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怖いものを見てしまった佳樹をベッドに寝かせた。
さて、ここまではいい。問題は、今も玄関先で待っている志喜屋先輩だ。
「え?あの、どうして玄関で待ってるんですか?」
もうすでに脱衣所なり浴室なりを利用しているとばかり思っていたが、志喜屋先輩はずぶ濡れのまま玄関で靴を履いていた。
「……ろうか、汚しちゃう……申し訳ない」
思い出した。この人はギャルだけど真面目で礼儀正しくて良いとこのお嬢さんだったのだと。
「えっと、気にしないでください。風邪をひく方が大変です……とにかく靴を脱いで」
「……」
ブーツを履いている。かじかんだ手で紐をほどくのは大変そうだ。
仕方ない。
「失礼」
「濡れちゃう、から……」
「もう濡れました」
近づいてしゃがみ、滴る雨水を頭や肩に浴びる。先輩の手を肩に置かせて、ちょっと強引に介抱を受け入れさせる。
肩に手を置いてこけないように片足を上げる。
先輩の手は、すごく冷え切ってしまっている。
「……脱げましたね」
「うん……紳士、ありがと」
「礼はあとで、とにかく来てください」
「!」
びちゃびちゃの足跡を描きながら脱衣所へ、先輩を入れたら踵を返す。
「服は後で持ってきます。とりあえず、ちゃんと温まってください。適当にシャワーとかで済まさないように」
「……」
あの、扉閉めてください。見えますよ。
「……嫌」
嫌、ときた。子供の駄々か?
「冷たい、体重い……手伝って」
「……無理です」
「じゃあ、もう……秘密守るの、止める」
「だから先輩……え、今何を」
聞き逃せない言葉に、返した踵を元に戻してしまった。
びしゃぬれの、オフショルダーのワンピースを着ているコケティッシュな先輩を見た。
先輩は、いつもの笑いも泣きもしないその表情のまま
「知ってた……ずっと、前から」
「……」
ただ真っすぐ、俺を見てそう答えた。
……
…………………
…………グイ
「え、あ!?」
不意打ちだった。
いつのまにか掴まれた手首を引っ張られて、俺は脱衣所へと踏み入ってしまった。
扉も締まる。
「……ッ」
「濡れてる……温水君、も……風邪、ひいちゃう」
「せ、先輩」
声は耳元でしている。
向かい合った態勢で、俺の背にある扉を閉めようとしたから、つまり先輩は俺に抱き着いているということだ。
右耳に吹きかけられる冷たい温度の声、冷え切った体はまさに死体のそれに等しい。
だが、だがそこは、あまりにも死体には似つかわしくない生きた感触をしている。
「!」
「……おっぱい、好き?」
「い、今する質問ですか!?」
「重要、だよ……一緒に、お風呂入るから」
「!?」
今なんと言った、何を言ってしまった?
この先輩はいきなり家に来て、いきなり秘密をカミングアウトして、そして今は混浴を提案してきた。
前から想うことはあったが、そう、志喜屋先輩は距離感がおかしい。
バグっている。不器用故に、この人は立ち止まるし、時に一歩どころか十歩も跳躍して踏み込んでしまう。
「……もう、無理」
「!」
重い。いや、重くない。軽い部類だ。でも、人が力を抜いてしまった人を抱えるのはとても大変だと、さっき佳樹で理解した。
脱力したギャルの体を傷つけまいと、全身の筋肉が悲鳴を上げながらも受け止めてくれた。
先輩は震えている。
「……寒かった、の……思い出した」
「逆に今まで忘れてたのが衝撃です」
「寒い、温まりたい」
「も、もう……仕方ないッ」
脱がすなんてできない。
だから、ここはもう強引に行くしかない。俺は先輩を抱えたまま、引きずるように浴室へと背中を向ける。背中で押して開けて、中に入るや
「……ッ」
「やっぱり、えっち、してるんだ……えっち、だね、ほんとうに」
「わ、忘れてくださいッ」
浴室での行為をしやすいように、その手の行為用のマットレスが敷いてある。ローションのボトルもある。何も言い訳できない。
ただ、一つ言えるのは、うちの妹は事前に用意を怠らないしっかりものであるということだ。誰も悪くない。たぶん
……シャァアアアアアアアアア
「……ん、ぁ♡」
「声、なんとかなりませんか?」
「むり、そう……きもちいい、あたた、かい……ん、もっと……かけて」
シャワーを手に、熱い湯を先輩の体にかける。これが正しいかはともかく、先輩の冷えた体を、服の上から温めている。
でも、服がお湯を吸うから体は重くなってしまうのだろう。目に見えて先輩は身動きが取れなくなっている感じだ
なんだろう。これは、良くない気がする。
「……きもちいぃ」
「暖かくて、ですね」
言葉足らずで妙な意味を持たせないでほしい。
かける湯は満遍なく。剥き出しの肩からかけて、滴るお湯が全身に行くように。
そこに、妙な意図は無い。
「……お湯が、おっぱいに当たってる」
「我慢しください。当てないようにしてますから」
注意している。
温めたいだけだ。
「……おっぱい、揺れるから……先っぽと布、擦れる」
「だから、気持ちいいの、意味違う」
「……おっぱい、先っぽに、当たるの……敏感だから、感じる……ちょっと、良い」
……カンカン、カララ
「!」
とっさのことでシャワーホースを落としてしまった。上を向いて落ちた湯の放射は俺の体も濡らしてしまった。
びちゃびちゃに濡れた体、部屋着の繊維は実によく水を吸ってしまった。重い。
「……同じ」
「ですね……水を吸った服を着るのって、結構辛い」
「気持ち、わかってくれた……なら、おねがい」
「だから、それは」
「……おねがい」
「ダメです」
シャワーホースを手に、再び先輩の体を暖めるかどうか、悩んで手が止まる。
すると、またいつの間にか先輩に手を掴まれていた。
「おねがい」
「……ダメ、です」
揺らぐ。
目を見て、まっすぐ見られて、先輩はささやいた。
メイクが落ちてなお、その顔は化粧なんて全く必要じゃない。
とても綺麗な、血の通った女の子が、目の前にいる。
「おねがい……温水くん、なら……私、気にしない」
手を伸ばす。
両手を伸ばして、塗れた自分を差し出すように先輩は告げる。
「全部……君が、脱がしていい」
「————ッ」
揺らぐ。
理性を殺しにかかる先輩は、やはり生きていない死人かもしれない。
あくびが出るほどに襲い挙動でも、確実に人を襲う。生きて、懸命に抗う理性を、貴方はその真っ白な歯で噛みついて、食らってしまおうとしている。
見ればわかる。
開いた口は、口角を指で釣り上げて笑顔を作った。
「裸に、して……君になら、見られても、触られても……嫌じゃない……し……たぶん、嬉しい……だから、して」
脱がして、脱がして、と
手をまた前に出して、先輩を身を委ねる姿勢で待っている。
指で作った笑みは、まだ体が冷えて固まっているのか、下がりきらずそのまま。
嬉しそうに、笑っている。
今回はここまで、次回は脱衣描写、ねっとりじっくり書いていきます。
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