人生をやり直せることになったので、未来の知識でチートします!! ―産まれ直して人生逆転― 作:読人不識
売読のジュニアサッカースクールは、選手権を目指す五年生、六年生による高学年組。
基礎的な戦術練習もする三年生、四年生による中学年組。
サッカーの楽しさを覚えつつ、基本技術を養成する一年生、二年生による低学年組。
サッカーとは何か? という物をまず知る為の入門組。
という風に大きく四つに分かれている。
三月にアカデミーに入団したボクらはまず入門組で様子を見ることになったのだが、一週間経たない内に低学年組で預かってもらうことになる。
ここでもボク達は個人技の習熟度もそうだが、他の子供たちがボールに集まってばかりの団子サッカーをする中、三角形…いわゆるトライアングルを意識してポジショニングしながらパスを回し、ゾーンで守る為、低学年チームではほぼ相手にならずゴールを量産し続ける事となった。
低学年組でも飛びぬけているボク達は、多くの子供のやる気を刈り取り、少数の子供の闘志を燃え上がらせた。
そしてホコリまでもがボク達と同じようにトライアングルを常に作るポジショニングを意識した動きをするようになった頃、ジュニア年代の責任者である円堂コーチは一つの試みを提案する。
それは従来の売読のブラジル的なサッカーをする中学年組と、大きく意識を変えだした選手がいる低学年組による練習試合。
本来なら勝負になろうはずもない年齢による技術、体格、戦術理解度の差がある年上の世代との試合を組むことにしたのだ。
ちなみにボクは教えを乞うてくる小学校低学年や入門組の子供たちにも分かり易いように自分の知っている知識や技術を伝えるようにしている。
勿論すぐにできるようになるわけではないが、子供達はコーチよりボクを慕って聞いてくるほどには影響力を持ち始めている。
顔をあげて遠くを見て周りを見ながら足元で自由にボールを操れるようになる必要性。
相手チームのディフェンスの間を斜めに走る意識の必要性。
そうすることで出来るスペースを活用することでプレイの選択肢を広げられる現実。
ピッチを横三つに区切ったラインの位置の違いによるプレイの選択肢の優先度とその違い。
ゾーンディフェンスの概念、連動したプレスの必要性。
ピッチを縦に5つ区切る概念と、その5つのレーンを活用するための3つの約束事。
・一つ前の列の選手が同レーンに並んではならない
・二列前の選手と同じレーンにいなければいけない
・一つ前の選手は隣のレーンにいたほうがいい
あくまでこれはボールをアタッキングサードに運ぶための方法論であり、ゴール前を固める相手を崩すための考え方…手段であって目的ではない等と言ったことを、サキ、シン、グレッグ、セラとサッキーの協力を得て実際の動きを交えて説明する。
低学年組と入門組のコーチと円堂コーチ、それと何故か忙しいはずのカリオカや真鯉爺さんが僕の説明を時間の許す限り聞きに来ている。
一つ一つを聞きに来た全員が理解できるまで時間をかけて丁寧に教える。
それにより子供達の動きが日に日によくなって団子サッカーではなくなってゆく。
はじめは文句を言いたげな様子だったカリオカも、ボク達の説明を聞いて興味深げな表情をしている。
そんなボク達の元へ、一月後に行われる、来年度には高学年組で選手権に出る可能性のある中学年のレギュラー中心にしたチームとの練習試合が発表された。
ボクはアカデミー生達と一緒に、スクールの生徒たちよりも多くの日を練習場に通う。
そしてこの頃はまだ貴重なビデオカメラで撮影しながら練習の様子や、戦術や概念の説明を収録していく。
これがのちのボク達のみならず、日本サッカー界に大きな影響を与えるとはこの時は思ってもいなかった。
低学年組のコーチはボクが教えた理論をおおむね理解してボクたちを指導する。
とはいえ以前とは違い、選手自身が考えるように仕向けた練習方法を工夫しながらやっている。
ボクら選手も気が付いたことをお互い声を掛け合う。
練習メニューは基本的なアナリティクストレーニングからやることになるが、少しずつ工夫している。
どんな工夫かと言えば、小さいマーカーの中に立ち、そのスペースの中で2タッチで違う三方向にパスを返すなど、従来の練習の為の練習ではない、ゴールを決めてゴールを奪わせないという意識づけを持った練習に切り替える。
他にもパス回しは鳥かごではなくロンド、特にオシムがやらせていたいたような
6vs2で、2人が同色のビブスを着て、同色のビブスを着た相手にパスやリターンパスを出せないルールでワンタッチパスを回し、ボールを取られたら同じ色のビブスを着たコンビが鬼をするロンドなど縛りがきつかったり、工夫が凝らされたメニューを主として行う。
これだけでも次のプレイをし易い準備が必要だと、分かる人には分かるようで、子供たちはメキメキチームプレイに必要な体の動かし方など、基本的な事を覚えて身につけてゆく。
ゴールを奪うためには、次のプレイがしやすいように事前に準備する必要があると理解し、自分や周囲の味方の状況を把握して次のプレイ、その次のプレイがしやすいような位置取りやパスを心掛けてくれるようになった。
元々売読のサッカースクールで育成されてるだけあって個人技は高い。
そこへスペースの作り方や使い方を学び、次のプレイへの意識も根付いているのだから、上達しない訳がない。
恐らく特に戦術練習などしなくても、戦術理解度は中学年チームを上回っているであろう…だが問題はフィジカルの差だ。
この年代では年齢差による成長の違いは圧倒的で、運動能力は勝負にならないだろう。
しかしそれは、世界を相手にする際、もっと足の速い選手や、もっと高くジャンプできる選手、ぶつかってもびくともしない頑丈な選手がいることを考えれば当たり前にある肉体的な性能差なのだ。
この差はいつか克服せねばならない、なら今から克服することを考えても早過ぎることはないだろう。
そう考えた僕は、やはりパスサッカーに打開策を求める。
練習メニューにオシム式のロンドだけでなく、一時期のバルセロナ的なグローバルトレーニングを取り入れたのだ。
4vs4でゴールを設定し、ゴールを奪うためにどうするか?
ボールを奪うためにどうするか? を常に考える練習の時間を増やしたのだ。
子供達は乾いた砂が水を吸収するように、貪欲に学び、僕が切っ掛けを与えたことを自分のモノにしようとトライする。
ここに『やるんじゃなかった』、『やって叱られた』という雰囲気やコーチングはない、全くない訳では無いが、より良いプレイの提示が伴うことで叱られて委縮することはない。
ボク達は『明るい未来が待っている』ことを確信しているかのように、ひたすら前向きに、前進するために練習する。
そして夢中で練習した数ヵ月が足早に駆け抜け、ボク達と中学年組の試合が始まる。
ピッチを見渡すカメラと、売読の関係者たちが見守る中試合開始のホイッスルが吹かれた。