人生をやり直せることになったので、未来の知識でチートします!! ―産まれ直して人生逆転― 作:読人不識
1982年5月中旬
母が出て行ってひと月ちょっとが経った。
俺は幼稚園に入り、姉は年長組に進んだ。
ある日の朝
「みきちゃぁ~ん、おはよぉ~♡ 今日も可愛いねぇ♡」
前世で母が出て行ったことがトラウマになったという姉は、今世では俺のフェロモン体質のおかげか、極度のブラコンとなり、母が出て行ったことにはそんなにショックを受けていない。
「みきちゃん、ご飯でちゅよ♡ あ~ん♡」
その代わり、どこの恋愛依存だ? というくらい俺に対して甘えてくる。
「お! 朝から姉弟仲睦まじいな」
親父が俺たちを見て笑いながら、そう声をかけてくる。
「父さんにも、あ~んしておくれ」
ニヤケながら親父が姉にそう要求する。
「いや~、あたしはみきちゃんとラブラブなので浮気はしないの~!!」
姉はどうやら俺にガチ恋しているらしく、親父のお願いを却下する。
「はぁ、寂しいなぁ。星羅は美樹生のお嫁さんになるのかぁ…美樹生はお父さんを倒さないと星羅をやらんぞ!」
割とガチ目で親父がそう警告してくる。
「おかしいやん! 姉弟なんやから結婚できる訳ないやん!」
俺が割と常識的な事を突っ込むと、
姉と親父は顔を見合わせてから
「「はぁ~……」」
息を合わせてため息をつき、
「みきお、愛に貴賤はなく、禁断の愛こそ燃えるものなんだぞ?」
と親父が諭すような口調で、語り始めた。
母が出ていった後、親父は変わった。
親父はかつて少年漫画誌で連載を持ち、一世を風靡したこともあるギャグマンガ家であった。
しかし、その連載を終えた後鳴かず飛ばずで、常にピリピリした雰囲気で家族に辛く当たっていた。
連載は赤字で単行本で黒字にするはずが単行本もあまり売れず、この東京都下に建てた一戸建てなどの税金で、かつての貯金を切り崩しながら切り詰めた生活を送っていた。
母は貧乏だけなら耐えられたが、追い詰められた心理で家族に暴力をふるう父の振る舞いにまでは耐えられず出て行ったことを父に伝えると、父はすぐに自分の連載を畳み、かつての弟子だった人気漫画家の元でアシスタントを始め、俺たち子供の面倒を見ながら働くようになった。
「みきちゃ~ん♡ もうそろそろご飯食べ終わらないと幼稚園に間に合いまちぇんよぉ~♡」
姉は俺を幼稚園まで送ってから小学校へ登校する。
一時でも長く俺と一緒にいたいからそうしているらしい。
「姉ちゃん、幼稚園なら俺一人で行けるよ?」
家から十数分の所にあるのだ、今の俺なら一人でも通える。
「みきちゃん!♡ 俺じゃなくて『ボク』でしょ?♡ それと『
光彩から光が消えたヤンデるような瞳になって、きょうは…教育を押し付けるお姉たま……
俺はそのの目が冗談抜きに怖くなり
「分かったよおねえちゃん。ボクご飯食べ終わったから、幼稚園まで連れてって」
可愛さを振りまき、愛想たっぷりにおねえちゃんにお願いする。
「みきちゃんはいい子ねぇ♡ はいカバン。歯を磨いたら忘れないようにボールも持って行きましょうね♡」
姉はこのひと月で極度のブラコンになってしまったようだ。
………
……
…
「はい、さくらぐみの皆さん自由時間ですよぉ~。お外で遊びましょうねぇ」
幼稚園の先生がみんなにそう呼びかける。
「「「はぁ~い」」」
ボクら園児が一斉にお返事する。
ひと月ほど姉とのやり取りを経て、ボクが折れる形でしゃべり方などを姉好みに強制された。
もう抵抗するのも疲れたよ…
母の臭いを拭い去るとばかりに母の使っていた関西弁は禁止、食器や小物など母が僕に使わせていたものも一新させた。
ただ、僕が愛用していたボールだけは捨てさせず、ただ新しいボールを、それも大人用の五号球を父に強請って買い与えてくれた。
そのボールを姉から受け取った瞬間世界の色が変わった…
「ぐれくん、違う縦のレーンにいるのに同じ横のラインでプレイすると、横にしかパスできないでしょ? それじゃあ相手にとって怖くないから、前後にずれて三角形を作る事が大事なんだよ」
この時代の幼稚園児が知るはずのない概念。
それを同い年の幼稚園の年少組さんに子供たちでもわかるように説明する幼稚園児。
「自分がどこにいて味方がどこにいるのか? 相手の選手がどこにいるのか? も含めて周りを見ながらプレイできる技術がまず必要っていうの分かったかな?」
微笑んでぐれくんを説得する。
この子が一番いうことを聞かず、理解度が低かったのだ。
しかしようやくボクの要求する基本技術の大切さがわかったらしい。
「……わかった…」
消沈するぐれくんを励ますように
「まず一番遠くを見るの。そうするといろんなことが見えるから…周りを見てプレイする技術。それをまず身につけよう! 最初は足元見ながらトラップして良いからどんどん視線をあげていこう!」
これからやっていくことを段階的に説明する。
「さきちゃんはシンくんとパスの練習してて、出来るだけ足元見ないように、視線をあげて周りを見て出来るのを目指そう! 大丈夫、ボクもまだできないから! ぐれくんはボクと一緒にやろう!! 失敗するのは当たり前だから、失敗を恐れずに挑戦しよう!」
務めて朗らかにそう声をかける。
さきちゃんとシンくんはボクより呑み込みが早いのか? ボクの目指すところにボクより一足早く辿り着きそうだ。
パートナーを交代して気が付いたことを意見しあい、練習を重ねる。
最初は狙ったところにボールを出すどころか、トラップするのも随分苦労してたボクらだが、徐々に確実性は上がってる。
この分なら近いうちにロンドをメニューに加えられるかも…
そう、これはダキニちゃんのおまけなのか? 今まで見てきたが、記憶のはざまで忘却寸前だったこれから半世紀は先のサッカーに関する技術や戦術、練習法などが見本の動画付きでボクの頭に焼き付いていた。
「はぁ~い、みなさんご本の時間です、手を洗ってうがいをしてから教室へ戻って下さぁ~い!」
先生の声で僕らは練習を打ち切り、手を洗ってうがいをして教室へ戻る。
その間もお互いにアドバイスをしあう。
出来るようになったことを何故できるようになったかを一緒に考え、それを共有する。
ボクと彼等がどこまで同じ道を歩めるかは分からないが、こういう一緒に考え教え合うことは害悪にならないはずだ。
出来れば皆仲良くこれからも日本のサッカーの歴史を変えてゆく仲間として一緒に戦っていきたい。
幼稚園で過ごす時間が終わり、それぞれが帰る前に東京都下ならではというか近くの大きな公園、小金丸市の小金丸公園に集まる約束をし、お迎えが来るまで皆で練習する。
それぞれお迎えが来て一度家に帰る、うちは姉がお迎えに来てくれる。
そして二人で小金丸公園に向かい、いつも集まる場所で軽く体を温めてからストレッチをしパス交換を始める。
その頃には姉の友だちも含め10人ほどで、パス交換や地面に付けた印を抜いて走るドリブル練習などの40~50年後もアジアで主流の練習である基本的な技術を養うアナリティクストレーニングをある程度行い、集中力が切れる前にロンドを含めた、いわゆるグローバルトレーニング移行し、状況に合ったテクニックを使う判断力を養う。
そして週末は親世代に審判をしてもらって実戦に近い形でのインテグラルトレーニングを行った後、それぞれのプレイの良い点と悪かった点やその状況でどういう意図だったか? を話し合い、反省会をする。
具体的な技術は経験的な裏付けがないので理論先行だが、理論だけならこの1984年の時代ならどこよりも科学的で最先端のトレーニングを我々は行っているはず。
他の転生者がサッカーをやっていなければ…の話だが……
試合に臨むような緊張感をもって練習をし、それでいてミスを叱らずトライしたことを褒める。
メンタルも究極的な争いをする中では重要なファクターだ。
普段から責任感を感じそれでいて尚トライする心構えを持たなくてはいざという時に発揮しようがない。
しかし、いずれ表舞台に出るとして、ボクの持つ理論を受け入れてくれる環境はあるのだろうか?
自分で用意した資本のチームなら兎も角他人の資本で勝手にやれるかは難しい、そして幼稚園児である自分では、その資本を用意する術がない…
ダキニちゃんの配剤に期待って所かな…今から気負っても仕方がないので、楽観的に状況を受け入れ練習に熱を入れる。
今度の人生は不思議と上手くいく気がしているのだ。
それだけでもダキニちゃんには感謝の念が尽きない。
まぁ感謝を欠かした日はないんだけどね……
そんなことを思いながら練習していると日が暮れる。
「暗くなってきたからみんな帰ろう!」
ボクがそう声をかけたことで皆ほっとしたような顔でリラックスする。
皆よほど集中していたようだ。
「みきちゃん♡ 帰ったらおねえちゃんと一緒にお風呂入りましょうね♡」
欲望に潤んだ瞳でボクを見つめながら姉が耳元でそう囁く。
帰ってもまだボクにはハードなプレイが待っているようだ……