップを踏んだ。
「……冷たいね」
「ん、冷えてる……温まりたいから早く行こ」
横に並んで、手をつないでしまった。
玄関前で何をしていたんだと呆れながら、俺達はリビングへと向かった。
八奈見さんの指先は本当に冷たくて、冷たくて、けれどしっかりと俺の指に絡みついて簡単には離れなかった。
〇
PM.1:03
昼食は佳樹が用意していたポトフとパングラタン。
冷え切った体に染みる暖かさとカロリーで八奈見さんは体温を取り戻した。着こんだセーターが熱いからとインナー姿になるほどに。
リビングから自室に戻って二人きり、年頃の男子の部屋で男子と一緒にいるのに上だけとはいえインナー姿になっている。そんな八奈見さんはやはりなにかおかしい。一線を越えてしまった人はどうにも何かが欠如するものだ。自分も含めて
「ブラ付けてるから問題ないでしょ」
「まあ、良いけど……恥じらいとか」
「女の子のお洒落は疲れるものなの……外じゃなくて家の中なんだし、ちょっとぐらいカジュアルにしても許してよ。駄目?」
「駄目とは言わないけど、せめてインナー以外の」
「いいよ、佳樹ちゃんのは小さいし、温水くんのはご褒美になっちゃうし」
女の子が着た服というのは確かに付加価値があるけども、決めつけは良くないと思う。思うのだ。失敬な
「ねえ……許してくれたらさ、さっきからチラチラ見てるの気にしないであげるよ」
「……ッ……できれば、指摘しないでもらいたかったかな~八奈見さん」
「そう、じゃあ気にならないようにちゃんと許してあげる……温水君は私のおっぱいチラ見しても良いよー!」
許された。しかしよく通る声でビブラートも乗せて。
「ちょ、ご近所……八奈見さんッ」
「あはは……ごめんごめん、意地悪しちゃったね♡」
「……八奈見さん」
「ん、じゃあ静かに過ごそっか。ちょっと私も読書しようかなって……ねぇ、漫画ってある?」
「ほとんど、活字だね」
「そう、その台詞……ここにある本が全部挿絵無しだったら様になってたね」
「ら、ラノベだって文学だから」
「ん、知ってる……温水君も小鞠ちゃんも大好きな文学だよね。大丈夫、馬鹿になんてしないから……っと、これちょっと読むね」
自由に、八奈見さんは部屋の中を散策、そして見つけた本を一冊手に、そして自分がいる隣へ腰を下ろす。
近づかれたことには今さら驚かない。
「……八奈見さんが面白いと思ってくれるかどうかは、保証しかねるけど……俺は、すごく好きだから」
「ん、読んでみるから……温水君手伝って」
「え?」
……グイッ
「……ッ」
後ろから回した手が肩を掴み、そして八奈見さんは俺ごとベッドに背中を預けた。
密着しているから、体の左側に八奈見さんの熱と柔らかさがすごくよく伝わってしまう。
「いっしょに読んでよ、二人きりなんだから何でも二人でしないと」
「……あの、これは」
「ん、腕枕……あ、痛かったら言ってね。血が止まったら大変だし」
「……ッ」
腕に置いた八奈見さんの顔がさらにこっちに近づいてきた。左の鎖骨に頬が擦れて、そして押し付ける胸の質感もより鮮明に
そして、今、今気づいてしまった。
インナーの下に、硬い質感なんてない。
八奈見さんは嘘をついていた。
「……あの、八奈見さん」
「?」
挿絵をめくり、一ページ目を開いた八奈見さん。持ち上げた本を二人で持って、そして密着したこの姿勢のまま読書は始まってしまうのだろう。
……熱い、やわらかい……あと、良い匂いッ
この、密着している体勢。今もなお、自分の体に押し付けて形を歪めているふくらみについて何も言及しないままに、八奈見さんは二人きりを続けようとしている。
何を考えているのか、それとも考えなしに無自覚なのか、いずれにせよ脅威だ。理性を、刈り殺しに来ている。
「その、えっと……付けて、ないのは、さすがに」
遠回りにも言い切れない。懸命に良くないよと伝えてはみる。
「……ん、ふふ♡……温水君のエッチ」
震えた言葉に八奈見さんは失笑、こらえきれず笑いだすという正しい意味での失笑をして、そして和やかに笑みを向けて、返事をした。
「……………ッ」
「!」
自分の魅力を理解して、八奈見さんは笑みを作り、そして言葉も意図して選んだのだろう。
熱と湿り気を帯びた吐息が頬をくすぐる、魅惑のささやきで八奈見さんは呪いを唱えた。
滑る言葉は耳に届いて耳孔をたっぷり舐めてくすぐる、とても厄介な呪文だ。
発した言葉はたったの四文字。だけど、間隔を開けて、その合間にたっぷりの色香を込めたことで、八奈見さんの一言は強いメッセージが演出された。
…………あ…………と…………で…………ね♡
「————ッ」
たったの四文字に体も心も固定された。
お預けの言葉に抗うことは出来ず、八奈見さんと密着したまま二人きりの時間は過ぎていく。
不埒な密着はありつつも、不埒な行いは起こせない。呪いに体は蝕まれている。
「……温水君、ココ教えてよ……どういう意味なのかな?」
「え、えっと……ぁ、その」
何度も何度も読み返して知っている内容なのに、まったく要領を得ない言葉しか吐けなかった。
それでもどうにか説明して、補足を入れながら読書は進む。
八奈見さんと密着しながら、腕枕に身を寄せる八奈見さんの熱を感じながら
この時間は、まだまだ終わらない。
……あ、と、で、ね♡
「————ッ」
気を抜けば、先ほどの言葉が脳裏で響き渡る。
まるで本当に呪いの言葉の様で、何度かぶりを振っても消えてはくれない。
……ペラ
……ペラ、ペラ
「あはは……この主人公強すぎ、でも幼馴染みのために頑張ってるのは八奈見賞だね。うんうん、ちょっと面白いじゃん♪」
……ペラ……ペラ
「え、うわ……あはは、大きいおっぱい♡……この挿し絵、ちょっとエッチだね」
「――――……次、めくってッ」
次回に続く
今回はここまで、次回の投稿は来週を予定。他にも執筆予定があるので、悪しからず。
22話はエッチ予定です。一週間分のおあずけをされる可哀そうな読者ニキの為に、極上の達温×八奈ドスケベイチャラブを提供したい。
お楽しみに。