人生をやり直せることになったので、未来の知識でチートします!! ―産まれ直して人生逆転― 作:読人不識
第一話 やり直し
『あの時あぁしてれば……』
そう思う事ばかりの人生だった。
やり直せたらどうなっていただろう?
もし”あれ”を”こう”していたら結果は違ったのかもしれない…
そう思ったことは一度や二度では済まない。
誰だってそういうことは生きてりゃ何度かあるだろう。
だが生まれた環境は自分ではどうにもしようがなく、親の意思には従わざるを得なかった。
判断を誤ったと思う頃には自らを救う手段はなく、失ったものを取り戻すすべはない。
現在の知識と判断力を持ったまま、
『あの頃をやり直せたら…』
そう思ったことは誰にでもあるだろう。
俺の人生はそんなことばかりだった……
母親は俺を産みたくもなかったそうだが、子供好きな父親に頼まれて生み落とし、貧乏な家庭で暴力に耐えかねて離婚。
挙句に母が再婚した相手がタチの悪いチンピラまがいの男で、そいつに対するストレスを母は俺にぶつけて発散させ、そうやって俺は育った。
救いがあったのは友人に恵まれたことと、部活でサッカーを楽しんだことくらいか……
何とか人並みに高校を出て働き出し、順調にキャリアを積み恋人ともこれからという時に不摂生が祟って親が倒れて介護生活。
元プロサッカー選手が、現代のトレーニングや戦術を解説するネット番組を、部屋の中でエンドレスで眺めながら、長い介護生活で疲れ切った俺は、それまでの疲れが出て倒れ、薄れゆく意識の中
「あぁ、俺もこのまま逝くのか…なんだったんだろうな? 俺の人生って……」
そうつぶやいた。
その瞬間、
「これ、そこなおぬし」
鈴を転がすような染み渡るようなきれいなソプラノが聞こえた。
「これ、こっちをみやれ」
綺麗な声の聞こえた方を動かぬ体に鞭打って、何とか首を動かす。
「今際の際に、そこまで死力を振り絞れるおぬしは、本来なら一角の英傑たりえたのであろう…だが人生の選択を誤ったな……」
白狐にまたがり片手に剣を持った美しい女性がそう語りかけてくる。
俺は無気力に
「自分でもそう思います」
と同意した。
白いキツネの頭を一撫でした女性は再び俺に視線を向けると、
「あーしの条件を飲むのであれば、おぬしの人生をやり直させてやらんでもない。もちろん今の記憶は持ったままじゃ」
ギャルっぽくそう語りかけてくる。
「でもただじゃないんでしょう?」
俺は警戒しそう返す。
「ぬしと愛を交わした女の内幾人かが、ぬしとの房事を絶賛しておっての、おぬしとのことを忘れられず、あーしを信仰してくれたからの。対価の半分は既に受け取っておるようなもんじゃ。あーしは気前のいい神ダキニちゃんじゃからな、おぬしがやり直した人生であーしを裏切らず信仰し続け多くの女をイかせるなら、人生をやり直させてやろう」
微笑みながらそう語りかけてきた。
ダキニ?
ダキニ天って確か性愛の女神で、信仰捨てたら酷い目に遭うっていうあの神様か!?
まぁよりにもよって…いや、神から捨てられたような人生歩んできた俺を、ダキニ様は条件付きとはいえ拾ってくれるというのだ、感謝する所だろう?
それに多分このままでは遠からず死ぬだけだ。
今更死ぬことに恐怖はないが、『
なので俺は迷うことなく
「ダキニ様、麗しの性愛の女神よ、やり直したらあなたを信仰しますので、俺の人生をやり直させてください…お願いいたします」
心の中で平伏し、そうお願いしたのだった。
「おぬし、あーしに対して誠実にお願いするから、『ダキニちゃん』って呼ぶのを許すのじゃ♡ それとどんな女でも、たとえどんなに貞淑な乙女でもぬしに欲情するフェロモンもくれてやるから、この剣を模った首飾りに毎日感謝を捧げるのを忘れるでないぞ?」
茶目っ気たっぷりにそう微笑むと、俺の首に剣を模ったペンダントトップを抱いた首飾りをかけ、
「では、今一度その生をやり直し、己が本懐を遂げるがよい♡」
と言って口づけてくれた。
とたん世界が暗転し、意識が途切れた。
目の前で懐かしい姿の女が荷物をまとめている。
あぁここからやり直しなのか…
俺は胸元に感じるペンダントトップの感触を確かめるように服の上から握りしめ、ダキニちゃんに感謝の念を捧げる。
そして
「どこかへ、いくの?」
かつて付いていった母にそう問いかけた。
母はこちらを訝しげに見ると
「一緒に行くの嫌なんか?」
と、問い返してくる。
俺はこの人に付いて行った後どんな目に遭うかがもう分かっているので、
「お姉ちゃんとお父さんも一緒やないの?」
と、聞き返す。
母は沈黙でもって答え、
「残ることになるけど、ええんか?」
と最後通牒の様に確認する。
俺はしばし逡巡する。
この先母について行ってもあの人生をやり直すだけだ。
未来の記憶があるから、あれほど酷くはならないだろうが、それでもたかが知れている。
ここに残れば未知の人生の始まりだ、前世の記憶は役に立たない…
だが! 今度は俺の意思で人生を切り開く!!
そう決めた俺は母に
「また会えるとええな…」
そう告げると、母に背を向け家を後にし、姉を探しに外に出ることにした。
母が出ていく姿がトラウマになったという姉に、それを見せないようにするために…
こうして俺の第二の人生が始まったのであった。