※この作品はR-18です。

推しのSAW   作:∞色

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星野アクア

 

 

 

目が覚めた。視界に入ってきたのは真っ白な天井。所々にシミが着いていて、清潔なのか不衛生なのか分からない…

鼻につく薬品の臭いと、心臓の音に合わせて聞こえてくる電子音。はるか昔に嗅ぎなれた匂いと聞きなれた音…。

 

 

 

『あぁ…生きてたのか……』

 

 

 

今の自分に置かれた現状を把握した瞬間に出てきたのは、なんとも罰当たりな感想だった。

俺には前世というものがある。その時は医者をやっていて、産科医だったが、病院勤めだった俺は命の尊さを解っているつもりだった。自分の出生も然り、生きたくても生きることが叶わなかった彼女のことも然り、命を粗末にすることなんてありえないと思っていた。

 

 

 

だが、あの日、全てが変わった…

 

 

 

転生した先で、俺は前世で推していたアイドル、アイの息子として生まれ変わった。双子の妹もいて、なんだかんだで幸せな日々だった…

アイがストーカーと化した熱狂的なファンに殺されるまでは…

そのファンは、どういう経緯か分からないがアイが妊娠した事を知り、前世で俺が勤めていた病院にまで来ていた。当時の俺はその時に殺された。

そして今世。その男は再び現れ、今度はアイを殺した。探偵を雇った訳でも無く、そんなスキルもないただの一般人に俺達の住所を割り出すなんて不可能だ。そう考えた俺は、黒幕が居ると考え、そいつが芸能関係者だと推測した。

そして恐らくそいつは俺達の父親…

そいつに復讐することだけを考えて生きてきた。その結果、自分が消えることになったとしても構わないと…

そのために準備をしてきた。監督の元で下済みし、演技をし、得た報酬とコネを使って仇を探し続けた。

だと言うのに、仇である筈の男の情報が思いもしない形で入ってきてしまった。

 

 

 

『本日未明、カミキプロダクション社長の“神木 輝”さんの身体の1部が事務所で発見され…』

 

 

 

俺達の父親であり、アイを死なせた張本人である男の行方不明というニュース。俺はそれを聞いて足元から全てが崩れ去っていく感覚に陥った。長い時をかけて探してきた。多くの人を利用してきた。なのに、それが後一歩と言うところで…

 

暫く、俺は荒れに荒れた。

俺を育ててくれたミヤコさんに当たり、心配してくれた有馬やMEMに冷たくし、協力までしてくれた彼女のあかねに心にもない事を言い、ルビーにも罵声を浴びせた。そしてみんなが俺と距離を置いた事で俺はさらに悪い考えが頭をグルグルと駆け巡った結果、“あの”歩道橋から飛び降りた…

 

だが、俺は奇跡的に助かったようだった。あの時の俺は気づいていなかったのだが、俺が飛び降りた時に偶然歩道橋の下を通り抜けたトラックの荷台に落ち、荷台から転げ落ちるようにして道路に落下したらしい。死ねはしなかったが重傷であることには変わりなく、通行人の通報を受けて病院へと運ばれた。

入院している間にお見舞いに皆が来てくれたが、その時の俺は生きていた事に更に絶望していたために満足に返事もしなかった。だけど、ルビーが泣いていたのだけは覚えている。

ルビー… 星野瑠美衣… 俺の双子の妹…

あの子も俺なんかの妹じゃなければ、もっと幸せな人生を送れたのかもしれない…。もっとも、それは出会った人達皆がそうなのかもしれないが…

 

それから暫く経ち、お見舞いに誰も来なくなった。時折ミヤコさんが様子を見に来てくれた。今回の件を受けて、ルビー達の仕事に加えてメンタルケアも増えたためか、少しやつれて見えた。ミヤコさんから聞かされたみんなの様子はそれぞれがそれぞれの事に集中して取り組んでいるらしい。俺の事は話題にも上がっていないそうだ。それがいい、それでいいんだ…

俺なんかの事を忘れて各々仕事や学業に集中すればいいんだ。俺みたいな恩知らずのことなんか忘れてくれれば……

 

数ヶ月の入院生活が終わり、退院することとなった。

その日もミヤコさんが迎えに来てくれた。いろいろと手続きをしてくれたミヤコさんに連れられ、俺は家に帰った。ルビーは学校に行っているようで、家には誰もいない。車を停めるというミヤコさんに言われるがまま、俺は家に先に入って部屋に向かった。電気を点けることも無く、部屋に入るとそのままベッドに向かって……

 

 

 

ん?

 

 

 

ここで俺は猛烈な違和感を感じた。俺は退院したはずだ。なのになんで病院にいる?

身体の何処にも痛みや違和感を感じない。体感的には正常だ。だったら何故…?

そういや心電図の音も妙だ。心臓の音と全く合っていない。身体に何も付いていないし、画面は動いていない。どうやら、画面はただ移しているだけの静止画みたいだ。ぶら下がっている点滴も、チューブは垂れているが、俺の腕にただ止めているだけで刺しているわけでもない。窓の景色も写真のようで、窓一面に風景画が貼られている。入院着の下も記憶にある普段着のままだ。ただ着させられただけみたいだ…

ふと、視界に入ったサイドテーブルの上には今となっては懐かしいテープレコーダーが置かれていた。表面には“再生しろ”と書かれたテープが貼ってあった。

オレはベッドから起き上がり、入院着を脱ぎ捨ててテープレコーダーを手に取り、再生ボタンを押した…

 

 

 

『やあ、アクア。ゲームをしよう。君はアイされて生きてきた。アイにアイされ、アイに溢れた名前を授かり、アイをその身に感じて来たはずだ。けど君はその全てを終わらせようとした。アイを壊された君は、仇を討つが為に生きた。その目的が無くなれば、君はアイを諦め、終わりを選んだ。まだまだ君をアイする人達が居るというのに…。アイに置いていかれる辛さは誰もが知っている。だがそれは、置いていく本人が与えるものでは無い。再確認しろ。君はこれから多くのアイを見て、選び、アイを認識し、“アイ”を許すんだ。これは君の再生の旅だ。』

 

 

 

複雑に加工されて男か女かも分からない音声が流れた。

何を言っているのかはよく分からなかったが、この状況は……

 

 

 

ガコンッ

 

 

 

テープレコーダーの再生が終わると、病室の壁が1箇所、両開きの扉のように開く。開いた先は、暗い雰囲気を漂わせた事務室のようになっており、矢印の向く先に唯一の扉がある。まるで古びた工場の一角のようだ。こんな所に何故俺が…。

先程のテープレコーダーといい、この場所といい、どうやら俺は誘拐されたらしい。というのにこんなに落ち着いているのは、先程のテープレコーダーの声も言っていたが、俺の“諦め”が原因だろうか…

だが、多くの愛を見て、愛を許せとはどういう…

 

とりあえず、何時までもここにいても始まらない。俺は扉のノブに手をかけた。

 

 

 

この先に待っている、“地獄”に気付かないままに…

 

 

 

 

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