扉を開け、先へ進む。入ったそこはなにかの管制室のようになっており、プラスティック製の窓の向こう側はよく見えない。
だが、扉がしまった瞬間に仕掛けが発動した。
部屋が薄暗くなると、窓の向こう側の明かりが一気に灯る。その眩しさに一度目を逸らすが、目が慣れてきてからよく見れば…
「っ!ミヤコさん!?」
俺から見て右側の椅子に拘束されているミヤコさんの姿。その向かい、左側には壱護さんも同じように拘束されていた。2人まで誘拐されていたのか…!
2人は向かい合うように椅子に座らされ、両手両足は椅子に拘束具によって固定されていた。椅子の背もたれには巻き取り機のような装置が着いており、そこから伸びる細いワイヤーは2人の首から垂れるように通されているみたいだ。
「そんな…どうして!?」
俺が窓に近づけば、ちょうど2人が目を覚ましたのか、自分の置かれた状況にパニックになりだした。
「なに、なによこれ!?」
「なんだってんだよ!ミヤコ!無事か!?」
なんとか拘束を解こうともがく壱護さんと、恐怖に固まるミヤコさん。なにか、救い出す手立てはないのか…
ふと、室内に設置されている管制卓が起動する。何事かと思って見ていると、室内にさっきと同じ声がスピーカーから聞こえてきた。
『やあ、アクア。まずは最初のゲームだ。この2人は君にとって親当然の2人だ。片や君たち兄妹が生まれてくることに苦力し、片や生まれてからこれまでと君たちが生きることに苦力してくれた。今となってはアイの為に君に協力し、アイを持って君に接してくれた。そんな君が利用し続けた2人だ。自らの復讐のため、妹の夢のため。だが君は2人の手を振り払った。その結果、君が行こうとした場所に2人が行く事になる。君が今必要とするのはどちらのアイだ?払い除けられた痛みを感じながら必要な方を選ぶといい。』
放送が止まると、天井から目の前に1本の鍵が吊り下げられるように降りてきた。管制卓には鍵穴が2箇所、赤色と青色で縁取られたそれは、それぞれが座っている椅子に色付けされていた。赤色がミヤコさん、青色が壱護さん…
どっちかを選べってことかよ
「アクア?アクア!そこにいるのか!?」
「アクア大丈夫!?無事なの!?」
2人はさっきの放送を聞いていたのか、俺のいる方へ顔を向けた。
「俺は無事だ!なんともない!」
俺も声を返す。聞こえなかったみたいだが、管制卓に着いているマイクを通じてもう一度返事をした。すると今度は聞こえたのか、2人とも安心したように息を吐いた。
「俺達を拉致ったやつは誰か分からないけど、そいつは俺に何かをさせたいらしい。2人を助けたいけど、鍵がひとつしかないんだ。さっきの放送通りなら…」
「お前にとって、大事な方を選べってことか…」
「そんな…!」
壱護さんは悔しそう舌を鳴らし、ミヤコさんは涙を流しながら俯いた。
「なら迷うことはねぇ。ミヤコを救ってくれ、アクア。」
「っ!?何を言ってるのよ壱護!」
「そうだろ?俺はお前に何を出来ちゃいねぇんだ。お前のこともルビーの事も、俺は全部ミヤコに押し付けてトンズラこいちまったんだからな…。こんな目にあって、お前らが無事なら構いはしねぇよ。」
「でもそんなの…!ダメよアクア!壱護の事も見捨てないで!みんなで帰りましょう!」
壱護さんの言う通り、正直まっさきに助けに行くならミヤコさんだろう。アイが死んで以降、ずっと育ててくれた人だ。第2の母親と言っても過言では無い。
対して壱護さんはアイの死後は復讐の為に姿を消した。事務所や俺達のことをミヤコさんにすべて押し付けるといった形で…。恨んでないと言ったら嘘になる。しかし、嫌いな訳では無い。ましてや見殺しにするなんてこと、できるわけが無いんだ…
「なんとかして2人とも助けるから、待っててくれ!」
俺は目の前に吊り下げられた鍵を取る。何かしら方法があるはず。それを見つけるために…
ガチャンッ!
は?
俺が鍵を取った瞬間、何かが起動する音がした。窓を見れば、2人が座っている椅子がゆっくりとこちらを向く形となり、背もたれに着いていた巻き取り機が首の後ろへ移動、ゆっくりとワイヤーが締まりだした。2人の後方にはデジタル時計で“30”と表示される。
嘘だろ…!
「おいマジかよ!」
「いやぁぁぁぁッ!!!」
1分でどちらを助けるか決めて鍵を回せってことか!一瞬の迷いが命取りになる!だが、2人を助ける方法がまだわかってない…鍵穴が2つ、鍵はひとつ…クソッ!
「アクア!早くしろ!」
「アクアぁぁぁ!!」
あの細さなら人間の首なんて簡単に切れてしまう…!
俺は手に持った鍵を迷わず赤色の鍵穴へ挿し込んだ。
「ッア゙!!」
挿し込んだ瞬間、バチンッと手に痛みが走った。どうやら鍵穴に鍵を挿したら電気が走る仕掛けになっているようだ。回すにはこの痛みに耐えながら鍵を回すしかない…
払い除けられた痛みか…
残り10秒。既にワイヤーは2人の首に迫ってきている。
俺は再び鍵に触れるが、あまりの痛さに反射神経で手を離してしまう。このままじゃ…!
「アクアっ!!!」
「アクアぁぁ!!」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
ごめん、壱護さん…
俺は意を決して鍵に触れる。電気による激しい痛みが指先を襲い、鍵を回そうとする筋肉の動きを阻害してくる。手を離しそうになるのを抑え、なんとか鍵を回した。
キュゥゥゥゥゥン……
さっきまで聞こえていた稼働音が収まり、部屋は静寂に包まれる。今の今まで俺を襲っていた痛みが消えたものの、右手の震えは収まらないままだ。つい膝を着いた俺は、祈るように顔を上げた。
「ミヤコさん……壱護さん…」
動きがあったのは壱護さんの方だった。首元からは大量の血が吹き出しており、暫くするとその首がゴロンと転げ落ちた。
「あぁそんな…壱護さん…。ミヤコさん…ミヤコさん!!」
ミヤコさんの拘束は解かれていたが、立ち上がる様子は無い。よく見れば、首は壱護さんのように切断されていないにせよ血が溢れ出ており、恐らく頸動脈を切ってしまったのだろう。つまり…
「救えなかった…2人とも……!!」
この…馬鹿野郎が…!!
ガチャンッ
俺の左手側にあった扉が開く。まだなにかさせるつもりなのかよ…
待て、ここに壱護さんやミヤコさんがいるって事は……
『お兄ちゃん!』
ルビー!
ルビーもここに誘拐されている可能性が高い!助けなきゃ!こんなふざけたところから!
部屋を出る前、1度だけ振り返る。助けられなかった2人を目に焼き付け、俺は先を急いだ。
2人とも、ごめんなさい……
俺なんかのせいで……