~放課後、生徒会室~
「駅前のカラオケのお店、あそこで学生が淫らな行為をしていると、苦情があったそうですね」
「…………へぇ」
開口一番、生徒会室でそんなことを天愛星さんは口にする。
太い眉をきりッととがらせて、妙にこちらを意識しながら脈絡の無い話を続けてくる。
関係のない話なのに。うん、本当に
「うちの学生も利用しますから……そういった行為は、もっと、密かな場所でするものですよね。たとえば、男子更衣室とか、男子利用室とか、男子交流室とか!」
怒る方向性がおかしい。でも、最近すぐに鼻血を垂らすことは無くなってきている。日々学んでいるということらしい。
「あ、えっと……何があったか聞いていいかな?」
流れとして、そのカラオケ店の苦情なる内容はきっと別件なのだろう。だが、念のために聞いておかないと
「はい、近隣の大学生が起こしたとのことです。眼鏡をかけた女子大生と、体格のいい男子大学生、カップルで……その、どうやら個室内で羽目を外していたらしく」
「へぇ、大学生が、カラオケ店で問題を起こしたのか」
「温水さん、どうして安堵してるみたいな息を吐いているんですか?」
「いや、ちょっと心臓の調子が悪くて……今落ち着いたから」
「それは一大事では?……えっと、落ち着いたんですね。そうですか」
「そうだよ、だから大丈夫」
聞く限り、どうやら自分たちのことではないようだ。
本気で安心した。良かった、本当に良かった。
……眼鏡をかけた?
「一応は厳重注意で終わったみたいですね。でも、その二人ここの卒業生らしいですから、完全に無縁な話とは言えません。」
「……迷惑だね、うん」
思い浮かんだのは明確に二人。
あの二人、学生デビューでいささか浮かれ過ぎじゃないだろうか、なんて思ったりもしたけど全部自分に帰ってくる弾丸だと気付いたので思うのは止めた。
「……とにかく、あのカラオケ店は当分利用したくないので、どこかいい場所は無いでしょうか?」
「場所、それって」
「何呆けているんですか?……前も、お願いしましたよ」
「……あ、また下がったの?」
「い、言わせないでくださいッ」
巡り巡って会話は本来の道に戻る。
どうやら、急に呼び出されて生徒会室まで足を運んだのは、結局勉強会のことだったわけか。
もう以前の事、部の秘蔵ナマモノ同人誌(実名の人物を男体化させて登場させたもの、主に自分と放虎原生徒会長)、これを天愛星さんが持ち物検査で没収してきた際に勉強を教えることを対価にして取り返すにいたる事例があった。
それ以降も時折確認の様に勉強会と称して個人指導をしカラオケ部屋でしていたわけである。しかし、そこで問題となったわけか。
それを言いたいだけなのに、遠回りをしたものだ。
「最近の範囲が追いつけなくて……申し訳ないですが、お力を貸してください」
悔しさは奥歯でよく噛み潰されている。
「うん、それなら別に良いけど。俺も復習になるし……でも、その代わりある程度の便宜は図って貰えるかな?」
無論、この関係は一方的ではない。ちゃんとこちらにも旨味はある。
「えぇ、それはもちろん。貴方の部はいろいろと問題がありますから」
「……」
自宅謹慎を言い渡されたアレのことを言っているのだろう。うん、何も言えない。
「便宜と言っても、私のできる範囲で擁護することぐらいです。それで、いいなら」
「いや、十分だよ……持ち物検査で素通りさせてくれるとか、それで十分だから」
「うぅ、本当は見過ごせませんが……仕方ないです。取引、ですから」
悔しそうに手を差し出す。なんだか無理矢理聞かせているみたいで、ちょっと良くない気持ちが芽生えそうな、いや、なりはしないか。この人はもう腐っている。
「……私は女ですから、貴方が望むものなんてあげられません。だから、残念な顔しないでください」
「してない、本当にしてない」
時折、というか頻繁に変なことをおっしゃる。頼むから人を当然の様にカップリングの片方にして、さらには総受けにしないで欲しい。
「……えっと、とにかく勉強場所だよね」
「はい、生徒会室はその……あまり見られなくないですから」
教えられる所を見られたくない、自習部屋や図書室は当然選択肢に当てはまらない。
あとは、その他の店
「その、出来れば……今、おこづかいが心もとなくてですね」
「……買い漁ってるの?」
「け、健全な範囲です!ですから!!」
そこまでは聞いていない。
「そうだな。俺も、出来ればお金は節約したい。となると……まあ無難な所として、家とかかな。両親が共働きでよく家を空けてるから」
……ガタン!
「い、家!?」
「えっと、そうだな。俺の家……みんな良く集まって」
「集まって!……い、家で!?」
「……あ」
誤解を生みまくっている。これはいけない
「天愛星さん、今のはその……別に深い意味はないからね」
「あ、浅い意味……そんな軽々しくッ」
「違う、いったん落ち着いて……男女で集まったからって、別に変なことは」
………………すごく、しているッ
「してない、からッ」
「……そ、そうですか……それなら、良いですけど。あ、あの……今、妙な間があった気が」
「ごめん、やっぱり心臓の調子が良くないみたい」
我ながら苦しすぎる言い訳、でも天愛星さんはそうですかの一言で落ち着いてしまった。
なんだろう、ぼろを出さずに済んだけど、でもこれ全部天愛星さんのちょろさに助けられている気がする。
志喜屋先輩の言う通り、失礼だけどやっぱりチョロい。
「……変なこと、しませんよね?」
「しないよ……勉強だけして、それで終わり。それに、もし気になるなら」
誰か他にも、と告げようとしたその矢先
「そう……じゃあ、せっかくですし今週にでもにゃぁあッ!?」
「!?」
学園祭は終わった。もう猫耳なんて付けていない。けど、今明らかに猫の声で鳴いた。
そして、天愛星さんは控えめなその胸元を必死に隠そうとし始めた。
服は着ている。着ているけど、何かを抑えて落ちないようにしている。
「み、見ないでくださいッ」
「……あ、ごめん」
迂闊だった。気づいてようやく視線を横にした。
正直、うっかり失言した八奈見さんや焼塩のことを悪く言えない。裸じゃないんだし、別に服の中の下着が外れたぐらい、と思ってしまっている自分がいる。これは本当に良くない慣れだ。
「……志喜屋、先輩」
「天愛星ちゃん、フロントホック。でも、サイズ合ってないから……背後からでも、揺らせば外せる……」
「外せるからって外さないでください!」
「見栄張っちゃ、だめ……良くない」
「張ってません!……わ、私はCよりのBなんです!!」
「……温水くん、私も、家行くね」
「え、は……なぜ?」
無視しないで、信じて、天愛星さんの悲痛な叫びが響く。
「それとも、天愛星ちゃんと二人きり……そっちが、良かった?」
「……今週の日曜日、家に来てください」
「わかった、いくね……ん、やっぱりそんなに、ない……Bよりの、A」
「ひゃ、まさぐらないで……み、見ないでッ」
天愛星さんの悲鳴が鳴り響く生徒会室の放課後、ひとまず今週日曜日の予定が決まった。
次回、勉強会
今回はここまで、まだまだラブコメ展開で進みます。志喜屋先輩のあまえんぼベロチューエッチに至る流れをお楽しみに。
読了感謝です。更新する度に感想や評価を頂けて本当にありがたい。読者の喜ぶ声を確認できるとはげみになります。
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