なんて身勝手な……
自分のことを棚に上げて、俺はそんな事を考えた。たかだか俺が死ぬ夢を見て、それを阻止するためにカミキヒカルを先に消し、俺が死を望んだからこのゲームを考えたと…しかもルビーには助からない前提のゲームを課したなんて…
そんな……
そんなのって……!
「さぁアクアくん、最後のゲームだよ。アクアくんはこれまでのゲームを受けてどうしたい?貴方は選ぶのが遅かった。導けなかった。見逃した。何も出来なかった…。でも貴方は生きている。みんな貴方が生きていることを望んでる。私も貴方に生きてもらいたい。そのためにもう二度と死にたいと思わせない程の体験をさせた。周りの近い人たちの命を犠牲に生き残った、身体の傷はそれを忘れさせないための枷。それでもまだ死にたいと願う?このゲームの原因を許すことが出来る?この銃を貸してあげるから、上手く使って。」
そう言ってあかねはポケットに隠し持っていた拳銃を俺に差し出した。
俺はそれを受け取る…
これがあれば…俺は……
俺は………!!
こめかみに銃口を突きつけた。
これで楽になれる…
もうこれ以上何も失いたくない……
だったら俺が居なくなる方が………
ふと気づく…
『あかねはどうなる…?』
目の前に居るあかねは、俺が死んだ後どうなるんだ?
きっと、あかねも自ら死を選ぶに違いない…
それは当然だ…みんなあかねが死なせたんだから……
でも俺が全てを捨てて自殺なんかしようとしたから…
だからあかねはこんなことを思いついてしまった……
俺が……
「あかねは…どうなるんだ……?」
俺が聞けば、あかねは俺を真っ直ぐに見ながら答えた。
「このゲームをクリア出来たら、わたしはアクアくんが望むようにしてあげるよ?警察に突き出すもいい、アクアくんの手でわたしを殺してもいい…アクアが望むなら、一生傍にだっていてあげるよ?」
そんな甘い言葉を掛けてくる。とはいえ、今の俺にはその言葉は縋り付きたくなるほど甘美なものだった…
銃を下ろし、俺は空いていた左手をあかねに伸ばす…
あかねが許してくれるなら…俺は………
そんな時、視界の隅がクリアになった。
さっきの窓だ。ルビーがいた部屋の……
そちらに目を向けてしまった…
俺はこの行動を後に後悔することになる…
フラフラとそちらに足を向けてしまう…
あぁ、あぁぁぁぁ…そんなぁ…そんなぁぁぁぁぁぁ!!
窓の向こうで、ルビーが倒れていた。両目、鼻、口から血を流し、苦痛の表情を浮かべたまま息絶えたルビーの姿…
俺が悪いんだ…
俺のせいで……
俺なんかが生きているから!!!
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
こめかみに銃口を突きつけ、今度こそ引き金を弾いた。
カチンッ!カチンッ!カチンッ!
何度弾いても弾が出ない…
空砲……?
俺はあかねを睨む。あかねはそんな俺をただ見ているだけだった。
「このやろがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は拳銃を投げ捨ててあかねに飛びかかり、何度も殴りつけた。飛びかかった拍子に、あかねのポケットに入っていたスマホが零れ落ちる。
「ふざけやがって!!人の命をなんだと思ってやがる!!チクショウがっ!!!」
何度も何度も殴るうちに、俺を見る瞳に星が映る。
「っ!?」
その瞳は忘れもしない…
それは……
「あ、アイ……?」
顔を腫らしながらも真っ直ぐ俺を見つめるその瞳には、確かにアイが宿っていた……
「な、なんで……っ!?」
俺はあかねから飛び退き距離をとる。
怯える俺を他所に、あかねは痛がる素振りもなく起き上がり、俺の元へと歩いてくる…
「……ヒッ!?」
表情を変えることなく近寄ってくるあかねに恐怖した俺は、必死に後ずさるものの、直ぐさま壁まで行き着き、逃げられなくなる。
「あ、あかね……」
あかねは俺の傍で膝を着くと、さっきまで自分を殴っていた俺の手を、労わるように優しく包んだ。その姿はすでに元のあかねに戻っていた。
「ごめんね、アクアくん…辛いよね?苦しいよね?痛いよね?悲しいよね?命の重みってそれくらいなんだよ?その苦しみを、貴方は全員に与えようとしたの。貴方が死ねばみんな悲しむ。みんな苦しむ。自殺なんて、誰も恨めないじゃない…。今貴方は私を恨んでる。じゃあ自殺した貴方のことで、私達は誰を恨めば良かった?恨めてももう居ないあなたしか恨めない。そんなの狡いよ…」
「あかね…」
「本当にごめん…ごめんなさい……」
カチャン
俺の右腕に手錠が掛けられた…
反対側は壁を這っていたパイプに掛けられ、あかねは俺の頬に触れた。
「な、なにを……?」
「アクアくん…大好きだよ」
唇に暖かな温もり…
ゆっくり離れていくあかねに、俺は呆気に取られたままただあかねの動向を見ているしか出来なかった。
あかねはそのまま銃を拾い、パーテーションがあった所まで歩いていく。そこには天井からワイヤーが幾つか垂れ下がっており、あかねはそれを自らの腕や身体に巻き付けていく。
何をしようとしているが理解できないが、俺の視界にあるものが飛び込んできた。
あかねのスマホ…
その画面は動画のようだった。手に取ってみると、今この部屋の画面であった。今の俺たちと同じように俺は手錠で繋がれており、あかねは天井からワイヤーで吊るされている。唯一違う点といえば…
『助けてアクアくん!いやぁぁぁ!!』
何とかして拘束をとこうともがいているあかねの姿がそこには映っていた。
「最近の技術は凄いよね?そういう本物じゃない映像も簡単に作れちゃうんだよ?まるで生の映像が写ってるみたいにね?」
あかねは俺ににっこりと笑い掛けてくる。
何をする気なんだ……
遠くから聞こえてくるサイレンの音が徐々に大きくなってくる…
「今のが最後のゲーム。貴方は許さなかった、自分自身を。自分の中のアイを…。貴方は自分に向けられた愛すら許せなかった。自分が愛されちゃいけないって思い込んじゃってる。だから死なせない。アクアくんの負けだよ」
サイレンが止むと、暫くして扉の向こうで声が聞こえてくる。大勢人が来ているみたいだ…
なにが……
「事前に警察を呼んでたんだ。銃声と悲鳴を流しながら助けを求めたの。そうすればテロ対策部隊が来てくれるからね。それに、あそこの出口は鍵はかかってないんだ。」
工場の扉が開き、大勢の警察の特殊部隊が中へと入ってくる。するとあかねの後方にあった工事現場にあるようなライトが点き、逆光であかねの姿が見えなくなる。
まさか、あかねは……
「アクアくんは生きなきゃダメだよ?貴方は私たちの命の重みを1番知っているんだから…」
あかねは持っていた銃を警察が見えるように掲げた。スマホの中では同じように操られて無理やり銃を持つ手を掲げていた。まるで操られたマリオネットのように…
「駄目だぁ!!止めろぉぉ!!」
アクアの声は銃を下ろすように叫ぶ警官の声にかき消されて届かない
「アクアくん…」
あかねは俺に銃を向ける
「ゲームオーバー」
「よせぇぇぇぇっっっ!!!」
警官が次々と発砲、避けようのないあかねの身体を次々と銃弾が貫き、蜂の巣となったあかねはぐったりと項垂れた…
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っっっっ!!!!
俺はただ叫び続けた
この空間にはただ、俺の絶望の叫びだけが響き渡っていた……