女性ヒーロー誘拐事件 作:リュック
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
息を切らしたヒーローが、薄暗い夜の裏路地の間を潜り抜けていく。小麦色の肌に白い髪、闇の中でも力強く光る赤い瞳に鍛えられて引き締まったしなやかな体躯を持つ、美しい彼女の身体には深い切り傷や打撲痕といった多種多様の傷が刻まれていた。
「ったく……しくじったな」
血の零れる脇腹を手で抑え、痛みに顔を歪める彼女の名は『ミルコ』
ヒーロービルボードチャートにて、現在No.5のプロヒーロー。 女性のヒーローとしては現状1位の実績を誇る。 国内屈指のトップヒーローだ。
「ったく…人気者は辛いねぇ…」
自他共に認める戦闘狂ではあると自覚しているが、この切迫した状況では空元気しか湧いてこない。
「なんとか踏ん張って────」
ドズッッ!
上空から飛び降りてきたヴィランが、ミルコの頭を鷲掴みにして隕石が落ちてきたのかの如き衝撃を喰らわす。頭部をアスファルトに打ち付けミルコの意識を確実に刈り取りにかかる。
「むッ!?」
しかし、ミルコは叩きつけられた衝撃から発したそ勢いを殺さずそのまま前のめりに回転し攻撃をいなした。空に舞う羽の如く身軽さにヴィランはシンプルに驚嘆する。
「ッなろっが!舐めんな!」
「!?」
お返しと言わんばかりに、ミルコは宙を舞う身体を捻り上げながら男の顔面目掛けて豪脚を振るう。ヴィランは刀身でそれを受け流すと、素早く体を回転させ、ミルコの背中に強烈な裏拳を叩き込んだ。
「っぐぉ゛ォ゛ッ!」
ミルコの身体がゴムボールの様に飛んだ。砂煙を巻き上げながらコンクリートの壁に叩きつけられる。
「終わりだ。」
ミルコにとどめを刺すべく、地面を蹴り上げ、距離を詰め突きかかる。
「終わるかボケェっ!」
が、突かれた短刀を右手で殴って払い除ける。短刀を恐れることなく素手で殴り飛ばした胆力に驚愕した男は一瞬動きを止める。
「隙だらけだ馬鹿野郎!」
一瞬の隙をついたミルコの渾身の前蹴りがぶちかまされた。
「ォ゛ッ!」
手負の獣と思って侮るなかれ。ミルコの一撃は咄嗟に構えた短刀ごと粉々に粉砕し、数メートルほど蹴り飛ばされたヴィランは地面に転がり倒れた。
「ハァ…ハァ……トップヒーロー舐めんな!」
確かな手応えにミルコは勝利を確信する。しかし、
「成る程……流石はミルコ。肉弾戦で真っ向から挑むのは不利か」
ヴィランは難なく立ち上がった。全くの無傷という訳ではないだろうが、ダメージを悟らせない程度にはまだまだ余裕があるようだった。
「だったら降参するか?悪いが降参しても死なない程度に蹴り殺すけどな!」
「それは恐ろしい。だが、これで決着だ」
そう言いながらヴィラン短刀を仕舞い込む。そして
「うらぁッ!」
新たに取り出したものを地面に叩きつけた。
ちゅどッッッ!!
「!!?」
突如として発生した、大規模な煙。派手な爆発音と共に現れた濃い白煙はミルコの視界を遮った。
「毒……いや、煙幕かッ!?」
漂ってくる火薬の匂いはミルコの嗅覚を煙が視界を奪う。残された聴覚と肌から感じる触覚に全神経を集中して、ミルコは必死にヴィランの場所を特定しようと全神経を尖らせる。
(前?右?左?後ろ?それともさっきと同じく上か?…来るなら来い!絶対返り討ちにして────)
ドゴッ!!!
「があっ!!」
彼女の後頭部に野球ボールほどの大きさの石がぶつけられた。ミルコが思考の海に浸った一瞬の躊躇を見逃さず、投擲された石はミルコにとって致命的な隙を作りだす。
「シュっ!!!」
待ち望んでいた瞬間の訪れにヴィランは距離を詰め、放った左ジャブの連撃がミルコの頬に速く重い衝撃を与え、ミルコは思わずよろよろと後ろに下がる。
(クソが!ジャブが早すぎて見えやしないッ!)
「ふざけ─────っが」
追撃の左ジャブが今度は顎にクリーンヒットしたジャブは口腔内を血で満たしミルコの脳を揺らされミルコの動きが止まる。すかさず空いた逆手でミルコの脇腹を殴った。
「がっ……!」
相手がどんな怪物でも、人の子だ。人体急所の一つである肝臓を叩かれれば、いかに頑丈な肉体でも痛みは必ず発生する。的確な打撃と衝撃を打ち込まれ、ミルコの顔が歪む。
「っぐぉ゛ォ゛………」
腹部を押さえ、そのままゆっくりと膝をつくミルコの背後に周り、飛びついてミルコをうつ伏せに組み敷くと「がはっ!」とミルコは思わず肺の空気を吐き出す。そんな彼女の反応に間髪入れずに両手を捩じりあげ、縛り上げ始めた。
「触んなぁっっ!!! てめえぁっっ!!!!!ふざけっ…んぐぅっっ!!!」
暴れるミルコの口に布が押し込まれ、猿轡を噛ませると、彼女の頭に布袋が被せられる。
「んんっ!?んん!んーっ!!」
すでに敗色濃厚であるが、ミルコは諦めずにヴィランを振り落とすべくもがき続けた。男は冷静に、その揺さぶりをいなしながら、ミルコの体に突きを放って彼女の体力を確実に削っていく。
(まずい……このままじゃ……殺される……)
そんな死の予感を感じた瞬間……
──────プチュッ!
「っ……!?」
首筋に打ち込まれた鋭い痛み。 血液に‘‘何か‘‘が流し込まれたと同時に視界が歪む。
(なんだ……これ……ドラッグ…か?)
ミルコの四肢から徐々に力が抜け、額から脂汗が噴き出す。今まで吹き出していたアドレナリンが鳴りを潜め、筋肉が弛緩、被された布袋と猿轡による窒息で身体が強張る。
「あめ゛……っろ゛ぅっ!!?」
ダメ押しだと言わんばかりのトドメの一撃が肋にはり何本か骨が持って行かれた。今まで1番の激痛に焼き尽くされた脳が危機感を覚える。今のミルコにできるのは今にも失神してしまいそうな意識を振り絞るしかなかった。
(もう……頭か……思考が…消え……)
そして次の瞬間、全身からすっーと力が抜けていった。心地良さそうな吐息を漏らしながら瞼がゆっくりと閉じていき、力を失った首がガクッと垂れ下がった。
「はぁ…手間かけさせやがって」
だが、男は油断せず、足首と膝上を、更に靴を脱がせ甲も縄で縛りあげると、まるで荷物のようにミルコを担ぎ上げた。
「捕獲完了。ノルマ完了までの先は長いね…こりゃ」
そんな男のボヤキと共に、健闘虚しく、ミルコは男と共に闇に飲まれて消えた。あるのは戦闘痕と美しく光が差す月明かりに静寂のみであった。
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「今年は色々物騒で不思議だよね」
インターン活動も再開し、いつものパトロールの最中、波動ねじれはそう切り出した。
「あー…まぁ…確かに」
「えぇ、今年は色々あったから例年よりは物騒な世の中よね」
「うんうん!特に今年の一年生はイベント尽くしで大変だよね」
入学早々に起きた、ヴィラン連合の強襲に始まり、ヒーロー殺しや林間合宿中の騒動に神野事件でのオールマイトの引退。
例を挙げればキリがないほど、荒事に事欠かない悪い意味でイベント尽くしの一年だ。
「えぇ…懐かしいわね。ウラビティ」
「うん、時間って思っている以上に早いんだって感じるよ」
「私も3年間ってあっという間だった。時間のながれって不思議だよね。」
順当にいけば、ねじれは今年で卒業だ。卒業後の進路はリュウキュウの元でサイドキックとして活動するので卒業したとしても、リュウキュウがお茶子達2人を受け入れ続けていれば、関係が全く無くなるわけじゃないのだろうが、それでも、少し寂しものがある。
「あ!ねぇリュウキュウそういえば、一昨日からミルコが行方不明だって聞いたけど本当?」
「えぇ…本当よ。彼女の実力を知っている私達からしたら、信じられないけどね。」
女性ヒーロー連続行方不明事件
ここ1ヶ月ほど女性ヒーローを中心に若い女性が行方不明になる事件が多発していた。
最初は都内の女子大学生から始まり、社会人が2人、その後は高校生と続き、そこからは地方で活躍している女性ヒーローが連続して失踪する事件が続いていたのだが、一昨日の深夜未明。トップヒーローのミルコが失踪した。
彼女を見かけたら最後の目撃情報から調査した所、戦闘があったであろう場所を発見し、警察はミルコが攫われたと断定した。
しかし、犯人は余程慎重なのか、近隣の監視カメラは全て破壊されており、犯人と思しき姿は一才確認する事ができなかった。警察もヒーローも探索に強い個性持ちの人員を派遣して肝心の犯人の特定を急いでいるものの、ミルコを始めとする攫われた被害者の行方は全く掴めておらず、捜査は難航していた。
「でも、正直な話。あのミルコがやられるとはとても思えないのだけれどもね」
シンプルな膂力で殴り合ったのなら彼女は間違いなくオールマイトにつぐ武闘派。この国でも屈指の実力を彼女が簡単にやられるとは思えないが事実として、彼女は音信不通となり、姿を消したのだ。
「なんにせよ、私たちも用心しましょう。彼女がやられてしまったのなら、私達がいつ狙われてもおかしくないからね」
「うんうん、確かに他人事じゃないね」
リュウキュウは勿論だが、ねじれも雄英ビック3と呼ばれる程度にはそれなりに顔が知られた有名人だ。インターンが始まってからは、ウラビティやフロッピーやも多少はメディアに注目されている。ヴィランが標的にする正確な基準は分かっていないものの、自分達が標的にされている可能性は十分にあった。
「でも、早くヴィランを捕まえて、攫われた人をご家族に合わせなきゃですね」
「えぇ…私も妹が攫われたら心配で夜も眠れないわ」
2人の頭によぎるは家族の姿。2人のご両親は今この瞬間も汗水流して必死に働いていて、蛙吹の弟妹も今は学校で勉学に励んでいるのだろう。
「そうね。被害者のご家族の為にもヒーローとして今私達に出来ることをやりましょう。」
「「はい!」」
「分かってるよ。リュウキュウー…ん?」
ふと、ねじれの動きが止まった。
「ねじれ?何か気になることでも?」
「ねぇねぇリュウキュウ、当たり前のこと聞くけど今日って平日の午前中だよね?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「あそこの銀行。お昼なのにシャッター閉めてるんだけどなんで?」
ねじれが、道向こうの銀行を指さす───すると
バ────ン!!!
と、シャッターが内側からの爆発で吹き飛んだ。
「ヴィランだ!」
「ば、爆発だ!?」
突如発生した事件に恐怖に怯え、人々は逃げる。つまり、ヒーローの出番だ。
「ウラビティとフロッピーの2人は警察の連絡と、怪我人の有無の確認! 急いで!」
「「はい!!」」
「ねじれは私と一緒にヴィランを取り押さえます!全員、ヒーローとしてなすべき事をしなさい!」
「「「了解!」」」
リュウキュウは3人に指示をだし行動を開始する。これが、リュウキュウ事務所始まって以来、最大級の事件の序章になるのだとこの時の4人はまだ知らない。
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「さっさとズラかるぞ!!」
いまだ爆煙が湧き出る建物内から、顔半分をスカーフで隠した4人組のヴィランが飛び出してきた。
「そこまでよ!器物破損、及び強盗の現行犯で拘束します!大人しく投降しなさい!」
が、そんな4人の前に、リュウキュウが立ち塞がり毅然と言い放つ。
「そう言われて捕まる馬鹿がいるわけねーだろうがぁ!」
カッ────
まばゆい閃光が、全てをのみこんだ。
「閃光弾!?」
リュウキュウは目を開けられなくなり、その隙を逃すまいとヴィランは個性を発動しリュウキュウ達に襲いかかった。
「終わりだヒーロー!」
1人のヴィランが個性により、片腕を大型のハンマーに形状を変え、リュウキュウに襲いかかる。並のヒーローなら確実にやられてしまう程、見事な奇襲だ。
「ねじれ!」
「任せて!」
だが、ヴィラン達から見て死角に隠れていたねじれが個性の波動でリュウキュウに襲いかかるヴィランを吹き飛ばした。
「兄貴!?」
「このクソアマがァァァァァ!」
激情に駆られて懐からナイフを取り出し、ねじれにヴィランが迫る。
「あ、悪いこともだけど、よそ見もしたらダメなんだよ?」
「あ?」
直後、ヴィランの体は鈍い音を立てながら硬い何かに押し潰された。
「ヒーローを舐めすぎよ」
それは個性を発動し、ドラゴン形態となったリュウキュウだった。閃光弾にやられた視力も回復しており、加減したとはいえ、ヴィランの意識は簡単刈り取られた。
「おい!ヤベェぞ!」
「クソが!やってられるか!」
形勢があからさまに不利だと察した残った2人は逆方向へ走り出した。走った先には一台の車。それなりに練った計画だったのか、用意周到に事前に配置して置いたのだろう。
「逃すか!」
当然逃すまいとリュウキュウ達も追撃の手を緩めない。
「来るんじゃねぇッ!」
ヴィランは懐からから取り出したものを地面に叩きつけた。
瞬間、地面に叩きつけた球体が爆発して周囲に大量の白い煙が舞い上がる。
「しまった!」
「こんどは煙幕!?」
急な煙幕にねじれとリュウキュウが驚きの声を上げる。
「逃げるんだよぉぉぉぉぉんッ!!!」
辺り一面を真っ白な煙が覆い隠す中、ヴィランの叫び声が響く。が、やはり彼は彼女達を舐めすぎていた。
「むむむ!」
「逃がすか!」
煙が辺りを多い尽くした直後、2人は飛翔して煙から脱すると逃亡するヴィランを捕捉した。
「ねじれちゃん!」
「分かってるよ!リュウキュウ!」
リュウキュウはねじれを拳に乗せるとそこから逃走するヴィラン目掛けて、その巨体から捻り出した膂力をもってねじれを殴り飛ばした。
「ねじれキーーークっっっ!!!」
「あべしっ!」
身体の奥底まで響く一撃を顔面に喰らったヴィランはねじれの足を顔面につけたまま地面へと倒れた。残るは1人。だが、逃げた先には民間人と、避難誘導に徹するお茶子と蛙吹がいた。
「2人とも、フォローお願い!!」
リュウキュウが2人に向かって叫ぶ。2人が振り返った先には頭に血が上ったオオカミの風貌になった息の荒いヴィランが1人。
「フロッピー!」
「分かってるわ!」
怒号に怯える逃げ遅れた民間人を蛙吹が担ぎ上げると、その場から離れた。そんな彼女達を背にお茶子はヴィランに肉薄する。
「邪魔だ退けや!」
立ち塞がったお茶子の顔面めがけて上から剥き出しになった爪を突き出す
「────っ!」
狂刃が触れる瞬間、お茶子はヴィランの腕を掴み斬撃を阻む。そして、
「反省……してくださいっ!」
逆関節を極めた一本背負いで相手の腕を折りつつ頭から地面に叩き落とした。
「────っつ!!」
ヴィランの腕がとんでもない方向に捻じ曲り、あまりの痛みき苦痛の表情を浮かべるが、お茶子の攻撃の手はまだ止まらない。
お茶子は投げ倒したヴィランの背にするりと潜り込み、腕は相手の首、脚は潰した逆の腕を捲き込み、渾身の力で絞めあげる。
「くぞ……がぁ゙あ゙……ッ」
だが、敗色濃厚ではあるが、ヴィランも締め技から逃れようと狼の剛力をもって巻き込まれて封じられた腕を、無理矢理剥がそうともがき続ける。
「投降……してくださいっ!」
「だれが────あ?」
突如、男が目を剥いた。直ぐに全身の痙攣が始まり、それは、先程まで完璧に抑え込んでいたお茶子の締め上げをはねのけんばかりだった。
「あ……ぁ゙あ゙……ッ!」
「暴れないでください!」
当然、締めた腕を捻り上げながらお茶子は男を押さえ込む。しかし、狼男の震えは止まらず、目からは血涙が流れ始め身体がボコボコと変形していったのだ。
「……っ!やばい!」
お茶子は異変を察知し、ヴィランの締め技をとき、後方へ飛ぼうと地面を蹴り上げた瞬間、男の体が爆発し、凄まじい熱量と衝撃がお茶子に襲い掛かった。
「──ッ!?」
ドォンと轟音が鳴り、男は弾けるように爆破した周囲の建物のガラスは全て割れた。幸い避難活動を事前にやっていたお掛けで民間人の人的被害はなさそうだが、爆発の中心にいたお茶子は3m程宙を舞いコンクリートの地面に叩きつけられた。しかし、それでも勢いは止まらずごろごろと転がる
「ウラビティ!」
「救急車呼んで!急いで!」
突然の惨劇を前に、生き残ったヴィランを拘束し、個性を解除したリュウキュウが救急車の出動を呼びかける。野次馬達の悲鳴、全てが混沌とする現場に、男の血と肉と骨が雨の様に飛散する。語るまでもなく、男は死亡した。
「ウラビティ!」
お茶の元に駆け寄る蛙吹とねじれ。グッタリと倒れ、微動だにしないお茶子を前に、蛙吹の脳裏には最悪のシナリオがよぎりポロリポロリと。涙が溢れる2人は倒れたお茶子の側に駆け寄り彼女の安否を確認する。
「ゔぅ……ぅ…」
そんな蛙吹の想像とは裏腹に息はあった。だが、意識はない。落ちた際に頭を打っていれば当たり前の話だが最悪の万が一は当然ある。油断はできない。だが、安心はできないが今、この瞬間に命を繋いだ仲間を前に、2人は、ほっと胸を撫で下ろす。だが、次の刹那に状況は一変した。
シュルルルルルッ!
路地裏から飛び出した白い何かが、意思を持つ蛇のように蛙吹とねじれの2人を縛り上げた。
「んッ……!!?糸ぉっ……!!?」
「えっ⁉︎……ちょっ……ンむっっ⁉︎」
それはまるで生きているかのように的確に2人の足や腕を身体に密着させるかのようにしながら手から足、そして口を塞ぐように2人に巻きつき自由を奪った。
「あ゛がっ〜〜ん゛っ!〜〜っっ!!!」
「んん゛~~っっ!!んんン゛ぅ゛っっ‼︎」
そうして縛り上げた2人を有無を言わさぬ力を持って、彼女達の身体をズルズルという耳障りな音と共に、裏路地に引きずり、連れ去った。
「ねじれちゃん!フロッピー!」
突如連れ去られた二人。未だ倒れて動かないお茶子。完全に想定外の事態に流石のリュウキュウに動揺が走る。そしてそれは今、この場において最もやっていけない1番の愚行だった。
「油断大敵」
「え?」
背後から突然聞こえた男の声にリュウキュウはビクッと後ろを振り向こうとした。
「うむっ!んんっ!?んーーッ!??」
後ろを振り向くより先に突然背後から手が伸び、リュウキュウの口と鼻に白い布が押し付けられた。同時に首にも腕を回し締め上げて気道を潰す。布の裏側は湿り気を帯びており、息を吸うと甘酸っぱい匂いがリュウキュウの鼻に充満した。
「んんッ!?うむーッ!」
突然のことにリュウキュウの目が見開かれる。口を塞ぐ手を反射的に掴み、もう一方の手で男を引き剥がそうとするも、伸ばした腕はすぐに掴まれ強引に背中に捻じ曲げられる。ツーンとする甘酸っぱい刺激臭は気分が悪くなるような甘い香りで彼女の頭にツーンと広がり、思考をかき乱していく。
「ンむっっ!?んー、んんーッ!」
塞がれた口から恐怖に満ちたくぐもった悲鳴が挙がる。個性を使おうにも薬品によって脳を潰されてとても使える状況じゃない。
それでも、最後の抵抗にと、口を塞ぐハンカチや腕を振り解こうと首を振り、体をよじって暴れた。
「うぐぐッ!…んうっ…ん…」
しかし、リュウキュウの抵抗は無意味だった。突然ぐっと体を持ち上げられて足が宙に浮いた。締められた首がより一層気道を締め上げ、リュウキュウは苦しさに悶えた。
「が……あ゛……ぅぅ……あ」
それでも尚諦めないリュウキュウは宙に浮いた足をバタバタと背後の襲撃者の脚を打ったが、襲撃者はびくともしない。
(ぃぎ…が…ぐる…じぃ……)
暴れていた身体に力が入らなくなっていく。視界がぐにゃりと曲がった。頭の中に霞がかかっていくように何も考えられなくなっていき、浮遊感がリュウキュウを支配していった。
(まずい…意識…が……)
ばたついていた足先が動かなくなり力なく伸びる。ハンカチを押し当てる男の腕を掴んでいた手も脱力して床に落ちた。霞みきって焦点の合わない目はもう何も捉えることができず、瞼が下がってゆく。意識が細切れになり落ちていくような未体験の快感が身体を貫く。
「…ん……」
甘く深い吐息を漏らしながらリュウキュウの意識が急速に溶けていく。筋肉が弛緩し、体中からすーっと力が抜けていく。腕と脚はだらんと垂れ下がってもう動くことはない。
(一体…だれ……が……こん…な…)
瞼がゆっくりと閉じ、甘い匂いに包まれながらリュウキュウはそのまま意識を手放して深い深い眠りの底へと落ちていった。